とある不死の発火能力   作:カレータルト

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あけましておめでとうございます



小萌トーク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰ると猛烈に煙草臭いから、私は来客があることと、それが誰なのかを理解した。

 

 黄泉川の持っている部屋は、一人暮らしにしてはやけに広い。

 4LDKなんて幾ら金を余らせていようと軽々しく持てる部屋じゃないと思う、広けりゃいいなんて欧米的な考えは日本じゃ通用しない。無駄な部屋を余らせる割にそこまで掃除をしなくちゃいけないから余計な労力がかかるし、黄泉川は昼間に教師で余った時間はスキルアウトの業務をしているので家事まで回す時間はないのだ。

 

 本人曰く「押し付けられた」らしいけれど詳しい事情を聴くのはあれだし、そんな訳で日中は暇で夜にはちょこちょこと屋台を出しては返ってくる風来坊の私には丁度良い環境だった。暇なときは掃除とかすればいいしね、黄泉川曰く「居候の仕事じゃん」らしいけど、良く考えなくても私が罪悪感を抱かないようにって口実なのが丸わかりだから頭が上がらない。

 

 つまりどういうことかといえば、その広いはずの家内がうっすらと煙らせる元凶がただの喫煙者でもない、相当なへヴィースモーカーであると言うこと。更に言ってしまえば黄泉川の知り合いにそんなやつが一人しか居ないと言うことで。

 

 

「やっほぉ、でも煙草臭いよ小萌先生」

「おー……やっほぅです、妹紅ちゃん」

 

 

 外見年齢と実年齢が釣り合わないランキングが合ったら間違いなく1位を掻っ攫えることは間違いない、幼女外見にして超々ヘビースモーカーの月詠小萌がリビングで煙草をふかしていることは、帰宅時からすでに予想できていることだった。

 

 

「換気ぐらいしたらどうなのさ、流石にあれだよ?」

「いやぁ、今換気したら周りから苦情が来るんじゃないかって」

「凄い今更だよね、言い訳にすらなってないよねそれ」

「本当は冷房の効いた部屋が恋しいからです……」

「それは分かるけれど容赦はしないよ」

 

 

 この幼女なに言っているんだとか思ってたら酒瓶が転がってた、それも結構な数。

 頬も紅いし完全に出来上がってる状態だった、私の家じゃないけれど人の家でどんだけ飲んでるんだこの教師。

 問答無用で窓を開ければ冷房が聞いていた部屋の空気が撹拌される、私にとっては温い程度だけど冷房に慣れきった軟弱な体では耐えられないらしい、気の抜けた声と共にぐてんと倒れ込んでしまった。

 

 

「暑いです」

「そんなに暑くないだろ?」

 

 

 とにかく、今は室内から煙草の匂いを追い出すのが一番だ。煙草を吸うならば外で吸って欲しいけれど、どうせ熱いから渋って室内で吸っていた結果だろう、生徒の前だと喫煙を我慢する分こういった大人の付き合いではなりふり構わなくなるのが小萌先生たる所以――だと思おう。

 

 あれ、そうすると私は大人扱いされているのだろうか。

 

 

「……妹紅ちゃんって、そう言うところ容赦ないですよね」

「しょうがないじゃん、煙たいし」

「あなたも喫煙者仲間なのですよ?」

「喫煙者だからこそさ、これ以上迫害されたくないからマナーはちゃんとしないと」

「むむ、諭されるとは自分で情けなくなってきたのです」

 

 

 酔っているせいか気の緩む場所に居るせいか、小萌の口調は普段のそれとは違ってゆるゆるだった、缶を開ければ一気に中身を呷る――ああ、もう完全にその仕草はおっさんだよ、外見が小学生レベルなのがまたどうしようもないよ。私もそれなりに少女然としているけれど、それよりも幼い容姿ってどうなんだろうね。

 

 

「っぷはぁ! どうです、妹紅ちゃんも一杯」

「私が未成年とか思って言ってないよね、まさか」

「やだなぁ、妹紅ちゃんが未成年な訳ないじゃないですかぁ」

 

 

 なにをばかなって、おどけた様な表情でのたまう彼女があんまりにも自信ありげなものだから。私は「未成年でないアピール」をしたっけと首を傾げた、喫煙以外にはしていなかった気がするし、それぐらいならば不良だったら未成年でもやっていることだ。

 

 

「不良ちゃん達に、そんな貫禄のある嗜み方は出来ませんし」

「つまりは、勘ってやつ?」

「喫煙者の勘であり、教師の勘であり、女の勘です」

「参ったな、完璧すぎて言葉が思いつかない」

 

 

 そろそろ空気も交換された事だし、冷房が勿体ないから窓を再び締め切った。

 じんわりと昇ってくる冷気に幼女先生の表情が緩むのが分かる……いや、よく見れば見れる程若々しい先生だ、何か秘術でも使ってるんじゃないかなこれは。

 

 えいっ、ぷにぷに

 

 

「……妹紅ちゃん?」

「おお、しずむしずむ」

「おーい、もこうちゃーん?」

「なんか癖になりそ「怒りますよ?」ごめんなさい」

 

 

 ちくしょう、こんな時だけ教師モードの声色を使うのは反則だ。

 しかしながら、私達がお酒を飲んで(結局私も諦めてビール缶を開ける事にした、幻想郷程ではないけれど夏のお酒は美味しい)いる最中、もう一人の先生かつ家主はどうしているのだろう。まるで我が家の如く好き勝手やっている我々だけど一人は同僚枠で一人は居候だ、下手したら叩きだされんばかりの行動をしているとは分かっていた。

 

 

「ところで黄泉川ってどこ行ったの?」

「お風呂入ってるんです」

「あ、そいなら私が次に入ろうかな」

「どうぞどうぞ、一番風呂は私が貰ったのです」

 

 

 やりたい放題だけど、小萌先生がどれだけ酔っていようとちゃんと後片付けと掃除をしてから家を後にする人だから大目に見られているのもあるのだろう、普段の行動は大事だと思う。私だって輝夜が急に擦り寄ってきたら二回は殺せる自信がある、本当に信頼というのは積み重ねるものだなぁってしみじみ思う。

 

 

「このお酒も全部私が買ってきたのです、黄泉川先生の分も用意してあるのですよ」

「……2ダースあるね」

「妹紅ちゃんも居るって聞いたから奮発したのです」

「小萌先生が運んだの?」

「いえいえ、黄泉川先生に手伝ってもらったのです」

 

 

 買い出しには黄泉川も付き合ったと言うから、どうにも私が女子会に参加するのは規定事項だったらしい。それなら遠慮する事も無いから適当に酒を飲みつつ辛口に味付られたするめをしゃぶる、酒を飲むときは蛋白質を取れと言う――まあ、蓬莱人である私がそんな事を気にしたところでどうにもならないけれど。

 

 まあ、夏らしくテーブルの上には冷奴が置いてあるからそれなりに気を使っているんじゃなかろうか。ここら辺は流石に場数の踏んだ酒飲みとあって手筈は上々らしい、刻み葱と胡麻だけ乗っているのが何とも憎らしい配慮じゃないか。

 

 ここまでされたんだったら無碍に断る訳にもいかない、室内が大分換気されたのを見て小萌先生の方をちらりと見る。彼女はさっきの一本を灰皿に押し付けたきりで、箱の方に指を動かすことすらしない。良いのかいと目で等私の方を見て、彼女は微笑みながら手を横に振るのだった。

 

 

「どうせ、話し相手が居なくて口寂しかっただけですから。」

 

 

 そっと膝を抱えてこちらに首を傾げつつ微笑むその姿は、その容姿の儚さと合わせて不思議な色気を放っていた。大人である事と子供である事、その二つを載せた両天秤はどちらに傾くでもなく、ただ曖昧な境界の中でゆらゆらと揺れている。

 

 

「……どうしました?」

「ん、ぁ……いや、なんでもないよ」

 

 

 分かっていた事だ、子供の容姿に大人の精神を投影したような私達の違い。

 

 彼女は、大人であって子供でもある。

 確かに外見は子供で、身体的な特徴も大人とは程遠い。けれども彼女の内面は成熟している、包容力に溢れ、理解力に富む。だからこそ彼女は問題児だらけのクラスだとしても、その外見で舐められる事も無く信頼に値される人物として評価されているのだろう。

 自分が大人である事を理解しているのだ、そして大人とはなんたるかもまた理解しているのだ。それでいて彼女は子供でもある、子供の部分を意図的に残す事が出来ている。

 

 対して私は、大人でもなく子供でもない。

 存在自体が中途半端で曖昧になってしまった私は、その精神状態を一つに確定する事が出来なくなってしまったのだろう。大人のような確固とした自己や他者を受け入れられる器を持つわけでもなく、子供のような全てを吸収する柔軟さや傷つきやすさを持つわけでもない。かといって青年のような青々しく力強さに富む若木でもない、それを指すなら私は枯れ木だ、若くなろうと見せかけるには無理矢理外道の力を借りるしかない。

 

 

「若いねぇ、うんうん。」

「よく言われるんですよ!」

「そうさね、小萌先生は若いねぇ。」

 

 

 ぐいぐいと、アルミ缶からビールを直呑みすれば、心地の良い痺れのような苦味が喉を通過する。痺れるような熱が胃に流れ込み、ぼんやりとだけど視界が霞んだ、蓬莱人が酔っぱらえることなんて無いけれど――酔っぱらうのは生理的な反応じゃない、気分だ。

 

 

「妹紅ちゃんも、十分若いんですよ」

「あはは、私の場合はそもそも外見相応に見られるから」

 

 

 小萌先生に対しては、別に羨んでいる訳でもなければ見当違いな憎しみを向けている訳でもない。蓬莱の薬を服用している私と違って本物の真人間なのにその外見を維持しているのは不思議極まりないけれど、そう言えばステイルも不思議がってたなぁ……あいつは小萌先生とは真逆だけど、あれで15歳って私は信じられないよ。

 

 

「そう言えば、今まで正確に聞いた事はないけれど妹紅ちゃんって何歳なんです?」

「21歳」

 

 

 小萌先生の唐突な質問には即答で答えた、もう反射的に。学園都市に居る間の私は21歳ということにしているのだ、たとえ外見的にどう見ても10代だと言われようと私は21歳なのだ。

 それと言うのもちゃんとした理由があって、お酒を提供するお店を経営している以上私の年齢は成人していることのが望ましいのだ――と、ジャッジメントに捕まりかけてから私は学んだ。

 

 

「えぇ~……嘘です?」

「ほんとだってば、信じてよ」

「どうせ煙草を吸ってたら職務質問を受けたタチですよ、絶対」

「ギクゥッ」

「あ、図星です」

 

 

 なんで鋭いんだこの子供先生は、子供じゃないけれど。

 そもそも、煙草も酒も成人してからなんて私が知る訳ないじゃないか

 

 幻想郷じゃ「お酒は二十歳から」なんてフレーズは一言も聞いた事が無いし、私が外界に居た時のおぼろげな記憶をたどってもそんな法律は聞いた事もないものだからジェネレーションギャップと言うか、文字通り住んでる世界の違いに驚いたものだった。

 

 まあ、考えてみれば当然の話なんだけどさ。

 今の外界は昔と違って健康に関する詳細な研究もされているし、害があるときたら規制されるのは当たり前なんだろう。法律だって整備されて国中に施行されている、昔なんて法律以前に国がばらけていた時代だから法律なんてものもなかったし。

 

 私が生まれ育った時代の、野に草木生い茂る未整備だった日本も

 私が力をつけていた時代の、まだ魑魅魍魎が跋扈していた日本も

 私が無気力に過ごしていた、どこかで戦の匂いがしていた日本も

 今は最早その影も形も存在せず、ここはどこぞの異国か異世界か。

 

 学園都市、ひいては今の外界ときたらもうとんでもないぐらいに整備されている。法律も国土も、人の意識もなにもかも統一されきっていた、学園都市だけじゃなくて……この世界全部がそうなんだと、テレビで知った時は軽くない衝撃を受けた。

 

 それに比べりゃ幻想郷なんて酷いも酷い。

 大多数が「健康的被害? 法律? なんのことかしら、私が正義で私が法律なのよ」って考えのなんて奴が多すぎるし、時代が無法地帯のあの頃のまま止まってるからスペルカード以外の規則が成り立っていること自体が奇跡みたいなもんよ。

 

 ただ、それは『その状態でも社会に支障が無い』ことを意味している訳で。

 

 無法状態でも危険地帯でも、平和に見えてその水面下で熾烈な派閥争いや権力闘争が繰り広げられる伏魔殿であっても、崩壊せず成り立っているということ。それはつまり、よっぽど社会の地盤が固いのか、それともそういった要素を内包していることすら計算の内に入っているのか。

 

 要するにあれだ、紫は凄いと思う。

 胡散臭いけど、やることはやるから随分立派な管理者だと思う。

 

 

「あれ、そう言えば小萌先生も捕まったことあるの?」

「妹紅ちゃんと同じ様に反省したクチです、二度と路上では吸いません」

「お互い大変だね……まあ、私はそこまで重度じゃないけど」

「放っておくと一箱吸ってるような人は大分ヘビーですよ?」

 

 

 煙草を吸うとニコチンが脳に届いてドーパミンって快感物質が出るらしい、これが煙草の心地よさと依存症の原因だとか。そこら辺も全部変化すると元に戻ってしまう体質だから煙草の依存症が起こる確率は0%だ、有害物質も利かないから煙草を吸うデメリットはない。

 蓬莱人って素晴らしいね、まあ蓬莱の薬自体が百害あって一利なしだからイーブンだけど。

 

 

「黄泉川、遅いねぇ」

「あんまり遅いとお酒全部飲んじゃうですよ」

「お風呂長い方だから勘弁してあげなよ」

 

 

 黄泉川は、最近帰りが遅くなった。

 まあ、私もこの家に居候する事になってそれ程日にちを置いてはない。だから黄泉川が普段どれぐらいに帰ってくるのかだなんて正確には分からないけれど、彼女自身が「最近帰れないじゃん」ってぼやくからそうなんだろう。

 あんまり家主を疲れさせておくのは居候の身分としちゃなんだから、料理したりお風呂沸かしたりして待っていることにしている。すると帰宅していた黄泉川がこちらをじっと見て「案外いいお嫁さんになれそうじゃん」とか言う、それは私にとっては怒る程ではないけれど大層微妙な表情をする理由にはなっていた。

 

 まあ、それは良いとして。

 これ以上蒸し返すと困るから、置いておくとして。

 

 

「スキルアウトが最近活発化してきてるって、本当?」

「ん、そうですよ! 最近どうにもスキルアウトが活発化してきてると職員会議にもなったのです、なんでも裏で能力者が関係しているとか摩訶不思議なソフトが流通しているとかドラッグだとか。うぅ、うちのクラスにもそういったのに絡まれやすい子がいるから心配です……」

「たとえば、上条の坊主とか?」

「そうですそれそれ!」

 

 

 確かに上条は不幸を通り越して厄介事に巻き込まれる印象があるけれど、インデックスの件にしても姫神の件にしても。最終的に首を突っ込んだのは本人だけど、その原因は坊主の前に顔を突っ込んできたのだから、何かしらの因果を感じずにはいられない。

 

 

「大丈夫だろうよ、あの坊主はなんだかんだ喧嘩が強いし」

「それは良いんですけどね? やっぱり教え子が怪我をすると……」

 

 

 不安気な顔をする小萌先生を見るとなんでだろうね、頭を撫でたくなるというか抱きしめたくなるというか。失礼を承知で黙って抱き寄せながら頭を撫でると、骨格からして幼いから不思議だ。永琳らへんに見せたらその原因が分かるんだろうけど、ひょっとするとあの薬師をして首を捻るかもしれない。

 

 

「……なにするんですか、妹紅ちゃん」

「頭撫でてるの」

「それぐらい知ってますって」

「まーまー、確かに怪我をするのが心配なのはわかるよ?」

「むぅぅ、妹紅ちゃんはまるで先生をやっていた事があるみたいな口調で話すんです」

 

 

 まあ、当らずとも遠からずである。私は慧音の手伝いで教師の真似事をした経験があったのだから、それも一年ちょっとでなく十年単位でだから外界で言うそれなりのベテラン教員に値する経験を持っているのかもしれない。

 

 しかし、こういったものは量より質である。半ば放任主義で本当に上白沢慧音という立派な教師の背中に任せてついていっただけの自分がどれだけ年月を熟そうと、真面目に教員をやってきた者の一年に値する経験値を得られたかは怪しい。

 ただし、かといって質さえ高ければ量を疎かにしていいのかと言われればそれもまた否なのだが。一夕一朝で付かない熟練さというものもあるのだ、着任したばかりの若僧が最初から生徒の気持ちを汲み切れる訳がない。

 

 ――やってみるということに意味があるし、続けてみるということに意味があるのだ。

 

 蓬莱人に何を言っているんだと言えば、蓬莱人だからこそ忘れてはないかと返してくる。私の友人である上白沢慧音はそんな性格をしていたしひょっとして私はこの先生に彼女の面影を感じていたのかもしれない。

 

 無駄に責任感が合って、親身になってなんて生徒に向き合う反面で無理をすることが多い当たりが慧音に似ている気がする。子供のことを考えすぎているというか、過保護ではなく心配性と言うか。

 確かに幻想郷の子供なんて無駄に逞しいのが多いから、慧音が常日頃から妖怪に喧嘩を売ったりしないかハラハラしていたのは心配性と一概に言えなかったし。聞く分には小萌先生のクラスだって同じぐらい問題児が多いらしいから、そうなるのも分かる。

 

 

「ただまあ、先生が心配してもしなくても変わらないのさ。結局子供なんて大人の制止を聞かないし、怪我をする時はするんだからさ。心配するな、なんて言わないし……それは教師として立派だと思うけどさ。」

 

 

 膝の上に乗せた小萌先生は、やけに神妙な雰囲気を醸し出しながらで撫でられていた。外見幼女でも中身は大人……だとしたって、私にとっちゃまだまだガキンチョみたいなものだから、正直寺小屋の生徒と同じ位に扱ってしまうのも仕方ないだろう。本人が拒否しない限りはこうしておくことにした、それにしてもやけに柔らかい。

 

 

「……はぁ、時々妹紅ちゃんは私より大人に見えるから困るんですよ」

「本当に年上かもしれないじゃないか」

「それはそれで困ったことになります」

「どしてさ、別に大した問題でもないと思うけど」

「だって、そしたら妹紅ちゃんって呼べなくなるじゃないですか。少なくとも妹紅さん、いやさ年齢差によっては藤原さんだったりするんですよ?」

「やめておくれよ。今まで通り妹紅ちゃんで良いし、その呼び方は案外気に入ってるんだから」

「……本当です?」

「天地神明と鳳凰様に誓って本当よ」

 

 

 だってほら、私のことをちゃん付けで呼ぶ奴なんて居なかったし。実のところ、私は年下扱いされるのが色々と稀だったから地味に嬉しかったりするのだ。外見的に甘やかされてもいいんじゃないかなとは思うけれど、気付いたら動く災害呼ばわりされていたからそもそも人間に見られていなかった気がする。幻想郷に来てからは大体年上扱いだから、最後に甘やかされる身分だったのは確かまだ家を出る前だったし。

 

 慧音だって私に忠告はするけれど年下には見なかった、輝夜や永琳にとって私は年下なんだろうけれど殺し合う仲だし。それはそれで好敵手が出来たから嬉しいし、正直輝夜が私の頭を撫でて来たらその瞬間首を三回は跳ね飛ばすぐらいできそうな気がする。

 

 でもなんというかな、妹でも出来た気がする。さっきまで甘やかされるのがうんたらと言ってはいたけれど、あまり甘やかされ過ぎるのにもなれていないからこちらの方が落ち着くのだ。寺小屋の子供は慧音にだっこしてもらいたがってたからこれもまた新鮮な経験、煙草の匂いがプンプンするのは難点だけど。

 

 ああ、いいなぁこれ

 いいなぁこれ!

 

 

「妹紅ちゃんって胸が無いので妬ましくないです」

「それと言うなら小萌先生だってないよ?」

「いいのです、私は胸の大きさよりも生徒との距離を近づけることを選んだんです!」

「大丈夫だって、先生はほら……大きくならない方がいいって言うのも居るだろうし」

「そういった一部の特殊性癖を持ってる人に好かれてもしょうがないのです!」

 

 

 小萌先生はいいじゃないか、そもそも私には私は成長する余地が無いんだから。1%でも成長する可能性があるのと、その可能性が0%であることの間には大きな壁があるのだ。決して越えがたい壁、諦念と共に湧き上がる恨み――。

 

 

「おっす、風呂あがったじゃん……ってどしたの、そんな抱き合って」

 

 

 そう、例えば「酔っぱらうのはえーじゃん?」とか笑いながらYシャツ1枚でビール缶を開けるこの黄泉川とかに対する恨みだ。具体的にはその豊かな胸部に対する恨みだ、小萌先生が凝視しているのは分かる、私も居候と家主ということを差し引いても許し難いものがある。

 

 

「黄泉川先生のそれは何の為にあるんです?」

「揉ませるためにあるのさ」

「やだぁ、スケベ」

「一体藪から棒に何を言ってるのかさっぱりわかんねーじゃん……」

 

 

 呆れ顔の黄泉川はさておいて、本日何杯目かよく分からなくなった缶ビールを開ける。

 蓬莱人でもほんのわずかな間だけは酔えること、その須臾の時に感謝をしながらも私は自分より遥か年下の大人たちの会話に耳を澄ませて微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




投稿してから早三年目になりました
ちょっと遅すぎるんちゃう?

以下、個人的な駄文






個人的に幻想郷の雰囲気は「長閑な農村だけど、散発的に戦争が発生する」ぐらいのだと思っています。各勢力の仲が悪いとは言わないけれど、退屈を恐れ刺激を求める妖怪達が『みんななかよく』なんてやるわけないじゃないか! なんて。そもそも紅魔館を筆頭にしてキナ臭い勢力が多い訳なので幻想郷は必ずしも平和ではないと思うんです。特に人里、あそこら辺の不穏さと言うか水面下で何かが発生している感がやばいです。

ただ、どこぞのフラワーマスターの様に「闘争こそ我が全て」みたいな思考でもなく、皆が日常の中でなんだかんだ暮らしていて。それに飽きたらちょっくら戦争でもするかみたいな感じだったり。それが当たり前のように受け入れられて、異変として解決した後はきっちり水に流せるような雰囲気だと良いなぁと個人的には思っております。
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