家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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最近『ポケモンチャンピオンズ』を細々とやっています。
そこで妖怪パーティーを組んでみようかと思っているのですが、なんかそれっぽいポケモンってなんでしょう?

パッと思い浮かぶのは、ユキメノコ、オニゴーリ、キュウコン、ヒスイバクフーンとか……。
せっかくだしニックネームも妖怪名にしてみようかと、他に良さげなポケモンいるでしょうか?


今回はサクサク書けました。
基本は原作通りの流れですが、最初の部分とある人物からの視点を意識して書いていますので、そこを楽しんでもらえればと思います。


第百二十幕 千年の想い

 地獄の光景とも称される恐山の中でも、そこには一際異様な景色が広がっていた。

 そこにあるのは『刀』だ。しかも一振りや二振りなどという数ではない、文字通り無数の——百、千、万を越えるほどの刀が至るところに突き刺さっている。

 

 その様相は罪人を延々と歩かせ、血だらけにするという『針山地獄』そのもの。

 あるいは、不要となった刀たちが打ち捨てられている様相から、『刀の墓場』とも呼べるような場所でもあった。

 

 そんな恐山の最奥。

 薄暗い祠の奥深くから、キィーン、カィーンと甲高い金属音が響いてくる。

 

「————!!」

 

 一人の長髪の男——刀匠と呼ぶにはまだ年若い青年が、刀を鍛え上げるために無心で槌を振り下ろしていた。

 ひたすらにひたすらに。もう何百、何千、何万と繰り返される作業を黙々とこなしている。

 

「…………」

 

 そんな青年の背中を、一人の女性が静かに見つめていた。

 このような殺伐した場所には似合わない、見目麗しい女性。清楚な振袖衣装に身を包み、長い髪をお団子ヘアで纏めている。

 手に持っているのは、軽食が入った小皿だ。彼女はその食事を青年に渡そうと、この作業場まで足を運んで来たわけだが。

 青年は彼女の気配に気づいた様子もなく、一心不乱に槌を振り下ろし続けている。

 

「………………秋房様……」

 

 その姿に思わず魅入ってしまっていたが、このままではいけないと彼女は青年——秋房へと声を掛けた。

 

「…………ん? いたのか、百石」

「……もう十分も前から……」

 

 そこでようやく、秋房は彼女——百石(ももいし)という女性の存在に気付き、槌を振るう手を止めた。

 十分以上も人が側にいて気付かない秋房の集中力もそうだが、それと同じ時間、彼の背を見つめ続けた百石も相当なものだろう。

 

「体に毒です。もう七十時間もこの祠にいます……少しは休んで下さいませ……」

 

 それほどまでに、百石は秋房の身を心配していた。

 七十時間。およそ三日もの間、ぶっ通しで槌を振るい続けている彼が今にも倒れるんじゃないかと気が気でない。

 

「でないと、先人たちのように苦しむことになります。ここはこの山で畏の一番強い場所なのですから……」

 

 ましてや、秋房が刀を鍛えているこの場所は恐山の中でも特に畏が集中する場所。

 そんな場所でこれ以上無茶を続けていたら——最悪、命を落とすことにもなってしまう。

 

「分かっている……しかしだからこそ、この山を選んだのだ……多くの妖刀作りの達人たちが選んだようにね……」

 

 もっとも、百石がいくら心配しようと秋房は無茶をやめたりはしない。一時、百石が運んで来た軽食を口にするために手を休めてはくれるが、作業そのものを中止する気はなく。

 こんな危険な土地に来てまで妖刀作りに励む理由を、彼は嬉しそうに語ってくれる。

 

「いいかい、百石……私はこの刀を早く完成させなければならないのだ。それが、彼との約束だ……」

「…………」

 

 秋房はその刀を託すことが出来る『誰か』のため、こんなにも必死になって妖刀を鍛え続けているというのだ。

 その相手が何者なのか、百石は知らない。彼という呼び方から、それが男性であることは確かだろうと、そのことに内心ホッとしている自分の心にも気付いていない。

 

 

 百石は物心ついた頃から、この恐山で『イタコ』としての修行に励んで来た。

 それはそういう家系に生まれたからであり、百石自身にイタコになりたいとか、他の何かになってみたいという願望はなく。

 別にそのことを辛いとも思ったことはなく。自分の人生はそういうものだと、悲観することなく日々の修行に精進し続けてきた。

 

 そんな変わり映えしない百石の日常に、突如として現れたのが——この秋房という男性だった。

 

 秋房は自らの意思でこの恐山へとやってきて、過酷な妖刀作りに励んでいる。

 いったい、何が彼をそこまで突き動かすのかは知らないが、そのひたむきな情熱は百石の生き方にはなかったものであり、その熱に当てられるかのよう知らず知らずのうち、百石は秋房という男に惹かれるようになったのだ。

 

 

「あとほんの少しの筈なんだ……全てを叩き込んだが、何かが足りない。それさえ分かればすぐにでも届けられるのに……!!」

「…………」

 

 こうしている今も、秋房はあと一歩のところで妖刀が完成しないという歯痒さに苦悩している。

 百石は秋房の力になって上げたいと思ったが、生憎と妖刀作りなど彼女の専門外だ。自分に出来ることなど精々、秋房が体調を崩さないよう食事などのお世話をするくらいか。

 

「大丈夫だ、百石。私は刀を打っている時はアドレナリンとドーパミンが大量に出て、疲れない身体になっているんだよ」

 

 百石が心配そうな顔をしていることに気付いたのか、秋房は冗談めかした言いようで茶化そうとする。

 

「もうっ!! 秋房様ったら……百は心配しているのです!!」

 

 しかしそんなことでは誤魔化されないと、百石はいい加減休んでくれと少しばかり怒ったように口を尖らせる。

 

「ハハっ……わかったわかった……もうひと踏ん張りだから……」

「はい……」

 

 百石の心配が通じたのか、秋房はあと少しだけやったら休むと約束してくれた。それでもすぐに止めようとしないところは、聞き分けのない子供のようだと。

 百石は仕方がないなと思う反面、そこまで熱中できるものを持つ秋房に眩しいものを感じ、ますます彼のことが気になってしまう。

 

 とりあえず食器を下げて、また後で声を掛けてみようとその場を後にしようとするのだが——。

 

「あっ!? し、失礼しました……」

 

 秋房に気を取られ過ぎていたせいか、反対側から歩いてくる人物に気づかずぶつかってしまう。よろけながらも、百石はぶつかったその相手への謝罪を口にしていた。

 

「…………」

 

 長身に黒い装束を纏ったその男——名を泰世(たいせい)という。

 この恐山で修行する修験者たちの中でも、一際優れた人物であり、皆のまとめ役を担っている。  

 百石に取っても上司とも呼べる相手なのだが——どういうわけか、今の彼からは凄まじい怒気のようなものが感じ取れた。

 

「た、泰世様……?」

 

 百石は戸惑いを隠せなかった。泰世は寡黙で厳格な人物ではあるが、このような怒気を無闇矢鱈と振り撒くような人ではない筈だ。

 それが今や、まるで親の仇でも見るような目で——作業に没頭する秋房へと近づいていく。

 

「秋房殿。貴方が私の教えを乞うてから、何ヶ月経ったかな……」

「…………」

 

 泰世は秋房がこの恐山に来た日のことを思い出すよう、語りながら歩み寄っていく。しかしその声も聞こえていないのか、秋房は黙々と刀を打つ作業に終始している。

 

「この集中力……貴方は本当に素晴らしい陰陽師だ。貴方の大妖怪を退治するという意思に同調したからこそ、花開院と知りながら多くのことを伝えた」

 

 秋房がここへ来た頃、泰世は彼の苗字が『花開院』であることに難色を示していた。

 花開院という名前だけであれば、百石も聞いたことがある。この業界で最も有名な、長い歴史を持った由緒正しき陰陽師の家名だ。

 表向きメディアなどでも取り上げられており、そういった世俗的な行いを良く思っていない同業者も意外と多い。

 泰世も、そういった花開院の側面を快く思っておらず、秋房の妖刀作りへの協力を渋っていたのではと——少なくとも、百石はそのように考えていた。

 

「しかし……やはりそれは誤りだった!!」

「なっ……!?」

 

 だが今の泰世は花開院家、というよりは秋房個人に明確な敵意——殺意を抱いていた。

 作業中にも構わず、秋房の胸ぐらを掴み上げ、そのまま力尽くで持ち上げていく。

 

「や、やめて下さい、泰世様っ!!」

 

 あまりにも乱暴な振る舞いに、咄嗟に止めに入る百石。

 いったい何があったかは知らないが、このままでは秋房が殺されてしまうかもと、必死に泰世を宥めようとするが。

 

「目を覚ませ、百石。こいつはな……妖に渡すために妖刀を作っているのだ」

「えっ!?」

 

 だが、泰世は秋房の妖刀作りが妖怪——人に仇なすものたちのためであることを告げた。

 秋房の言っていた妖刀を渡さなければならない相手——その『彼』というのが妖怪なのだと、そのことに百石も驚く他はない。

 

 泰世は常日頃から妖怪を『悪』と断じていた。

 そんな彼にとって、妖怪に妖刀を譲り渡してしまうなど、裏切り行為も同然なのだろう。

 

「私を騙したんだよな、秋房!! 正義の為の陰陽術を汚したんだよな!?」

「ば、馬鹿なことはよせ……泰世殿……!!」

 

 怒りに身を任せるまま、泰世は秋房の首を締め上げていく。その苦しみから逃れようと、秋房は泰世に落ち着くよう言い聞かせるが。

 

「しらばっくれても無駄だ。言っておくが……妖はたった今、始末してきた」

「き、来てたのか……!?」

 

 泰世がその妖——妖刀を取りに来ていた妖怪たちを葬ったと告げるや、秋房がそのことに驚いた反応を見せる。

 

「吐きおったな!! 奴ら同様……貴公も屠ろう!!」

 

 その反応こそが、何よりも秋房への疑いを決定付けるものであった。

 やはり秋房は先ほどの妖怪たち——泰世が亡者の群れをけしかけ、始末した連中の仲間であったと。

 既に仲間の方は片付けたが、後顧の憂いを断つためにもここで秋房も始末しなければならないと、掴み上げる腕にさらに力を込めていく。

 

「そうか……来ていたのか。ならば尚更……ここで死ぬわけにはいかない!!」

「きゃああああ!?」

「……っ!!」

 

 だがそうはさせまいと、秋房が抵抗の意思を示した。

 秋房の叫びに呼応するかのよう、その顔の左半分が異形化——触手のように伸び、その身を掴み上げていた泰世の腕を退けたのだ。

 瞬間、垣間見えた秋房の姿は悪魔——妖怪にでも魂を売り渡しかのようであり、その姿に百石は悲鳴を上げてしまう。

 

 まさか本当に、秋房は妖怪のために刀を作り——人の世に仇を成すつもりなのかと、そんな考えが脳裏を過ってしまいそうだった。

 

 

 

「泰世殿……百石……聞いてくれ!! 確かにあの刀は妖に渡す……しかし、それは大妖怪『鵺』を斬るためだ!!」

 

 泰世の手から逃れるため、秋房は咄嗟に『憑鬼術』——体内に取り込んだ式神を暴発させたが、すぐに術を解き、泰世や百石を説得するために叫んでいた。

 

「それは、我が花開院家一族の千年の大願である!! 刀を産んだ十三代目の意思を継ぎ、私が打つ……この刀には、皆の想いが詰まっているのだ!!」

 

 秋房は確かに妖怪に刀を渡すつもりでいる。

 だが、それはより強大な妖怪・鵺を討ち取るためだ。千年前から続く因縁に決着を着けるためであり、私利私欲によるものでは当然ない。

 

「鵺を討たねば、世の中が大変なことになる!! 頼む!! 刀を打たせてくれ!!」

 

 鵺が完全に復活すれとなれば、今の時代を生きる人々にとっても未曾有の危機になろう。

 泰世や百石にとっても決して他人事ではない。今日まで世話になった彼らのためにも、これは必要なことであると。秋房は己の中の信念、妖刀作りに向ける情熱を声高らかに叫んでいた。

 

「あ、秋房様……」

「やはり立派な方だ、貴方は……今も心がググッと惹かれそうになった……」

 

 秋房の熱意が本物であることは、百石や泰世にもきっと伝わっただろう。

 未だ戸惑い気味だが、百石の瞳に秋房を疑う色はない。だが泰世は、秋房が本当のことを言っているのだと理解した上で——尚も、彼への殺意を緩めずに告げる。

 

「だが、鵺を……我が祖である晴明様を……討たすわけにはいかんな……」

「な、なに……?」

 

 一瞬、秋房は泰世が何を言っているのか理解が追い付かなかった。

 

「泰世殿!? 貴方は……晴明が祖とは……どういうことなんだ!?」

 

 秋房はまだ『鵺』としか言っておらず、かの者が『安倍晴明』だと知るものはそこまで多くはない。にもかかわらず、泰世は秋房が何を倒そうとしているのか全てを承知の上で——それを阻止すると豪語する。

 

「貴方ならその名くらいは知っていよう……我が隠し名は……御門院……!!」

「そ……その名は……!?」

 

 その理由は、泰世の苗字——彼の隠し名にあったことを悟り、秋房は愕然とする。

 

 御門院。

 それが安倍晴明の子孫たちを指す隠し名であることは秋房も知っていた。直接対峙したことはないが、花開院家という立場上、彼らとは敵対し合う間柄である。

 しかし妖刀作りのためにと今日まで教えを乞うてきた相手が、まさかその御門院家だとは夢にも思わなかった。

 

「晴明様の遺言の元に……この歯狂鎌にて、妖刀諸共に貴様を屠る!!」

 

 秋房が戸惑っている間にも、泰世は秋房を屠るために自らの得物を取り出す。

 彼が手にしたのは、刀身も付いていないただの『柄』だ。しかしその柄が地面に突き刺されるや——周囲に打ち捨てられていた刀の残骸が集まり、それが刃を形成していく。

 

「口寄せと共にこの地で探究を進めた妖刀作り……その究極形がこの妖刀破壊鎌だ……知っていような?」

 

 そうして、顕になった泰世の妖刀——それは『刀』などという生易しいものではなかった。

 彼が手にした武器、いや兵器とでも呼ぶほどにイカついその『大鎌』は、刃に当たる部分にいくつもの歯車が付いており、それらの歯がチェーンソーのように回転していた。

 

「…………っ!!」

 

 秋房は、泰世の切り札である『歯狂鎌(はぐるがま)』の威力をよく知っていた。

 あの鎌に自分では勝てないということを、骨身に染みて理解してしまっていた。

 

 ——こ、ここまでか……!?

 

 まさに万事休す。秋房の心が折れかけた——まさにそのときだ。

 

 

「——んだ、ここ……いーっぱい、刀があんじゃねぇか!?」

「——!!」

「——!?」

 

 

 祠の扉を蹴破る音と共に、聞き覚えのある男の声が響く。

 

 入り口の方に目を向ければ、そこに彼が——約束の人物が立っていた。

 激しい戦いの後なのか。着物は汚れ、汗を掻き、ところどころに擦り傷などもあったが、五体の方は至って無事だ。

 

 刀を十全に扱える状態で彼——奴良リクオは秋房に向かって声を張り上げるのであった。

 

 

「——どれが俺の袮々切丸だ……秋房ぁ!?」

 

 

 

×

 

 

 

「なんだよ……もう、おっぱじめってんのかい!!」

 

 その祠に踏み入ってすぐに、リクオは秋房に刃を向けていた長身の人物に向かって突撃、持参してきたドスを振り下ろしていた。

 

 何者かが繰り出した、亡者の群れ。

 この地で眠る死者たちを強制的に呼び起こすそれは、安倍晴明が得意とした『反魂の術』と同種のものだと。

 

『御門院なら、秋房がヤバい!! 急いで追いかけろ、奴良リクオ!!』

 

 そのような禁術を平然と扱う、扱えるだけの力量を持つもの。竜二はそれが晴明の子孫——御門院家の仕業だと察し、リクオに先を急ぐよう促した。

 御門院家のものであれば、当然花開院家の人間を放置しては置かない筈だと。秋房を守るためにも、彼から刀を受け取るためにも、ここまで急いで駆けつけ——リクオは今回の敵・御門院泰世と対峙することとなった。

 

 邂逅一番、リクオは奇襲気味の一撃を泰世へと打ち込む。

 しかし、その先制攻撃を泰世は平然と受け止める。すると二人の衝突の衝撃によってか、祠のあちこちに積まれていた刀の残骸、それらが両者に向かって容赦なく雨のように降り注いできた。

 

「!! 危ねぇな、ここ……本当に刀だらけじゃねぇかよ……」

 

 咄嗟に泰世と距離を取りながら、なんとか降り注ぐ刀を避けるリクオだが、その額には冷や汗が浮かんでいる。

 たった一度の衝突でこれなのだ。この祠内での迂闊なぶつかり合いは、お互いにとって命取りになりかねない。

 

「——っ!!」

 

 だが泰世はそのようなこともお構いなし。リクオに向かって大鎌を躊躇なく振り回し、そのついでとばかりに降り注ぐ刀の雨、その全ての刃を根こそぎへし折ってしまう。

 

「気を付けろ、リクオ!! そいつの歯狂鎌は、どんな刀をも破壊する鎌なんだ!!」

 

 これに慌てて警告を飛ばす秋房。

 妖刀について多くのことを学んできた彼だからこそ、泰世が持つ歯狂鎌の特性をよく理解していた。

 あれこそまさに、妖刀を破壊するための妖刀。どのような業物であれ、それが刀である限り、歯の部分に触れただけでズタボロに破壊し尽くされてしまうのである。

 

「よぉ、秋房……取りに来たぜ、袮々切丸!」

「す、済まない……あと少しなんだが……」

 

 ましてや、秋房が打った刀——袮々切丸は未だ未完成。

 そんな半端なものを渡したところで、リクオが泰世を倒すことは出来ないだろう。

 

「刀はあと少しなんだな……だったらこいつは俺がやっとく! お前は打て!!」

 

 ならば一刻も早く、その袮々切丸を完成させるためにも、リクオは泰世の相手は自分がすると前に出る。

 相手の武器破壊は脅威ではあるが、幸いこの祠内なら武器の貯蔵に事欠かない。その辺の刀を拾い上げながら、リクオは身を挺して時間を稼ごうとしてくれていた。

 

「す、済まない……リクオ!!」

 

 その心意気に礼を述べながら、秋房はとにかく刀を完成させるべく、未完成の袮々切丸へと手を伸ばす。

 

「——えっ?」

 

 だがそのとき、未だに何かが足りないと秋房を悩ませていた袮々切丸から——確かな鼓動を感じ取った。

 

 

 

「貴様……仲間を捨て石にでもしたか……不浄な妖のやりそうなことだ……」

「あん?」

 

 泰世はリクオとの激しい鍔迫り合いに応じながらも、彼のことを不浄な妖と軽蔑するよう吐き捨てていた。

 

「さもなくば、俺の結界を抜けることなど出来んからな……」

 

 それというのも、泰世は自身がリクオたちに向けて放った、亡者の群れによる『結界』に絶対の自信を持っていたからに他ならない。

 

 絶え間なく襲い掛かる亡者の群れの進行は、定めた対象の息の根を止めるまで決して終わることはない。

 増え続ける亡者たち。最後に待っているのは、息をする空間すら許さずに生者たちを埋め尽くす光景だ。

 

 これこそ——『口寄せ・亡者夜行』。

 この地が死者との親和性の高い恐山だからこそ成せる術であるが、その威力は絶大。

 

 そんな完璧な包囲網という名の結界をリクオは掻い潜って来た。

 きっとそれは、仲間たちを囮に自分だけ助かろうとしたからだと。泰世はリクオをその程度の器だと決め付けていく。

 

「捨て石だぁ? そいつは違ぇよ……」

 

 もっともそれはお門違いだと、鼻で笑い飛ばしながらリクオは堂々と言ってのけた。

 

 

「——こいつぁ、信頼だ!!」

 

 

 

×

 

 

 

「ひぃええええ!?」

 

 同時刻。つららのちょっぴり情けない悲鳴が恐山中に響き渡る。

 リクオを先に行かせる一方で、つららを始め残された面々は亡者の群れに囲まれていた。

 

「おいおいおいおい……増える一方じゃねぇか!!」

「いくら倒してもきりないきりない!!」

 

 倒しても倒しても、何度でも蘇ってくる亡者らに竜二は愚痴を溢し、つららは氷の薙刀を構えながらも無理無理と首を振っている。

 そこだけ見れば貧乏くじを引かされているような感じでもあるのだが、そこに悲壮感というものはない。

 

「おもしれぇじゃねぇか……殲滅してやれよ」

 

 寧ろ好戦的なことを呟きながら、武闘派のイタクなどはやる気を漲らせている。

 

「イタク、こんなのいちいち倒してらんないわよ!!」

 

 だがいくらイタクが強くても、斬っても斬っても蘇ってくる連中の相手など消耗戦にしかならないのではと、つららがもっともな不安を抱く。

 

「あ? 誰が全部斬り倒すっつった? 紫」

「うん」

「えっ? 紫ちゃん……?」

 

 勿論、そんなことはイタクも分かっていた。

 故により効率的に戦うためにも、彼は自分の肩にちょこんと乗っていた小さな童・座敷童子の紫に声を掛ける。

 本来は非戦闘員の彼女だが、今回の遠征で遠野妖怪がイタク一人では寂しいだろうということで彼に引っ付いて来ていたのだ。

 

「よし、行くぞ」

 

 そんな紫を伴いながら、イタクは亡者の囲いの上を跳躍して包囲網から抜け出す。

 逃げたわけではない。イタクを追いかけて何割かの亡者たちが一心不乱に追いかけて来ており、彼らがついて来れる程度に速度を抑えながら、恐山中を駆け抜けていく。

 

 

 

「紫、どっちの方が上手くいく?」

 

 そうして駆けていると、分かれ道に差し掛かった。

 看板には『灼熱修行の道』『渓谷修行の道』『針山修行の道』などと書かれている。この地で修行する修験者のための案内板だろう。

 イタクはどの道に進むべきか、その判断を紫に委ねる。

 

「う〜〜ん……そうねぇ……よし!! 右の方の修練場!! いっけー、イタク号!!」

 

 紫の選択は完全に当てずっぽう、何の根拠もない直感で右の道を選択するが——彼女は『座敷童子』だ。

 

「……なるほどな」

 

 指示通りに右の修練場——渓谷修行の道を進んだイタクは、紫がどうしてこの修行場を選んだのか、その意味を理解する。

 

 瞬間、イタクから放たれるのは六つの鎌を同時に投げ放つ広範囲攻撃——『レラ・マキリ・イワンペ』。

 狙いを澄まして投擲されるそれらの鎌は、亡者の群れ——ではなく、周囲の切り立った崖を切り裂いた。

 そう、イタクと亡者たちが通過している道は渓谷——切り立った崖に囲まれ、深い谷底となっていたのだ。

 そんな場所で派手な衝撃があれば、当然のようにがけ崩れが発生。渓谷を埋めんばかりの勢いで突き進んでいた亡者たちを土砂が呑み込んでいく。

 

「やったね、イタク」

「ああ」

 

 亡者たちが土砂崩れに巻き込まれ、その一方で紫やイタクは全くの無傷だ。

 

 都合が良いようにも見えるが、これこそ座敷童子の畏——『運を引き込む』紫の力だ。

 彼女が一緒にいれば不幸になることなどない。幸運を呼び込むその力に、イタクを始めとする遠野妖怪たちは皆、全幅の信頼を置いているのである。

 

 

 

「ヒィィイ!! 変なとこ来ちゃった!! 熱いよ!!」

 

 左の修練場——灼熱修行の道では、つららが亡者たちに追いかけられていた。

 灼熱というだけあって、その場所のあちこちで間欠泉が噴出していた。さらに火山ガスなども充満しているこの地は、普通の人間にとってもだが、雪女であるつららにとっても過酷な環境であった。

 

「どうしよう〜、頑張らなきゃなのに〜!!」

 

 そんな場所で、あのようなおっかない亡者たちに追いかけ回されるつららは涙目だ。傍にリクオがいないことも、彼女の弱気に拍車を掛けていたのかもしれない。

 

「つらら様!!」

「お涼ちゃん!? どうしたの、突然出てきて……」

 

 だが、いつまでもそのように逃げ回っている訳にもいかないと。

 つららの懐から小さな少女——お涼が飛び出し、つららを鼓舞するように叫んだ。

 

 去年の師走につららが配下に加えた、大正浪漫硝子に宿る付喪神たち。

 それによって構成される『つらら組』——その構成員の代表とも言うべきなのが、このお涼である。

 

「今こそ!! 我らとの修行の成果を見せるときです!!」

「そ、そうか!! よーし……いくわよ、みんな!!」

 

 お涼の進言もあってか、つららは逃げるのを止めて亡者たちを迎え撃つ態勢に入った。

 つららの掛け声にお涼以外にも、大正浪漫硝子の付喪神たちが一斉に飛び出し、つららを中心に円を描いていく。

 

 次の瞬間、つららと大正浪漫硝子たちの妖気が同調、凍える冷気が巨大な蜘蛛の巣を形成。突っ込んできた亡者の群れを、絡めとるように抑え込んでいく。

 

「見なさい! 一網打尽よ!!」

「やりました〜、つらら姐さん!!」

「しゃりしゃり〜」

 

 これにつららとお涼たちがやったと歓声を上げる。

 師走の日につらら組を結成した日から今日まで、つららは大正浪漫硝子たちと密かに特訓を続けてきた。

 この『氷麗(つらら)(ぐみ)奥義(おうぎ)氷柱(つらら)蜘蛛(くも)()』こそがその成果であり、つららが苦手としていた広範囲にまで、冷気を行き渡らせることが出来るようになったのである。

 

「って……数が多すぎて、はみ出てきたぁ〜!?」

 

 とはいえ、それでも足止めにしかならないと。氷の蜘蛛の巣を力尽くで突き破ってくる亡者たち。

 

「り、リクオ様!! 早く刀を……」

 

 再び亡者たちから逃げることになったつららは、自分の主であるリクオが早く刀を——袮々切丸を受け取り、戻ってきてくれることを願うのであった。

 

 

 

「こいつら、どうやら温度の変化には強いみたいだな……死体はリンでよく燃えるから、火が効くかと思ったんだがな……」

 

 針山修行の道——針山の上から戦場を俯瞰して見ていた竜二は、つららの冷気が亡者たち相手に効果が薄いという分析する。

 冷気の逆、熱を加えてみたらと思って炎を試したりもしたが、竜二が出せる程度の火力では亡者を燃やし尽くすことは出来なかった。

 既に温もりなど感じない、骸の身である亡者たちに冷気や炎といった温度変化は効果が薄いようだ。

 

「火じゃないとするなら……少し西洋的だが……」

 

 ならばと、竜二は最も効果がありそうな手札を切るべく、竹筒を開けてその中身を解き放つ。

 

「——聖水かな」

 

 西洋において、聖別化された水は『穢れを洗い流す』ものとされ、洗礼などの儀式の際に用いられてきた。竜二は日本の陰陽師だが、その聖水と似た性質を持った水の式神を保持している。

 

「その水は純度99、9999%……この世で最も清き水だ」

 

 ふと、亡者たちの頭上を見上げれば、美しい花々が咲き誇っていた。

 それこそが『式神仰言・金生水の花』だ。その清らかさから、あらゆる不浄を溶解してしまう金生水によって、亡者たちの身が次々と溶かされ消失していく。

 

「火よりも効果あり……と」

 

 火で燃やすより、冷気で動きを止めるよりも、亡者たちへの有効打になると竜二は笑みを浮かべる。

 

 

 

 イタク、つらら、竜二と。それそれが亡者たちを各々の力で撃退していく。

 だがそれでも、亡者の絶対数は減ることがなく、生と死の狭間を何度も何度も行き交いながら、生者である彼らへと群がってくる。

 終わりの見えない戦い、普通なら心が折れてしまっても仕方がない戦況だが、彼らの胸には確かな希望が宿っていた。

 

 ——リクオ様、お願いします!!

 

 ——いけ、リクオ。

 

 ——こいつらは俺がやる。

 

 自分たちがこうして敵を押し留めていれば、彼が——リクオが必ず戻ってきてくれる。

 袮々切丸を手にしたリクオなら、この程度の亡者などものの数ではないと。リクオの実力を信頼しているからこそ、彼らの意思は一つに纏まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——だからなんだ? ゴミめ」

 

 だがそのようなリクオたちの信頼関係、妖怪を全て悪と断ずる泰世に理解出来るわけもなく。

 リクオの言葉など聞く価値すらないと、問答無用で妖刀・歯狂鎌を振り下ろしていく。

 

「ちっ……刀が、もたねぇか……!!」

 

 これに押され気味なリクオ。いかにリクオとて、全ての妖刀を破壊し尽くすという歯狂鎌が相手では分が悪い。

 祠の中には無数の刀があり、武器には事欠かないのだが、その程度の付け焼き刃では一瞬でへし折られるだけだ。

 

 おそらく鬼憑で刀に畏を纏わせたところで、結果は同じだろう。

 歯狂鎌に『妖刀を破壊する』という概念が組み込まれている以上、そんじょそこらのナマクラ刀ではどうあっても、その斬撃を受け止めるなど出来やしない。

 

「その刀は秋房ごと破壊する……のけい!!」

 

 自身の絶対的優位を悟ってか、泰世はリクオとの間合いをゆっくりと詰めていきながら、一応警告として退くよう告げる。

 リクオが大人しく退いたところで見逃すというわけではないが、邪魔が入らないことに越したことはない。

 まずは陰陽師の裏切り者——花開院秋房を屠り、そのあとでリクオを倒せばいいという考えであった。

 

「やなこった……お前こそ、どけよ」

 

 勿論、そう言われて素直に退くようなリクオではない。

 眼前の敵から逃げる訳にはいかないという負けん気も働いたが、それ以上にリクオには決して引けない理由があった。

 

 

「——鵺を斬る。この牙は二度と折らせやしねぇ」

 

 

 京都での鵺・安倍晴明との対峙の際、リクオは彼との戦いで袮々切丸をむざむざと折られてしまった。

 

 リクオにとって、袮々切丸は祖父から譲り受けた大事な護身刀。

 そして、リクオ以外のものたちにとっても、あの刀は鵺を打ち倒すための希望——花開院家にとっては、千年の宿願が込められた大切な一刀だ。

 

 敵が如何に強大だったとはいえ、そんな大切な思いが込められた刀を折られてしまったのだ。

 これも未熟な自分の責任だと、リクオは刀の良し悪し以前に己の技量を恥じた。

 

 だからこそ、今度こそは絶対に誰にも折らせはしないと。

 刀の主に相応しい使い手になるためにもと、今日まで死に物狂いで己を鍛え上げてきたのである。

 

 

 

「何か言っていたようだが、不浄のものに耳を傾ける気はない」

 

 だがやはりというか、泰世はリクオの決意に満ちた言葉など右から左へと聞き流す。

 

「嬲りもせずに屠るのみだ」

 

 妖怪相手に問答など無用と、トドメの一撃を放とうと歯狂鎌を大きく振りかぶっていく。

 

 

「——リクオ!!」

 

 

 だが、その一撃が振り下ろされんとしていた、まさにそのとき。

 リクオの名を叫びながら、秋房が一振りの刀をリクオに向かって投げ渡した。

 

「秋房っ……」

 

 反射的にその刀を受け取るリクオだが、その顔には戸惑いが浮かんでいた。

 刀はまだ完成していないと言っていた筈だが、どうしてこのタイミングでそれを渡すのかと。

 

 

 しかしその戸惑いは——すぐに納得へと変わる。

 

 

「……!? こ、これは……!!」

 

 

 瞬間、刀を通して流れ込んできた。

 この刀、袮々切丸と名付けられたその刀に込められた——千年分の想いが。

 

 




補足説明

 百石
  恐山で甲斐甲斐しく秋房のお世話をしていた、イタコの女性。
  彼女の目から見た秋房、という描写を書こうとして思いの外執筆が捗りました。
  明らかに怪しい関係に竜二も「嘘はいかんぞ」と言うほど。

 御門院泰世
  御門院家の末裔。現代における当主候補……だったのだろう、きっと。
  妖刀を破壊する妖刀・歯狂鎌の使い手。
  晴明への妄信が強く、妖怪どころか同じ陰陽師の秋房の話にも聞く耳を持たない。



 次回仮タイトルは『半妖の里の秘密』です。
 何故ここで半妖の里の話になるのか……気になった方はとある人物のことを思い出していただければと……。

 
  
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