宇宙戦艦SF・侵略SFにおける核兵器の扱いを考えると興味深いものがあります。
もとより核兵器は広島・長崎、そして幾多の核実験による悲劇を生みだしたもの……話題にするだけでも不快な人はいるでしょうが、それはそれこそどんなものでも変わりません。
仮に、アメリカに少し良識があって警告して脅しに使った・ソ連の日本攻撃が少し早かった(原爆がなくてもソ連参戦時点で日本は降伏していたと思われる)・日本がもう少し早く降伏していた……どれかがあって広島長崎がなければ、核兵器にこれほど巨大なマイナスイメージがつくことはなかったでしょう。
そうなれば、SFにおける核兵器の扱いも少し違うものだったでしょう。
……あっさり朝鮮戦争や国共内戦で核兵器が使われ、もっとひどいことになっていたかもしれませんが。
『銀河英雄伝説』では、ずっと昔の13日戦争で人類が壊滅したため、核兵器を有人惑星に使うことは禁忌とされています。
リップシュタット戦役でブラウンシュヴァイク公がそれをやらかした……その影響は大きいものでした。
戦闘でもレーザー水爆ミサイルが用いられていますが、それほど重要という感じはありません。
中性子ビーム・レールガン・レーザー水爆ミサイルという三種類の兵器の、質の違いが特に本編ではほとんど活きていないのです。万単位の艦数で、それよりも兵力の集中という一点に絞ることで独特の作品世界を作ったのでしょう。
外伝では水爆をガス惑星に投下するという、地形を用いた小戦術は見られます。
少し核兵器から外れますが、兵器の違いについて……
『宇宙軍士官学校』では宇宙空間ではレーザーやビームと違い減衰がないレールガンを、事前に発射して着弾する時間・位置に敵を誘導するという戦術があります。
また敵がビーム吸収コーティングを用いるようになってから、レールガン・光子魚雷という実体弾兵器の重要性が跳ね上がりました。
『タイラー』シリーズでは、現実の太平洋戦争程度のオマージュとして、戦艦はビーム砲が強く、巡洋艦・駆逐艦・攻撃機と艦船規模が小さくなるにつれて光子魚雷の重要性が増していく、という組み合わせを取りました。
核兵器や光子魚雷が大型艦船にも有用かどうかはかなり重要です。それらは大規模エンジンがなくても運用できるため、戦闘機のような小型機が戦線で価値を持ち得るのです。
『彷徨える艦隊』ではミサイルが目立たない存在であることもあり、戦闘機に当たる兵器がほとんど価値を持たない……艦が大きくなければ慣性補正装置・エンジンも小さいため、機動性すら期待できない、と。
核兵器に戻します。その扱いは、多くの娯楽SFでとても重要な要素です。
現代現実と変わらない地球人が異星人に侵略される作品の多くでは、「核兵器が無効化される」という現象があります。
核兵器の概念もなかったウェルズ『宇宙戦争』が例外ですが。
『エンダーのゲーム』では原作開始前のバガーによる地球攻撃では、シールドで核兵器が封じられ人類は圧倒されました。
『インディペンデンス・デイ』でも巨大艦のシールドは核兵器を無効とし、反撃にはシールドをサイバー攻撃で封じることが必要でした。
『孤児たちの軍隊』でも、異星人の疑似隕石攻撃を核兵器で迎撃しようとしたら、何らかの方法で核兵器の起爆が封じられ一方的に殴られました。
宇宙からの侵略者を、低軌道には届くICBMに載せた水爆の飽和攻撃で撃退する……という作品は許されないのです。
世論という点でも、ストーリーとしてつまらないという点でも。
怪獣映画でも、その延長であるスーパー系ロボットアニメでも、核兵器封じは重大なことです。特に侵略の要素がある場合。
その点反応兵器が有効だった『マクロス』は異質です。
ロボットアニメでも、『ガンダムシリーズ』が核兵器を慎重に扱っています。
宇宙世紀では南極条約による抑制、GP-02がもたらした大被害と封印。『SEED』では核兵器を使用不能にするニュートロンジャマー技術がモビルスーツの発達に結びつきました。
特に怪獣映画・ロボットアニメなどでは核兵器のみならず、火薬砲など通常兵器すら無効であることも多くあります。
それこそ『Dr.スランプ』で人間の子供の大きさの怪獣を警官が銃で撃っても、「怪獣というからには鉄砲のタマなどヘイキなのだ」というように。
人間の科学による兵器が通用しない怪獣を倒せるのが超(古代)技術・超エネルギーで作られたスーパーロボットでした。
その構造は『エヴァンゲリオン』『蒼穹のファフナー』また言いわけが丁寧ですが『シドニアの騎士』にも受け継がれています。
『スタートレック』『タイラー』『宇宙軍士官学校』などにある光子魚雷=物質・反物質対消滅弾は、本質的に核兵器の上位互換と言っていいでしょう。
どれも宇宙艦隊戦で主に用いられ、都市破壊の戦略兵器としてはあまり用いられません。
…考えてみると『宇宙軍士官学校』は光子魚雷の射程の短さに苦労していますが、水爆を使えばいいのでは…
『ローダン』で長く主力兵器であるトランスフォーム砲が、炸薬が水爆であることも興味深いです。
威力そのものを問題にするのであれば、さまざまな惑星破壊兵器・宙域破壊兵器こそ核兵器の、ある面の投影と言えるでしょうか。
『ヤマト3』の惑星破壊プロトンミサイル。
『スターウォーズ』のデススターのハイパーレーザー。
『エンダー』の分子破壊砲(リトル・ドクター)。
『禅銃(ゼン・ガン)』。
『ローダン』のアルコン爆弾。
『レンズマン』の虚の球体や惑星ごとバーゲンホルム。
惑星表面しか破壊できませんが、『彷徨える艦隊』の隕石もどきや、ハイパーネット・ゲートの暴走破壊。
惑星を切断する剣、というのも『伝説巨人イデオン』『酒呑☆ドージ(梅沢勇人)』『To LOVEる ダークネス(矢吹健太朗/長谷見沙貴)』などけっこうあります。
威力が最大なのが『スターキング(エドモンド・ハミルトン)』のディスラプター。
滅亡をもたらした兵器としては『ガルフォース』の星系破壊、『ロスト・ユニバース』のシステム・ダークスターもあるでしょう。
簡単に惑星を破壊できる兵器が多いことが、逆に戦争の形を制限している作品もあります。
『宇宙の戦士』もノヴァ爆弾で惑星を破壊することは容易ですが、それよりもむしろ、斧ではなく鞭で教訓を与えるように限定された破壊をする、そのために機動歩兵を用います。
といっても機動歩兵も核兵器を装備していますが。
『装甲騎兵ボトムズ』も、惑星破壊の応酬に疲れた結果小型人型機による局地戦が多くなったそうです。
この現実で、核兵器の存在により米ソの大戦が起きなかった……代償として世界各地で代理戦争が起きたように。
やや違う方向で制御された破壊が、『宇宙戦艦ヤマト』シリーズにいくつか見られます。
ガミラスの遊星爆弾……人類だけを滅ぼしテラフォーミングもする。
『永遠に』で、人間の脳だけを破壊する重核子爆弾。これは中性子爆弾のオマージュでしょうか。
『完結編』アクエリアスをワープさせることも、地球を破壊せずに人類だけを滅ぼし新しい生活の場を確保する手段でした。
『宇宙戦艦ヤマト』旧シリーズには、ほかにも核兵器という兵器のさまざまな面が浮き彫りにされます。円筒は見る角度によって円や長方形などいろいろな影をなすように。
地球を放射能で汚染した遊星爆弾は本質的に核兵器の、破壊と放射能汚染、滅亡を切り出したものと言えます。
圧倒的な破壊力がある、ゆえに兵器としては抑制されるのが波動砲。地球艦隊のマルチ隊形がいつも全滅フラグなのも、濫用が自滅を意味するということでしょうか。
『3』の惑星破壊ミサイルも核兵器の一つの投影でしょう。
『完結編』のハイパー放射ミサイルは、放射能を用いており核兵器に見えて、本質的には撃墜が困難で装甲貫徹力が高い毒ガス弾です。ヤマト以外の通常戦艦はなぜか一撃轟沈でしたが。
そう考えてみると、核兵器の政治的な面が切り出されなかったのが少し残念かも。
核兵器、技術そのもののコントロールに失敗し、人類が滅亡する話。
自滅した文明の遺跡があちこちに残る話。
あるいは核戦争で大きい被害を受け、民主主義ではない宇宙文明となった話。
どれも多数あります。それぞれの、アニメや海外ドラマを含むリストは簡単には作れないほどに。
核兵器は人類の自滅を可能にする、その恐ろしさは冷戦が終わった今忘れられようとしています。
しかし、本来それは最も大きな問題なのです。
核兵器を過剰なまでに配備する……人類が滅亡すれば国家はあり得ないにもかかわらず、人類より国家を優先する。一方が民主主義であったことが、そのおぞましさを深めています。「事故で人類が滅んでもいい」と、何億人という義務教育を受けた国民が投票で支持したのです。
その狂気を直接描いたのは『復活の日(小松左京)』でしょうか。ほかにも多くあるでしょう。
人類滅亡に対する無関心……小惑星衝突対策がわずかであり、また「一つの籠にすべての卵を入れるな」を実践しようとしていないこと……も本来ならもっと重く扱われるべきでしょう。
異星人の侵略は人類滅亡の脅威を自覚させるものですが……ただ、『ローダン』と『ローダンNEO』の調子の違いは、「人類はどんなことがあっても国家と私欲を優先する」という信念が強まっていることを示しているように思えてなりません。
強力すぎる兵器を使うとストーリーが面白くなくなる。あと世論も怖い。
だから核兵器を正面で使うのは難しい……
アメリカの良識不足・大日本帝国の無能は、娯楽SF全体にも大きな負の遺産を残してくれたものです。