もしも人鬼がオラリオに現れたなら……サックリと思い付いただけですね、どうぞ

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ダンジョンにむこうぶちが現れたのは間違っているだろうか

 恥を暴かれた白髪の少年が駆け出したのを目撃した者も少なくないその場で、隣に座っていながらも我関せずのまま本を読む黒服の男が一人。

 

「雑魚を雑魚っつって何が悪い?」

 

 そんな台詞が聞こえて来ようと、男には何の興味も、関心も無い。

 

「お客人、あの少年はあんたの仲間じゃ無いのかい?」

 

「……いいえ」

 

 それは本当の事である、偶々同じタイミングでこの店に入店しただけだ、そして空いていた席がやはり偶々この二席のみだった、それだけである。

 

 そっけのない態度に、女将であるミアも男の否定の言葉を受け入れるが、同時に男の異様にも気付く。

 

(この男……何なんだろうね)

 

 食事は確かに出した記憶はある、だが食べた姿を見ていない、にも拘らず既に食器は片付けられていた。食後の紅茶すらもない。ただ紙巻きの煙草を吸いながら本を読んでいる、それだけだ。

 

 しかしそれでも客は客、ミアはもう少し滞在するのなら飲み物位は頼みなと伝えるだけで、騒ぐ馴染み客の元へと向かい、一先ずの決着を着けたミアが戻ると、其処に黒服の男の姿は無かった。

 

 

 

 

「此処は……僕は……確か……」

 

 ベル・クラネルは己の行為を思い出し、なぜ今はもう慣れた天井を見ているのかと疑問符を頭に浮かべる。

 

「ベル君!気が付いたぁ!」

 

「神様……僕……」

 

「良いさ、今は何も言わなくても、もう少し休んでおくんだ、まだ傷は塞がってないんだから」

 

「……はい」

 

 お休みと伝えたヘスティアが、彼を助けてくれたと思っている男にもう一度礼を伝えようかと、待たせていたその場所に向かったが、其処には既に男の姿は無く、煙草の匂いだけが漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 人間の三大欲求の一つ、睡眠欲を金欲に変えた街がオラリオにもある、それがイシュタルファミリアが運営する夜の街、歓楽街と言える区画である。

 

「イシュタル様、本日も二軒『ブラックマンバ』に喰われました」

 

「おのれ……!」

 

 事金銭の稼ぎだけを見れば、オラリオの二大巨頭であるロキファミリアとフレイヤファミリアにも次ぐであろう程に稼ぐファミリアであるが、今そのファミリアには頭を抱える事案が発生していた。

 

 それが先程名前の上がった『ブラックマンバ』である。

 

 ギルドに知られていない、違法な掛け金を主とした裏カジノに主に現れ、店の上がりをごっそりと抜いていく、男に睨まれた者は、恐ろしい蛇にでも睨まれたかのような錯覚を覚えたため、いつしかその名で呼ばれていた。

 

 上がりの行き先はファミリアの主神イシュタルであるが、ブラックマンバと渾名される黒ずくめの男が現れて以降、その上がりが届くことが減っていた。

 

「今日の二軒だけでも4000万ヴァリスは損失、これまでの額を合わせると既に10億ヴァリスは『ブラックマンバ』に喰われています」

 

「ゲゲゲッそろそろ私が動こうじゃないか、良いだろう?」

 

「已む無し、と言うしか無いか……必ず生かして此処に連れてきなさい『ブラックマンバ』を堕とせれば、フレイヤに一泡位は吹かせられる、もう一度言うわ、必ず、此処に連れてきなさい」

 

「ゲゲゲッ任せな……」

 

 

 

 

 しかし、ブラックマンバを捕らえる事が出来ず、更には同時に進めていた『計画』も、フレイヤの逆鱗に触れた事で、イシュタルの強制送還という形をもってイシュタルファミリアの壊滅となり、歓楽街の消滅を以て事態の終演となった。

 

 その後ブラックマンバは遂に姿を見せることはなく、オラリオを既に去ったのだろうとさえ一部では語られる。

 

 

 

 

 

「おや、アンタ随分久しぶりじゃないか、今日は何か食ってくれるのかい?」

 

「……では、少しだけ」

 

「あいよ、おおそうだ、そういやぁ名前聞いてなかったね、教えてくれるかい?」

 

「傀と、呼ばれています」

 

 

 

END


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