冥界:リゼヴィムの屋敷、その一角にて────
死銃もとい鴎は仕事着である制服に身を通し、自身に宛がわれていた部屋で一人黙々と書類仕事に精を出していた。
EXEによる吸血鬼ツェペシュ派に対する摘発から早数日が過ぎ、八月も半ばという頃合いにも関わらず仕事をする鴎が目を通しているのは先日の一件の報告書である。
と、いってもこの報告書自体は既に悪魔社会上層部に提出された後のものであり、内容も提出用に改竄されたものであるが。
実際にツェペシュ派がテロリストらと繋がっていたという事実はあり、その証拠もまた本当に存在していたため改竄するような箇所はほとんどなかったが、現場にいた人形らと鴎がないように目を通せば明らかに省かれた箇所が数点見つかるが知らぬものではわからないだろう。
改竄された箇所を挙げるとすれば、まず第一に鴎が投入した
次に挙げるならばツェペシュ派王位継承権第五位であったマリウス・ツェペシュの一件だろう。彼は下僕らを引き連れテロリストとの繋がりの証拠の一つでもある神器研究についての証拠を隠滅しようとした際に猟兵らと交戦し、その過程で死んだ。ただ、その事実だけが書かれ提出された神器研究資料からも特に何かあったわけでもなく処理された。
他にいくつか、あるがこの場においては挙げるのは控える。
さて、そんな報告書に目を通し、そうしてから人工器:赤化の今回の実験データとその報告書へと鴎は視線を移す。
いまだ試作段階の人工神器を搭載した実験機。
コカビエルを通して堕天使から手に入れた人工神器のデータから建築家、計量官、ほか開発用人形を駆使して設計した試作品。聖書の神が創った本物を黄金と考え、鍍金でしかないがそれを目的としたが故に錬金術よりとって『
本来なら燃焼、熱は
「出力を上げすぎに、ゼロ距離での放出とは……そりゃ、外装焦がした挙句、中身も一部壊れるに決まってるだろ何を考えて……ああ、そこまでまともなAI積んでなかったか」
マリウス・ツェペシュの有するキメラとの戦闘時、ゼロ距離での六割火力を行うという頭痛以外なにものでもない選択をとり、自身の人工神器の熱量で外装は焼け焦げた挙句、中身にまで被害を出すという結果をだした。
何故、このようなことになったのか、それは偏に人工神器を外部取り付けではなく内部取り付けを行い、他の名付きのようなAIを組み込むには容量がなかったという理由があった。
その事実に鴎は舌打ちながら、改善案を考えるためにペンを片手に軽く頭をかく。
「やはり、人工神器の方の機能を削って使用容量を減らす……圧倒的に火力過多であるのは認めざるを得ない。火力を優先してAIがお粗末なのは駄目だ。この際、火力を後回しにして、AIを優先に……空き容量で搭載できるまで機能を……」
そんな風に頭をこねくり回しながら鴎は思考して────
「しっきかぁん!!」
「…………何の用だ。見ればわかる通り、仕事中なんだが」
扉を勢いよく開けて入ってきた数体の人形に鴎は軽く頭痛を憶えながら、そう問いかければ胸元が大きく開いた大胆な服に青いリボンが特徴的な人形が不敵な笑みを浮かべて答えた。
「聞いたわよ、指揮官」
「なにをだ、FAL」
嫌な予感が鴎の胸中にふつふつと湧き始め、今からでも逃げ出したくなってくるが、まだ確定したわけではないと己に言い聞かせながら鴎は聞き返して
「今日のパーティー護衛、指揮官はスポンサーと一緒にいるんでしょ?」
「そ、そうだな」
「まさか指揮官。いつものアーマースーツで出るつもりではないですよね?」
そう言うのは青い上着に白いスカートが映えた変則的なハーフアップが特徴の先のFALより年上らしさが見える人形、スプリングフィールドがにこやかに微笑みながらもどこか凄みの感じる表情でそう問いかけ、鴎は視線を彼女らから外す。
その反応に彼女らは察し
「そういえば、指揮官。指揮官この前、女装してたよね」
肩を出し、うさ耳のように立たせた黒いリボンに白い髪が特徴な人形Five-seveNが口にした致命的な言葉に鴎は背後の窓から逃げようとして、いつの間にかに近くへ移動していたサンダーに捕まった。
「指揮官、ドレス着てください」
「サ゛ン゛タ゛ァァアア!!」
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俺らグレモリー眷属が全員集合した次の日の夕刻。
俺は駒王学園の夏服に腕を通し、しっかりと前ボタンを閉じてグレモリーの紋様が付いた腕章をつけた状態で一人グレモリーの本邸にある客間で待機していた。
というのも、今日はサーゼクス様たち、魔王様方主催のパーティーがあって女性陣はメイドさんたちに連れられておめかし、木場やギャスパーも何やら用事があるとか、なんとか………。
「ギャスパーの奴、大丈夫か?」
俺は昨日からどこか様子のおかしい後輩を心配する。いや、あくまで俺がギャスパーと会ったのが修行に行く前ぶりというのもあって本当は一週間ぐらい前から、なにかおかしいらしい。
ただ、部長や朱乃さん、小猫ちゃんや木場はなにやらその理由が分かってるらしい。流石に本人に聞くのもアレだから後で部長に聞いてみようと思ってるんだが……。
「よぉ、兵藤」
聞き覚えのある声に振り返ってみれば───匙だった。
って、なんでここに匙が?
そんな俺の疑問が表情にでも出てたのか、俺がそれを聞くよりも先に匙が口を開いた。
「会長が、リアス先輩と会場入りするってんでな。俺らは一回こっちに来たってわけだ。で、会長は先に先輩のところに行っちまって、残った俺はここに案内されたんだ」
そう言って、匙は俺から少し離れた席に座り、真剣な表情で言う。
「もうすぐゲームだな」
「ああ」
「俺は勝つぞ」
「こっちこそ、負けねえからな」
俺の言葉に匙は笑みを浮かべ、俺も気づけば笑ってた。
「先月、会合ん時のこと覚えてるか?」
「ああ」
唐突に笑みを消して、話を切り出した匙。
会合の時のことは簡単には忘れないだろう。そう、確かあれは部長たち各御家の次期当主の目標というか夢を語った時にいろいろあって、あいつら『笑う棺桶』がレーティングゲームをしたんだ。
「俺ら、会長の夢は本気だ。確かに笑われたけれども、リゼヴィム様が色んなことを教えてくれた。会長の夢がどれだけ大変なのか、どんなことをしなきゃいけないのか、会長も俺らもまだまだ甘いし見えてなかった。だから今度のゲーム、俺たちは必ず勝つ」
「匙……」
「俺たちには経験が必要だ。実績を作って、少しでも会長の夢に近づくんだ。そして、俺はそこで先生になるんだ」
先生?確か会長の夢はレーティングゲームの学校を作ることだったはず。それもいま冥界にあるような上級悪魔や一部の特権階級の悪魔が通うようなものじゃなくて、下級悪魔や転生悪魔が通えるような……つまり、匙はそこで子供たちにレーティングゲームを教えたいってことなのか?
すごいな、こいつは俺よりも将来を見据えてる。
「俺たちは悪魔に転生したからな、時間だって人間の何十倍もある。だから、リゼヴィム様は俺に言ってくれたんだ。会長の創る学校で教師になる前にまずは普通の教師、普通の人間界の教師になってみなさいって。そうして経験を積んで、いろんな事を教えたいんだ」
「立派な目標だと思うぜ、匙。いい先生になれよ」
俺とは違う目標だ。何時か上級悪魔になって部長から独立して自分のハーレげふんげふん眷属を持つのが俺の目標。それに対してこいつはずっと主である会長に仕えながら会長を支えていくのが目標。
同じ『兵士』だからなんとなく俺と同じなんじゃないか、と思ってたけどもやはり人それぞれだ。
「おう、その為にもひとまずお前らをぶっ倒さなきゃな」
「へっ、悪いが俺らが勝つからな」
「いや、俺らの経験の為にも負けてもらうからな」
もう一度向き合ってお互いに笑い合いながらもその瞳は真剣そのもの。────お互いに負けるわけにはいかないから