青年は気がつけば知らぬ場所、少女型の人形、オーキスの身体に。
見知らぬ世界で人形が生きるそんなお話。

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オーキスは人形、人形は女性形、男性型とあるけども、人形なのであって性別は無い。つまり性転換なのかと聞かれると微妙なところの気もする私なのであった。

オーキスとツヴァイに関するイベントは是非とも知って欲しいくらいには素晴らしいシナリオでした。


続くかは未定、続かせたいとは思う。


人形

 導入

 

 

 

 

 

 ゴロッゴロゴロ……

 

 

 林の中にある一本の道。

 

 

 ゴロゴロゴロ……

 

 

 その道を一人の少女が大きめのトランクケースを引きながら歩いていた。

 

 ある程度舗装されているとはいえ、林の中だからか、大きめの石なども落ちており、それを踏み越えた際にケースからのゴロゴロという規則的な音に乱れが生じていたが、今まで途切れることのなかったその音が、ふと、止まった。

 

 少女の視線の先には塔のような建物があり、それを軽く眺めたあとに少女はつぶやく。

 

 

「あれがバベル…………」

 

 

 そう呟き、しばし思案するような様子を見せると、何か決まったのか、今までと同じようにまた歩き出した。

 

 

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 これは突然起きたことだ。

 

 いつも通りの日常、喧騒に溺れそうな通学時間。

 流れる人の波に逆らうことなく流され、電車に乗り込めば、数駅過ぎて人が少なくなってきたところで、学校の最寄り駅で下車する。

 

 そんな、いつも通りすぎる朝。駅から出るために階段に足をかけた途端、後から何かに引っ張られ、後に倒れた瞬間気がつけば、見知らぬ部屋、見知らぬ身体で見知らぬ男の前で座っていたのだ。

 

 いままで普通の生を過ごしてきた俺は、この時、内心とてもパニックに陥って居たのだが、体は微かにしか反応しない。

 

 そして目の前の男はこちらの頬を撫でながらこちらに呼びかけてきた。

 

『オーキス』

 

 オーキス。それが今の自分の名前なのだとなんとなく理解した。

 

 それからは毎日彼、マスターに話しかけられる日々だ。

 

 今日の気分はどうか。

 

 体の調子はどうか。

 

 なにか欲しいものはあるか。

 

 何か知りたいことはあるか。

 

 最初は、この作られた人形の体がイメージ通りに動かせず、座ったままだったがだんだんと慣れて動かせるようになり、言葉も普通に話せるようになってきたし、そんな自分にマスターは毎日手を尽くしてくれた。

 

 そんなゆるくもささやかな日々を過ごしているうちに、とても希薄になってしまった心や、元の自分とは違う少女型の、人形の体ということ、元の自分への未練も、自分の中でキリをつけることもできた。

 

 そしてある日、マスターは何故自分を、オーキスを作ったのかを教えてくれた。

 

 

『心のある人形を作りたい』

 

 

 これを聞いた時、元の"俺"がこの人形の中に宿ったことに強い罪悪感を覚えた。

 

 "俺"が、この人形に宿らなければ、オーキスは真に心を宿したのではないか?マスターのその目標もきちんと達せられたのではないか?

 

 そして、その事を言おうとすれば、必ず身体が言うことを聞いてくれなくなる。

 

 言えないまま、罪悪感を感じ、この身体のせいか、上手く感情を表現することも出来ない。

 

 そんなもどかしさから、強く手を握る。

 

 この感情を見透かしているのか、優しく頭に手を置いて、感じたことを、表に出すこともこれから学べばいいと言ってその手で撫でてきた。

 

 この時私はいつか、感情を上手く出せるようになって、この身体を完全に動かせるようになった時に、キチンと全てを話そう、そしてその後に、今までのお礼をしよう。そう決めた。

 

 

 

 それからも、毎日マスターから技術を学びながら、感情を出すためのリハビリ?のようなものを続けていった。

 

 

 

 あの決意をしてからは日に日に、身体の馴染み方が早い気がする。

 ごく稀に、マスターから今笑っていたのか?と、言われることがある。自分では気付いていなかったが、少しずつ進んでいたんだと思えば、もっと頑張れる気がする。

 

 

 

 最近、マスターの様子がおかしい。何やら豪奢な蝋封の手紙を受け取ってから、毎晩何かを作っているようだった。

 

 

 

 最近没頭していたモノが完成したようだが、ちっとも嬉しそうじゃない。

 寧ろ、なにかに苦しんでいる?

 

 

 

 いつもの勉強の時間、思い切って聞いてみることにした。

 何を作っていたのか、なぜそんなに苦しんでいるのか?

 これを聞くと、マスターは少し固まったあとに私がマスターを心配していることをとても喜んでいた。

 

 マスターは私の主人ではあるが、同時にお父さんのように思っている。その事も伝えれば、涙を流しながら喜び、そして苦しんでいる理由を教えてくれた。

 

 どこかの国でマスターが、人のために作ったはずのゴーレム達が兵器として、人を不幸にするために使われている事、さらに追加での依頼も来たらしい。

 

『私は、人のためになるゴーレムを作りたかっただけなんだ。だけども、人々は私の作ったゴーレム……オーキス、君の兄弟達を人を不幸にするために使っている。私はそれを止めなくてはいけないんだ。

 だが、オーキスを置いていく決心がつかなかったんだ……だけどね』

 

 ーーー私を父親と言ってくれた、なら、息子達も助けなくては親が廃るーーー

 

 そう言うと、マスターは部屋を出てからしばらくし、大きめの箱と小箱をその手に持って戻ってきた。

 

 これは?

 

 そんな疑問を載せた視線を向けると、マスターは微笑み、『ハッピーバースデイ、オーキス』と言って大きな箱を私に渡してきた。

 

 呆気にとられながらも受け取ると、彼は話し始める。

 

 私を作ってからもうすぐ1年経つこと。これから、ほかのゴーレム達……子供たちを解放しに行くこと。

 

 

 

 そして、これで最後だということ。

 

 

 

 出立の準備をするマスターに、何故と聞いて帰ってきた答えは『生きていたとしても、帰ってきたら私を危険に晒すから』

 

 引き留めようと、言葉を発したいが何故か言葉が出てこない、それでもと、家を出ようとするマスターを引き止めたくて手を伸ばす。

 

 微かに指先でコートをつまむと、マスターは、足を止めて振り返る。

 

『ああ、そうだ、これもオーキス、君にあげよう。私が彼女に渡せず、ずっと持っていたこれを娘の君に託すよ』

 

 そう言って私の手をコートから離すと、手のひらに一粒の宝石があしらわれた指輪を落とす。

 

 それじゃあ、と、扉から出ていこうとするのを追いかけようとしたが、急に体が動かなくなる。

 

 

 視界の端で、手に肩に糸が繋がっているのが見えた。

 

 

 きっと、さっき指輪を渡した時に私にマスターがつけたのだろう。追いかけてくるのを止めるために。

 

 

 それを察するのも既に遅く、マスターの姿はどんどんと遠くなっていき、やがては見えなくなった。

 

 

 

 ......................................................

 

 

 

 マスターが私の前からいなくなってから。

 きっと戻ってくると思って、マスターからの唯一の命令で私が入ることが出来ない書斎を除き、家の掃除を欠かさず、よく彼と座って話をしたお気に入りの椅子に腰掛け、本を読む日々。

 

 そんな日々が1年たった頃だろうか?唐突に、片目に違和感を覚え、視界がボヤけているのだ。

 

 頬を伝った涙が、指輪を濡らす。

 

 涙を流すなんて初めてだとかんじながらも、何か、自分の中にあった大切な何かがなくなってしまったような感覚を感じる。

 

 そしてなんとなく理解した。

 

 

 マスターが亡くなったのだと。

 

 

 マスターが私に命を授けたとき、触媒として血液も使ったと言っていた。ゆえに、私とマスターは赤い絆で結ばれていた。

 それも、解けてしまった。

 

 私の片目から涙は流れ続けていた。

 

 そして私の足は自然とマスターの書斎へと向かっていた。

 今まで、入ることが出来なかった書斎は、厚く埃が積もっており、歩くと足跡がつくほどだった。

 

 書斎の机の上に一通の手紙が置いてあるのが見て取れる。

 

 手に取り、埃を軽く落とすとそこには『オーキスへ』の文字。

 

 中身は、あまり長くない手紙だ。

 

『これを君が読んでいるという事は、もう既に私は死んでいるのだろう。

 君を一人にしてしまってすまない。

 

 では、本題だ。オーキス、君はこれから世界を見て回るのだ、私が愛し、憎しみもした、人々を。

 そして、その心を育んでほしい。』

 

 

 ーーー君は、自分の生を生きろ。

 

 

 その一文を目にし、私は部屋をあとにした。

 

 …………自動人形の私をマスターは作ってくれた、そして私を宿してくれた。

 マスター無き今、私はなんのために生きるか、その意味を見つけたい。

 

「さあ、行くよ」

 

 少ない荷物を揃え、ケースに、マスターと作った戦闘人形、ロイドを詰め、あの日マスターが出ていった扉から、歩み出る。

 

 

 

 ......................................................

 

 

 

 世界を見て周るために私は旅をしていた。

 そこで目にしたのは戦場やそこに暮らす人々。

 

 なぜどの世界でも、人々は戦い続けるのだろうか?前世の世界でも、日々戦争は私の知らぬ場所で続けられていた。

 無意味に感じるような殺しがほとんどだった。

 

 でも、人はみな、戦い、生きている。生を紡ぐために、戦っている。

 

 戦っている時、暮らしている時、人は1人ではなかった。人と人との繋がりに、人たる所以が有るのだろう。

 

 ……人形の私がその繋がりの間に立てるのだろうか?

 

 

 ......................................................

 

 

 人々の暮らしに紛れてみると、様々なことを知った。

 

 そして、その中でマスターに関することも出てきた。

 市場を調べればマスターが作ったものらしきゴーレムも見つけることが出来、その痕跡をたどっていこうと思う。

 

 マスターはどこに行き、最後はどこへ行ったのか。

 

 新たな目標ができた。

 

 

 私達の家を出たマスターの生を辿る。

 そして、最後の場所にたどり着いた時、マスターのお墓を作ってあげたい。今までの事を報告したい。

 

 

 その為に、また旅をして回ろう。




続くかは未定。


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