暴力系ヒロインLV99「オレより強い奴に逢いに行く」 作:トマトルテ
「……ここは病院?」
目を覚ますとそこは見覚えのない、病院。
ボクはフラフラとする頭を押さえながら状況を確認する。
そうだ、ボクは破道さんと戦って、そのまま――
「起きたようだね、海野渚君」
バッと声をした方を見る。
すると。そこには破道さんがいた。
天井からぶら下がるような形で。
「………あの、なんで天井から逆さになって立っていられるんですか? 重力反転の能力でもあるんでしょうか」
「いやいや、単なる足の指のトレーニングだよ。指の握る力で、天井を掴んでぶら下がっているのさ。天井を壊さないように絶妙な力加減が必要で、良いトレーニングになる。良ければ君もどうだい?」
「お断りします」
一緒に散歩でもどうかみたいな、気軽さで誘われるが丁重に断る。
木の上に暮らすチンパンジーでも難しそうなことを、どうしてこの人は出来るのだろうか?
ひょっとして、ゴリ――
「痛った!? なんで、急に頬が切れて!?」
「おっと、すまない。髪の毛が君に当たったみたいだ」
「髪の毛!? 剃刀みたいな切れ味の髪の毛ってなんですか!」
「髪は女の命。命に容易く触れられないようにするのは、か弱い乙女の嗜みだよ」
「髪の毛そのものを刃にするのは破道さんぐらいです」
長く綺麗な赤髪を揺らしながら、破道さんが笑う。
学校の噂で、その髪の毛は返り血に染まっているとかあったけど、もしかして本当なんだろうか。
「と、無駄話はここら辺にしておこう」
くるっと一回転して、床に降り立つ破道さん。
その衝撃で小さなクレーターが出来ているが、見なかったことにする。
「君には聞きたいことがある。そう、何故君は『
ジロリと竜のような瞳で睨まれる。
嘘を言えば、きっとその大顎でボクは容赦なく食われてしまうだろう。
そう、直感で感じ取り、僕は素直に答える。
「『
「明音君も同じことを言っていたな……だが、その技を体得したのは師匠だけのはず。劣化版にしても本物を知らないことには作れない」
目を瞑り、静かに考え込む破道さん。
こうしていると、ただの美少女なのに、動くと暴力の化身になるのだから不思議なものだ。
「……やはり、そこに居るのか、師匠」
目を開け、ポツリと呟いた破道さんが再びボクを見る。
「渚君、恐らくだが……ザ・アークには私の師匠が居る」
「な!?」
衝撃の事実に言葉を失う。
だって、そうだろう。破道さんだけで化け物クラスなのにその師匠だ。
神の如き力を振るってきても全く不思議ではない。
「師匠は武の道を究めようとしていた人間だ。恐らくは、改造人間もその一環として作ったんだろう」
「なら、ザ・アークのボスは……」
「ああ、私の師匠。その人の可能性が高い」
敵のボスが破道さんの師匠。
最悪の答えに思わず眩暈がする。
だが、それ以上に気になるのは破道さんの方だ。
自分の武の師匠が悪の道に落ちていたのだ。きっと、ショックだろう。
そう思って、彼女を見る。だが。
「クククク……面白くなって来たじゃないか。師匠が居るというのならオレも本気を出せそうだ。いや、本気を出しても届かないかもしれないなぁ」
破道さんは心底楽しそうに笑っていた。
まるで、新しいおもちゃをもらった子供のように。
「渚君、オレは勝手に動かせてもらうが、ザ・アークと敵対することだけは誓おう」
「どうしてですか? ザ・アークは確かに悪の組織ですけど、破道さんの師匠だって言うなら話し合いの道も……」
「いいや、これは最初から決まっていたことだよ」
フルフルと頭を振りながら、破道さんが答える。
「オレの流派、覇道流は弟子が―――師を殺すことで初めて完成する」
とても悲しい言葉を。
「なッ!?」
「だから、これは必然なんだよ。むしろ、悪の組織に居るというのなら、何の憂いもなく殺せるというものだ。フフフ、腕が鳴る」
「腕が鳴るって……人を殺すなんてダメですよ! あなたは外道に落ちていい人間じゃない!」
「おっと、腕が鳴り過ぎて衝撃波が」
「ゲフッ!?」
あなたの手は汚れるべきでないと言おうとしたそばから、謎の衝撃波が腹部に打ち込まれる。
あの……ボク、一応は怪我人なんですけど。
「む? やはり病み上がりで体力がなかったか。邪魔をしたね、オレは帰るからゆっくりと休むといい」
「いや、破道さんのせい――」
「何? 寝付けないだと? 仕方ない、私が頭を撫でて寝かしつけてやろう」
そう言って、ガッチリとボクの頭を握り締める破道さん。
どう見ても、撫でるという表現は似つかわしくない。
「よし、よーし。良い子は眠りなさい……永遠にな」
「いや! それ! 撫でるじゃなくて、脳みそをシェイク――」
永遠に眠れという物騒な声を最後に、僕の意識は途絶える。
左右に超高速で頭を振られたせいで。
「フフフ、ぐっすり寝ているな」
余程、疲れがたまっていたのか。死んだように眠る渚君を見下ろしながら考える。
ヒロインの師匠が敵のボス。
うん、結構な確率であるパターンだ。
師匠の部分を父親に変えてもいい。
まあ、とにかく師匠があちらにいる以上は、オレと渚君の関係は保たれてしまう。
要するに、フラグがまだへし折れていないのだ。
「……これはいけないな」
フラグというものは先んじてへし折り、踏みつぶし、粉々に砕いた上で海に撒かなければ安心できない。そうでなければ、ギャルゲーの主人公であれば、僅かな手がかりからフラグを再構築してくるだろう。
「だが、おかげで指針が出来た」
明確に、敵の存在が分かったのだ。
後は主人公よりも先に、ラスボスを見つけて始末するだけでいい。
それでフラグは成立しなくなる。
ただ、1つ問題なのは。
「師匠か……一筋縄ではいかないな」
相手がオレの師匠の可能性が高いということだ。
師匠の下を離れ、自分でも可能な限り暴力を磨いてきたつもりだが、それでも勝てるかは分からない。
覇道流は一子相伝の究極の暴力。
その継承方法は4000年前より変わらず、弟子が師を殺すことでのみ成立する。
そして、力及ばずに死んでいった弟子の数は星の数ほどある。
「だが……関係はない」
しかし、臆するわけにはいかない。
この身は暴力系ヒロイン。親兄弟であろうとも、理不尽に暴力を振るわねばならない。
「ありとあらゆるフラグを打ち砕いてこそ、真の暴力系ヒロイン!」
オレは明音君から見逃す際の交渉の品として貰った地図を携え、窓から空へと駆け出す。
地図に記されているのは、現在分かっているザ・アークのアジトだ。
恐らくは、この中のどれにもボスはいないだろう。
しかし、全てを虱潰しに消していけば、ボスとして対策しに出なくてはならなくなる。
「森羅万象、全てがオレの暴力の下にひれ伏さなければならないのだ」
取りあえず大気圏付近まで空気を蹴って登って行く。
おっと、服と地図が燃えないように気でコーティングしないとな。
「さて、一つ一つアジトを回るのも味があるが、時代は効率化だ。最速で潰させてもらおう」
ポケットから手ごろなサイズの石を複数個取り出して、大きく振りかぶる。
そして。
「
大気圏からザ・アークのアジトに向かって勢い良く投げる。
ハハ、見ろアジトがゴミのようだ。
「そーら、流れ星だぞ。願い事を告げるがいい。もっとも、祈る時間も与えんがな」
地表に隕石が落ちたようなクレーターが広がる。
それが、オレが石を投げる度に増えていく。
これで、悪の戦闘員とアジトは木っ端みじんだろう。
ああ、安心して欲しい。
周辺住民には被害がいかないように、完璧にコントロールをしている。
「む? アメリカの衛星に気づかれたか?」
今頃、米軍がミサイルか何かだと思って慌てているかもしれないが、隕石なので安心して欲しい。
まあ、隕石の前に人工とつくが。
「このまま、月面で散歩でもしたかったが、仕方ない帰るとするか」
アメリカがオレを束縛しようとするのなら、ペンタゴンを制圧して不平等条約でも結ばせてもいいが、幸いオレの行動を縛ることはないので、アメリカとのフラグは立っていない。
この前、空の散歩中に戦闘機とぶつかりそうになってフラグが立ちかけたが、それもUFOとして片づけられたので、安心だ。
「さて、これで師匠はどう出るかな? オレが居ることは流石に伝わっただろう」
問題は師匠だ。
師匠の持つ、オレの死亡フラグを折るのは中々に厳しい。
だが、ここで引くわけにはいかない。
オレは暴力系ヒロインLv99。
そして、師匠を殺して超えることで。
「さあ、師匠。久しぶりに、稽古といこうじゃないか」
―――暴力系ヒロインLv100となる。
ワンピース読んでて、ガープがカッコよかったので破道さんに拳骨流星群ぽいのをしてもらいました。
後、よろしければこちらもどうぞ。
昔書いた黒歴史小説に転生してしまった件についてhttps://syosetu.org/novel/362758/
パーティーメンバーがデカケツ熟女しかいないhttps://syosetu.org/novel/362820/