その裂け目を覗いた時、僕はこの世界に
そのことを深く考えなかった僕はそれを年甲斐もなく、ただはしゃいだ。
自分を特別な存在だと錯覚して。
自分には何かを変える力があると自惚れて。
まるで夢を見ているような心地だった。
そんな思い込みを、黒く揺れる悪夢が今生の両親ごと消しとばした。
すべては中国で光る赤子が産まれたことから始まったそうだ。
超常的な力を持つ人間が認知されるようになってから幾星霜。
この世界では人間の八割超が個性と呼ばれる特異体質を持つという。
人間というのは、大なり小なり力があれば振るいたくなるものだ。
思うままに個性を使いたい乱暴者。欲望のままに個性を利用する犯罪者。
持ち主の意思によらず多くの被害者を生みだしながら、存在し続ける災害のごとき個性そのもの。
そんな輩を“
そんなヒーローを育成するためのカリキュラムが組まれるヒーロー科。
その中でも僕らが所属する雄英高校はヒーローを数多く輩出しているので、国内の数多あるヒーロー科よりも遥かに注目されているのだ。
特にその体育祭は日本中が注目しているといってもいい。
だからこそ、はりきり過ぎてしまう生徒が出てくることもある。
遺憾ながら、体育祭の競技で両腕を自損した我が友人もそんな人間の一人でしかないのだ。
●●●●●●●●
「出久。生きてますか」
「あっちゃんも来たんだ……」
紫髪の少年、或田が保健室を覗くと、両腕にギブスを巻いてベットで横になる彼の幼馴染、緑谷出久がいた。
気づかいを微妙な反応で返されたが、周囲を見れば気持ちはわかった。
保健医のリカバリーガールはもちろん、ナンバーワンヒーローで雄英教師のオールマイトや、自分と同じく彼を心配して見舞いに来たであろう一年A組の生徒四名が扉の前をふさいでいる。
なかなかの人口密度に、人気者で何よりだと顔を薄くほころばせた。
入口をふさいでいることに気づいたメガネで真面目顔の飯田が、道を開けて或田を保健室へ招きいれた。
彼や、部屋にいるふわふわとした印象の少女、麗日は緑谷を通して或田と知り合いである。
「君もお見舞いか」
「ええ」
「誰だ?」
「B組の或田君!デク君と爆豪君の幼馴染なんだって」
「幼馴染で雄英に受かりすぎじゃね!?」
麗日による紹介にブドウ頭で背の低い少年、峰田が憤慨気味に叫ぶ。
なにせ雄英は受験だけでも倍率三〇〇倍を誇る難関だ。
ヒーロー科に知り合いが何人も受かる確率など高くはないのだから当然の反応である。
「ケロ。緑谷ちゃんのお友達なのね」
「ええ。初めまして或田といいます」
「蛙水梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」
「喜んで梅雨ちゃん」
初対面だったあまりにもカエル然とした少女、蛙水や峰田と笑顔で握手を交わしてから或田は緑谷に向き直る。
向けられた顔から笑顔が消えたことを目撃した緑谷はこの後どうなるかを察した。
次の瞬間、保健室内に怒鳴り声が響いた。
「馬鹿なんですか君は!!」
「あっちゃん、ちょっと待って」
「自分の個性で腕壊したうえに壊れた腕でそのまま戦うとか対戦相手じゃなく自分を叩きのめしたかったんですかマゾなのかい!」
「いや、僕が勝とうとするとああするしかなくて……」
「全力と無謀をはき違えている!昔からちょっと無茶をする男だと思ってましたがどんでもない悪化をしてるじゃないかそういうところは爆豪以上の問題児ですよ問題点わかってますか!?」
「お、落ち着いて……」
反論をすべて無視してまくし立てる或田に緑谷は悲鳴をあげる。
緑谷から言わせれば、悪化しているのはお互い様だ。
この幼馴染は一度本気で怒りだすとこのように自分の主張を吐き出して落ち着くまで、こちらの意見を一切聞いてくれなくなるのだ。
普段はともかく、こうなった時の彼はもう一人の幼馴染、爆豪勝己と同じくらい苦手だ。
こういう性格だったから爆豪と言い争いになってばかりだったと記憶している。
仲裁しようとして自分にも文字通り火の粉が飛んできた回数と同じなのでよく覚えている。
「すごい叱られとる!」
「なぜか既視感があるな……」
「キレ具合が爆豪みてぇだな」
「緑谷ちゃん、そういう人と縁があるのかしら」
おとなしそうな見た目をした或田の豹変に目を丸くしていた四人は、その様子がときどき見かける緑谷と爆豪のやり取りを思い出し、幼馴染であることに妙な納得を覚えてしまっていた。
しかし、怒りの内容は相手を心配してのもので、似ているようで本質は真逆だ。
呆れるリカバリーガールや、口を出そうにもトゥルーフォームでは声で生徒たちに正体がバレてしまうかもとオロオロするオールマイトにかまわず或田の説教は続く。
「だ、だって雄英体育祭だよ?みんな本気でヒーローを目指してるんだ。無茶してでもアピールするのは当然じゃないか」
「すぐボロボロになるヒーローなんて助けられる側から見れば怖いどころか不安になるだけ!場合によっては守られる人間が自分のせいで君が傷ついてると思うかもしれない。君は自分をそんなヒーローだと主張したかったんですか!?」
「或田君そろそろ落ちつきたまえ!気持ちはわかるが怪我人をそんなに怒鳴りつけるなど感心しないぞ」
飯田に制されながらも怒りを治めない或田に緑谷は答えに窮した。
そんなつもりは毛頭なかったが、障害物競走でトップになった以外では目立つ活躍ができなかったせいもあって、緑谷の最後の試合をみればそんな印象ばかり残っても仕方ないかもしれない。
「どれだけヒーロー科にとって重要だろうとたかが体育祭だ。今回だけじゃないんだからいきり勃って結果を出そうとする必要ないでしょう」
「そんな悠長なこと言ってられないよ……」
「焦った結果が制御できない力とその腕、リカバリーガールに治してもらうことが前提の戦方」
「それは……」
「全力で挑むのは怪我しない方法を見つけてからでよかったんじゃないですか」
或田の横で聞くオールマイトの体がこわばる。
緑谷に向けられた言葉は、その実オールマイトに突き刺さった。
一番になってその存在を示してくれと言ったのは、他ならぬ己だからだ。
それを尻目に、少々落ち着いてきた或田は毅然と続ける。
「A組の担任が厳しいのは聞いてる。USJ事件で思うところがあっただろうし、その個性に慣れてないから焦るのはわかる。轟君……だったかな?彼とはああしなければいけなかった理由があったのはさっきの試合を見ればわかるさ」
緑谷の行動が、彼の対戦相手であった轟焦斗の心に変化もたらしただろうことは想像に難くない。
それをわかったうえで言う。
だからこそ君には言わずにいられない。
「どんなに焦っても、僕らは最低でも三年間はヒーローになれない。あんなことを続けたらその三年で身体を壊して生活もままならないようになるか最悪、君が死んでしまう」
「それは大袈裟じゃ……」
「ないと言い切れないだろう」
仮免許を取得することはできても、正規のヒーローとして動き出せるのは卒業してからの話だ。
自分たちの本番はヒーローになることではなく、ヒーローとして生きていくことだ。
だから、あんな無茶を繰り返さないでくれと懇願する。
「出久、僕は個性に友達まで奪われなきゃいけないんですか……?」
「……!」
緑谷は押し黙る。
こちらを見る或田の目が、本心から自分を心配していると訴えかけてくるからだ。
この幼馴染は
だから、個性そのもので身近な人間が傷つくことに敏感になっているのかもしれない。
「さ。そろそろ出てってくれないかい。これから手術なんだから」
或田の言葉の圧力に誰もが言葉を発せずに静まり返ったところを見計らってリカバリーガールが生徒たちに退室を促した。
手術ー!?と、緑谷の怪我の重さが想像できる響きに驚く少年たちを小柄な老婆が追い出す。
本当はもっと早く手術を始めたかったが、或田の事情を考えれば自分たち教師たちが叱るより緑谷には効果があるだろうとリカバリーガールはここまで静かに見守っていたのだ。
「……まぁ、あとは先生方がいってくれるでしょう」
「あっちゃん」
お願いします、とオールマイトに言ってから、促されるまま部屋を出ていこうとする或田を緑谷が引きとめた。
「なんですか」
「君の言う通りかもしれない。でも、僕はこうなったことを後悔しない」
「……」
「だって全力で目の前のことに挑まないのは……きっと『弱い考え』だと思うから」
幼い頃に或田が言っていた強くなる方法。
逃げる、諦める、楽をする。
そういう自分が間違っていると思う弱い考え方に反逆し続けること。
無個性のままヒーローになろうとあがき続けた緑谷がずっと心に留めていた言葉だ。
「……結局こうなるなら、そんな言葉教えなければよかった」
揺るぎない眼で見つめ返してくる幼馴染に、或田は悔やむように呟き保健室を去っていった。
●●●●●●●●
「よぉ俊典」
治療を終えた緑谷と別れたばかりのオールマイトに声をかけたのは、ジーンズと「55」と胸に書かれたパーカーに身を包み、眉毛の尻から先が前髪のように長く伸びるスキンヘッドの老人だ。
「貴方は……アルター仙人!お、お久しぶりです」
名を或田扇仁。
ヒーロー名をアルター仙人というまんますぎる名称で登録しているこの老父は、その昔グラントリノとともに未熟な頃のオールマイトに稽古をつけたことがある、オールマイトの師の一人だった。
加えて、B組の或田の祖父でその保護者でもある。
「お孫さんの応援にいらっしゃったのでしょうか」
「それもある。が、今日はお前に用がある」
孫は可愛いというし過剰な指導をしていないかと釘でも刺しに来たのだろうか、とオールマイトは緊張から身構えた。
アルター仙人は持った瓶からジュースを一口飲んで一拍。
「指導はもっと厳しくやらんか!孫から様子は聞いておるが生っちょろい。生きるか死ぬかの際まで追い込まんと修行にならんわいバカモン」
むしろスパルタ要求された!?
オールマイトはかつての修行の日々を思い起こそうとして脳が拒否をする。
有り体に言えば、地獄だった。
ただでさえ吐くほどであるグラントリノの修行が、彼がいるだけで輪をかけて苦しくなるのだ。
それ以上を考え出すと体が思わず震え、奥歯がカチカチと鳴りだしてしまう。
「あの青二才は自分を一人前だと錯覚しとる。己の乳臭さを棚にあげて『今すぐにでもヒーローの資格が欲しい』などと、あの厚顔無恥めが!」
「いえ、私の授業は戦闘訓練ばかりではありませんし……それにアルター仙人のご指導を基準にしますと、その、生徒たちの四肢が無事では……」
「かまわん。もぐ気で行けい」
「愛情は何処に!?」
孫にも厳しい別種のモンスターペアレントの発言にオールマイトは吐血しながら驚愕した。
或田が無茶をした緑谷にあそこまで食い下がったのは、この人の教育方針への不満が原因ではなかろうかと邪推するほどに苛烈な意見である。
教え子だからと無茶を振りに来たのではないかと及び腰のオールマイトを前にアルター仙人はフンと鼻を鳴らす。
「娘夫婦が敵に殺され……遺されたたった一人の孫。可愛くないわけなかろう」
「では何故……」
「あやつが持つ宿命は重い。ある意味ではお前が受け継いだもの以上にな」
「ギャラン=ドゥ、ですか」
ギャラン=ドゥ。
アルター仙人の娘夫婦、つまり或田少年の両親を襲った敵のコードネームだ
その正体は、持ち主に反逆しその肉体を奪い取った自由意思を持つ個性そのもの。
その特性は“本体から独立して周囲の物体を分解・吸収し、己のエネルギーに変換する”もので、元である人物とおなじくお喋りな個性だったという。
人の形をなした黒く燃える炎に人骨を思わせる鎧を取り付けたような姿をするそれが何故、主人に反逆したのかは誰にもわからない。
肉体を奪われたと同時に持ち主が死亡し、個性自身の意思も消滅し喋ることができないからだ。
問題はその後だ。
そのまま消えると思われたその力は、しかし暴走する『個性因子の結晶体』となり死体を核に意思を持たぬまま一人歩きを始めたのだ。
通り道で分解と吸収をしながら、である。
個性が生みだしたおぞましい災害。
ギャラン=ドゥによる被害を見たものがそう語る。
予兆もなく現れては膨大なエネルギーを解き放ち、森を潰し街の一画を破壊し生き物を蹂躙する。
そうして植物やガレキ、動物、人間を己のエネルギーに変換しては空間に裂け目を生みだしてその中へ飛びこみ去っていく。
自然災害と違うのは、破壊の跡に塵一つ、死体一つ残らない更地に変えていくことだろう。
当然、ヒーローや警察は撃退せんと行動を起こした。
だが、前兆もなく日本各地に現れ出ては暴れ数分と立たずに溶けるように消える相手にヒーローの現着が間に合わないのだ。
居合わせたヒーローが抵抗することもあったが遠距離からの攻撃は吸収され、ある時には格闘系ヒーローが生きたまま分解され殉職したことさえあった。
一度消えれば年単位で姿を現すことがないことや発信機を遠距離から打ち込んでもすぐさま分解されてしまうことが、追跡を困難にさせている。
ギャラン=ドゥが初めて確認されてから十七年、未だに有効な対策を立てられないままでいる。
或田は十年前、そのギャラン=ドゥに家族とともに遭遇し両親を目の前で分解されている。
しかし、或田自身は
その後も幾度となく奴と対峙している。
「ここ十年の奴の行動、出現場所、頻度……あきらかに孫を狙っておる」
或田がプロたちを差し置いてギャラン=ドゥの出現を察知して挑んだわけではない。
ギャラン=ドゥが彼の居場所に湧いてくるのである。
無作為に暴れるだけだった奴が、十年前に或田の家族を襲撃したことを皮切りに少年が目的であるように執拗に追い立てる姿が確認されるようになった。
「彼の持つ個性がギャラン=ドゥに似ているからでしょうか」
物体を分解して利用する、という点が或田の個性とギャラン=ドゥの性質の共通項だ。
それがどう作用しているのかもギャラン=ドゥが彼に付きまとう理由も解明できていない。
唯一吸収できなかったものに執着しているのか、それとも彼の個性に脅威を感じているから排除したいのか。
「詳しくはわからん。わかっておるのは奴を倒せる可能性が有るのはあやつだけということじゃ」
ある時、ギャラン=ドゥの対策に或田を組み込む案があがった。
それは「ヒーローが彼を護衛しギャラン=ドゥが出現すれば足止め、もしくは人のいない場所へ誘導させて複数のヒーローで叩く」という作戦だった。
一般人の少年を敵討伐に協力させるうえ囮のように扱うことに関係者からも反対の声があがっていたが、他に方法がない現状や当人から協力させて欲しいという強い要望がその苦肉の策を成立させた。
結果だけ言えば失敗。
誘導は上手くいったもののヒーローたちの個性はギャラン=ドゥに通用せず、ダメージを与えられたのはヒーローたちの前へ飛びだした或田のみで、背骨らしき部分の一部を砕いたという。
しかし、それもすぐに再生してしまい逃走を許してしまった。
「ヤワな鍛え方では荷の重さに潰されよう。加えて、最近ちまたの敵の動きもきな臭い。ワシらにできるのは、それらに負けぬよう少しでも太く大きく育ててやることだけじゃ。そしてそれはお前の後継者にも同じことが言える。そのついでで良い……頼むぞオールマイトよ」
「……はい。できる限りのことは尽くします」
オールマイトから緑谷に受け継がれた個性“ワンフォーオール”。
それはある巨大な悪を打ち砕くために人から人へ託されてきた聖火のごとき力の塊。
OFAの継承者たちは、力だけでなくその使命と想いを理解してOFAを鍛え、そして誰かに渡して来た。
緑谷もまた次代の平和の象徴となり、いつか生まれるかもしれない新たな巨悪と戦う役目を引きうけるため、強くなろうと懸命になっている。
だが、或田は違う。
ある日突然ギャラン=ドゥにすべてを奪われ、己に付きまとう脅威は今も取り除かれていない。
誰に押し付けられたわけでもなく、命を奪わんと迫りくるものに抗う唯一無二の能力を手に持ち、その意味を教えられる人間もいないまま立ち向かうしかない。
唐突に降って湧いた因縁とはどれほどの重さであろうか。
人々を苦しめる怪物と離れることもそれを倒すこともできない苦しみは、初代OFAが抱いたものに近いのかもしれない。
奴をなんとかしないことには、彼の人生に平穏はない。
彼がヒーローを目指すのは、その宿命に自分の手で決着をつけなければならないゆえの結論なのだろうか。
「ところでアルター仙人」
「なんじゃ。ジュースならほれ、お前の分もあるぞい!今のお前でも飲めるもんじゃ」
「あ、お気遣いいただきありがとうございます……いえ、そうではなく」
どこからか取りだされた『アルタージュース・Mr.仙人』と書かれた瓶を受け取り、B組の授業を受け持った時から感じていた疑問をジュースを煽り飲む老人に投げかけた。
「私の身体のことをお孫さんには……」
「教えるわけ無かろうが」
「デスヨネ」
アルター仙人は平和の象徴の弱体化を、孫だからと話すほど口の軽い老人ではない。
だからこそ、オールマイトの先代継承者、志村からOFAの真実を明かされるほどの信頼をうけ、今日までその秘密が公になっていないのだから。
「急になんじゃ。そんなことを聞きおって」
「或田少年が私の秘密に気づいている節があるのです」
或田の様子を鑑みるとオールマイトの活動限界を気遣っているように思うことが度々ある。
保健室でのこともそうだ。
トゥルーフォームのオールマイトを見ても不審に思わず、教師であると確信している言動だった。
ふむ、とあごに手を当ててアルター仙人。
「あやつの個性であれば、お前の体の異常に気づくこともあるやもしれんな」
●●●●●●●●
『長かったトーナメントも残るは二試合ィ!ファイナリスト最後の一枠奪いあうこいつらの一戦を見逃すんじゃねえぞォー!』
競技会場のスピーカーから、ヒーローにして雄英教師であるプレゼントマイクによる大音量の実況が、ステージへあがっていく或田や爆豪のもとへ降り注ぐ。
「やっちまえ或田ー!」
「頼むぜB組代表ー!」
「A組よりB組の方が優れてるってことを見せてあげなよぉ!!」
「あんまり気負わずにやんなー!」
一年B組の観客席から届くクラスメイトからの声援に或田は腕をふって応える。
先日の敵襲撃事件から、同じヒーロー科一年生でありながらA組ばかりが目立つ事態に不満を抱いていた彼らは、唯一ベスト4まで残った同級生を全力で応援する。
「テメェのそのモブ面、ようやく思いっ切りぶっ潰せる」
「君も本当に変わってないな……」
「あァ?」
「君の方は性格を除けば、安心して見ていられるというのが本当に質が悪い」
いえこっちの話です、と諦めと苦悩を気取った顔が爆豪の癪に障る。
こいつは全力でぶっ殺す、と新たな決意を籠めてに睨みつけた。
その目付きはいつもより二割増しで吊り上がっている。
爆豪が幼い頃の記憶。
自分が喧嘩をすれば首を突っこみ叱りとばそうとし、他の園児を泣かせれば無個性だったデクと共に立ちふさがる。
いちいち上から目線で説教してくるそいつには、そのハズレ個性と相手の名にちなみ「スカ玉」のあだ名をくれてやった。
「その妙に他人を見下した面が昔っからムカつくんだよ、このスカ玉ァ……!」
「相変わらずなのはお互い様ですよ。他人の名前はちゃんと呼びなさいと何度言わせれば気がすむんですか君は」
「覚えてねぇよテメェの名前なんざ!」
「あだ名は律儀に覚えているのに……!?」
呆れかえって頭を抱える対戦相手には、おぼろげながらも爆豪の記憶にいる腹の立つ「スカ玉」の面影がある。
特にスカした目つきがガキの頃から何も変わっていない。
小学校にあがってすぐに転校していった、爆豪にとって覚えておくのも億劫だったかつての因縁。
実際、四月頭に食堂で声をかけてきたときは本気で誰かわからず、デクが仲介して「そんな奴もいた気がする」とぼんやり頭に浮かびその後の会話の不快感で完全に思い出すという有様だ。
忘れていたかったことをわざわざ思い出させる、その顔と親の小言のような物言いに爆豪の目は更に吊り上がる。
試合が始まるよりも先に爆発しかねない形相だ。
「だったら今ここで覚えてもらいましょうか。君に勝って!」
「言ってろクソモブ面!!」
『準決勝第二試合。或田対爆豪!』
プレゼントマイクの実況がひと際大きく会場に響く。
開始とともに動き出すために二人は戦闘態勢に移行する。
『START!!』
「くたばれェ!」
開幕の合図と同時に全力の爆撃が、おおよそヒーローを目指す人間から出るとは思えない発言とともに放たれた。
爆豪の個性“爆破”は、手の汗腺からニトロのような爆発物を分泌することで発揮される。
その性質上、動けば動くほどに汗を出しやすくより強力な爆破ができる。
スロースターターのように思われるが試合前のウォーミングアップによって、既にある程度の爆破が可能だ。
爆豪の憤怒をまとめて解き放ったかのような一撃は、相手を消し飛ばさんとばかりに巻きあがる黒煙と爆炎をもって或田の姿を容易に覆い隠す。
傍目には、今の爆破を食らって無事だとは思えないだろう。
「……チッ」
その予想を、煙の先から覗く緑色の輝きが否定する。
その防御方法は一回戦の試合で見ているため爆豪の予想の範疇である。
舌打ちは防がれたことに対するものではなく、防御ごと相手を吹き飛ばすことができなかったから漏れ出たものだ。
「僕は力を示さなければいけない。そんな小手調べでやられていられない」
一歩。
煙から外に出るように足が踏み出さる。
少しずつ晴れていく爆煙の先から、鋭い眼光と片腕を爆豪へと向ける無傷の或田が現れる。
その前には爆破を阻んだ複数の球体が、盾を作るかのように並び浮かぶ。
「君たちがどこまでも上を目指すように、十年。ここまでシゴキ上げるまで十年もかかりました」
或田の個性は「周囲の無機物を分解・再構築して生命エネルギーを活性化させる浮遊物体を精製する」ものだ。
形成した複数の物体に溜めたエネルギーを相互に活性化させ、その周囲に質量を持つほどの光を発生させることもできる。
使い方次第では盾にも剣にもなり、他人に力を分け与えることも可能な変幻自在の力。
しかし個性が発現した当初はその力を上手く使えず、できるといえば近くの人間の生命エネルギーを刺激して身体を少し温める程度だった。
子どもたちに「浮くカイロ」などとバカにされたことを或田は覚えている。
ある爆発ガキ大将の個性を相手に容易に吹き飛ばされる有様で、更生させるどころか問題児をより増長させてしまったのではと悩んだことを覚えている。
だがその不甲斐なさと己の個性の本質を知っていたゆえの悔しさが、鍛えなければと決意させる起爆剤となったのは確かなことだ。
そうでなければ、ギャラン=ドゥと初めて遭遇した夜に両親とともに分解されていた。
いずれ己の宿命を清算するために、祖父の修行から生き延びるために、意地のために。
十年間砥ぎ続けた力はようやく正しい扱い方が出来るようになった。
「さぁ、刻んでもらいますよ。僕の名と個性……」
或田の周囲に浮かぶ八つの宝玉が己の存在を誇示するかのように光を放つ。
「この或田あすかと“エタニティエイト”を!!」
宣誓。
今、向き合う爆豪にだけではない。
この試合を見るすべての眼に向けて。
友に。守るべきヒトに。ヒーローに。名も知らぬ人々に。何よりも敵へ。
この世界に自分はいると、この名を刻み忘れるなと吼え猛る存在証明。
示すだけの力はもう有ると、今すぐにでも忌々しい悪夢とも戦うことができると見せつける。
自分の存在する意味を勝ち取るために歩き出す。
「イキますよ……僕のタマは、今とてもカタい!」
カズマとかクーガーだと思った?残念!社長でした!
そう言いたかっただけだったのにどうしてこうなった……。
描きたいとこだけ書いただけなのに時間かかったうえにやたら疲れた。
初めてやってみると小説家やシナリオライターの凄さがわかる。
以下、聞かれてもないことを勝手に言うコーナー
Q、なんで社長?
A、最初はテンプレにならいシェルブリットしたかったが、カズマがお行儀よくヒーローやる訳ない君島ブローカーにしてヴィランで好きに暴れるだろ、の思いが邪魔し断念。
早口の表現が再現できないし、飯田の立場がないのでクーガーもダメかな、なら劉鳳?
となったところで社長を思い出し、社長ならヒロアカの「未熟なヒーロー候補生の奮闘」というのに違和感がないと天啓を得て採用。
エタニティエイトも万能という名の器用貧乏の代表みたいな支援で輝くけど結構戦えるっていうヒロアカでは少ないタイプなのでいいかな、と。
まぁ転生オリ主なんですが。
Q、オリ主のはアルターなの?
A、転生特典のアルター能力
……などではなく「エタニティエイトに似てるだけの個性」。
本来は本文で書いた通りの分解精製式携帯浮遊カイロで終わる弱い個性なのですが、どうみてもエタニティエイトにしか見えなかったことでスクライドの知識を持ったオリ主が個性ではなくアルターだと勘違い。
結晶体に襲われたことやアルター仙人が祖父だったことで勘違いは加速。
思い込みだけで「エタニティエイトができることは大体できる個性」にまで進化させた、実は努力型オリ主。
今も自分の力は特殊だと勘違いしたまま進化を続けている。
たまにスクライド!と叫ぶが、とくになにもおこらない。
Q、なんで結晶体にオリ主の個性しか効かないの?
A、実は個性で分解・再構築したものは吸収できないだけ。
なのでオーバーホールさんとかそれに治してもらってる矛の人とかなら簡単に倒せる。
今後そういうヒーローが原作に出た場合、今作は一気に破綻する。
Q、オリ主が見た裂け目って?
A、暴走したての結晶体が開けた「向こう側」の入り口。
ギャラン=ドゥさんは元気が有り余っていたのでオリ主の世界まで貫通させてしまい、運悪くオリ主は「向こう側」に取り込まれ分解される運命のはずが、どういうわけか運良くヒロアカ世界のオリ主母の母体へ着地。
オリ主はただの被害者Aさんである。
ちなみにオリ主母、結婚して橘性だった。
Q、デク怪我してるけど特にオリ主の影響ないの?
A、調子乗ってたオリ主がちょっとでも強くしようと教えたトリーズナー精神で原作よりもマッチョです。
が、フルカウルを思いついてないので全力ぶっぱでボロボロは変わらない。
一話前から鍛えてるなら大丈夫なんじゃないのと言われそうですが、デクに渡されたOFAは歴代の力+鍛えぬいたオールマイトのパワー状態なので、素人の筋トレでそれに耐えられるほどの筋力が付くと思えないので100%はまだ無理。
原作でメキメキ上がるパーセンテージはオールマイト直々の筋トレメニューとOFAがデクに馴染んできた説を今でっち上げます。
Q、オリ主USJではなんもやってないの?
A、普通にB組の授業中でした。
オリ主はスクライドは漫画版ふくめ何度も見てるが、ヒロアカは一回通して見てるだけなので覚えてる知識は
「緑谷、憧れの人の髪を食う」
「爆豪、クソ下水煮込みの天才」
「オールマイト、弱る」
ぐらいというクソ雑魚転生者なので原作知識でTueeeはほとんどできません。
覚えていられるほど平常な人生も送れていない、原作知識が役に立たない事件ばかりなのもある。
Q、峰田が「誰だ?」って聞いてるけど、トーナメントに行ってるなら名前は判るだろ
A、峰田なら他のクラスの女子の名前は把握してても、男子は興味ないとか有りそう。
Q、社長なら恋人のキャミィいるの?
A、いるかも知れない。堀越ワールド的に考えて、個性は多分キャミソール操る個性。
もしくは名前繋がりで際どい緑ハイレグの格闘家。
ペットと一緒に体育祭をテレビでみてるかも知れない。いないかもしれない。
Q、なんでB組
A、だって社長はB級だから……。