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10月20日
作曲を始め出来上がった曲を投稿サイトにあげ始めてから今日で1年の記念日になる。月に4本はコンスタントに曲をあげ続けているのだが、なかなか登録者は増加しない。自分としては毎回渾身のものをあげ続けているのだが・・・
音大の先生が言うには普段から自分の気持ちや感情を記録しておくのが作詞には役に立つらしい。この前、コメントで「テンプレ乙」だのなんだの言われたのは何ら関係がないが一応、日記をつけることにする。
11月2日
飽き性の自分には珍しいがもう2週間ほど日記が続いている。というのも、先生が言うように毎日の経験を記し始めてから曲のネタに困らなくなったからだ。明日にはここ最近で渾身の曲をアップする。きっとバズるに違いない。事務所から連絡が来たらどうしようか。
11月10日
予想以上に反響がない。登録者は2,3人増えて630人ほどになったがたった何十回の再生回数のために自分はどれだけの時間を使ったのだろうと考えてしまう。苦しい。どうすればいいんだ
11月20日
勇気を出して有料の動画コンサル?だかなんだかに連絡してみた。少々値は張ったが仕方ない。優しそうなお兄さんが言うには今の時代、ボカロPよりも歌い手?のほうがバズるとのことらしい。「機械よりも人の声のほうがやっぱりいいんですよ」だのなんだの言われたが難しいことは知らん。音痴が嫌すぎてボカロを始めたってのに結局、生声がいいって・・・。大学の知り合いに頼めば歌ってくれる奴はいるだろうか
11月25日
少ない人脈を総動員して歌い手を探したが誰も承諾してくれない。そりゃあ今はみんな就活も真っ只中、俺の下手な作曲に付き合う暇は無いってわけだ。親の反対も全部振り切ってこうして時間を全部作曲に捧げてきた訳だがやっぱりまともに生きたほうが正しいのだろう。そんなことを考えているといつものように鬱々とした気分になってくる。明日は気分転換にちょっと遠いところに旅行するのもいいかもしれない。体がずっしりと重たいのだ。
11月26日
今日から三日間、箱根で体を存分に休めることにした。安い宿くらいしか取れなかったがのんびりするだけでも悪くはない。いいか、これは気分転換であって現実逃避ではないのだ!
11月27日
いそがしいのでまた書く
11月28日
状況が落ち着いて来たので詳細を書く。二日前、作曲で行き詰った俺は気分転換に箱根の宿を2泊とって小旅行としゃれこんだ。温泉に入りながらのんびりしようという魂胆で、実際、1日目はその通りに過ごした。しかし、2日目に立ち寄った居酒屋が宜しくなかった。やけに美味い地酒が悪さをして、悪さをしてといっても正直あまり記憶はないのだが、俺はぐっでぐでに泥酔したようだ。
酔った俺は箱根の街を徘徊したのだろう、そして記憶がないままに冬の箱根で倒れたとのことだった。町の片隅で倒れた俺を助けてくれたのは近くの路上で弾き語りをしていた若い女性、羽崎さんという綺麗な方だった。彼女は見ず知らずの俺を近くの屋根のあるベンチまで運び目を覚ますまで隣で見ていてくれた優しい子だった。外はもう少しで氷点下、きっと寒かったに違いない。
目を覚ました俺が必死に感謝を述べると彼女は「いいえいいえ、風邪をひかなくて本当に良かったです」と口にして笑顔。聖人君子過ぎると感激した俺はせめて少しはお礼をと彼女を近くの喫茶店に誘い、夜ご飯をご一緒した。定食をつまみながら彼女と話をするとどうも彼女も彼女で複雑な事情を抱えているようだった。
話をしていて分かるように彼女は良いところのお嬢さんだったらしい。親も厳しく、箱入り娘のように育てられた彼女は、しかし親の言う進路ではなく昔から好きだった歌の道を志し、結局、今年の9月に親の目を盗んで家を出奔。以来、転々といろんな町に行きながら路上で弾き語りをしているとのことだった。
音楽の道を志し将来はミュージシャンになりたいと憧れる、自分とは他人事とは感じられないその生き方に親近感を感じてしまって「今はどこに住んでるの?」と聞けば彼女は家を出て以来、ネカフェや安いホテルでアルバイトでお金を繋ぎながらその日暮らしをしているらしい。こんな綺麗で優しい子がネカフェで一人暮らし。危険なことがあっても不思議はない。
助けてもらった恩義、同じ音楽の道を志す親近感でおかしくなったんだろう俺は「じゃあ自分の家を拠点に使ってください。」と思わず口に出した。口に出してしばらく冗談だと思って笑っていた彼女だったが、どうやら素面でいっているのだと分かってからはただただ驚いているようで「じゃ、じゃあお世話になります」と口にした。
12月10日
奇妙な同居が始まってから2週間。特段、色っぽいことがあるわけもなく羽崎との関係は不思議なバランスを保っていた。こっちは普段は大学に籠りっぱなしだし、彼女も一日のほとんどをギターを弾くか外に出て弾き語りをするかといった感じで交流を持つことはあまり多くない。しいて言えば彼女の歌唱力を見込んで曲に声を吹き込んで貰うように依頼したのでその曲作りの時間くらいだろうか。
12月20日
羽崎が歌い手として参加して初の曲は予想以上に好評だった。やはり生声のほうがいいのか、それとも彼女の声がずば抜けているのか、2桁も3桁も再生回数が違う。お礼に今日は近所のビュッフェに羽崎を招待。にっこにことチョコの山を消化し続けるところが笑えた。
1月1日
元旦。ここ3年、正月は実家に帰っていたのだが羽崎を一人で残していくのもなんなので今年は家で鍋をつつきながら年を越した。ガキ使(羽崎は家のきまりで見たことがなかったらしい。腹を抱えて笑っていた)を見て初詣に出かけ羽根つきを行い、と正月らしいことを散々やった気がする。勿論、願いごとは曲がもっと認知されること。まずは1万人を目指す。
1月25日
初めて1つの曲で再生回数が5万回を突破、羽崎が初めて参加した曲がXでそこそこバズったようだ。登録者も1000人を超えてから収益も少しずつ入ってきている、ここは投資と思って機材を買いなおすのも悪くあるまい。そういうことで羽崎を連れて町の楽器屋へ。自分用のアンプもろもろと世話になっているので羽崎用に良いマイクを買うとぴょんぴょんと敷地の周りで飛びまわっていた。大事なマイク抱えてんだからあんまり無茶すんなよな。
2月23日
あまり記念日だのなんだのは気にしないたちなのだが、どこからか調べてきたのか羽崎が誕生日にとケーキを作ってくれた。家事はあまりうまくないはずなのだが丁寧に作ってくれたのだろう、実に美味いショートケーキである。ここ最近、夜中にごそごそしていたのはこのためだったのか、と聞くと「ち、違います!ギターを練習してたんです!」と反応。分かりやすい奴め
4月17日
ついに登録者が1万人を突破した。ずっと前から願っていたはずなのだがこうして達成するとなんだか実感がない。少し前から羽崎もこちらで十分収入が入ってくるので弾き語りは辞め、歌い手に専念。初めのほうから憧れのアーティストに歌い手のELEの名前を出していたので特にこだわりはないらしい。ちょこちょこと事務所?から連絡も来ているのだが実際契約とかどうするべきなのだろうか。
8月9日
ポシーグループとかいう業界の中でもそこそこ大きい事務所と契約することになった。担当者の人も悪い人でなさそうだったし契約内容も悪くない。何より羽崎が愛してやまないELEが所属しているというのが大きかった。
事務所の人曰く10月ごろにこれまでの曲をまとめてデビューアルバムを出すらしい、お早いことだ。あと顔出しをしていなかったからか羽崎の姿を見て随分と驚いていた。家事能力やら常識の無さは置いといて容姿は抜群に秀でてるからな、ほんと神様はどれだけの才能をこいつに与えるつもりだ。
11月27日
初アルバムの発表、顔出しなしではあるがライブの開催とここ最近は随分ばたばたとしていて気付かなかったが、今日で羽崎がうちに来てから1年が経つらしい。朝、いつものように白飯を食べていたら「今日の主役」だの書かれたタスキをつけてドヤ顔で真正面に座った阿呆に伝えられた。
思い返せばこの1年、ここまでトントン拍子で曲が伸びていったのも家がそこそこ楽しかったのも羽崎がいたからというのは間違いない。曲作りは日々精進しているものの正直、バズってる主な原因は歌い手の力量にあるんだろう。
「ありがとうな」と素直に感謝したところ、羽崎は恥ずかしそうにえへえへと笑った。
2月16日
羽崎の親父さんが家に来た。どうもネットで俺たちの曲を聴き、事務所の人に連絡先を訪ねて押しかけてきたらしい。出会いがしら「こんなことをしていたら嫁の貰い手がなくなるぞ」だの「家に帰りなさい」だの強引に羽崎の手を引っ張って来たので何とか居間に押し込んで3人で話し合い。羽崎は完全にビビってしまって委縮してばかりだったので俺が何とか親父さんの強引な口調に対応することになった。
どうも話を聞いていれば怒ってはいたが根底には羽崎のことを心配しているようで、歌い手ってのは安全な仕事なんですよ、きちんと収入もあるんですよという訳の分からない答弁をする羽目になった。
結局、「何かあったら僕が責任を負います」と伝えるとしぶしぶ了承したようで羽崎と一言二言話したのちに帰宅。親父さんが出て行ったあと、いつもよりもなんだか気持ちおしとやかな羽崎が「責任、取ってくれるんですか?」だの聞いてきたので「そりゃあ一応グループのリーダーだし責任くらいとるよ。ずっと一緒に音楽やろうや」となんだか恥ずかしかったが口に出した。
羽崎はなんだか当たり前のはずのその言葉にえへえへと満面の笑みを浮かべて晩飯に得意料理らしいチャーハンとシチューをご馳走してくれた。いや、シチューとチャーハンは合わないよ・・・
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7月6日
気持ちがまとまらず仕事も手につかないので3年ぶりに筆を取る。前に日記を書いていた頃はまだグループでの活動も始めたばかりで徐々に増えていくファンの声援やワクワクが先行して楽しいころだった、そんな気がする。
それに比べて最近は自分の力量不足を痛感してばかりだ。羽崎の歌は相変わらず素晴らしい、いや、更に自分の見せ方に磨きがかかって上達しているからそれ以上か。15万人にまで増えた登録者も口を揃えてあいつの歌を讃える。そこはいい。そこはいいのだ。
問題は俺、曲作りにある。ヒット曲が生み出せない、次のステージに進むために必要な圧倒的なキャッチーさが俺には足りないのだ。正直なところを言えば原因は分かっている。レパートリーの少なさ、これまであいつの歌のみに頼って俺自身が積まなかった経験の不足が招いた現実である
必死に曲を作っても今までと同じような曲調にしかならない。スランプですらない。これが俺の実力だった。
8月23日
ここ最近は朝から晩までずっとレコーディング室に籠って曲を作り続けている。俺には才能がない、だから時間をかけることしか出来ない。羽崎は心配して「少しは休んで下さい」「ちょっと遊びにでも行きませんか」と声を掛けてくれたがそんなことをしている暇は無い。
9月15日
事務所は隠しているようだが彼女宛てに何人もの有名なボカロPがユニットを作ろうと提案していることを俺は知っている。俺よりも遥かに良い曲が書けて名前の売れた奴らが彼女の歌を求めている。
昔、彼女は俺に「いつか武道館で一緒にライブできたら幸せですね」と何度も語った。万が一にも彼女が他の奴の手を取れば、俺よりもずっと上手い奴らの曲を歌えばあっと言う間にその目標は達成できてしまう気がして・・・
今は曲を書くしかない。書くしかないのだ。
3月10日
必死に、死に物狂いで曲を出す。失敗する。
何日も徹夜をして、死にそうになりながら曲を出す。失敗する。
繰り返し突きつけられる自分の才能の限界に頭が可笑しくなりそうだ。羽崎は最近はそんな俺を見るたびに悲しそうに笑うだけ。元気づけようと作ってくれたシチューの味にぼろぼろと涙がこぼれる。
武道館に行きたい。羽崎をあのステージに立たせたい。
4月15日
苦しい。辛い。諦めたいけれど諦められない。武道館に行くのだ。
6月20日
事務所の人間がうちに来た。何度呼んでも来ないから、痺れを切らしたらしい。
見慣れたスーツ姿の奴の隣には面の良い背の高い男となんだか泣きそうな羽崎。男の顔には見覚えがあった。何度も羽崎に見せられた動画、家のテレビで死ぬほど見た超有名人。その男はELEだった。
「羽崎さんとユニットを組むことになりました。連絡が遅れて申し訳ありません」
男がそう言って深々と下げた時、俺は頭の中が何かぐちゃぐちゃになって可笑しくなってしまう気がした。ぼろぼろと涙を流して羽崎は「違うの!貴方の曲が嫌になったんじゃない!」「二人、のんびりやれてた頃にもどりたいだけ」だのなんだのと縋ったが全部が滑稽で、可笑しくてたまらなかった俺は笑うことしか出来なかった。
「初ライブは武道館を予定しております。そのため、羽崎さんの今後のスケジュールはそちらが優先になりまして__」
奴らが何かを言うたびにこみ上げてきたのは怒りとか悲しみとかじゃなく、ただただ重たい絶望だった。頭を下げる男の姿とか申し訳なさそうな事務所の奴とか、縋り付いて言い訳する女とか、そのすべてが何もかもどうでもよかった。ただ笑いだけが口に出た。
もう音楽なんてやめよう。全部が全部、くだらないや。
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7月20日
あの家にすべてを置いて俺は身一つで外へ飛び出した。貯金も携帯も著作権も、これまで持っていたすべてを捨て去って1からアルバイト暮らし。遠く離れたこの片田舎で現実的に生きていく。
都会の喧騒と離れてみればまるですべてが幻みたいだ。仕事を辞めたと親に伝えたところ、勧められた塾のバイトも1か月も続ければ案外慣れるものだった。音大受験の時にそこそこ勉強したからその下積みがあったりするのかもしれない。
10月1日
今日も今日とて子供たちと朝から晩まで机を突き合わせる。世の中には子供が嫌いな奴も多いらしいが俺は案外この仕事が気に入っていた。先生と呼ばれるとなぜか少し誇らしいし子供が成長していく様子を見守るのは楽しい。何よりも自分が必要とされているという実感が心地よかった。
こっちに越してきてからしばらく感じていた苦しさも時間が経つとともに次第に薄らいでいって曖昧になっていく。「時間は最良の薬である」というのは誰の名言だっただろうか。
1月15日
一人の子供、仲良くしてくれている男の子と話している最中、最近流行の音楽についての話題になった。こちとら元本職、話はそこそこ弾んだのだが今流行っているらしい「麒麟児」というグループの話になって少し言葉が詰まる。何を隠そう「麒麟児」は羽崎とELEが組んだグループだったからだ。
男の子が語ることには今、最も勢いに乗っているグループらしく冬アニメの主題歌も盛大にヒット。ライブのチケットはものの数時間でソールドアウト、アルバムはチャートを席捲しているとのこと。
「俺、今度こそはチケット当てるんだ!余ったら先生にもあげるよ!」
「そうか、ほんとに優しい子だな」
元気よく語る少年の頭を撫でて笑った。
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1月15日
こっちに越してきてから1年半、心情的にも整理がつき、こっちでの暮らしも安定してきたこともあって俺は一度東京に戻ることにした。有休も溜まってきたし、親が言うにはポシーグループから正式な脱退の手続きをする必要があるとせっつかれているため帰ってこいとのことらしい。半ば強引に飛び出してきた手前、確かに向こうに迷惑はかけてしまったこともある。後始末をつけに戻る必要はあるかもしれない。
1月17日
実家に戻ってのんびりしていたら久しぶりにポシーの見慣れたスーツ姿が現れた。2年前くらいはもう死んでも見たくないと思っていた顔だったが今となるとなんだか普通のおっさんだ。笑って「久しぶり」と挨拶を交わすと向こうは随分と驚いたようだった。著作権の正式な放棄の手続きだったり事務所からの脱退だったり、諸々の対応が終わるころ、向こうの顔がやけに固くなった。
「あの、もしよろしければ1週間後の麒麟児のライブにいらっしゃいませんか?羽崎があなたとお会いしたいそうでして・・・」
スーツ姿はなんだかこっちが緊張するくらい居住まいを正してそう言った。
暫く悩んで「じゃあ、子供用のチケットの余りも何枚かもらえない?うちの生徒の引率役ってことなら喜んでいく」と答えた。もういっぱしの先生なんでね。
1月24日 絶好のライブ日和
子供たちを連れて予定通り武道館へと到着。周りを見渡せば麒麟児のグッズを持ったファンで埋め尽くされていて俺らみたいな田舎連中は浮いて見えるようだった。
不安がる子供たちを先導しておっさんが用意してくれた席に座ってライブがスタート。あの頃は何よりも憧れていた武道館だったが今となってはライブよりも子供たちが楽しんでいる姿のほうが嬉しいもので「ボーカルの人めっちゃ美人!」だとか「私この曲大好き!」だとかそんなことを興奮して話す様子が楽しく感じられる。
ライブが終わり、興奮冷めやらぬまま席を後にしようと思ったのだがそう言えば羽崎と会うのを引き換えにチケットを貰ったんだと思い楽屋へと向かった。
やっぱりライブが終わった直後だと忙しいらしい(そんなに忙しいならわざわざ呼ぶなと思うのだが)、羽崎は楽屋にはおらずマネージャーさんから「今日の夜8時、○○までお越しください」と住所を伝えられた。まぁ、そりゃあ2万円もするチケットを何枚も譲ってもらったんだから礼には伺うがやっぱり大スターというのは人使いも荒くなるものなのだろう。しぶしぶ了承したが納得いかん。今日の夜に文句言うくらい許されるだろう。
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揺れる、揺れる、頭が揺れる。俺は・・・俺は羽崎が言った住所に向かったはずで・・・・。あれ、俺は今何をしているんだろう。なんだか頭がふわふわする。どこかに飛んで行っちゃいそうなそんな気分がするんだ。
「ねぇ、あなた・・・。私の愛しいあなた。本当にお馬鹿ですよねぇ。あなたがこんなところにのこのこ来て、私のところに一人で来て・・・。そんなことしたらどうなってしまうかなんて分かりきっているのに・・・私があなたを捕まえてしまうなんてちょっと考えれば分かるのに・・・」
美しい声。綺麗な声だった。頭のてっぺんから足先までなんだかぼんやりと溶けてしまいそうな浮遊感の中、その綺麗な声だけが反響していた。
「はねさきぃ?久しぶりだなぁ、はねさき。元気にしていたかぁ?」
「はい、元気にしていましたよ。ずうっとずうっと、貴方を待って・・・。貴方があの家に帰ってくるのを心待ちにして」
横になった体の手と足はなんでか分からないが引っ張っても引っ張っても動かなかった。唯一動く視界の中、俺を膝で寝かせた羽崎はじいと獲物を見るようにこちらを見つめている。
「1年半も待たせるなんて・・・もう少ししたら私、可笑しくなっちゃってたかもしれないんですよ?可笑しくなっちゃって貴方の行き先を隠している人を滅茶苦茶にしちゃったかもしれないんですよ?」
にこにことかつてのように笑った羽崎は動けない俺の頬を撫でる。
「あなたが私を救ってくれた。あなたが私の希望だった。あなたが作った曲を歌って、あなたが作ったご飯を食べてあなたと一緒に毎日過ごして・・・あなたが私の全てだったのに」
「なのにあなたは私を捨てた」
羽崎は横に置いてあったスプレー缶のようなものを手に取った。そうだ!あのスプレー、あのスプレーを嗅いで頭がふわふわして、それで・・・それで・・・。嫌だ、苦しいのはもう嫌だ!
「やめて!はねさきぃ、それ止めて!」
「大丈夫です、辛いのは一瞬、一瞬ですから。目を覚ましたら私と二人、あの頃と同じようにずうっとずうっと幸せに暮らせますから。それに・・・そうだ!今度は前よりも素晴らしいんです。だって・・・2人は夫婦になるんですから。」
彼女はにっこりと笑いながら手元のスプレー缶を押した。口元に何かが噴出され次第に意識が遠くなる。視界があいまいになって何も見えなくなっていく。そして、完全に意識が落ちる寸前、あいまいになった脳みそに綺麗な、本当に綺麗な声が反響した。
「責任、取ってくれるって言ったじゃないですか」
高評価あったら、おなしゃす。
感想あったら次のヤンデレを書くのでぜひ下さい!
追記
いつも拙作を読んでいただきありがとうございます!
下らない作者の我が儘ですが、この度、夏に行われるコミックマーケット106に当選し、サークル「世界ヤンデレスキーの会」より「『別れよう』と上位存在の彼女に言うだけの短編集」という本を出すことが決まりました!やったぜ!
ここから8月まで練りに練ってよだれが出るようなぞっくぞくするヤンデレシチュを考えていく予定(知り合いの絵描きにヤンデレ絵も発注する予定)ですので是非宜しければ日曜日 南地区 “f”ブロック-25a(南2ホール)に足を運んでくださると幸いです!
怖いので10部(もう少し減るかも)しか刷らない予定なので悪しからず。うっひゃあ、楽しみ!!
ハーメルンでの次回作もなんか関連して書いていきます!遅れてすいません!