IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
Q、なんか疾風テンション凄くない?
A、挫折期間なしでテンションフルマックスウキウキマンボーだから。
数日前、世界を震撼させた出来事があった。
女にしか動かせないインフィニット・ストラトスを男が動かしたという。
名前は織斑一夏。名前からして織斑千冬の血縁なのではないか、という噂はおるが断言されておらず。ニュースでもそこはぼかされている。
それでも男がISを動かしたことは事実。
世界と政府が最初に考えたことは『他にもISを動かせる男が居るのではないか?』ということ。
そして始まったのが全世界一斉男性IS操縦者の調査である。
「フフフフフ。ついに来たぜ……俺の時代がな!」
「気が早いよ。というか馬鹿丸出しだからやめな?」
「まあまあ、気持ちは分かるよ……俺は今も震えが止まらない」
そして中学卒業を目前に控えた俺たちも例外ではなかった。
俺こと疾風・レーデルハイトと友人の村上綺羅斗「フルネームで言うな!」と柴田は揃って最寄りの市民ホールに赴いた。
「うーわ、もう既に長蛇の列じゃん!」
コミケ並、とまでは行かなくても結構な列だ。
老若関わらず、近場の男どもはこぞって来ている。
我こそはISを動かさんとする者。
面倒だけど極力義務だから来てる者。
女をあっと言わせるために来てる者。
それぞれ思惑はあれど、みんなISを求めて此処に来ている。
「よし、疾風は一番後ろな!」
「え、なんでよ」
「それは俺たちの中で一番の有力株だからだよ」
「いや単に親がIS企業ってだけだろ」
「何言ってんだ。俺はお前以上にISに情熱を燃やす奴を俺は知らねえよ」
……そこまで言うなら、最後になろうかね。
「IS動かしたらさ。やっぱりIS学園に行くのかな。女子校に男一人送り込まれるってガチでハーレムラノベじゃん!! くーテンション上がってきたぁ!!」
「織斑一夏って対抗馬あるから無理じゃね」
「俺たちの中で一番顔良いの疾風だもんな」
「なーにさー、そんな褒めたってなんも出ねえよ?」
「くっ、やはりイケメンは悪だ。女尊男卑社会になっても顔の良い男だけが良い思いしやがる……」
顔面格差は今に始まったことじゃないしねー。
駄弁りながらも絶えず列は進む。
思ったより進むスピードが早いが、それは至極当然と言える。
ISの調査は単純だ。ISに触れて、動かせるか動かせないかを計器で計測する。
だから一人あたりの調査は一分もかからない。触れてもISが動かせなければ「はい次の人ー」と無慈悲に流される。
「待て! もう一度だ! もう一度やらせてくれ!!」
「はい暴れない暴れない! 後が押してるんだから!」
「離せ! 離せぇぇぇぇ!!」
「うわぁ、すげえ」
「村上は暴れるなよ」
「暴れねえよ!」
居座る男は数人の警備員に担がれてハイホーハイホーされた。
こうも流れ作業なのは係員の人が誰も期待してないからだ。
10年も男がISを動かしてないなか、一人だけ得意ケースだとしても。それでまた一人そのまた一人と現れるならもっと早く出て来てもおかしくない。
世界中の男を調べるのだ。一人に一分もかかれば多いほうだ。
「ねえ疾風。ISを動かせたらどんな感覚なの?」
「俺が聞いた話だと。触れた瞬間情報が頭に入って来て、あっ動かせるなって感じるんだって。動かせて当たり前というか、それが一目で分かるんだ」
「マジでSFだなISって」
「SFだよ。空も飛べてバリアや何もないとこから武器を出せるとか、正にアニメの世界だ」
そんなロマンと夢が詰まったインフィニット・ストラトスが視界に入ってきた。
鎮座しているのは日本製第二世代IS、名を打鉄。周りには警備員が多数と、数値を計測する研究員が数人。
「おお、あれがISか。生で見るのは初めてだ。名前は確かダテ」
「打鉄だよ村上。また疾風のISスイッチ入るぞ」
「あっぶね! サンキュー柴田。ナイスファインプレイ」
「お前ら俺を何だと思ってる」
「「ISキチガイ」」
「淀みないな!」
いや自他共に認めるISオタクだがキチガイは心外だぞ!
「しかしかっけえなあ。一見無骨だけどそれが良いというか」
「武者鎧がそのままになったような見た目だよね」
「無駄に期待上げるようであれだけど。あの打鉄、実は織斑一夏が動かした打鉄と同じらしい」
「マ、ジで!? やべー確率変動起きるぞオイ!」
言ってみたものの、それで動かせたら苦労しないけどね。
だけど期待が上がるのは分かる。逆にあれが駄目だったら駄目かもしれないという恐ろしさもあるが。
話してるうちに村上の番が回ってきた。
長蛇の列だったのに早いな、回転率エグすぎだろ。今んとこISを動かした人は居なさそうだ。
「よし行くぞ! 此処から村上様の伝説が始まるのだ! そいやぁ!!」
「………はいありがとうございます。次の方ー!」
「んぐぁぁ! おのれ織斑一夏めぇ!!」
織斑一夏は何も悪くないだろう。
村上綺羅斗、敗退。
「ほいっと……うん、駄目っぽいね」
柴田はサラッと列から抜け出した。
特に期待もしてなかったけど残念だったなーって空気は感じる。
「次の方……疾風・レーデルハイト。もしかしてレーデルハイト社長のご子息で?」
「え、あ、はいそうです。母をご存じで?」
「勿論です! 私モンド・グロッソの時からアリア・レーデルハイトさんのファンだったんです。動かせると良いですね」
「ありがとうございます」
目の前に座する灰色の鎧。
これが動かせたらという期待と動けないに決まってるという諦めがついて回る。
「スゥー……っ!」
トン、と打鉄に触れる。
……触れても何も流れてこない。
手のひらに伝わるのは無機質な冷たさだけだった。
駄目なのか……
喪失を感じながら、名残惜しげに手を離そうとした……その時だった。
────キンッ。
「っ!?」
その瞬間。世界が弾けた。
市民ホールの景色が消し飛び。目の前に白い大地と、何処までも広がる青い空が……
そして遠くに佇む、目が髪で隠れた少年の姿があった。
「───」
少年が何かを喋った。
聞き返そうとした瞬間。世界が引き戻された。
「はっ!!」
なんだ、なんだったんだ今の景色は。
とても現実のものとは……
あれ? 目の前にあった打鉄がない……あれあれあれ、何処行ったんだ?
「は、はははは疾風ぇ!!?」
「う、嘘。ほんとにマジでか……」
ん? 村上と柴田の声が鮮明に聞こえる。ていうかなんだ? 視線が高い……
「あえ?」
目線を動かすと、見えないはずの真後ろが見えた。
次に視界にホログラムが色々出てきて。次に自分の体を見ると……
「え、ええーーーー!!?」
なんと打鉄を纏っていた!?
う、動く。動かせる! 飛べる? 飛べるのか!?
「あー待って待って飛ばないで! そこから動かないで!!」
「う、動かした。2人目だ、2人目の男性IS操縦者だ!!」
「うおーーやったーーー!! 疾風が動かしたーーー!!」
「おめでとう疾風! 本当におめでとう!!」
「お、おおー、おう!」
そこからあれよあれよと俺のIS学園入りが決定。
もう一人の男性IS操縦者は織斑千冬の弟である織斑一夏。
きっと手強いライバルになるに違いない。けど仲良くできれば良いな。
そんな気持ちで来てみれば……
ーーー◇ーーー
「…………」
「疾風、どうだろうか」
まさか。まさか一般人代表ノーマルピーポーで代表候補生って何? って言うような天然系イケメンだとは思わなかったでござるよ。
「流石聖書を電話帳と間違えて捨てた男だなって」
「それもう言うなよ! あと聖書って参考書のこと?」
「他に何がある。ちなみに俺は熟読し過ぎてページ数で内容答えれるようになった」
「……255ページ」
「現在使われているISのOS代表例」
「ば、化け物だ……」
「自覚はしてる」
放課後。夕焼けが彩る教室で二人っきりの勉強会……という訳には行かず女子が壁ガラス越しにこちらを見ている。
時々「男が二人っきり、何も起こらない筈はなく」「今年のコミケはこれで決まり」「腐腐腐、腐腐腐……」と、教室の壁越しに腐海が広がっている。恐ろしいことだ。
かぶりつきで見てくるが入ってこないだけまだ良心的だ。ゾンビ映画よろしくガラスがぶち破られないことを祈ろう。
ちなみに余談ではあるが。ナウシカに登場する腐海の本質は汚染された土壌や大気を浄化する空気正常植物らしい。浄化する際に瘴気を発するから有害なのは間違いないが。
ナウシカたち人間は汚染された大気でもある程度生きられる新人類の末裔らしい。
話を戻そう。勉強会を開く前に、先ずは一夏の知識量を測ろうとしたのだが……
「基礎の基礎すら知らず。一般常識も更に一般常識ぐらいしか知らず、か」
「目に見えて困ったみたいな顔するなよ……」
一夏の中のIS知識は高校生男子という観点から見てもあまりにも欠落している。
現在幅広く使われているホログラム技術と再生医療ナノマシン技術がISを解析して作られたことや、ISコアの材料である
あと俺の実家レーデルハイト工業すら知らず、それどころかフランスのデュノア社とかアメリカのスターズ社も知らんと来た。
俺がレーデルハイトの子だと知って驚かれるとは。てか自己紹介で言ったと思うんだけど。
しかし全くゼロという訳でもない。ISの軍事使用を規制するアラスカ条約や、世界中のISの動向を管理監視を執り行うIS委員会。そして全ての始まりである白騎士事件のことは知っている。
……逆に、俺は白騎士事件の時の記憶がほとんどない。まだ子供だったからと言えばそれまでだが。あの未曾有の大災害を防いだ白騎士事件は知識しか知り得ないのだ。まあ今は置いておこう。
「ISの機能を知らないのは百歩譲るとして、流石にここまでISの知識がない奴を見るのは初めてだ。お前ISに欠片も興味ないのか、ISの情報を入れないようにでもしてたのか?」
「……実は後者なんだ」
「何故に?」
「千冬姉が出来るだけISに関わるなって、小さい頃から言われててさ。ニュースでISのことが出たらチャンネル変えるぐらいで」
「それを律儀に守り続けた結果がこれと」
なんでだ?
ここまでISに関わらせないというのははっきり言って異常だ。なにかを危惧していた? だが何のために?
「その癖、国家代表のことは知ってるんだな。モンド・グロッソに応援に行ったからか?」
「それもあるけど、IS/VSって知ってるか?」
「インフィニット・ストラトス/ヴァーサス・スカイ。モンド・グロッソを元にした対戦ゲームだろ。成る程それで覚えたのか」
「ああ。千冬姉も友達と遊ぶならってそれだけは許してくれたんだ」
IS/VS、あれは良いゲームだ。
グラフィックは勿論だが操作の快適性と機体操作難易度の調整が絶妙なんだ。
しかしそれはグローバル版だけの話で。代表を選出した各国は「うちの代表はこんな弱くねえ殺すぞ! (要約)」って言って参加21カ国それぞれの代表がゲロ強い設定にしたお国版を世に出したという。目茶苦茶だね。
「各国版の奴ってはっきり言ってチートだよな。あれで自己満足する国って中々だろ」
「そうだね。マジでヤバくて倒した時は快感だった」
「え、倒した? 同機体で?」
「いや別機体20機で。21機全部達成するまで半年かかったな、特にイタリアとイギリスがやばかった。達成した時の全クリ感は今でも覚えてるよ」
「何者なんだお前。疾風ってオンラインランカーだったりする? 確かランカー1位のゲイルって日本語だと……」
「さあどうでしょう」
逆に日本版の暮桜は零落白夜発動時のシールド消費値減少と機体性能が上がっただけだったから1番楽だったな。
元から扱いづらいだけで基本スペックがレベチだったし。
「あれ? そういえばイギリス代表のアリア・レーデルハイトって……」
「俺の母さん」
「……ごめん。俺結構失礼なこと言った」
「アハハ! なんだよやっぱり気づいてなかったんだ。お前ほんと面白いな」
「お、怒ってないのか?」
「全然。むしろ本人に言っても『いやー事実だから反論のしようがないわねアハハー!』って笑い飛ばすよ」
母さん、織斑先生が代表辞退すると言ってから自分も社長業に専念すると言って辞めたんだよな。
織斑先生が続投してたら今も国家代表だったのかな。
「しかし入試で先生は倒せたんだな。まあISはイメージインターフェースが優秀だから身体が動けたって感じか」
「……いやそうじゃないんだ」
「うん?」
「実は俺の相手が山田先生だったんだけど……なんか俺を前にして凄い慌てててさ。いきなり突っ込んできたのを躱したら壁に激突して気絶したんだ」
「はいぃー!?」
え、それで入試突破? いや一夏が入学するのは確定事項だから形式的なものだけどほぼ不戦勝じゃないか。
てか山田先生なにしてんの? あんた学園の戦闘教員なんだろ? 大丈夫かこの学園……
「お前そんなんでよく俺も勝ったぞなんてサラッと言えたもんだ」
「俺もこれで良いのかって思ったし、弁明しようとはしたんだけどオルコットがまくし立てて来て」
言えなかったと。
はあ、これはガチで本腰入れなきゃ行けないな。
「よし、脱線終わり。ギャンギャン進めてくぞ。1週間で覚えるのはクラス代表決定戦あるから無理だけど必要最低限は覚えなきゃ話にならんからな。せめて一矢報いる……いや、セシリアを倒せるまでに頑張ってもらわないといけない」
「頼みますレーデルハイト先生」
「任せなさい」
これ見よがしに眼鏡をクイッと。
さあレッツスタディー!
「ドハァ……」
「はいお疲れ。10分休憩したらあと1時間やるか」
「マジか……いやありがたい」
「思った以上に一夏は飲み込みがいいよ。頑張ろう」
「おう」
始めは難儀しても、理解してからの吸収が早い。
ちゃんと予習していたら皆に追いつくぐらいは出来ていたかもしれない。
「ああ、二人ともまだ教室に居たんですね」
「あっ、一夏の入試で自滅した山田先生!」
「ひうっ! なんでそれを! あっ! 織斑くん喋ったんですか!?」
「す、すいません! でも事実ですし」
「はぅあっ」
一夏も言葉の刃が鋭い。先陣切ったの俺だけど。
「それで、なにか御用でしょうか」
「あ、はい。織斑くんの寮の部屋が決まりました」
「寮に? 確か俺の部屋決まってないんじゃなかったんですか? 1週間は自宅から登校と聞いていましたが」
「え、そうなのか? 俺は最初から寮って聞いてたけど」
何かしらの連絡のズレとかがあったのかね。
「それで、何故急に?」
「織斑くん、というよりお二人は事情が事情なので、半ば無理やり部屋割りを変更したんです。防犯上というか、そのあたり政府から聞いてないですか?」
聞いている。
ISを動かした男、世界で二人のイレギュラー。
そんな希少な存在をアングラな奴が放って置くわけもなく。俺たちを捕まえてデータなり人体実験したい奴らだったり。そもそも存在を許さない女尊男卑過激派が出張ってくることもあるかもしれない。
だからこそ、世界で一番安全であろうIS学園という揺り籠の中に居たほうが安心ということになる。
「話は分かりましたけど。荷物や着替えとか持ってきてないので1回家に帰っても良いですか?」
「あ、その点なら……」
「既に私があらかた手配しておいた。だからお前はさっさと寮に行け」
おっといつの間にか居たのか織斑先生。
こら一夏、あからさまにうげって顔しないの。
「生活必需品や着替え、あとはスマホの充電器ぐらいだが。それさえあれば足りるだろう」
「それで足りるのは千冬姉ぐらいだろ、あいてっ」
「織斑先生だ。何回言っても覚えないなお前は」
「言う度に叩かれるから忘れるんだと思う……」
「ほう。なら今度は良い感じの角度でやってみるか」
「ブラウン管テレビじゃないんだぞ! これだから昭和人間って言われるんだ千冬、ねえっ!!」
「織斑先生だ」
なんだろうこれコントかな。
これを微笑ましいと取るべきか悩むところではある。
「これが寮の案内冊子と、部屋の鍵です。鍵は絶対なくさないようにして下さいね。お二人は特に!」
「「はい」」
「あと、校内には大浴場もありますが。お二人はまだ使えないので注意して下さいね」
「え、なんでですか?」
「一夏、ここ女子校だぞ」
「……ああっ」
あんだけ女子の視線にやられてた癖に。こいつやはり抜けている。織斑千冬とは似ては似つかない程に。
「お、織斑くん女子とお風呂入りたいんですか!? だ、駄目ですよ!?」
「きゃー、一夏のスケベー」
「違います! 入りたくないです!」
「え、じゃあ男同士で」
「山田先生。意味は間違ってないけどなんか危ないです」
ほーら遠巻きに見てた女子から「腐腐腐」と笑い声が聞こえるよ。
やめて! 俺たちを書くつもりでしょ! 同人誌にされちゃう! 同人誌にされちゃう!
「あれ? 一夏の鍵1025室? 俺と違うんだけど」
「え、俺と疾風同室じゃないんですか!?」
「すいません。防犯の観点ということで別部屋ということになりまして」
「分けたほうがお前たちを狙うだろう刺客を分散できるからな。悪いがこれは学園上層部の決定だ」
「いや、それは良いんですけど」
それってもしかして女子と同室ってことになるのでは? 怖い、女子と同室ってどうなるんだ。
「それよりレーデルハイト。お前、練習機の申請はしたのか?」
「……え?」
「練習機の申請は寮で出来るが、早い者勝ちだぞ。練習機の数は限られてるから直ぐに……」
「織斑先生!! 廊下を走っても宜しいでしょうか!!」
「律儀な奴だな。他の先生にバレないようにな」
「ありがとうございます!! 一夏また明日ぁぁーーー!!」
ぬおーーー!! 唸れ俺の健脚ぅ!!
ーーー◇ーーー
「ふーー。なんとかねじ込めた」
4日後の放課後、端っこの第6アリーナ。乗機は打鉄。ヨシヨシ上々だ。
出来ることなら1週間のうち2回乗りたい欲はあるが。この学園練習機が20機しか……いや実際一箇所に20個もISコアあるのはヤバイんだけど教育機関としてだと足りない足りない。
「贅沢は言えないよな。専用機来るまでの辛抱だ、うん」
だがまったく手持ち無沙汰という訳では無い。このIS学園には最新式も最新式のVR訓練シミュレーションがある。
本家ISに比べたらイメージインターフェースはおざなりだが、マニュアル操縦に限れば充分だ。
まあそれも数に限りがあるから予約制なんだけど。IS学園の生徒は勤勉でいらっしゃる。
「お、あった。1030室」
ここで俺の寮生活が始まる。
鍵を持ってるので入れる、のだが。同居人が女子である。空けた瞬間ラフな格好でばったり会うラキスケ展開があるかもしれぬ。
これから1年過ごすのであれば出来るだけ衝突は回避したい。恐らく同居人の人柄は悪くない、はず。
ピンコーン……ピンコーン……ピンコーン……
念の為3回インターホンを鳴らしたが応答はなし。留守か?
……もしかしたら一人部屋の可能性もあるか!
いやそうだよね! 面識ない男と女が一つ屋根の下なんてそんなよくある展開なんかあるわけないよな! リアルなめんなよファンタジー!!
そうと決まれば早く内装を見たい! 鍵を差し込み、ドアを開けた! こんにちは我が家!!
「ごめんなさい。シャワーに入っていたもので直ぐに出られず。同居人の方です……か?」
「………………」
目の前にヴィーナスの化身が居た。
濡れた金髪の髪は肌に張り付いて妖艶さを醸し出し。
タオルからはみ出る形の良い上乳は張りがあり光沢があり柔らかさがあり。お御足がスラっと華奢でありながら力強さを演出。
裸にタオル1枚というその姿はボディラインを余すことなくさらけ出し、総合的に見て殺人的な魅力をぶっ放していた。
とまあ目の前にタオルのみのセシリア・オルコットが居ましたとさ……
「せ、セシリアぁ!?」
「疾風!? あなた何で、キャッ!」
驚いた拍子にタオルがハラリとほどけた。
あと1秒も経たずに胸元の頭頂部が露わに……
その瞬間。俺の思考は光を超え、衝撃波を出せたんじゃないかという勢いで天井を向いた!
視界に広がるは目に優しいクリーム色の天井。
セシリアの美しき肌と比べればくすんでいるが俺は自身の反射神経に神よりも感謝を述べた。
「ななな何故疾風がわたくしの部屋に!? 鍵は掛けたはずですし、え、え、何故ですのまるで意味が分かりませんわ!! というかわたくしなんて格好でいえいえ見られて恥ずかしい身体ではありませんが男女で肌を見せ合うのはやはりもっと段階を踏むべきかと思いますしですが他の男に見られるぐらいなら疾風に見られたほうがまだマシと言いますがいえ決してやらしい意味では…………疾風?」
パニックで早口になるセシリアは一瞬我に返り幼馴染を見る。
首を上に上げたまま微動だにしない彼の顔が今どうなってるのか。うずくまったセシリアからは様子を伺うことは出来ない。
「疾風、大丈夫ですか? 何故まったく動きませんの? あっ、こんな格好ですものね! 直ぐに着替えますので……」
「セシリア」
「…はい」
「代表候補生だから護身用に拳銃持ってるよね。貸してくれない? 自害するから」
「落ち着いて下さいまし!!?」
「あと思い切っきり首上げたから痛めた。凄く痛い」
「湿布!!」
「本日はこんな卑しいオタク野郎ごときの眼球がセシリア・オルコットの艶姿を捉えてしまい誠に申し訳御座いませんでした。海より深く、いえマントルより深く深く反省しております。なんでも致しますので、どうか、どうか! どうか訴えるのだけは辞めてください宜しくお願い致しますセシリア・オルコット様ぁっ!!!」
「怒ってませんから土下座はおやめなさい!!」
セシリアとラッキースケベを起こした俺は首後ろに湿布を貼ったまま猛虎落地勢、又は平身低頭覇、要するに土下座を敢行した。
相手が英国だから出来ることならトリプルアクセル土下座をしたかったが。俺如きではあそこまでの境地に辿り着くことは不可能なので断念した。
「えっ、怒ってないのですか?」
「怒ってません。いえ、即座に自決しようとしたことに関しては怒ってますがあれは事故です。だから早く顔をお上げなさい。話はそれからですわ」
「ありがとうございます神様仏様女神様セシリア様ぁ!!」
「だからさっさと顔を上げなさい!!」
世のミサンドリーよ。これが良い女って奴だ。
見習えよクソったれめ。
「それで。何故あなたがわたくしの部屋に?」
「俺もここの部屋という、感じなんですわ」
「はいー?」
手に持つ鍵を差し出す。
一度じっと見たセシリアは目をこすって二度見する。
「疾風がわたくしの同居人?」
「そういうことらしい。あっちのミスじゃなければ」
「何故織斑さんと同じ部屋ではないのです」
「防犯上の分散だってさ」
「それでわたくしに白羽の矢が立ったと?」
「それは分からないけど。勝手知ったる仲だからそうなった、のかな……」
「なんと安直な……」
頭抱えてる。わかるよ。俺も絶賛頭抱えてる。
年端もいかぬ少年少女をガチで同じ屋根の下に置くかね……
「あのさ。もし俺と同じ部屋が嫌なら変えてもらうよう交渉するか? 付き合うぜ」
「……疾風は嫌ですの?」
「俺? 俺は…………」
ここでセシリアとの同居が解約されたとして、一夏と同じ部屋には絶対にならない。
だとすれば他の女子ということになるが……
「……嫌じゃ、ないな」
「え?」
「いやまあ、さっきも言ったけど知らない仲じゃないしさ。良い意味で遠慮はいらないだろうし。この学園で顔見知り多分お前しかいないから……嫌ではないかな、うん」
偽りのない本音だ。
セシリアと同じクラスというのは本当に嬉しかったし、一緒に学んでISを動かせると知った時は思わず小躍りしそうになった。
「どうする? お前さえ嫌じゃなければ、だけど」
「……そうですわね。わたくしが断って疾風が変な馬の骨に出くわしたら寝覚めも悪いですし……良いでしょう。疾風・レーデルハイト、このわたくしと共に過ごす栄誉を与えますわ」
「身に余る光栄。感謝致します、ミス・オルコット」
ニヤリと笑ってやると笑い返して来る。
そう、これぐらいの距離感が丁度いい。
「さて部屋の中を拝見っと。いやーカタログでは見たんだけど実際見るのは……ってなんか内装変わってない? こんなゴージャスだったっけ?」
「ああ、内装はわたくし好みに変えさせて頂きましたわ」
「うーわ! なんかベッド格差がやべぇなオイ! 天外付きベットとかオイ!」
「これでも小さい方ですのよ」
「確かにあっちは大きかったな!! うわ、風呂がすんごい! あれトイレがある!? 寮の個室にトイレなかったんじゃなかったっけ」
「増設しましたわ」
「そんなこと可能なのか!?」
「オルコット家はIS学園の筆頭株主の1人ですわ」
「パねえ!!」
舐めてなかったけどオルコット家マジで世界的大財閥なんだな。
うちも金持ちの部類だけどレベルというか世界が違う!
だが男としてはトイレあるのありがたすぎるな。ここ当たり前だけど女子トイレしかないし、使うとしたら寮外の公衆トイレだし。
ルームツアーを終えてベッドに座り込む。
おお、セシリアの程じゃないにしろ良いベッドだな。
「んで。なんでお前あんなに一夏に突っかかったのさ。確かにあいつはISのこと知らなすぎたけども。それには一応理由があったんだよ」
「知りませんわ。どのような理由があったとはいえ、あの男は自分がどれだけ世界から注目されてるかわかっていませんわ。しかもなんですのあの弱気な姿は。少しばかり女子から視線が集中したからといって、情けない!!」
「ブリュンヒルデが姉なこと以外世間一般ピーポーがいきなりIS学園に放り込まれて平気なのがおかしいと思うけど」
「自己紹介どうも……まあ言い返して来たことに関しては多少見直しても良いでしょう。内容は看過できませんが!!」
お互い様ブーメラン刺さってるよお嬢様。
口火切ったのあなたよセシリア。
「しっかし。よくもまあ、あんなとこで大っぴらに日本批判したもんだよな。お前気づいてたか分からないけど。1年1組の大半は日本人だったんだぞ」
自己紹介を聞いてて、外国人はセシリア含めても10人にも満たなかった。IS学園は世界に一つ。世界中から女子が大挙し、一万倍率の門をくぐった優秀な多国籍生徒が目白押しだというのに。
これについては一夏と俺に配慮した結果と見ている。俺はイギリスと日本のハーフだが、一夏は純日本人。
ISが生まれて英語に続き国際語となった日本語ではあるものの、やはり同国の人が周りに居るというのは安心できるものだ。
「わたくしが許せないのは織斑一夏だけでなくクラス全体です」
「自分が推薦されなかったから? 自薦すればよかったのに」
「グッ……」
あっ、効いてる。自覚はあったようで。
気持ちはわかる。あの場で一番の実力者は疑うべくもなくセシリアだ。
代表候補生にして一家の若頭。俺と一夏というイレギュラーが居なければ彼女のクラス代表を疑うことはないだろう。セシリアも当然自分が選ばれるとおもって鼻をへし折られ爆破解体された訳で。
「それだけではありませんわ」
「そうなん? お前が怒るにして充分な理由だと思うけど」
「だって……だって皆さん織斑一夏ばかりで、布仏さんと鷹月さん以外誰も疾風を推薦しませんでしたわ! みんな疾風を差し置いてあんな男を。疾風の凄さを分かっていながら、顔と話題性だけで織斑一夏ばかり!!」
「お前……」
あの時そんな風に思ってたのか。
ヤバい、少しだけ嬉しい。いやいかん此処でニヤけたら駄目よ。
「いらんこと気にしやがって。事実女子人気は一夏のほうが高いしな。今どきの女子は揃ってミーハーなのは織斑先生でもわかってだろう」
「イギリスで家の仕事をしてる時、アリアさんから時々電話を貰っていました。疾風は頑張っていると。いつかISを動かすために色々学び、鍛えていると。もし仮にISを動かせなくても自分が設計開発したISをモンド・グロッソに出して、自分なりに約束を守るために努力していると」
いいっ!? そんなことまで言ったのか母さんや!
いやいつか言うつもりだったけど、もう自分の手で叶えられるし。うわなんか恥ずかしい!
「ですが誰も疾風の努力を見ませんでしたわ! 疾風なら良かったのです。疾風なら納得できましたわ!!」
「んーー」
人の努力なんて赤の他人からしたら表面、それも上辺しか分からないものだ。
俺はクラス代表にならなくてラッキーと思ってたけどな。結果的にセシリアとガチバトル出来ることになったから結果オーライだった、けど。
「ありがとうセシリア。俺以上に俺のこと考えてくれたんだな」
「ふ、フン! 別にそういう意味ではありません! 織斑一夏の無知っぷりに腹が立っただけです!」
んーー。これ言うべきかなぁ。
でも他人の家庭事情を言うのも憚られるからぼかしておくか。
「なにか家庭の事情とか、色々要因があるかもしれないだろう。みんなが俺のことを分からないように、セシリアも一夏の全部をわからないだろ?」
「…………」
「明日みんなに謝っとけよ。色々ライン超えちゃったし。セシリアが針のむしろになるのは看過出来ん」
「………織斑一夏には謝りませんわ」
「意固地だなぁ。そこは昔と変わらないのね」
「あなたが変わりすぎなんです」
それはそう。
「とにもかくにも。こっから3年間か? 改めて宜しくな」
「ええ、宜しくお願いしますわ」
握手……うわ、こいつ腕細いし手もスベスベだ。力入れたら壊れちゃいそうだ。
「どうかしまして?」
「いや、手が綺麗だなと」
「あなた褒めることに対して躊躇いがなくなりましたわね」
「本心だよ?」
「それはわかります」
褒めることは大抵プラスになるから。
言われた相手も気分よくなるし褒め得だ。
「ところで。さっきから鈍い音聞こえない?」
なんかドス、ドスって余りに日常では聞こえない音が。
「ここ防音しっかりしてる筈なのですが。外もなにやら騒がしいですわ」
ガチャリ、恐る恐る廊下を見ると。
うわっ、さっきまで伽藍洞だったのに女子が大挙してる!
「なになに、なんかあったの。あっ、鷹月さん」
「なんか織斑くんが……ってレーデルハイトくん!? なんで此処に!?」
「俺も寮住みだから……悪い」
「え? わあっ!」
鷹月さんガッツリ部屋着。肩も脇も胸元もお腹ヘソも出てる超リラックススタイル。健康的ですな……
楓、妹もこんなラフだったな。しかし目のやり場に困るぞよ。
「あ、レーデルハイトくんだ!」
「部屋近いの!? 部屋教えて!!」
「おうおうおう! そんな近づくな! てかみんな薄着ばっかだな!!」
「だって暖かいし。普通じゃない?」
「レーデルハイトくんって結構初心なんだー。これは良いこと聞いたわ!」
それもあるけどセクハラとかいやらしい視線向けられたとか騒がれないか怖いんだよ。
まだ初日だから変な噂立てられたら堪らん。
落ち着け、セシリアのアレと比べるんだ。よしアプデ完了! みんなには悪いが今のその姿はセシリアの下位互換だ!!
「…それで、なんかあったの?」
「あそこ行けば分かると思うよ」
示されたのは……ああ、一夏の部屋だ。
半開きしてるドアから3人ぐらい覗いてるとこにお邪魔させてもらう。
うおっ、なんでドアに何個も穴空いてるの? 怖い。
「上、失礼するね。わーお」
「馬鹿、馬鹿だと。そうか、私との同居は馬鹿だと言うんだなお前はっ!」
「箒さん顔怖い、すげえ怖い、何時もの5割増しで怖い……」
「誰が強面だってえ!?」
「ぬおおお……!」
部屋の中道着姿で木刀を振り下ろす篠ノ之さんと、それを白刃取りしてる一夏が居た。
あー、やっぱ一夏の同居人は篠ノ之さんだったか。昔からの知り合いだもんな。それ以外の要因もありそうだけど。
「見てもどういう状況かまったく分からない」
「なんか織斑くんが部屋の外に閉め出されたの」
「そのあとドアを木刀でブスブスって」
「やっと入れたら今これ」
「さっぱり分からない」
このドア結構分厚いのにそんなサクサク穴開けれるかね。篠ノ之さん凄い。
あ、一夏こっち向いた。
「は、疾風! 助けてくれ! 命の危機だ!!」
「何が命の危機だ! しかも他人に助けを求めるなど、軟弱者め!!」
傍から見たら一夏の命を刈り取ってるようにも見える、そんな気迫を彼女から感じるのだ。
あからさまに修羅場である。むっ、篠ノ之さんの髪が湿っている。もしかして一夏もラキスケにあったか?
うわ、よく分かんないけど一夏と同じレベルのラキスケに会ったって考えるのなんか嫌だなー。
「助けたほうがいいかな」
「でも篠ノ之さん何処か嬉しそうだよ?」
「あれを見てそう見えるのか。根拠は?」
「「女の勘」」
成る程、これ以上ないほど信用できる。
であれば取るべき行動は一つだけ。
「一夏〜」
「なんだ!」
「おやすみ、また明日」
「助けてくれないのかよ!? おい何処行くんだあぁぁぁーー!!」
フッ、野暮なことをするつもりもないし馬に蹴られたくもないのでな。
疾風・レーデルハイトはクールに去るぜ……
どうもコオロギの鳴き声が聞こえてきました。作者のブレイブです。
幕間回というか、まだ全然話進んでない。セシリア戦で丁度半分ぐらいらしいですね。次は割愛出来るとこ割愛して話し進めたいな。
なんかみんな参考書丸暗記に対するコメントが多い。
地味に本編で出してなかった特技ですからね。ISオタク要素はドゥンドゥン出していきたい。
今回の話がよかったら高評価!コメントを宜しくお願いします!
次回はセシリア戦前まで書きたいですね!それでは!!