戦場黙示録 カイジ 〜 ザ・グレート・ウォー 〜   作:リースリット・ノエル

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「見る光景、見る光景、身の毛のよだつものでした。私が言えることは、私のいる場所は地獄の業火で煮えたぎる釜の底だと言うことです。
ここにいると気が狂います。もう既に狂っているかもしれません。
出来れば頻繁に手紙を書きたいのですが、残念ながらなかなか書けません。
神経が参って、気分も滅入っていて、とにかくもう書けないのです!」

〜ライン戦線 帝国軍 ハンス・ヨーデル少尉の手紙より〜


第1話 地獄の釜

戦史上、最も過酷な戦場の1つとして記録されるライン戦線。

 

激しい攻防戦のさなか帝国軍防御戦線の一画を守る第144臨編歩兵連隊は攻勢をかける共和国軍第3師団直轄の第1砲兵団による非情なる砲火にさらされていた。

 

特に防御戦闘地域前衛を担う第144臨編歩兵連隊指揮下の第1大隊と第2大隊は、猛烈な圧迫を受けていた。

 

敵野戦砲の砲火が絶え間なく続き、ポットが沸騰したような砲弾の飛翔音が耳につん裂く。

 

鼓膜を圧死させんがばかりの着弾音が轟く。

腹の底から揺さぶられる爆発の振動が体全体に響き渡らせる。

 

無数に降りかかる砲弾の脅威からは逃れられない。

だから身を守るため大地に幾重にも刻み込まれた塹壕の中で、兵士達は猫のようにうずくまる。

 

まるで寒さを凌ぐように互いに体を密着させながら、いつ来るかわからぬ攻撃命令を待ち続ける。

 

彼らは胸に突き刺さる不安と恐怖の波濤に、自らの精神が飲み込まれそうになる感覚に襲われながら途切れそうになる正気を保つ。

 

その心中は言葉にならない混沌としたものだろう。

 

生と死が交じり合った境界線で、砲弾の爆発で降りかかる土を被り、鼻につく硝煙の匂いを嗅ぎながらじっと耐え忍ぶ兵士達。

 

新兵、古参兵関係なく自分をコントロールするのに最大限の努力を払い続ける中、大隊の中心であり頭脳たる大隊本部は持てる叡智を絞り出していた。

 

戦闘地域第1線内にある掩蔽壕。

そこで設営された戦闘指揮所は異様な熱気に包まれる。

全ては共和国軍の全面攻勢に対し活路を見出すべく努力を傾ける大隊幕僚達の姿。

 

その中心にカイジはいた。

 

この時、帝国陸軍の中佐として第144臨編歩兵連隊第1大隊を率いる大隊長となっていた。

異世界でもたらされた歯車の役目を彼は果たし続けている。

 

カイジは顔に脂汗を滲ませながら策定された防御計画の最終確認と苛烈な暴風に直撃している部隊状況の把握に大隊本部の幕僚とともに忙殺されていた。

 

まだ正常に保たれている思考を巡らせながら現況を把握し続ける。

 

カイジは着弾の度に屋根から降りかかる土埃を振り払いながら、作戦図に修正点を加える。

 

そして土埃で汚れた腕時計をチラリと見て時期を待つ。砲火の切れ目を… 台風の目を待ち続ける。

 

「(敵の準備砲撃は、一定の時間で収まるのは分かっている…あと20分の辛抱…)」

カイジは冴える脳内で敵の動静を予測する。

 

共和国の攻勢計画上、彼らが攻撃準備射撃に使用する弾薬には制約が生ずる。

 

防御側ならば砲兵陣地内にたんまりと貯蓄された砲弾をありったけに使えるが、攻撃側は進軍する部隊に合わせて砲兵部隊は陣地変換を繰り返す移動援護になる。

 

その度、労力のかかる弾薬運搬をしなければならないため、確実に手持ちの砲弾を確保できる状況ではない。

だから必然的に砲弾数には限りが生じる。

 

「(特に全面攻勢を掛けているならば尚更だ…だからある程度砲撃の切れ目は推測できる。)」

 

ここで重要なのは各大隊の部隊状況の掌握と連絡線が維持できているか、どうかを確認する事だ。

 

特に右翼に布陣している第2大隊の状況を把握しなければならない。

敵の砲撃により通信所が吹き飛ばされるか、通信網が寸断される事は珍しくはない。

 

側面の部隊と連絡が取れず初動対処に遅れ致命的な打撃を受け敗北を喫する事は多くある。

 

特に最悪な場合は、右翼の大隊本部が潰されているかも知れない。

そうではなくても大きな損害を受けてしまっているかもしれないのだ。

 

「各大隊の状況知らせ!特に右翼の第2大隊が気掛かりだ!…各部隊の通信線が途絶えていないか…確認するんだ!」

 

カイジは付き従えた大隊付通信士官の耳元で叫ぶ。

命を受けた大隊付通信士官は配下の通信伝令6名とともに各部隊の通信網の感度確認と現状把握を行う。

 

「各大隊本部の連絡線は正常!損害なし!」

 

「第2大隊、第1から第4通信所からは感度あり、良好。第5、第6通信所感度なし!」

 

「第2大隊本部より。我、部隊損害あり。詳細、塹壕内に直撃弾。第2中隊に負傷者多数。第1、第6機関銃陣地、第3、第4対戦車砲陣地に直撃弾。現在、復旧作業中!」

 

「第3大隊、部隊損害軽微!」

 

矢継ぎ早に上がる報告を聞きながら、カイジは一瞬の安心を得た。

「想定範囲内だな…」

 

各部隊に損害はあるものの、想定より少なく戦線防衛には支障をきたす程ではなかった事。

各部隊間の通信網も被害はあるが、これもまだ機能する状態にあった。

 

部隊の生残戦力把握も重要だが、中でも通信状況の成否によっては勝敗が変わることは明白。

 

通信という耳を失っては部隊間の機能的な作戦行動など到底不可能であるからだ。

 

「敵の準備砲撃は間も無く終わる。約20分少々だ…各中隊にもう少しの辛抱だと伝えるんだ!」

 

もう少し耐えれば、時期に台風の目に入る。

 

だがそれはあまりにも長い本当に…

何回、何十回とも経験しているが慣れる事は決してない。

 

フランソワ共和国が使用している榴弾砲は国営兵器工廠製 M1897 75㎜速射砲。

 

既存の火砲に比べ飛躍的に高い連射能力により1分間の投射火力は15発に達する。

 

比較的小型軽量なため、陣地変換も容易であり防御戦のみならず攻勢の際に前線部隊の後方に追従し支援可能な機動力を持つ。

共和国の盾と矛を両立する主力野砲だ。

 

この速射砲を100門装備した共和国軍砲兵団から繰り出される攻撃準備射撃は分厚い弾幕となり、地上に降り注ぐ。

 

間断なく炸裂する砲弾の雨は、帝国軍の塹壕陣地全体に響き渡る地震となり、兵士の心身を抉り蝕む。

頭越しに飛び交う無数の砲片に兵士達は恐怖に足を竦ませ、体を震わせ、想像を超える極限状態に導く。

 

まさしく鉄の暴風雨とはかくこの事だ。

 

しかし堅牢に構築された塹壕を破壊するには威力が物足りない。

75ミリは、中口径の砲で重砲に比べれば、破壊力に劣るからだ。

 

そしてこの戦線の敵砲兵の精度は粗い。

ただ自慢の速射性能に物言わせるだけで、景気付けに撃ってるだけなのかと思ってしまう程にだ。

 

一見すれば大地を抉る砲弾幕は、一個の部隊を丸々壊滅させるのも造作も無く見えるが、コンクリートで構築された砲塁や鉄、材木で固められた深い斜傾塹壕線と厚い屋根に保護された掩蔽壕、地中に深く築かれた退避壕に身を潜めれば、案外生き延びられる。

対要塞砲や120ミリを超える重砲の猛撃を喰らえば、話は別であるが。

事幸いにして、連隊の正面に対峙する敵砲兵隊に重砲は確認されていなかった。

 

だからじっと大地の傘に隠れ、強烈な暴風雨をやり過ごせばいいのだ。

 

だとしてもだ。砲弾の持つ威力は絶大。

如何に堅牢な陣地であろうとも明確な直撃弾を幾つも食らえば、どうなるかわからない。

 

砲弾が幾つも直撃すれば、必ず幾人かは吹き飛ぶという死の現実。

そのイメージは鮮明に頭の中で流れていく。

 

もしかしたら、今の一閃で自分の場所に降りかかるかもしれない。

今を凌いでも、また次の一閃で吹き飛ばされるかもしれない。

目に見える死が近づく、確実にじっくりと自分に歩みよってくる。

べったりと体に染みつく恐ろしさが砲弾の着弾音を重なる度に募り続け肥大する。

ざわざわした感触がカイジを包みこんでいく。

 

音にして聞こえるようだ。

ざわ……ざわ……と。

 

カイジは本能的に生ずる恐怖が、脳から滲み出て張り巡らされた神経に浸透していくのを直に感じる

それを振り払いながら、これから展開する防衛計画に思考を集中させ、大隊幕僚とともに協議する。

 

だが恐怖を振りはらいながらも、湧き出る。

人間が持つ動物的本能から願望とし浮かぶ逃避衝動。

一層の事、今いる掩蔽壕から飛び出したい気持ちを湧き上がらせる。

 

ざわ……ざわ……ざわぁ……と。

 

逃げたい、遠ざかりたい、すぐに今すぐにこの場所から……

戦場で身を投げ出すたびに感じた衝動、正直な心理。

 

しかし、そんな事すれば一瞬でミンチ、体を四散させ臓物を醜くさらけ出す。

 

そのあまりにも鮮明に想像がつく未来を頭に思い描き、自分の逃避衝動を必死の理性で押さえ込み、なんとか目の前に仕事に取り掛かる。

 

防御作戦図に描かれた火力調整点と敵歩兵部隊の進軍未来地点を確認している時だった。

戦闘指揮所前面の塹壕に身を潜ませる第4中隊に直撃弾を受けたとの報告が通信伝令からもたらされる。

 

束の間、砲撃音に混じり発狂したような叫び声が聞こえた。

カイジは咄嗟に掩蔽壕から戦線を見渡せる窓から双眼鏡で覗き込む。

 

視界に入るのは数発の砲弾でもたらされた殺戮現場だった。

血塗れでひくつく無定形の塊が散らばる塹壕内で辛うじて生きている負傷者や身体の一部を失った者たちが神経を引き裂くような悲鳴で助けを求める。

 

重層的に響く生に縋る叫び声と猛烈な砲撃の協奏曲に耐えかねた若い兵士達がパニックを起こし、塹壕から這い出ようとするが側にいた分隊先任伍長や兵長達が引きづり戻し顔に一発くれている。

 

周りを一瞥すれば同様の現象が繰り広げられている。

 

無理もない。逃げ場もなく閉じこまれた塹壕は地獄の釜の中そのものだ。

ただ波及するパニックを抑え込まなければ、大隊が戦わずに瓦解するのは必死。

カイジは解決するための手段を講ずる。

 

「各中隊に伝達!…戦闘規律を厳とせよ。必要とあらばカンフル剤を投与するんだ!」

 

簡単に言えば薬でキメさせる事だ。

戦争は異常かつ精神を枯れさせる業火。その中で戦うためには薬の力も必要だった。

 

 

 

第1大隊 第4中隊に配属されて間もないヨハン・アランベルガー2等兵は初めての実戦に人生で経験した事ない絶大な恐怖に包み込まれ、目の前の現実を直視出来ずにいた。

 

極度の緊張で身体は痙攣したように震えながら、手にしているライフルを折れんがばかりに抱き締める。

 

周りではヨハンと歳も変わらない若い兵卒達が次々にパニックを引き起こす。

 

安全な塹壕から飛び出そうとする者が続出し、周りの仲間や戦場の先輩達が羽交い締めにして必死に止める。

 

だが不幸にも、その腕を振りほどいて塹壕から飛び出た者が数名かいた。

 

彼らは決して救われる事なく砲弾の鈍い着弾音とともに爆発の衝撃波に呑まれていく。

 

その末路は悲惨なものだった。

衝撃波が兵士の身体をひしゃげさせ榴弾の爆破片が手足をちぎり、内臓をズタボロに切り裂き、ものの数秒も経たず物言わぬ肉塊に変えた。

 

その悲劇を目の当たりにしたヨハンは戦慄し自分の無力さを痛感する。

だがギリギリのラインで残された理性的な行動力がヨハンが今出来る最善の行動を実行に向かわせる。

 

自分もああ、ならないよう。

 

とりあえず、ゆっくり深呼吸をする。

それを繰り返す。

今は塹壕から頭を出さずに臆病なくらいに体をまるませてやり過ごす。

ヘルメットを深く被り、顎紐をしっかりしめる。

戦場での戦死者の6割7分は砲片による頭部裂傷だと訓練所の教育先任軍曹が話していた。

あとは自分に直撃しないことを祈れと。

それしかないんだと自分に思い込ませる。

じっと目をつぶり、唇を強く噛み締め湧き上がる感情を押し殺してヨハンは耐える。

 

17歳の純朴な青年にはあまりに過酷な世界だった。

 

双眼鏡で目下、部隊の現状を確認し続ける。

パニックに陥った若い兵卒は、先任下士官と古手の伍長、兵長による一喝ぶちかますという古典的な手段で正気に戻し、各中隊の衛生軍曹は精神的不具合が生じた兵士達にカンフル剤を処方し沈静化を図った。

 

大隊の恐慌状態を防ぐ事に成功したが、兵士達の焦燥感は広く漂っていた。

 

双眼鏡から目を離し、腕時計をみる。

 

 

午前12時30分。

 

 

共和国の砲兵団による砲撃開始から約45分が経過した。

 

…あと10分の辛抱…

 

スコールのように続いた砲弾の雨が弱くなり始める。

声を張り上げなくても会話が可能なぐらいには圧力は弱まった。

 

だがその10分が過ぎると間も無く敵歩兵連隊と戦車中隊による必死の突撃が始まり、雪崩れ込んでくる。

それも何個もの波状線になって自分がいる戦線に振りかかるのだ。

デスオンパレードのラッシュは狂気である

 

準備砲撃は名の通りただの準備。

前菜に過ぎず、本番は砲撃の幕引きとともに始まる。

そこからは阿鼻叫喚のメインディッシュ

そこからは果てしなき泥沼戦だ。

 

「結局、生き地獄からは逃れられないな…」

 

少し淀んだ低い声でカイジは呟く。

意外にも恐怖に震える心理と裏腹に声には震えも無く、逆に冷静さを感じさせるようだった。

 

「それはいつもの事じゃねぇすか。何処に行こうが地ベタに這いずる歩兵さんである限り、つきまとう宿命ですぜ。大隊長殿。」

 

皮肉のような軽やかな口使いでカイジの耳元で話すのは熟練した兵士の雰囲気を醸し出すヴォルフ・ハイネマン大隊先任准尉。

 

彼とは共に戦って長い。俺が二等兵の時から世話になっている戦場の先輩だ。もう10年ぐらいの付き合いになる。

今では立場が逆転しているが、尊敬の念を忘れてはいない。

 

「そりゃそうだが…今回は大分キツイぞ…」

 

「確かに我々は押されてますし戦力的には現在劣勢ですが、まだ戦線は維持可能な範囲。連隊の兵力は数だけなら充分。幸いここの陣地は第二次工事を終えて防御基盤はしっかりしてる。ですよねユルゲン大尉。」

 

若き大隊幕僚のユルゲン大尉は頷きながら答える。

 

「その通りです。既に証明されてはいますが…この防御の要となる主抵抗線は砲撃からの耐性は高いです。あと何回か同様の攻撃を受けても持ちこたえられるでしょう。」

 

補足するように大隊副官を兼用する火力運用幕僚のカルペン少佐が説明する。

 

「それにここに配置された機関銃は、突発かつ奇襲的な射撃を行え、死角も少なく充分な防御が可能です。対戦車砲も同様です。」

 

「さらに言えば第二戦線内には中央軍先遣部隊の突撃砲2個中隊を配置し、戦術予備として後方に1個戦車大隊を隠蔽防護、待機しています。定数割れですが…防御戦では有用な戦力です。」

 

他の幕僚からも端的に我が方に有利な状況にあり、充分な勝機はあると意見が飛ぶ。

 

帝国式の堅固な陣地、機能的に配置された機関銃陣地と対戦車砲陣地、精度の高い砲兵大隊の支援射撃体制、防護火力を最大限に発揮出来る連隊戦力と定数割れといえど戦車部隊の援護がある。

 

確かに希望はなくはない。もちろんそうなるように限られた期間で準備をしたわけだが…

 

「とまぁ、懸念事項はあるも、なんだかんだ条件には恵まれてるわけです。大隊長が一番理解されてると思いますがね。中央総軍とノルデンからの応援も弾丸のように向かってますから、なんとかなりますよ。」

 

ヴォルフはとりあえず安心して構えとけと言うように話す。

 

「確かにそうだな…どちらにしろ集められるカードは揃えた…やれることはやろう。勝つための手筈は整えたしな…」

 

ヴォルフはそうそうと言わんばかりに頷き、各大隊幕僚は己が役目を果たす事を強く胸に誓いつつ頷いた。

 

「敵は攻勢に充分な規模を要した部隊だ…少なくとも1個師団だ…数日は戦闘は続く…長丁場になる覚悟を決めよう…」

 

これから始まる激戦に自らを鼓舞する。

そして、通信士官から甲高い声で連隊本部からの命令が飛び込む。

 

「連隊本部から各大隊!敵砲兵部隊の準備砲撃終了!敵攻勢部隊の前進を確認!連隊はこれより防御戦に移行する!対歩兵、対戦車、対空戦闘用意!各部隊配置につけ!!」

 

連隊本部からの号令が塹壕陣地内に響き渡る。

 

砲弾の雨が緩やかに消えゆく中で、大隊は機械的かつ機敏に戦闘配置につき始める。

 

「カルペン、大隊本部は任せた…俺は前衛指揮所に行く…」

お気をつけてと一言を聞くとカイジは己の配置につくべく駆け出す。

 

「大隊長殿、お供しますぜ!」

ヴォルフがにやけながら背後につく。

「好きにすればいいさ!」

ぶっきらぼうに答えながら、カイジは敵の動向に思考を巡らせる。

 

現在の兵力で持つのか?という問いはもはや愚問であり、どちらにしろもたせねばならない。

 

ともあれ今回の攻勢はおおよそ第3波くらいまではあるだろう。

 

第1波で何個かの歩兵中隊を溶かす前提で出血覚悟の威力偵察を行い、俺達の戦力強度を図るだろう。

 

第2波で戦車部隊を擁する突撃部隊によって自らの攻勢戦線を形成しつつ潰しにかかり、第3波でトドメを刺すために畳み掛ける。

場合によっては予備戦力も加える筈だ。

それ以上は兵力の消耗度、自らの戦線維持の兼ね合いにより難しいだろう。

 

自軍の戦線に穴を空けるような行為は例え熱くなりやすい共和国軍と言えどしないだろう。

 

なお歩兵3個中隊・戦車1個中隊混成の戦闘大隊を幾つか投入されるのも加味しなければならない。一気に決めるなら第一波で全力投入。俺ならそうする。

 

敵の攻勢戦力の主軸であり、強力な攻撃力をもつ戦闘大隊は脅威度は高い。これを如何に排除するかが重要なポイントになる。

 

さらに言えば敵航空部隊の存在も常時気にしなければならない。

 

だが敵の攻勢と合わせて目下帝国軍による防空戦が行われており、準備砲撃の最中に届いた戦闘経過詳報によれば帝国軍側は上手く凌いでいるとの事だ。

 

だが油断は出来ない。

航空戦の展開は地上戦に比べ不規則であり、現在は優勢と言っても数分経てば変わる可能性があるから安心は出来ない。

 

しかしながら、敵爆撃機部隊が飛来していないのを見るとまだこちらの命は幾分か稼げそうではある。

 

「(状況によって上手く転べば…挫けるかもしれない…敵の攻勢を…)」

 

だが、ここに来てカイジはよぎる。

戦場において生起する数多の不安要素。

その幾つかが結びついた時に繋がり導かれ、形作られる結論。

 

それは敗北という決定的な二文字。

致命的とは言わないが、明確に浮かび上がる連隊の抱える根本的な問題をカイジは払拭出来ていなかった。

 

それでも、カイジは自らの走りを止めずに向かう。向かうしかなかった。

 

「(どうあがいても、逃げれねぇんだ。こればかりは…ここが正念場…今ある全てを利用して勝ってアイツの鼻を挫いてやる!)」

 

脳内に浮かぶは、自分のいた世界から切り離した存在のうすら笑み。

…いつか、ぶっとばしてくれる!

だが、その前にはこの戦いに生き残る必要がある。

 

頭から吹き出してくるアドレナリンを感じながら、ヴォルフと共に前衛指揮所に配置につく。

 

生きるための闘争に対する原初的な感覚が、否が応でも職業的技能をカイジに身につけさせた。

 

何度もカモにされながらも体得した危険を予知する洞察力、勝機を掴む分析力。

 

かつていた世界で命を賭け戦い苦しみ、失いながらも育んだ異様な勝負魂と勇敢さ。

 

天才や非凡ではなく、特別な能力を持たない、特に必見すべき力もない。

どちらかと言えばクズとも言われる彼がここまで来れたのは、簡単に言えば常に戦闘の焦点にいながら、それでも生き残ってきたからである。

 

それは説明のつかない戦争の現象の1つである。

 

「だから…今回も生き残ってみせる…そして取り戻す…俺の日常を!大隊戦闘射撃用意!」

 

「まったくその通りですなぁ。我らが帝国に繁栄と栄光を!後退した分の領土を倍にしてフラン野郎から奪いとりましょう!」

 

恐らく、微妙に噛み合っていないと思われる会話を終え、カイジは双眼鏡で細かい金属、塵埃、硝煙、巻き上げられ土埃が入り混じった重苦しい空気の向こう側を見る。

 

そして視線の彼方先に見える稜線にゆらゆら浮かぶ、無数に連なる影を視認する。

 

「いよいよ来たか….」

 

共和国砲兵団による最後の一斉射が轟き、最後の着弾を確認すると戦場は一瞬静寂の間に包まれる。

 

いよいよ始まるのだ。蛮勇と勇猛が同居する愛国的な攻撃精神に満ちた狂気 「エラン・アタック」が…




カイジは、ギャンブル以外だともっぱらダメ人間という印象ですが、
彼の行動や性格をよく見て考えると「意外と軍人なら向いているんじゃないかな?」と思ったのがキッカケでした。

彼がもつ命を賭けた戦いで発揮するズバ抜けた洞察力、分析力。
そしてほぼ他人に等しい人間でさえ、手を差し伸ばして共に戦い、助ける情の熱さは一重に言えば人間的な魅力に溢れてます。

そんなカイジが軍人としてならば、もしかしたら後世に残る人物になったかもしれないとゆう仮定が出来たのです。

元々、4年ぐらい前から構想はあったのですが中々勇気が出ず形にできませんでした。

しかし、幼女戦記と出会いターニャとゆう合理主義、成果主義の権化たる人物を知った時、カイジとターニャが共に出会った時どうなるのかを見たくて一気に書き出しました。

正直、初めての投稿なので表現に悩む部分が多く、荒削りな部分が多いですが…ご容赦下さい。

何か意見や感想があれば気軽にコメントして下さい。
参考になりますし、モチベに繋がります。

ちなみに結末はすでに作りあげたので、完結を目指して努力します。

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