宇宙戦艦作品の技術考察(銀英伝中心)   作:ケット

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宇宙服

 宇宙服、白兵戦。

 宇宙戦艦作品の華です。

『レンズマン』の宇宙斧とデラメーターの早撃ちから……いや、筆者が知らないスペースオペラ黎明期の作品たちでは、西部劇ヒーローの宇宙版たちが光線銃やナイフ、サーベルで華やかに戦ったことでしょう。

 それは時に『スターウォーズ』のライトセイバーとなり、さらにはモビルスーツのビームサーベルともなりました。

 

『宇宙戦艦ヤマト』ではしばしば激しい銃撃戦があり、勝利をもたらしています。斉藤とザバイバルの名勝負あり、古代進とデスラーの決闘あり、斉藤の立ち往生あり。

『さよなら銀河鉄道999』の父子相克も忘れ難い華やかさです。他にも偽エメラルダスとメーテルの決闘、時間城での機械伯爵との死闘など数々の名場面があります。

 

 装甲宇宙服の発展形であるパワードスーツも男心をくすぐります。『宇宙の戦士』を皮切りに、西洋では『エイリアン2』『アイアンマン』があり、日本アニメでも『機甲創世記モスピーダ』『マクロス』『ガルフォース』など数多く。

『タイラー』シリーズでもアザリンのカイザースーツ、また『真』では数々の面白いパワードスーツが設定されています。

 

『銀河英雄伝説』では加速度の問題からパワードスーツや人型巨大ロボットは否定されましたが、装甲宇宙服に身を固めた勇者たちが宇宙斧の直系子孫である炭素クリスタルの斧を手に、勇敢に戦い続けました。オフレッサー、シェーンコップ、そしてユリアン。ブラスターを手に戦うラインハルト、キルヒアイス、ルッツも華やかなものです。

『宇宙軍士官学校』でも、長く戦っているのに情報が乏しすぎる粛清者の情報をわずかでも得るため、宇宙斧を用いる白兵戦装備があります。新兵訓練としても、人類相手の治安維持でも重要です。

 

 

 現実の宇宙開発でも、宇宙服が活躍しています。特に印象的な写真の多くは宇宙服です。

 ヘルメットをかぶったガガーリン。月面を歩く宇宙服。ロープ一本で宇宙を舞い人工衛星を修理する宇宙飛行士。

 

 

 ですが、どう考えても宇宙服はばかげています。

 装甲宇宙服も、パワードスーツも。

 

 根本的に。人の身体を見てください。逆Y字に分かれた股。ここをどうやって、厚さ25センチの鋼板で守れというのですか?「三角形の球」と同じように、数学の次元で絶対的に矛盾しているのです。

 鎧の歴史でも、そして現実現在の防弾・耐爆装備でも、股間はどうしようもないのです。

 その股間にこそ、人体で皮膚に近い動脈としては最大のものが通っています。やられたら文字通り即死。以前ナイフ格闘のビデオを見ましたが、多くの例で狙いは喉でも心臓でもなく、股間でした。

 そして男性の股間にある睾丸が放射能でも破片でもやられれば、命があっても子が生まれなくなるか異常のある子が生まれる羽目になります。女性でも悲惨には違いありません。

 肘や膝の関節も、厚く装甲できないのは自明です。

 強烈な放射線が荒れ狂う宇宙で、宇宙服で行動するなど、頭がおかしいと断言できます。

 まして地球衛星軌道や月面ではなく、水星や木星衛星では、どんな宇宙服でもすぐに睾丸癌でしょう。

 

 またもっとばかげていること。風船に息を吹きこめば膨らみます。風船に少し息を吹き込んで、周囲を真空にしても膨らみます。

 宇宙服は膨らみ続けるのです。動けるわけがない。

 だから極端に気圧を少なくしたり、いろいろしているのです。それでも関節は動きにくく、爪がはがれる。

 爪をはぐなんて拷問の基礎です。

 

 さらに顔を拭けない、背中を掻けないという救いようがない問題があります。真夏に剣道の面をつけた人はそれがどんな地獄か知っているはずです。オートバイ乗りたちも。まして嘔吐は死を意味しています。

『銀河英雄伝説』でも、装甲宇宙服で長時間戦うには薬物。

 

 

 費用を考えても、宇宙服と……アームを極細にした小型ショベルカーの隙間をダクトテープでふさぎ、酸素ボンベと二酸化炭素吸収フィルターを入れたもの、どちらが高価でしょう?絶対に桁がいくつも違うでしょう。

 逆にそうではなく宇宙服を作ってしまった……単に関係者がバカだということもあるでしょうが、多くは指のように繊細な動きをするアームができなかったことでしょう。特に、機械の指が触れた感覚を生身の指に伝え、出そうとした力に対する反力を精密に伝えてくれるものは。

 そういう関節つきロボットの進歩は、きわめて遅い。

 また複雑な地形での移動、周囲を見る技術、見て判断するコンピュータの進歩も遅い。

 2011年でも、それから何年かたっても、遠隔操作ロボットで壊れた原発の中央部を、修理どころか見ることすらできないのです。

 現実の人類の宇宙開発では、費用は度外視、とにかく軽くて体積が小さいことが至上だった……でも、曲面を分解して重ね、組み立てて密封する透明棺桶+電池で動く細いアーム+酸素ボンベ・二酸化炭素吸収装置と、宇宙服。質量・体積ともどちらが有利でしょうか?

 棺桶のようなスペースの中でも、短いスクワットなどで発電することは可能でしょう。

 それで人形を操るようにアームを操ることも、アポロ計画の技術でもできたのでは?

 何より棺桶でも、鼻を掻くことができるのです。

 

 

 潜水服の膨大な歴史も絡むでしょう。圧力の方向は逆ですが、共通点は多いです。そして潜水服は油圧アームのはるか以前から、人類の文明にとって切実に必要でした。

 真珠とり、海に沈んだ船の財宝、巨大な橋を作るためのケーソン、船底の修理。

 海底ケーブルという、コンテナに並んで世界を大きく変えた技術にも関連します。

 潜水艦も戦史を大きく変えたものです。特に無差別潜水艦戦からルシタニア号をきっかけに第一次世界大戦にアメリカが参戦したことは、文字通り歴史の流れを大きく変えました。潜水艦を動かすには、どうしても潜水服というものはあります。

 

 それでも、海底で作業するには深海作業艇……大きい耐圧コクピットからマニュピレーターを操作するほうが、潜水服より優れていることはわかりきっています。

 

 

 もっと根本的な批判があります。これはもう、現実の戦闘機やアニメの人型機のパイロットすらも他人事ではないかも……オムツ。

 宇宙服はオムツを使っています。それだけで行動時間は短く、ストレスが大きく、作業後の洗浄その他に長い時間と多量の水が費やされるのは自明です。

 介護の事を考えても、なんとしてもオムツを囲炉裏に並んで歴史民俗博物館に叩きこまなければ。とてもオムツをはいて惑星に降下する気にはなれません。

 

 

 人型機についての批判が無数にあることは知っています。ですが、宇宙服も同様に批判すべきだとは聞きません。

 

 

 さて、その上で、『銀河英雄伝説』や『宇宙戦艦ヤマト』の戦いはどうすればいいでしょう。

 特に『宇宙戦艦ヤマト(旧シリーズ)』で結果を見れば、白兵戦の戦果がよすぎます。……比較対象が悪いだけともいいますが。

 1では反射衛星砲の攻略。ガミラス本星は波動砲と主砲で勝ちましたが。白色彗星帝国で都市帝国を屠ったのは戦闘機での強行着陸から中心炉破壊。『新たなる旅立ち』では白兵戦はありませんが、『ヤマトよ永遠に』では雪たちの白兵戦が勝利をもたらしました。『完結編』では、結果は失敗といえますがルガール大神官大総統を追い詰め、交渉もしています。

 戦闘機で敵要塞に着陸、そのまま白兵戦で中枢。それは、少なくとも全滅しかもたらさないマルチ隊形での波動砲斉射よりはるかに勝利につながります。

 だからこそ古代たちは時間を作っては激しい射撃訓練を欠かしません。

 しかし、そのたびにほぼ全滅しているのです。高い養成費用がかかる戦闘機パイロットが。

 

 さて、ではどのような装備をするべきでしょう?

 一番きれいな解は、『ガルフォース』の、戦闘機の脱出装置がそのままパワードスーツになる、です。

 問題は、大きくなると敵要塞内で、通れるドアが減ることです。

 スコープドッグでも、都市帝国やレンテンベルク要塞の狭い廊下は通れないでしょう。

 バイク変形パワードスーツも、見栄えはいいですが小さいドアを通れなければ悲惨なだけです。

 実際にオフィスビルや工場を考えれば、人間が生活する場で活動するのがどんなに難しいことかわかります。馬に乗った人……ケンタウルスも、小型オートバイも、フォークリフトもできないことが多いのです。

 

 理想は『サイボーグ009』、いやもっと小さいサイズ、それどころか『ターミネーター2』のT-1000。

 

 

 無理なら、多少通れる扉が少なくなっても、大きいバックパックを背負って行動時間を長くするべきでしょう。

 ゼッフル粒子があるなら、大盾と強力なクロスボウが答えになるはずです。

 

 ヤマトは、せめて小型スクーターぐらいコスモタイガーに積んでもいいのでは?思えばディンギルの機械馬はかなり有効でした。

 防盾と重機関銃を備えた、できる限り幅・高さが小さい全地形車両も積むべきでは?

 また、突入自体を主戦法と割り切って、多人数を積める装甲兵員輸送艇を備えてもいいのでは。それは本国の軍官僚が許さなかったかもしれませんが。

 コスモタイガーの機銃の一つを取り外し、台車に乗せて運べるようにしてもかなり違うでしょう。

 あとアナライザーを量産したらかなり違うと思います。

 使い捨てで一瞬だけ、人間に耐えられる限界の加速度で押し出してくれる装置があってもかなり違うでしょう。

 

 

 要塞戦闘ではなく、宇宙空間での修理その他……それを考えると、なぜ宇宙戦艦は、廊下のある気密の艦内で人が暮らしているのでしょう。

 いっそ、2LDK・30平米程度・風呂トイレ洗面所3点ユニットつきの一室をそのまま入れた、中型の宇宙船に乗りっぱなしにすれば?

 それが動き回り、必要なら手足をつけて中から操縦して、修理なりする。室内の作業机から主砲操作システムを接続して、命令を通信で受けて発砲する。

 廊下もトイレも何もかも常に気密にしておくのと、一つ一つの「機体」に全部あって艦船自体は真空なのと、どちらが必要な空気は多いでしょう?

 

 

 潜水服、海上船。ペイロード:燃料の比がとんでもない化学ロケットでの宇宙開発。

 それらの歴史を踏まえた娯楽は、ものすごく不合理なことになっています。

 そして現実の宇宙開発も、おそらく海中活動も。


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