原作:Fate/GrandOrder
タグ:オリ主 アンチ・ヘイト Fate/GrandOrder FGO マシュ 男主人公 オリキャラ 佐々木小次郎 牛若丸 マリー・アントワネット シャルル=アンリ・サンソン 日常
戦闘描写の練習つもりで構想していたのですが、ちょっと予想外の方向にいってしまいました。時間軸は、FGOの開始からひと月経つか経たないかの頃。また、当カルデアオリジナルのキャラも数人登場します。ご容赦ください。
「マシュ?」
呼びかけられて初めて俺に気づいたらしく、立ち止まってこちらを見る。しかし俺が何か言う前に、俺に向かって微笑むと、また歩き始めてしまう。
「マシュ、ちょっと待って。一体どこに――」
そんなマシュの行動に意味を見出せず、再び呼びかけるが、それに反応することなく彼女は先へ進んでいく。俺はそれに追いつこうとして、駆けだした。けれど、どんなに走っても彼女に追いつくことができない。
「待って、マシュ。俺を、」
おいて行かないでくれ、と言おうとした途端、視界と体の動きが一致する。不安と焦りに駆られながらも、追いついたマシュの肩に手をかける。その瞬間――
―――世界が炎に包まれた。
目を開くと、最近、ようやく見慣れてきた自室の天井が見えた。
「夢…」
一人呟いて体を起こす。時計を見ると7時少し前。ちょうど、起床時間に目が覚めたらしい。頭を振って夢の名残を追い払い、朝の支度をするべくベットから降りた。
人理焼却。俺は未曽有の事態に巻き込まれ、その発端となった“特異点F”と呼ばれる世界から帰還した。そして、焼却の楔として打ちこまれていたフランス、オルレアンの第一特異点を解決した俺たちは、つかの間の休養の中にいた。
身支度を整え、食事を摂ろうと自室を出たところで、オペレーターの女性と遭遇した。
「おはよー、今から朝ご飯?」
「おはようございます。はい、ちょうど食堂に行こうと思ってたところで」
気安い感じで話してくる彼女は、俺よりも一つ二つ年上くらいだろうか。赤みがかった髪を後ろで二つにまとめている。
「私もちょっと小腹が空いてね。せっかくだし一緒に行こうか」
人懐こそうな笑顔で誘われては断れない。しかし、快活そうな彼女の表情には、疲れが滲んでいた。
「ひょっとして、徹夜ですか?えっと…」
そういえば、俺はこの人の名前を知らない。
「ああ、私は
自分のことは、気軽に“楊”と読んで欲しいと、彼女は言う。
「徹夜ってほどじゃないんだけど、システム関連の復旧作業をやってて。とりあえず、一段落ついたからちょっと休息をね」
「…なるほど」
俺の歯切れの悪い返事に、楊さんは疲れを誤魔化すように笑う。そうこうしているうちに、俺たちは食堂の入り口に着いてしまっていた。
「おはよー。誰かご飯ちょーだい」
「おはようございます」
食堂に入るなり、楊さんはフラフラと手近な席に着いた。俺もその向かいに腰を下ろすと、厨房の方から料理人の格好をした女性が出てきた。
「はいはい。あ、セイちゃんか。仕事は終わったの?」
「んーん。でもきりが良かったから休憩もらったの。それよりお腹ペコペコ。なんか作ってよ。あー、でもなるだけ胃に優しそうなやつね」
楊さんはその女性、芦屋美智さんと話し出す。この人は、今のカルデアで厨房の責任者を務めている。楊さんとはずいぶん気安い仲らしく、よく一緒にいるところを見かけていた。
「楊さん水いります?」
「うん、貰う。ありがと」
カウンターのそばに設置してある給水機まで行くと、
「グッナイだご主人!昼寝はしっかりできたか?」
突然カウンターから声がした。
「!?…なんだキャットか。びっくりした…」
「なるほど、つまりご主人はニンジンを所望するのだな?」
突然声を掛けてきたのは、今では我がカルデアで生活面の中心になりつつあるタマモキャットだ。召喚された途端に、「料理を作る(意訳)」と言い始めたときは俺も半信半疑だったが、その見た目に反して繊細仕事をしてくれるサーヴァントだった。まあ、いまだに彼女の言葉の真意をくみ取るのには苦労しているが…。
「えーっと、そう朝ご飯食べに来たんだけど…」
「焦らなくても良いぞご主人。膳は急げと言うからな!」
「膳じゃなくて善って伝わりづらいな…。ん?これは…」
気の抜けるような言い回しにツッコんでいると、それに耳も貸さずに、キャットはカウンターの下に体を入れる。何事かと首を傾げると、美味しそうなご飯の載ったお盆を持って再び姿を現す。
「え?ひょっとしてもう作ってたの?」
「キャットはご飯にはうるさいからナ!」
驚く俺にキリッと返し、キャットは厨房に戻っていった
―――
「ちょっとちょっとマスター君。なんでもう朝ご飯貰ってるの?」
水を取りに行ったはずの俺が、朝ご飯の載ったお盆を持って帰ってきたことに、楊さんは目を丸くしながら訊いてくる。
「いや、なんかキャットがもう作っててくれたみたいで」
「ああ、そうなの。玉藻さんと朝の支度してたら急に『――は!これはまさに宴の時間!というわけで、ここは任せるワン!』って言い始めてね。何事かと思ったら朝食作り始めたの。そしたら、完成した直後にバーニィ君が食堂に来るもんだから」
既に事情を把握してたらしい芦屋さんの説明で、ようやく合点が行く。野生の勘か、はたまたサーヴァントとしての感覚か。いずれにしても、俺の来るタイミングを正確に把握したキャットは、俺が出来立てを食べられるように朝食の準備をしてくれたらしい。
「良いお嫁さんだねぇ、マスター君」
「ほんと、羨ましいな~」
楊さんと芦屋さんが、ニヤニヤしながらからかってくる。けれど、キャットへのお礼はきちんとしなくてはならないだろう。まだ出会って間もないのに、彼女の献身にはいつも驚かされてばかりだ。
「はい、良いサーヴァントです。これは残すなんてもっての外ですね」
「うん、作る側は最後まで美味しく食べてもらえるのが一番嬉しいから」
俺の言葉に芦屋さんは満足げに頷きながら答える。
「ミチ~。私のご飯…」
「ごめんごめん、忘れてた。お粥で良い?」
「うん」
楊さんは話に取り残されてつまらないのか、口を尖らせながら食事の催促をする。それに鷹揚に応じて、芦屋さんは厨房へ向かっていった。
☆
「美味しかったー。ごちそうさま!」
「ごちそう様です」
「トドメだ、ご主人。あとこれはついでだな」
スッと俺達の前にカップが置かれる。淹れたてらしいココアが、微かに湯気を立てていた。
「ん、ありがとう、キャット」
「おお、ありがとね。ついででも嬉しいよ、キャットちゃん」
いつの間にやら俺の傍らに来ていたキャットは、満足げにサムズアップしてと厨房へ戻っていった。
「まったく、油断も隙もない子だね、彼女は」
キャットの後ろ姿を見ながら、楊さんはポツリとこぼした。と、食堂の入り口に新しい人物が現れた。袴の上に紫の陣羽織といういで立ちの男は、近未来的なデザインのカルデアでは明らかに浮いた存在に映っている。それもそのはずで、彼は少し前に俺が召喚したサーヴァントでクラスはアサシン。真名を“佐々木小次郎”という。彼は席についている俺を認めると、まっすぐこちらにやってきた。
「おはよう、マスター。食事は…もう、済んでいるようだな。実は、少し話があるのだが、ここに座っても?」
「大丈夫だよ。でも、話って?」
俺の返事に、アサシンはちょうど向かいの席、楊さんの隣に腰を下ろした。
「かたじけない。なに、大したことではないのだ。今――」
「ごきげんよう、マスター。今日は早いのね」
「おはようございます!主殿」
「おはようございます、マスター」
「お、おはよう、マリー…と牛若丸にサンソン」
「……」
アサシンが何か言おうとしたところで、新たに数人のサーヴァントが入ってきた。小次郎と同時期にカルデアにやって来たマリー・アントワネット、牛若丸、シャルル・アンリ・サンソンの三人だ。
「マスター達は、朝ごはんかしら?」
「うん。もう済んじゃったけどね。マリーは?」
「私も朝食をいただきに来たの。食事は、カルデアでの楽しみの一つですもの!」
輝くような笑顔でそう語るマリーは本当に楽しそうだ。そんな中、俺たちを難しい顔で眺めていた小次郎が口を開いた。
「マスター、実は相談したかった件には牛若丸殿が関係しているのだ」
「え?」
「私ですか?」
唐突な指名に驚いた様子の牛若丸だったが、
「何やら、面白そうな話の予感がしますね」
普段、あまり接点のない人物からの指名ということが興味を引いたらしい。
「マリー殿とサンソン殿。申し訳ありませんが、用事ができてしまいました。食事はまたの機会に、ということで」
「わかりました。少し残念ですが、またいつか必ず。行こう、マリー」
「そうね。それでは失礼しますわ、皆さん。私、もうお腹ペコペコなの!」
サンソンとマリーが気を利かせて離れ、俺たちの視線はいよいよ小次郎へ向かう。
「それで、一体どんな話なの?小次郎さん。もしかして牛若さんが気になるとか?」
楊さんは、待ちきれないとばかりに尋ねるが、彼の様子からはそんな浮ついた雰囲気は抱かない。小次郎は表情を引き締め、答えを口にする。
「その名も高い源九郎義経殿。まさか女子(おなご)だったとは思わなかったが、その無双に偽りはないのだろう。私は、ぜひ貴女と手合わせをしてみたいのだ」
そう語る小次郎は、普段の物静かな様子を僅かに崩し、高揚しているようだった。無名とはいえ、剣士の血が騒ぐと言うことなのだろうか。
「なーんだ、恋愛沙汰とかじゃないんだ」
楊さんは、残念、というふうに机に突っ伏す。そんな彼女に微笑みながら、小次郎は諭すように言う。
「こうして生身でいるとはいえ、我らは既に死人なのだ。生前ほどそういったことに拘らなくなっているのは否めないな」
「昨日、技術部門の女の人に声かけてましたよね」
「……」
気まずそうに目を逸らす小次郎に、三人分の冷たい視線が注ぐ。
「…それで、どうなのだろう、牛若丸殿。手合わせをしてはもらえないだろうか?」
「あ、話戻した」
またも揚げ足を取られ渋面をつくった小次郎に、牛若丸は瞳を輝かせながら応じた。
「それはもう、是非!以前からあなたのことは気になっていたのです。手合わせなど、またとない機会ではないですか!」
牛若丸も小次郎も、同じ日本を故郷とし、刀を振るうサーヴァントだ。互いに思うところもあったのだろう。
「でも、どうするの?模擬戦みたいなことをするにしても、サーヴァント同士じゃ下手をするとタダじゃ済まないよね?」
そんな中、俺は素朴な疑問を口にした。その点に関しては、小次郎も考えていたらしく、
「レイシフトをして、周囲にあまり迷惑のかからない場所でやるにしても、私達の得物では怪我は免れないだろう。最悪、殺傷力の無いものを使う手もあるが…」
「それだと、満足はできないでしょうね。他に何か、実際の戦闘に限りなく近い状況での試合をやる方法は?」
悩まし気に考え込む彼らに答えをくれたのは、黙って話を聞いていた楊さんだった。
「あるかないかで言えば、あるよ」
「それは本当か…!?」
思わず身を乗り出す小次郎に、彼女は難しい顔をしつつも頷く。
「シュミレーターを使った仮想空間での訓練なら、設定次第ではかなり確度の高いことができると思うよ」
「シュミレーター、ですか?」
そういえば、俺が使っているトレーニングルームの隣に、普段使われていない部屋があった気がする。それのことか、と楊さんに聞くと、
「そう。でも、この前の事故の時にそこそこの被害受けちゃったから、まだ説明してなかったんだよね」
頭を掻きながらそう説明してくれた。それを聞いた牛若丸は、もう待ちきれないといった様子で畳みかけた。
「それでは!?」
「でも……ううん、オッケ。一度ドクターに相談してからね。そしたらやってみよう」
「…? じゃあ、とりあえず一度管制室に行きますか?」
「うん。そうしようか」
楊さんが少し躊躇った気がしたが、すぐに普段通りの調子に戻ったので、気のせいだったのだろうと納得する。
「ん?みんな話し合いは終わったの?」
席を立った俺たちに気づいた芦屋さんが声を掛けてくる。
「はい。シュミレーターでの戦闘訓練を試してみることにしました。それで一度管制室に」
「そっか。じゃあ片付けは私がしちゃうから。行っておいで」
牛若丸の答えで納得顔になった芦屋さんは、後のことを引き受けてくれるという。俺たちはありがたくその申し出を受け、管制室へと向かった。
☆
「先輩!おはようございます。どうかされましたか?」
管制室に入ると、ドクターとなにやら話していたらしいマシュが俺たちに気づいた。
「おはよう、マシュ。実はドクターに相談があって…」
「僕に相談?何事だい?牛若くんと佐々木君まで連れて」
遅れて俺たちに気が付いたロマンが、マシュの背後から顔を出す。
「はい、実は、シュミレーターを使った訓練について話が聞きたくて――」
―――
「なるほどね。たしかに、あれは色々な状況での戦闘訓練ができる。佐々木氏が望むような決闘も不可能ではないはずだよ」
楊さんが食堂での経緯をドクターに伝えると、少し考え込むように目を閉じながら、そう口にする。
「やりましたね、小次郎殿!」
「ああ。これで牛若殿との手合わせが叶う」
ロマンの言葉を聞いたサーヴァント達が、喜びを露わにする。しかし、賛成してくれたはずのドクターは浮かない表情で手元の書類に目を落としている。やがて、意を決したように口を開いて、
「みんなには――」
「ドクター」
だが、その言葉は楊さんに遮られた。
「…ドクターは忙しいでしょうから、この戦闘のデータは私が取っておきます。問題ありませんね?」
「え?う、うん。でも君、昨日も――」
「野暮は言いっこなしですよ、ドクター。まあ、私に任せといてください」
また何か言いかけるドクターを、楊さんは笑顔一つで押しとどめる。
「さ、そうと決まれば急がなきゃね、マスター君。さっそくトレーニングルームに向かうから、ついてきて!」
「は、はい!」
俺たちは、言葉をはさむ隙も与えられず、管制室から出て行く彼女について行くしかなかった。
☆
「ちょっとそこで待っててね。今準備するから」
「はい」
楊さんは俺たちに一声かけると、部屋の中心にあるコンソールを起動し、なにやら作業を始めた。俺たちが案内されたのは、トレーニングルームに併設されている“シュミレータールーム”と呼ばれる場所だった。この部屋は、入り口に面しているシュミレーターの管理システムがある小さい部屋と、その奥のシュミレーターがいくつも設置してある大きい部屋で構成されている。 今、俺とマシュ、楊さんが制御室、疑似戦闘訓練を行う小次郎と牛若丸がシュミレーター室にいた。
『楊殿。我々は、この“しゅみれーたー”とやらに乗り込めばいいのですか?』
隣の部屋からは、物珍しそうに機械を眺めている牛若たちの声が、スピーカーを通じて入ってくる。牛若たちが見ているシュミレーターは、一見するとゆったりとした椅子のような形をしている。ちょうど頭をあずける位置にヘッドギアが付いており、トレーニングを始めるのは、それを被るだけで良いらしい。
「よし、できた!良いよ、牛若ちゃん、小次郎さん。座って、セットしちゃって」
しばらくの間、画面と睨み合っていた楊さんは顔を上げると、準備の完了を隣のブースに伝える。
『主殿がこのような訓練をするのなら分かりますが、まさか我々がやることになるとは…』
「しかもマスターの俺を差し置いて一番乗りだよ」
『私としても、大変遺憾なところだ』
軽口をたたいているうちに、どうやら彼らの準備が整ったらしい。楊さんはスタートキーに指を添え、マイクに向かって話し始めた。
「じゃあ、これからシュミレーターを使った疑似戦闘訓練を始めます。スタートすると、意識が一度飛ぶけど、すぐに覚醒するので慌てないように。完全に仮想空間へ移ったらまたこちらから指示を出します。質問はある?」
『大丈夫です』『ああ』
「マスター君も、良いね?」
最後に来た俺への問いに、無言で頷く。それを確認した楊さんは、高らかに宣言した。
「それじゃ、シュミレーションスタート!」
☆
意識が覚醒したとき、私は暗闇の中に立っていた。見渡す限り境界線は無く、何もない空間がひたすらに広がっている。
「なるほど、確かに現実との差異はないらしい」
初めての仮想空間に若干の心配がなかったと言えば、嘘になる。それは、自身への身の危険などではなく、現実での決闘と近いものを本当に体験できるのか、という類いのものではあったが。その点に関して言うならば、それは杞憂だったと今の自分を見て確信する。これならば、満足のいく立ち合いができるはずだ。
『ということで、お二人とも。仮想空間にダイブしてみた感想はどうでしょう?』
と、唐突にオペレーターの彼女の声が響きてきた。
「こちらは大丈夫だ。すぐにでも始められる」
『私も問題ありません。驚くほどに現実の私との差が無い』
『はい、オッケ―です。二人とも感度良好みたいね。さすが私!』
どう返事をしたものかと思ったが、ただ何もないところに向かって話すだけで良いらしい。どうなっているのかは分からないが、現実のマスター達や、同じ仮想空間にいるはずだが、先ほどから姿の見えない牛若殿との交信も容易いようだ。
『小次郎さん達の反応から見るに、シュミレーターの復旧は成功したみたいだから、このまま戦闘訓練に移行するね』
我々の様子から問題が無いことを確認できたらしい婧殿は、次の段階に状況を移すらしく、説明を始めた。
『今、二人の目の前には何もない空間が広がっていると思う。まず、訓練を行う空間に二人を移送します。そこで初のご対面ってわけだね。次に、その空間にランダムでステージを生成される。それが終わったら、合図と30秒のカウントダウンが始まるから、数字が0になったら戦闘開始。こんな段取りなんだけど、大丈夫かな?』
どうやら今いる場所は本来の訓練場ではなく、その前の待機所のようなものだったらしい。我々の準備が整い次第、本番で使う場所へ移されるということなのだろう。
「ああ、移送を始めてくれ」
『オッケー。それじゃあ、始めるね』
私の言葉に答える婧殿の声が聞こえるとともに、再び目の前が闇に覆われた。初めの時と違い、間を置かずに視界が戻ると、数十メートルほど先に牛若丸が立っていた。
「ようやく謁ることができましたね、小次郎殿」
不敵に微笑む彼女は、すでに全身から殺気を漲らせている。
「確かに、ここまで来るのにそれなりの忍耐を強いられた気はするが…。それもここまでだ」
受けっぱなしでは剣士としての名が廃ると、牛若の気概に返礼する。と、自分たちの足元が光りはじめる。それは周囲へと広がり始め、色づき始めた。
《ビギニング・シュミレーションバトル・トレーニング フィールド1 フォレスト》
電子的な音声とともに、何もなかった空間に次々と木々が現れる。地面もみるみる広がっていき、わずかな時間の内に森へと姿を変えた。
「これは…」
短時間で、周囲にうっそうとした森が広がった現実に、私は言葉を忘れた。
「しかし、これは困ったことになったな」
「?――何がですか?」
信じられない光景を目にした衝撃のせいで、ふと頭に湧いた言葉が口をついてしまった。
「いや、気にする程のことでもないさ。牛若殿が天狗に教授を受けたのは、鞍馬の山だったのだろう?これは少し、私に分が無いかなと思っただけだ」
「それは、確かにその通りですが。もとよりこの義経、どのような戦場だろうと負けることなどありませんので」
その返答は思いのほか好戦的で、思わず笑みがこぼれる。
《カウントダウン・スタート 30、29、28、27…》
持ち慣れた刀の柄を握り、鞘から抜く。それを上段に構えると、全身に緊張を走らせた。
「牛若殿の言葉は、いつも私の心をくすぐる。その強さに裏打ちされた自信に対する返答は、これ以後、我が剣にて代えさせて貰う」
《 17、16、15、》
「承知」
こちらの姿勢に答えるように、名高き源氏の若武者も構えを取る。
《 3、2、1、0―― “シュミレーション・バトル スタート”》
視界の数字が底を尽きると同時に、静まりかえっていた森に壮絶な剣戟が走った。
☆
開始の合図とともに小次郎へと迫った牛若丸に、遅れて踏み込んできたはずの小次郎の刃が降りかかる。それを横に飛んで躱し、距離を取った。
「一合も合わせないとは、つれないものだ」
「言っててください」
再び正眼に構えつつ、安い挑発をしてくる彼に軽く返し、機を窺う。佐々木小次郎と自分にさほどの体格差は無い。しかし、問題は彼の持つ長物、備中青江だ。“物干し竿”と揶揄されるだけあり、自身の薄緑より幾分長いその刀は、小次郎の間合いをより広いものにしている。
「(迂闊に近づけば、間合いで負けている私は小次郎殿に届く前に切られるか…。ならば)」
思考は一瞬、後は動くのみ。牛若丸が、瞬く間に距離を詰めると、小次郎もそれに合わせて右上段より物干し竿を振り下ろす。その刃が牛若丸を過つことなく切り伏せようと迫るが――
「―――っ‼」
視界の端に鈍い輝きを捉えた小次郎は、即座に後方に下がる。先ほどまで自分のいた場所には、刀を振り切った牛若丸が立っていた。
「せっかく懐に飛び込めたのに、討ち漏らしてしまいましたか」
不敵に微笑む彼女に傷は無く、当然ながら自身の手にも切った感触は無い。しかし、羽織っている陣羽織の前襟には、ま新しい鋭いもので両断された跡があった。
牛若丸は小次郎の間合いまで詰め、斬撃を姿勢を地に着くギリギリまで低くして躱した上で、一撃を放ったのだ。彼女が牛若丸であればこその芸当なのは間違いない。
小次郎の意表をつけた今が好機と見たのか、牛若丸は彼が構え直すのを待たずに再度踏み込んだ。先ほどの一合で何かを掴んだのか、その動きには迷いが無い。
正面から突っ込んでくる牛若丸に、小次郎はその場からほとんど動くこともできずに対応せざるをえない。中段から突き出された刃を、自身の刀で絡めつつ後方へ受け流した。
ところが、ほとんど間を置かずに背後から殺気が迫る。
振り向く暇はないと判断し、刀だけ背中に回すと、牛若丸の刃が確かに当たる感触を得た。体重を移動させつつ再び牛若丸の斬撃を捌くと、彼女はこちらを振り向くことなく一直線に正面の大木に突っ込んだ。
そのまま衝突するかに見える寸前、空中で体勢を反転させると、大木の幹そのものを足場にすることで再度、こちらへの突撃を敢行する。先ほどの後方からの攻撃も、同様の方法をとったのだろう。
猛然と躍り込んでくる牛若丸を、さらに捌く。しかしそれだけでは、また別の木を利用した斬撃に曝されてしまう。さらに、ただ飛んだ方向の木を使うだけではなく、次々と違う木の幹を移動することで自身の位置を絞れないようにしてくる。
既に、この森は牛若丸という英霊の独壇場となっていた。
「次々と足場を変えながらの立ち回り。これが噂の八艘跳か」
幾度目かの切結びで、鍔迫り合いになった時、自然と賞賛が漏れた。それに対し、彼女は不敵に嗤うと彼方へと跳躍する。
「ええ。けれどあの時は平家めの船が八艘しかなかったので。満足のいくようなものではありませんでした」
「…これは、とんだ武者との立ち合いを望んでしまったらしい」
彼女は言外に、八艘以上の数を飛べると言っているのだ。小次郎は、自分の予想を遥かに超えた古の兵に胸が高鳴るのを実感しつつも、再び刀を構え直した。
☆
薄暗い室内に複数設置されている画面には、シミュレータ―で行われている戦闘が、リアルタイムで流れていた。牛若丸と小次郎の、文字通り縦横無尽の戦い振りは、仮想空間故の様々な角度からの映像も合間って、画面越しの少年にも苛烈な印象を与えていた。
「すごい…」
いつ見ても彼らの戦いには圧倒される。それはフランスを経た後でも変わることは無い。
「なるほど。確かにこれはすごいな」
「…!?」
だから、いつの間にか自分の隣に立っていたアルテラの存在にも気が付かなかったらしい。
「アルテラ…さん?どうしてここに?というか、いつから?」
思わず疑問を畳みかける形になってしまったが、当の本人は気にする様子もなく、淡々と言葉を返してくる。
「ついさっきだ。食堂で、シュミレーターを使った訓練をマスター達がしていると聞いた。それで、少し興味が湧いてな。」
「そ、そう…」
実を言えば、俺は彼女のことが少し苦手だ。アルテラを召喚したのは、俺がここ初めて踏み入れた特異点・冬木でのことだった。それ以来、ずっと前線を支えてくれているが、寡黙で、どこか神秘的な雰囲気を漂わせている彼女との距離を、俺はいまだに掴みかねていた。
「話には聞いていたが、シミュレーターとはここまで鮮明なものなのだな。正直、驚いている」
俺の動揺にも構わず、アルテラは独りごちる。けれど、そんな彼女が新鮮で、自然とその言葉に耳を傾けていた。
「特にあの侍の技量には目を見張るものがある。私はセイバーだが、他とは若干異なる戦い方をしている。そんな私でもわかるほど、洗練された太刀筋だ」
侍というのは、おそらく牛若丸のことだろう。最初こそ積極的に攻めてはいなかったが、少し前から素人目にも明らかなほど、信じられない動きをしている。木々を利用してあらゆる方向から放たれる斬撃に、小次郎もなんとか凌いでいるという様子だ。
「…うん。俺には速すぎて全部は見えないけど、牛若丸の戦いは凄まじいよ。小次郎も耐えてはいるけど、少しずつ傷が増えてるみたいだし」
この訓練では、怪我をしても現実のように血が出たりはしない。怪我を負った場所が、赤いエフェクトを放ち、傍から見ても分かりやすいようになっている。彼らの希望で、痛覚などは現実と遜色ないらしいが…。そして、小次郎の体には、徐々にそのエフェクトが増えてきていた。だが、そんな俺の言葉にキョトンとしながら、アルテラが聞き返してくる。
「何を言っている?私が言っているのはあの女武者ではなく、男のことだぞ?」
「え?」
そんなアルテラの言葉に、俺も思わず聞き返してしまう。俺の間の抜けた声を聞いた彼女は、画面の小次郎を指さして言葉を続けた。
「確かに、牛若丸?というあの女の立ち回りは恐ろしい。私でも真似はできない…とまでは言わないが、比肩することは難しいだろう。だが、それ以上に小次郎という侍は凄い。あの男、牛若丸の猛攻の中、一度も足場を崩していない。」
「ええと、つまり?」
アルテラの言葉の真意が分からず聞き返すと、明快な答えが返ってきた。
「要は、佐々木小次郎はあの全方位からの攻撃を全て、完璧にいなしている、ということだ。その上で、明らかにまだ余力を残している。」
―――
幾度とない突撃を繰り返しながら牛若丸は自問していた。自分の実力には自信がある。それは、元より自分の持っていた才能から来るものであり、平家との戦いによって裏打ちされたものだ。それをもってしても、あの男を押しているという実感を得ることができない。ひたすらに自分の斬撃凌ぐ姿は、翻弄されているのか、まだ何かを隠しているのか判断がつかない。端的に言ってしまえば、底が知れないのだ。
「だが、もうここで決める」
自身の全てをぶつけて佐々木小次郎を討ち取るべく、牛若丸はさらなる加速へと身を投じた。
―――
「(空気が変わったか)」
先ほどから、あれほど激しかった攻撃が減ってきている。が、彼女自身の移動速度はさらに上がったように見える。
「(…では、こちらも全力で応えるとしよう)」
わずかな雰囲気の変化を感じた小次郎は、それでも普段通りに構える。彼が全力でなかった瞬間など、一度として無かったのだから。
―――
牛若丸の移動速度は、既に目で追い切れるものではなくなっていた。残像は縦横無尽に木々を駆け、やがて小次郎の真正面へ収束する。一拍の後、轟音と共に一つの影が跳び出した。
「遮那王流離譚が二景 『薄緑・天刃縮歩』!!」
既に神速にすら届いている状況で、宝具によるさらなる加速。牛若丸の薄緑が、小次郎を捉えんとするそのコンマ数秒、待ち受けていた男と視線が交差した。佐々木小次郎は、ただ牛若丸を見据えていた。幾度も移動を繰り返し、あらゆる方向から彼女が仕掛けてくる可能性があったにもかかわらず、真正面から来ることを一欠片も疑うことなく。
そして、肩の位置に水平に構えていた刀が閃くと同時に、その名が呼ばれる
「秘剣―――『燕返し』!」
☆
先ほどまでの戦闘が嘘だったかのように、辺りは静まりかえっていた。この場に立っているのはただ一人。刀を携えたその姿は、普段と何一つ変わらない。ただ、その男の左腕が、肩より先から無くなっていることを除けば。
「…見事」
そう呟く小次郎の背後には、倒れ伏した女武者の姿があった。
「(…視界が…赤い。もう、指の一つも…動かないか…)」
小次郎と刀を合わせた瞬間、佐々木小次郎の剣は3つに分かれた。どうにか片腕は落としたが、回避もろくにできないまま、私はもろにその剣閃を浴びた。四肢の一つも、繋がっているか怪しい。
「(これが…敗北…か…)」
牛若丸の意識は、生前では味わうことのなかった思いを抱きながら、次第に暗くなっていった。
《 BATTLE ENDED Winner“佐々木小次郎”‼ 》
シミュレーションバトルの終わりを告げるアナウンスが鳴り響き、唐突に始まった侍同士の試合に、幕が下りた。
☆
サーヴァント達の勝負が着くと、張り詰めていた制御室の空気はにわかに弛緩した。見守っていた俺たちも、知らぬ間に彼らの戦いに呑まれ、緊張していたらしい。
「それじゃ、システムを落とすよ。それでこの訓練はおしまい」
「え?あ、はい。お願いします」
唐突に声をかけられ、我に返る。当の楊さんは、既に訓練を終わる準備を始めていた。
「どうだった?マスター君。仮想空間での戦闘訓練の様子は」
コンソールを操作しながら、楊さんは俺に尋ねてくる。
「何度見ても圧倒されます。それだけは、二つの特異点を経た今でも変わらない。
…俺は――」
彼らの戦闘は、常人の俺が着いて行けるようなレベルではない遥か高みにある。俺では、その一端を目で追うことさえできない。だから、そんなものを間近で見てしまったから、いつも俺の腹の内で眠っていた感情が頭を出してしまったのかもしれない。
「――俺が、彼らのマスターなんてやってて、本当に良いんですかね?」
俺の言葉を聞いた楊さんの雰囲気が、わずかに変わる。その反応に、自分が何か不味いことを口にした気がして、それに続こうとしていた言葉を飲み込む。
「…バーニィ君」
しばしの沈黙の後に、楊さんが口を開く。
「君の考えていることは想像できるよ。それを口にしたら、今の状況を全て否定してしまうことが分かってるからこそ、言えないでいたことも」
俺はなんと答えれば良いのか分からず、ただ黙り込む。そんな俺に構わず、彼女は続ける。
「厳しいことを言ってしまうけど、君はただ巻き込まれた一般人なんだよね。魔術でも科学でも、特別な技能があるわけでもない。ただ、レイシフトの適性があっただけの素人。
――でもね、マスターになることを決めたのは、バーニィ君自身だったでしょ?」
「一度にたくさんの人が亡くなって。唐突なレイシフトに巻き込まれて。…所長がレフ教授に殺されてしまって。状況が状況だったから、断れなかったのかもしれない。本当はすごく嫌だったりしたのかな」
まるで、何かの痛みから必死に耐えるような表情で言葉を紡ぐ楊さんは、それでも、ただまっすぐ俺を見る。
「それでも、『自分にできることがあるなら』って言っていたあなたの表情(かお)には、確かな気持ちを感じたよ」
それは俺が特異点・Fから帰還したときに、ドクターからに対して言ったものだった。
「なんで楊さんがそれを…」
それまでの真剣な雰囲気が引き飛び、羞恥心が込み上げてくる。
「君がドクターと話してたとこは管制室だよ?オペレーターの私がいないわけないじゃん。そうじゃなくても、あの時は職員全員あそこにいたけどね」
まさかあの場に自分たち以外の人がいるとは思わなかった。あの時の気持ちは本物だったと今でもはっきり言えるが、あまりにも青臭い台詞を全員に聞かれていたとなると、さすがに恥ずかしい。それでも。彼女は話を続ける。
「あの言葉を聞いてね、私達は、ううん、少なくとも私は思ったの。“これは失敗できないな”って。実際に危険な場所へ行くのは君なのに、私達はそれを見ていることしかできない。普通なら経験する必要もないことも、君はその身をもって受け止めなければならない。そんな時、サポート役の私達が原因でその旅が失敗することなんて、あってはいけない。ただ独り特異点で戦っている君の足を、私達が引っ張るなんてことは、起こってはいけないの」
楊さんの話は、俺の頭の完全な埒外にあった。二つの特異点を旅するなかで、たくさんの人たちに助けられた。この中には、もちろんカルデアでサポートしてくれていた皆がいることもわかっている。けど、その彼らの決意まで、考えてはいなかった。
「…俺が素人のせいで、専門家のみんなさんに余計な負担かけてますよね。本当ならもっと優秀な人がやるはずだったミッションなんですから」
一番大事な時に、基礎すら身につけていない一般人のサポートをすることになった彼らがどんな気持ちだったのか、想像もできない。けれど、そんな俺を楊さんは明るく遮った。
「あ、ええと…違う違う。勘違いしてるよマスター君。こんな状況でこれを言っちゃいけないんだろうけど、私達だって、助けたい人の選り好みくらいするよ。それはもちろん、私達カルデアだけじゃない。サーヴァントのみんなも同じはず」
「――君しかいなかったんじゃない。君だから、手を貸したんだよ」
その言葉に、俺は思わず顔を上げる。そして楊さんは、いつものように微笑んでいた。
「自信を持つんだ、人類最後のマスター君。大丈夫、君に足りてないところは、私たちが補う。だから、前を向いて進んで欲しい。君の前進は、私たちの希望になるんだから」
「俺は…」
体の内から熱いものが込みあげてくる。彼女の言葉は、おぼつかなかった俺の足取りを、すっと支えてくれるようだった。情けないことに、俺は溢れそうになるものを抑えるのに必死で、ろくに返事もできなかった。楊さんは、そんな俺に苦笑すると、再びコンソールの操作に戻った。心無しか、彼女の頬が赤いのに気付いたが、それはお互い様だろう。
「さ、戻って来たよ」
やがて、作業を終えたらしい楊さんが扉に視線を向けると、ちょうど小次郎と牛若丸が制御室に入ってきたところだった。すると突然、一陣の風が起こる。その風圧に目を背け、視線を戻した。すると、いつになく深刻な表情を浮かべた牛若丸が、目の前で正座をしている。どうやら、俺の姿をみとめた途端、その身体能力をもって飛んで来たらしい。
「どうしたの?そんな急に…」
驚きを隠せないまま問いかけると、彼女は頭を垂れ、静かに話し始めた。
「恐れながら、主殿。此度の死合、我が力量が足らず敗北と成りました。この上は、我が命を持ってせめてもの償いとさせていただきたく…!」
その声は、悔しさか、はたまた情けなさからか震えており、冗談とは思えない気迫を感じた。それはマシュたちも同じだったらしく、
「ちょ、ちょっと待ってください、牛若さん!さすがに訓練でここまでする必要は!」
「マシュの言う通りだ、侍。一度頭を冷やした方が…」
慌てて止めに入る。しかし、彼女は何としてでもその責を取りたいらしく刀に手をかけ、そこからは、それまでの静けさが嘘かのような騒がしさとなった。
「放してください、マスター、マシュ殿!私は決めたのです‼このような生き恥、我慢なりません!」
「落ち着いて、牛若丸!君がいなくなったら俺も困るよ!」
「そうです、牛若さん!貴女がいないと、我々はこれから先戦えなくなってしまいます!」
「そんなことは無いですよ…。これからはあの佐々木何某が主殿の道を切り開いてくれます。負け犬の私など…」
もう何を言ってもその決意を変えられそうにないが、そうもいかない。彼女は大事な仲間で、これからも力を貸してもらわなければならないのだ。意地でも自刃させてなるものかと、みんなでその細い体にしがみつく。
「君たちー、騒ぐのも良いけど、ちょっと良い?」
そんな中、突然楊さんに背後から声を掛けられ、俺たちはそちらを見る。
「うんうん、良い感じのみんなこっち向いたね。いや、実はね…そろそろ…限かぃ」
と、言い終わるか終わらないうちに糸の切れた人形のように彼女が倒れた。
「「!?」」
とっさのことで俺は動けなかったが、幸い、アルテラが受け止めてくれたおかげで、彼女が床に衝突することは免れた。
「ちょ、大丈夫?いきなりだったけど…」
「ああ、どうやら寝ているらしいが…」
楊さんの体を抱えなおしたアルテラは、確認するように彼女の顔に触れる。その時、背後の扉が開き、誰かが制御室に入って来た。
「おや?様子を見に来たんだけど、もう終わっちゃってたかな?」
「ダ・ヴィンチちゃん!」
室内を見回しながらこちらへやって来た彼…彼女は、アルテラに抱えられている楊さんを見ると、事情を察したように笑った。
「ロマニから話を聞いてね。どうなってるか気になったから、ちょっと来てみたんだ。でも、その感じだと、訓練そのものは上手くいったみたいだね」
「はい、訓練そのものは問題なく終わりました。ただ、突然楊さんが倒れてしまって…」
かがみこんで、楊さんを診ているダ・ヴィンチちゃんは俺の説明を聞くと、さもありなんという風に頷いた。
「実は彼女は…いや、彼女たちスタッフには、ここのところずっとカルデアの復旧作業を手伝ってもらっていてね。特に楊君はプログラムの専門家だったから、カルデアのシステム関係で無理をさせてしまった。あまりにも根を詰めるんで、休めって何度言ったんだけど、まったく聞く耳持ってくれなくてね」
そう言うダ・ヴィンチさんは困ったように、首を振る。
「やっと落ち着いてきたからって管制室から叩き出したんだけど、そしたらまた仕事を抱え込んでくるもんだからさ。心配で見にきたんだ。で、案の定倒れてるとこに遭遇したってわけ」
そうして深いため息をつくと、またいつもの様子に戻って、こちらを振り返った。
「ついでに、君にも一言二言伝えようかとは思っていたんだけど…その感じだと、どうやら必要はないみたいだね」
「…はい」
答えた俺を見たダ・ヴィンチさんは、普段の底が知れない笑顔とはまた違う、どこか
温かさを感じさせてくれる表情で頷いたのだった。
☆
「ねえ、小次郎」
倒れた楊さんを部屋まで運んでくれるというアルテラとマシュ、牛若丸と別れ食堂へ向かう途中、隣を歩くアサシンに声を掛けた。
「どうかしたのか?マスター」
視線を向けてくる彼に、俺は言葉を重ねる。
「今日の訓練で、たくさんのことが分かったよ。だから、ありがとう」
「はてさて、私は牛若殿と試合っただけだが…」
小次郎は、考え込むように顎に手を当てると、再びこちらを見る。その表情は、どこか楽しげだった。
「マスターが何かを見出せたのなら、それなりに甲斐もあったのだろう。その言葉は、素直に頂戴しよう」
少年の、若者らしい唐突な成長を見た気がして、小次郎はその頬を緩めた。
あとがきです
こんにちは、たもんです。これが二作目の投稿になります。今回は佐々木小次郎と牛若丸の試合を中心とした物語になっています。戦闘描写など、拙いどころでは済まない部分も多々ありますが、楽しんでいただければ幸いです。
さて、挨拶は程ほどにして、今回の背景を少しだけ。キャプションにも書きましたが、この話は主人公がフランスの特異点を修復した直後のお話です。当カルデアがモデルなので、時系列的にもサーヴァントの数はそう多くありません。オリキャラに関しては、オペレーターの彼女はともかく、食堂の芦屋さんはやむを得ない措置でした。開始当初の我がカルデアには料理ができる人が一人もいなかったんです。実はキャットができるというのは、あとから知ることとなりました…。彼女たちの細かい設定などは、また別の機会にまとめようと思っています。
評価はともかく、感想、意見等があれば、ぜひお願いします。