もし一輝が出会った人物がサムライ・リョーマではなく気高き碧い猛獣だったら 作:〇坊主
先ほどまでは熱狂的な歓声とそれ相応人々の熱気で満ちていた試合会場。
それが今では抑え込まれたかのように鳴りを潜め、観客全員が剣士達の一挙手一投足を見逃すまいと集中していた。
電光石火と評するのも足りない。
全力で操る剣戟はまさに神速と呼ぶにふさわしい剣速。
《
相対するは文字通りの神速の反射。
0.05秒の反応速度という
両手に持つ得物を駆使して神速を叩き落す綾辻流の免許皆伝 倉敷蔵人。
時間にすれば数秒の空間であるかもしれないが、その間に10はくだらないぶつかり合いが発生している。
これが大会の決勝戦と言われても納得してしまうほどに、固有霊装に込められて放たれる。
打ち勝つ執念が。
鼓舞する熱気が。
斬りあえる歓喜が。
解説など不要。
齧った程度の技術を持った者達であっても、その戦いでどれほど想いが込められているのか心で理解できた。
呼吸すらも忘れてしまうほどに周囲の観客達を飲み込んだその空間は、
「オオオォォォォォォォォオオオオオオオ!!」
「ハァァァァァァぁぁあああああああああ!!」
斬撃の雨あられ。
ここに野菜でも投げ込めば瞬きの間もなく野菜くずに早変わりだ。
両者互角。
観客達の眼からはそう見えることだろう。
攻め、守り、受け流す。それが出来ているからこそ拮抗状態が成り立っているのだ。
「す、すごい…」
それを観戦するステラは感嘆の声をあげた。
学園最強と己が知る最強の友人。
何度も抱いたはずの感想がこの短時間の間に何度も更新されていく。
ステラ・ヴァーミリオンは
この学園に来たのも己を高めるためである彼女は生粋の武人。
『無冠の武王』と称される黒鉄一輝から見てもその才能は世界トップと言い切れるほどの彼女は剣戟が巻き起こる舞台から目を離すことが出来ない。
魔力制御も技術もすでに一流だが、二人の
自分の持つ技量ではまだその領域には至れないとわかってしまうほど、
「ねぇイッキ、アタシ…もう何度目かわからないけど、この学園に来てよかったって心から思うわ」
「ステラ…そうだね。僕も同じことを思ってるよ」
魅入るステラに一輝も笑みを浮かべて返す。
事実、一輝もこの学園に来た事で得ることが出来たモノが沢山あるのだ。
妨害は多少あったものの、その程度は苦でも何でもない。
それを遥かに上回る出会いが、彼の人生を鮮やかに彩っている事は紛れもない事実なのである。
「この戦いを、この出会いを、僕は忘れない」
二人はそれ以上語ることはしなかった。
どんな結果であろうとも、試合を見届ける。
これが二人に対する誠意であると思ったからだ。
(―――ッ)
数えきれない剣戟を交えてきた。
それによって周囲がこの戦いを熱が篭った目で見ているのだが、その反応とは裏腹に、神速の剣閃を生み出している東堂刀華は悪態をつきそうになる。
己が有する
脳の電気信号を読むことで行動を先読みする《
納刀することで鞘に電磁力を発生させることで反発を利用して放つ電磁抜刀術である《雷切》。
特に《雷切》は
七星剣武祭で彼女は優勝に手が届く距離にいた。
結果は頂に届かなかったものの、その敗因は《雷切》を出させないように終始徹底した対戦相手が一枚上手であったからだ。
それを証明するように当時の大会結果にて《雷切》を放った試合は全て一撃で決着。彼女を勝利へ導いている。
ではなぜ彼女はこの試合で《雷切》を使用しないのか?
答えは単純明快。
それだけでは語弊を生んでしまうが、詳しく言えば蔵人が終始使わせない様に動いている、と言ったほうがわかりやすいか。
《雷切》は電磁力を利用した抜刀を行う関係上、鞘に納めなければならないのは当然の帰結だ。そんな事彼女だって骨の髄までわかっている。
だが最初から《雷切》を構えていればどうなるか?
答えは簡単。相手から近づいてこない。
そうなれば間合いを詰めるための手段も限定され、遠距離で狙われたりカウンターを狙ってきたりとやりようが出てくる。
刀華はそれの対策として《
相手の電気信号さえ読んでしまえば、どんな考えをしていたとしてもこちらが抜刀する方が早い。そして《雷切》は放てば相手を一撃で仕留める威力を有する。
だからこそ《雷切》はクロスレンジで絶対的な強さを持っているのだ。
(《雷切》を放つ隙が―――ないっ!!)
だがここで例外が現れる。
脳内の電気信号を呼んで先読みしようにも、相手は自分の反射速度よりも早く行動出来る《
《
そんな彼が刀華が刀を鞘に納める動作を易々と見逃すはずがない。
(冗談じゃない!)
さらに今の彼は二刀流。
一本でも信じられない程の手数の多さであったというのに、それが二本だ。
常人離れした反射速度と二刀流の組み合わせは、手数が二倍どころの話ではなかった。
距離を離すべく大きめの技を放っても、綾辻流の体捌きで一切距離を取らせない。
下手に接近戦を仕掛けてしまえば真正面から食い破られる。
本来クロスレンジは一度も破られたことがない《雷切》の領域。
敵に攻め入られたとしても即座に斬り伏せられる最強の距離が、
(確かに危険。確かに分が悪い――)
己の師であっても、接近戦でここまで徹底して彼女の初動を潰すことはできないだろう。
不意を突いて距離を離したり、
(
刀華にも優秀な師たちがいる。
彼らからも多くの技術を叩き込まれた。
こんな状態でも距離を離すことで、仕切り直しを行う技も持っている。
しかし。
しかしだ。
(私は
それを行うということは、刀華自ら己の
これまで築き上げてきた絶対的な信頼。この領域でなら間違いなく最強である《
(私は…この誇り高い騎士に勝って、
ただ勝つだけがこの戦いではない。
己こそがクロスレンジにて最強であると、そう証明するのがこの戦いだ。
互いに剣に生きてきた
数多の選択肢から選び研鑽を重ねてきたこの得意分野だからこそ、自分から負けを認めることなど出来やしない!!
(受けて立ちます!
この
クロスレンジ間で己から距離を離すことは相手が自分よりも上手であると認める証拠だ。
故に刀華は歯を食いしばる。
負けられない。必ず勝つ。
雷切こそが、己の領域こそが最強であると頂に示すために――!!
◇
(チッ、ここまで凌ぎ切られるたァ想定以上だ)
対する『剣士殺し』の所以たる反射速度を持つ蔵人も刀華と同じく内心で悪態が出てくる。
これらを駆使してもまだ倒せない。
それだけ刀華が鍛えぬいてきている証拠であり、彼女の強さは手放しで褒めれるものだった。
《
それは倉敷蔵人を『剣士殺し』として語らせた才能。
圧倒的な反射速度があれば全てを蹂躙する事が出来る。
どれだけ身体を鍛え、型を磨き、駆け引きを覚えていたとしても、行動全ての初速で置き去りにされてしまえば無意味と化す。
己よりもどれだけ優れていようとも、不意打ちであったとしても、蔵人は見てから全て対処が出来るのだ。
その後出しジャンケンのような理不尽さが『
技も経験も策略も駆け引きすらも無意味に変えてしまうその天性の才は、数多の剣士達の希望を潰してきた。
破ったのは黒鉄一輝ただ一人。
それですらも
それは一輝ですら真正面から蔵人の《
(ジり貧になると判断したから“奥の手”も切ったってのに、それでも粘られるとはな…)
『技』でもないただの『特性』。
片手があれば同時に斬撃を放てる蔵人の両手には、異なった形状の二振りの剣。
並どころか上辺の
(まだ余裕はある。だが持久戦に持ってこられちゃこっちが負ける)
追随を許さない
それはスタミナである。
相手の初動に対して常に上を取れる反射速度は相手よりも行動回数が圧倒的に増えることになる。
本来ならその増えた行動回数で蹂躙できるのだが、逆にいえばその行動回数だけスタミナ消費が激しくなることに他ならない。
得意分野で拮抗する両者であるが、刀華がその弱点を看破して持久力勝負に持ち込まれれば彼としても面倒であった。
目で終えても身体が動けなければ反射速度は無意味なのだ。
修行では基礎体力重視で鍛えてきているものの、スタミナ消費そのものを無くすことは不可能だ。蔵人も人である以上、必ず限界がやってくる。
(
だが距離を取って一呼吸を取ろうにも、刀華の《雷切》がその選択肢を許さない。
一輝が留年になることがわかってから参加しなかった選抜戦。その中でも『雷切』の試合は見逃すことは一度もなかった。
それを第一に極め続けた学生生活。
勝つために頭を下げて教えを請うたこの
それらが花開くのがこの選抜戦なのだ。
(いつまで相手を
黒鉄一輝は一度見た剣技を観察すれば弱点を克服した剣技として模倣する《
《一刀修羅》や《禁術 八門遁甲の陣》のインパクトに隠されがちであるが、『無冠の武王』と称されるに至った根底は相手の思考や価値観、そしてその技術を即座に分析解析を行って己の糧に出来る異常なほどの観察眼だ。
いつかは相まみえることになる相手に、一度でも使用した剣技が通用しなくなるのは非常に厄介。だからこそ蔵人は無意識の中で技を抑えながら戦っていた。
それは
己が目指す
(ちげぇだろ…それが全てじゃねぇだろうがッッ!!)
“奥の手”を切った?
それが何だというのだ。
相手は30秒もあれば即座に弱点を見抜いて改良を加えてくる男だぞ!
隠している奥義であったとしても、それが試合を左右する一手になるとは思えないし、そんなイメージすらも湧くことはない。
であればどうすればよいのか?
決まってる。
極めて、極め抜いて、模倣改良では追いつけない極地へ至る。
(既存が通じないなら新規で対抗しろ!今が駄目なら
それは奇しくもかつての一輝が導き出した軌跡。
視覚も味覚も嗅覚も触覚も痛覚も、今はその全てが全部いらない。
瞬きの間に重ね合わさる刃の衝突に、そんなものは全ていらない。
それらに用いる力を、切り詰めたその力達を、この一瞬に集中しろ!!
――――挑め。
――――挑め!
――――挑め!!!
―――やってやろうじゃねぇかぁぁあ!!!」
◇
「っ~!!」
「らぁぁああッッ!!!」
両者互角の拮抗勝負。
だがその戦いにも変化が生まれる。
『
『おおっとぉ!!倉敷選手が果敢に仕掛けたぁ!!ただでさえ異常な速度であったというのに、彼はまだ上があるというのかぁ!!』
試合に魅入ってしまっていた実況も我に返って再開する。
蔵人が仕掛けたことで試合の勝敗を決める瞬間が近づいてきたことがわかったからだ。
烈火の如き苛烈な攻め。
先ほどまでこちらを封殺するように動いていたというのに、突然蔵人は刀華を一気に倒し切る方針に切り替えた。
それが示す答えは――
(圧倒的手数と反射速度…なるほど。私が想定している以上に、彼の反射行動は消耗が激しいということですか――!)
刀華も剣戟を受け流しつつ、その答えに至る。
このまま持久戦に持ち込めばこちらの勝利は確実だと。
だがそれはあり得ない幕引きだ。
東堂刀華は、目の前の剣士を相手にして、打ち勝つと決めていた。
「―――“稲妻”」
《雷切》はまだ放てるほど隙が生まれていない。
なので多少強引な方法であるが、刀華は周囲に電磁力を発生させた。
蔵人はピリッと肌に刺激が奔るのを感じ取った。
だがそれは自分に対してデメリットがあるわけではないと蔵人は意に介さず、攻める構えだ。
「――“疾風迅雷”!」
刀華は更に雷を身に纏う。
しかしこれは帯電を狙うものではない。
現に打ち合う蔵人にはなんの影響も出ていなかった。
しかしその効果は目に見えてわかる。
蔵人の猛攻で防戦になっていたにも関わらず、刀華が二つ技を使用したことで再び拮抗するほどの速度になっていたのである。
「――ハッ!まだ上があるってか!」
「私は、勝つ!!」
蔵人の問いに刀華は心境を吐露しながら、一気呵成に攻め立てる。
雷を身に纏った今の状態は電気信号を既存よりも早めて己の速度を上昇させる。
それに重ねるように用いた“稲妻”は電磁力から発生される引力と斥力を利用する事で通常攻撃よりも速度を上乗せするものだ。
身体に強化を施して用いる刃の軌跡は増えていく。
まるで雨音のような音の感覚で鳴り響く剣戟は、互いの攻撃の激しさをこれでもかと伝えてくる。
(まだ…押し切れない――!?)
だがそれは刀華にとっても諸刃の策だ。
“稲妻”と“疾風迅雷”の重ね掛け。バフにバフが乗る乗算方式の使用方法は非常に強力。
しかしその速度が生み出す反動が手首にのしかかってくるのだ。
長く使用すればするほどに刀華は刀を繊細に扱うことが困難になる。
それは蔵人を相手取るには
(まるで――悪い夢を見ているようですね…)
学園最強と冠され、事実前回の七星剣武祭でも優秀な結果を残している刀華は思う。
絶対的な自信をもつ
互いに無傷ではない。
だが軽くない傷を負ったのは最初に刀華が斬られた一撃だけだ。
いくら自身の速度を上げた所で、《
隙を作り出そうと切った手札で漸く同じライン。その事実が重くのしかかる。
(強い――あまりにも!)
スタミナ切れを待つ気は早々なかったが、その手を選んでいても上から策ごと叩き切られていただろう。
―――“
己の手首が悲鳴を上げ始める中、その行動を刀華自身思考していたのだろうか。
己の
すでに牽制にも成りはしないシンプルな技。だがコンマ一秒でも意識をずらせればよかった。
蔵人が剣の腹を使って雷を受け流すよりも早く、刀華は全身を脱力させることで地面へ向かって崩れ落ちるように身体を倒れ込ませた。
命の取り合いをしている中で力むことを放棄することは困難だ。
だがそれを刀華は躊躇いもなく選択した。
蔵人の視点でその光景を見れば、眼前の刀華が消えたように感じただろう。現に反射による行動がほんの僅かであるが遅れていた。
頭が地面へ落下する――直前で全身に力を巡らせて、刀華は蔵人の懐へと一気に飛び込んだ。
「させるかよッッ!」
「―――――ッ!!」
自分の速度さえあれば、納刀するのに一秒も必要なかった。
必要だったのはそれを行うための状況を作り出すこと。
『
攻撃を振ってきても、両腕さえ動けば放てる。
長いようで短い時間の中で、刀華は自らを投げうってついにその状況を作り出した。
「――《雷切》ッッ!!!」
音すらも追いつけない鋼の稲妻。
その衝撃から大気が吹き飛ばされる。
千里に轟く轟音と閃光が生み出され―――ー
「ッ―――…」
「…っぶねぇ」
そのうえで蔵人は両足で立っていた。
チッチッチッと鳴る音を聞きながら蔵人は刀華の攻撃を受けきっていた。
東堂刀華が『雷切』として名を轟かせてから一度も見たことがない光景。
彼女の代名詞たる《雷切》が受けられ、防がれたのだ。
放てば不敗。
目では捉えきれない程の速度から放たれる電磁抜刀。
だがその技は相手の防御ごと打ち破るものではない。
相手が反応をする前に、対象を斬り伏せる技だ。
刀身が彼女の電撃で光り輝くプラズマと化していたとしても、技の本質は防御をさせない攻撃速度にある。
であれば防げる。
『………』
実況だけではない。
観客達もその光景に言葉を失う。
これほどなのか。ここまでなのかと。
力を使い果たしたのか、刀華の身体が倒れ込む――
「終わりだ」
――――否。
蔵人の言葉と共に、刀華の右足が、勢いよく地面を踏みしめた。
表情は見えない。
だがその身に抱える想いは蔵人にも伝わった。
――――絶対に勝つ!
蔵人の耳は刀華が《雷切》を放つ前から聞こえていた音。
気にも留めていなかったその音が、一向に鳴りやんでいないことにここで気づく。
それが示すこと。
先に使用した“稲妻”、“疾風迅雷”も解かれていないのがその証拠。
「テメ…!」
追いつめられた蔵人が笑みを浮かべつつ冷や汗を垂らす。
しかし何をしようとも、今度こそ彼女を止められない。
『最強』の名を持つ《雷切》を防げばこちらの勝機は無い。
そう思い込ませればよかったのだ。
ベストタイミングで放っても、倉敷蔵人という男の執念が、《雷切》に対処してくる可能性。
本来ならば悪夢になるソレを刀華は信じた。
だからこそ放てる。
刀華と蔵人の距離は頭二つ程度の短い距離だ。
この間合いでなら間合いがつぶされた刀は不要。
事前に作っていた電磁界が、刀華と蔵人の間にトンネル状に形成され直されていた。
それが刀華を勝利へ導く道となる――!!
「《
トンネルに身を投じたその瞬間、刀華の肉体が破壊的な速度で加速する。
彼女にとっての最後の切り札。
それが自身の肉体そのものを弾丸として放つ
その瞬間溢れんばかりの光量と爆音が、会場内を包み込むのであった。
碧い猛獣のライバルはいる?
-
登場してほしい
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設定だけ。登場はいらない
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むしろ別のキャラ出して
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混ざりすぎるの嫌だから不要
-
ちくわ大明神