ルーナ・ラブグッドと闇の帝王の日記帳   作:ポット@翻訳

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100「巡り会う」(終)

 


100「巡り会う」

 

1992年11月29日:

東塔ちかくでスカイザーナットと思われる群れのトラッキングをはじめた。カブのペーストは多少効くみたいだけれど、効かないこともある。明日はタマネギを試そうと思う。

 

—— きみはだれだ? いったいなんの話をしているんだ?

 

 

「あのペーストは持った?」

 

 ルーナが声をかけてきたとき、トムは携行品のカバンに入れ忘れたものがないかチェックしていた。

 

「ああ、あのペーストな。あるとも、五瓶とも。今日三時間も使って、わざわざ手作業で作らされたんだからな。『魔法を使うと野菜本来の魔力が阻害される』とかいう理由で」

 

 トムの皮肉な言いかたをものともせず、ルーナはにこっと笑う。

「ありがとう」

 

「待望のスカイザーナットだからな。今夜この目で見られなかったとしたら、ひどくがっかりだ」

 

「うまくいけば大群に会えるかもしれないよ」

 

「はいはい」

 

 

だれかいるの?

 

—— こんにちは。ジニーはどこに行った?

 

ジニー?

 

—— そう。ジニー。

 

ジニー・ウィーズリーのこと?

 

—— そう。ジネブラ・モリー・ウィーズリー。この日記帳の持ち主だ。

 

これはジニーの日記帳っていうこと?

 

 

「ジニーとの待ち合わせの場所は?」

 

「東の通廊。古代ルーン文字学の教室の近く」

 ルーナは小声でそう言って、円柱から恐る恐る顔をのぞかせて進路を確認する。巡回中の教師や監督生がいないとも限らないからだ。

「フレッドとジョージが今夜温室にいたずらをしかけるそうだから、このへんにはだれも来ないとは思うんだけど。先生たちはあっちの大騒ぎにかかりきりだろうから」

 

「せっかくあの二人のいたずらを見物するチャンスなのに、ぼくはここで想像上の虫にすぎないかもしれないものを探さなきゃならないのか?」

 

「スカイザーナット、見たいんじゃなかったの?」

 

「見たい」

 

「じゃあだまってついてきて。ジニーはもう来てるよ、きっと」

 

「分かった、行こう」

 

 

そう言うあなたはだれ?

 

—— 日記帳だ。

 

どうやって返事してるの?

 

—— 魔法のおかげで持ち主に返事をしたり助言したりできるようになっている。

 

そんな魔法聞いたことないよ。

 

 

 待ち合わせの場所までの道のりは、とくにこともなく過ぎた。フィルチと飼い猫ミセス・ノリスの見回りもうまくやりすごせた。二人が隠れている近くにフィルチたちが来たとき、フィルチは気づかなかった。ミセス・ノリスはずっとまえからルーナと仲良くなっていたので、見すごしてくれた。

 

 ルーナはあとで、きっとなにかうまい方法でミセス・ノリスにご褒美の食べものを渡そうとするだろう。トマス・A・キャチクスとグリフィンドール寮のもう一匹の醜いネコに頼んで届けさせるとかして。

 

「そうだ……」

 ルーナはちょうど通りかかった教室のドアを見ながら言う。

「N.E.W.T.で受ける科目のことで相談したかったんだ。数占いと古代ルーン文字。トムはどっちがいいと思う?」

 

「古代ルーン文字」とトムは即答した。

 

「そう思う?」

 

「数占いならきみはもう十分学んだ。それ以上学ぶのは、卒業してから数占い関連の職業に就こうと思っている人だけだ」

 

「そこまで思い入れはない」

 

「だろう。それに、O.W.L.までのルーン文字の成績はよかったんだったな? N.E.W.T.の年には、まだどの学者にも翻訳されていない古文書を教材として使ったりする。きみなら独自の解釈を見つけることができると思う。あれだけ旅行や遠征に行っていたなら、いろいろな言語変種や文化様式をとらえる訓練も、ふつうの生徒以上にできているはずだ」

 

「ほんとにそう思う?」

 

「ああ。ルーン翻訳のような仕事には、いつも新鮮な視点を与えてくれる人材が欠かせない。うまくいけば、古代魔法文明の知識を復元できたりするかもしれないぞ」

 

「できたらおもしろいね」

 

「というより大発見だ」

 

「じゃあ、古代ルーン文字にすればまちがいないっていうこと?」

 

「そのとおり」

 

「さすがトム。いつもありがとう」

 

 

—— きみはだれだ?

 

ルーナだよ。あなたは?

 

—— トムだけれども、だんだんいらいらしてきた。とにかくできるだけ早くぼくをジニーに返しなさい。

 

返さない。しばらくもらっておくことにする。

 

 

「ああ、降参だ。スカイザーナットは実在する。ぼくの負けだ。カブとタマネギのにおいに辟易したばかりに、嫌味な文句を言って悪かった。『想像上の生物』や『狂気の産物』をいくら探そうとしても無駄だとか言って悪かった。きみの博識さには恐れいった。世界にはぼくが知らないことがたくさんある。自分の勉強不足が身にしみた。だからどうか弟子入りさせてください、ルーナ先生」

 

 トムの台詞にルーナが笑う。トムはなかなか許してくれないルーナに辟易しかけているが、口角は上がってしまっている。

 

「わかった。きみが言ったとおり、たしかにこの城には見たこともない奇妙な虫の群れが住みついている。それがスカイザーナットという名前で正式に新種として認められる可能性もないとは言えない」

 

「認められるよ。もう標本付きで魔法生物学会に報告を送る準備もしてあるし。受理されるまであきらめない」

 

 トムは鼻で笑いつつも、ルーナにはそれだけの実力があると内心認めてもいた。ルーナはいつも突拍子もないことを言うが、この手のことには真剣だ。新種の認定に必要なだけの標本や根拠を十分に集め、要を得た報告書を書いて、有無を言わさずに受理させることだろう。

 

「もうロルフにも声はかけたんだろうな?」

 

「うん。ロルフのおじいさんが新種認定の手続きに詳しいから、こんどいっしょにこつを教えてもらいに行く約束になってる」

 

「ぼくの名前も報告書のどこかに出てくるのか? スカイザーナットの実在を証明しようとする切っかけを与えてくれた人物として」

 

「もちろん。報告書の最後に、『いつも疑い深く懐疑的なトム(※元闇の帝王)をぎゃふんと言わせたいというのがこの発見の原動力になりました』って」

 

 トムは笑った。

「その言い草。やはりぼくはきみに悪い影響を与えたみたいだな」

 

「最悪の影響だね」

 

「ぼくとの付き合いは考えなおしたほうがいいぞ。たった数年で、きみはずいぶん意地悪い笑顔をするようになってしまっている」

 トムはそう言って深刻そうな顔をする。

「このままだとどこまで堕落することやら。いまのうちに、ぼくとはきっぱり縁を切ったほうがいい」

 

 ルーナはにっこりと笑った。トムがルーナに与えた影響とは比べものにならないほどの影響をルーナがトムに与えたのだということは、おたがいよく知っている。

「そうはいかないよ。このままもらっておくことにする」

 

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