ラブジュース・スノウはベッドの上で目を覚ました。
腕を伸ばして、身体をほぐしながら眠気を覚ます。
ここ最近にしては
外にはもう日が昇っている。
早く仕事をしなくては、と彼女は気だるい体を動かした。
ラブジュース・スノウは連続アクメ快楽堕ちさせるマンの家に住んでいる。家、というよりは隠れ家と言った方がいいかもしれないが。
字面だけ見ると凄いことを言っているようだが、要は居候である。
隠れ家には何人かの女――下僕が住んでおり、連続アクメ快楽堕ちさせるマンに奉仕している。そういうとなんだかえっちな感じがしてしまうが、残念ながらやっていることは家事全般だ。
ラブジュース・スノウの担当は主に料理である。
『個性』により極限にまで研ぎ澄まされた感覚は火入れのタイミングを決して見逃さない。そう、常に完璧な料理ができるのだ。難しいと言われる卵料理も、少しの焦げ目もなく作ることができる。
「ほいっと」
フライパンを巧みに操る。
剣技に精通している彼女は料理器具も手足のように操れるぞ!
そうして出来上がったのは、シンプルながらも非の打ち所がないオムレツであった。
「おはようございます、ラブジュース・スノウ」
「あら、おはようアクメ・パーリィ」
やって来たのは先日下僕になったアクメ・パーリィ。
かつては敵だったが、今は頼れる同僚だ。
彼女の担当は掃除で、なんかこう……よく分からない聖なる力? 的なモノで部屋の汚れを全部取ってくれる。頼れる女だ。すごい。すごい無駄な『個性』の使い方だ。
ラブジュース・スノウは自分のことを棚に上げた。
「今朝は久しぶりに静かな朝ですね」
「そうね。ご主人様の
「そうだと嬉しいですねえ。はやくわたくしも神の恩寵をいただきたいものです」
最近、連続アクメ快楽堕とすマンは部屋に引きこもっている。
何をしてるかは明白で、『調教』だ。
淫紋――奴隷刻印を刻み付けている。
本来であれば女が屈服すれば無条件で刻まれるのだが、今回はどうにも上手くいかないらしい。
そこで徹底的にやろうということになり、日夜調教されているのだ。流石のラブジュース・スノウも「アレはやばい」、「死んじゃうんじゃ……」とちょっと心配になっている。
「さ、そんなことより。今日もテキトーにヴィランを刈りましょう」
「みぎゃぁぁぁぁあああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
そうですわね、というアクメ・パーリィの言葉を遮って甲高い嬌声が響いた。悲鳴と言った方がいいかもしれない。隣の部屋で獣が交尾しているような、恥も外聞もない淫猥な鳴き声だ。
「ムリ――ムリムリムリムリ! これ以上はムリです! そんな、待って、そこは……あっ、あっ、あ゛っっっ! ぐぅ!!! じぬ゛! 子宮あづぐで焼けじぬぅ!!!」
これがラブジュース・スノウを睡眠不足に陥らせている原因である。
一晩中こんな声を聞かされては、うるさいのもあるが、カラダが火照ってしまってしょうがない。次は自分にこそ寵愛を……と朝まで嫉妬に狂ったこともある。
「痛い゛! 脳がパチパチして痛いよお! い゛だい゛からあ゛っ、ほんとに、も゛っ、ダメなんです! 脳が変なモノ分泌しちゃってるの! 女の子をダメにするやつ出しちゃってるのぉ! ダメになるぅ、女の子としてダメになるッ!!!」
エグい……。
女の子から出てるとは到底思えないガチイキ声が隠れ家中を揺らしている。一般的な住宅街なら間違いなく警察を呼ばれていただろう。
しかしここは隠れ家で、聞いているのは連続アクメ快楽堕ちさせるマンに調教された女しかいない。楽しみこそすれ、慌てるような者は皆無である。当然助けに入るような者もいない。
「これでは作業なんて出来ませんね」
「まったくです」
やがて今朝の調教が終わり、連続アクメ快楽堕ちさせるマンがやって来た。
二人合わせて礼をする。
対して彼は、さっきまで女の子の人権を踏みにじる様なサディスティック調教をしていたとは思えないほど涼しい顔だ。
「おはようございますご主人様。朝食はいかがなさいますか?」
「いただこう。それと、調教部屋の掃除を頼みたい」
「かしこまりました」
言われた通り部屋に行く。
調教部屋というとなんだかものものしい気がするが、ただベッドがポツンとあるだけだ。
手枷やSM器具の類は一切ない。
必要ないからだ。
「コヒュー……、コヒュー……ヒック………」
ベッドの真ん中には少女がいた。
小ぶりな背丈に慎ましい胸にくびれた腰、ムチムチな太もも。顔立ちはなんとなく生意気そうで小悪魔っぽく、美少女ながら人好みしそうだ。あくまで平時では、の話だが……。
今の彼女を見て小悪魔という感想を抱く者はいないだろう。
服はいちおう着ているものの、ぐっしょり濡れてスケスケだった。これではボディラインが全部分かってしまう。やや赤みがかかった髪も乱雑にへばりついて、なんともエロティックだ。
息は絶え絶えで、カラダは潰れた蛙の様にピクピクと痙攣している。恐らくは、調教の余韻で軽くイキ続けているのだろう。その証拠にときおり快楽を流す様にお尻を揺らしている。ラブジュース・スノウにも似たような経験があったから間違いない。
一番ひどいのは臭いだ。汗と愛液が染み込んだベッドと服が発信源となり、雄に「ここに発情してる雌がいますよ」と告げる下品アピールをする甘い香りがこれでもかと撒き散らされている。これは染み付いてしまって洗濯しても落ちない。買い換えないとダメだろう。
顔の方もひどい有様だ。完全に白目を剥いている。眉もすっかり垂れ下がってしまって、口も半開き。充血した頬には涙の跡が残っている。さぞや平時はモテているだろうが、今は顔全体でご主人様に敗北宣言していた。
「ちょっと触りますよ」
服を着せかえようと、少女の肩に触れた。
ほんの少し、トンとだけ。
衝撃にもならないくらい優しく。
「ほんぎゃあああああああぎああ゛゛゛!!!」
しかし少女はカラダを飛び上がらせた。
シーツを手で掴んでいるが、腰が陸に上がった魚のように「カクカク」と下品なピストン運動している。脚もガクガクと震えていて電気でも流されてるようだ。一方でつま先だけは「ピーン」と張り、頑張ってシーツを伸ばしていた。オマケに、あんまり激しく動くものだから体液が周りに飛び散ってしまっている。
「ぎぃぃぃぃ! ギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!」
おおよそ人間の出す声ではない。
少女は最後に「こきょ」という断末魔をあげて気絶してしまった。体力と精神力の限界だったのだろう。もっとも意識がなくともカラダだけは快楽を欲して動いていたが……。
「流石はご主人様の『個性』、この女をここまで墜とすなんて。むしろここまで耐えたこの子を褒めるべきか」
今は無様に敗北失神アヘ顔を晒しているこの少女だが――トップヒーローを何人も輩出してきた名門の産まれである。かつてエンデヴァーを抑えてNo.2ヒーローに君臨したこともある実力者でありながら、しかしとある事件を機にヴィランに堕ちた。人気ヒーローからヴィランになった彼女は一時期は最も恐れられたヴィランであった。
この辺はラブジュース・スノウも大して変わらないので、あまり気にするところでもない。彼女の特性はもっと別のところだ。
何を隠そう彼女は――連続アクメ快楽堕ちさせるマンの後輩なのだ。
◇
静寂
彼女はそう名付けられた。
名門『静寂家』の一人娘である。
一般的ではないものの、イマドキ“個性婚”をする家は珍しくない。静寂家もその中のひとつであるが……異なる点は彼らは『個性』が発現する前から似た習慣を行なっていたことだ。
即ち、蠱毒である。
蠱毒とは、ひとつの壺の中に大量の毒虫を入れる儀式である。過酷な闘争の中、最後まで生き残った虫は強い毒を帯びる。これを静寂家は人間、跡取り争いで用いていたのだ。『個性』が発現してからはより一層激しくなり……一代前まで続いていた。
鍵留が10歳の時、自らの『個性』と能力に絶対の自信を持っていた父を超えた。
静寂家では力こそが全てであり、彼女は当主になった。
当主となった彼女は静寂家の悪しき風習を全て消し去り、善への道を進んだ。
『私は正義であり、ヒーローである』
彼女はそんなスローガンを掲げていた。
悪を根絶やしにすることが強い『個性』を持った自分の使命だと疑わなかった。
彼女は飛び級で士傑高校に入学し、メキメキと頭角を現した。
そもそも『個性』が強かったのは当然として、他の子供はヒーロー科に入学してから行う個性の強化を、静寂家で幼い頃から嫌という程してきたのだ。この結果はある意味では当然だったのかもしれない。
優秀だった彼女は自らの正義を証明し続け増長した。
“私は正義”からいつのまにか“私以外は悪”にまで変わっていたのだ。
そして事件は起きた。
『ヒーロー活動認可仮免許試験』で出会ったのだ――彼に。
その時の試験内容は、荒廃したビル群の中で、どれだけ救助が出来るかを競うものだった。
これだけなら普通の試験なのだが、そこはやはりヒーロー、もちろんヴィランも設定されている。
ヴィラン役は主にプロ・ヒーローが務めていたが、鍵留は経験を積むために、先生に無理を言ってヴィラン役にねじ込んでもらった。
そして今、ヴィラン役を演じる彼女の前には、三人の生徒がいた。
「学生時代の私が来た!」
先ずは雄英高校で最も有名な生徒、オールマイト。
流石だ。
登場時からフォントが違う。
「こっちはお友達のエンデヴァーくん!」
「誰が友達だ」
「そして――」
オールマイトと、エンデヴァー。
その名前には聞き覚えがあった。
英雄高校には『ビッグ・スリー』と呼ばれる、上位三人がいる。この二人がそれだ。しかしもう一人の名前は聞いたことがなかった。
オールマイトの左にいる、漆黒のマントのコスチュームの彼がそうなのだろう。
オールマイトには動くだけで竜巻を起こすほどのパワーがあり、エンデヴァーには全てを焼き尽くす炎がある。
この二人に肩を並べる男……一体どんな強者か、見極めてやろう。
「俺が連続アクメ快楽堕ちさせるマンだ!」
連続アクメ快楽堕ちさせるマン!?
学生の身分でなんていうヒーローネーム!
どうして申請が通った!?
英雄の風紀はどうなっているんだ!
答えはひとつ。
申請を受け取る人が女性だった、それだけだ。
「二人は救助に回ってくれ。俺がこのヴィランを止めよう」
「俺に指図するな」
「アチっ、アチ! 俺の『個性』じゃ防げないんだから、燃やすな!」
エンデヴァーが連続アクメ快楽堕ちさせるマンの脚を炙った。
防がないところを見ると、連続アクメ快楽堕ちさせるマンの『個性』はあまり物理的ではないらしい。
もちろんブラフという可能性もあるが。
オールマイトは超人的な脚力で、エンデヴァーは炎の推進力で飛び去る。
その瞬間、鍵留は動いた。
最強、とは言えないまでも、間違いなくトップクラスには入る二つの『個性』を同時に発動し、そして負けた。
――――――否。
敗北アクメした。
これが静寂鍵留と、連続アクメ快楽堕ちさせるマンの出会いである。
◇
「せーんぱいっ!」
歩いていた連続アクメ快楽堕ちさせるマンの背中に、背後から飛び乗る。
一瞬ぐらっとしたが、意外と鍛えている彼は、鍵留を乗っけたまま歩き出した。
連続アクメ快楽堕ちさせるマンはめんどくさそうに払おうとするが、降りない。そもそももう『個性』を使ってしまった。例え何があろうと、引き離すことはできない。
静寂鍵留が負けたあの日。
無様なアヘ顔を晒したことで、学校内での威厳は地に落ちた。
とは言え、鍵留はあまり気にしてない。学校で学べるものを学び切った彼女は“新しいこと”を求めていた。
自分よりも圧倒的に強い連続アクメ快楽堕ちさせるマンは、彼女が求めて止まなかった人だったのだ。
「おはよう、炎司」
「おはようございますー、炎司さん」
「……」
エンデヴァーこと、轟炎司に声をかける。
ガン無視だった。
それが気にくわない鍵留は『個性』で炎司の足を止める。
「ほらほら〜。無視してると、いつまで経っても学校に行けないですよ?」
「死ね」
「んー、及第点!」
『個性』を解除する。
炎司は鼻を鳴らして、不機嫌そうに歩き出した。
先の街角では、仲間に入りたそうにオールマイトが頭を出している。
幸せ、だった。
仲間や友達がいなかった鍵留にとって、今は幸せだった。
きっとこのままこんな日々が、ずっと続くのだろう。
そう思っていた。
あの日が来るまでは。
◇
「逃げろ、鍵留!」
「でも、先輩!」
「早くしろ! もう抑えておけない!」
そこは、平地だった。
否、平地になった場所だった。
さっきまであったビルも家も、道路も。全てが破壊されている。瓦礫のひとつも残っていない。
周りではヒーロー達が倒れている。
鍵留もまた、意識こそ失っていないが、力の全てを使い果たして倒れている。
中心にはたった二人だけが立ち、そして対峙していた。
一人は連続アクメ快楽堕ちさせるマン。
もう一人は、オール・フォー・アウト。
彼女の『個性』は強すぎた。
女に対して圧倒的な強さを持つ『ラッキー・ドスケベ』でさえ、オール・フォー・アウトの破壊の前では分が悪い。
「ハハハハハハハッ!!!」
笑いながら、『個性』を使う。
それだけでまた、周りの景色そのものが弾け飛んだ。
「鍵留!」
「は、はい!」
「自分に『個性』を使え!」
「でも、それじゃあ!」
彼女の『個性』は二つ。
ひとつは静寂家が代々受け継いできた『施錠』。これは触れたモノを施錠することができる。施錠されたモノは動かない。機械は停止し、落ちるモノはその場に静寂する。
ここまでが父親が使っていた『施錠』の話だ。
鍵留のそれは、一歩先をいく。
鍵留は“状態”も施錠出来る。要は部分的な時間の停止だ。熱いモノを熱いままにしたり、混ざらない水を作ったり、崩れない角砂糖を生み出せる。
そして自分を施錠すれば、施錠されている間は、どんな外的効果からも守ることが出来る。今使えば、オール・フォー・アウトがどれだけ攻撃して来ても防ぐことが出来る。ただし自分からも動けない――つまり、連続アクメ快楽堕ちさせるマンがどれだけピンチになっても、助けられない。
「お前じゃ、足手まといだ」
「っ!?」
「俺も本気を出す。巻き込まれればタダでは済まない」
「……は、い」
鍵留は自分を施錠した。
しばらく経ってから施錠を解いたとき、そこにはオール・フォー・アウトも連続アクメ快楽堕ちさせるマンもいなかった。
そして連続アクメ快楽堕ちさせるマンは、二度とその姿を見せなかった。
彼は死んだ、と大半の人間は思った。
しかし鍵留は違う。
自分の下っ腹の淫紋が消えていなかったのだ。
「(先輩は、生きてる)」
そう信じて疑わなかった。
◇
それから鍵留はヒーローを辞めた。
表よりも、裏の方が情報が集まりやすいと思ったからだ。
連続アクメ快楽堕ちさせるマンはもともと、その名前のせいで表への露出は少なかった。
鍵留自身にしても、かつてあれほど執着した“正義”への気持ちは無くなっていた。
代わりに残ったのは連続アクメ快楽堕ちさせるマンへの思いだけだ。
こうして彼女はヴィランへと堕ちたわけだが、別に破壊活動を行いたいわけではない。
ただしヴィランとしての格を上げるために、ヒーローを何度か倒している。
ヴィランとしての格を上げれば上げるほど注目され、落ちてくる情報レベルも上がる。
「見つけたぞ、ハード・ロック」
「またお前か、ステイン」
裏路地を歩いていたところ、目の前の廃ビルからぬらりと男が出て来た。
彼の名は、ステイン。
信念あるヴィランである。
落ちたヒーローである鍵留――ヴィラン・ネーム『ハード・ロック』は、彼の信念からすると最も恥ずべき存在なのだ。
とはいえ、鍵留の『個性』はステインの様な近距離専門の相手には滅法有利だ。
逆にエンデヴァーの様に中・遠距離をこなせる『個性』とは相性が悪いが。
「お前じゃボクには勝てないってこと、そろそろわからない?」
「勝てる勝てないは関係ない……ハァ、貴様の様な悪は根絶やす」
「そうですね。悪は根絶やしにしないと」
二人の会話に、誰かが割って入る。
そこにいたのは、極限まで露出したコスチュームを纏う、長刀を携えた少女だ。
鍵留は、目を見張った。
少女の腹部に、自分のものと全く同じ淫紋が刻まれていたからだ。
「ステインとハード・ロック。あなた達を捕まえます」
「……ラブジュース・スノウか」
「あら。私を知ってるの?」
「ああ。お前も粛清対象だ」
二人は刀を構え合う。
そして、跳んだ。
ラブジュース・スノウが超の付く達人である様に、ステインもまた達人である。
常人では見ることすら叶わない速さで刀をぶつけ合う。
加えてここは狭い路地裏だ。
二人は壁を蹴り、立体的な動きをしていた。
「中々やるじゃない!」
一枚上を行ったのはラブジュース・スノウだ。
剣の腕はほぼ互角、となれば当然『超感覚』を持つ彼女に軍配があがる。
剣戟の隙間を縫って、手刀を叩き込んだ。
そして的確に肩の関節を外す。剣技だけでなく、こうした関節技にもラブジュース・スノウは精通している。
「ふん!」
ステインは一旦距離を取り、強引に骨をはめた。
常に一人で戦って来た彼は、こうした応急処置に手慣れているのだ。
そしてまた、お互い構える。
お互い自分と互角に戦える相手を前に、大なり小なり高揚していた。
それを、鍵留が止める。
「待てよ。ボクを無視するな。そこの……ラブジュース・スノウとか言ったっけ。お前には聞きたいことがあるんだ」
鍵留が両腕をかざす。
すると周囲のモノが浮かび上がった。
「ハード・ロック――!」
正直に言って、ラブジュース・スノウの標的は鍵留だった。
ステインはたまたまそこにいたに過ぎない。
そしてだからこそ、彼女の『個性』の恐ろしさを知っている。
それでも実際に目の当たりにすると、こうまで圧巻なものか――!
施錠とはまた別の『個性』。
その名を『エアロ・ハンド』。
個性婚によって得た、一種のテレキネシス!
手の形をしたテレキネシスを飛ばすという平凡なこの『個性』は、触らなければ発動出来ない施錠の弱点を補強し、強くした。
「(人間はたった二本の腕を操作する動作に、脳の無意識領域の大半を使うとされている。だからこそ古来、シヴァの様に複数の腕を持つ神は崇められた。エアロ・ハンド――使いこなすのは容易ではないでしょうね。それをここまでモノしてるなんて)」
ハード・ロックがテレキネシスによって生み出した手の数は、実に12対。
つまり24の手を動かしていることになる。
「施錠」
カチン。
鍵が閉まる音がした。
エアロ・ハンドで持ち上げた鉄パイプや瓦礫を施錠したのだ。
これでただのコンクリートの塊は、どんな名刀でも切れない無敵の鈍器と化した。
「――ッ!?」
エアロ・ハンドが襲いかかってくる。
ステインと、ラブジュース・スノウ。
二人の達人はその場からかき消えた。
否。
避けたのだ。
四方八方から迫り来るハード・ロックの攻撃を。
「生憎と、ボクのエアロ・ハンドに人が生きれる程のスペースはないよ」
的確に、エアロ・ハンドは二人を追い詰めていた。
単純に一対六なのだ。
いかに達人二人といえど、分が悪い。
「(このままじゃジリ貧!)」
渾身の力で壁を蹴り、鍵留に向かって最高速度で斬りかかる。
――キィン!
甲高い音がして、ラブジュース・スノウの攻撃が弾かれた。
「無駄だよ。周りの空気を施錠した。どんな攻撃も通さない」
エアロ・ハンドを得たことによって、鍵留は空気にも触れる様になった。
そして触れるなら施錠出来る。
ドーム状に施錠された空気は絶対的な防御壁だ。
「(これは、不味い!)」
体勢を崩したところをエアロ・ハンドに囲まれてしまう。
右から来る鉄パイプを避け、後ろから投げられた瓦礫をかわしたところで――捕まった。
正面から振り下ろされた鉄パイプを、つい刀で受けてしまった。凄まじい衝撃が身体を伝う。硬直した隙を、ハード・ロックは見逃さない。エアロ・ハンドで腹部を思いっきり殴りつけた。
「カ、ハッ!」
ラブジュース・スノウは吹き飛ばされた衝撃で刀を落としてしまう。
鍵留は刀をその場所で施錠した。
これでもう、何人たりとも刀を動かすことは出来ない。
それだけではない。
舞った砂埃、宙に浮いた瓦礫など、全てが「カチン、カチン」と施錠されていく。
気がつけば動けるテリトリーがほとんどなくなっていた。
「隙ありだ!」
倒れたラブジュース・スノウにステインが斬りかかる。
何度もハード・ロックと戦っていたステインは、彼女との戦いに慣れていた。むしろ半分意識がラブジュース・スノウに向かっていたお陰で楽だったくらいだ。
振り下ろされた刀を、間一髪でかわす。
そのついでにバク転しながら立ち上がった。
「ハァ!」
追う刀で二撃目。
刀はないが、かわすのは容易い。ラブジュース・スノウには『超感覚』で筋肉の動きが全て見えているからだ。
「! ――きゃあ!」
なぜ……?
ステインの蹴りを食らって吹き飛びながら、ラブジュース・スノウは考える。
「(今、予備動作なしで急に動きが止まった……)」
フェイントの類はラブジュース・スノウには通用しない。
ステインは本当に、いきなり止まったのだ。
「(そうか、あいつの『個性』!)」
『超感覚』で高速思考したラブジュース・スノウは答えに行き着く。
ステインの『個性』は血液を摂取することで、相手の動きを止める能力だ。舌を噛むなりして、それを自分に使ったのだろう。
「血を、こぼしたな」
口から滴った血が地面に溢れる。
……なるほど、とラブジュース・スノウは納得した。
ステインに血を舐められることは、ほぼ死を意味する。故に、こうして地面に血が付着してしまうと、それを守るために動けなくなる。
刀を持っているとついそちらに目が行きがちになるが、打撃にも注意しなければならなかった。
これがステインの“勝ちパターン”なのだろう。
「先ずは貴様だ」
「待てよ。そいつを殺されたら困る。聞きたいことがあるんだよ」
「その次は貴様を殺してやる」
「話聞いてた、お前」
エアロ・ハンドがステインに襲いかかる。
もちろんラブジュース・スノウにもだ。
ステインはまた三次元的な動きで回避していた。
一方ラブジュース・スノウはその場から動くことが出来ず、更には刀も失ったことでほぼサンドバッグ状態になっている。
「ふぅーー……仕方がありませんね」
そこでラブジュース・スノウは、その場に正座した。
あまつさえ、目まで瞑っている。
しかしステインは安易に襲いかからない。達人であるラブジュース・スノウの技を警戒しているのだ。
一方で武術に疎いハード・ロックは、何かあると思いつつも、躊躇わず攻撃した。例え反撃されたとしても、ノーリスクなのも大きい。
襲いかかるエアロ・ハンドに、正確にはエアロ・ハンドが持つ鉄パイプに手を添える。
すると鉄パイプは急に方向転換して、ステイン目掛けて飛んで行った。
「合気か!」
力を受け流す技。
あまり気持ちよくないので使いたがらないが、相手の動きを完璧に見極められるラブジュース・スノウは合気の達人だ。
「ぐっ!」
ステインはなんとか攻撃を凌ぐ。
しかし全てとはいかず、肩と脇腹を斬られた。
舞い散った鮮血を、ラブジュース・スノウは指ですくい舐めとる。
「ハード・ロック。あなたはやはり、武術の心得はないようですね。『個性』で強化された武器や手数の多さは脅威ですが、逆に言えばそれだけ。それに――」
ラブジュース・スノウは近くの小石を拾い上げ、ハード・ロックに向かって投げつけた。
小石は弾かれ――ることなく、空気の壁を通り抜けてハード・ロックにぶつかった。
「施錠ということは、鍵穴があるのが道理。そもそもほんとうに全て遮っているなら、酸欠で死ぬはず。テレキネシスも通らない。違いますか?」
「はっ! なに得意げになってるの? もう一度やってみろよ」
再び、ラブジュース・スノウが小石を投げる。
今度は、弾かれた。
「二重施錠。空気の壁の中にもう一段、壁を作った。これで直線的な攻撃は通らない。まっ、たしかに鍵穴は存在するし、空気やテレキネシス用の穴はある。だけどさあ、なんの対策もしてないと思う? さっきのはパフォーマンスだよ。あんまりボコったら可愛そうだろ?」
ハード・ロックは両手を掲げた。
「今、あたり一帯の空気を施錠した。これでもう誰も逃げられないし、誰も入ってこれない」
そして、ステインとラブジュース・スノウに向ける。
途端に二人は苦しみだした。
エアロ・ハンドには触れるどころか、近づいてさえいないのに――!
「戦ってる最中、周りの酸素分子を施錠しておいた。呼吸しても分解できないようにね。あんたら馬鹿みたいに運動してただろ? 特にステイン、間違って自分の『個性』を使わないようにずっと犬みたいな呼吸してさ。空気吸いすぎ。正義の前に地球環境考えろよ」
これが、ハード・ロック。
元No.2ヒーロー。
防御、攻撃、搦め手。全てを高い次元でこなしてこそ、トップ・ヒーローなのだ。
「ゼェ、ハァ! ハード・ロック!!!」
「へえ。立つんだ」
「俺を殺していいのは、真のヒーローだけだ!」
「ボクに勝っていいのも、先輩だけだよ」
最後の力を振り絞って、ステインはハード・ロックに摑みかかる。
当然、それは叶わない。
触れるどころか、はるか手前で施錠されてしまう。
「ヒーローは、無償で、善の心を持ち! 人を助ける! 貴様はそれを踏みにじった! 人を見つけるためにヴィランになるヒーローがどこにいる! 子供達はお前を見て、どう思ったか! 考えたことがあるか!」
「ないよ。ボクのことを見るのは先輩だけでいい」
「ハード・ロックぅ!」
この女は、許しておけない。
身体はとうに限界だ。ステインは心で、否、信念だけで動いていた。
それをハード・ロックは鼻で笑う。
「見事だ」
そして突如現れた男は、賞賛した。
「ヒーローは制度や職業なんかじゃない。ましてや『個性』が強い者の総称でもない。人を助ければ、誰だってヒーローだ」
ハード・ロックは目を見開く。
「例えば重い荷物を持ったご老人の荷物を持ってあげれば、そのご老人にとっては彼はヒーローだろう」
そんな……嘘。
「家族を養う夫はヒーローだ。朝、道路を掃除する者もヒーローだ。私はそう思うよ」
子宮の上に描かれた淫紋が狂ったように熱くなっている。
間違いない、この人は!
「先輩!」
「久しぶりだな、鍵留」
鍵留は全ての施錠を解いて、マントの男に抱きつく。
夢にまで見た感触、においがそこにはあった。
「お前は『ヒーロー狩り』のステインだな」
「貴様は……」
「ヒーローだ。職業は無職だがな」
同じ志を持つ者――否、真のヒーロー。
ステインはそう思った。
根っこにあるものと、ゴールは同じだろう。
しかし道筋が徹底的に違う。
まるで自分と、オールマイトのように。
気がつけば、ラブジュース・スノウが片膝をついて平伏していた。
なるほど、彼女の上司らしい。
そういえば、彼女が乱入してきた目的も謎だった。
おそらくは、ハード・ロックを狩りに来たのだろう。
しかしラブジュース・スノウの名前はヒーロー欄にはない。
本当に彼らは無償で人を助け、ヴィランを倒しているのだ。
誰にも注目されることのないまま……。
気がつけばステインは手を差し出していた。
マントの男は少しの躊躇もなく、殺人鬼である自分と握手を交わした。
「……名前を、聞かせてくれないか」
友にはならないだろう。
しかしオールマイトのように、彼は自分にとって、心の支えや目標になるかもしれない。
そう思ってのことだった。
「俺の名前は連続アクメ快楽堕ちさせるマン!」
連続アクメ快楽堕ちさせるマン!
それが彼のヒーロー名である!
趣味でヒーローをしているぞ!
最初はプロヒーローになろうとしたが、名前の関係で却下されたのである!
「さらばだ!」
連続アクメ快楽堕ちさせるマンはそのまま飛び去っていった。
ステインは彼のことを忘れて、帰って寝た。
◇
「イッ! イッてるからりゃあ! うあああああっ! も、ムリ! 頭、焼き切れて、ダメになるぅ! センパイのことひか、考えられなぐなるぅ゛! 女として終わる、都合のいい雌になっちゃううううう゛!」
調教部屋から聞こえてくる悲鳴に、ラブジュース・スノウは頭を抑えた。
あの女、どう見てもご主人様のことが好きだ。それなのに抗っている。生意気な小悪魔系後輩を狙っているに違いなかった。
「そご、そ゛ごはあああ! 抑えつけないでぇ! 私のよわよわ子宮いじめちゃ、ひぃ――ダメ! 嫌だ嫌だ嫌だイヤイヤイヤイヤ――捻切れるゥ! 子宮捻切れるからあ!」
彼女の『施錠』は、実は対になる『鍵』がある。
ご主人様は偶然にその鍵なんだそうだ。
だから彼女がどれだけ『個性』を使ってもムダであり、何をされても抵抗できない。施錠によって断絶されたはずのあの場に来ることが出来たのも、そういうカラクリだそうだ。
「ふぎゅううううう! ひ、ひ、ひ、ひぃへゃあ! んぉぉぉぉお! あぅう゛う!」
そろそろ人語が話せなくなってきたようだ。
それでも、調教は終わらない。
やりすぎた後輩への躾の意味もあるらしい、まったく羨ましい限りだ。
「んむっ! じゅるるるるるる! じゅぞ、じゅぞぞぞぞぞぞ!」
なにかをバキュームする音が聞こえてきた。
なんでも彼女は、背中に抱きついて首筋を噛んだら吸ったりするのが好きらしい。
調教の時はその癖がよく出る。
「えへ、えへへへへへっ! せんぱーい、せ〜んぱい!」
本人は気がついてないだろうが、時たまこうして甘える声が出てる。
というか、目もよくハートになってる。
あれでよく隠せていると思えるな、とラブジュース・スノウは思った。
「ボクは、マゾじゃないです! 名門の、お嬢様でひゅ! あっ、お嬢様イキする! マゾスイッチ入っちゃいます! マゾイキぎもち゛ぃぃぃ!」
この分だと、調教は長引きそうだ。
散歩がてらラブジュース・スノウは、ヴィランを狩りに外に出た。
イケ! ラブジュース・スノウ!
ハード・ロックの調教が終わるその日まで! 戦い続けるのだ!
戦いの終わりは近いぞ!
がんばれラブジュース・スノウ!
負けるなラブジュース・スノウ!!!