転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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第八十六話

 突然だが、常時解放型の斬魄刀とはなんなのだろうか。

 

 意味自体は始解を習得してから、解放状態が平常時となった斬魄刀の事を指す。常時解放型の斬魄刀は希少なものとされ、現在の所有者は更木剣八と黒崎一護の2名とされていた。

 

 しかし、剣八は今回の戦争で始解【野晒(のざらし)】を習得し、更にはユーハバッハとの戦闘で卍解と思わしき力を手にしていた。彼は常時解放型の斬魄刀の所有者ではなかったのだ。

 そのような勘違いが起こった理由として、解放前の斬魄刀の形状が既に浅打の状態から大きく変化していたということと、剣八の実力が並々ならぬものであったということが挙げられるだろう。

 

 では、一護はどうだろうか。

 今回の戦争の前に振るっていた力は、彼の中の滅却師の力が死神の力を偽装していたものであるため、考慮から外す。

 一次侵攻で、彼はユーハバッハにかつての天鎖斬月を折られ、霊王宮で二枚屋王悦に斬魄刀を打ち直して貰った。その時に手にした二刀の斬月(厳密には刀と鞘だが、便宜上そう呼称する)こそが、一護が初めて手にした斬魄刀である。

 

 二刀の斬月は、完成した時から2つに分かたれていたため、一護はそれをこれまで通りに常時解放型の斬魄刀として扱い、それらを1つに合わせた大刀を卍解の天鎖斬月だと受け取った。

 

 だが、こうは考えられないだろうか。

 

 常時解放型の斬魄刀などというものはこの世に存在しておらず、二刀の斬月は浅打が変化しただけの解放前の斬魄刀であり、それらの力を束ね、1振りの大刀へと昇華させたものが始解。その更に上に卍解があるのだと。

 

 そして、その卍解は、一護が己の持つ力の全てを十全に扱えたその先に初めて開花するものなのだと。

 

 ***

 

「一護君……なの?」

「ああ」

 

 大きく変わった一護の姿に卯月は困惑を示す。まるで卯月が卍解した時の一護の反応の焼き増しである。卍解時の変貌具合に関しては卯月の言えた義理ではないのだが、それほどまでの衝撃だったのだ。

 

 卯月からしてみれば何故ここへ来て一護の姿が変わるような事が起こるのか皆目見当もつかないのだ。卯月の認識では、一護既に卍解状態であったはず。そこからさらに上の状態があるなど信じられないことだった。

 また、シルエットこそは【滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)】に酷似しているが、一護は聖文字の力が与えられた滅却師ではないし、なにより随所の意匠や色が異なっている。白で統一された星十字騎士団を天使と形容するなら、一護のそれはさしずめ堕天使といったところだろうか。

 

 とは言え、卯月にも1つ今の一護の状態について既視感があった。それは、今の一護から霊圧が感じられない事だ。藍染の乱において一護と藍染に対して起こった事であり、次元の異なる相手の霊圧は感じる事ができないのだ。

 更に喜助からの伝聞にはなるが、当時の一護も最終的にその姿を大きく変えた上で戦ったようで、今の状況はそれに酷似していた。

 

 しかし、そこまで考えたところで、卯月は最悪の状況を想像してしまった。

 

「一護君……もしかして君はまた自分の力を犠牲にしたんじゃ……」

 

 そう。藍染の乱の顛末として、一護は1度その力の全てを失っている。それから2年もの間、力が戻る事はなかった一護の失意たるや決して簡単に推し量れるものではないだろう。

 そして卯月もまた、ギリギリまで藍染と戦っていた者として、一護にそのような選択をさせてしまった事を悔いていた。

 

 それにも関わらず、再度一護にまた同じ選択をさせてしまうなど、許されないことだった。

 

「安心してくれ蓮沼さん。あの時死神の力を失ったのは、俺が未熟だったからだ。けど、今は違う。完全な【最後の月牙天衝】に代償はねぇ」

 

【最後の月牙天衝】。それは全ての力を代償とした一護自身が月牙となることで、一時的に超越者となった藍染を上回る次元の力を手にする技だった。だが、代償が必要だったのは【最後の月牙天衝】という技の出力に耐えうるだけの力を当時の一護が有していなかったからだ。故に、足りない分は一護自身が月牙となることで補い、それを1度に発散させる形でしか【最後の月牙天衝】を使うことができなかった。

 

 しかし、今は違う。

 死神・虚・滅却師・完現術。それら全ての力を十全に扱い、同時に行使までできるようになった一護は、もう充分に【最後の月牙天衝】を使うに足る器を有している。

 彼の斬魄刀になぞらえて言うのであれば、身に纏う黒い月牙が刀でそれを御する一護は鞘といったところだろう。

 

「本来の【最後の月牙天衝】。それは──俺自身が斬月になることだ」

「その姿、まるで若かりし頃の私を見ているようだ。それだけ滅却師の力が色濃く現れているのだろう。見せみろ一護。私にその力を」

 

 ユーハバッハの言う通り、今の一護の長い黒髪と赤眼はユーハバッハの特徴だ。服装こそは以前から変わっているが、一護自身の身体的特徴はなんら変わっていない。それは以前の【最後の月牙天衝】が滅却師の力を主としていたという証左であり、今の一護の【最後の月牙天衝】がその頃とは比べ物にならないほど強力無比になっているであろう事を示唆していた。

 

「なに……腕がっ……」

 

 次の瞬間、ユーハバッハは一護の接近を感じることすらできぬ内に、片腕を切り落とされた。

 接近に気づくこともできない高速機動は、先程からあったことなので想定内のことだが、そのまま腕を切り落とされてしまうとは思いもしなかった。何故なら、ユーハバッハは未だ【残日獄衣】を纏ったままなのだから。

 先程までの一護であれば、この太陽の如き鎧への接近を嫌って急停止していたが、今はそれをお構い無しと言わんばかりに突っ込み、ユーハバッハに一太刀を浴びせるに至った。

 つまり、今の一護にとって【残日獄衣】は大した障害になっていない。これを纏っていれば、例え一護を見失ったとしても大丈夫、などという甘えた戦法はもう通用しないということだ。

 このまま立ち止まっていては不味い。そう判断したユーハバッハはジゼルの能力の応用で斬られた腕を接合すると、即座に移動を開始した。その歩法も単なる飛廉脚では無く、キャンディスの【雷霆(The Thunderbolt)】を使った上で【残火の太刀】の爆炎を足の裏から放出することで、更なる推進力を得ていた。その移動速度は卯月はおろか、ユーハバッハ自身ですら目が追いつかないほどのものだった。自身で制御できない力など、諸刃の剣でしかないが、そうでもしなければ今の一護には太刀打ちできないという判断だった。

 

「にも関わらず、何故お前はこうも容易く私の上をいく!? 一護!」

 

 だが、一護の速力は限界以上の速度で動いたユーハバッハよりも更に速かった。ユーハバッハの移動先に涼しい顔で先回りし、既に振り下ろしの構えまで終えている一護に向かって、ユーハバッハは叫ぶ。

 このままでは身体が真っ二つに断たれることを察知したユーハバッハは、炎の火力を上げ、更に速力を上げる。どうあれ、己の限界以上の速度で動いているユーハバッハは急には止まれない。であれば、逆に速度を上げる事で攻撃をズラそうという賭けだったのだが、それは見事的中し、首を落とさんとした斬撃を両脚が切断される程度に抑えることができた。

 様々な歩法を併用することで、これまでにない速力を身に着けた一護だが、彼自身はまだその速度での戦闘に慣れていなければ、剣速も移動速度ほどには上昇していない。ユーハバッハは意図せずして、そのズレを突くことができたのだ。

 

 とは言え、ユーハバッハが依然として劣勢であることには変わりはない。切り離された脚を回収しに戻ることは自殺行為であるため、【残火の太刀】の炎で切断面を炙ることで強引に止血を行い、身に纏う黒い霊力で義足を形成することで応急措置とした。一度着地し、一護に向き直ったユーハバッハが口を開く。

 

「何故だ……。確かに、数多の種族の力を駆使して戦う素養がお前にはある。だが、それは霊王やお前の力を奪った私にも共通しているはずだ。だが、何故お前ばかり新たな力が開花する……!?」

 

 疑問だった。今の一護の強さの秘訣は理解できる。しかし、それは理屈で言えばユーハバッハにだってできてもおかしくないことだったからだ。力を手にしてからの時間経過というのは候補として挙がるだろうが、それは当たらずしも遠からずといった気がする。何故なら、一護とて己のルーツを知ったのは今回の戦争が始まってからなのだから。それまでは自身に滅却師の力が宿っているなど、露にも思っておらず 、習得済みであった虚化も、暴走の経験からどこか怯えながら使っていた節がある。そのような状況から今の一護に至るには、かなり遠い道があるように思えた。

 

 だがしかし、突然そのような事を言われても一護には答えかねる。彼とて、何かの理論を基に技を習得したわけではなかったからだ。敢えて言葉にするのであれば、「できそうと思ってやってみたらできた」そんな感触だった。

 

「本当に分からないの?」

 

 故に、その疑問に答えたのは唯一この戦いを客観的に見守っていた卯月だった。

 自身の位置が悟られないよう、霊圧で語りかけた卯月は話を続ける。

 

「それはねユーハバッハ。あなたが振るう力が全部他人の力だからだよ」

 

 星十字騎士団(シュテルンリッター)の力はよく馴染んだだろう。彼らの力は聖文字という形でユーハバッハが力を分け与え、それが還ってきたモノだから。

【残火の太刀】の行使も特に問題なかっただろう。メダリオンという制御を肩代わりする媒体が存在していたから。

 だが、一護や霊王は例外だ。彼らにユーハバッハは力を与えたこともなければ、メダリオンのような装置があるわけでもない。つまりユーハバッハが一護のように多様な種族の力を扱えるようになるには、イチからその力に徐々に慣れていくという過程が必要なのだ。しかし、幼き頃から他人に力を分け与え、最終的に膨れ上がった力を自らに還元することで力を手にしてきたユーハバッハにはその経験がなかった。

 

「だけど、一護君は違う。彼が振るう力は元を辿っても全て彼自身の力だ。だから、例え同じ力を持っていたとしても、あなたはその練度で一護君に劣ってるんだ」

 

 一方、一護はどうだろうか。

 彼が振るう力は、生まれて時からその遺伝子に刻まれている。虚の力とそれを抑える死神の力は父である一心から、滅却師の力は母である真咲からそれぞれ受け継いだ力だ。そして、一護はそれらの力をこれまでの数多の戦いの中で徐々に身に着けてきた。その積み重ねが実を結んだのが、完成した【最後の月牙天衝】なのだ。

 

「これで終わりだ、ユーハバッハ」

「どうやら、そのようだな」

 

 卯月の話が終わると、一護はそれを合図にするように腕に纏う黒い月牙を増幅させる。振りかぶるとそれは瞬く間に空間の上部を満たしていき、夜空のごとく影を落とした。

 その範囲はあまりに広大で、威力は霊圧を感じない故にもはや想像すら不可能。そんな攻撃を前に、ユーハバッハはどこか冷静だった。否、これは諦めたと言った方が正しいのだろう。

 

「【無月(むげつ)】」

 

 そして、漆黒の月牙がユーハバッハを呑み込んだ。

 

***

 

 漆黒の霊力を吐き出しながら、閉ざされていた睡蓮の花弁が開く。

 

「なにっ!?」

 

 その異変に真っ先に反応を示していたのは、卯月の卍解の能力を知る数少ない人物のうちの1人であるほたるだった。

 本来であれば、卯月が卍解を解く時に今のような漆黒の霊力の放出はない。

 そういえばユーハバッハは身に黒い霊力を纏っていた。そこまで連想したところで嫌な予感が頭の中を駆け巡る。

 

 だが、結果を言えばその予感は杞憂に終わった。

 

 開いた睡蓮の花弁。そこから出てきたのは、五体満足の卯月に見慣れぬ出で立ちをした一護らしき人物。そして、身体を縦に両断されたユーハバッハだった。

 

「「一護!」」

「卯月(さん・くん)!」

 

 その瞬間、護挺十三隊と仮面の軍勢の面々に歓喜が駆け巡る。

 この最終決戦。まさに総力戦だった。一護が来るまでの間の時間を稼いだ剣八を中心とした護挺十三隊と仮面の軍勢の面々。ユーハバッハの【全知全能(The Almighty)】を卍解によって封殺した卯月。そして、なによりも己の持つ力を土壇場で覚醒させ、見事ユーハバッハを倒した一護。何が欠けてもこの勝利はなかっただろう。

 

 この歓喜のまま、勝利をもぎ取った2人に駆け寄りたいところだったが、実際にそうした者は居なかった。

 

 何故なら、2人共ユーハバッハへの残心を解いていなかったからだ。

 最後まで戦い抜いた2人しか分からない緊張感が否が応でも伝わって来た。

 

 すると、命の灯火が消える直前のユーハバッハが語りかけてくる。身体が真っ二つになっていることにより、声は発せないので、霊圧による会話だ。とは言え、脳も真っ二つになっているのにも関わらず、会話できる能力が残っているのは、ユーハバッハという人物が如何に規格外であるかを物語っていた。

 

「道は閉ざされたぞ。恐怖無き世界への道が。現世も尸魂界も虚圏も1つになるべきだ。生と死は混じり合い、1つになるべきだったのだ」

 

 この発言の内容こそが、ユーハバッハが今回の戦争を起こした目的だった。

 三界という隔たりも、生と死という概念すら存在しない原初の世界。それを再び創りだそうとしていたのだ。

 

「だが、それも最早叶わぬ。一護、蓮沼卯月。お前達のお陰で生と死は形を失わず、命ある全てのものはこれから先もしの恐怖に怯え続けるのだ。永遠に」

「正直、あなたが言うことにも一理あると思う。それがどのような世界なのか想像するのが難しいから、なんとも言えない部分はあるけど、命が大事じゃない人なんてそうそういないしね」

 

 生死という概念が存在せず、それに怯えなくても良い世界。その部分だけを切り取れば、魅力的であるように思えた。何か特別な事情がない限り、自ら死を望む者なんてこの世に存在しないからだ。ましてや卯月は前世で1度命を落としている身である。人一倍命というものを大事にしているし、同じような目に遭うのはゴメンだとも思っている。

 

 故に卯月はまずユーハバッハの主張を尊重した。

 例え命が無限になったとしても、それに魂は摩耗しないのか、生命が増える一途になった場合に生物が暮らす空間はどうなるのかなど疑問は尽きないが、少なくとも一蹴して良い意見ではないと感じたからだ。

 

 その上で、卯月は反論を始める。

 

「だけど、僕はそれと同じくらい今生きるこの時が大事なんだ。ユーハバッハ、あなたは自身の思惑のために多くを犠牲にし過ぎた。死のない世界を実現するためだからと言って、今この世界で生きる大勢の人達の命を危険に晒し、奪っていい道理なんてないはずだ」

「ふ、綺麗事だな。この世界が何を犠牲に成り立っているかお前は知らぬだろう」

「だとしてもだよ。僕は僕自身の意思でここに立っている。別に自分が正義だとも思っていない。ただ、戦争に勝ったのが僕達ってだけさ」

 

 一般的に戦争はどちらも正義だから起こるものだと言われている。また、八番隊隊長の京楽春水も戦争は始めた時点でどちらも悪であると見解を述べている。更に、死神は魂魄のバランスを保つためとはいえ、滅却師を虐殺した過去がある。そんな中で自分達に正義があるなどとは言うまい。

 

 ユーハバッハの口ぶりからして、この世界はとんでもない悪意の基、なにかを犠牲にして成り立っているのかも知れない。尸魂界の歴史は長い。その中には失伝したものや意図的に伝えられてない可能性だって十分に考えられる。しかし、仮にそうだったとしても卯月の今が大事という主張は変わらないだろう。

 

 ただ、この戦争に勝利したのは死神側であり、故にその主張が通る。本当にそれだけのことなのだ。

 

「ああ......。本当に、無念だ......」

 

 最期にそう言い遺し、ユーハバッハは絶命する。

 

 ふと、卯月は一護の方を見る。ユーハバッハの発言に対し、何も言い返してなかったのが気になったからだ。

 一護はただじっとユーハバッハを見ていた。その最期を目に焼き付けようとするように。その時の相手を憐れむような表情がやけに卯月の印象に残った。

 

 こうして、多くの犠牲を伴った滅却師との戦いは、死神側の勝利という形で幕を閉じた。




次回、最終回です。
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