本屋に行ったらあ~る10巻を見つけて衝動買いした記念作品。
一発ネタなので多分続かない。

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頭にふっとネタが舞い降りたので適当に書きました。


究極超人あいえす

 織斑一夏は委縮していた。

 何故って、彼が世界唯一の男性IS操縦者だからである。

 

 もう少し詳しく言うなら、女性にしか動かせない筈のインフィニット・ストラトス(IS)なるマルチフォームスーツ……つまりナンカスゴイパワードスーツを何の因果か起動できてしまったばっかりに、操縦者養成施設であるIS学園(実質女子高)にたった一人で放り込まれてしまったからだ。

 そこには超兵器であるISを巡って水面下の対立を続ける世界各国の「なんか面倒だしIS学園に放り込んどくから後ヨロシク」という深謀遠慮があった。

 

 その他詳しい事は原作かWikiを読め。

 

 

 で、とにかく一夏君は女の子だけの花園に無理矢理押し込まれてしまい、周囲の奇異の視線を受け続けるプレッシャーと仲間のいない孤独感から完全に縮こまってしまっていた。

 が、直に入学直後の恒例行事『自己紹介』というイベントが始まる。自分の番が来るまでに復活しなければクラスメイトの前で無様に恥を晒す事になるが、彼の苗字は織斑なので頭文字は『お』、出席番号順だとかなり早めに彼の手番が回ってくる。

 どうなる一夏。

 

 

  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「え~と、先ずは皆さん、ご入学おめでとうございます!」

 

 織斑一夏は完全にテンパっている。

 なので教室内に先生が入室した事にも気付かない。

 

 

「私は副担任の山田真耶です、これから一年間よろしくお願いしますね!」

 

 織斑一夏は完全にテンパっている。

 なので教壇に立った副担任の挨拶にも気付かない。

 そして自分が生徒達の注目を集めてしまって副担任の挨拶がスルーされた事実にも気付かない。

 

 

「……え、え~と、それでは皆さん順番に自己紹介をしていきましょう!」

 

 織斑一夏は完全にテンパっている。

 なので遂に自己紹介が始まってしまった事にも気付かない。

 ちなみに生徒からスルーされた山田先生は涙目だが、勿論気付かない。

 

 

「じゃあ出席番号1番の人、どうぞ!」

「やぁ。R(あ~る)・田中一郎くんだよ」

 

「ちょっと待てぇぇい!!」

 

 織斑一夏は完全にテンパっている。

 でも流石にこれには気付いた。なのでツッコまざるを得なかった。

 

 

「お前男子か!?」

 

「何ですか騒々しい。」

 

 困惑しながら尋ねる一夏に対し、目の前の男子―――R・田中一郎とか名乗った片目隠れ三白眼の男は、愛用の扇子で口元を隠しながら顔を顰める。

 

「僕が男性で無ければ何なんですか。見ての通り、どこから見ても健全な男子高校生ですよ」

 

 本人はマイペースに胸を張っているが、ぶっちゃけ一夏だけでなくクラス中の女子達も唖然とした表情を向けている。何故一夏以外の男子が学園に居るのか、それは誰も知らない。教師である山田先生も一緒になって混乱してる時点で誰にも分からないのである。

 そんな周囲の戸惑いを他所(よそ)に、R・田中一郎……あ~るは平然と言葉を続けた。

 

「それにほら、僕の格好もこれこの通り。男子用の学生服ですよ。これを見てもまだ僕の事を女子だと疑うんですか?」

 

 言う通り、彼の服装はどこからどうみても男子学生服。上下ともに真っ黒な学ランは正に―――

 

 

「待て待て待て、それIS学園の制服じゃ無いぞ!?」

 

 ちなみにIS学園指定の制服は主に白を基調とする。あ~るの学生服とは似ても似つかない。

 

「……………………」

 

 しばし呆然と自身の服装を検めるあ~る。そして。

 

「ああっ本当だ。」

 

「お前の目は節穴か!?」

 

 どおして気づかなかったんだ、と今更な自問自答を始めたあ~るにツッコミを入れはしたものの、それを言うなら同じ教室内に居たのに自己紹介されるまで異物(あ~る)の存在に気付けなかった一夏以下クラスの連中も節穴である。

 

 

「あのー、あ~る君? でしたっけ?」

 

 と、ここで声をかけたのは困惑によるフリーズ状態から漸く復帰した山田真耶副担任。

 

「そもそもあなた、うちの生徒なんですか? 私、何も報告を受けてないんですが……」

 

 未だに困惑気味だが、二人目の男性操縦者が発見されたという報も無ければ彼のような人物がこの1年1組に籍を置くとも聞いていない。当然の疑念だった。

 しかし面と向かってそれを指摘されたあ~るの方は、相当なショックを受けたらしい。無表情のままだが、数舜固まった後にその場に(くずお)れた。

 

「そんな……先生ともあろうお方が、生徒の存在を否定するなんて」

 

「えっあっ違―――」

 

「ちょっと服が違っただけでクラスから排斥されるなんて、横暴だ。アイデンティティの崩壊だ」

 

「ううっ!」

 

 よよよと涙を流しながらいじけるあ~るの姿が余りにも哀れに思えたのか、元より柔和な先生として有名な山田先生が堪えられる筈も無かった。

 

「わ、私が間違ってましたっ! あ~る君は立派な私の生徒の一人です!」

「先生っ!」

 

 自らの不徳を恥じ、この不審な男子生徒を受け入れてしまった山田先生と、感極まった様子で彼女に応えるあ~るの感動的な抱擁。ただし傍目から見ればただの茶番である。

 そんな訳で『それでいーのか』という生徒達の声無き声を完全に無視し、R・田中一郎のIS学園一年一組在籍は確定したのであった。

 

 ―――副担任山田真耶、割と勢いで生きる女。

 

  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「それで……この不審人物をクラスに加える事にした、と?」

 

「はい、この子も私の可愛い生徒です!」

 

「かわいいせいとだよー。」

 

 頭を抱えながら胡乱な目で同僚を見るのは、このクラスの担任にして一夏の姉でもある織斑千冬教諭。たわわな胸をえへんと張り眼鏡をキラリと煌めかせる真耶を見て大きな溜息を吐く。

 あと彼女達の後ろで、何故か大正チックな女学生の扮装をしながら何らかの何かをアピールしてくる(くだん)男子(あ~る)が更に不安を募らせる。もうどこからツッコミを入れたものやら。

 

 

「とりあえず……あ~るとやら」

 

「何でござんしょ」

 

「……貴様、ISを動かせるのか?」

 

「はっはっは。」

 

 色々言いたい事はあったが、さしあたって最も根本的な部分から解決していくことに決めた千冬女史。殺気すら感じられそうな程鋭い睨みを受け流しつつ、いつの間にか元の学生服に戻っていたあ~るはカラカラと笑ってその質問に答える。

 

「よくぞ聞いてくれました。何を隠そう、私こそがこの町一番のIS使い」

 

「この町も何も、我々の居る人工島はまるごと全部IS学園なんだが」

 

 千冬の言葉を聞いてか聞かずか、ひょこひょこと彼女の周りを弾むように歩き回りながらチッチッと指を振るあ~る。率直に言ってすごく鬱陶しい。

 

「僕の手にかかれば、どんなISもよく懐きよく動きよく食べると評判なんですよ」

 

「お前、ISを何か勘違いしてないか?」

 

 なおISとは宇宙開発を目的として制作されたマルチプラットフォームスーツであり、現在は専ら軍事兵器か競技用の武具として用いられている。そのコア部分には意思があるとかいう噂もあるが、少なくとも物は食べない。

 明らかにISを間違えているあ~るだが本人に自覚は無いらしく、千冬の指摘にも眉を顰めて不快感を示すのみ。

 

「……あなたにISの何が分かるというんですか。これだから素人は」

 

「ほう、言ったな小僧……この私、織斑千冬に対して()()と言ったな。私が世間で何と呼ばれているか、知らない訳でも無かろうに!」

 

「何と……」

 

 額に青筋を浮かべて凄む千冬の威圧を受けてなお、あ~るは惚けたようにぽかんとし、そして一瞬だけ間をおいてからポンと手を叩き一言。

 

「『ISの素人』と皆に呼ばれる程有名なんですか?」

 

「『世界最強(ブリュンヒルデ)』だ、『世界最強(ブリュンヒルデ)』!!」

 

 世界最強、とはまた大層な自称であるが、彼女はISの国際大会モンド・グロッソで優勝し『ブリュンヒルデ』の異名で呼ばれる武人である。現代において最強の兵器であるISの使い手の中でも彼女が最強なのだから、世界最強というのも誇大妄想ではなく厳然たる事実である。

 

 

 

 

 ―――そう、彼女は『世界最強』なのだ。

 

 

 

 

「何っ、世界最強だと!? それはこの私に対する挑戦だな!!」

 

「何だ何だ、いきなり!?」

 

 教室の出入り口の自動ドアを手動でバターンと開け放ち、入室してきたのは肩口まで髪を伸ばした男性。かけている眼鏡が妙に光を反射して、その目元は視認できない。

 

「この私を差し置いて最強を名乗るなど笑止千万! どちらが上か、いざ勝負!」

 

「また変なのが出てきたぞ……」

 

 ビッと中指を突き立てて堂々と佇みながら好戦的な笑みを浮かべる不審者2号の姿を認め、もはや呆れの方が先に来てしまう千冬。

 だがその隣に居たあ~るは、不審者2号に気付くや否や親しげに話しかける。

 

「やあ、鳥坂先輩ではありませんか」

 

「おお、あ~るではないか!」

 

「おお何だ、不審者同士知り合いか?」

 

 人差し指と中指を若干曲げた緩やかなピースサインを向けあい、お互い挨拶を交わす不審者共。その様子から彼らが知己である事が察せられるが、ぶっちゃけ面倒な予感しかしない。

 

 

「よっ」

 

「ああっ」

 

「あ~る君、その人と知り合いなんですか?」

 

「この方は僕の先輩の鳥坂さんですよ。」

 

「私の事は『勝利しか知らない男』と呼んでも良いぞ!」

 

 

「いや待てお前ら色々おかしい、不審者同士で突然関節技をかけたりかけられたりするな! そしてそのまま平然と会話するな! 山田君も何かツッコめ、せめて惑え、のほほんと会話に混ざろうとするな!」

 

「せんせー、呼びました~?」

 

「座ってろ布仏本音!!」

 

 

 ―――状況が錯綜してきたので、箇条書きで一つずつ確認していこう。

 

 1、和やかに挨拶してたと思ったら唐突に不審者2号(とさか)不審者1号(あ~る)に関節技を極めた。

 2、それを無視して普通に話しかける山田先生。心の底から気にしてない様子。

 3、技が極まった状態のまま問いに答える1号2号。和やかムードのまま。

 4、のほほんと会話してやがる3人に対するツッコミが渋滞起こして噴火した織斑先生。

 5、『のほほん』というワードに反応した女子生徒布仏本音、通称のほほんさん。

 6、織斑千冬、処理能力の限界。

 

 ……もうお分かりだろう、千冬一人ではツッコミの人手が足りない!

 

 

「―――だああああああっ埒が明かん、手伝え一夏!!」

 

「ええっ俺ぇ!? 巻き込まれたく無いんだけど……」

 

「うるさい、弟なら姉を助けて見せろ!!」

 

「くっ、分かったよ……くそぅ、千冬ねぇが来てくれてツッコミを押し付けられると思ったのに」

 

 職員会議で遅れた千冬が教室に来るまでの間、一人でボケを捌き続けていた一夏はひっそりフェードアウトして息を潜めていたのだが……彼は重度のシスコンであった。姉の懇願は容易に断れない。

 渋々ながらも目の前の不審者達に話しかける。

 

「あー、その、鳥坂先輩って言いましたっけ? 貴方は一体……」

 

「呼びたいのなら『約束された勝利の先輩』でも構わんぞ。」

 

「いや、そういうんじゃ無くって……結局何者なんですか? あ~るの先輩って言うのは?」

 

「あ~ると私は『光画部』の先輩後輩なのだ。あ~るはこの学校の光画部の元部長で、私はOB」

 

「千冬ねぇどうしよう、ツッコむ度にツッコミ所が増えてく……」

 

「諦めるな一夏、気を確かに持て!」

 

 不敵な笑みを浮かべ、無意味に中指を立てながら語る鳥坂の言葉の中に、一体いくつの間違いがあったやら。こちとら間違い探しの為に学校来たんじゃないんだぞ―――と心が折れかけてる織斑姉弟の背景では、漸く関節技から解放されたあ~るのギクシャクする腰を山田先生が摩ってやっている。やさしい。

 

「とりあえずOBって何なんですか、この学園の卒業生だとでも言うつもりですか!?」

 

「そのたうり(とおり)!」

 

「――――――」

 

 自信満々に答えられてしまい、言葉に詰まる一夏。代わって姉がツッコミを引き継ぐ。

 

「そんな訳無かろう、今までにこの学園に男子が在籍した事実は無い! 世界初の男性IS操縦者は正真正銘私の弟の一夏だ、それ以前にISを動かせた男は一人もいない! それでどうやったらこのIS学園に貴様が入学し卒業できると言うのだ!? そもそも『女子高のOB』って時点で矛盾に満ちてるだろうが!!」

 

「ふっふっふ!」

 

 若干、いやもう殆どガチギレの千冬が詰め寄るが、余裕の笑みを崩さない鳥坂は一言。

 

 

 

「そんな事、私の知ったこっちゃない!」

 

「――――――」

 

 その一言で、遂にさしもの織斑千冬の精神力も限界を迎えた。白目を剥いて後ろ向きにぶっ倒れる―――余りに不条理な現実を直視しきれず、脳が考える事を放棄したのだ。可哀そうに。

 ちなみに一夏君も精神的ダメージにより先にぶっ倒れていたが、上に折り重なるように姉が倒れてきた所為で物理的ダメージも食らう羽目に。可哀そうに。

 

 

「ふふふ、だいしょーり!」

 

「やあ、流石は鳥坂さん。」

 

「わあ、千冬先輩に勝っちゃうなんて……凄いです、鳥坂さん!」

 

 倒れたブリュンヒルデを背に高笑いを上げつつカメラ目線で中指を突き立てる鳥坂だが、生憎今回は漫画ではなく文章なのでカメラ目線に意味は無い。

 ところでマイペースに呟くあ~るはともかく、鳥坂に対して純粋な尊敬と称賛を贈る山田先生はもう完全に光画部に感染してしまったらしい。手遅れである。

 

 

  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「それではいつの間にやら休み時間も終わってしまったようですし、授業を始めたいと思います」

 

『はっ、いつの間に!?』

 

 暫く経って漸く織斑姉弟が復活した頃、教壇に立った山田先生の言葉で皆が我に返り愕然とする。

 目の前で起きている不条理空間に呆気に取られて全員が全員ぽかんと固まってしまっていたが、本当にいつの間にやら授業一コマ分の時間が経過していたらしい。

 慌てて新品の教科書を机の上に並べ始める生徒達だったが、そこへ「教科書は開かんでも良い」という声が飛ぶ。

 

「入学初日で色々詰め込むのも大変だろう。だから今日覚えて帰ってもらう教訓は一つだけ―――『トライXで万全』、そして『それを4号か5号で焼いてこそ味が出る』」

 

「二つですよ、鳥坂さん。」

 

 

「何の授業だ、何の! ……いや待て違う、そこじゃなくて何故お前が教師面してるんだ!?」

 

 余りに自然な形で教卓に着いたものだからスルーしかけたが、そもそもこの不審者は教師では無い。あと講義した内容もIS関係無い。なんか偏ってるし。

 とにかくこの不審者に授業などやらせた日にはカオスしか生まれないだろうと、復活した千冬が必死に抗議の声を上げるが、聞く耳など持つ筈も無い。怒鳴る千冬を尻目に、鳥坂はあ~るの腕を極めている。

 

 ……と、その時背後から声が聞こえた。

 

「あはは、諦めた方が良いですよ。こういう時の鳥坂先輩って、聞く耳持ちませんから」

 

「うわあっ、誰だお前!? また新キャラか!?」

 

「やだなー、新キャラどころか最古参ですよ。あ、大戸島さんごって言います」

 

 いつの間にかしれっと教室に入ってきてたショートカットの女、さんご。驚く千冬とは対照的に落ち着いた自己紹介で挨拶する姿は、向こうの二人に比べれば幾分マトモに見える。

 それでも千冬の警戒を解くには不十分だったようで、敵意すら(こも)った声音の詰問が飛んだ。

 

「よもや貴様もIS学園に入学するとか言い出すんじゃ無いだろうな!?」

 

「えー、私これでもバリバリの社会人なんですけど! そんなにお子様に見えるんですかぁ!?」

 

「そ、そうなのか。それはすまなかった……」

 

 膨れっ面で抗議してくる様子は、何というか子供っぽく見られても仕方ないようなあどけなさ。その人畜無害な様子に気勢を削がれ申し訳なさすら浮かぶも、すぐに新たな疑問が浮かぶ。

 

「……いや待て、お前は学園関係者か?」

 

「え、違いますよ? 私はしがない区役所職員なので部外者です」

 

「その部外者が何故この学園に来た!?」

 

「……なんでだろ?」

 

「おい」

 

 自分の意思で来校しておきながらその意図が分からないなんて話があるか、と言いたくなるが、困ったことに頭上にハテナマークを浮かべて首を傾げるさんごからは嘘や誤魔化しの空気を感じられない。

 ……つまり彼女、本当に何の用も無いのにここに居るのだ。全く意味が分からない。

 

「まあ、そんなに気にしないでいいんじゃ無いですか? 私達『光画部』って大体こんなですし」

 

「……やはり貴様も奴らの同類なのだな……」

 

 カラリと無邪気に笑うさんごだが、その無邪気さが今は憎らしい。先の不審者1号2号に比べれば若干話は通じるようだが、やはり根本は同じベクトルのようだと諦め心地な千冬はもう声を荒げる気力も無い。

 そんな心境を知ってか知らずか、さんごは気安く話しかけてくる。

 

「そんな事より織斑先生、()()止めなくていいんですか?」

 

()()?」

 

 

 

 

「よいかあ~る、しっかり狙えよ!」

 

「あい。」

 

 指さされ背後を振り向けば、どこから持ってきたのか弓に矢を番え弦を引き絞るあ~るの姿。その狙う先を見てびっくり、床に突き刺さった一本の丸木の杭に縛り付けられているのは愛する弟の一夏ではないか!

 

「ああああ何で俺がこんな目に、助けて千冬ねぇ!?」

 

「うわあっ、何やってるんだ貴様ら!?」

 

 その丸太はどこから生えてきたんだとか、嬉々としてロープを巻き縛る鳥坂とか、微笑みながら「わあ、ドキドキしますねぇ」と宣う真耶とか、ツッコミ所は多々あるがそんな事より弟の危機である。

 

「ああ千冬先輩、これは鳥坂さんが光画部の活動のデモンストレーションを行うとかで……」

 

「うむ、この小僧の頭の上に乗せた林檎をあ~るが()つ! 上手くいったら拍手喝采!」

 

「勝手に部活動のデモンストレーションを行おうとするな、というか光画部とやらはよく分からんが絶対普段の活動内容と関係無いという事は分かるぞ! いやそれ以前に上手くいかなかったら大惨事だろうがぁっ!!」

 

「はっはっはっ、それもまた一興! どうせギャグ漫画もとい小説だ、死ぬこともあるまい!」

 

 流石に弟の命の危機である。目を血走らせた千冬は今までに無いほど真剣に怒りをぶつけるが、鳥坂は全く取り合わず朗らかに笑うばかり。千冬の怒りのボルテージも鰻上りだ。

 

 

「まあ、任せておいて下さい先生。」

 

「何がだ!?」

 

 怒りの余り殺意すら振り撒く千冬を(たしな)めるように声をかけたのは、弓矢を構えたあ~るその人。

 

「弟さんに矢が(あた)るかもとお考えのようですが、それは知らぬ狸の皮算用。」

 

「何が言いたい!?」

 

「命中精度には自信がありますからね、僕の腕前を知れば安心!」

 

 と、自信満々に宣言した後、意味深に数秒ほど間を置いてから再度口を開く。

 

 

「10回試せば1回くらいは林檎にも(あた)りますよ。」

「一夏が9回死んでるではないかっ!!」

 

 言葉でツッコむが早いか、ほぼ同時に手持ちの出席簿であ~るの後頭部を思いっきり殴りつける。普段から体罰上等の教師として知られる千冬であったが、今回は半分本気で『殺すつもり』の一撃であった。まあ唯一の家族が殺されるかどうかの瀬戸際だし、しょうがないよね。

 

 ―――が、その結果起こった事はクラス内ほぼ全ての人間にとって予想外。

 

 

「ああっ」

 

「なっ―――!?」

 

「おお」

 

 ポロリ、とあ~るの首が()()()のだ。その断面からはコードやら何やらの機械部品が飛び出て、頭部と胴体を繋いでいる。……そう、彼は普通の人間ではなく。

 

 

「き、貴様……ロボットだったのか!?」

 

「や、それは誤解というものです」

 

「この状況で惚けられるとでも思ってるのか!?」

 

 流石に動揺を隠せない千冬だったが、頭の片隅では(ひょっとするとあの天災兎の差し金か?)などと自身の友人たるマッドサイエンティストの関与を疑っていたりする。……ちなみに今回ばかりは冤罪であった。

 それはそれとして、あ~るは誤解を解こうと必死で弁明する。

 

「僕はロボットでは無くてですね。ア・ン・ド・ロ―――」

「そう、ウチのあ~るはロボットなのだ!」

 

「……………。」

 

「そんな哀しげな顔で見てもロボットだぞ。」

 

 訂正しようとしたあ~るを遮ってロボット認定した鳥坂は、あ~るからの無言の抗議も突っぱねた。その様子を眺めながらどう反応したものかと悩む千冬の後ろで、さんごが山田先生に解説して曰く。

 

「あ~る君は自分がロボットじゃなくてアンドロイドだって部分に妙なコダワリがあるんですよ」

 

「へ~、ロボットにも色々あるんですねぇ。でも私、ロボットの生徒なんて受け持つの初めてだしちょっと楽しみです!」

 

 教室内の殆どの人間が唖然とする中でもマイペースを崩さない山田先生。元からあ~るの正体を知っていた光画部の面々はともかく、知らなかった者達の中で自然に状況を受け入れてるのは彼女のみであった。精神が深刻な光画部汚染を受けているに違いない。

 

 

 ……そしてあ~るの正体とかどうでもいい、というか気にする余裕の無い男がここに一人。

 

「それより俺は何時まで縛られてればいいんだよ……誰か助けて……」

 

「何だと、この程度で音を上げるなど、貴様それでも光画部員か!」

 

「いや光画部? とやらに入った覚えは無いんですけど!?」

 

 ほぼ独り言同然に呟いた言葉を聞き咎められて鳥坂先輩の叱責を受ける羽目になった織斑一夏君(新入光画部員)。そこに弓矢を持ったあ~るまで寄ってくる。……パイプやコードが飛び出た首を逆さまにぶら下げたまま。

 

「分かりました、すぐに済ませちゃいますから動かないやう(よう)に。」

 

「わああっ、ゼロ距離から俺の額に矢を突き付けるな! あと首もちゃんと嵌めなおせ!」

 

「い、一夏っ! すぐ助けるからな! ……くそっ、何だこの馬鹿力!?」

 

 慌てて弓矢を取り上げようとする千冬だが、こういう時に限って無駄な馬力を発揮したあ~るに苦戦中の模様。

 それに対し、千冬と取っ組み合いになっているあ~る(いつの間にか頭は元の位置に直っている)はすまし顔で文句を垂れた。

 

「全く、心配しすぎですよ。僕は一応この作品の主人公なんですから、ここぞという場面では失敗なんてしませんって」

 

「え、これってISの二次創作だし俺が主人公なんじゃ……」

 

「何を馬鹿な。タイトルをご覧なさい。僕の名前が冠されているでしょう」

 

「え?」

 

「ちょっと、ちょっとあ~る君!」

 

 なんかもう滅茶苦茶言ってるが、そこに待ったをかけたのは山田先生。

 

「この作品のタイトル、あ~る君の名前入ってませんよ。」

 

「?」

 

 一瞬何を言われたのか分からないという顔をしたあ~るだが、真耶から手渡された携帯端末を見てこの駄文のタイトルをよーく確認した後、愕然とした表情へと変わった。

 

「ああっ『究極超人あ~る』じゃなくて『究極超人あいえす』だ。」

 

「でしょう?」

 

「そんな……僕は……僕は……」

 

 頭を抱えプルプル震えながら蹲るあ~る。その様子を心配そうに見つめる山田先生だったが、暫くしてから彼はすっくと立ち上がると、拳を握りしめてしみじみ呟く。

 

「……僕はISだったのか。」

 

「なるほど、ISだったんですか」

 

「いや、その理屈はおかしい」

 

 真耶が役に立たないのでツッコミは勿論千冬の役目である。

 

 

 

「鳥坂先輩、これ全然解けませんよー。どんな縛り方したんですかぁ?」

 

「自分でも解けないように縛ったからな。二度と解けんぞ」

 

「ナイフで切るなり何でもいいから早く解放してくれ……」

 

 一方、拘束されたままの一夏を放してやろうとさんごがロープと格闘中だったが、鳥坂の言う通り不必要な程キツく固く縛られていてどうにもならない様子。

 そんな彼らの下へ、ふらりとあ~るが歩み寄ってきた。

 

「弟さん、ちょいと失礼」

 

「へっ?」

 

「あ~る君?」

 

 一夏の目の前にやってきたあ~るは、右手を伸ばして彼の胸元にそっと触れる。さんごが訝しげにあ~るの名を呼ぶが、それに応えるより早く事態が動く。

 

 

「―――蒸着!」

 

「ちょっ」

「はぁっ!?」

「何と!」

 

 あ~るの掛け声と共に、カッと目も眩む閃光が彼と一夏を中心に発生し、彼ら二人を包み込む。その眩さたるや、軍用の閃光手榴弾が炸裂するよりも激しく網膜を焼く程。千冬も含めたその場の全員の視界は一瞬で奪われる。

 ……暫く後、ホワイトアウトしていた視覚が漸く戻ってきて、目を開けるとそこには―――

 

 

 

 

「―――戦隊刑事、あーる!」

 

『は……?』

 

 ―――そこには、一機の全身装甲(フルスキン)型ISが存在していた。……いや、見た目は特撮のメタルヒーローそのものなのだが、信じ難いことにそれは確かにISだった。その証拠に、何故かは知らんが教室内に設置されていた各種観測機器によって、ISコアの反応が確かに検知されている。

 ……つまり、本人の申告通り確かにあ~るはISだったのだ。どういうこっちゃ。

 

「な、な、な、な……!?」

 

「どういう事だあ~る!?」

 

 千冬は目の前の出来事に衝撃を受けすぎて金魚のように口をパクパクさせるのみだったので、比較的超展開に慣れている鳥坂が代わりに尋ねる。彼にとってもこの状況は予想外だったらしい。

 

「いやあ鳥坂さん、僕はどうやらISだったようです」

 

「何! お前、ただのロボットじゃなかったのか!」

 

「だからロボットじゃありませんって、ア・ン・ド―――」

 

「ロボットなのかISなのかハッキリせんが、これは面白い!」

 

 相変わらずあ~るの訂正を遮って勝手に盛り上がる鳥坂は、既に『事態を面白くする』事しか考えていない。その他全ての疑問とか疑念とか、そういうのは彼にとってどうでもいいのだ。

 

「よし小僧、今からあ~るがお前の専用機だ! 今決めた!」

 

「待て待て待て待て、一夏の専用機は既に政府が手配済みだ! 勝手に決めるな、というかお前にそんな権限は無い! というかそれ以前にだな、色々おかしいだろ!? このお惚けアンドロイドがISになるとか、一体どんな仕組みだ!? ありえんだろうが!!」

 

「しかしありえんも何も、実際我々の目の前で装着して見せたでは無いか」

 

 またとんでもない事を言い出した鳥坂に詰め寄る千冬、だが当然の事ながら鳥坂はゴーイングマイウェイ。マトモに取り合う素振りも見せず、千冬の困惑を一蹴する。

 

「しかしだな……!」

 

「くどいぞ、現物を前にまだ何か言うつもりか! 見ての通り小僧はあ~るを纏っているではないか、いい加減に現実を認めんか!」

 

「あの~、その事なんですけど……」

 

 なおも言い募ろうとする千冬の前へと、ISと化したあ~るを突き出して否定し難い(できれば否定したかった)現実を押し付ける。

 と、白熱する二人の後ろから申し訳なさげに声をかけたのは、大戸島さんご。

 

 

「一夏くん、こっちに居ますよ?」

 

「そのメタルヒーロー、俺じゃないんだけど……」

 

『……えっ?』

 

 振り返れば、確かに縛られたままの生身の一夏がそこに居る。実は彼がISを纏っていた訳では無く、あ~るが一人で勝手にISに変身しただけだったのだ。するとつまり……

 

 

 

「……僕は一体誰に装着されてるんでせう(しょう)?」

 

『知るかバカモノ!!』

 

 当然と言えば当然の疑問だが、当のあ~る本人に分からなければ他の誰にも分からない。

 とりあえずツッコミとして、千冬と鳥坂、さっきまで言い争っていた二人が異口同音に同じセリフを発しつつあ~るを前後から挟みラリアットをかました。その衝撃で首が千切れてポーンと飛んで行ったのを見るに、どうやら中身もあ~る本人だったようだ。

 ちなみに刎ね飛ばされた首は山田先生がナイスキャッチ。

 

「ああっ、ご無体な。」

 

「あ~る君、大丈夫ですか? 断面を見るに結構大切そうな部品が壊れてますけど……」

 

「ご心配なく。こういう時の為に、塗り薬を持ち歩いていますので」

 

「さすがあ~る君、用意周到ですね!」

 

「ロボットに塗り薬って効くの?」

 

 

 

「……はああぁぁーーー……」

 

 ……山田先生とさんごが見守る中、徐に取り出したセメダインを使って自分の首を繋げるあ~るの事は一旦置いておいて、疲れた表情の千冬は深い深い溜息を吐く。さもありなん、今この教室で起こっている事態は彼女を大いに疲弊させていた。

 

「これもうどう収拾つけたら良いんだ……私にはどうにもできんぞ」

 

「だーいじゃ(じょ)うぶ! むわ()ーかして!」

 

「……主に貴様の所為で悩んでるんだが……」

 

「こういう時はあの手を使うに限る!」

 

「……あの手?」

 

 もう全てを投げ出したい気分の彼女とは対照的に、何が楽しいのかテンションのやたら高い鳥坂が絡んでくる。

 今度は何を言い出すのかとげんなりする千冬を気遣う様子も見せず、勝手にアドバイスを押し付けてくるが最早抗う気力も無い。流されるまま聞き返した。

 

「このように状況が混沌としてきたら、一度話を仕切り直すのだ!」

 

「……つまり?」

 

「うむ、要するに―――」

 

 そこで一旦言葉を切って、決め台詞のように一言。

 

 

 

 

 

「―――待て次回!」

 

「……ぶん投げたなー」

 

 ドヤ顔で中指を立てる鳥坂を相手にする余力も無く、レイプ目で呟く千冬。

 果たして次回までに世界最強(ブリュンヒルデ)は復活できるのか。というかそもそも、思いつきだけで始めたこの短編に次回なんて存在するのか。少なくとも筆者は何も考えてないが、鳥坂先輩が言うならそうなのだろう。

 

 次回へ続く!

 

 

 

 

 

「……おーい、誰か縄解いてー……」




1万字超使って消化できた原作イベントが自己紹介だけという事実。

  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

あ~る達の時系列は原作10巻前後。
世界観はIS寄りにあ~る世界が融合した感じ。
ただし中途半端な溶接なので色々矛盾点があるけど、光画部パワーで全力スルーする。

  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

次回とか無いよ。

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