肝試しは順調に進んでいた。
ただ、まぁ衣装がアレなので大体小学生に笑われてしまって終わるくらいだ。
……たまに一部男子がやはり胸元に視線を感じるのはまぁ仕方が無いでしょう。私が着たんですからね!
これの肝試しは私たちの肝試しなのではないかと疑ってならない。
幾度となく羞恥心を犠牲にしながら脅かしてはみたものの最近の小学生はテレビ番組で慣れているのか全然驚いてくれない。
わかるよ? 昔の作り物感満載の恐怖映像より凝ったCG使っちゃってるしさ。
そりゃこんなの下手なお遊戯会なんだよねぇ……
『これはそう……彼らが楽しめるよう私たちが恥を惜しんでいるのよ』とそう考えながら拳を握りしめこの状況を受け入れる。
そうやって肝試しが続いていくと、さて。ようやくやって来た。
あの問題のグループだ。
つかずはなれずの絶妙な距離感で彼女達について行く留美ちゃんが見えた。
その表情はお昼までの表情の面影はなく感情を押し殺したように無表情だ。
しばらく様子をうかがいながら彼女らを見ているが一切留美ちゃんに構う素振りがない。
彼女らの1人がもう1人に耳打ちし、なにやら頷き、彼女らが少し足早になり、留美ちゃんとの距離が開く。
留美ちゃんは追おうと思ったが振り返る彼女らのほくそ笑む表情に何か思ったのかその場で立ち止まった。
なんというか……実に……
実に状況としては最強の環境が整ってしまった。
あとはここでタイミング良く茂君達が来てくれれば……
「ん? あれルミ子じゃね?」
ヒーローの声が聞こえた。
おーいと遠くからでも大きく聞こえるすごい声量で彼は留美ちゃんに合図し
道なき道を切り開くフロンティアが如く示された獣道を一切無視で茂みを掻き分け最短距離で彼女の元へ向かう。
「どうしたルミ子? 1人で肝試しとかマジで勇気あんな」
「……これのどこが肝試しなの? 金ちゃんの仮装大賞野外バトルロワイアル低レベル編って位レベル低いよ?」
??? 金ちゃんってだれ?
「お、おう。それがなんなのか分からんが」
「金ちゃんの仮装大賞しらないとか人生の8割損してる。今度録画したビデオテープ……うぅんDVD用意してあげるから全部見て」
「そんなにか!?」
その瞬間、留美ちゃんはシャッターを切る
「うぉっ、まぶしっ!?」
「ふふっ、いい顔撮れた」
何この2人。いきなりイチャついてんの? 見せつけてるの?
「しげちーいきなり飛ばしすぎだろ。開幕ダッシュやめろよ」
そう言って祐介君が追いつき続けて息をあげながらようやく追いついた貴史君。
意外にも祐介君の方が体力があったようだ。
「はぁ……はぁ……しげちー……お前マジで全力疾走しすぎだろ……」
「そうかきばみー? 軽くジョギングみたいなかんじだったんだけどな。朝のマラソンサボってるからだぞ」
「うっ、まさかバレてた?」
「そりゃそうだろ。祐介とはたまに会うけどお前とは全く会わないからな」
「はぁ……たまーに出とけばよかった」
「たまにじゃなくて毎日出ろよ……」
そう言えばそんなのありましたね。朝に校内放送でクラシックを流してマラソンをするそんな朝の苦行。
今日の活力と体力の消耗と同時にすり減らされる現象でしたね。
せめてBGMはもうすこし目が覚める音楽流して欲しかった。
「私も毎日出てるよ。なんか放送で流れるクラシック聞きながらマラソンって眠くならない?」
「わかる、俺たまに寝ながら走ってたし」
「あれ、眠るのに心地良いよね。なんで朝流すんだろ。もっと派手なハードロックだったらテンション上がるのにね」
「それじゃマラソンで全体力使い尽くすだろうが、腕振らなくて頭振りそう」
「だねぇ」
そう言いながら笑いが辺りに響き渡り良い雰囲気に包まれていた。
そんなのんびりな会話をしていたらどうやらしばらく留美ちゃんの姿が見えない事に気がついたのか先行していた彼女らが戻ってきた。
「ちょっと鶴見さん、全然来ないから心配したじゃない……てか別の班いるし」
「あっ……」
そう呟きなにか罰が悪そうな感じで目線をそらした女子が居た。
「ん? おービー子じゃん。お前も同じ班だったのか?」
「う、うんまぁ……」
ビー子ちゃんは微妙な表情を浮かべながら茂君と目を合わせようとしない。
そして、鋭く彼女を一瞬睨みすぐに視線を外す貴史君と祐介君。そんな状況と今日のお昼に聞いた話を合わせると彼らと彼女に何があったのか推測することができる。
「うぅん。そんな事は無くて……」
「さっさと進んでこんなつまらない肝試し終わらせたいんだけど、あーでもあのイケメンのお兄さんの所だけわざと驚きたいよねぇ」
「うん……そうだね……」
「ほら、さっさと行こ、後つまるし」
なかなか自分達の都合の良いように言葉を並べてくれる。
しかし、茂君はそれに反応した。
「何言ってんだお前? 俺たちルミ子に会った時は既に1人だったし、しかもここ地図に載ってるルートのど真ん中じゃん。お前ら班がメンバーを1人をハブらない限りは普通に気づける所だぞ? 俺ら結構話してたのに気づかなくて引き返さないには時間掛かりすぎねぇ?」
「気づくのが遅くなっただけじゃない。別に良いでしょ気づいたんだから。ほら鶴見さん。いくよ!」
そういって留美ちゃんの手を強引に掴む。
「いやっ!」
その掴んだ手を留美ちゃんが振りほどく。
その意外な行動に辺りはシンッと静まり刹那の静けさが辺りを支配した。
「……なに? 鶴見さん。痛いんだけど?」
「だって、急に掴むし……私居なくても別にいいじゃん」
「はっ? ウチらと同じ班だから仕方なく構ってるだけだし、また連帯責任とか言って怒られるのウチらだよ? 皆それなりにやりたい事我慢してるんだから勝手な行動しないでよ」
そう言って留美ちゃんに近づこうとする子と留美ちゃんの間に茂君が割って入った。
「なに? 邪魔なんだけど?」
自分の予定通りに行かない展開に苛立ちを伺える声色だ。
相手の感情なんてつゆ知らず、茂君はハキハキと答える。
「いんや、なんかお前らと一緒に居るよりも俺ら班にいる方がルミ子の表情がよかったなって思ってな。強引だけどそうさせてもらうわ」
「はぁ?」
「なんでいきなりあんたが出てくんの? 別のクラスじゃん」
「別のクラスだろうがいくら何でも見て見ぬ振りできないだろ? お前らルミ子ハブってるの黙って見過ごせるわけ無いだろ」
「共通の話題があったからそうなっただけでたまたまでしょうが」
「ふーん。今日の昼もそのたまたまがあった訳か?」
お昼の事を指摘され何で知ってるのと言う感情が一瞬彼女の顔に表れる。
「あれは、鶴見さんが遅かったから……別に1人にさせたくてしたんじゃなくて」
「ふーん。ってか話変わるんだけどよ。広場の所にトイレあるよな」
「……なにいきなり」
「あそこの近くにテーブルとか休憩所みたいな所あるよな。そこで今日の昼、俺トイレに居たんだわ」
そう茂君が話すと、全て察したらしい彼女の言葉が無くなる。
トイレ……あぁ! あの時か!?
続けて祐介君が会話を続ける
「さっきまでの話を聞いて俺、聞いた話なんだけれど、お前らのクラスってなんか良くない遊びしてるって話流れてくるんだけど? もしかしてこれのこと?」
その追撃に彼女達は顔を青ざめた。
すぐさま何か話題を切り替えようにもこんな強烈な話題から切り替えられるものなどなくしどろもどろとなる。
これは早々に終わるだろうと思った矢先、奥でじっとしていた子がそれを言い放った。
「別のクラスの事なんだから別に放っておいてよ。別クラスのしげちーが絡んだ所でしげちー達がなにか得するの?」
「んなもん知らねぇよ、ただ見て気持ちが悪いだけだ」
「噓。結局その子が可愛いから守ってるだけでしょ。鶴見さん顔はいいもんね。好きなんでしょ。そうなんでしょ」
あー、ここでそれが来たかー……
流石にここは答えられるとは思えないし、出てってフォローした方が……
「そうだぞ? 俺はルミ子の事好きだぞ、何かそれで文句あるか?」
……っは?
余りの即答に一瞬頭が真っ白になった。時が止まったと思ってしまうほどに。
思考が回り始めたとしてもそれでもちょっと何言っているのか分からない。
予想外の展開に頭がついていかない。
それはその場に居る全員が即答でその言葉を返すという予想をはしておらず、かける言葉を考えておらず、シンッと津波がくる前触れかのような静まりが一瞬辺り一帯を支配した。
すぐさまその反動の如く女子の甲高い声と男子の雄叫びめいた声が合わさった
けたたましい程の声量が辺りを一帯に響き渡る。
森で隠れていたであろう動物たちもこれを聞いてすぐさま逃げ出すに違いない。
森の平和を乱して申し訳ないとは思っています。
えっ? えっ? えぇぇぇ!!!? なに? そんな事いきなり言ってるのこの子?
勢いに任せて言っちゃったの? ちょっと対応は適切では無いんだけど……
普通、「何でお前かばうのー? もしかしてお前こいつのこと好きなんだ~」って言われたときの対処方として、基本は源流に戻すが最適。
相手は論点をすり替えようとしている。ついでに聞いている大勢は状況なんて他人事でへーそうなんだーって大盛り上がりすることが大体の流れで、
大勢の場で善意で行動したはずがその行動には絶対下心があるとゴシップ記事よろしく的な展開を突きつけられ、
思春期の男子は大体そこで躊躇して話を持っていかれてしまったり、黙ってしまったりする。
でもこれはなんですか? 相手の思惑に思いっきり乗っかってしまって場をさらに荒れさせてしまっているじゃないですか。
これをどう収拾つければ良いのか頭を悩ませているとその諸悪の根源である彼がさらに口を開く。
「俺はルミ子と今日1日遊んだだけで分かった事があるぞ。例えば……UNOしててUNOって言うときはどや顔のくせに言われたときはこの世の終わりみたいな顔するんだぜ? ちょーおもしろくねぇか?」
……っは?
「あと、写真撮ってるときのルミ子めっちゃ楽しそうなんだよな。写真撮りまくるくせに自分が写るってなるとなんか急に隠れんだよ。以外と恥ずかしがり屋とかな」
あっ……この子は……
「ってか写真で思い出したけど。お前らの写真、ルミ子のデジカメに全く入ってねぇじゃん。それだったらルミ子俺らと一緒に肝試しした方が絶対楽しいだろ絶対!」
そうだ、好きというのは色々とある。小学生の好きは大体恋愛にばかり注目されるけれど流石にこの言い方になってくると理解してくる子もちらほら出始めた。
それに話の流れだって源流に戻されている。これは……しげちー小学生にしてものすごい子なんだけど……
「いやだって……うちら別の班じゃん。それに別クラスだし」
流石に分が悪くなった事を察したのか留美ちゃん班の子達が口を挟み始めた。
「べっつに別クラスだってほれ、ゆーすけだって去年別クラスだったけど普通に遊んだしなぁ?」
「あーそうそう。別クラスだったけれどしげちーと遊んでたし、なんか問題でもあるの?」
「嫌だって先生とか絶対駄目って言うし……」
「さっきまで1人だけ離れて森歩いてたんだよ? 誰も見向きもしないでさ。いつの間にかはぐれるよりも俺らと一緒に居た方が安全でしょ? それに……なんで留美ちゃんだけ1人だったの? もし夜の森ではぐれたとき、先生にどう説明するつもりだった?」
「……」
彼女達の顔が青ざめる。そう言うことすら想像してなかったのだろう。事実起きうる可能性はあるのだから。
貴史君と祐介君が一気に彼女たちをたたみかける。
ますます小学生とは思えない発言の連発だ。
「それにな! ルミ子は……」
まだ茂君は留美ちゃんの生態説明を続けていた。流石にそこまで詳しく見られているとは知らなかった留美ちゃんも俯いていて耳まで真っ赤だ。
力説している茂君の袖をつまみだす。
「わ……わかったから……わかったからもうやめて……」
あらあら……ここぞと言うときにまさかの上目遣い。
この子……化けるわね。
そんなこんな小学生だけで話が進んでいき私が出て行くタイミングを全く失っていると。
肩を叩かれた。
「よぉ」
いきなり声をかけられたので流石の私も「ヒッ」と声を上げ、後ずさりしてしまった。
いきなり存在感をあらわにするなんて芸当ができるのは……せんぱいしかいない。
「あぁ……すまん。驚かせたか」
「いえ……こちらこそすいません」
「まっ、なんとかなって良かったな」
「えぇ……何というか予定していた展開とかなり違うんですが、まぁ結果オーライって所ですね」
「あぁ。そうだな」
「……って私がそう言うと思いました?」
「は?」
「せんぱい? 茂君に何か吹き込みましたね?」
「……まぁすこしな。ほんの少しだ」
「……本当ですか?」
「まぁあれだ、しげちーはな、惚れやすいって話を聞いたからな」
あぁ~……その言葉だけでなんかまぁ色々と察しました。
「しげちーの特性は大体理解した」
そりゃ口で説明してましたからね。
「それはー……まぁなんか察してますが……優しくしただけで『こいつ俺に気があるんじゃ無いか』的な勘違い系男子の匂いはしました」
「やめろ、俺に効く」
私、せんぱいにだいぶ優しく接しているつもりなんですが?
「でも……茂君の場合、あんな短時間で留美ちゃんを大分観察してて、さらに状況を察して引き離そうと行動してきたっていう付加価値がつきますよね」
「んで、効いてくるあの即答だ。返答の早さってのはその内容に自信があって発言する事を意味する訳だ。つまり……」
「『そんな事当たり前だろ』的な意味合いに周りから捉えられる……って言うことですね」
「そう言うことだ。あと、これは俺の憶測だが、しげちーは意外とモテている説がある」
「……1人の為にこれだけ行動できるのであれば。彼氏はアクセサリーイケメンに私モテるんだよ声でかマウント女子とその取り巻き以外だったらまぁ仲良くなれそうですね」
「最近の女子もラノベタイトル化してんの? マジ怖いんだけど……ほれ見てみ」
せんぱいが指さす方を見ていると留美ちゃんのグループに居る女子が1人だけちょっと様子がおかしい。
あぁ~、なるほど。
「……もういいよ。勝手にすれば。先に行く」
矢継ぎ早に離した後に彼女はさっさと森林の奥に進んで行ってしまった。
「えっちょっと! 由香!」
「由香? えっえっ! どうしたの」
そう言って離れる彼女をこの場から逃げ出せる理由にしたいのか他の女子が皆がその子を心配しているかのように装って
彼女に寄り添いあたかも既に彼らとの対峙が無かったかのようにそのまま先へ先へと行ってしまった。
そして留美ちゃん達は彼女らが去って行き姿が見えなくなるまで見届け呆然と立ち尽くしていた。
そんな中、口を開いたのが茂君だった。
「ビー子の奴どうしたんだ? なんかいきなり1人で歩いてったぞ?」
「……ふーん。やらかしちゃった訳ね~」
祐介君の表情はなにやらニヤニヤしていた。
「そんな事より、ルミ子、大丈夫か?」
「なんか……予定と違う気がするんだけど……」
顔を隠しながらも赤くほてった耳を隠し切れていない留美ちゃんがそう呟く。
「まっ、いいんじゃねぇか。ほれ、ルミ子。写真」
そう言って茂君は何か良くわからないポーズを取る。
その態度に熱が冷めたのだろうか。平常に戻った留美ちゃん『はぁ……だるい』と言いつつデジカメを手に持ち彼にシャッターを切る。
「おっ、後ろの奴らもう来てるし、そんじゃそろそろ行くか」
「そうだねー、詰まっちゃうとアレだし。先に進もうか」
そう言って、彼らもまた移動を再開するのであった。
……予想もしなかった展開だった。
私自身が考えたことは茂君達はあくまで時間稼ぎという感じだ。
あそこで話を長引かせ、さらに後続が現れ何が起きているのかの情報交換が行われる。そこに紐付くのは信用して居るお兄さん達が言っていた噂。
その悪い遊びをしているのはあの班であるという認識が通る前に彼女達が気づきこんな遊びを止める、止めなければ大人数の正義が相手になる。
そんな物だった。
まさかここまで茂君達が奮闘するとは思いもしなかった。
しかし、ここで気になるのがここでなぜ茂君は即答であんなセンシティブな事を伝えることができたのかだ。
私の中で1つ確信に近い仮説が導き出された。それは事前に”そうするように”指示されていたから。
……せんぱい、やってくれましたね。
「一色、言っておく。俺はお前の計画を横取りしたわけじゃねぇぞ」
私の考えなんてまるっとお見通しだって位にせんぱいは言葉を連ねる。
「俺はお前の計画をちゃんと成功できるように動いただけであって、0から1を作ったのもお前だ、1から9進めたのもお前だ。最後の10でフィニッシュしたのもお前だ」
「えっ……だって」
「俺はその9から10の間に少しだけ俺が勝手に動いただけだ。だから……なんつーか……余り悪い方向に考えたりすんな」
「……はい」
どれだけ人を観察しているのだろう。……この人には全て見透かされているかのような気がする。
「それだけだ。……んじゃな」
そう言ってせんぱいは暗闇の森林に消えていった。
ようやく一山を越え放心していたのかいつの間にか現場はシンッと静まり返っていた。
ふぅ……とため息交じりの息を吐く。
……これで、作戦は終わり。これから私とせんぱいが気軽に話ができる事は無くなってしまった。
そう考えるとすごく心が痛い。……痛いのだけれど。
それと同時にちょっと悔しい気持ちも混ざっている。なぜそんな感情が出てくるのか不思議とも思わなかった。
***
翌日の小学生達を見送る千葉村での最後の仕事。
茂君達と仲良く自分のデジカメを覗き込んでいる留美ちゃんを見つけた。
あの子ああいう風に笑えるんだなって気づく。
私の姿を見つけたのか留美ちゃんが遠くから会釈する。
私も手を上げてそれに答えた。
ただそれだけ。
これから残りの小学生を楽しんだらいいと思う。
そう思い、バスに乗り込む小学生達を見送った。
それから後片付けを行い、私たちの林間学校のスケジュールも程なくして全て完了した。
「さて、仕事も終わった事だ。さっさと帰るか。車を持ってこよう」
平塚先生がそう言うと皆ようやくひと息をつく。
「俺たちはおじさんが迎えに来てくれるからここで別れることになるな」
私たちは元々葉山先輩の親戚の方に送ってもらったので帰りもそうなるみたいだ。
「それにしても……昨日のしげちーさんすごかったな」
戸部先輩がそう呟く。あっ、見てたんですね。
「まさかのさん付け!?」
結衣先輩がすぐにツッコむ。
「あったりめぇだろ、俺に出来ない事をおいそれとやってのけるしげちーさんまじすげぇ」
「あんたが言うとなんか馬鹿にしてる感あんだけど」
「えぇ……なんかそれひどくねぇ?」
「でも、確かに男らしかったよね! ちょっと感動しちゃったよ」
「確かに俺はそんな真似できなかったと思う」
「えー、隼人そんなこと無いでしょ?」
葉山先輩の視線がほんの一瞬雪ノ下先輩に向いた。
「……なに?」
雪ノ下先輩はそれを見過ごさなかった。
人の視線に敏感すぎでしょ。
「いや、なんでもないよ。目端に何か映ったからそれを確認しただけだよ」
「そっ」
それから平塚先生の車が来て、奉仕部メンバーと戸塚先輩が乗り込む。
そして、せんぱいは後部に乗ろうとしたが即座に助手席に乗れと平塚先生に言われ渋々助手席に乗り込んだ。
あれから私はせんぱいとは話していない。
「それでは我々は先に千葉に戻るとする。君たちも気をつけて帰りたまえ」
みなはーいと返事をすると最後に
「来年は受験で忙しい夏休みになると思う。残りの夏休み、各自悔いの無いよう過ごすように」
そう言い残し、SUVは発進しすぐに見えなくなってしまった。
悔いの無い夏休みか……なんかできるかな……
そう思い何気に空を見上げる。
昨日と変わらない群青な空がやけに羨ましく思えた。