ロリ魂   作:カイバーマン。

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十一ヶ月目+五年目 人生楽ありゃ苦もあるさ

『侍の国』

 

この国がそう呼ばれているのは今もまた同じ

 

かつて侍が風を切って歩いていた道には、移ろう時代の変化に伴い

 

この国に明るい未来を描く為に働く人々が駆け回り

 

かつて侍が腰に差していた刀は、平和な時代に必要ないとされて骨董品屋に並び

 

代わりに人々は刀ではなく言葉を武器にして国を変えていく。

 

そう、この国もう侍は必要とされなくなってしまった、もはや刀を振り回す時代は終わり、明るい未来を築く為に、人々は新たな文明開化を目指し始める。

 

 

 

 

しかしこの国に侍が消えた訳ではない。

 

彼等は時代の変動の波に呑まれてなお、未だ人々の記憶や伝承によって未来永劫語り続けられる。

 

皆が忘れない限り、侍達は今もなおこの国で生き続けるのだ。

 

だからこそ、今もなお自信を持ってこの国の事を答えられる

 

ここは『侍の国』と

 

 

 

 

 

 

 

「だぶるちゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「き、貴様ぁ!! 小娘のクセに我々に対してなんという真似を!」

「我々を一体誰だと思っているんだ! 猿共がいい気になりおって!」

 

平和な時代となってなお、未だはびこる天人達、そんな彼等はある小さな喫茶店でちょっとした揉め事を起こしていた。

 

この店で働く店員にちょっかいをかけていびっていた茶斗蘭星の大使達だったが

 

そこに偶然その場に居合わせていた”一人の少女”に三人の内一人が派手に拳でぶっ飛ばされてしまう。

 

チーターの様な顔付きをした彼等が、同胞を倒された事にご立腹の様子で血相を変えて振り返ると

 

「ったくギャーギャーギャーギャーやかましい連中アルな」

 

そこにいたのは未だ寺子屋に通う年にも満たない。

 

ハネッ毛の強い銀髪を後ろに束ねてポニーテールにした

 

死んだ魚のような目をしたやる気の無さそうな顔付きをした、チャイナ服を着たちっちゃな少女であった。

 

「発情期アルかコノヤロー」

「江華ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

相手が自分よりずっと大きな図体の天人二人であろうと、全く臆せずに小指で鼻をほじり始める少女だが

 

そこへ店のトイレを利用していた客の一人、メガネを掛けた地味そうな男が慌てて彼女の方へ駆け寄ると……

 

「弱いモノ虐めはダメって言ってんでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「「!?」」

 

突然その男は天人達ではなく少女に向かって思いきり拳骨をかましたのだ。

 

その光景に思わず言葉を失い驚く天人、するとそこへ今度はその男に向かって何者かが後ろから……

 

「か弱い女の子が絡まれてるのになにやってんだテメェはぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うべごぉ!!!」

「「!?」」

 

この店の店長である、てっぺんハゲでかろうじて左右に髪が残っている店長は、果敢にもその男を思いきりぶん殴ったのだ。

 

またもや目の前で思いもよらぬ出来事が起こり、天人達はどうしていいのか戸惑い始めるのもよそに

 

店長は殴った男の胸倉を掴み上げる。

 

「この女の子はなぁ! 俺の息子がコイツ等天人にいびられている時に危険を顧みずに助けに入って来たんだぞ! 時代が移り変わっても未だ俺達の中で消える事のない侍の魂を!! しっかりとその小さな身で受け継いでいる証拠だぁ! なのにそんな勇敢な少女に向かって卑怯にも後ろから殴り掛かりやがって!」

 

「い、いや待ってください店長……この子、見た目は確かに普通の少女ですけど……いざ力を出したらこの店を跡形も無く破壊しちゃいかねないんで……ぐふッ!」

 

「言い訳ぶっこいてんじゃねぇぞメガネ星人! 性懲りも無くまたこの店に現れやがって! もう二度とこの店をテメェ等天人に好き勝手にさせねぇぞコラァ!!」

 

数年前、もしくは更に前に見かけた事のある顔付きをした男だと思いつつ店長は、何か呟き始めている彼の話も聞かずにそのまま彼の顔に鉄拳制裁を加える。

 

この店、そしてこの侍の国を護る為に戦う店長、刀は持たずとも彼もまた立派な侍である。

 

そして店長は続いて、先程からずっと店の隅で驚いて動けなくなっている天人達の方へ顔を上げると

 

「なぁに見てんだクソ猫共……! テメェ等もこうなりてぇのか……!?」

「ひぃ! お、覚えておれ!」

「未だ野蛮な猿共め! 我々を侮辱した事を今度こそ後悔させてやる!」

 

鼻血を流してぐったりしているメガネ星人の胸倉を掴んだまま、ドスの低い声で脅してくる店長にすっかりビビってしまい、典型的な捨て台詞を吐きながら天人達は倒れた仲間を引きずって店を退散するのであった。

 

かつては廃れて消えてしまったと思われていた侍達は、今もなおこの国を護る為に人々の中で根付いている。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫アルか、新兄ぃ?」

「う、うん大丈夫だよ江華ちゃん……ただ体よりも心の方が重症だけど……」

 

それから数十分後、ようやく店長に解放された男は先程の少女と共に町中を歩いていた。

 

ヒビ割れた眼鏡をクイッと上げながら、こちらに顔を上げて尋ねて来る少女に男はたどたどしく答える。

 

「あの店長……しばらく見ない内に随分とパンチの冴えが良くなってるな……フフフ、昔に比べて随分と男らしくなったじゃないですか店長……」

 

「新兄、もしかして泣いているアルか?」

 

「いやコレはアレだよ……悲しみの涙じゃなくて喜びの涙だから……」

 

この男こそ志村新八こそ、かぶき町にある『万事屋銀ちゃん』で働く従業員にして、実家の道場を継いで若い子達に剣を教る事を生業とする、こう見えてかなりの腕っぷしを持つ立派な侍である。

 

そしてそんな新八と仲良く手を繋いで歩いているこの少女はというと……

 

「前にパピーが言ってたネ、『気に入らない相手がいたら遠慮なくぶっ飛ばせ、それが男だったらなおの事ぶっ飛ばせ、ていうか殺せ』って、だから私あの猫共をぶっ飛ばしたヨ、それの何がいけないアルか?」

 

「いやあのね江華ちゃん、何度も言ってるけどのあのダメ親父の話を真に受けちゃダメなんだって……君にはお母さんの夜兎の血がしっかりと流れてるんだ、その血を受け継ぐ君だからこそ、無闇にその生まれ持った怪力を使っちゃいけないんだよ」

 

彼女の名は江華、数年前に生まれた坂田銀時と神楽の娘である。

 

銀髪のクセッ毛、そして死んだ目とけだるさ全開の態度、おまけに甘党な所は父親に似て

 

毒舌で食いしん坊、白い肌に小綺麗な顔付きは母親似、時々使う彼女の口調を真似した結果すっかり馴染んでしまっていた。

 

亡き祖母の名を持つこの少女にはしっかりと夜兎族の血が流れており、幼い体ではあるものの相手が大人であろうと容易に病院送りにさせてしまう程の恐ろしい怪力を持っているのだ。

 

しかも夜兎にも関わらず、地球人の血が混じっているからかなのか、日光の下でも少々ダルくはなるが、日傘を差さなくても行動出来るという正にハイスペックトンデモ娘なのである。

 

だからこそ新八がこうして、両親が見ていない所でも代わりに保護者として彼女を見守っているのである。

 

もっとも最近では、保護者としてより、未だ己の力の振るい方もわかっていない江華を見張る為の監視役みたいになっているが

 

「ふーん、でもさっき力を使ったのはきっと正しい事アル、だってアイツ等が暴れたせいで私が頼んだパフェがこぼれちゃったんだモン、だからぶん殴ったんだヨ」

 

「全然正しくねぇよ! やってる事がただのチンピラだよ! ていうか店長の息子をかばった訳じゃなくてただパフェこぼされただけだったの!?」

 

「パピーがいつも言ってるネ、『食べ物を粗末にしちゃいけません、特に甘いモノを軽んじる輩は皆死刑』って」

 

「あの親父ホント娘にロクな事教えてねぇなオイ!」

 

先程店で暴れようとした事に関しては、小指で鼻をほじりながらまったく反省する気の無い江華。

 

それもこれもいい加減な事を彼女に教えている父親のせいだと新八は嘆きながら、彼女の手を取りながら自宅へと向かう。

 

「ホントに昔からどうしようもないんだからあの男は……大丈夫だよ江華ちゃん、家に着いた時に僕の方からあのダメ親父に色々言っておいてあげるから」

 

「えーもう家に帰っちゃうアルか? 帰る前にそこの駄菓子屋で酢こんぶ買ってヨ」

 

「甘党の上に酢こんぶまで好きなのかよ……極端に両親に似過ぎだろこの子、設定もうちょっと考えとけよ……」

 

家に帰る事にだだをこね始めてお菓子をせがんでくる江華にため息をこぼしながら

 

無闇にモノを与えすぎるのも教育に悪いと、彼女のお願いに耳も貸さずに家の前へと辿り着いたその時……

 

「ふんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「あ、パピーアル」

「ってうわぁ!?」

 

丁度家の真下にあるスナックお登勢の前へ差し掛かった時、突如空から銀髪天然パーマのオッサンが二人の目の前に落ちてきたのだ。

 

いきなりの出来事に仰天の声を上げる新八をよそに、江華はすぐにその人物が何者なのか気付いた様子で、町中にも関わらずバタリとうつ伏せで倒れた男に歩み寄ってしゃがみ込んだ。

 

「パピー、まだマミー怒ってるアルか?」

「お、おかえり江華ちゃん……悪いけどまだちょっとドタバタしてるから新八とお外で遊んでてくれない……?」

 

坂田銀時、数年前からあまり見た目に変化のない彼ではあるが、ボロボロになった状態でも娘の江華に対しては少々優しめな口調でしばらくこの家に戻らなくていいと告げる。

 

だがそこへ上の階から機嫌悪そうに階段を降りて来た人物が彼等の前に現れた。

 

「オイ、何べん同じ事言わせれば気が済むアルか、腐れ天然パーマ」

 

恐らく初めてお目にかかる者であればその眩しい程の美貌に言葉を失うであろう

 

そして同時にその恐ろしい気迫を前にして更に言葉を失い全速力で逃げるであろう。

 

空色のチャイナ服をした美しい女性。

 

彼女こそ江華の母親に銀時の妻、坂田神楽である。

 

「所帯持ちのクセに朝帰りするなんて……いい加減にしねぇとマジぶっ殺すゾ」

 

「ま、待て母さん……娘がいる前でドミスティックバイオレンスはマズいって……それにさっきから説明してるだろ、朝帰りつっても俺はただ飲んでただけだって……」

 

「だからって私が許すとでも? ロクに稼ぎも無いクセに朝になるまで飲んで遊び回っている旦那を」

 

「稼ぎが無いのは仕方ねぇだろ! 俺だって家族の為に頑張ってんだよ! でも最近めっきり依頼が少なくなったからこうして夜中も駆け回って店の宣伝をだな!」

 

「言い訳はもう聞きたくないアル、ていうか単に遊び呆けてただけだろオマエ」

 

すっかり旦那を尻に敷く強い母になった彼女

 

アルアル口調はとっくの昔に卒業している筈なのだが、銀時相手だとよく昔の口調に戻るらしい。

 

娘の江華はそんな母の喋り方を見て口調を真似し始めたのだろう。

 

「はぁ~、まだ喧嘩してるのかこの二人……全くいつもいつも飽きないなホントに」

 

理由はいくつもあれど二人で喧嘩している姿を見るのはもうすっかり日常風景だ。

 

新八は江華と手を繋いだまま呆れた様子で眺めながら、はぁ~とため息をつくと、二人の方へ歩み寄る。

 

「ちょっと神楽ちゃんに銀さん、近所迷惑ですからこんな街中で暴れないで下さいよ。夫婦喧嘩なら家の中で静かにやって下さい」

 

「おい、コレのどこが夫婦喧嘩に見えんだ新八、俺はな、そんな娘が不安がる様な不毛な争いなんざ絶対にしねぇぞ」

 

ご近所と娘の目があるのだから派手な夫婦喧嘩はよせと新八が抗議すると、すぐに反応したのは地べたに這いつくばっている銀時の方であった。

 

「よく見ろ新八、どう見ても俺が一方的にやられてる様にしか見えねぇだろ? それに今から俺はコイツに土下座をして許しを請う所なんだ、つまりこれは夫婦喧嘩なんて恥ずかしいモンじゃねぇ、ただのよくある坂田家の光景だ」

 

「そっちの方が夫婦喧嘩より恥ずかしいよ! 土下座慣れしてる時点で十分旦那としても父親としてもみっともねぇから!!」

 

冷たく見下ろしながら仁王立ちする神楽に対して、慣れた感じで両手を地面に着けて前かがみになる銀時。

 

すっかり開き直ってる彼に新八がツッコんでいると、江華もそれに便乗して冷めた表情で

 

「パピーまたマミーに土下座するアルか? いい加減見飽きたヨ、侍なら侍らしく潔い切腹をして見せるヨロシ」

 

「娘は娘で怖ぇ事言ってるし! ダメだよ江華ちゃん! 確かにこの人は侍だけどヘタレだから切腹なんて無理だから!!」

 

「誰がヘタレだコラ! 切腹なんて余裕に決まってんだろ! けど今日はちょっと腹の調子が悪いから止めとくわ! ごめんな江華ちゃん、切腹はまた今度するから!」

 

「約束アルからな、明日の朝までに見せてよネ」

 

「おいアンタ等の娘やべぇぞ! 無垢な目で父親に切腹強要する5歳の娘なんてまともじゃねぇって!」

 

銀時の下手な言い訳を聞いておいて、明日中に腹を切れと言い出す江華。

 

親も親なら娘も末恐ろしい……と新八が戦慄を覚えていると、そんな江華の方へふと神楽が歩み寄ってコツンと頭を叩く。

 

「コラ、子供が人に切腹を申し付けるなんてドラマの観過ぎ」

 

「あた」

 

「ああ、父親と違ってすっかり母親が板についたね神楽ちゃん」

 

「切腹させたいならもっと偉くなって殿様になってからにしなさい」

 

「その一言は余計だから! そんな不純な動機で殿様になれる訳ねぇだろ!」

 

すっかり母親らしく娘の物騒な発言に厳しくもズレた注意する神楽に、新八はツッコミつつも、とにかく彼女なりに母親として成長したのだと内心喜ぶ。

 

すると彼女に対しては頭をさすりながら江華も素直に謝った。

 

「ごめんねマミー、水戸黄門に出て来るうっかり八兵衛観たせいでつい言いたくなっちゃったアル」

 

「え? なんで八兵衛で切腹に繋がるの? もしかして八兵衛、ご隠居に申し付けられたの切腹? うっかりじゃ済まされない事やらかしちゃったの?」

 

「あんなに怒り狂ったご隠居を見たのは初めてネ、助さんの亡骸を抱きかかながら男泣きする格さんにも痺れたアル」

 

「ちょっと待って!? 僕が知らない間に水戸黄門で何があったホントに!?」

 

一体あの名作時代劇ドラマでどんな急展開があったのだろうかと、江華の話を聞きながら新八が一人頬を引きつらせていると

 

「おい、水戸黄門の話とかどうでもいいだろうが、それより俺はいつまでこうして土下座し続けてればいいんだよ、早く許してくれよ300円あげるから」

 

「ってアンタまだ土下座してたんかい!」

 

神楽が江華の方へ移動した事で、銀時は誰もいない所に向かってずっと頭を地面に擦りつけていたのであった。

 

なんとも情けない姿である彼に、神楽は長い髪を掻き撫でながらポンとその肩に手を置いて

 

「もう腹の虫も収まったし許してやるアル、今度から気を付けてヨ、銀ちゃん」

 

「あーわかってるわかってる、次からはちゃんと気を付けます、神に誓って、カミさんに誓って」

 

「全く、そんな事言っておいて数日後にはどうせ忘れるクセに……」

 

本当はこのまましばらく彼の土下座を眺めておきたい所ではあるが、流石にそれは可愛そうだと思い仕方なく許してあげる事にする神楽。

 

しかし許した瞬間すぐにこちらに顔を上げてヘラヘラ笑いながら後頭部を掻く銀時に、やはり反省している態度ではないと神楽は顔をしかめる。

 

「ま、銀ちゃんと結婚すると決めた時からこうなる事ぐらいわかってたけどネ、でももうすぐ江華の6才の誕生日なんだから、しばらくは一人で夜の街に繰り出して遊び歩くのは止めて頂戴ヨ」

 

「どっこいしょ……へいへい、はぁ~我が娘がもう6才か、時の流れは速ぇなホント……油断してたらもう娘が家に彼氏連れてきそうで怖ぇよ」

 

「流石にそれは気が早過ぎるネ、どんだけ娘に男が出来るのビビってるアルか」

 

「父親ってのは常に娘の隣に自分以外の男が現れないかって不安になる生き物なんだよ」

 

膝に着いた砂をはたきながら立ち上がりつつ、神楽の話を聞いて少々テンションが下がった様子で呟く銀時。

 

あと一カ月もすれば江華は6才の誕生日を迎える事になる。彼女が産まれた日からもう6年、時の流れは早いモノだ。

 

「ていうか江華の誕生日って事はあのハゲもこっち来んのか?」

 

「うん、こっちに来るって連絡がもう来てるアル、孫に会う為ならば隙あらばこっちに出向こうとする困ったグランドパピーネ」

 

江華にとっては祖父に当たる星海坊主が今年も誕生日を祝いにやって来ると聞いて銀時は顔をしかめる。

 

義理の父親だと言っても、正直彼が地球に来るとロクな事にならないのだ。

 

「困るで済むレベルじゃねぇんだよあのハゲ……この前の誕生日なんか一人で舞い上がり過ぎて脱出ポッドに江華を乗せてそのまま宇宙に発射させたんだぜ、意味わかんねぇよ」

 

「ああ、あれ多分江華が「空に浮かぶ星を近くで見たい」とか言ったもんだからやったんだと思う……」

 

「今年は別次元の世界にでも送り飛ばしそうで怖ぇよ、余所の作品の銀さんの所へ飛ばしたらえらい事になるぞ絶対」

 

昔から娘に対して甘いという所があったが、孫娘が誕生した時からすぐに親バカから孫バカに切り替わった星海坊主。

 

孫の為とはいえどんな願いでも叶えようと無茶な事ばかりしでかすので、親である銀時と神楽にとっては悩みの種だ。

 

「今年は出来るだけ大人しくしてもらわねぇと……で? 江華の名付け親のバカ兄貴はどうだ? 連絡あったのか?」

 

「ある訳ないアル、アイツは相変わらず宇宙で海賊として大暴れしてるだろうし」

 

バカ兄貴、兄である神威の事を聞かれて神楽は肩をすくめてため息をつく。

 

江華にとっては叔父兼名付け親の神威は、星海坊主と違ってここには滅多に足を運ばないのだ。

 

「でも多分今年も誕生日当日に花だけ送ってくると思うヨ、そういう所はマメアルからな、アイツ」

 

「ああ、そういや毎年同じ花送って来るなアイツ」

 

「フフ、マミーが好きだった花ネ。本当にアイツはマザコンアル」

 

神威が毎年ウチに江華宛てに送って来る花は彼と神楽の母であるもう一人の江華が好きだった花。

 

今も昔も変わらずその事をずっと覚えていているのであろう神威に、神楽は可笑しそうに笑ってしまう。

 

「でもなんだかんだでずっと望んでいたモノが手に入ったみたいで私にとって今が本当に幸せヨ、ずっと続けばいいのに……」

 

「バカ野郎、この程度で満足してんじゃねぇよ、人生は長ぇんだ、これから辛ぇ事もあるだろうし最悪な時だってある、幸せなんつうモンは油断すればすぐ手から零れ落ちちまうモンなんだよ」

 

「ったく、人がせっかくようやく握り締めた幸福を掴んだってのに水を差さないでよ」

 

孤独な時間を長く過ごした神楽にとって今の時間はとても充実している毎日であった。

 

しかしそこで銀時にいきなり嫌味ったらしく言われてすぐにブスっとした表情を浮かべると

 

そんな彼女に今度は銀時はフッと笑って見せた。

 

「人生楽ありゃ苦もあるさってな、だからこそ人ってのは限りある一生の中で楽しまなきゃ損だろ、幸せだろうが不幸だろうが、俺はお前等が傍にいてくれればそれだけで十分だ」

 

「銀ちゃん……」

 

「ったく、30後半になると俺もすっかり丸くなっちまったなぁ、昔はあんだけ尖ってブイブイいわせてたのによ、こんなこっ恥ずかしい事をすんなり言える自分が嫌になるぜホント」

 

自分で言って照れ臭くなったのか後頭部を掻きながらそっぽを向く銀時、そんな彼を嬉しそうに神楽が見つめていると……

 

「あのーすみません……お二人で仲慎ましくしている所悪いんですけど……僕がここにいるの忘れてませんか?」

 

「え、新八、お前いたの? 全然気付かなかったわ、いつから?」

 

「最初からに決まってんだろ! いきなり二人でしんみりした雰囲気作りながら入りずらい空気出すもんだから江華ちゃんと一緒に蚊帳の外だったんだよ!」

 

すっかり仲直りしている坂田夫婦にジト目を向けながら、新八が江華と手を繋いだまま入って来たのだ。

 

銀時と神楽にとっては彼もまた家族と言っても過言では無いのだが、扱われ方が少々悪いのは昔からである。

 

「僕はともかく江華ちゃんの事はちゃんと見ていてあげて下さいよ、彼女は二人の大事な娘なんですから」

 

「そうだよパピー&マミー、私ほっとかれちゃったらきっと不機嫌になって目に付く者全てを破壊し尽くすモンスターになっちゃうアルよ? だから定期的に私の機嫌を良くさせる為に貢ぎ物を捧げてネ」

 

「あれおかしいな? その大事な娘が今魔王みたいな事言い出したんだけど? え? 俺の娘って魔王だったの?」

 

「アンタ等が育てたせいでしょうがどう見ても、ったく自分達でこの無垢な怪物を作り上げたんですから責任取って下さいよ」

 

目を離した隙に何をやらかすかわからない、そんな凶悪な小悪魔を野放しにする訳にはいかないと、江華と手をガッチリ繋ぎながら新八はボソッと呟いた。

 

「前にも言いましたよね銀さん、僕がここに残ってやるべき事は、この江戸の未来を担う子供達に侍の志を継いで立派に生きてもらう為に導く事です」

 

「ああ言ってたなそんな事、だからお前、道場でよくガキ共集めて色々教えてんだろ」

 

「ええ最初は色々大変でしたけど、最近ようやく先生らしくなれたんじゃないかと実感が出来ました」

 

「お前が先生ねぇ……」

 

数年の武者修行から帰って来た新八は、一度は万事屋を離れようとしたものの結局はここに残る事を選んだ。

 

それは銀時と神楽の娘である江華を病院で初めて見た時に決めたのだ。

 

時代の流れで消える運命にある侍、彼等が持っていた銀色に輝くその魂を、自分が若き世代に受け継がせねばと

 

江華を始め、彼女達の様な子供達にこの平和になった国を護る志を持ってもらうと彼なりに考えたのである。

 

 

その時、銀時に自分のやりたい事を伝えた時、彼は馬鹿にすることも無く小さく笑みを浮かべながら答えた。

 

『悪くはねぇんじゃねぇの? オメェは俺の知ってる”先生”って奴とは全く似てねぇけど、お前はやれば出来る子だからガキ共もついて来るだろ』

 

『ハハハ、それで銀さんや桂さんや高杉さんには悪いですけど……”彼”がここに遺したかったモノを、僕もまた銀さん達とは違う形で引き継ごうと思います』

 

『へぇ、お前がアイツを継ぐってか? しばらく会わねぇ内にでけぇ事言うようになったじゃねぇか』

 

 

 

 

 

 

『でもなんつうかよ……ありがとな新八』

 

 

 

 

 

あの時銀時が見せた感謝しながら浮かべた安らいだ表情は、今でも新八の脳裏に焼き付いている。

 

だからこそ彼の思いを無駄にしたくないと、今まで新八はずっと頑張っているのだ。

 

「だから江華ちゃんにはもっと色々と教えないといけないんです、彼女、剣術指南の時は元気なのに、勉強の時間の時はいつもよだれ垂らして寝てるんですよ……」

 

「マジか、一体誰に似たんだオイ」

 

「いや100%アンタでしょ」

 

江華もまた新八の所の大事な生徒の一人なので、彼女の授業態度を教えてやるとすっとぼけた様子で銀時は首を傾げる。とぼけてるのか素なのか、よくわからない表情だ……

 

「とにかく、これからはちゃんと真面目にしてもらわないと教えるこっちも困るんですからね、親らしくビシッと言ってあげて下さい」

 

「へいへいわかったよ新八先生、ところでよずっと気になったんだけど」

 

「なんですか?」

 

気の抜けた返事をして適当に答えつつ、今度は銀時の方から不意に訪ねて来た。

 

「オメェの所の生徒って江華ぐらいの年の男子っていんのか?」

 

「ええ、そりゃいますよ、当たり前じゃないですか」

 

「んだとぉ! てことはウチの娘に悪い虫が付くかもしれねぇじゃねぇか! 男は全員退学にしろ!」

 

「モンスターペアレントにも程があんだろ! 出来る訳ねぇだろそんな事!」

 

新八の教える所には江華と近い年頃の男子がいると聞いてすぐにカッと目を見開いて抗議する銀時。

 

当然そんなこと出来る訳ないだろ新八が答えると、その時彼と手を繋いでいた江華が銀時の方へ顔を上げ

 

「パピー心配しなくてもいいヨ、私はあんなションベン臭いガキ共なんて全く興味ないアル」

 

「おお! 流石は俺の娘! よくわかってるじゃねぇか! そうだよお前に男なんて必要ねぇんだよ! パピー以外!」

 

「それに私、結婚する相手はもうとっくに決まってるアル」

 

「え?」

 

無垢な表情で淡々とした口調で銀時に答えながら、江華は自分と手を繋いでいる新八の方へ視線を上げ

 

 

 

 

 

 

「私、新兄のお嫁さんになるアル」

江華がサラッと言った言葉に、銀時だけでなく新八も固まり、神楽だけ一人フッと笑っていた。

 

「ま、新八なら別に良いんじゃない? 私は別に反対しないけど?」

 

「い、いやいや待って神楽ちゃん! このぐらいの年頃の子はちょっと仲のいいお兄さんに対してそういう幼い感情が芽生える時期だから特に深い意味じゃ……!」

 

茶化してくる神楽に新八が慌てて弁明しようとしたその時……

 

 

 

 

 

 

 

 

「このロリコン野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「だぱんぷ!!!!」

 

ギラリと目を鋭く光らせた銀時の重い鉄拳が顔面に直撃し新八は勢いよく

 

 

 

 

雲一つない綺麗な大空を背景に華麗に吹っ飛ぶのであった

 

 

 

 

 

ここは侍の国

 

かつてではなく、これからもこの国はそう呼ばれ続ける。

 

 

 

 




今回で本作は完結となり、今まで読んで下さった方々、感想を書いて下さった方々、評価してくれた方々、最後まで読んで下さり本当にありがとうございます。

まだ書きたい話はありましたが、ここいらで一旦完結という事にしておきます。

最後にもう一度、こんなふざけた連中の珍道中を読んで下さり本当にありがとうございました。
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総合評価:24840/評価:9.07/連載:60話/更新日時:2026年04月20日(月) 21:00 小説情報


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