戦場黙示録 カイジ 〜 ザ・グレート・ウォー 〜   作:リースリット・ノエル

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第4話 地獄の釜Ⅳ

包囲殲滅

 

名の通り敵軍全体を包囲し、完膚なきまで叩き潰すことだ。

 

それを行うには迅速に、滑らかに、柔軟に自軍を機動的に動かし、敵軍の側面を、背面を衝き、不安定に導く。

 

そして陣形を崩しながら、攻囲が完成したならば後は徹底的に攻撃して殲滅する。

 

後顧の憂いなく、完全に。

殲滅との名の通り、敵を消滅させる。

 

この戦術は、一介の新任士官から師団を統べる司令官、方面軍を統括する高級将校に至るまで大なり小なり部隊を率いている指揮官であれば、誰でも知ってる事である。

 

包囲殲滅が持つ甘美な響きと壮大なスケールには指揮官という立場であるなら、心惹かれるものだ。

 

特に包囲殲滅という攻撃的な戦術は、この時代では帝国の専売特許の1つとも言うべきものだったが…

 

今は逆にフランソワ共和国によって行われる可能性がある現実。

仮定が現実になる未来が目の前に広がっている。

 

いや、もう少しで実現するかもしれない。

 

アルサス・ラレーヌ地方に展開する帝国南部方面軍の戦線に1つでも穴を開け、侵入するための破口を大きくする。

 

破口から進軍ルートを構築出来れば南部から進出して南部方面軍を叩きつつ、中央方面軍への肩翼包囲は実現可能の域だろう。

 

無論、帝国軍がそれを黙って見ている筈がなく猛烈な抵抗を示すため、それは簡単な事ではない。

 

させるつもりは毛頭ないが…

 

「とにかく…頭が痛い問題は多いが…まずは目の前に広がる敵を潰さなければならないな…」

 

「全くその通りですな…細かい話はそれからですねぇ…」

 

ヴォルフとカイジは稜線の彼方から溢れ出し勢力を拡大しながら近づく共和国軍の梯団を一瞥しつつ、戦闘指揮所に矢継ぎ早に入る偵察報告と合わせて肉眼での戦力把握に努める。

 

「敵は1個戦車大隊を先鋒とした1個歩兵旅団相当か…更に後続部隊は多数と…」

 

「各偵察、観測班の報告を統合すれば…後続と合わせれば約2個旅団程となります。今のところはですがねぇ…」

 

二個旅団か…大雑把に計算して約1万人以上。

攻勢前衛を務める1個戦車大隊は装甲車込みで…100輌を展開している…完全編成部隊だ…いや正確に把握仕切れてないため、もっと多いかもな…侵攻用に通常より増強された部隊の可能性もある。

 

当初は歩兵3個中隊・戦車1個中隊混成の戦闘大隊を主軸に投入すると思ったが…1個戦車大隊を一気に投入してきたか…想定はしていたが…より厄介だな…

 

比してこちら側の戦力は一個歩兵連隊で兵員は約3500名。

急遽戦線の穴埋めの為に作られた臨時編合部隊という特性上、正規人員より500名程多い。

 

だが本来は前線に投入されない筈の新兵を養成する教育部隊、後方の警戒任務主体の予備役中隊を丸ごと連隊に編合されている上、それらが連隊戦力の半分に達する状態。

 

そんな未熟な歩兵戦力を補う為に前面火力増強の為に急派され、連隊指揮下に組み込まれた戦車部隊は心強い面であるが現実は限定的な戦力だ。

 

増援の戦車部隊が定数割れだったからだ。

 

前線の歩兵部隊にとって頼りの綱となる突撃砲2個中隊は定数割れで合計23台。

 

後方で機動打撃戦力として展開する1個戦車大隊に至っては定数の半数以下、25台。

 

共和国軍の突撃前衛を務める戦車大隊に対して半数程しかない。

 

表面上は通常の連隊に比べ兵力が強化されているように見えるが…蓋を開ければこうである。

 

言わば、寄せ集め部隊の実像であり、連隊が抱える問題点だ。

 

幸いな点は、連隊後方に控える砲兵大隊が10.5㎝ leFH 18 軽榴弾砲 18門の完全編成である事だ…敵勢力に対して明らかに火力不足は否めないが…ないよりマシだ。

 

「現戦力対比は約1:3…もっと開くかもしれないが…」

 

「この陣容で第1派ですからな。第2派の戦力が倍加するとしたら恐ろしいなぁ。」

 

「波に乗っている内に決めたいようだな…」

 

第1波で歩兵部隊を主軸とした攻勢という形の威力偵察を行い、俺達の戦力強度を図ると予想したが、彼等は最初からこちらを崩しに来る方針にしたらしい。

 

各方面で共和国の全面攻勢が継続して発動されている状況を考えれば、攻勢の足並みを揃えつつ、帝国軍の全戦線を圧迫するならば、歩兵を犠牲にする前提での威力偵察など悠長な事しないか…

 

フランソワ共和国は俺達の戦線を初手で一気に叩き潰し、正面突破を図りに来ている…

 

ならば、こちらも相応の手段で持って叩き潰さなければならない。

 

完膚無きまでに…やらなければ。

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