恩知らずのトゥッティ・フルッティ   作:まみゅう

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本編の続きで暗チサイド。
暗チのリーダーがちょこっと出るのでアニメ派の方はご注意ください。


番外編:止まらぬフラテッロ

 

 イタリアの朝は、一杯のエスプレッソで始まる。それもたっぷりの砂糖を入れ、ビスケットやコルネットと共に頂くのがイタリアの伝統的な朝食だ。ビスケットにジャムやチョコレートを塗ることはあっても、肉や卵などの塩気のある料理は邪道。

 ひたすら血糖値をあげることに特化したとしか思えないそのメニューは、イタリアーノである以上プロシュートにとっても定番だった。甘い物は特に好きではなかったが、不思議なもので朝はこれでないと始まらない。こういうものを習慣というのだろう。

 

 昨夜は仕事が終わるのが遅く、その流れで朝はゆっくりと過ごすことにした。しかし朝食を済ませ、煙草をふかし、全ての身支度を済ましてもまだ、昼時までは二時間以上も余裕がある。暗殺チームに出勤時間など特に決まっていないが、これ以上は“ゆっくり”ではなく“ダラダラ”だ。どのみち昨日の仕事の報告書を出しに行かなくてはならないのだから、やるべきことはさっさと済ませるに限る。

 そう思い、アジトに向かったプロシュートだったのだが、生憎そこには誰の姿もなかった。

 

「……他の奴らも仕事だったのか?」

 

 <パッショーネ>の暗殺チームは、現在七名で構成されている。担当の地区というものは存在せず、ボスからの指令と報酬のみで働く彼らの仕事は、言ってしまえば酷く不定期なものだ。それでも一応チームとしての意識が高いのか、単に行くところがないだけなのか、アジトに来れば数名は屯っているのが常だった。

 

 プロシュートは仕方なく横長のソファにどっかりと腰を下ろし、手近にあったペーパーバックに手を伸ばす。ファッション誌なんかを読む洒落者がうちにもいたのか、と驚いたのは一瞬のことで、すぐにこれはメローネの忘れ物だな、とローテーブルの上に放り投げた。女向けの内容もさることながら、中のモデルに“ディ・モールトベネ!”、“いい母親になりそうだッ”とのコメントがわざわざ書き込まれていたからである。

 

 だが、すっかり気分の悪くなってしまったプロシュートは、そこでふと、このペーパーバックをメローネが持ってきた経緯を思い出す。

 二日前、あと少しのところで取り逃がしたボスの“娘”――トリッシュという名前と、十五歳という年齢しかわからないその少女――を拉致した後で、彼女が退屈しないようにとメローネが先走って気を利かせたのだ。まぁ結局のところ“(トリッシュ)”が保護されているという屋敷に着いた頃にはもぬけの殻であり、すっかりボスに一杯食わされた形になったのだが、もしかするとまた誰かが“娘”の行方を掴んだのかもしれない。それならばこの妙に閑散としたアジトにも納得がいく。

 もちろん、裏切りのカムフラージュのため、昨夜はきちんと暗殺の仕事に出かけたプロシュートとペッシにも一言くらい言ってから行くべきだとは思うが。

 

 ――まずはペッシの野郎だな……。あいつ、一体いつまで寝てやがんだ

 

 既に苛立ち始めていたプロシュートは、自分と同じように置いて行かれたかもしれない弟分に意識を向ける。昨日一緒に仕事をしていたのだし、おそらくペッシも何も知らされていないだろう。ここでプロシュートまで何も言わずに出てしまったら、アジトで一人、途方に暮れるペッシの姿が容易に想像できる。まったくもって世話の焼ける話だ。

 

 だが、電話の一本でも入れて怒鳴りつけてやるか、と立ち上がったところで、不意に「プロシュート、」と背後から自分を呼ぶ声が聞こえた。もちろんペッシではない。

 暗殺者としてはあるまじき不覚だと今度は自分に腹を立てつつ、振り返って相手を見たプロシュートは小さく息を吐いた。

 

「……リゾット、いたのかよ」

 

 暗殺チームのリーダーであるリゾットは、すっかり感情を排した面持ちで、静かにリビングの入り口にたたずんでいた。「あぁ」彼はプロシュートのひそやかな動揺と安堵には一切関心を示さず、淡々と口を開く。その黒目がちの特徴的な瞳は、瞬きを知ることがないようだった。

 

「それより聞いたか?」

「聞いてねェ。“(トリッシュ)”が見つかったのか?」

 

 リゾットがアジトにいるということは、まだそこまで事を急ぐ状況ではないのだろう。そもそも小娘一人攫うのに、暗殺チームが全員で出張る必要性は感じられない。チームを組んでいるだけあってそれぞれ得意不得意の分野が異なるのだし、“待つ”というのも暗殺者にとって大事な心構えである。そして短気なメンバーが多い中、リゾットはリーダーに相応しい落ち着きのある男だった。口数は少ないものの機を見る確かさには舌を巻くものがあるし、声を荒げて激昂したり取り乱したりするところを見たことがない。

 そのいつも冷静な男が、今日ばかりは珍しく早い口調で言った。

 

「いや、その話ではない。ポルポのことだ」

「あぁ? ポルポォ? あのデブがどうかしたかよ?」

「死んだそうだ」

「……は?」

 

 ――ネアポリス刑務所で

 本日、午前九時二十五分 ポルポが死亡。

 死因は脳梗塞による心肺停止。

 

 アジトにある彼の部屋のPCには、そんな無機質な文字が浮かび上がっていた。時刻はつい一時間ほど前の話。

 

「オイオイオイ、ペッシェ・ドゥ・アプリーレはとっくに過ぎてるぜ……?」

 

 ポルポの体型を知るプロシュートは、死因を見ていかにもありそうだ、と思った。しかしありそうだからこそ逆に信じられない。暗殺を警戒し、身を守るためにわざわざ刑務所なんかに引きこもっていた男が――病死。あまりにも呆気なく、馬鹿馬鹿しい話であった。いっそポルポが幹部などではなかったら、こいつは傑作だと笑っていたかもしれない。

 

「ポルポが死んだら、もうスタンド使いは生まれねェ……おまけに空いた幹部の座に収まりたい奴がぞろぞろ出てくるぜ」

「荒れるだろうな」

「“(トリッシュ)”の護衛はどうなる? てっきりスタンド絡みの案件はコイツのところに回るとばかり思っていたが……」

 

 さすがに刑務所から出られないポルポ自身が護衛するとは思ってはいなかったが、確実に手掛かりになるとは考えていた。だがこんな形の突然死では、ポルポが誰かに任務を回す余裕があったかどうかも怪しい。今や宙ぶらりんとなったはずの任務の行先は、少なくとも幹部クラスでなければ務まらないだろう。一体誰が……。

 プロシュートがそうやって考え込んだところで、思考を遮るように「葬儀は、」と言葉が続けられる。リゾットがPCを操作すると、二件目のメッセージが画面に表示された。

 

「昼からだそうだ。もうスーツを着込んでいるとは流石だな、プロシュート」

「……あんたのジョークはジョークかどうかわかりにくいぜ。情報収集ってことでいいんだな?」

「あぁ」

「他の奴らは?」

「連絡が取れない者もいるが……大半は葬式なんて面倒だから嫌だとアジトを出て行った」

「はァァ~? あいつらッ……」

 

 それで誰もいなかったのか。確かに畏まった場所は苦手、というかお断りされそうな奴らばかりだが、大の大人が揃いも揃ってガキみたいな理由でフケるというのはいかがなものか。

 プロシュートが怒りのために眉間に皺を寄せると、それを拒絶と取ったのか、リゾットがやや申し訳なさそうに声を潜める。

 

「……お前も嫌か? 一応、チームとしてオレが出れば十分だとは思うが」

「いや、そもそもこういうモンはマナーだからな。ペッシも叩き起こして連れて行くぜ」

「そうか。助かる」

「あぁ」

 

 頷いたプロシュートは、まずはペッシを起こすところからだと勢いよくリゾットの私室を出て、そこではて、と首をひねった。

 助かる……? 助かるとはどういう意味だろうか。確かにポルポの葬式に進んで出たがる者はいないだろうが、リゾットは任務に追加メンバーを入れる時でも“助かる”なんて言い方はしない。あんな何も感じていないような顔をして、実は余程困っていたのだろうか。イタリアの葬式なんて長くても一時間で、大して苦も無く終わるというのに……。

 

「ハッ、まさか気が進まないのは情報収集のほうだったりしてな……」

 

 参列者に声をかけ、故人を偲ぶところから巧みな誘導でめぼしい情報を聞きだすリゾットの姿――。

 確かにそれはプロシュートがどう頑張ってひねり出そうとしても、まったく想像することのできない光景だった。

 

 

▼△

 

 

 人口の九割近くがカトリックを信仰するここイタリアでは、葬式は普通、教会にて執り行われる。生前のポルポがどの程度の信者だったのかは知らないが、システィーナ礼拝堂の壁画を見に行きたがっていたという話があるくらいだから、あんなどうしようもない悪党でも神なんてものの存在は信じていたらしい。

 

 しかし、そんな神の信徒たるポルポの葬式は、ネアポリス刑務所の彼の牢獄にて執り行われる。彼に平穏と悦楽を与えた牢獄はそのまま贅を凝らした棺となり、おあつらえ向きに開いた受け渡し口からは次々と献花が手向けられた。底冷えのする廊下も今日ばかりはキャンドルの灯りに満ち、CDでも流しているのか、荘厳なパイプオルガンの音色が延々と流れている。

 

 こんな妙な葬式は初めてだ。

 式に訪れた誰もがそう思っただろうし、実際プロシュートは苦り切っていた。せっかくペッシにマナーを教え込むいい機会なのに、これでは駄目だ。なんの練習にもならない。まだまだスーツに()()()()()()状態の弟分は、先ほどから落ち着きなく視線を彷徨わせていた。

 

「か、幹部の葬式っていうからもっと派手だと思ってたけど、案外そうでもないんだね」

「いいかペッシ、これは()()だ。普通はこんなとこで葬式なんてやるもんじゃあねぇ。これが普通だとは思うなよ」

 

 そもそもの話、刑務所では牢内に人を収容することはあっても、その外に多くの人間がつめかけることを想定されていない。必然、献花は数名ずつの流れ作業と化し、ほぼ花で埋め尽くされたポルポの遺体に冥福を祈った参列者はそのまま刑務所の外へ出ていくしかなかった。もちろん足を止める者もいないわけではないが、そのせいでポルポの眠る棺の前は混雑した日の水族館(アクアリオ)を彷彿とさせる有様である。

 

「どうする、リゾット? とりあえず、喪主の女はずっとあそこに突っ立ってるようだが……喪主をやるからにはそれなりにポルポと関係があるんだろ」

「あぁ、おそらく彼女はポルポの“娘”だ」

「えッ! ポルポって“娘”がいたんですかいッ!? ぜ、全然似てねぇ……ッ」

 

 ペッシが素っ頓狂な声をあげるものだから、つられて女を二度見してしまったが、どう考えても血縁の娘とは思えない。ああして表立って出てくるような女が幹部の血縁ならもっと有名だったろうし、せいぜいポルポの“お気に入り”を言い換えただけの言葉だろう。確かにポルポはなかなか趣味が良かったらしく、地味な喪服を着ていてもなお、凛とした女の佇まいは目を惹くものがあった。

 

「いや、そういう意味ではなく、彼女はポルポの――」

「アァ~いいよなァ~ッ!!」

 

 だが、リゾットがペッシの誤解を解くよりも先に、狭い会場の中に男の嘲るような声が響き渡った。見れば数人の男達が、ポルポの“娘”を囲うようにして立ちはだかる。彼らはみな一様にスーツを着用していたが、プロシュートからすればそのどれもが無粋で見苦しく思われた。

 

「よォ~、ベル。これでようやくてめぇの人生の始まりって感じだなァ? ああ?」

「長いこと()()()ご苦労さん。いやぁ、昔はただの小綺麗なガキだったが、仕込めばいい女になるもんだなァ? おっかない親父の目もねぇことだし、ぜひお相手願いてぇところだが……案外お前ももう、ポルポサイズじゃねぇとイケねぇ身体になっちまってたりしてな?」

 

 男の揶揄にガハハッ、と品性の欠片もない笑い声が続き、それだけでなく周囲も嘲笑にざわめく。嫌な空気だ。視界の端でペッシがはらはらとした表情を隠しもしない。

 だがベルと呼ばれた当の女は、怒りや羞恥に頬を染めることもなく、ただ黙って男達を見つめていた。トークハットのレース越しにうかがえる表情は人形のように色味を欠いていて、そのくせ瞳だけは気のきつそうな光を宿している。「……ケッ、可愛げのねぇ女だぜッ」思わず、嘲笑した男のほうが気圧されてしまうのも理解できるくらいに。

 

「だ、だがよォ~~そんな女でも親父(パードレ)にとっては可愛い可愛い存在なワケだ。何しろ、4億もの金をこっそり貯めておいてやるんだからなァ?」

「なぁ、おめー、知ってんだろ? ポルポの金がどこにあるか。これから先、何の後ろ盾もナシにやっていけるとは思ってねぇよなァ? あぁ? なんならおめーごと貰ってやっても構わねぇぜ?」

「……」

「オイッ、てめぇ無視してんじゃあねぇぞッ! こっちが下手に出てりゃあ調子乗りやがってッ!」

 

 沸点の低い男たちはベルの態度に我慢できなくなったのか、とうとう嘲りを怒りに変えてがなり立てた。耳障りな声が狭い廊下に反響し、不快以外の何物でもない。

 男の一人が彼女の胸倉をつかんだ時、「チッ」一気に距離を詰めたプロシュートは、強烈な蹴りを男のわき腹に叩きこんでいた。

 

「っぐはッ……!」

「な、なんだ、てめぇッ!」

 

 サッカーボールのように容易くぶっ飛んだ男は、廊下の壁に強かに身を打ち付け、崩れ落ちる。突然現れたプロシュートに対して誰何する男たちの声が上がったが、それはほとんど悲鳴と変わりなかった。

 

「おめーらよォ~葬式ぐらい大人しくしてろって、てめぇのマンマに教わんなかったのか? ああん?」

「ヒッ!」

 

 その証拠に、プロシュートが凄めば男たちは尻尾を巻いて逃げ出した。後ろで聞こえる“流石兄貴だッ!”というペッシの賞賛を受け、悠々とベルの方へ向き直る。

 彼女は最初驚いたように目を瞠っていたが、すぐに気を取り直して礼を言った。

 

「ありがとう。あの手の男って、時と場所を弁えないから本当に迷惑で……」

「そうだな。まずは、

 Le porgo sentite condoglianze(お悔やみ申し上げます)

「ええ、本当に……お気遣いありがとう」

 

 ベルはそこで少しだけ微笑んだ。そうやって笑うと、まだあどけなさが残っているのがよくわかる。

 彼女はちらり、とポルポの棺の方へと視線をやると、それから恥じ入ったように目を伏せた。

 

「でも確かにこんな葬式じゃあ、参列者に“まとも”を期待するのも図々しいかもしれないわね」

「……普通じゃねぇのは認めるが、それもこれもポルポの身体のせいだろう? あんたが引け目を感じることはねぇよ」

「まぁそうなんだけど、正直土葬にするか火葬にするかも問題で……外へ運ぶにもきっと壁を壊さなきゃあならないんじゃあないかしら」

「だろうな」

 

 むしろ、収監したときは一体どのようにしたのだろう。巷に流れる噂としては、ポルポが昔はここまで太っていなかった説と、ポルポの周りに刑務所を建設した説の二通りがある。こうして堂々とマフィアが出入りする葬式まで行えてしまうのだから、金さえ積めば壁を壊すことくらい可能だろうと思われた。もっとも、ホルマジオのような能力者がいれば事は簡単に解決する話であるのだが、今この場でそんなことを言うわけにもいかない。

 そしてそんなことよりも、プロシュートはこの女から情報を聞き出さねばならなかった。無粋な男たちのおかげで得た、思わぬきっかけを利用しない手はない。

 

「あんたも色々と後のことが大変だな。急なことだから、ポルポの仕事のほうでも不都合があるだろう」

「あら、私がただの“愛人”じゃあなかったって言ってくれるの?」

「男女の仲にあったかどうかなんて、面を見りゃあわかる。あんたのそれは、“男”を亡くした“女”の顔じゃあねぇな」

「だったらそうね、“父親”を亡くした“娘”かしら」

「いや……それも違うな。オレにはあんたが“上司”を失った“部下”に見える」

 

 感じたままにそう言うと、ベルは思わずといったようにぷっ、と吹きだした。「そのまんまじゃない」確かにその通りだ。我ながら何の捻りもない表現には苦笑せざるを得ないが、同時に確信もする。この女は確かにポルポの“お気に入り”ではあっただろうが、評価されていたのは容姿ではなくその能力だ。おそらく腹心と言ってもいい位置にいただろう。ポルポが仕事面で目をかけているのはブチャラティだというのがもっぱらの噂だったが、なかなかどうしてこの女も侮れない。

 

「ポルポには多くの部下がいたわ。なんてったって幹部だもの。……もしかしてあなたも次の幹部に立候補したい人?」

「生憎、幹部なんてモンには興味がねぇな。手のかかる部下はこれ以上要らねぇ」

「そう」

「ただ“組織”の人間として誰が次の幹部になるかは興味がある。ブチャラティって奴はどうした? まさかあんたが一人で葬式を取り仕切ってるわけじゃあねぇだろ?」

 

 プロシュートはブチャラティの顔を知っているわけではなかったが、先ほどから喪主として挨拶を受けているのはベルばかりだった。そうでなくてもブチャラティがこの場にいれば、遺産目当ての男たちが真っ先に絡みに行っているだろう。

 そしてどうやらこの質問もさんざん聞かれた後だったらしく、ブチャラティの名を出すと、ベルはまたかという顔をした。けれども先ほど彼女を助けたことが幸いしたのか、ため息を零しただけで拒絶する雰囲気は感じられなかった。

 

「さっきの見てたでしょう。彼がここに来れば、あるかどうかもわからないポルポの遺産のことで煩わされるだけだわ。皆、なんだかんだ私に絡んでも、本命はブチャラティだと思ってるのよ。ただの“愛人”に金を残すほどポルポは耄碌しちゃいないってね」

「だからってこの状況をあんた一人に押し付けるのか? 実際にあんただって絡まれて危険な目に遭ってるのに? ……なんだ、ブチャラティってのは男の風上にも置けねぇ野郎だな」

「それは違うッ」

 

 思ったよりも強い否定が返ってきて、プロシュートは片眉を上げた。身長差のせいで下から見上げる形になるにも関わらず、ベルの態度には一歩も退いたところがない。それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とはっきり示していた。彼女の顔には自分が矢面に立たされるとわかっていても、ブチャラティの為に些事は全て引き受ける、という覚悟が滲んでいる。

 

「彼には彼のやるべきことがある、それだけよ」

「……そうか。あんたにそこまで言わせるとは大した男なんだろうな。ブチャラティか……覚えておくぜ」

 

 長話をして悪かった。

 そう言ってプロシュートはリゾット達のところへ戻る。収穫は? と問われれば難しいところだが、プロシュートの()は確かに手ごたえを感じていた。

 まるで足止めをするかのように、急ごしらえで行われた葬式。余程キレた奴でなければ、まずは様子見で式に来るのが普通だろう。そして他にやるべきことがあるとして、不在のブチャラティ。もしかするとそれは単にポルポの遺産を回収しに行くためだけのもので、“(トリッシュ)”の件とは無関係なのかもしれない。

 

 しかし向かい合ったベルの顔つきは、確かな決意と覚悟を抱いている者のそれだった。そういう奴が“組織”の下で燻るわけもないし、そのベルに推されているブチャラティという男の方も同じだろう。ブチャラティは遺産を手に入れ、その金で何をする? まさかこの期に及んで遊んで暮らそうなんて考えの男であるはずがない。

 ブチャラティは金を組織に上納し、幹部になる。ベルもそうだろうが、ポルポの“お気に入り”がスタンド使いでないわけがない。

 

 ――新しい、誰にも知られていない幹部のスタンド使い……オイオイ、“(トリッシュ)”の護衛にはピッタリじゃあねぇか

 

「あ、兄貴、どうでしたッ? あの女、ポルポの残した仕事についてなんか言ってましたッ!?」

「バッカ、声がでけぇんだよッ……オイ、リゾット。ブチャラティを探すぞ、あいつがおそらく次の幹部だ」

 

 ペッシの駆け寄らんばかりの勢いを片手で制したプロシュートは、目線だけで首尾を聞いてきたリゾットに向かってざっくりと結論だけ述べる。彼はそれだけで話が読めたらしく、なるほど、と小さく漏らした。

 

「新しい幹部か。ブチャラティはチームを組んでいるらしいし、スタンド使いが揃っているなら適任だろうな」

「あぁ、そういうことだ。だが、せっかくポルポが病死して幹部になれたってのに、奴も災難だな」

 

 もしも“(トリッシュ)”が見つかっていなかったら。

 ブチャラティにとってポルポの突然死は、ただ幹部になるための切符だったろう。“組織”では金と権力を振るうロクでもない幹部ばかりが目立つが、ああして慕ってくれる人間がいる男なら、幹部になってもそれなりに見込みはあったかもしれない。

 そう考えると、なんだかブチャラティという男に会えるのが楽しみになってきていた。奴が護衛任務に就いたのなら殺し合いは免れないし、プロシュートは自分の目的の邪魔になる者は誰であろうと容赦しないが、それでもきっと、ブチャラティは自分が戦うに相応しい相手であるような気がする。

 プロシュートがそんな風にまだ見ぬ敵へと思いを馳せつつ刑務所の門をくぐると「その病死のことなんだが、」ゆっくりと後ろに続いたリゾットがぽつりと呟いた。

 

「……そもそもあれは本当に病死だったんだろうか」

「あぁ? どーゆ意味だよ、そりゃ。検死の結果、脳の血管が詰まってたんだろ?」

 

 ポルポの死因は脳梗塞。不摂生のために動脈が硬化して狭くなっていたこともあるだろうが、結局は血液が血管の中で固まってしまい、栓となって酸素が行きわたらず死んだのだ。あの体型なので脳みそをスキャンして見たかどうかまでは知らないけれども、目立った外傷もなく、毒殺の類でないことはきちんと確かめられている。

 何を言い出すんだ? と振り返って見れば、リゾットはただでさえ普段から潜められている声をさらに落とした。

 

「だが、詰まっているのは血の塊じゃなくて何か別の物だ。メタリカが反応しない」

「……ッ」

「ええッ!! そ、それって、どういうこと……!?」

 

 プロシュートは今しがた出てきたばかりの刑務所を見上げ、肺に溜まった空気を全て出し切るように息を吐いた。やはり、自分の()は正しかったのだろう。ボスの娘の件も含め、一体どこまでが偶然で、どこからが必然だったのかはわからないが、()()()()()()()()()()()()()()()()――そう感じずにはいられない。

 

「……あの女か? しかし、そいつはまた……どういう能力だよ」

「わからん。だが、迂闊に近づくのは得策ではないな。ひとまず追うのは“(トリッシュ)”を保護していそうなブチャラティだ。もしもその過程で彼女が邪魔になるようなことがあれば――」

「ブッ殺す! そうだね、兄貴!」

「ペッシペッシペッシッ、だからよォ~~ッ、そういう言葉はなァ~~!」

 

 がつん、とペッシの頭に容赦なく拳骨を落としてわからせる。本当にこの弟分はいつまでたっても手がかかって仕方がない。しかしプロシュートだって、まったく見込みがないと思っている相手には自らの鉄拳を振るうこともないのだ。

 

「オレ達の世界では、こうして行動してから言うモンなんだ。オレはおめーに殴るぞッと脅したか? 違うだろッ!?」

「い、痛いよ、兄貴ィ……でもそれじゃあオレ、なんで怒られたのかもわかんねぇよォ」

「……。まぁいい、じゃあ次おめーがまた間違ったときは、一回だけちゃんと説明してやる。それでいいなッ?」

「う、うん……わかったよ、兄貴ッ!」

 

 今回、暗殺チームに課せられた“仕事”は、いつものボスからの下される任務ではない。リーダーのリゾットが、チーム一人一人が自らに課した、命がけの反逆だ。

 これまで冷遇されてきた暗殺チームは、莫大な金を生む麻薬ルートを奪取する。そしてあまりにも惨たらしく殺された仲間――ソルベとジェラートの屈辱を晴らす。

 たとえこの先何人の仲間が死のうとも、もう一歩たりとも譲れぬ戦いなのだ。

 

「……ペッシよォ、ここが踏ん張りどころだぜ。おめーも早いとこ成長していいところ見せてくれ」

「ま、任せてッ! オレ頑張るよッ!」

 

――ったく、相変わらず返事だけはいい野郎だぜ。

 

 苦笑を浮かべたプロシュートは、その顔を見られぬように大股で先を行く。すぐさま慌てたような声が後ろから追いかけてくるが、それでも歩調を緩めることはない。

 

「待ってくれよ、兄貴ッ!」

「待たねぇ」

 

 いつかペッシが自分を超えていけるその日までは、そうやって前を歩いてやるのが“兄貴”の務めだからだ。

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