ようこそ実力至上主義の教室へ~もしも坂柳有栖に幼馴染がいたら? 作:ソラたん
時刻は八時頃。自室で椎名ひよりさんのおすすめされた本を読んでいると、メッセージを知らせる通知音が聞こえた。本に栞を挟み閉じると、メッセージを確認する。
送り主は、もはやお決まりになっている坂柳有栖だ。内容は単純で、勉強会を始めるから来てくださいと言ったものだ。しかも、抜かりなく神室さんの部屋の番号まで送ってくれている。
「行くか」
椅子から立ち上がると、軽く身なりを整えて自室を出る。
エレベーターに乗り、神室さんの部屋がある階のボタンを押した。だけど、一つ気を付けないといけない事がある。これから向かうのは女子の場所だ。こんな時間に男子が行くには憚れる場所だ。
他の女子に会わないと良いなっと思っていると、ちょうどエレベーターが止まった。そして、扉が開くと――
「あ……」
「え……?」
そこには椎名ひよりが立っていた。
マジですか? 一体どんな確率で知り合いの女子と会うんですか?
「こ、こんばんわー」
「こんばんわ」
僕は挨拶をして何食わぬ顔でエレベーターから降りると、椎名さんの横を通り過ぎようとしたのだが……。
「あの……ここ女子の階ですよ? 葉桜くんはなんでこんな時間に?」
ピタリっと足を止める。別にやましい事をするわけではないが、冷や汗が止まらない。
「えっと……勉強をしに……」
「勉強? 女子とですか?」
「う、うん」
「そうですか……ちなみに、差支え無ければ、どなたとするのか教えてくれませんか?」
一瞬、どうするべきか悩んだが、あえてここで名前を出しておいた方が疑いもなくなるだろうと思い、神室さんと有栖の名前を伝えることにする。
「えっと、神室さんと坂柳さん」
「Aクラスの……お二方」
流石に名前は知っていたようだ。とりあえず、これで、夜中に女子の階にいる変質者の疑いはかけられない……はず。
でも別の意味で勘違いはされそうだが……流石に二人の女子の名前を出せばその心配もないだろう。
「じゃあ、僕はこれで」
「あの……! 葉桜さんはそのお二人と仲いいんですか?」
「うん? うーん。最近知り合ったばかりだからな、でも仲は悪いわけじゃないよ。こうやって勉強会にお呼ばれされるくらいだし」
「そう……ですか。お引止めしてしまってすみません。勉強頑張ってください」
★★★
それから、僕は神室の部屋の前へ到着する。
軽くインターホンを鳴らすと、鍵が開ける音が鳴ったと同時に扉が開かれる。
「本当に来たんだ……」
「うん。一応、有栖に呼ばれたからね」
「まぁご愁傷さまって事で」
「え?」
首を捻り頭に疑問符を浮かべていると、女子の声が聞こえてきたので、すぐに神室さんの部屋に入った。
「危なかった……」
「何をそんなに焦ってるの?」
「だって、ここ女子の階だよ?」
「あーそういう事。まぁ見つかったら変態のレッテル張られるよね」
少し悪戯っぽい表情する。最初からわかってて聞いてきたみたいだ。
わかっていたのなら、初めから聞かないで欲しかった。
「こんばんわ。晶くん」
少し高い声が特徴的な声が聞こえてきて、僕は聞こえてきた方を見ると、坂柳有栖がニコニコしながら立っている。
あの笑顔は……嫌な予感がする。というか、さっきご愁傷さまって神室さん言ってたよね? アレの意味って……もしや、有栖の隣にあるチェス盤と関係あったりするのだろうか。
「こんばわ。勉強会だって聞いたんだけど、その隣にあるのは勉強道具じゃないよね?」
「ええ、勉強会ですよ? チェスの……ですが」
満面の笑みを浮かべて、ナイトの駒を手に持っていた。
「はぁ……神室さん知ってたよね?」
「もちろん」
「そう……」
諦めて坂柳有栖の遊戯に付き合う事にした。
「では、さっそくですが、タイマーの使い方は分かりますよね?」
「あー、結構本格的にやるんだね」
「もちろんです」
端末を操作して、アプリのタイマーを起動する。
「持ち時間は?」
「そうですね……晶くんなら三十分で行きましょう」
「了解」
タイマーを三十分に合わせる。そして邪魔にならないところであり、すぐにタイマーが押せるところに置いた。
「それじゃ、先攻後攻決めましょう」
「いや、別にいいよ。そっちが先行で」
「ありがとうございます」
そしてゲームが始まった。
最初はお互いお決まりの動かし方をする。
ハイスピードで繰り広げられる攻防に神室さんは「すご……」と呟いていた。
「チェックです」
「ふむ……」
別に積んでいる訳じゃない。ならここはキングを守ることを優先するべきか。
「へぇ」
「いいえ、相変わらず腕は衰えていないと思いまして」
「ありがとう」
再び有栖との攻防が繰り広げられる。
僕が衰えていないと言うなら、有栖は昔よりだいぶ強くなっていると思うんだけど。
ナイトの駒を動かしながら、そんなことを思っていた。
ルークを動かし、ポーンを動かし、クイーンを動かす。
お互いに一手、一手は一秒にも満たない間に打たれている。
「チェック」
「あら?」
「坂柳が……チェックされた?」
「ふふふ。やりますね」
「楽しそうだね」
「ええ、楽しいですよ? ゲームですから」
「そうなんだ」
駒を置く。
「ん?」
「いいえ。何でもないです」
それからしばらくして、ちょうど持ち時間がニ十分を切ったあたりで決着がついた。
「チェックメイトです」
「参った」
両手を上げた。
「最後はやっぱり有栖が勝ったね。昔より強くなっていてびっくりした」
「ありがとうございます」
「やっぱり、彼に勝つため?」
「ええ、この学校に居るのは知っていますので、いずれ対戦できる日が楽しみです」
「そうなんだ。頑張ってね」
「はい」
そう言いながらチェスの駒を片付けていると、有栖から視線を感じて顔を向ける。
「どうしたの?」
「晶くん。途中で手を抜きませんでしたか?」
「うん? そんなことないよ。全力だった、弱く感じたのならきっと有栖が強くなったんだよ」
「……そうですね」
すると、ナイトの駒を手に持つ有栖。そしてこちらに見せつけるように持っている。
「晶くんも強くなってくださいね。ナイトだったんですから」
「善処します」
「二人で盛り上がっている所悪いけど、結局なんでチェスしたの?」
「チェスの勉強ですよ」
「え? でも、試合のようにもみえたけど?」
「気のせいです」
「そう」
もう何を言っても無駄だと悟ったのか、神室さんは首を振りこれ以上、何も言うはなかった。
そのあとは、本当に勉強を三人で始めた。そして、九時半には解散した。
元々勉強のできる有栖が居るのだから、僕なんていらなかったような気がするけど、それに神室さんも赤点取るほどでもなかったし。
チェスで無駄に神経使ったから、すぐに眠りについた