剣鬼と黒猫   作:工場船

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第五十三話:ディオドラ・アスタロトの憂鬱

「ううむ……」

 

 翌日、修復された駒王学園の教室にて、ゼノヴィアが唸る。

 腕組みをして見つめる先には彼女の携帯電話あった。

 

「ゼノヴィアっちー、じっとケータイ見てどうしたの?」

 

 そんな彼女に声をかけるのは三つ編み眼鏡の少女、桐生藍華。

 先日、緋剣に操られたことでボロボロになった身体は既に癒えている。堕天使の記憶操作技術によってあの時の出来事も忘れており、今の彼女は「危ないところをゼノヴィアに助けられた」という程度の認識しか持っていない。

 

「ああ、師匠からの連絡を待っている」

 

「師匠って、例の『100人は殺してそうな悪人面の、マフィアみたいな大男』だっけ? 何か約束でもしたの?」

 

「うん。私の親友に関する大事な用事なんだ。メールで伝えてくれると言っていた」

 

 桐生の言う人物とは、言わずもがな修太郎のことである。

 あの夜、死亡したイリナは修太郎の連絡により天界へと搬送されることになった。

 天界が新たに開発したという『御使い(ブレイブ・セイント)』システム。それを用いた天使への転生でイリナの蘇生を図るためである。その今後に関する報告が、修太郎からあるはずなのだ。

 

 はたして彼女はどうなったのか。襲撃後の翌日に「無事だ」とは伝えられたものの、正直気になり過ぎてここ最近あまり眠れない日々が続いている。

 『御使い』の根本は悪魔の転生と同じモノらしいが、新システムであるだけに何があるかわからない。早く直接会って安否を確かめたかった。これは、アーシアも同じ気持ちだろう。

 

「おいイッセー、快気祝いに今夜集まってDVD観賞しようぜ!!」

 

「一週間近く休んでたんだから、色々溜まってんだろ? ちょうど昨日レアものを仕入れたんだ!」

 

「おおっ! マジか!」

 

 教室の一角で同級生の男子生徒――確か松田と元浜――が、一誠と盛り上がっている。

 眠っていた一誠も昨日目覚め、本調子ではないにしろ元気に登校していた。

 原因不明の昏睡とのことだったが、リアスが何とかして目覚めさせたらしい。何故か当のリアスが微妙な表情だったのは気になったものの(あと何故かギャスパーが現場にいた)、眷族の皆が気にかけていただけあってこれは朗報だった。アーシアなどは涙を流して一誠に抱き着いたほどだ。

 あとはイリナの件がはっきりすれば自分も含めて皆安心することができる。

 

「やっぱその師匠って人、気になるわ~。ゼノヴィアっち、写真とかないの?」

 

「実は一枚も持っていないんだ。何度かこっそり撮ろうとしたんだが、気配を察知されて躱されてしまう」

 

「……それって隠し撮りするからじゃない?」

 

 しばらく桐生と修太郎について話していると、始業開始のチャイムが鳴る。直後に教室の扉が開き、担任教師が入ってきた。

 朝の挨拶がつつがなく行われる。しかし、今日のホームルームは少しばかり違った。

 

「えー、この時期に珍しいことですが、本日よりこのクラスに新たな仲間が増えます。どうぞ、入ってきて」

 

 そうして教室に入ってきた人物は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠! 師匠!」

 

 自室の扉を開くと、ゼノヴィアがいた。

 彼女の後ろには苦笑いするイリナの姿。二人とも駒王学園の制服に身を包んでいると言うことは、学園から帰ってきたところなのだろう。

 何やら興奮しているゼノヴィアを一瞥した修太郎は、彼女の頭越しにイリナへ声をかける。

 

「久しいな。身体は大丈夫か?」

 

「おかげさまで! ほら!」

 

 元気に言葉を返したイリナは祈るように手を組むと、後背から光を放つ。輝きが治まったそこには、純白の翼があった。頭上には光の輪が浮かんでいる。

 今のイリナは人間ではない。転生天使である。

 

「問題ないようだな。確か……ミカエル殿の『(エース)』だったか」

 

「そう、ミカエルさまの栄えあるエース! 一度死んじゃったのは運が悪かったけど、何事も結果オーライよね。むしろラッキーと言ってもいいわ! と言う訳で修太郎さん、これからもよろしくお願いします」

 

「ああ、聞いている。こちらこそよろしく頼む」

 

 ぺこりと頭を下げるイリナを見て、修太郎は答える。

 一度死んだとなるとショックの一つでも受けそうなものだが、どこまでもポジティブな少女である。まあ、彼女からすれば目覚めたら既に天使という状況だったのだから、実感など湧くはずも無いのだが。

 直後、思い出したように鞄を漁り始めたイリナは、何かを取り出して修太郎へ差し出した。

 

「はい修太郎さん。これ、返すわ」

 

「これは……」

 

 彼女の手には銀のロザリオが乗せられていた。天の祝福を内包する十字架は、エクソシストが扱う聖なる道具だ。

 修太郎はそれに見覚えがあった。何を隠そう、そのロザリオはかつてイリナから贈られ、しばらく修太郎の所有物だったものだからだ。

 

「私が引きこもってる時に修太郎さんが渡してくれたロザリオよ。あの時はどうもありがとう、ずいぶん時間が経っちゃったけど……」

 

 そう差し出された手に対し、修太郎は断る理由を持たない。ありがたく受け取ることにした。

 

「気にする必要は無い。しかしこのロザリオの力、何やら強くなっているようだが……」

 

 修太郎の手に納まったロザリオは、以前よりも強い力の輝きを放っている。個人的な見立てでは、上級悪魔ですら手傷を負うレベルに見えた。まるで一級品の聖具である。

 その疑問にイリナが微笑んで答える。

 

「ミカエルさまと私の祝福で、ロザリオの力を強化してあるわ。これなら武器としても使えるでしょ?」

 

 修太郎は神には祈らない人種だ。神道の神々ならばまだともかく、聖書の神となればなおさらだった。正直な話、ロザリオなど持たされても使いようが無いのである。こちらの思考が見透かされていたことに、内心で苦笑する。

 

「あ、でも気が向いたら祈りをささげるのに使っても良いのよ? 改宗は歓迎するわ。いえ、むしろ今から一緒に祈りましょう!」

 

「……それは遠慮する」

 

「えー」

 

 そんな会話をしていると。

 

「私を無視するなっ!!」

 

 視界の下方向にある青髪が叫んだ。

 

「どうしたゼノヴィア。腹でも痛いのか」

 

「違う!」

 

「ああ、イリナが学園に転入したことか? イリナ本人から『お前たちを驚かせたい』と口止めされていてな。悪かったとは思うが……」

 

「それもまあ驚きはしたが、違う!」

 

「ならば、いったい何だ」

 

 変わらない無表情の修太郎に、ゼノヴィアは目を輝かせながら答える。

 

「師匠が私たちを鍛えてくれると聞いた! 本当なのか?」

 

「ああ、そのことか。確かに、アザゼル殿から若手指導の協力を打診されている」

 

 新たに現れた強敵、六天将の侵攻に対抗するため、三大勢力は戦力を強化する必要があった。ゼノヴィアが言っているのはその件に関する話だ。

 修太郎(と言うより、実質的にはジョーカーチームそのもの)に話が回ったのは、若手対抗ゲームにおけるシトリー眷族の大躍進が大きな原因となっている。個人的にあまり乗り気ではないのだが、戦力が増えるのならば悪い話ではない。成功すれば、周囲への被害も少なくなるだろう。はたしてどれほどのことができるかはわからないが。

 

「そうか!」

 

 その言葉を聞いて、ぱっと笑顔の花を咲かせるゼノヴィア。とても嬉しそうである。

 

「まあ協力と言っても、どうお前たちに関わるかはまだ知らされていない。あまり期待はするな」

 

「ああ、私は頑張るぞ! なあ、イリナ!」

 

 一応釘を刺しておくが、あまり理解している様子は見られない。

 そんなゼノヴィアに、イリナは衝撃的なひと言を告げた。

 

「そうね。私もジョーカーチームで働くんだし」

 

「は?」

 

 絶句するゼノヴィア。親友が発した言葉の意味をしばし考える。

 

「イリナ、今何だって……?」

 

「だから、私今度ジョーカーチームに配属されることになったの」

 

「でも、学園では駒王町で働くスタッフだと……」

 

「それと兼任になるのかしら? 実質的にはバックアップね。細かい部分でお手伝いをするの。流石にあのメンバーに混ざって主力にはなれないわ」

 

「……師匠?」

 

 修太郎の方へ振り向くと、頷いて答える彼が見えた。

 

「本当だ」

 

 イリナの言うとおり、彼女はミカエル直属の配下としてジョーカーチームと合流する予定になっていた。修太郎は前もってアザゼルから聞いていたことを説明する。

 

 理由は主に三つ。

 一つは、単純にジョーカーチームの人手不足を補うため。

 神出鬼没の鬼神たちに対応するのに、今の人数では追いつかない可能性がある。少数精鋭は攻め手こそ強いが、守る側に立つと弱いのだ。とはいえ、新規に誰かを入れるにしても、チームと釣り合うほどの実力者は既に他の役割があてはめられている。そのため転生天使になり立てで、未だ目立った役職の無いイリナに白羽の矢が立てられた。

 

 次に、『御使い』であるイリナとデュリオは相互の強化を図ることが出来るため。

 トランプになぞらえて創造された『御使い』は、トランプゲームの役を組むことで能力を引き上げることが可能だ。イリナとデュリオであれば、Aのワンペアを組める。弱い役なので強化度合は低いが、それでも運用する価値はあるだろう。

 

 そして三つ目。これが最も大きな部分である。

 唖然とするゼノヴィアに修太郎は告げる。

 

「浄化の聖剣オートクレール……イリナはそれに選ばれた」

 

 オートクレールは、デュランダルの担い手として名高い聖騎士ローランの盟友であるオリヴィエが操ったとされる聖剣である。

 真に清らかな者しか持つことを許されず、その清廉な波動はあらゆる邪念を吹き飛ばし、憎み争う心を浄化すると言われている。

 

 目下の強敵である魔人、高円雅崇は呪いと怨念を操る方法に長けた術者だ。その実力は達人という評価すら生ぬるく、異形化の『蛇』を見てもわかるとおり、禁術によって強力な邪気と呪いを持った怪物を生み出す力を持っている。

 そういった存在に対しオートクレールの特性は絶大な効果を示すと予想されたため、天界はかねてよりこの聖剣の適合者を探していた。

 そこに現れたのがイリナである。転生天使になったことで聖剣使いの因子が強化され、彼女はオートクレールを操るに足る資格を得た。長らくゼノヴィアと行動を共にしていたことも関係しているらしい。

 

 ジョーカーチームは対テロ組織の攻撃面における最前線の一つ。その中で最も機動力の高い部隊であるため、有事の負担は相当なものとなる。相手に六天将まで追加されたとなれば、戦力強化も必要だろう。

 イリナ本人の実力不足は『御使い』の特性で補うことが可能であり、オートクレールは黒歌の黒炎、美猴の浄化闘気に次ぐ特効戦力となる。退魔鋼糸を扱えるということも地味に評価へと繋がり、今回の人事が発令されたのだ。

 イリナが言ったように、今はまだバックアップ……後方要員としての部分が大きいのだが、鍛えれば前線にも立てるようになるだろう。

 

「……と言う訳だ。確かにイリナは俺たちのチームに加わるが、今はまだ余程切羽詰まっていない限り前線には出せない。お前と同じだ。納得したか?」

 

「う、うう……」

 

 イリナは天使長ミカエルの直属、ゼノヴィアは魔王の妹の眷族。その立場には大きな隔たりがある。納得するしかなかった。

 言い聞かせるような修太郎の言葉にゼノヴィアは頷く。

 

「お前が強くなるのなら、いずれ共闘もできるだろう。今は励むことだ」

 

 そう言って、修太郎はゼノヴィアの青髪を撫でつけた。

 個人的に、彼女たちと魔人をぶつけるのはあまり良いこととは言えない。だが彼女たちが組織に属する以上、修太郎が口出しできる事柄でもない。

 しばらくくすぐったそうに目を瞑ったゼノヴィアは、ぐっと拳を握って修太郎を見据える。

 

「……ああ、絶対師匠に追いついて見せるからな!!」

 

「……いいかげん師匠と呼ぶのはやめろ」

 

「師匠が師匠になるのなら、その相談を聞いてもいいぞ」

 

 ブレない少女に、修太郎も慣れたものだ。「馬鹿を言うな」とその額を指ではじく。

 

「二人とも、俺はこの後用事がある。悪いが――」

 

 修太郎が言葉を続けようとした、次の瞬間だった。

 修太郎の背後、部屋の中から凄まじいまでの殺気が放射される。

 見覚えのある気配の方向へと視線を移し、そしてゼノヴィアは見た。夕刻の緋色を思わせるオーラが、まるで触手のようにこちらへ殺到しているのだ。

 

「ちっ……」

 

 修太郎は珍しく苛立たしげに舌打ちすると、伸びてくるオーラに手を伸ばした。指先が触れた瞬間、場を満たす殺気は一気に霧散する。

 

「悪いな」

 

 突然の出来事に驚くゼノヴィアたちにそう告げて、修太郎は部屋の扉を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロ、やはり駄目か」

 

「うーん、そうね。刀の力が強すぎて……と言うより私の力と相性が悪すぎて封印も抑制も出来ないにゃん」

 

 部屋の中に戻った修太郎は、緋色の太刀と向かい合う黒歌に声をかけた。

 黒歌の周囲には無数の術式・魔法陣が展開されているが、それらはすべて食い破られたかのように破損している。机の中央に置かれた太刀――『黄昏の牙』が、退魔の力を放射して術をはねのけたのだ。

 

 先日の夜リアスたちに見せたように、『黄昏の牙』は人外、特に魔に属する存在に対し明確な排除の意志を持っている。それはもはや本能的なものであるらしく、相手が強力な力を宿す存在であるほどに強い反応を示し、下手をすれば修太郎が握っていてさえオーラを乱すことがあった。

 

 ジョーカーチームは修太郎以外の全員が人ではない存在だ。この事実は、今後の活動に支障を与えかねない。

 天使であるデュリオや、半神半人のロスヴァイセのような魔の気配を持たない者には妖刀の反応もわずかなものだが、他のメンバーは違う。特に天龍と魔王の力を受け継ぐヴァーリに対しては、彼との交戦を煽りかねないレベルで反応を強めていた。

 黒歌に関してもまた然り。鞘の中に納まってさえ気配を飛ばしてくるほどである。

 

 疲れたにゃー、とへたり込む黒歌の背中を支えると、またも妖刀が力を放射する。

 それを視線で黙らせて、彼女の様子を窺った。

 退魔力の影響か、顔色はあまり良くない。悪魔で妖怪の彼女からすれば、常に首筋へ刃物を突きつけられているようなものだっただろう。

 それにしても、大悪魔、大妖怪と言ってもいい黒歌にここまで疲労を与えるとは。どうやら修太郎という使い手を得てから、この妖刀はさらに力を増しているようだった。

 

「……この刀は使えない。下手をすると皆の足を引っ張ってしまう」

 

「じゃあどうするにゃん?」

 

「…………」

 

 『黄昏の牙』は、駒王町へと移動するにあたって多数の魔物を討滅している。

 それらの大半は野良の妖魔やはぐれ悪魔に分類されるならず者だが、地上を縄張りとする上級悪魔も数人ほど被害を受けていた。

 人間界で活動を許される悪魔――特に欧州などのキリスト教圏を管理する者たちは、長年天使・堕天使と争ってきただけあって相応の実力を持っており、緋緋色金の暴走に際しては病院送りになった者こそいるものの、一人の死者も出てはいなかった。

 今回はまだ良かったが、このままの状態で放置すれば、いずれまた同じことが起きるだろう。それは修太郎としても本意ではない。

 

「それなりに時間はかかるだろうが、調整が可能な相手に当てはある。その方に預けよう」

 

 確かにこの妖刀は強力だ。聖剣を持てず、降魔剣も使えない修太郎にとって、非常に大きな武器となるだろう。

 だがその力は、黒歌に危険を及ぼす可能性を孕んでいる。ならば修太郎にそのようなものを使う選択肢は無かった。それがたとえかつての愛刀であろうとも、である。

 

「でもしばらく手放すとなると、シュウの武器が無くなるにゃ。ドワーフの新しい剣はまだなんでしょ?」

 

「それについては、アザゼル殿から代わりの武器を貸してもらっている。当分はどうにかなるだろう」

 

 そう言って、修太郎は一振りの剣を取り出す。鞘に収まったそれは、両刃の長剣だった。

 抜くと刀身より膨大な質量のオーラが溢れだす。オーラは、光と闇が混ざったかのような色合いを示していた。

 

「……聖魔剣?」

 

「いや、『閃光と暗黒(ブレイザー・シャイニング・オア)の龍絶剣(・ダークネス・ブレード)』だそうだ」

 

「ぶれ……だーく……? 何にゃ? それ」

 

「『閃光と暗黒(ブレイザー・シャイニング・オア)の龍絶剣(・ダークネス・ブレード)』。よくわからないが、人工神器の試作品らしい」

 

「ふーん、変な名前」

 

 修太郎も否定はしない。テーブルの上の緋緋色金を鞘に収め、魔法のベルトポーチにしまいなおす。

 そうして座りこむ黒歌に手を差し伸べた。

 

「行くぞクロ。疲れているところ悪いが、仕事の時間だ」

 

「んー……やっぱきついにゃー。ねえシュウ、運んで?」

 

「それくらいなら、お安い御用だ」

 

 黒歌を横抱きに抱え上げると、彼女が編み上げた転移方陣が起動する。

 次の瞬間、部屋の中には誰もいなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

                  ―○●○―

 

 

 

 

 

 

 

「――はあっ!? はぁ、はぁ……」

 

 窓の外から聞こえてくる小鳥の鳴き声に、ディオドラ・アスタロトは目を覚ました。

 普段ならば微笑みを張り付けた顔は焦りと恐怖に歪み、全身を汗で濡らしている。乱れに乱れた呼吸を整えつつ周囲を見渡せば、高級家具が散乱する部屋が見えた。紛れもなくディオドラの自室だ。

 

「夢……? くそっ!!」

 

 苛立つディオドラは左腕をベッドに叩き付けようとし――それが無いことに気付く。

 

「ううっ……ぐ、ッ……!」

 

 瞬間、痛みにうずくまる。

 既に存在しない左腕から発せられる痛みは、異物で神経を挟み込まれたかのような辛さを強いる。

 何故だ。どうしてこうなった。

 

「あいつの、せいだ……ッ!」

 

 暮修太郎。

 1年以上前、突然現れて「お楽しみ」を邪魔し、ディオドラの眷族を半壊させた男。毎夜見る悪夢の登場人物でもある。

 寝間着に包まれた右腕をまくれば、男から受けた傷跡が残っている。良く見なければわからないほど薄くなってはいるが、無数に交差する斬傷の痕はおそらく一生消えないだろう。

 

 傷を見るたびにフラッシュバックする映像は、星の少ない闇夜の中で蒼く輝く長身の影。

 その腕が振るわれるたびに、血が舞い、肉が飛び、何かが両断されていく。こちらが放つ魔力の攻撃は一切直撃せず、それどころか拳の一撃で弾き飛ばされる。まるで悪夢のような光景は、紛れもない現実としてディオドラの命を飲み込まんとしていた。

 あの時命を拾うことができたのは、ディオドラの『僧侶』がシスターの少女へ記憶混濁の魔力を撃ち込むことに成功し、修太郎が追撃を止めたからだ。命を懸けた『僧侶』の活躍によって、ディオドラは逃げおおせることができた。

 

 修太郎に殺された眷族は『戦車』2名、『騎士』1名、『僧侶』1名、『兵士』3名の計7名。どれもディオドラが選び鍛えた精鋭だ。それを一夜にして失うなどと、誰が予想できただろうか。

 思えばあれと出会った時から、自分の人生はおかしくなった。

 あの損失さえ無かったならば、アガレスに負けることも無く、両親に無様を見せることも無かった。アーシア・アルジェントにも早い段階で再会できていたはずだ。そもそも、彼女をグレモリーなどにとられる事態も起こらなかったと、ディオドラはそう信じていた。

 

「くそっ……!」

 

 ディオドラは、暮修太郎から逃げていた。

 最初は報復の意志もあったが、調べるうちに自分の手におえる相手ではないことがわかったからだ。

 天に愛され過ぎた才能は最上級悪魔すら滅ぼし得る。それは例えば、古くは各地の英雄と呼ばれる者たちであり、近代では教会のヴァスコ・ストラーダとエヴァルド・クリスタルディの二大巨頭が挙げられるだろう。暮修太郎はそれらと同種の人類だった。

 ディオドラに出来ることは、短い人間の生を人知れず嘲笑うぐらいだったのである。

 

 そのスタンスに危機が訪れたのは三大勢力の和合が成立した直後のこと。なんと現魔王たちは暮修太郎を雇うなどと言い出したのだ。

 理由はテロリスト集団『禍の団』に対抗する戦力とするため。

 それと併せて修太郎の有用性を周知するべく、現白龍皇ヴァーリ・ルシファーとの戦闘映像も公開された。内容は一言、『化け物対化け物』。規格外の人間に危機感を抱く者もいないではなかったが、最強の魔王が従えるならばと、結果的に多くの上級悪魔は納得した。

 その事実はディオドラにとって衝撃的だった。何せ絶対に出会うまいと思っていた相手が、あちらからその距離を急速に縮めてきたのだ。しかも、最悪誰かの眷族として悪魔社会に加わる恐れもあると言うのだからたまらない。

 

 その直後に企画された若手対抗レーティングゲームなどは、厄ネタ以外の何物でもなかった。

 冥界全土が注目するそれは、魔王の近くにいる修太郎も当然目を通すだろう。果たしてディオドラの存在に気付いた時、相手はどうするのか。ディオドラは現魔王ベルゼブブの血縁だ。まさか襲い掛かってくることはないだろうが、しかし相手は彼の悪名高き『悪魔嫌い』の月緒一族。しばらくまともに眠れない日々が続いた。

 

 ディオドラの心労はそれだけで終わらない。

 三大勢力が和合するに当たって、各勢力が被った被害の整理と清算をある程度行うことになったのだが、過去ディオドラが働いた所業――聖女やシスターに対する誘惑・誘拐行為――はそれに抵触する恐れがあった。

 

 その結果、命を失うようなことは無いとしても、今まで紳士の顔で通してきたディオドラだ。一族にとって大幅なイメージダウンになることは避けられない。旧四大魔王の時代ならばともかく、現魔王政権においてそういった行為は褒められたものではないとされているからだ。その結果、次期当主の座から外される恐れもある。

 修太郎の登場は、ディオドラの立場を危うくする可能性を秘めていたのだ。

 

 案の定アガレスには負け、自身の見立てでもグレモリーに勝てないことは明白。そこに一族からのプレッシャーである。

 頭がどうにかなってしまいそうだった。

 

 そんな時に旧魔王――『禍の団』と接触できたのは僥倖だった。

 使用者に絶大な力を与えるというオーフィスの『蛇』。『禍の団』の作戦に協力することを約束し、ディオドラはそれを入手することができた。

 この判断に迷いは無かった。現魔王政権の方針には内心で嫌気がさしていたし、何よりも修太郎から離れたいという思いが強かったからだ。世界最強の一角であるオーフィスが後ろ盾ということも大きい。

 作戦は、いずれ訪れるだろうディオドラ対グレモリーのゲームにて決行される予定だったのだが――。

 

「僕の……僕の、力……」

 

 ディオドラの右手に集まった魔力は、以前と比べてひどく弱々しいものだった。

 原因は、自身の胸を貫いた退魔の妖刀『黄昏の牙』から受けた傷にある。

 胸から注ぎ込まれた退魔力により、ディオドラはひどい後遺症を負った。それにより魔力総量は半減、出力に至っては3分の1にまで低下、文字通り彼の才能は地に落ちた。

 今のディオドラに上級悪魔としての能力は無い。良くて中級程度、これでは若手対抗のゲームになどとても臨めない。何せ、自身の眷族にすら歯が立たないレベルなのだ。

 

 この後遺症は、おそらく一生治らない。左腕に関しては再生医療である程度まで戻せるだろうが、完治は不可能と言われていた。

 頼みの『蛇』も、腹の中から消え失せているようだった。胸を貫かれた際、『黄昏の牙』の退魔力が消し飛ばしたのだろう。あるいは、今ディオドラが生きているのはそのおかげかもしれない。

 だがこれで今からどうやって生きていけばいいと言うのか。

 

 能力を失ったディオドラは、もはやアスタロト家次期当主ではない。むしろ家にとってはお荷物も同然、良くて種馬が関の山だ。その立場すら、今の状況では危ういときている。

 端的に、ディオドラは詰んでいた。

 

「僕は……僕は、アスタロト家のディオドラだ。……現魔王ベルゼブブの高貴なる才能を引き継いだ悪魔だ。今まで順調に生きてきた。手に入らないものなんて無かった……今までも、これからも……何故だ? どこを間違えた?」

 

 一人呟き続けるディオドラ。ここ最近の彼は、ずっとこうだった。過去を思い出し、どうすればよかったか思案する。

 それは心の均衡を保つ手段であり、自身の「これから」に対する逃避だった。

 

「間違いなんて何一つなかったはずだ。僕は何も悪いことなんてしていない。僕は、悪魔として……」

 

 そして、その呟きに答える者は誰一人としていない。

 そのはずだった。

 

『ええ、あなたは間違っていない』

 

 突如として声が降りかかる。

 それは、ディオドラの右後方――枕元に置かれた宝石細工から発せられていた。

 

『利己的で傲慢、欲望に忠実。悪魔として実に正しい行為ではありませんか。そうでしょう?』

 

「!!」

 

 ディオドラは、慌ててそれに飛びつく。

 その宝石細工は彼に残された唯一の命綱だった。

 

『ごきげんよう、ディオドラ・アスタロト。何やら連絡をいただいていたようですが、何か問題でも?』

 

 宝石から流れてくる声は良く通る男のものだ。

 必死な様子のディオドラとは対照的に極めて冷静で、それでいて友好的な声音を崩していない。

 

「も……問題だらけだッ! キミは誰だ? シャルバを――シャルバ・ベルゼブブを呼んでくれッ!!」

 

『シャルバさまは今席を外していまして、しばらくお戻りになりません。それよりも、少し落ち着いた方が良い。あなたが置かれた状況は、こちらも把握しています。順を追って話しましょう。あなたは何がしたい――いいえ、何をしてほしいのです?』

 

 まくしたてるディオドラを、男の声は受け流す。

 宝石細工の正体は『禍の団』と連絡をとるための装置だった。

 男の言葉にディオドラは呼吸を落ち着ける。傷を負ってより連日、それこそ一日中発信していたのだが、一向に繋がる様子を見せなかったのだ。しかし確かに焦り過ぎていたのかもしれない。

 

「た、助けてくれ」

 

 考えた末、口を突いて出たのはそんな言葉だった。我ながら情けないが、そう言うしかない。

 

『何から?』

 

「な、何?」

 

『助けるとは、何からなのです? 力を失った現状から? 聖職者誘拐に関する追求から? それとも―――今まさにあなたの家へやってこようとしている、現ルシファーの刺客と、暮修太郎たちから?』

 

「な、は――!?」

 

 男が発した最後の言葉に、絶句するディオドラ。

 何を言っているのだ、こいつは。

 

『言ったでしょう? 「あなたの状況は把握している」と。あなたが「禍の団」と通じていることなど、現魔王たちはお見通しなのですよ。むしろ気付かないはずはない。何せ、各神話体系の重鎮が集まるゲーム会場は恰好の襲撃場所ですからね。それに関わる者たちは、最初からマークされていたと言う訳だ。同じく、その過程であなたが過去行ったことについても知っているでしょう』

 

「そんな――いや、ち、違う、それが本当にそうだとしても、キミに何故、今――奴が来るとわかるんだ……?」

 

『おや? 存外冷静ではないですか。それは……』

 

 男がそこまで話すと、屋敷中にチャイムの音が響き渡る。訪問者がやってきたのだ。

 しばらくすると、部屋の扉をノックする音が聞こえる。

 

「なんだ!」

 

 声を張り上げるディオドラに答えるのは、屋敷の侍女だ。扉の向こうからおびえた声音で用件を告げる。

 

「あ、あの、ディオドラさま……訪問の方が――ルシファー眷族のベオウルフさまと、あとお二人……」

 

「……帰ってもらえ」

 

「し、しかし、政府からの用件だと――」

 

「いいから追い返せ! これは命令だッ!!」

 

「は、はいぃっ!!」

 

 慌てて立ち去る侍女の足音を背に、ディオドラは頭を抱えた。

 

『どうします、時間はありませんよ?』

 

 宝石細工の向こうから、男の声が語りかける。

 もしもこのまま政府に捕まったとして、ディオドラはどうなるだろうか?

 テロリストに通じているとなれば、いくら現魔王に連なる一族の者であろうと処罰は免れない。徹底的な尋問の後、死刑か、または永久凍結刑か、それとも終身刑か。

 何にせよ、とても耐えられるものではなかった。そうなれば死んだ方がマシと言うものだろう。だが、自身にそれを行う気概は無い。

 故にディオドラは――。

 

「頼む、僕をここから助けだしてくれ。キミたちの下へ連れて行ってほしい」

 

『それは良いのですが……あなたを助けたことによる私たちへのメリットは、果たして何があるのでしょう?』

 

 再び絶句するディオドラ。この土壇場でそんなことを言い出すとは。

 いや、むしろそれは当然のことなのだろう。誰がメリットの無い相手を助けるというのか。

 

「な、何でもする。僕に出来ることなら」

 

『何でも、と言っても今のあなたにできることなどたかが知れている。そうでしょう?』 

 

 男の声には愉快げな色が混じっている。

 切羽詰ったディオドラとは正反対に、男はこの状況を愉しんでいるのだ。

 

「じょ、情報だ。情報を渡す」

 

『興味深い。ではどうぞ』

 

「アスタロトと交流の深い、ヴァサーゴ家の詳細な情報がある! それと現魔王アジュカや、その眷族についてもだ!」

 

『それだけでは弱いですね』

 

「魔王領の結界を通り抜けるパスを知っている。これなら……」

 

『ふむ、次は?』

 

「っ……!」

 

 言葉に詰まるディオドラ。焦りに支配された頭では、目ぼしいと思える情報はもう思いつかなかったのだ。

 

『きゃあっ! ベオウルフさま、困ります!!』

 

 階下から侍女の悲鳴と慌ただしい音が聞こえる。訪問者が屋敷に押し入ってきたのだろう。

 侵入者とくればしばらくはディオドラの眷族が抑えてくれるかもしれないが、何秒持つかわからない。何せ相手は冥界でも五指に入る『兵士』ベオウルフと、男の話が正しければあの暮修太郎がいるのだ。

 そう、あの暮修太郎が。

 焦りが心を埋め尽くす。冷や汗が止まらない。心臓がうるさく高鳴り、耳の奥にまで響いてきた。

 ディオドラは叫んだ。

 

「僕の祖父や祖母――歴代アスタロト家当主の隠居している地域と、侵入経路を教えるッ!! 捕えて人質にするなり何なりすればいいッ!!」

 

 それは、自分のために一族を売るという、さらなる裏切りの言葉だった。

 しかし男の返答は。

 

『申し訳ありませんが、既に知っています』

 

「う……」

 

 ディオドラの顔は蒼白になった。

 終わったと思った、その時。

 

『ですが……ふふふ、清々しいまでに身勝手。そして無様。悪魔は邪悪であるべきだが、誇れるものは必要だというのに。……ですがよろしい。その願い、聞き入れましょう』

 

「え――?」

 

 瞬間、ディオドラの周囲が賽の目状に区切られる。

 

『何にせよ、通信機は回収せねばなりませんでした。あなたの焦る姿、中々面白かったですよ』

 

 その言葉を最後に、ディオドラの見る風景が歪みだす。

 直後に扉が切り裂かれると、鋭い眼光がディオドラを貫いた。暮修太郎だ。

 斬られたと錯覚するほどの剣気に、全身から汗が噴き出す。

 ディオドラの視界が暗転するのと、虚空を刃が走るタイミングはほとんど同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付くと、ディオドラは絨毯の敷かれた床に座り込んでいた。

 前に目を向けると、男が一人立っている。左目を仮面で覆った、銀髪の男だ。

 

「やあ。初めましてディオドラ・アスタロト。間一髪でしたね」

 

 この男こそが、通信機でディオドラと会話していた人物なのだろう。男の口調は変わらず友好的なものであったが、先ほどのやり取りを経た後では慇懃無礼に聞こえてならない。

 とはいえ、今更食って掛かっても仕方がない。一応、窮地を助けてくれた恩人なのだ。

 

「あ、ああ、助けてくれて……」

 

 戸惑いながらも礼を言おうとしたディオドラだったが、そこでむせ返るような悪臭に気付く。

 床についた右手に生暖かい液体が触れた。

 

「血……?」

 

 べっとりと纏わりつくそれを見て、周囲を見渡す。

 ディオドラと銀髪の男がいる部屋は、とても広かった。おそらくは会議室か何かなのだろう。中央に長机を備え、均等に配置された席に多数の貴族服を纏った人影が見える。資料らしき映像が空間に浮かび、まるで先ほどまで会議の最中だったかのようだ。

 しかし、席に座る者は誰一人として動かなかった。

 当たり前だろう。彼らは皆、首から上が消失していたのだから。

 

「――ひっ!」

 

 机と床の間から、厳めしげな面構えの首がこちらを見ていた。苦悶一つないその表情は、彼がそれと気づく間もなく絶命したことを示している。

 

「なっ、な、なんだっ? 何なんだッ……これは……!?」

 

 尻餅のまま後ずさり、銀髪の男を見る。

 男の端正な顔は、笑みを浮かべていた。どこまでも冷たい、極寒の笑みだ。

 

「何、大したことはありません。ただの間引きですよ。大仰に言えば粛清です。無能は要らない。そうでしょう? ディオドラ・アスタロト」

 

「ま、間引き……? 粛清……? 何を言ってるんだ?」

 

「シャルバ・ベルゼブブがあなたに提案した作戦はですね、はっきり言って壮大な無駄です。確かに各神話勢力の重鎮が集まる場で作戦を成功させれば、大打撃を与えることはできる。しかし、こちらが受ける被害は半端では済まないですし、今は様子見に徹している神々も動き出すようになります。リスクとリターンが釣り合っていないのですよ。その時だけ勝ててもまず後が続かない」

 

 わかるでしょう? と男は言う。

 

「しかしながら、そろそろ彼らにも何かしらの成果が必要だった。そうでなければ、旧魔王派閥の悪魔たちはともかくとして、堕天使たち他の種族は満足しませんからね。マーブルカラー、などと呼ばれているチームが攻め込んでくるせいで焦っていたのでしょう。あなたが再起不能なのにもかかわらず、シャルバは作戦を強行する構えでしたよ。今までは私もフォローしてきましたがね。流石に看過できません。何せそれでは――」

 

 ――利用する前に潰れてしまうでしょう?

 

 そう言葉を発する男の視線は、どこまでも冷たかった。

 ディオドラの背筋を、得体の知れない悪寒が貫く。

 

 

「キミは……キミはいったい、何者なんだ……?」

 

 ディオドラが問いかけた、その時だった。

 

「ねえルッキー、こいつらどんだけ食べちゃっていいの? 私さー、いいかげんお腹すいたんだけどー?」

 

 響いた声に振り向くと、そこには金髪を二つ括りにした少女が立っていた。

 裾丈の短いゴシックロリータドレスを身に纏うその少女は、釣り目気味のぱっちりとした瞳でディオドラを見つめると、手を振って楽しげに笑いかける。

 見た目だけはとても可愛らしいが、この状況にはあまりにも不釣り合いだ。発言も含め、端的に言って不吉だった。

 

「ああ、そうですね。あそこから――あそこまでの人たちは要りません。ミッテルトさん、処理してください」

 

「よっしゃ、あざーっす!」

 

 銀髪の男が指示を出すと、少女は背に黒翼を広げる。

 

(堕天使……?)

 

 そう思ったのもつかの間、少女の黒翼はざわめくように蠢き、表面を鋭利なものに変えていく。

 次の瞬間、男が指定した範囲の空間が抉れるように消失した。

 

「………は?」

 

 唖然としつつ少女の方を見ると、咀嚼する黒翼が見えた。それはもはや翼ではなく、鋭利な槍で覆われた捕食器官。目にもとまらぬ高速で、椅子に座る死体たちに喰らいついたのだ。

 

「うーん、やっぱ悪魔じゃ燃料には向かないわー。養分にはなるけど」

 

 肉と骨が潰れる残酷な咀嚼音とは対照的に、少女の声はどこまでも無邪気だ。

 その光景を見て恐れおののくディオドラに、銀髪の男が語りかける。

 

「そう言えば、自己紹介がまだでしたね。私は『禍の団』で参謀を務めておりました、ユーグリット・ルキフグス。以後、お見知りおきを。さて、ディオドラ・アスタロト。情報は要りませんので、何でもやってもらいましょうか」

 

 笑みを深める銀髪の男を見て、ディオドラはここにやってきたことを心底後悔した。

 




連続更新です。

イリナと、あと若手の今後にかかわる方針と、ディオドラの行方。そんな話。

逃げた先はさらなる地獄だった。弱体化したディオドラさんの明日はどっちだ。
頭のおかしい銀髪のシスコンは、原作とは微妙に違う理由で敵にまわっています。
金シスコンと銀シスコンの口調がかぶりまくってて作者的にちょっと失敗した感じがありますが、出来るだけ気にしないようにしましょう。

次章は一誠たちの強化と、ラグナロクになります。
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