宇宙戦艦作品の技術考察(銀英伝中心)   作:ケット

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土地の一般論

『銀河英雄伝説』では、ブラウンシュヴァイク・リッテンハイムは多くの豊かな星系を所有し、ゆえに膨大な財産と数は多数の私設艦隊を持っています。

 ゴールデンバウム帝国は、封建時代……領域の大きさがほぼ軍事力に直結するようです。

 現実の日本の戦国時代で、石高=米がどれだけ得られるか=水田に適した土地の面積と、動員可能兵数が比例関係にあるように。

 

 広い地を支配する。特に現実の地球で、昔からどういうシステムにするか多様性があります。洋の東西によっても違います。

 さらに大航海時代には、連絡にも輸送にも年を越えることもある時間がかかり、ロシアンルーレット同様リスクが高いというとんでもない制約ができました。

 所領を分ける。封建制。

 中央政府から派遣する。日本の国司、秦、唐。ローマ帝国も。日本の明治政府の県令も。

 郡県制か封建制か……安史の乱か八王の乱か。

 

 何よりも重要なのは、範囲が広がると遠くの領土は誰かに任せなければならない。任された者が自分で軍を持ち反抗することを、止めることはできない。短い任期にしても、その下の土豪が力を得るだけ。

 これは洋の東西を問わず、また宇宙であってさえ普遍的でしょう。

 

 

 世界史の教科書には、各国の歴史があります。

 ただ、これから考えたいこと……国家ができていく時代の、具体的な生活と支配を想像するには、足りない情報があります。

 作物は何か。

 何を食べなにを着ているか。

 何に住んでいるか。水やトイレや火は。

 製鉄法は。

 それらは調べ、さらに断片的な情報から想像するしかないことも多いです。

 

 そして、間違いなく昔も今も変わらないことがあるでしょう。

 人の歩く速度。人の声が届く範囲。一人の人が支配できる人数。

 大陸一つを、一人の人間が代理などを全く使わず直接支配することは、絶対にできません。

 前も考えた一日1キロ食べ、30キロ背負って20キロメートル……その制約は普遍的です。

 

 同様に普遍的に肝心なのは、人が群れるのは防衛のため、戦うためであることです。

 人数が多いと、それこそ多い方は一人も死なずに少ない方を全滅させることすら可能です。だから人数が多ければとても強い。それでどの国も領土を増やし、大きい国はより強くなって隣を食い、大帝国にも至ります。

 しかし、防衛とは……ある村が襲われる。知らせを軍のところまで持って行く。襲われたことを、軍事力を持つ人が知る。軍が準備し、駆けつける。戦う。助ける。

 そのためにはどうしても時間がかかります。襲われた村に大きい軍勢がいるのでなければ……当然襲う側は、軍がいないところを狙います。すべての村に大きい軍勢を置いたら、その軍勢も食べるのですべての村が飢え潰れます。

 村そのものにある程度の城塞を作り、助けが来るまで持ちこたえるのが定石ですが、それも「間に合う」時間が少々長くなるだけのことです。また毎年収穫がなくなるように田畑を荒らせば、その村は結局潰れます。

 

 数学的な一般論を考えると……一辺1キロメートルの正方形国。国境線は4キロメートル、面積は1平方キロメートル。

 一辺100キロメートルの正方形国になった。国境線400キロメートル、面積10000平方キロメートル。国境線1キロメートルあたりの人口が多いので守るのも楽……に見えます。

 しかし、質は変わります。中央から腰兵糧で国境まで行けるかどうか。大きくなると、辺境近くに駐屯地が必要……ならそれが反乱する、国境近く駐屯地がいくつか連合して中央に進撃しても潰せるだけの中央軍……無理が出てきます。

 

 

 組織の規模が大きくなった時の、官僚制・縦割りの弊害も人類に普遍的と言っていいでしょう。

 また長期間同じ群れが続いたら、前任者が決めた法・道徳が積みあがってがんじがらめになることも。

 地方地主がどんどん大きくなるのも、中央政府の財政が苦しくなるのも、普遍的と言ってもいいでしょう。

 逆に昔の人がとんでもなく迷信深いこと、多くの人が栄養不良で半病人であること、奴隷が当たり前であること、人の命が極端に軽いことなども頭に入れておくべきでしょう。

 

 

 

 とりあえず考えるために、八割がたイメージで想像してみましょう。

 

 稲作が入ってからの日本の、割といい場所。

 昔は関東や新潟のような大平野より、山間のほうが田を作るには向いていたそうです。水が豊富で、傾斜を利用して容易に水を管理できたと。周囲の山や、沼・湖・海からもかなりの食料を得ることができます。

 基本的には自給自足に近い生活になるでしょう。そのためには、森の獣から得られる皮革もかなり重要になるでしょう。

 山地が多く、雨が多い日本は、山が小さく急な川に削られた海に達する谷、それがたくさんあり、それぞれがひとつの「国」となるでしょう。湖沼を中心とした盆地も多くあります。適切な大きさで本土に近い島は意外と少ないものです。

 

 人類は狩猟採集生活では、階層がない平等であった……というのが定説です。

 しかし農耕で定着すると、階層ができていきます。肉は食べつくさなければ腐るだけですが、穀物は貯蔵できます。

 日本では、稲作の知識や金属が伝来であるため、それを持つ人々が特に強くなります。

 同じ村の中でも知識、特に稲作に関わる水田の作り方・水の使い方・星を見て季節を読む方法・道具の入手ができる人の地位は上がるでしょう。

 資源としては塩、銅、よい土器ができる土。製鉄技術が入れば鉄の材料。黒曜石などもまだ需要もあるでしょう。製鉄や製塩をある程度以上やったら木が不足することもあるでしょう。

 塩魚は普遍的に価値があります。宝石も需要があるでしょう。宝石だけでなく、柔らかいロウ石、顔料となる色石、日本では好まれませんが屋根材になる薄板に割れる石など多様な石材が多様な価値を持ちます。日本では知らないですが、中東などではナトロン(天然重曹)・ミョウバン・硫黄・硝石(火薬以前もハムなど)も高い需要がありました。文明水準が進めば、香木やサメ皮、薬材料なども高い価値が出ました。

 製鉄、さらに質の良い刃物材は優れた技術を持つ集団が技術製作を独占し、製品を交易するでしょう。

 交易も、ノウハウというか「商人の顔を知っており、合言葉を知っている」とか「山向こうの豪族の長と知り合い」とかがなければまともにはできないでしょう。

 知識が富になる、だから知識を持つ者が地位を得る、ということです。

 

 さて、上を見ましょう。日本には大和朝廷という頂点がありました。多くの豪族もありました。

 豪族は、半ば自給自足の農耕などができ、一体と言える川や峠で囲まれた地域の、村がいくつか集まったその頂点でしょう。

 全体の防衛をしたり、外交をしたり、呪術をしたり知識を与えたり。

 人は小さい共同体の外は基本敵とみなし、特にこちらが飢えれば奪い殺すことが多いです。古代農耕社会も、狩猟採集社会も小さい戦争が無数にあるといわれています。

 それから自分たちを守り、またうまく自分たちを指揮して敵を倒してくれる豪族は頼もしいとされ、領土を広げる……それが人類の普遍的な営みでもあるでしょう。古代では想像以上に呪術も重要でしょうが。

 

 さて、日本は大和朝廷が唐の律令制を真似て……

 という制度以前の問題があります。

 人間社会は、普遍的に「人間である」、地球人、ホモ・サピエンスであるということに強く束縛されています。

 意識する人はまずいないでしょう。しかしそれは重大なのです。

 人は食べる。水が必要。糞食をしない。衣類が必要。ビタミンCを体内で作れない。土を掘った穴では人類のサイズが大きすぎ安定して暮らせない。声が届く距離。赤外線通信やアンシブルを体内に持っていない。眠らなければならない。セルロース分解酵素がない。空中窒素固定能力がない。妙ちきりんな繁殖。

 ほかにもたくさん。

 

『火の鳥 鳳凰編』で、こんなシーンがありました……旅をしている主人公たちが、大荷物を背負いやつれた男が行き倒れたのを見かけました。

 餓死した人の背には、たくさんの米が背負われていました。

 都に運ぶ税。自分が死んでも、税に手をつけたら村の家族が皆殺しにされかねない。

 ……でも結局、それは誰も得をしていません。老人は死に、老人の家族は罰され、そして国も税を受け取れていないのです。

 それは黎明編以来の通奏低音である朝廷の暴虐を描く話でしたが、別の深いことも示唆しています。以前も検討した単純計算。

 人間が背負って歩けるのは、きわめて高い水準の訓練を受けた兵士が、現代の素材・設計・縫製で作られたリュックで、50キログラムとか60キログラムとか……米10キログラムが二つ入る皮革の袋って、それだけで何キログラムあるでしょう?

 古代では栄養状態も悪く、もっと少ないでしょう。靴も道も悪いです。

 人が必要とする食物は一日一キログラムぐらい。米一合が150グラムぐらいなので、おかずがないことを考えれば四合、600グラムかもしれませんが、重労働では……

 人が標準的に歩けるのは、訓練があっても40キロメートルがせいぜい。荷物が重ければ、また道が悪いこと、履物の技術水準も低いこと、幼児期からの栄養状態なども悪いことを考えればもっと性能は落ちるでしょう。

 一日1キログラム食べ、30キログラム背負って20キロメートル歩けるとしたら、30日以上かかる600キロメートル以上だと着いたら手ぶら。領有して税を取っても攻めて略奪しても儲からない。

 これは人類に普遍的な、絶対的な制約でしょう。

 一つ一つの数字の違い、食べたら軽くなるその他は誤差、本質は変わりません。

 移動距離が長すぎると費用が利益を上回る、それは交通技術がどれほど高まろうと、それこそワープが可能になっても本質的に変わらないでしょう。今の現実でも、ガソリン代と人件費と、輸送で稼ぐ金の問題は常にあるはずです。

 途中で食を乞い鳥を射落とすことができるとしても、遠くから納税のために米を担いでくる人の人数が多くなれば……たとえば都に近い家には多くの人が泊まり、食べる……結局は何かしらの食料を消費します。範囲が広くなると、都の近くでは膨大な人が食べることになります。

 旅費を軽い絹か何かで持てといったらそれは遠隔地への増税ですし、都の近くの人も、金を払ってくれても食料不足になります。輸送のための食糧は結局増税と同じになり、それは距離が遠くなると無限に増えるのです。

 貨幣を税+旅費にすれば軽くなってより遠くまで歩けますが、そのためには納税者が暮らす地域の近くで、収穫などを貨幣に変える必要があります。それは発展した都市があるということであり、そこが独立国家になることは容易でしょう。

 

 税だけでなく、「蛮族に襲われた村を助けに行くのが間に合う」「まともなコストで連絡が可能」「貿易上価値があるか」なども考えるべきでしょう。

 税もそうですが、たとえばとても重要な資源が大量にある鉱山などなら、地理的にかなり不利でも確保する価値はあります。

 人間の現実の国家は、価値の有無にかかわらず、領土であったという意地だけで果てしなく取り合うことも……日本も竹島・尖閣・北方四島と紛争を抱えています。

 

 軍事でもその制約は重大でしょう。普通の農村にとっての「軍事」はせいぜい数日歩く程度でしょう。人間が武器と鎧と食料を持って歩ける範囲です。乾燥地帯では水も。馬を得れば馬の食料も。

 古代ローマが王政から共和国、共和国から帝国に変質したのも、戦争が数日以内と、何十日もかかるのでは質が違ったことが大きいと思います。

 

 その限界をぶっ壊せるのが、高速大量輸送を可能とする水運です。大陸ではきわめて条件のいい平地での馬車・牛車輸送もある程度あるでしょうか。

 ですが、水運は場所が限られます。国家がいびつな形になる……航路・港湾を中心として、運べる範囲内だけがまともに納税でき、山賊に襲われたときに軍の派遣が間に合い、交易できる場になります。

 道路も同じことです。

 

 

 もう一つ農耕社会で普遍的な厄介事があります。

 地主。

 農業は不安定です。サイコロを振るように凶作があります。狩猟採集社会なら、とても広い範囲で少ない人口であるのとひきかえに、ある場所で木の実が不作なら別のところに行けばいいのですが、農業は膨大な投資をしているのでどうしても「一所懸命」になります。

 凶作で飢えないための正解は、リスク分散。ニューギニアなどでは、わざわざ少し離れた山に何時間も歩いていかなければならない小さい畑を持っておく、という話を聞いたことがあります。

 でもそんなことは、人口が多く蛮族も多い地域では無理。遠くの山まで歩いている人は簡単に襲える……城塞都市から歩ける、逃げ切れる範囲しか耕せないのが定石。山向こうとも血縁関係を結んで、凶作のとき融通し合うというのは実際には難しい……

 だから大きい領土の豪族の下につく、となります。しかしそれをやると強い従属になってしまうのです。

 貨幣経済が発達したらもっと厄介なことに……確率的な、長い目で見ればほぼ必然である凶作や病気治療などで、すぐに土地が抵当に取られ、小作農=奴隷になってしまうのです。

 そうなれば当然、有力者はどんどん広大な土地と、言いなりだから徴兵もできる民を手に入れてしまいます。そうなれば当然中央にも逆らえてしまう……

 

 

 比較対象として中東・中国を考えてみましょう。

 本質的には砂漠になる、北回帰線近くの中緯度高圧帯。そこに外から大河が注げば、桁外れの農業生産力を生み出します。エジプトでは洪水で塩害が流され、半永久的に持続可能でさえあるのです。中国はモンスーンがあり比較的雨が多いですが、特に北方は乾燥しています。

 灌漑による大規模農耕。とても広い、馬車に有利な平野。灌漑が可能ということは川という水路もあるということ。低い技術水準でも作ることができ、生産性・保存性がかなり高い大麦小麦+ソラマメ・ヒヨコマメ、ついでに(中東)オリーブとナツメヤシという作物。馬・牛・豚・羊・山羊という家畜。

 税となる穀物を担いでこれる範囲も、荷車や河川を用いればとても広いです。

 灌漑も本質的に、大帝国と相性のいいものです。堤防やダムを作るには、大人数があるほうがいい。大人数を集め指揮するノウハウが蓄積されます。また堤防やダムの要所を支配する勢力は、灌漑に依存する広い範囲の生殺与奪を握ります……多くの細かな水系がある日本や、天水農業がさかんなヨーロッパとは違って。

 とにかく広い範囲の、広大な帝国ができる。それが中東・中国という地です。

 日本とは違い、騎馬民族の脅威が常にある中東・中国では、人が暮らすのは基本的に城塞都市であることも忘れてはなりません。孤立した農家なんてありえない、城塞都市から行ける範囲しか耕せないのです。

 

 中国は確かに、ヨーロッパと違ってすぐに統一される、地理的な障壁が少ない地です。

 しかし、それでも広すぎます。歴史上たびたび、いくつにも分裂します。

 それを再統一した帝国は、どのように土地を分けるか危惧します。

 

 日本の、基本的には山や川という障壁が形成する豪族勢力範囲。

 中国の「国」。

 それをつくるのは、税を運べる範囲という制約もあるでしょう。

 あまりにも広大だと、税を運ぶ間に消費するコストがある。水運があっても沈むリスクがある。ならば、小さな領域で完結させる方がいい。

 

 また人間には、自然な集団のサイズもあります。

 ダンパー数、狩猟採集時代の血縁集団、最大150人。今も軍隊の中隊の人数がそれですし、その人数を超えた企業は高度な組織を必要とします。

 強い人の声で支配できる人数。拳で、カリスマで支配できる人数。

 とても広い範囲がどれほど条件がいいとしても、一人で何万人も・半径何百キロメートルも支配することは絶対に無理なのです。目が届かないのです。声が届かないのです。顔と名前を一致させられないのです。税が増えないのです。駆けつけるのが間に合わないのです。

 どうしてもピラミッド構造……数人の班が集まって学級、何学級も集まって学年、学年が集まって学校……十人ぐらいの分隊・三十人ぐらいの小隊・百人ぐらいの中隊・大隊・連隊……町や村・市や区・都道府県……そういう構造になってしまうのです。どうしても、多くの「国」の連合体になってしまうのです。

 

 軍事的にも、広すぎたらはじっこの村が蛮族に襲われたとき、助けが間に合わないのです。間に合わない、守られなかったことが繰り返されれば、独立するでしょう。助けが間に合わないということは、独立鎮圧も間に合わないということなのです。

 はじっこの村の近くに軍の一部を駐屯させる?ならその軍が独立を宣言したら……それに戦力の分散は愚劣。

 ある程度以上の広さの(または地理的障壁に阻まれた)地域は、ひとつの軍が支配し、ひとつの都に税を集める、ひとつの国ではありえないのです。

 

 

 

 さて、たくさんの豪族を破り、功臣たちや一族の助けを借りて天下を統一した皇帝。

 中国では、どんな制度をとるか悩みました。

 最初の帝国である秦の始皇帝。秦を反面教師としてたっぷり学んだ漢の劉邦。漢の実質後継者である曹操の魏、晋。

 隋、唐。モンゴルの伝統を持つ元。

 一人で食べきれるわけがない。分けなければならない。

 誰に?血のつながった一族?征服した豪族たちの生き残り?功臣?優秀な試験合格者?

 各地の、下から村単位で推挙される人……祭りの生贄の肉を村人に公平に分けることで評価された陳平や、なんとなくビッグ感があっていい嫁を貰い、亭長という公務員になった劉邦のような?

 戦国を生きのびた初代皇帝はよく知っているでしょう。誰も信用できない。一人では何もできない。このどうしようもない矛盾。

 親兄弟だろうと、どんな学者だろうと、忠実だった将軍も、娘を差しだしてきた豪族も、誰も信用できない。

 力を与えた者は謀反を起こす。でも項羽でさえ一人ですべてを支配することなどできない。

 

 その力は、古代では領土です。戦国時代も。『銀河英雄伝説』でも……いくつもの星でしたが。

 領土があれば何ができるか。

 領土に領民がいて、領民全員を支配する。生殺与奪を握る、司法・行政・立法の三権ついでに宗教の頂点と軍の指揮権も独占する。

 領民は土地を耕し種を播き収穫し穀物を生み出す。服や鉄も生み出す。領主は徴税をする暴力組織を用いて税を奪う。

 古代では徴税は限りなく略奪に近いものです。新約聖書でも、イエスの弟子のひとりの徴税人は人々に嫌われました。史上最高の科学者の一人であるラボアジェは徴税の仕事をしており、それゆえに革命で処刑されました。

 また、領民を徴用して土木工事をさせることができます。堤防、ダム、運河、港湾。砦、防壁……大規模建築。それは時に無意味な神殿、同時に農閑期に食わせるための公共事業にもなりました。それは広い範囲の多数の人を集め、衣食を共にさせて文化を統一し、また文字や数などのイノベーションも促進しました。

 徴用の変形として、兵士にもなります。石高はそのまま兵の数。領土はそのまま軍事力、暴力でもあるのです。もっとも普遍的な力である。もちろん、大規模な盗賊団や蛮族から領民を守ることも期待される。

 それが、たとえば給料や単なる地位との根本的な違いです。自分の軍隊を持っている、ということが。

 ただ皇帝の側近というだけで、自分の軍事力がなければ皇帝の寵愛が失せれば首が飛ぶだけです。しかし、領土があれば。親兄弟が少し離れた土地を持っていれば。

 何の準備もなく首を切れば、復讐のために遠くの家族は領民を集め挙兵するおそれがあります。

 ただの給料、貨幣ではだめなのです。貨幣自体、それほど信用されるものでもないですし。地位、爵位だけでもだめなのです。宗教的地位もかなり強いですが、それでもまだ不完全なのです。まして特許権、著作権など何の力もないのです。

 江戸時代の日本では、豪商は政権の気まぐれで全財産を没収されたものです。

 軍の指揮権だけでも、皇帝が書いた紙一枚で指揮している軍は、同じく紙一枚で奪い去られるのです。領土であれば、隊長の父親は自分の父親とともに戦い、耕し、祭りをともにしてきたのです。祖父も。そのまた……軍全体が、まさに自分のもの。ならば皇帝の紙一枚があっても、自分についてきてくれることを望める……皇帝もそのリスクを考えれば、簡単に奪えない。

 貨幣経済だけで傭兵・装備・軍需物資全部そろえるのは、たとえば今、大企業が自国の軍と戦える軍事力をつくるのに、どれだけ時間がかかるでしょう。……かなりの軍事力を持っていると言われる企業もありますが、それでもG7級の国軍とまともに戦えるでしょうか?

 現代日本では、暴力団と過激派が、ごく弱い武力を持っているだけ……宗教団体は警察や軍の一部を寝返らせることができるかもしれませんが、それも奇妙に成功例が少ないのです。中国史では何度も帝国を破壊はしていますが、新帝国を支配することはできていない……

 土地=軍事力。それだけが、取り上げることが難しい、本物の力なのです……絵に描いた銃と、実際の銃の違いのように。

 

 ついでに。見えにくいですが、領主は貨幣的な意味での信用を維持することで経済を支えてもいますし、交易はじめあらゆる商工業の許可を出す存在でもありますし、宗教的な中心でもありますし、文化的な中心でもあります。

 

 

 皇帝から見れば、誰かに領土を与えれば、自分の支配下にない軍隊ができるということ。潜在的な敵です……兄弟でも妻の父でも、忠実な将軍でも、宦官の甥でも。

 それだけでなく、徴税・徴兵の権利がなければ、与えた領土は自分の財産・軍事力にならないのです。皇帝や幕府が、比較的小さな直轄地の税金と兵士でやっていかなければならないように。

 国そのものが、軍事的・財政的にとても弱くなってしまうのです。フランス革命までのフランスやスペインがたびたび破産したように。

 

 さてどうするか。

 周の封建が春秋戦国となり、それを反面教師に秦の始皇帝は郡県制をとりました。

 徹底した中央集権。皇帝が任命した長が地方に出かけ、支配する。

 ただそれは圧政となって崩壊し、漢の劉邦は……郡国制にはしましたが、多くは郡県制に近いものでした。ついでに家族や功臣に分け与えた諸国は、功臣は粛清され、家族も後に反乱を起こして弱体化しました。

 家族が信頼できる、だから家族に国を分ける……それをやって見事八王の乱で滅んだのが、三国志の司馬の子孫である晋です。

 そして唐は安史の乱……

 中国では歴史的に、封建制か官を派遣する郡県制か、どちらがいいか議論しているそうです。

 

 任期が短い官僚の派遣は、派遣された官僚が反乱するリスクは小さいかもしれません。しかし任期が短く、土地の人々との代々の結びつきもなければ、全員飢え死にするまで絞って賄賂にしてもっと上の職を得たり荘園を買ったりする、が派遣された統治者にとっての最適解になるのです。そうなったら国全体が崩壊します。

 派遣された官僚は地域の地形も知らないし土地の人との絆もないので、戦争になると弱いか、土地豪族の言いなりかです。

 ついでに兵を徴用して遠距離に派遣すれば食費旅費を誰かが負担しなければならず、自分の故郷を守るわけでもないので士気も低くなります。

 さらにホーンブロワー艦長と同じく偉さの根拠は紙一枚。

 地方にいる間に中央で讒言されたら?

 逆に、讒言されないように中央で暮らしている間に、任地の代理人からの税がなくなったら?見ていないところで反乱が起きて責任を取らされたら?

 

 日本の朝廷も唐を真似て国司という制度を取りました。宮廷の中で下級貴族に、**国(今の**県)を治めよと命じ送り出すのです。

『源氏物語』の作者、紫式部がその階層出身であったことが知られています。

 当然治める地についての知識もなく、当地の豪族や村長たちと先祖代々知り合い、というわけでもなく、先祖代々養った軍を率いていくわけでもありません。

 地方と中央を往復するのは狭い日本でも時間がかかります。それこそ東海道中膝栗毛、東海道53次=片道53日。いろいろ発達した江戸時代で。

 今の国会議員ですら、国会に会期があり長い休みがあるのは、出身地方に帰って地方の有権者と会い話を聞いて、その声を国政に届けるため、という建前です。今の休み期間の長さは新幹線や飛行機以前だという批判もありますが。

 

 また律令制では国家が直接国民一人一人に、一定面積の土地を与え税を取る……ある意味ベーシックインカムともいうべき公平なシステムがありました。

 そして日中どちらも結局は、豪族・寺・大地主の荘園のほうが広くなることになります。

 戦後、日本でもフィリピンでも問題になる農地改革問題にもかかわります。統治が安定し生産性が高いのは家族水準の小規模自作農。しかし、特に低い技術経済水準・困った人を助けるという発想が為政者にない/経済的自由思想が強い状態では、確率的な不運で小規模自作農は大地主、不在地主に借金をして小作人となってしまう……持続可能ではない。大地主の、身分制社会になる歴史的圧力が非常に強いのです。

 明治政府も、巨大な不在地主と小作人の身分構造がどんどん進んでいきました。日中・太平洋戦争がなくても、それが国を引き裂き滅ぼした可能性は十分にあります。

 ちなみに小規模自作農は、均等相続の場合も土地が小さくなって生存不能になるというアホな問題も抱えています。といっても単独相続では、都市に窮民があふれるならまだまし、開拓に成功してしまったら……次男三男に、斧と鍬を貸すからあっちの森を切り開けかわりにお前の次男を兵として出せ、で無事豪族の誕生です。

 

 

 ついでに。国司から荘園になり、また守護大名となって、日本史で何度もあること……中央で暮らす大貴族・大領主・大寺が、気がついたら領土の管理人からの税が来ない。領土の管理人だった者が大名になっている。下克上。実質独立国。

 日本では参勤交代が、意外にもそれを解決したようです。それも治安と道路整備、外敵排除があってのことでしょう。容赦ない改易が圧政を抑止したこともあるでしょう。

 

 それは世界中で普遍的でしょう……逆にスペイン帝国や大英帝国が不思議なほどです。

 

 

 民族の違いもある程度以上ある大きい帝国では、地方にとってそれが収奪なのか、それとも両方得をするのか、という問題もあります。これは特に現在は、イデオロギーや歴史解釈の問題にもなりとても厄介です。

 支配する者が、違う民族・宗教・人種である場合には征服された地方との差異がとても目立ってしまいます。

 それが極端なのはスペイン帝国です。徹底した奴隷化、それどころか伝染病の関係でただ生かすことすらできず、多くの地域が全滅し黒人奴隷を入れることにもなりました。

 モンゴル帝国は残虐な征服とは裏腹に、広い範囲で治安を維持し交通を助けて、広い範囲を繁栄させたと言います。しかし結局は滅びましたが。

 

 

 歴史の少し先もつけ加えましょうか。ヨーロッパが封建社会から絶対王政を経て国民国家となった……ヨーロッパだけは、印刷を嫌わず、大砲と外洋航海技術を改良し続けた。

 大砲。とんでもない金がかかるけれど、運用すれば城を破壊する。

 城、城というほどでもない砦でも、十分に小領主・中規模の村が自衛することはできました。民に食料も家畜も持って集まらせ、守る。囲む敵兵はすぐに飢える……大量の食糧を継続的に運ぶことはできず、村の食糧は砦にあるから。

 あとは飢えて諦めるか、近くの味方が助けに来たら挟み撃ちか。

 大砲はそれを不可能にしました。王が圧倒的な力を得ました。

 それで王が力を強めた、そのときに地方領主だった騎士貴族たちはベルサイユ宮殿のような王城近くに集まり、官僚になりました。

 さらに、優れた船、水力を使うための運河、腕木通信、さらには蒸気機関車と電信……情報と交通のイノベーションは、中央集権的な徴税と防衛も可能にしました。さらにそれが徴兵制と近代軍に結びき、優れた銃・砲・船と一体化した時、王政であるか共和制であるかを問わず、恐ろしい戦闘生産装置が誕生したのです。

 イスラムも、中国も、インドも、日本も自力ではできなかった、近代・産業革命。

 

 

 徴税にも、防衛にも、距離が遠くなると不利が多くなる。でも広い領土を持つ大国はうまく機能すれば圧倒的な軍事力がある。

 統治によっては、帝国が広くても軍事力につながらないこともある……新大陸を征服したスペイン帝国のように。

 どう統治するか。世襲領主に任せるか、官僚を短期間派遣するか。

 

 食わせられなくなり、守れなくなり=反乱を潰せなくなれば、帝国は滅び「た」のです。皇帝家が続いていても、首都が繁栄し続けているように見えても、旅が、交易が危険でできなくなれば。

 逆に地方軍が忠誠を失っていなければ、ガミラスのように、またナポレオンに攻められたロシアのように首都を失陥しても帝国はまだ生きているのです。

 

**

 

『銀河英雄伝説』では、大貴族もほとんど首都オーディンにいます。不在地主に近いものがあるのでしょうか。その場合には管理人が下克上をするリスクが常にありますが……

 半面クロップシュトックのように宮廷で疎んじられていれば、あまりオーディンにいません。

 ゴールデンバウム帝国は、巨大な星間国家を細分化して、いくつもの星間国家の集まりに再編したともいえるでしょう。反乱があまり起きなかったのは、皇帝直轄領・皇帝軍が圧倒的に強かったからでしょうか?社会秩序維持局などが、各貴族領に入ることができ、大貴族も遠慮なく潰せたどうかも重要でしょう。

 といっても原作では、巨大門閥に帝国が潰される直前でした。

 

 過去の話ですが、シリウス戦役は地球が、植民地を支配したヨーロッパ帝国のように多くの星に圧政を敷いたことが原因となっています。

 

 貴族の大半を粛清し、フェザーンに遷都し、同盟も征服したラインハルトですが、新領土総督は反乱になっただけでした。まさに距離の暴虐、防壁。ヒルダがそれをどう解決するのか、それほどは描写がありません。

 特に前に考察したように、ブラウンシュヴァイク・リッテンハイム領がそれぞれ、自由惑星同盟地域ほどではなくてもそれに近い地形面での独立性があるとしたら、どう扱うかが重大になるでしょう。ブラウンシュヴァイク旧領総督を反乱させないためにはどうすれば……

 

 

 他に土地制度がしっかり描かれている作品は……

 意外とそのあたりはあいまいなものです。

 かなり普遍的なのは、惑星・星系という単位の独立性がとても高いということです。島や大陸の比喩が可能なほどに。

 

 常に普遍的……どうやって反抗反乱を止めるか。

 徴税、交易は。税を運ぶにはどうするか。

 ある地方が攻撃されたとき、助けてという連絡を受け、軍を準備し派遣するのにどの程度の時間がかかるか。地方そのものにどの程度の軍事力を置くか。

 何が国を……紐で新聞紙を縛るようにまとめているのか。

 通信、移動の技術がその制約となります。船が最速であれば、海底ケーブル以前の大英帝国のオマージュになりがちです。

 

 もうひとつ、本当に重要なこと。

 領土が人口・富・軍事力につながるのは、農業以上に安価な食料生産方法が、核融合炉や波動エンジンにつないで、冥王星のような星の表面にいくらでもあるH2O氷・ドライアイスかメタン・アンモニアを注げばいくらでも食料が出てくる機械がない場合に限られます。

 それがあればすべての前提は消し飛びます。

 農業スペースコロニーや、冥王星のような星を掘って核融合で照らす水耕農場を作るだけでも。

 どの作品も、あえてそれらを無視しているのです。

 

 

『エンダー』シリーズでは、スターウェイズ議会はアンシブル、即時通信網を支配することで多くの星を支配しています。議会が一方的に通信網を切断でき、切断されるとすべての文化から切り離されます。さらに上下水道も電気も、制御するのはアンシブル網の向こう……生活水準も崩壊するのです。

 最大の抑止、惑星ごと吹っ飛ばす分子破壊砲が使われようとしたのは例外的です。

 

『共和国の戦士(スティーヴン・L・ケント)』は、プラトンの『国家』を下敷きに、従い戦うためのクローンを使うことで軍隊を管理していました。

『スターウォーズ』でも、軍の中核となったクローン将兵に特殊な命令を入れておくことでパルパティーンはジェダイを排除し、銀河を掌握しました。

 

『叛逆航路シリーズ』では、代理人/現地で実際に権力を使う人/現地にいる総督/守護代/大地主が力を持ってしまう問題を独特のやり方で解決していました。……過去形ですが。

 皇帝アナーンダ・ミアナーイは、帝国内にすごい人数がいます。どの星にも数人。首都にはどれだけいるやら。みんな同一のクローンです。年齢は活動できる限界の子供から老人までまちまち。全員脳にコンピュータが突っこまれていて、独自の人格などありません。二人のアナーンダが会えば同期されるので、帝国全体のたくさんのアナーンダは、できる限り同じ考え・記憶を持ってい……ました。

 また艦やステーションのAIが圧倒的な力を持ち、そのAIをアナーンダ・ミアナーイが完全支配できる、貴族である士官はそれに対抗できない、という軍管理もあります。

 

『星間帝国の皇女―ラスト・エンペロー(ジョン・スコルジー)』では、交易を制御する大貴族たちが、どの星も必要な資源・部品全部を作れないようにし、船の出入りを制することですべてを支配し富を吸い上げています。

 ただそれは交通が分断されたら、どの星も単独では生きられないことを意味しています。……銀河全体の、超光速航行に関わる性質の変化は、銀河を滅ぼそうとしているのです。

『ギャラクシーエンジェル』でも、超光速航行が不可能になっただけで多数の時空・多数の星々でできた文明がほぼ死滅しました。

 

 

 情報。軍の人。現地権力者。交易。何を管理するか、何が帝国の根幹なのか……実に興味深いところです。

 現実の大英帝国は、スペイン帝国は、古代ローマ帝国は、モンゴル帝国は、唐帝国は何を握ったのか……

 

 

 圧政に対する反抗と言えば『月は無慈悲な夜の女王(ロバート・A・ハインライン)』。『月面の聖戦(ジャック・キャンベル)』も同様です。

『航空宇宙軍史』では、中央が予言に束縛され、「公開されない長期視野」での軍事至上主義をとっており、そのため極端な圧政で常に反乱が起きます。

 

『スターウォーズ』は映画だけではあまりわかりません。

 クローン戦争が起きたように、地方と中央の対立関係があります。パルパティーン帝国は中央の軍事力を圧倒的に強めましたが、それでも完全に統治するのは困難です。タトゥイーンはジャバ・ザ・ハット、ベスピンのクラウドシティはランド・カルリジアンが独立性の高い統治をしていました……短任期官僚ではないようです。が、ダース・ベイダーはクラウドシティの自治権を奪いました。帝国が地方に官僚を派遣する方向性はあるようです。

 

『レンズマン』は種族も多いので、犯罪者がほかの星に逃げると追跡できない、という問題のためにレンズが、銀河パトロール隊が生じています。それは現実のアメリカの歴史でのFBIと同じ……法も違う州境を越えたら自由の身、を解決するためにできた全国警察と。

 

『星界シリーズ』ではアーヴが領主として支配し、ただし地上には干渉せず交易を独占します。宇宙航行能力さえ奪えば、地上がどうなろうと関係がないというものです。

 

『彷徨える艦隊 外伝』ではシンディックの権力構造の複雑さが描かれました。

 艦隊・地上軍・秘密警察それぞれのトップがあり、さらに司令官が簡単に粛清されます。

 敗北した新政府は司令官層をすべて中央に呼び返して粛清し、無事な艦すべてを中央に集めて圧政を続けようとしています。また各地の権力者は独立し、特に造船所をフル稼働させて近隣を征服しようとします。

 スターリン時代のソ連をもっとひどくしたような恐怖支配と裏切り、強制収容所と星ごと皆殺しの恐怖に支配された国。人を信頼するということが徹底的に自殺でしかない……だからこそひとつの信頼、裏切らないことが圧倒的な力となる。

 

『銀河帝国衰亡史』はまさに帝国の崩壊。ファウンデーションが近くの総督に脅され、帝国の使者の言葉を分析すれば沈黙と等しかった……地方総督が独立し近隣を併合し、互いに戦う……帝国軍はそれを止める力がなくなる。

 

『銀河の荒鷲シーフォート』は徹頭徹尾、帆船時代の大英帝国のメタファーです。船が最速の情報伝達手段であり、船に乗ってやってくる軍人が持つ紙一枚でどんな地位もひっくり返ります。

『紅の勇者 オナー・ハリントン』も、敵がフランス革命政権のオマージュで……

 

『クラッシャージョウ』では、各星が完全に独立国です。あまりにも独立性が高く、クーデターが起きても誰も助けることができません。それでも、中央を支配しようとした者もいた……ある程度のうまみがあったようですが。

『若き女船長カイの挑戦』も、多数の星系それぞれが独立国であり、複数の星系の連合軍すらありません。宇宙通商法があり、また「公」に近い存在としては営利目的の独占企業である星間通信局がアンシブル網を管理し、どの政府も別の星系政府が出した私掠免状を尊重します。ですがそれは十分な数の宙賊が優れたリーダーの元にまとまれば、すべての星系がばらばらにひとつひとつ撃破され、暗黒帝国と化すことを避けようがありません。『現実』と違い、海賊連合では征服しがたい大陸級の母国はないのです。

 他にも、『ロスト・ユニバース』など無法者が多く活動する作品も作劇の都合もありとても多いです。

 

 無法者が多いのは西部劇、開拓時代のアメリカ……それがなぜ多数の国が争う戦国ではなく大国になったか、というのも歴史的には面白い謎かもしれません。

 ほかにも戦前の中国馬賊やグレートゲーム、戦後ではアフリカ・東南アジアなどで無法者が活躍できた場はあります。

 

 

『老人と宇宙』は、植民惑星が常にほかの異星人に虐殺されるリスクがあり、また植民地人が地球から切り離されてコロニー連合軍で兵役を経験しているため、まとまらせる力がとても強いです。

 

『海軍士官クリス・ロングナイフ』は、独立性が高い諸星を三つの勢力が奪い合っています。

 特にピーターウォルドの侵略手法がある意味エレガントです……狙った星に大企業を持ち、商売をする。同時にその企業が政財界に広く触手を伸ばし、味方を増やす。政治的にも経済的にも混乱を起こさせ、同時に企業が養っている私兵集団がクーデターに加わり、政権をのっとる。さらに同時に艦隊も侵攻させる。

 失敗しても企業がしたこと、ピーターウォルド本星政府は知らない、とやれる……現実の戦後の紛争史にも似ています。

 

『さよなら銀河鉄道999』は、中央が「命の火」という機械化人の唯一の食料の生産を独占しています。材料である人の死体を、特権を持つ高速列車で運んでまで。すべての機械化人の生殺与奪を握っています。機械化人が気の毒というか愚かにもほどがあります。

 

『レッド・ライジング 火星の簒奪者(ピアース・ブラウン)』は厳しい身分制度と、それゆえに貴族の子弟を、本当に死ぬバトルロワイヤルで磨く社会が描かれています。

 

『マクロスシリーズ』はあえてまとめないという大胆な……全滅しないためです。

 

 最近多く出ているミリタリ系SFでは、「地方が異星人に攻撃された、中央軍が間に合わない(壊滅した)、少ない艦数・単艦、しかも士官候補生しか生き残っていない」という状況がしばしば見られます。

 中央軍が間に合わなかった時点で、国としては滅んでいるんですよね……

 

 また、現在の延長のいくつかの国が地球で生きていて、それぞれの国がいくつもの星を支配し、地球の外で争っている……というこれまた多数あるミリタリ系SFは、外敵の存在、ナショナリズムが星々をまとめていると言えるでしょう。

 

 

 どれも、食料や機械の生産を居住可能惑星、人類到達前から森で恐竜が歩き降りてすぐ宇宙服を脱いで流れる水を飲める星か、あるいは簡単にテラフォーミングできる星の表面に限る……農業用スペースコロニーすら作ろうとしない、水とドライアイスと太陽に近い軌道の太陽電池でブドウ糖を作ることもできないからこそです。

 小惑星を掘り、内部に農場と機械の部品そのものを作る工場を作ることをしないさせないことで、文明の自己増殖、細菌のような指数関数増殖を許さないからです。

 ストーリーを少しでも現実に近いものとするには、そうしなければならないのでしょうか……そしてどれほど簡単な技術でその制約は破れるか、彼らは知らないために悲惨な戦争が起きている……

 

 さらにその技術ができてからも、「どう支配し独立反乱を防ぐか」「どうすれば滅亡を防げるか、互いの存在も知らないほど分散すべきか、それとも一体で戦力を集中すべきか」という問題が消えることはありません。


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