鬼の体でFate   作:辺境官吏

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第二十三話

─────新都ビル。

 

その屋上で俺とアーチャーは周囲を警戒していた。

下から狙撃されないように、ややフェンスから距離を取り待ち構える。

 

「──────。」

 

───深呼吸。

下界からは救急車のサイレンと車のクラクション、我先に避難しようとする人の怒号が聞こえてくる。

なにせ複数の隕石が広範囲に落ちてきたようなものなのだから。

衝撃と爆音に叩き起こされた人々には最悪の目覚めになったことだろう。

 

アーチャーの指示で人のいない学校や、避難所となりうる公民館は真っ先に潰したが、彼方此方から火の手もあがっているし、これで冬木から逃げようとしない者はいないはずだ。

この騒ぎで何人死んだんだろうか。

………考えても詮無き事か。

 

 

「────くるだろうか。」

 

 

警戒を怠らずアーチャーに声をかける。

自然体でいつどのような攻撃にでも対応できそうなアーチャーがいると心強い。

俺に出来るのは大火力をぶつけることぐらいだ。

 

 

「────間違いなく来るだろう。」

 

 

これだけ派手に街中を破壊したのだから、ランサーなら必ずくるだろう。

奴のマスターは冬木にいるのだから。

事情を知らないランサーならこのまま俺が町中を破壊し続けると考えるのが自然。

そうなれば聖杯戦争に支障が出るし…なによりただの人間のマスターなら流れ弾でも危険だ。

必ず排除に向かわせるはず。

 

 

───セイバーのところに向かう事はないだろうが…念のために確認しておくか。

 

 

《セイバー。聞こえるか。そちらはどうなっている。》

 

《聞こえます。シロウの読み通りタイガと名乗る女性が家にきましたが、リンが暗示をかけてサクラとともに避難させました。…サクラには暗示をかけていませんが恐らく大丈夫かと。》

 

《方角は。》

 

《東へ。柳洞寺と新都の方向は避けてアインツベルンの森を大きく迂回して県外に出る予定です。ひたすら東へ行くように指示しています。》

 

新都で大規模な戦闘がおこったとしても巻き込まれる可能性は低いか。

 

《いい判断だ。セイバーは今どこにいる。》

 

《屋敷にいます。サクラ達に同行して護衛しようかと思いましたが、私達がいることで逆に狙われる可能性があると判断しました。》

 

人質をとるようなサーヴァントはもう滅ぼしたし、仮に暴徒に巻き込まれたとしても藤ねえなら問題ないだろう。

あの黄金のサーヴァントがそういった行為をするとも思えないし、イリヤもしないだろう。

つまり俺達が近づかない方が安全を確保できる。

 

《それでいい。…そちらにランサーが行く可能性もある。もし現れたら加減はいらない。即座に宝具を解放しろ。アーチャーを呼び戻しても構わない。何かあれば連絡してくれ。以上だ。》

 

《───わかりました。》

 

 

セイバーとの念話を終える。

 

 

 

───まだランサーは現れない。

あの性格なら一目散に襲撃に訪れると思ったが…。

 

「アーチャーならビルの屋上に立てこもる敵はどうやって倒す。」

 

「───私なら狙撃するか、ビルを破壊して地面に叩きつけてから…やはり狙撃する。いい的だからな。」

 

模範解答だ。俺でもそうするだろう。わざわざ身を危険に晒さない。

 

「このビルは周囲より一段と高い。半端な高さからでは射角が取れないぞ。」

 

「………クーフーリンは優れた魔術師でもある。そしてその敏捷性は脅威だ。ビルの屋上の高さに飛び上がる事も出来るだろう。」

 

「だがそうなればアーチャーの攻撃は避けられない。」

 

「当然だ。いくら半神といえども遠距離戦で遅れはとらない。───つまり奴の狙いは近距離戦。だがどうやって近づく。」

 

出来る限りバレないように近づく方法。周囲に遮蔽物のないビルの屋上。

高高度からの降下か、順当に登ってくるか。

 

「壁面、階段を駆けあがる───否、下かッ!!!」

 

 

───気づくと同時、真下のコンクリートが盛り上がり、ランサーが飛び出してくる。

反射的に距離をとるため飛び退き───失策を悟る。

 

 

「──終わりだ小僧───突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)──!!!」

 

 

こちらを目指し放たれた赤い流星は───

 

 

「───熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)──ッッッ!!」

 

 

しかし、同じく赤い花弁によって阻まれる。

 

拮抗したかに見えた槍と盾だが───1枚、2枚と容易く破られていく。

 

「うぉぉおおおお─────!!!」

 

アーチャーが魔力を籠めるが───3枚、4枚───。ほとんど対抗出来ていない。

 

───長くは保たない。刹那で打開策を考えろ。ここでアーチャーを失うわけにはいかない。

 

アーチャーに魔力供給?───不可。パスが通っていない。

槍を炎で溶かす?───可能。だが時間が足りない。却下。

槍を弾き飛ばす?───可能。だが必中の概念が付与されている可能性が極高。却下。

アーチャーを遠坂に召喚させて逃がす。───可能。だが槍は俺に向けて放たれた。却下。

セイバーを召喚。───背に腹は代えられない。

 

《───こいッ!!セイバ───ッ!!!》

 

───令呪を一画消費し、セイバーを召喚。

───同時、未だ空中で槍を射出した体勢のままのランサーに呪いを送る。

 

「クーフーリン。今すぐアインツベルンにご飯を─「─────しつけぇんだよくそがッ!!!」─食べに来てくれ───。」

 

憤怒の表情で耳から血を垂れ流すランサー。

全てを聞く前に鼓膜を破壊する判断力は流石だが…俺の前に五体満足で立てると思うなよ。

───空中(そこ)は既に死地だ。

 

「───やれ。」

 

「───約束された勝利の剣(エクスカリバー)──!!!」

 

これで決まりだ。直撃コース。不可避のレーザー攻撃。

圧倒的な光の放流がゲイボルクを巻き込みながらランサーを飲み込み───。

 

───直前で空気を蹴って避けられる。

 

「────へっ、いいもん持ってるじゃねぇか。」

 

壁際ギリギリに着地したランサー。

だがエクスカリバーを完全に避けることは出来ず、右半身は炭化しており、ゲイボルクは消失。聴覚も失い、満身創痍。

 

この機を逃せない───が、焦るな。

敵は手負いの獅子、諦めの悪い狂犬だ。不用意に近づくのは危険。遠距離から確殺する。

 

 

「…チッ。不味ったぜ。まさか一人も仕留めれねーとはよ。嫌な野郎だ全く…。」

 

 

まだ悪態をつける余裕がある。左半身は無傷に近い。

跳躍は可能と判断。奥の手を持っている可能性もある。

伝承からみても死にかけが一番厄介だ。油断は出来ない。

 

 

《─────軽口に付き合う必要はない。どうせ何も聞こえていない。セイバー、俺に合わせろ。》

 

 

セイバーを俺の右手前に配置。仮にランサーが何か放ったとしてもセイバーが防ぐ。

 

ランサーの目はまだ死んでいない。

半端な攻撃では躱される。

───絶対に逃がさない。俺の命を狙った罪はその魂で払わせる。

 

相手は半神。無策で近づく事は出来ない。

遠距離から───速度重視の攻撃を放つ。

 

 

「───塵も残さず消えろ。」

 

 

放たれるは炎の魔弾。光速に迫る不可避の熱波。

白熱するレーザービームが両目から放たれる────!!

莫大な熱量が周囲を焼き払い、ビルを溶かしながら一直線にランサーに突き進む──!

 

 

「オォォオオ─!!───原初のルーンよッッッ!!!!」

 

 

絶妙な角度で配置されたルーンの結界によりビームを空へ反らされる。

正しく絶技。神域の技量。反射を超えた予知の領域。

 

 

────しかし、その反動でランサーは空中に弾き飛ばされる───!!

 

 

「────終わりだ。やれ。」

 

 

「───約束された勝利の剣(エクスカリバー)──!!!」

「───壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)──!!!」

 

 

間髪入れずに放たれる光の放流と、投影爆弾──!!

 

今度こそ────ランサーに命中!!

一瞬の抵抗も許さず─────消滅を確認。

 

 

「───警戒を怠るな。腐っても半神だ。蘇生しても不思議ではない。」 

 

 

────周囲を警戒、索敵。

 

 

─────。

 

 

「────シロウ、もう大丈夫でしょう。」

 

 

───警戒を解除する。

 

 

「………反省は後だ。帰るぞ。」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

霊体化したアーチャーと、セイバーを伴いビルの屋上や電柱を跳躍しつつ思索する。

 

───考えるのはクーフーリンのこと。

威力を限界まで抑えたとはいえ眼からビームを弾かれるとは思っていなかった。

…スペックでは圧勝していた自負があるが、やはり豊富な経験と特殊なスキル───究極の一を持つ英霊とは相性が悪い。

 

圧倒的に技量、経験が足りないな…。

………形振り構わなくなればどうにか出来るだろうが…ダメだな。

真に追い詰められた時の最終手段だ。…日常を取り戻すために日常を破壊しては意味がない。

 

 

…さて、残るはバーサーカーと黄金のサーヴァントの2体。

バーサーカーはどう見ても近距離戦闘を得意としているから対策は容易だとしても、黄金のサーヴァントは脅威だ。4次聖杯戦争ではアーチャーとして召喚されてきたというし、遠距離戦では分が悪いかもしれない。

いや…間違いなく悪いだろう。であればいかにしてハメ殺すか………。

ランサーほどのスペックは無いだろうが何をしてくるか分からない怖さがある…後で要相談だな。

 

 

───ドォォオオォオォーーン─ッッ!!!

 

 

───後方から爆音と振動が発生。

戦いの場となったビルが倒壊した音だ。逃げ惑う人々も大勢巻き込まれたことだろう。

 

「───全てランサーが悪い。」

 

セイバーが固い表情をしているので、断言する。

 

「悪の先兵たる半神をビル一つの倒壊で倒したんだ。誇れる成果だ。」

 

「…えぇ、そこに異論はありません。ですが、最初のエクスカリバーで仕留めておけばと…そう思っただけです。」

 

「誇り高いことは結構だがあまり己惚れるなよセイバー。奴の本質は格上殺し。セイバーがランサーより格上とも格下とも思わんが、少なくとも俺もアーチャーもセイバーも…3対1ですら殺される可能性はあった。それにエクスカリバーを撃つタイミングを決めたのは俺だ。であればセイバーに落ち度はない。」

 

「………。」

 

「勘違いするなよセイバー。失った命に対する責任なんて誰も取りようがない。であれば今考えるべきことは、いかに残る敵を倒すかだ。」

 

「───フ、シロウは優しいですね。」

 

何を言い出すんだコイツは。

 

「…俺が優しいかどうかは知らんが、やるべき事は知っている。」

 

「やるべき事…。」

 

「そうだ。───勝利すること。俺達には勝利しか許されない。」

 

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