なんだか思い付いたから書いただけ。
本編の設定と食い違ってても思い付きの単発ネタなんで許してください。

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ささやき― いのり― えいしょう― ねんじろ!

 迷宮都市オラリオ……そこにある廃教会に一人の男と神がいた。

 神の名はハデス、死者の国たる冥界を管理する神であり、この廃教会の主である。

 ハデスはいつも通り、壊れた石柱に座り、その長い髪を暇そうに弄くっていた。

 そして男の名はカント、オラリオでも有数の冒険者……いや、彼曰く“元”冒険者であり、この《ハデスファミリア》の唯一の眷族であり、街でもトップクラスの有名人である。

 

「囁き……祈り……詠唱……」

 

 カントは、そう呟くと目の前にある冒険者の死体に手を触れた。

 死体はかなり冷たく、時間が経っていることが分かる。

 だが、彼は動じずに短い詠唱を続けて。

 

「念じろ!」

 

 大きな声で詠唱を終えると、同時に周囲の魔力が死体に注がれ……「かはっ」と、死体は息を吹き返す。

 

「ジューン、良かった! 生き返れたのね……」

「あれ……ここは……?そっか、私ったら、またカントさんのお世話に……」

「まっ、そーいうことだな。分かったのなら、とっとと金払え。こっちだって慈善事業じゃねーんだ」

 

 カントは面倒くさそうに言い放ち、生き返ったばかりでまだ冷たいジューンの手を握る少女、メイに掌を向ける。

 その手は金を早く寄越して帰れ、と言っており、メイは済まなそうに10000ヴァリスを懐から差し出し、握らせた。

 

「カントさん、ごめんなさい……いっつも、ジューンがお世話になって……」

「こっちも商売だから気にすんな。てか、とっとと帰れ。まだ他にも客が残ってんだ」

 

 そう言われて後ろを振り向くと、そこには死体を担いだ冒険者達が山のように並んでいた。

 どうやら皆、死んだ仲間をカントに生き返らせて貰おうとしているようだ。

 

「すみません……それじゃあ私達はこれで失礼します」

「もう来るなよー、じゃ次の人ー」

 

 メイ達の次に現れたのはとある有名ギルドに所属していると思われる冒険者だった。

 死体の男は下級冒険者のメイ達と比べても、かなり良い装備をしており、それなりに名のある冒険者だったのだろうと分かった。

 

「ん、所属ファミリアと名前、それとレベルは?」

「初めて利用するが、そこまで聞くのか? ……ちっ、やむ終えんな。ロキファミリア所属のエイボンだ、レベルは……」

「ストップ、おたくの名前じゃなくて仏さんの名前とレベルな。所属ファミリアも仏さんのをお願い、あと可能なら死んだ理由も」

「……そう言うことか」

 

 エイボンはそう言われると、死体の男……デンドロが死んだ理由とレベルを話始めた。

 死んだ理由は比較的、よくあるもので遠征中の事故による死亡とまで答えて、それ以上は話さなかった。

 そしてデンドロのレベルは2とまで答えるとむっ、と口を閉じる。

 

「おっけー、んじゃ始めに40000ヴァリスの支払いをお願いね」

「……前の客は蘇生処置の後に金を払ったように見えたが」

「あれは下級冒険者相手だから。下級相手は仮に灰になった場合はそこからの蘇生費だけ、死者蘇生を失敗させた場合の料金は無料にしてあげてるの」

「……良心的だな、色々と」

「下級冒険者相手は優しくしてあげてるのよ、俺。で? 金は?」

 

 蘇生代を催促してくるカントに対して、エイボンはムッとしながらも40000ヴァリス入った袋を手渡した。

 カントは料金を確認すると。

 

「囁き……祈り……詠唱……念じろ!」

 

 いつもの短い詠唱を唱え、周囲の魔力が死体に注がれると同時に……死体が一瞬、発光したかと思うと灰となる。

 ばさりっ、と男が装備していた防具が地面に落ち、灰が宙を舞う。

 

「……これは?」

「あははは、失敗したみたいね。とりあえずチャンスは、まだあるから80000ヴァリス払って挑戦──」

 

 ヘラヘラと笑うその顔面にエイボンの拳が叩き込まれた。

 ……が、いつの間にか、カントは後ろに下がっており、その拳は宙を切るだけで終わる。

 

「……失敗したと言うのに、何故そんなに笑ってふざけているんだ!? 我が友を生き返らせる為なら金は幾らだって払うつもりだが……何故、お前のような男が……!」

「まっ、こういう性格なんだから仕方ないじゃん。あははは、とにかく生き返らせてほしいなら金払ってよ、話はそれからだ」

「……ちっ!釣りは入らん!」

 

 そう言うと懐から取り出した袋をカントに叩きつける。

 それを顔面に当たる直前にキャッチする。袋の重さから100000ヴァリスは下らないだろう。

 

「ん、よろしい。……では」

 

 カントは散らばった灰を可能な限り集めて……再び、詠唱を始めた。

 

「囁き……祈り……詠唱……念じろ!」

 

 次の瞬間、灰は一つとなり、骨を、内臓を、肉を形成する。

 そして皮膚が形成し終わると、いつの間にか防具を身に付けていた男は目を覚ました。

 

「よっしゃ、せいこー。流石は俺だな」

「いつつつ……ここは?」

 

 生き返ったデンドロは不思議そうな顔で辺りを見回す。

 そこは最後の記憶にある迷宮の奥深くではなく、荒れに荒れた廃教会だった。

 一体、ここは?そう思った瞬間、見慣れた金髪が自分の前に飛び込んできた。

 

「うわっ、エイボン!? どうしたんだよ、急にさ?」

「ひぐっ……良かった……君が生き返ってくれて……! もう無茶はするな、馬鹿者! 冒険者は冒険をしないといつも……うわぁぁぁ……!」

 

 瞳から大粒の涙をこぼしながら、自分の胸に顔を埋める彼女(・・)の頭を優しく撫でながら状況を確認する。

 周りには死体を抱えた多くの冒険者に、面倒くさそうな表情でこちらを見てくるカソックの男、そして退屈そうに石積みをしている銀髪の幼い女神。

 これはもしかして噂の……と、デンドロは考える。

 

「えっと……ありがとうございます? 俺、死んだ記憶とか、死んでる間の記憶とか無いんですが……その、生き返ったっすよね?」

「そーだなー、分かったなら、とっとと回れ右して帰れ。まだ客は並んでるんだ」

「うっす、それじゃあエイボン、行こうか?」

「……ひぐっ。あ……あぁ、神父よ……感謝する」

「どーいたしましてー」

 

 面倒くさそうに答えるカントを横目に二人は教会を去った。

 ……が、彼の仕事はまだまだ終わらない。

 

「神父様!実はモンスターに毒を盛られまして……!」

「はいはい……んじゃ、まずは解毒代として──」

 

 オラリオで唯一の蘇生魔法の使い手であり、更には有数の解毒魔法と回復魔法の使い手である彼の仕事は夜遅くまで続く。

 冥界神のたった一人の眷族の物語(ファミリア・ミィス)はまだまだ続く。



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