剣と杖と先生   作:雨期

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第63話『最初からクライマックス』

 まほら武道会が開催日となり、多くの観客が選手達の勇姿を観るべく集まっている。麻帆良祭全体の参加者からすれば微々たる人数だが、熱気はまるで国際的なスポーツ大会のようにすら感じられる。

 選手である士郎達は専用の控え室で出場まで時間を過ごす。ネギ達はタカミチと親しげに話し合っているが、士郎はただ一人瞑想に耽っていた。先程から感じるねっとりとした視線を無視するように自分の世界に潜る。

 

「……さん……士郎さん!!」

 

「聞こえているよ明日菜。もう時間か」

 

「もー、第一試合も観ないでずっと寝ているから起きないかと思いましたよ」

 

「寝ているわけじゃなくて瞑想していたんだ。小太郎なら問題なく勝てるのも分かっていたしな。じゃあ行ってくる」

 

「あっ、待って下さい! これエヴァちゃんからです!」

 

「…………あいつ」

 

 明日菜から手渡されたのは巨大なしゃもじ。大きな文字で『突撃! 麻帆良の昼ご飯!』と書かれている。まるで嫌がらせのようにも感じるものの、武器として十二分な重さ、強度があるのが解析出来た。手持ちの木刀二本では到底足りないということだろう。

 悔しいくらいに背中にフィットする特製しゃもじと木刀を携え、舞台へと脚を踏み入れた。クスクスと笑う観客達の声がするが、士郎の全意識は既に眼前の敵にしか向いていない。

 

「さあ第二試合!! 麻帆良の用務員さんこと『衛宮士郎』!! 対するはふざけた名前な謎の男『クウネル・サンダース』!! 果たして勝利の女神はどちらに微笑むのか!!! 第二試合、ファイト!!!!」

 

「初戦から貴方と戦えるとは光栄ですよ、エミヤシロウ」

 

「それはどうも、ねちっこい視線の紅き翼のメンバーさん」

 

「おやおや知っていましたか。お喋りな子猫ちゃんがいましたかね?」

 

「さあどうした!? 双方全く動きがない!!」

 

 士郎は木刀を持っているものの、どちらも自然体で話している。第一試合と比べて酷く静かな始まりに一部の観客からはヤジも飛ぶ。それでも二人は動かない。

 

「士郎さんったらどうしたのかしら?」

 

「受けからのカウンターが士郎さんの本領やけど、あっちの人もそうなんかな? せっちゃんはどう思う?」

 

「攻めるに攻められない、という風ですね。僅かに動くタイミングがありますが、罠と気付いて止まっています」

 

「ただ向かい合っているだけやっちゅうのに、どっちの実力もとんでもないのが解るわ…………えっ、俺次どっちかと戦わなあかんの? マジ?」

 

「御愁傷様、小太郎君」

 

「ネーギー!? 決勝で会う約束はどないした!!?」

 

 多くの観客が今か今かと二人の動向を見守る中、ふと風が吹いた。直後士郎が立っていた地面がクレーター状に凹む。だが既にそこに士郎の姿はない。

 

「オオオッ!!!」

 

「っ!?」

 

 クウネルの背後から振り下ろされる双剣。なんとか両腕でガードするがその威力にクウネルの立っている地面も凹む。片や魔法、片や腕力、しかしそのどちらも凄まじい威力だ。

 なんとか士郎を弾き飛ばし、双方の距離は再び離れる。

 

「大した速度です。瞬動術無しであれほどの動きをする人間とは初めて会いました。威力も素晴らしい。鉄球でも叩き込まれたような気分です」

 

「そちらも無詠唱でありながらあれほどの魔法を使うとは思わなかった。一歩遅ければヒキガエルのように潰れていた。しかし随分と悠長だな」

 

「?」

 

──ズドォォンッ

 

「あーーーっと!!? クウネル選手降ってきた巨大しゃもじに潰された!!?」

 

「いっ、たたた……いつの間に投げていたんですか?」

 

「そちらの魔法を避けた時だ…………やはりそうか。あんた、実体がないな」

 

「おや、気付かれてしまいましたか」

 

「それに潰されて『ほぼ』無傷ではなく無傷。さっきの一撃も腕を折るつもりだったのに何もない。解析をしても妙なエラーが出る。流石に気付けるさ。しかしこの大会でそれはズルじゃないか?」

 

「どうしても決勝まで行きたい理由がありますから。お返ししますよ」

 

 投げ返されるしゃもじ。士郎はそれを受け取ることなく避けた。しゃもじはそのまま地面に深々と突き刺さった。重力魔法により何倍にも重くなっていたのだ。

 

「油断も隙もないな」

 

「油断も隙も見せませんね。困りました。15分で貴方を倒しきるのは不可能そうだ」

 

 そう言いながら取り出されたのはパクティオーカード。来たれ(アデアット)の呟きと共に無数の本がクウネルの周囲に展開される。手元のしおりを弄りながらクウネルは問い掛ける。

 

「何故妨害しないのですか? どのようなアーティファクトであれ強化されるのは必然ですよ」

 

木刀(これ)で妨害できるほど甘くはないだろう。それにここで手の内を晒してくれるならネギ君も助かるんじゃないかな」

 

「負けるつもりと?」

 

「さてな。お前が思ったより弱かったら勝つかもしれないぞ」

 

「ふふ……」

 

 クウネルは一冊の本を取り、しおりを挟んで抜き取る。先程までと同じローブを深く被った姿に変わりはないが、感じられる気配は明らかに変化している。

 

「いくぜ」

 

 その動きを捉えられた者は果たして何人いただろうか。一瞬にして間合いを詰めたクウネルから繰り出される拳。士郎が一発受け流せば直後には二発放たれる。あまりにも速い連撃に観客の目は追い付かない。だが士郎はそれらを明確に見極め回避し、防御する。

 

「こんなつえぇ男がいたなんてな!! しかも決勝は息子とやれるなんて、アルもいい舞台用意してくれたもんだぜ!!」

 

 強烈な蹴り上げに士郎は宙を舞う。そこへ追撃の稲妻が放たれたが、足の裏に一瞬だけ投影した刃物を足場に回避する。稲妻はそのまま直進し雲に穴を空けた。

 着地したところへ虚空瞬動を利用した飛び蹴りが見舞われる。ここで強化により誤魔化しながら使っていた木刀に限界が訪れ砕け散った。当然その隙を見逃されるはずもなく電撃を纏った拳が振るわれる。何とか掠めるだけに収めたが、大きく後退させられ、更には掠めた部分からは鮮血が散る。

 

「これで、決め」

 

 トドメのために飛び出したクウネルは直感的に危険を感じ取った。だが今更止まれない。このまま突き進むしかない。そこで目に入れる。士郎が何かを握っている。

 

「! しゃもじか!」

 

 しゃもじにしては巨大だし頑丈なもの。重力魔法で重くしてしまったので重さも十二分にある。しかし双剣に比べて小回りが効かない。振るわれる前に攻め込む判断を下した。

 

是、射殺す百頭(ナインライブズブレードワークス)

 

 クウネルの拳、それよりも更に速く振るわれた斬撃。回避、防御など間に合わず、攻撃目標を士郎から斬撃に変更せざるおえなかった。

 神速の九連撃。四発目までは相殺しきったものの、五発目で拳を弾かれ大きく隙を晒す。無防備な身体に叩き込まれる六発目。それがぶつかるよりも先にしゃもじが粉砕した。いくら士郎が強化しようとも大英雄の技術を模した剣技を耐えきるほどの強度などなかったのだ。

 

「武器が失くなったら勝ち目がないな」

 

「フゥー、ビビったぁ。流石に冷や汗かいたぜ。あんたみたいなのがネギの傍にいるなら安心だ。今度は加減のいらないガチンコでやろうぜ!」

 

「お断りだ。どっちかが死にかねない喧嘩はしたくはないよ。和美! 棄権する!!」

 

「………えっ、あっ、は、はい!! 衛宮選手棄権によりクウネル選手の勝利です!!」

 

──パチ…パチ…

 

 酷くまばらで静かな拍手が会場に響く。超人同士の対決は一般人にとって刺激が強すぎたようで、脳のキャパシティを超えてしまったのか殆どの観客が放心状態になっていた。

 

「素晴らしい戦いでした。貴方がきちんとした武器を使えば勝敗は分からなかったでしょう」

 

「ん? 元に戻ったのか?」

 

「あの姿でいられるのは10分程度ですので。ではエミヤシロウ、また会いましょう」

 

 煙のように消えていったクウネル。そこへネギ達が走ってきた。

 

「士郎さーん!! 怪我治すから見せて!!」

 

「ありがとう木乃香」

 

「す、すごい戦いでしたね」

 

「ほぼ頂上決戦やろ。第二試合で見せるもんちゃうで」

 

「そうでもないぞ。ルールの範囲内での戦いだったし…………あ、投影で足場出したから俺の反則負けかも」

 

「それに気付いた者はほぼおらんわ。お前にして随分と派手にやったものだな。意外だったぞ」

 

 この世界でも極力は神秘を秘匿しようとする士郎のやった試合としては確かに派手なものだった。

 

「もう予選の時点で拡散はされたからな。ただ殆ど剣技だけで対処したとはいえ、やり過ぎだった」

 

「それについてはご安心下さい」

 

 小型のモニターを持った茶々丸がやってきた。モニターには先程の試合が映し出されている。暫く観ていると茶々丸が安心するように言った理由が分かる。士郎とクウネルの動きにカメラの性能が全く追い付いていないのだ。閃光とぶれる人影が映っているだけでどんな戦いだったのか判別のしようがない。

 

「これじゃあ映像が公開されたところでよく分からないな」

 

「…………俺、勝てるんかな?」

 

「…………僕も、不安だな」

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 複数の巨大モニターが並ぶ地下室で超と葉加瀬が話し合っている。

 

「凄まじい試合でしたね。危険因子同士がぶつかるとここまでとは」

 

「これで本気ではないのだから困ったものネ。クウネル、いやアルビレオ・イマは別の目的がありそうだから邪魔にはなりそうにないが、士郎さんがどうなるか問題ネ」

 

「仮に計画の障害となったら、勝てますか?」

 

「勝ち負けというのは勝負になるだけの実力差があって初めて気にするべき事象だと思うヨ。もしも本気の士郎さんが動けばなす術なく蹂躙されるカナ」

 

 はっきりと勝負にすらならないと言い切る超。それでもその顔には余裕があった。

 

「何か策があるんですか?」

 

「味方に引き入れるのは難しくても敵にしないのは比較的容易ネ。ということで出掛けてくるアル」

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