投資し、回収する。利子率。
税率。
ことの本質は、利子率と投資収益……一億円借りその一年後の利子が何%か、その一億円で始めた仕事が一年後に一億円+何%の利益を出すか。
それだけです。利子より多くの利益が得られるならやるほうが得、利子が上回るならやったら損。
利子が3%で金が104%だったら1%儲け。利子が20%で金が115%だったら5%損。利子が1%でも金が94%なら5%損。
「一年」とは限りません。昔の、極度に不安定な時代では一年も待ってもらえません……カラスがカアと鳴いたら一割、一日一割のカラス金というものすらありました。十一(といち)、十日で一割という言葉も。今は四半期しか考えない経済ともいわれます。多くのチェーン店の正社員は、前年比という言葉が世界のすべて。
また、20年かかる事業もあり得るし、利益が出るまで何百年もかかる事業もあり得ます。ソ連には五カ年計画という言葉がありました……五年を基準としたわけです。それは大恐慌時代には巨大な優位となり独ソ戦の勝利ももたらしました。マイナス面に目をつぶって結果だけ見れば。
当たれば巨大、でも1000に999は失敗するタイプの事業もあります。今のベンチャー投資がそうだと言われていますし、大航海時代の船も高い確率で沈みました。
逆に言えば、事業に投資して、何年かしたら増えていることが多い。それが、利子というものを生み出します。
期待値。ギャンブルが愚行である根拠、パチンコでも競馬でも一日遊べば損も得もあるが、それを千度繰り返せば確実に預金は減っている。その分がパチンコ屋の電気代、馬の餌代になっている。逆に利子がある、経済が発達しているときの投資は、広く分散したら長い目で見ると儲かる。……世界全株投資でも損になるんだったら人類自体が投資不適格。その状態なら、実際には利子率が低すぎる。
……まあ利子が禁止されていても、凶作に備えて麦や米を集め、一隻に全賭けして胸の肉を取られそうになった後は何隻もの船に分散投資することもあったでしょう。それは保険の源であり、税の源ですらあるでしょう。
ついでに注意すべきこと……古代中世は、全体の経済成長としてはものすごく停滞しています。利子率は経済成長率と今の経済ではほぼ同じですが、それは今は世界全体が一つの経済で、自由競争があるからです。無数の、関係がない小社会に分かれ、貸し手も貨幣も希少だった昔は、世界全体の経済成長率はものすごく低く、同時に金を借りようとしたらめちゃくちゃ高い利子を取られるのが当然でした。
世界全体で利子があるということは、世界経済・生産全部が拡大している、ということでもあります。
税も、貸す側にも借りる側にも負担になります。利子率にプラスされる、でしょうか。
貸す側は利子を奪われ、借りる側にとっては利子が多いことになります。
さらに政府の時代水準によっては、賄賂・徳政令・矢銭など、実質的には巨大税が不安定……いくら取られるかわからないから安心して投資できないわけです。
インフレという実質的な税金もあります。材料費や人件費が高くなれば利益も減ります……売り上げも増えるかもしれませんが。
ほぼ同じこと、低い枝になった木の実だけを取って次の木に行くか、それとも梯子を作って高い枝の実もとるか。
手を伸ばすだけの投資、梯子を作って登る投資。実際には低い枝なら、隣の木まで歩く投資も加わる。
インカ帝国の黄金、リョコウバトやオオミズナギドリの絶滅は、まさに低い枝になった木の実。おそらくは、イースター島の住民を奴隷としたことも。
低い枝になった木の実を取る。少ない投資、短い時間で、大きい利益が得られる。だから利子が高くても儲かる、利子が高い世界でも仕事を続けられる、というわけです。
ただし、低い枝は世界的に見て多くはありません。だから奪い合いになるでしょう。といっても高い枝に登れる梯子は、暴力が横行する世界では誰かが奪って薪や槍柄にするでしょう。種籾を奪って食うモヒカンのように。
交易ではなく侵略、というのも低い枝になった木の実を取る行動です。相手が改革を成功させるのを待ち、人道や国際法を守った交易の価値を理解するようになるのを待つ……それよりぶちのめし滅ぼして玉座を覆う黄金をひっぺがして溶かして持って帰る方が、短期間で利益になるでしょう。感情も満足させますし。
スペインは、低い枝になった木の実を食べて衰退しました。低い枝の実には、遅効性の毒があるようです……いや、普通だっただけ、イギリスが奇跡だっただけ、かも。
また、低い枝の実を取ることの多くは、原住民の奴隷化など残虐行為を伴います。……まあ『現実』では開拓も虐殺の結果ということが多いですが……
単に普通の工場や居酒屋でも、賃金を下げ労働時間を長くし……と労働環境を悪くすれば、それだけで利益は増えます。利子率が高くても商売になります。
また歴史上多くの、特に植民地や遊郭や鉱山などでありましたが、利子が高いと、働いても利子が増える方が早いため実質奴隷、という状態になります。
基本的には、ストーリー上の都合もある「悪の帝国」も低い枝の実を取っていると思われることが多いです。それを深く掘り下げると矛盾が出そうです。
長時間教育して高度な機械を使わせるのは時間がかかり、その間利子を払うことを待ってもらえなければ商売は潰れます。
人を残酷に扱うほど、高い利子率・短い利子回収期間でも事業が続けられるわけです。
そして、そんな連中が横行している世界では、利益率が低く投資回収に時間がかかる、人道的だったり持続可能だったりする経営は競争に負けて消えるでしょう。
大切にしていても死亡率がすごく高いなら、搾取した方が儲かることもあるかも……ただ、ほとんどの人が半病人、普通の現代の先進国人の半分の力もない、それを鞭で働かせるのは本当に儲かるのでしょうか?
農業での、集団農業と自営農業の差もあります。
またアメリカで奴隷が解放された後、給料を払うことにしたらすごい生産性向上があったとも……というか奴隷は農閑期も食わせなければならないし、働きが悪いと殴り殺したらまた大金払って買わなければならないけれど、賃金労働者なら農閑期・不況・天候不順・無能で遠慮なくクビにし必要になったらまた雇うことができた、と。ついでに奴隷がいなければ機械化をして、一時は苦労したけど長い目で見ると大儲けだった、と。
人も土地も資源も使い捨て、極端に少ない投資から短期間で利益を得る、それ以外が競争で負ける経済があると、機械や大規模灌漑に投資されなくなり文明全体が爆発的に成長できなくなるでしょう。
奴隷か、機械か。このせめぎあいがどこにでもあります。
利子率そのものより、利子回収の借金取りが来るまでの期間の長さ。それが短ければ奴隷が有利になり、長ければ機械で高い利益を出せます。
『現実』の現代も、多くの国を貧しくして本当に偉い人たちは儲かったのでしょうか?1990年ぐらいからアジア各国、さらに最近はアフリカでも高度成長している国はあるけれど、そのほうが世界一の金持ちたちが儲かるということは?
そうなるとこの問い。アメリカの特権階級たちは、カナダがメキシコのように貧しくなるのと、メキシコがカナダのように豊かになるのと、どちらがうれしいでしょう?
後者のほうがアメリカの特権階級は儲かる、と確信できますが、人には心があります。それに豊かになったメキシコが最新兵器を作りまくったらアメリカは怖いかも。
さらに別の問いが浮かびます。多くの人、特に金と権力を持つ人は、「先進国の中の上」と「中世暗黒時代の貴族」どちらになりたいのでしょう。
先進国の中の上でも、自動車とエアコン・水洗便所があり、スーパーで何千種ものスパイスを買えます、数分の労賃で。飛行機で海外旅行をすることすらできます。ただしあらゆる人と法の下の平等にあり、またたいていは上司や銀行、税務署に頭を下げて暮らしています。部下たちに対しても法や常識通りの扱いしかできません、たいていは。
中世の貴族はスパイスもエアコンも冷蔵庫もなく、大半は10キロ遠くにも生涯行くことがなく、10人産んで2人生きればいいほう、石鹸すら年に一個使えるかどうか。ただし何百人かの領民の生殺与奪を握り、絶対服従と崇拝を得、ろくな理由もなく人を拷問処刑してもとがめられず、初夜権さえあります。
さて、どちらが望ましいのでしょう?貴族を選んでコカインがないことに絶望したら笑ってやりますが……
『ガンダム』の宇宙世紀、また『真紅の戦場』『宇宙兵志願』、『銀河英雄伝説』のゴールデンバウム朝などは、後者を選んでしまったのではないでしょうか。
豊かさよりも、身分制度を維持することを選んでしまったのでは。
『星系出雲の兵站』では、地方星の利権を守るため、身分・格差社会の維持のために、異星人との戦争のため工場を効率化しろと求める中央に反抗する人々が描かれました。
いや、『自由の命運』に、中南米やアフリカの多くの権力者は経済成長ではなく身分貧困国を自覚的に選んでいると……
また、筆者が『現実』を見て恐ろしいのは、ニーアル・ファーガソンやタイラー・コーエンが、もう低い枝になった木の実は尽きたと宣言したこと……
それは科学技術についての全知を主張してもいます。日本の岩波系・良心的知識人も同様です。
その全知を信じない、という以外にできることがないんですよね、本当に科学技術が今が限度なら人類は破局しかありませんから。温暖化が嘘でも放射能が無害でも、銅や燐が尽きた時点で。
そして、社会・世界全体の利子率……それは、全体の経済成長率、GDP成長率ともかかわります。
世界が経済成長しているか否かでもあるのです。
株式投資、銀行預金……資本が、競馬場のように長い目で見ると損をするものになるか、それとも十分な額を世界全株に薄く投資すればほぼ確実に得になるか。
ノーベル賞の、ノーベルの遺言。遺産を賢明に投資してその利子を賞金に。ノーベルの遺産がどれほどの大金でも、なぜ百年以上続いているか考えてください。答えは利子です。
利子率がゼロあるいはマイナス、世界経済自体がマイナスなら、ノーベル賞はあり得ません。
年金も……年金は本来、毎月一定の金をローンと同じように出して、それをいい株や優良国の国債に投資して、その利子を老後に毎年受け取るものです。それは今や崩壊し、事実上国が税金で出すものになってしまいました。
おそらく諸保険も、保険料収入より本当は投資収益が重要だったでしょう。
そしてまず間違いなく財政も、経済成長がなければ……事実上、ネズミ講の一種と言っても差し支えありません。……近代経済、近代文明、近代国家はそれ自体がネズミ講だった、というそれこそMMR、どの人類滅亡ネタより絶叫ものです。
だから筆者にとって今の『現実』は怖いし、納得できない謎もあるのです。
超低金利が続くことを重大な危機と警告する経済論者もいます。実際に長いこと利子率、経済成長が低く、長期停滞も言われています。
筆者が納得できない、恐怖を感じること……長期停滞論争にもあったこと。利子率が低い、低利子で金を借りられるなら大事業をするチャンス。なのに誰もやっていない。アベノミクスで資金がじゃぶじゃぶと言われても。
人類は、マレー半島横断運河すら掘る気配がない。じゃぶじゃぶの資金と言われても。バブルとその崩壊が繰り返されるだけで。
それはもう、テラフォーミングの途中の星が放棄された連邦末期や、同盟末期のウルヴァシーさえ思い出してしまいます。
……ヤンの年金の低さも、利子率が下がっている、経済成長していない、年金基金が投資している株の配当が悪いからかもしれません。
投資収益率と利子率。それに税などを加えた損益分岐。多くの作品について、それを考えることは可能でしょうか。
ガンダムの宇宙世紀、スーパーロボット大戦OGの世界は、その気になればどれほどの経済成長・人口増が可能でしょうか。
無限のコロニー。無限の食糧。無限の工業。無限の艦隊。無限の人口。
ヤマトも可能です。
『銀河英雄伝説』も。『航空宇宙軍史』も。『彷徨える艦隊』も。『真紅の戦場』も。
『スターウォーズ』も。『老人と宇宙』の、コロニー連合のみならずどの種族も。
小惑星を掘り、スペースコロニーをつくり、それで食料を増産し、その食料で増やした人口を宇宙鉱業と工業につぎこむ。
マクロスも。プロトカルチャーが作った、住める巨大船を多数つくる全自動工場、それ自体を分解し分析し複製すれば。
利子の一部を元本に加えて再投資する、複利と同じく。
それだけでいいのに。
どの作品もその方向を選びません。いや、『現実』でも多くの国はそんな方向に行けません。
『タイム・シップ』のモーロックだけでしょうか。『スタートレック』もそれに近いでしょう。
その理由に、投資収益率と利子率の問題はあるのでしょうか。
あるいは別の理由でしょうか。
ゆっくりした指数関数増殖を選べない理由が。
指数関数につながるキー技術は自己増殖性自動工場。『時空大戦』は前述のようにそれがありましたが、指数関数の序盤のなだらかな時に攻撃され活かせませんでした。
……指数関数の性質。長い目で見るとめちゃくちゃな増え方をする。ただし、かなり長いこと増え方はなだらか。
短い期間しか待てない、短い期間で高い利子を求める経済・社会は、指数関数を容認できない。
それがすべての本質……
農民の赤子を餓死させ、開拓用斧を買うことを諦めさせても税を取れるだけ取る、にもつながるでしょうか。赤子が育ち斧を買い隣の森を開拓して畑にすれば、二十年後税が倍になるかもしれない、でもそんなことはさせない。
複利、収益の一部、余剰を元本に追加することを許さない。その分も、利子として、税として取る。
人間が強欲すぎ、人を服従させる、税を略奪するのが容易すぎ、それが快楽にもなり、考えが短期的すぎること……
またおそらくボトルネックがあり、それによって「その世界の従来通りの投資収益率」>「その世界の利子率」>「指数関数増殖の投資収益率」になるのでしょう。
共通する本質は、原子番号転換技術の有無、また低品位鉱山を利用する技術の低さでしょうか。
あと食糧生産技術、閉鎖生態系維持技術、自己増殖性機械の有無・安価高価・規模……ほかに何が考えられるでしょう。……それこそ利子率や税金がすごく高い?いや、大きい資金を集めることが難しい、最初の利子を払うまで待ってもらえる時間が短い?
今の筆者の知識で、地球の近くに二種類大規模な水耕農場を作ることができます。
ひとつは水星。太陽に近い岩石惑星。強烈な太陽の光を鏡で集めて無限にエネルギーを得る。それで質の低い石英ガラスを多量に得、水とアンモニアは小惑星や木星衛星からでも運んで水耕農場を作り、強い日光に当てて大量の農産物を得る。
もうひとつは小惑星帯から木星衛星~冥王星。地球の海より多い水と炭化水素、すぐ近くで無尽蔵のケイ酸塩とニッケル鉄。核融合炉、または可能なら太陽のすぐ近くを周回する鏡からの日光でエネルギーを得る。
どちらも、「水が豊富で緑が多い」地球型惑星の優位を変えるほどではない、水が豊富な地球型惑星を開発するのに競争で勝てない、それに投資する収益より利子率の方が高い、ということです。
また考えられる、指数関数増殖……移動要塞が資源小惑星を食う。内部で水耕農場の小麦を食った女が子を産み、育て、教育して技師にする。内部の工場で、自分の部品すべてを、部品を作る工場の一番もとになる部品……『現実』では定盤、とてつもなく平坦な金属板など……から作る。
それで、人間と機械をすべて倍にできれば、あとは指数関数。
どれほど時間がかかるにしても、あっというまに銀河の資源を食い尽くし、とてつもない人口になる……
それができなかった理由は、投資収益率と利子率のはず。……政治による厳禁も考えられますが。
もう一つ、「地球型惑星以外には価値のある鉱山がない」という、多くの宇宙SFの語られない前提も考えられます。
戦争の圧力もあるでしょう。大砲とバター。バターどころか大砲工場と大砲を比べる末期戦、だから勝利できず、とことん金が要求される。
その金は高い税金になり、結果的には利子率+税金が実質的な利子率となり、多くの事業を不採算とする。結果的には長い目で見れば生産力が爆発しない、むしろ低下する。
戦争は自由も奪う。勝利・防諜のために言論・思想統制が激しくなり、それは科学にも及ぶ。内戦も暴力を伴う権力闘争につながり、科学統制はより残忍になる。
『真紅の戦場』ではオートメーション化より、超低賃金労働のほうが安い。それだと技術に投資しません。
これは『現実』でも極めて重大な問題です、実際牛丼やラーメン、ハンバーガーが無人化されていないことも。歴史的にも、古代ローマ・中国・日本が産業革命に至らなかった理由としても。
さらに人間の使い捨てが可能になってしまえば、ある意味労働力の資源の呪いさえ発生します。それは確かに投資収益率は高いですが、指数関数増殖からは遠ざかっていきます。
奴隷制のある『銀河英雄伝説』の帝国なども、同じ気づかれない呪いはあるでしょう。
そう考えると、人道的な方向に向かった『叛逆航路』はもう少し時間はかかりますが大きい経済発展につながる可能性もあるのです。
『真紅の戦場』がどの国も、超絶に不自由で残忍な統治、ゆえに超低賃金労働……それはひどい核戦争で、生きることさえ難しくそのため自由や参政権などみんな捨てたから。
だとすればそれは、『銀河英雄伝説』『タイラー』など多くの核戦争やそれに近い破局を過去に持ち、自由民主主義ではない作品に共通してしまうでしょう。
『銀河英雄伝説』の、ゴールデンバウム以前の連邦の時代は?
低い枝になった木の実、容易にテラフォーミングできる星。
自由惑星同盟初期も同じく、低い枝になった木の実が豊富だからこそ。
それが止まった……連邦は苦しみのあまりルドルフにすがり、同盟も爆発的な成長で帝国を圧殺するには至らなかった。なぜでしょう?
明らかにダゴン、帝国と接触し帝国軍を撃退するまでは、16万人から数万隻までの指数関数増殖があったでしょう。しかし、それは百億人前後で止まってしまったのです。
前も考察しましたが、ダイリチウムやイスカンダリウムのような特殊資源ではないはずです。そうだとしたら、同盟発見後の帝国は密輸で爆発的に成長していたはずですから。
根本的には、テラフォーミングさえ中止された、ということがあります。それは自由惑星同盟にもゴールデンバウム帝国にもあります……同盟ではウルヴァシーやエル・ファシル、帝国ではヴェスターラントが、居住可能でありながら繁栄していません。ウルヴァシーなどはテラフォーミングが完了しているのに利用されていないというひどさ。
なぜ。
テラフォーミングはおそらく時間がかかるでしょう。初期投資も大きいでしょう。利益が出るのは遅いでしょう。その点は自己増殖性機械と同様の、指数関数経済の弱点があるはずです。
テラフォーミングと、ガイエスブルクのような移動要塞が自己増殖するのはどちらが優位か。兵器機能を省けばもっと安く作れるでしょう。
普通に考えれば、適当な規模の、近傍で水氷・炭化水素・アンモニア・ケイ酸塩岩石・ニッケル鉄が実質無尽蔵に得られる小惑星群は、同盟領域だけで何百億、いやもっともっと膨大でしょう。
そこで、人間が生活し戦艦建造に至る、それが機能していれば兆どころか京、それ以上の単位の戦艦……帝国など一蹴できます。
逆になぜ自由惑星同盟は、指数関数的自己増殖という兵器を用いなかったのか……それを問題とすべきです。
ウルヴァシーのテラフォーミングを完成させ、巨大な艦船工場とベッドタウン・技師学校・産婦人科小児科病院を作る。
エル・ファシルに十分な防衛艦隊基地をつけて開拓する。
どれも投資収益率が、許容範囲より……利子率より低かったようです。
外伝のエコニアの話で、水が豊富で緑が多い惑星には大人口がある、とありました。
逆に言えば、水耕農場・生命維持機構、いや水を運ぶことが高価であることがボトルネックと思われます。
エコニアやヴェスターラント、いやフェザーンにさえ水を運ぶ計画が遅れています。水運びに投資する金がないのか、もっと儲かる投資先があるのか……それとも収益になるまで待てないのか。待てないというのは、「会社の規則として五年以上待つことはしないと決まっている」のか、「十年待てば三倍になるとしても、それよりホロ映画株がずっと儲かる」のか。
フェザーンと地球教の影響……帝国に常に軍事力を出させることで、同盟に指数関数自己増殖を許す余裕を与えない、というのも考えられます。地球教にとっては、ヤンを暗殺したように民主共和制こそ絶対に許せないものですし。
また、テラフォーミングが最低限の費用でできるし超良質な鉱山も豊富な、すぐに戦艦工場・食品工場・ベッドタウンにできる超優良惑星も少なかったのでしょうか。
『宇宙戦艦ヤマト』の白色彗星帝国は、既存の文明を襲って次に行く文明システムを選びました。とことん、低い枝の実を食い尽くす。あれは、他の文明が多くある限り最も合理的な文明のあり方でしょう。
古代ローマ帝国も近隣の文明を滅ぼし、多くの奴隷と貴金属を得ました。のちにはエジプトという大穀倉も。でもそれが国家予算・経済で重要になりすぎ、市民をまともに働かせることができなくなりました。貴族と奴隷の農園、都市で配給に依存し剣闘士の戦いを楽しみ寄親に寄生する市民という構造ができてしまいました。
そして、メソポタミア=パルティアが滅ぼして奪うには遠くなりすぎ、補給も無理で戦利品も運べない距離になった時点で自壊に向かいました。
アレクサンダーになる……本土を捨てて征服行をする、は考えもしなかったようです。
『叛逆航路』のラドチ帝国も、拡大をやめた理由は古代ローマとは別ですが、拡大をやめたことによる社会の変動に苦しんでいました。
あらためていろいろな損益分岐を考えてみましょう。
〇開拓の損益。
低予算=全滅。
高予算=短期間で大きい収益を上げられなければ損益分岐点が高くなる。
ウルヴァシー。連邦末期のテラフォーミングが終わった惑星の放棄。ヴェスターラント。
どんな理由で、開拓が中止されたのでしょう。
利子率が上がったのか。
税が上がったのか。
むしろ過去の、分断された経済に戻ったのか……全人類の利子率は非常に低い、経済成長は低いけれど、金を借りようとすると利子が法外に高くなる状態か。
開拓に必要な物資が異様に高価になるか、入手不能になったか。たとえば現実なら、国が戦争をするので火薬がすごく高くなるとか船が徴発されるとか。
フランスが手を出したミシシッピなどで多くあった、開拓村の全滅。
全滅した開拓村を調べ、必要な費用を見直す。そうなるとやってられるか、損にしかならない、と開拓をやめてしまう。
たとえばそこには、三年に一度船をやるのが限度だ、となったらそれだと無理だ、になるかもしれない。半年に一度船をやれるだけの、たとえば海図とか経度測定法とか新しい帆の素材とか壊血病予防法とかできれば、開拓が得になるようになるかもしれない。
問題は、長期間かかる収益を許容できる経済か否か。
さらに。高予算からさらに長く利子・税の取り立てを我慢すれば、指数関数増殖すら可能。しかしそれを選ぶのは本当に難しい。
おそらく、史実にもあった、開拓者の借金。渡航の船賃、最初の農具、工具や釘、毛布、食料……それが借金で、その利子がひどいため指数関数増殖の余裕が出ない。いや、指数関数増殖に回すべき余剰作物が、全部利子として取られてしまう。……それ以上に取られれば、飢えて全滅するにも至る。
そうなれば、利子を取る側から見れば「採算が取れない、不良の地」となる。
開拓でなくても、根本的に「余剰作物」こそ農業革命、人類文明の本質……余剰作物は徹底的に全部取り立てるのが社会の通常状態。餓死するか餓死寸前か、が普通で、指数関数増殖、複利を許すことなどありえない。
まして宇宙になれば、生きるだけでも大変。『火星の人』では一人を二、三年生かすためにアメリカの宇宙予算ほぼ全部+……
生きるために外から金を流しこみ続ける。
逆に空気さえ税を取ることができる。いくらでも絞れる。
それで繁殖できるとなると……投資側の儲け、利子、そして支援する国家側の税……
『現実』の歴史特に大航海時代以降でも宇宙でも、開拓地は先住民や敵国や海賊に襲われるので、国の軍事力が必須であることが多いです。
さらに国が大きくなると、開墾したい人が開拓地に行くまでの距離が遠くなります。旅費は当然借金に加わり、債務奴隷リスクが高くなります。『銀河英雄伝説』の銀河連邦の衰退はそれがあったかも。新しく開拓できる星が遠くなりすぎ、採算割れになった。
三男が隣の山を開拓するなら、まいた種が実るまでの食物、不作時の食物も実家から届くが、新大陸の開拓地では凶作と同時に船が難破したら全員餓死となります……それも質的な違いになるでしょう。
さらに、故郷に残る開拓者の家族が少数派になれば、開拓に予算が出なくなることもありえます。
開拓の損益を判断するのは、金銭だけでなく政府ということもあり得ます。
そうなると、スペイン帝国が新大陸からの税として金銀しかなかったように、本国の価値観によって勝手に損益分岐点を決められてしまうかもしれません。
というかものすごく広い天然コカ森は、絶対立ち入り禁止か焼き尽くして砂漠に返す、でしょう。
開拓が進むには、人、道具、開拓する土地、許可、交通手段が必要。
どれかがなければ開拓は止まる。そうなると、残りが余る……栄養学と同じ「桶の論理」、ひとつでも足りなければ動かない。
道具や物資、人の種類も桶の論理がある。それで、足りないどれか以外があっても仕方なくなる?
いや、それ以前に。
開拓、それ自体が、どんな得になるというのでしょう。国から見て。投資家から見て。
『現実』では。
基本的には自給自足農村が増える。
釘、斧、鍬、本などの需要が増える。ほぼ確実に、牧師などが必要になる。商人も行く先ができる……穀物、麻糸、ベーコン、獲物の毛皮、運がよければ真珠などを買い、釘・塩・本・斧などを売る。
国の経済規模が少し増える。塩税など税収も少しある。
鉱山が見つかることもある、特にゴールドラッシュだと膨大な人が集まり町ができ、港を作ってもまだ儲かる。確か南海泡沫なども、鉱物資源が誇張されたと思います。
ほかにもゴムなど特殊な農業資源も手に入る。
国内の余剰人を捨てられる。オーストラリアは流刑が流入人口の多くだった。
ものすごく栄えれば、戦艦工場にもなって戦艦が増えるかもしれない。ただそうなると反乱するかもしれない、そのため軍を駐留させるコストがかかる。
経済規模が増える、それは国全体の貨幣……信用そのものが増え、それでも利子率が保たれる、経済成長にもなる。そうなると質のいい軽いインフレとなり、国の借金も相対的に減る。
領土を主張できる。開拓民がいたらとても説得力は高い。
要衝を確保できる。航路とか。灯を絶やさず灯台になってくれたら最高。開拓民も、敵国が襲ってきたら守備兵力として徴兵できるし、土地案内や軍売春もできるし、鍛冶屋も僧侶も役に立つし、食料や衣類も提供できる。
植民地の規模が大きくなり、軍港などもできれば、海軍司令官とか植民地総督とか、公務員のポストも増えるかもしれない。
逆に余計なところを開拓したら戦艦代も司令官給料もかかる。
あと、王様の威張るネタが増える。スペインの場合、王の称号がまたさらに長くなる。国の威信になる。
宇宙戦艦作品で、たとえばウルヴァシーのテラフォーミングをちゃんとやって入植もやっていたら、似たようなことはあったでしょうか。
逆にそれがなかったということは、どれも利益になるほどではなかったというわけです。
同盟~フェザーン重要航路にあるというのに。
余分な次男三男がいない……それは戦死者が多いからでしょうか。
豆やベーコンはたっぷりあるのでしょうか?ならなぜそれが人口増になっていないのか……
ただひたすら、人類の領域、国の領域を増やそう、という姿勢で無理に開拓をし、惑星を奪い合う作品も結構あります。『老人と宇宙』『真紅の戦場』など。
それらは戦争が目的であり、開拓はその手段でしかありません。
『真紅の戦場』はその開拓民が強くなりすぎ、本国政府は抑圧のすきを狙っています、がその経済・資源がなければ戦争に勝てないと痛し痒し。
『老人と宇宙』はとにかく攻め続けていないと、ひとつでも多くのバスケットに卵を分けていないと絶滅させられる、と不安で仕方がないと。
『現実』の歴史で印象的なのは南海泡沫、ミシシッピ事件。バブル、近代財政、紙幣や国債などあちこちに絡む歴史ですが、開拓の損益という点でも重大です。
フランスは多くの開拓地、今の大都市や大農場を採算が取れないと捨てたのです。
またアメリカ独立。なぜイギリスはアメリカの、もう開拓民というには歴史を重ね経済規模も大きくなった人たちを厳しく扱ったのか。皮肉にも、強く豊かでルールを守って交易をしてくれ、狡猾に同盟をしてくれる隣国はイギリスにも大いに得になりましたが。
開拓民、植民地の搾取と反抗といえば『ガンダム』宇宙世紀、銀英伝の地球政府、『月は無慈悲な夜の女王』『月面の聖戦』『航空宇宙軍史』『2312-太陽系動乱-』などもあります。
アメリカ独立というものがあるので、特にアメリカの多くの作家にとってあこがれる状況でしょう。ほかにも本当はボーア戦争、オーストラリア史などもあるのですが。
日本人は開拓を、まるで悪夢のように忘れていますが……満州、南洋が引き揚げ・シベリア抑留に至りましたから。しかし北海道開拓が日本を作ったことは否定しようがないでしょう。
〇農業の損益。
たとえば五公五民だったら、一人で耕せる田が、二人分作れなかったら餓えます。それが損益分岐点になるでしょう。
再生不能耕作・再生産不能奴隷労働で、やっと収益が出る、という地域や時代もあり得ます……その場合は破局に至るでしょう。
プランテーション農業は、事業という面が非常に強いです。働く人の生活も生命も知ったこっちゃないからですが。
今のアメリカの超大規模農業も、ビジネスの面が非常に強いようです。こちらは巨大機械で。
徴税がひどくなりすぎ、また戦乱で略奪がひどくても……実態はほぼ同じ……農民は諦めて耕すのをやめます。
また、別の仕事のほうが儲かればそちらに行くことも。中国はそれを恐れ、商工業を否定し農業を神聖視する伝統があります。それはほかの文明でもかなり普遍的です。
技術も問題になります。灌漑があれば、それまでは到底耕す価値がなかった土地が素晴らしい耕地になることもあるでしょう。
土をそこらの棒で掘る農業に、「鉄を作り、クワを鍛える」を入れることで生産量が爆発的に増えることもあったでしょう。ヨーロッパ史で、重量有輪犂が重い質の土を耕せるようになったことで、北ヨーロッパの広大な森林が農地となったことも知られています。
ほかにも毎年少しずつ加わっていく作物・家畜の品種改良。
爆発的な発展としてはコロンブス交換も……新大陸の新作物。またハーバー・ボッシュ法、それ以前のグアノやバッファローの骨から化学的に加工された肥料、農薬、今の遺伝子組み換え作物も大きい発明でしょう。
緑の革命は、批判もありますが膨大な人を餓死から救ったのも事実。そして社会構造をとことん変えました。膨大な肥料と農薬を注ぎ続けなければ、貨幣経済と、世界貿易とつながらなければ維持できない農業に。ただしそれは別の搾取になるとも。
技術によって上がった収穫を、どのように税や利子に対応させるか……地主、投資家、領主の側からも問題があります。
たとえば江戸時代には、米だけが年貢だったので雑穀やタニシなどは税になりませんでした。まして農村が木綿生産システムと化して干鰯を買うなんてどう処理したらいいのやら。
宇宙となれば、農業コロニーと、さらに食糧生産機械という問題が出てくるでしょう。多くの宇宙SFでは無視することを選んでいますが。
『銀河英雄伝説』では帝国ではルドルフ遺訓のオートメーション嫌い、同盟ではどうやら水耕農場設備が戦艦に乗らないほど巨大で高価であることが、それを止めているようです。
『真紅の戦場』は、工業についての言及かもしれませんが多分農業も、オートメーション化より超低賃金労働のほうが儲かることが生産爆発を抑制しているのでしょう。
〇鉱山の損益。
これも、あらゆる宇宙SF、そして『現実』では非常に重要である可能性があります。
たとえば『現実』の今の人類全体の生産と消費。それは、たとえばモリブデンやクロムなど、ある元素資源を掘るのに費用がかかりすぎることがボトルネックになっていることも考えられます。
あらゆる安定原子番号が、無尽蔵に極安で手に入るなら、もっといろいろ安く生産し、それに見合うライフスタイルになり、世界の貧困層もおこぼれに与っているかもしれないのです。
低品位の鉱山を使う、それも豊穣につながるキーテクノロジーでしょう。核種転換(原子番号を変える)も。
『現実』の一般論として、低品位鉱山から鉱物資源を得るには膨大なエネルギーが必要……といっても、エネルギーならあるはずです。波動エンジンも大エネルギー源になるでしょうし、なくても太陽光を集めるだけでも。
どこかに別のボトルネックがあるのでしょうか。硫酸が高いとか……いやそれはないでしょう、イオにも金星にもいくらでもあるのに。
何が足りないのやら。
鉱業技術が割と詳しく描かれているのが『彷徨える艦隊』のモーモー、『銀河乞食軍団 黎明篇』などです。
鉱山は農村とも工業地帯とも軍とも違う、独特の文化を持つ集団になることも多いですね。港湾も独特の文化があるように。
人間の幸福、「鉱業を楽にする」というのも重要でしょうか。
いくつかの過酷な技術……鉱業。プランテーション農業。産業革命期の工業。
それらは死に至る極貧に固定される多数の人たちを産み、結果として全体の需要を低下させます。
それに注げる被征服民、要するに奴隷が多いと、確かに投資収益率は上がり税収も高いかもしれませんが、労働力版の資源の呪いに取りつかれるのが歴史の教訓です。
この現実では、大規模露天掘りという形で「鉱業を楽にする」ことが実現されています。
それでもレアメタルがボトルネックになる作品が多い、『2312-太陽系動乱-』『銀河乞食軍団 黎明篇』『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい(リュート)』など。
ただ、宇宙に手が届けば、多数の鏡で小惑星核を加熱融解して高速回転させれば密度順に遠心分離できるはず。
農業、鉱業……そして運輸、情報、軍事、教育や警察、上下水道や港湾の構築……それらあらゆるものや仕事が集まって、初めて戦艦工場が動き始めます。
そう考えると、工場が損にならない、採算が取れるというのがどれほど偉大なことか。
〇征服の損益。
ローエングラム朝の新領土獲得に、どんな利益があるでしょう?
ラインハルトは何を得たか……戴冠のきっかけと自己満足だけ、ラグナロクから新領土戦役までの死者を、かかった費用を合わせたら……
今後軍事費を削減でき、交易ができるようになる?
征服で得られるもの。
農地。余剰人口が移住できる先。
鉱山。
人口……奴隷、使い捨て、生贄、同化、皆殺しや居留地送り……
文化……人の文化、文物。というか昔は、敵国の神像を神官ごと焼いてやっと勝利の実感を得られたものですが。
手っ取り早く金銀宝石。青銅でできたいろいろなもの……旧約聖書には膨大な祭器リストがあります。
産業。工業基盤や工業機械。第二次大戦では、工業機械の奪い合い、さらにロケット技術者も旋盤のごとく奪い合われたものです。
要地・要衝・交通路。
安全保障。
威信・名声。宗教的満足感。宗教が目的なら奴隷もなしの女子供含めた皆殺し・砂漠化して物質的な得はゼロでも満足できるでしょう。
『三体』はかなり切実な生存のため。『ヤマト』のガミラスやディンギルも一応生存のためです。
『現実』は筆者の資料探しが足りない、英語・フランス語・スペイン語に手を出す根性がない、というか読んだことがあるのに度忘れしてるかも、と思いますが、侵略・征服そのものの損益を数字つきで出した本は覚えがありません。
戦国時代の日本、たとえば美濃や甲斐を落とした織田信長や、春秋戦国、三国志、さらに古代ローマ、そしてスペインの中南米やフィリピン、ポルトガルのインド洋各地、イギリスのインド征服、明治日本の朝鮮併合、アメリカのアラスカ購入……
アレクサンダー、チンギス・ハン、ムハンマド……
儲かったのでしょうか。ちゃんと帳簿はつけたのでしょうか。
信長が美濃を落とし、それで三万の軍を作って六角三好に圧勝して上洛を果たしたことを見れば。征服で領土が広がる、領土が広ければ税収も徴兵人数も増える、で軍事力を増す。軍事力が増えれば楽勝になり、もっと領土を広げられる。それは天下統一に至る、確実な利益になるようです。
……といっても日本の戦国も中国の春秋戦国も、強くなってきたらお家騒動や周囲の危険視~包囲攻撃で潰される勢力が多く、統一には時間がかかるものですが。
あと大航海時代以来長きにわたり、「広い領土を持っている国は偉い」という価値観があったらしい……アホか。儲からなければ、それはただの不良債権と言います。
広い領土は守らなければならない国境線が広いだけ。しかも得た領土の内部もいつ反乱になるかわからない。底なしに軍事費と人材を吸われます。母国に用水路や鉄道を掘り、製鉄所を経営できるであろう人材が。
征服か内政か。大砲かバターかにもつながる、決定的な分岐になります。
自由惑星同盟も、イゼルローンを落としての帝国領侵攻は、まさに内政ではなく征服を選んで自爆したわけです。軍事費を削減して減税、民間に人材を還流させて生産を増やすのではなく、攻めることを選んでしまった。軍縮に耐えられなかった。
ラインハルトの同盟征服もその点は似ています。
近代であっても、ナポレオンやヒトラーは征服した敵国の、宮廷の金銀、美術品、債券などを手に入れて戦費に当てました。それが循環する限り、とんでもない金額が一気に手に入ったわけです。
まあ、それこそガミラスが地球を攻めるの自体、何でそんな遠くからわざわざこんな小さな……ほかに住める星なかったのかい、と誰もが思ったでしょう。
そのツッコミに応えるためもあり、『タイラー』は居住可能惑星がすごく少ない、としてしまいました。
結局は、「居住可能惑星主義」があるから征服がある、穴を掘れバカ、ですむわけで……
結局、機械より奴隷を選ぶ。
利益が出るまで何年もかかり初期投資も膨大な機械より、少ない投資で短期間で利益が出る奴隷経済、森林皆伐を選ぶ。
経済、金融……資金を用意し利子を取る側が、大きい資金を集めず貸さず、最初の利子を払うまで長く待たない。
高い利子を短期で払わなければならないことは、短い時間で見れば高すぎる損益分岐点と同じであり、とんでもなく品位が高い鉱山以外掘らない・森を皆伐することに通じてしまう。
その罠が『現実』も、思ったより多くの宇宙戦艦作品も、指数関数という無限の生産への道を選ばせない。
それは「欠乏」の精神でもあります。
そして『現実』は?
なぜ、マレー半島横断運河も掘らないのでしょう?
なぜ牛丼を人がよそっているのでしょう、いまはなきコンビニam/pmの、低温冷凍庫からの強力電子レンジ解凍加熱弁当をロストテクノロジーにして?
指数関数。将棋盤に1、2、4、8、16、32と置かれる米粒。最初はなだらかだが、一度加速がつけば何よりもすさまじい増大をする。
でも人間の、強すぎる欲望と政治構造がそれを許さない。黄金の卵を産むガチョウの腹を切るより愚か……ガチョウのヒナがかえるのに、その前に殺す。
「全部よこせ、お前たちなど家畜以下だ」
「奴隷を使い捨てる方が安い」
「五年も待てるか、半年で」
「そんな大金貸せるか」
「新方式を試すことを禁じる、神が許さん」
「征服の方が神は喜ぶのだ」
それらが、指数関数を潰す。
科学。資本。所有権。法。フロンティア。それらを否定する、大半の社会。宗教と道徳、どれほど吸っても足りず争い、頭の中まで支配する人間寄生虫ども。
だから無数の艦隊ではない。
それこそが宇宙戦艦作品の、また『現実』のもっとも深い共通したありかたでしょうか。
参考としている本の著者に、所有権至上主義者が多いので誤解されるかもしれませんが、筆者は市場原理主義者ではないですよ?
科学技術至上+最低限生活+拷問虐殺焚書洗脳組織的強姦その他反対、という主義です。