【完結】強キャラ東雲さん   作:佐遊樹

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唯一の男性操縦者VS英国代表(後編)

 それはまだ、二人がIS学園に通っていたころのことだ。

 

「あら一夏さん、どうしましたの?」

 

 アリーナでの自主訓練を終えたセシリアが帰路を歩いていた時。

 寮へと続く遊歩道からいくぶんか歩いた先にて、ぼうっと佇んでいる一夏を見かけた。

 

「ん、ああ、セシリアか」

「随分と物思いにふけっていたようですが……簪さんの言ってらっしゃった、ジャキガンというものですか?」

 

 隣に歩いてきたセシリアが、首をこてんと傾げて問う。

 一夏はフッと笑みを浮かべた。

 

「それ……簪にどういう言葉だって聞いたんだ?」

「え? 日本男児特有の、瞑想の一種だとお聞きしましたが」

「そっか、うん……それ……二度と使うなよ……」

 

 静かにブチギレつつ、一夏は機を見て簪に説教しなければならないと固く誓った。

 

「ええと、それではこれは、純粋に……その、考え事ですか?」

「ん、ああ。そうなるかな」

 

 空を見上げて、一夏は静かに唇を開く。

 

 

「セシリア。お前は、世界最強になって、どうしたい?」

 

 

 

 

 

 

 

 空中を疾走する白い鋼鉄機構。

 身体各所から赤い焔を噴き上げるそれは、開幕のアラートと同時に、『白式』が『疾風鬼焔(バーストモード)』へ移行したことを示していた。

 だがそれだけではない。

 

「なんて戦闘機動(マニューバ)してるのよ、あいつ……!」

 

 VIP用の観客席で、思わず鈴は呻いた。

 上下左右への自由自在な躍動。三次元的ルートを通過しつつも、決して淀みはない。最速で距離を詰めていく。

 スラスターによる加速を巧緻極まるタイミングで調整し、まるで減速などしていないかのようにスピードを維持しながら疾走。文字通りに、稲妻となって空中を駆け抜ける。

 

「……ッ、私の時は、手を抜いていたとでも……?」

 

 あまりに鋭い機動を見て、ラウラが低い声で呟く。

 しかし。

 

「いいや違う。あの機動は、ラウラ相手にはできなかったはずだ」

 

 ラウラの言葉に異を唱えたのは、ほかならぬ箒だった。

 

「どういう意味だ?」

「セシリアとの戦いは……必然として、距離が開く。だからあそこまで、スピードに注力した機動ができるんだ。ラウラ相手では、むしろあのスピードでは自分の得意な近接戦闘のタイミングを逃しかねない」

 

 自分なりの認識を口に出しながら、箒は静かにアリーナ上空を見つめた。

 白い稲妻が描く軌道は確かに流麗。だがそこには、ある種の余裕のなさも見て取れる。

 

(とにかく近づくことしか考えていない──獣のような動きだ)

 

 幼なじみだから、だろうか。

 くしくもその刹那、まさに空中で高速機動を行い観客を魅了していた一夏もほとんど同じことを考えていた。

 

(とにかく近づくしかねえ! 駆け引きはそれを前提にして組む! 近づけないとそもそも勝ち筋がないッ!)

 

 身体にかかるGをものともせず、一夏は大回りのルートでセシリアに接近し。

 

「……ッ!?」

 

 バズン、と重い音が響いた。

 とっさの反応で身をよじった一夏の左肩を掠め、『スターライトmk-Ⅲ』のレーザーがアリーナの観客席シールドに直撃した音だった。

 

(コイツ!? 全力機動してるのに、先読みして置いてきやがった……!)

(避けられた!? 当たるはずだったのに……ッ、どんな直感をしているのですか!)

 

 最速の疾走と必中の射撃が不発に終わったことに、驚嘆は半分。

 もう半分を見て取れた人間は、観客席にはほとんどいない。

 

「────ホント。今のやりあいで、お互いの計算が根底からずれてもおかしくないのに……あいつら、()()()()()()()()()()

 

 歯をむき出しにして。

 二人は笑っていた。国家代表の卓越した動体視力はそれを捉え、VIP席をなんとも言えない空気にしていた。

 

「これ多分……決勝以外……前座だと思って……」

「シッ。言わないほうがいいこともあるぞ簪」

 

 日本代表の口をアメリカ代表が素早く塞いでいた。

 事実は時に人を傷つけるのである。

 

 閑話休題。

 

 たとえ計算が根底からずれたとしても、それでも、やることは何も変わらない。

 近づきたい一夏と、近づけさせたくないセシリア。

 攻防戦の構造はいたって単純だ。単純すぎる。余りにも単純極まりない。

 

「試合としての華は、本来はないね」

 

 シャルロットは飛び交う白と青を見上げて語る。

 

「なのに、目をそらすことができない。観客の誰もが夢中になる。こればっかりは理論的なものじゃない……二人の戦いには、そういう、人を惹きつける何かがあるんだ」

 

 数度目かのアタック、一夏が猛然と加速する。

 セシリアはライフルだけではついに間に合わないと判断、スカートアーマーに偽装していた『ブルー・ティアーズ』を切り離す。

 

(そいつを使わざるを得なくなったか! これで第一関門はクリア!)

 

 相手の余裕を削っている指標。それは単一の装備では手が回らなくなってきた証拠である。

 上下左右に揺さぶりをかけつつ、一瞬の隙を見せれば即座に懐へ飛び込まれるのだ。むしろ開始数分をスナイパーライフルのみで対応できたセシリアの技量こそ感嘆すべきだろう。

 しかしここからは、単純な攻防ではなく、より複雑なダンスの時間だ。

 

「さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

「ああ、楽しみにしてたぜ! この日のためにダンスシューズを磨き上げてきたんだッ!」

 

 前方に展開された自立稼働射撃兵装群。

 並んだ銃口がピタリと一夏の身体各部に狙いを定めている。それらの射線から逃れると同時、光の線が空間を裂いた。

 観客席がどよめいた。予選から通して、驚異的な命中率を誇っていたセシリアの、明確なミスショット。

 だがそれが単なる撃ち損じにはならないことを、誰もが知っている。

 

「チッ……!」

 

 舌打ち交じりに一夏が急制動。スラスターから火を噴かせ、両足を置き去りにするような形で鋭角にターン。

 同時、()()()()飛んできたレーザーが空を切った。一夏の後方で、セシリアの放った銃撃が折れ曲がったのだ。

 それはBT稼働率最高時に発現すると言われるBT粒子集合体への意思干渉、即ち偏向射撃(フレキシブル)

 

「そんなもんでッ!」

 

 複雑に曲がって追尾してくるレーザーを、一夏は一息に切り払う。

 避けても追いかけてくるのなら打ち払って無力化すればいい、それは学生時代から変わらない対処法だ。

 しかし、一夏は息を吐きながらセシリアに顔を向けて、ギョッとした。

 

「『ブルー・ティアーズ』は15基ありましてよ?」

「…………ッ!?」

 

 ビットがセシリアの周囲に展開されている。だが数がおかしい。想定の四倍近くの銃口がこちらに向けられていた。

 

「う、おおおおおおおおおおッ!?」

 

 光の奔流が、濁流じみて放たれた。

 左右上下、ほとんと逃げ場を押しつぶすようにして、レーザーが空間を塗り替える。

 後方への退避を第一としながら、一夏は絶叫を上げて回避機動を取った。

 

「15──15ッ!? ちょ、ちょっと待ってよ。僕の時はそんなには……!」

「舐めていた、というワケではないだろう。仮に私がフルに15基のビットを使えるとして、シャルロット相手ならフルには使わんな」

「ラウラの言う通り、だと思う……中距離型を制圧するなら、ビットを使い切ってる状況は、懐に潜り込まれると、逆に制圧されちゃう……」

 

 観客席の各国代表らが即座にセシリアの戦術を分析する。

 十分に──即ち偏向射撃を習熟した程度に──BT兵器を操れるとするならば、単純に数を増やすだけでは工夫として今一つ食い足りない。

 

「あたし相手の時もフルじゃなかったわね。ええと……3つぐらい少ないかしら」

「鈴は近距離に重きを置くが、砲撃装備もあるからな。いざという時の自衛用に残しておいた、と考えるべきだな」

 

 決して出し惜しみではない。理論に基づき、計算の結果弾き出された最適な数。

 だから誰もが断定できる。断定するしかない。一夏相手にはフル投入するのが最適解なのだと。

 

(成程、分かりやすい! お前の中では、俺を近づけさせないことが大前提ってワケか!)

 

 疾風鬼焔状態の一夏は、懐に一度入れただけで、自衛用に残していたBTごと相手を叩き切るだけの威力を保持している。ならば近づけさせないことに100%の力を注ぐべきだろう。

 しかし。

 

「15────15じゃ、ちょっと足りねえよなあ!?」

 

 直後だった。『白式』の全身が花開く。

 見間違えようもない。全身から攻性エネルギーを放ち、ビットからの射撃を逆に撃ち落していくそれは、展開装甲の光!

 

「これは……ッ!?」

「展開装甲に関しちゃ、習熟度は俺の方が上だッ!」

 

 元より疾風鬼焔は、実質的には展開装甲のデッドコピーだった。

 それを操って数々の激戦を潜り抜けてきた一夏にとって、展開装甲を増設した改良型白式は、さほど専用訓練を経ずとも自然に扱える範疇だ。

 

(攻勢が、揺らいだ!)

 

 セシリアにとっては予想もつかなかった展開だろう。

 今までの試合、一夏は展開装甲を攻撃または加速にしか使っていなかった。それを防御に使うのは、セシリアが打って出てきたときのために温存していた伏せ札だ。

 多方向からの狙撃を撃ち落し、一夏は一気呵成に飛び込んだ。

 

(試合が動く! だがこれは、セシリアのやつ、まさか!)

 

 思わず席から立ち上がった箒の、視線の先。

 真っすぐ加速した一夏と、その真正面に位置するセシリア。

 距離が殺されるのには刹那もかからなかった────しかし。

 

 

()()()()()()()()!」

「……ッ!?」

 

 

 光が像を結ぶ。

 待ち構えていた、と言わんばかりのタイミング。

 

(なん、でッ……!?)

 

 近接格闘用ブレードに迎撃用単発式銃を後付けする、という銃剣に対する逆転の理論。

 知る人が見ればガンブレードの亜種と断じるほかない、異形の武器。

 その銘も『インターセプタ―Ⅱ』。

 

(んな馬鹿な! 俺を近づけさせないことがお前の勝利パターンじゃなかったのか!?)

 

 驚愕に呼吸が凍る。

 飛び込んで振るわれた一刀と、飛び込まれることを前提にコンパクトに閃く短刀。

 

「だが、近距離戦なら────」

「アナタに分があるとでも!?」

 

 その言い分はおかしい。実際に近距離戦ならセシリアに勝ち目はないはずなのだ。

 だというのに。

 ブルー・ティアーズの全身各所が花開いた。展開装甲が起動し、エネルギーを加速装置として吐き出す。

 自ら距離を詰めるセシリア。一夏の斬撃を目視して、彼女は全身から小刻みに推力を吐き、絶妙なタイミングとポジショニングを確保。

 飛び込んだのは一夏なのに、アドバンテージを後から獲得しているのはセシリアという理不尽。

 

(ま、て待て待て待て待てッ! それは、それは──ッ!?)

 

 ()()()()()

 織斑一夏は、その巧緻極まる身体捌きに宿る原理を、知っている!

 間合いが零となる。互いの斬撃が炸裂する瞬間、確かに一夏は、眼前の淑女が微かに唇を動かすのを見て取った。

 

 

 

()()()()────」

 

 

 

 実の姉と。

 幼馴染と。

 一夏が剣士として尊敬する二人に続いて。

 

 三番目の刃が、解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

「魔剣・烈火抜刀!」

「えっなんだそれ」

 

 無数の無人機相手に。

 東雲が背部バインダーから抜き放ったのは、業火を纏った剣だった。

 

「おりむーが……否。『白式』がかつてやっていたという、他の機体のイメージ・インターフェース兵装の再現。あくまで権能を直接引っ張るものではないが、コンセプトとして真似させていただきました」

 

 篠ノ之束が、零落白夜は零落白夜によってしか討滅できないと判断する以前。

 暮桜を撃破するための決選兵器として『白騎士』を再構築する中でサブプランとして組み込んだ、他のすべてのコアから経験値・権能を引き出す決戦能力。

 東雲は伝え聞いたそれに有効性を見出し、自分の機体にて再現していた。

 

「つーことはそれ、『ヘル・ハウンド』の……!?」

「ご名答です」

 

 超高温の斬撃が、無人機を溶断する。破壊され尽くしていた玉座の間にさらなる破壊が荒れ狂う。

 右手に保持した太刀、最新鋭特注装備は東雲の全力攻撃に八度まで耐えうる驚異的な耐久性を誇っていた。一太刀に少なくとも三体を切って捨てる、斬撃の嵐。

 ほとんど存在しない取りこぼし。だが無人機は上半身だけになっても稼働する──そこを的確にオータムが潰していく。

 

「魔剣・流水抜刀!」

「今度は『コールド・ブラッド』か!」

 

 一本目の太刀の砕ける音と、二本目の抜刀は同時。

 今度は刀身に超高圧水流を纏わせ、東雲が流麗に舞う。まさしく水が上から下へ流れるように、それが当然の物理法則であるかのように。無人機たちの放つ砲撃をすり抜け、流し切る。

 なるほどとオータムは舌を巻いた。魔剣の派手なエフェクトによって視線を誘導されがちだが、属性の変更と同時、東雲の戦闘技巧が根底から切り替わっているのだ。

 

(烈火の如く押し込み攻め続ける構えから、水を切ったようにかわされる柔の剣へ即座にスイッチ。対人戦においてもさることながら、戦闘用AIは相当に混乱するだろうな……!)

 

 急激な変化についていけず、無人機の動きが鈍る。

 その隙を見逃す東雲ではない。二本目の太刀が折れた刹那に、既に右手が閃き三本目を握っている。

 

「魔剣・黄雷抜刀!」

 

 三本目の太刀。

 それは雷撃を巻き付けた広範囲攻撃、一振りで玉座の間を飛び回っていた無人機の軍勢を残らず叩き落した。

 

「それ誰の!?」

「賢人です」

「マジで誰!?」

「剣と言えば三銃士。この三本の魔剣を順番に使うことで当方の勝利は揺るがないものとなります。かんちゃんも『セイバーはここから、まだここからが強い』と言っていました」

 

 何を言っているのかこの女は。

 妄言を吐き散らしながらもキッチリ結果を出してはいるのでたちが悪い。倒れ伏しながらももがくゴーレムにサブアームを突き立てながら、オータムは嘆息した。

 

「で? 手駒はなくなったぜ、スコール。その球体……多分だけど、疑似ISコアのかき集めだろ。消しかすをこねにこねて消しかすボールを作ったみたいなもんだ。ゴミを集めても別に強くはならねえぞ」

『あら、そうかしら。そんなことはないと知っているでしょう?』

 

 言葉と同時だった。

 球体だったコアの周囲で、空間が歪んだ。

 

『多くのコアを連結させることで、出力を増大させる。スコール・ミューゼルが死んだ後に、織斑一夏がやってみせた絶技……それを、私は、スコール・ゴーストは知っているわ』

「な……ッ!?」

 

 オータムは大きく狼狽した。

 夜の海辺で、そして宇宙空間にて一夏が発現させた、人類の未来を切り拓くための斬撃。誰かと手を取り合うための極彩色の極光──すなわち、絶剣。

 スコール・ゴーストはそれをラーニングしたと言っているのだ。

 

(そんなことが可能なのかッ!? いや、こんな土壇場でブラフを打ったところで意味がねえ、実際に戦えばわかる。ってことは事実だと考えるしかねえが……どのレベルだ。流石にISコア全部をのっけたあの時のやつには劣るだろうが……亡国機業に配備されてた疑似ISコアはゆうに3桁ある。どこまでの出力を出してくる……!?)

 

 空間が荒れ狂う。

 確かにその威容、人の理を超えつつある領域と断じるほかない。

 どうするべきかオータムが思考を回転させていた隣で。

 

 

「……ここまでだな」

 

 

 ひどく不機嫌そうな声が聞こえた。

 不機嫌? 違う。いら立ちすら超えていた。

 

 

「猿真似は猿真似を名乗ればいいものを。貴様如きに、彼の光が再現できるものか」

 

 

 はっきりと──東雲令の瞳には、怒りが宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 至近距離の斬撃。

 それを必殺の一閃へと昇華させるべく、セシリアは幾重にも工夫を凝らしていた。

 

 第一に篠ノ之流を独学で模倣した身体捌き。

 これによって相手の斬撃の勢いを完全に殺し、自分のカウンターを通した。

 

 第二に新装備『インターセプターⅡ』。

 ショートブレードにリボルバー式単発銃を取り付けた見た目は、実は偽装。トリガーを引いたところで弾丸は放たれない。内部でカートリッジが激発し、刀身に攻性エネルギーを瞬間装填、爆発的に威力を高める機構を搭載しているのだ。

 

 だが一夏とて、世界の頂点に手をかけた猛者。

 とっさの身のよじりで、斬撃の勢いが殺されるのを最小限にとどめた。

 同時に炸裂した斬撃。反動に互いが吹っ飛び、空中で姿勢を整える。

 

「…………次で決まるね」

 

 シャルロットは静かに呟いた。VIP席の国家代表らも頷く。

 観客は慌てて大型スクリーンを見上げた。攻撃を掠め合っていたのもあったが、先の交錯は効率的に互いのエネルギー残量を大幅に減損させていた。

 特に、インターセプターⅡの強化斬撃をモロに受けた一夏は、四割を切っている。

 

「……ここまでだな」

 

 一夏は紫電を散らす増設展開装甲を破棄(パージ)

 度重なる急加速を経た後の直撃だった。装甲の半数がエラーを吐いて、視界がレッドアラートに埋め尽くされている。

 

「そうですわね」

 

 ポジショニング用に使っていただけだというのに。

 セシリアの展開装甲もまた、過負荷に火花を散らしていた。迷わず彼女はそれを切って捨てた。

 

 高高度から落下した鉄塊が、アリーナの大地に激突して、嫌な音を立てて潰れた。

 両者共に、第四世代相当装備を全損。

 残ったのは()()()()()()()

 

「第四世代型全盛期ってご時世に、モンド・グロッソの決勝戦が第三世代型同士の戦いになるの……!?」

 

 観客席で鈴が悲鳴じみた声を上げた。

 そう、一夏もセシリアも、身に纏っているのはかつてと全く同じIS。

 

「あら、あらあらあら」

「おいおい、おい……」

 

 二人は顔を見合わせて苦笑する。

 感覚や理論を突き詰めた結果、二人は奇しくも展開装甲を増設装甲として纏い、機体への埋め込みは断念した。

 

「なんだよなんだよ。パクっただろお前」

「パクっていませんわ。絶対そっちがパクったでしょう」

「パクってねーし」

 

 子供のような言い合い。

 観客席のどよめき。世界中で観戦している人間が目を剥いている。

 

「汎用性……いや! 即時対応性を高めるためなら、展開装甲は載せるだけで強烈なアドバンテージを生む装備のはずだ! だというのに何故わざわざ増設装甲に……!?」

 

 効率性を重んじるラウラだからこそ、明瞭に疑問を言語化できた。

 それを音声として拾ったらしく、一夏とセシリアは同時に鼻を鳴らし。

 

 

()()()()

()()()()()

 

 

 この瞬間を以て、明確に示される。

 二人の領域は既に、級友たちの、数歩先に達しているのだと。

 

「それじゃあ、やるか」

「……そうですわね」

「何だよ。名残惜しいか?」

「アナタこそ。この瞬間が永遠に続けばいいのにと、思っているのではなくて?」

「……かなわねえな。その通りだ。お前と戦うこの瞬間、この刹那に、俺の全部がある」

「断言されるとおもばゆいですが。同意見ですわ」

「あー、セシリア。それ誤読してる。おもはゆいって読むんだよ」

「チッ。うっせーですわね」

「すげえ急に態度悪くなったな」

 

 VIP席が殺気立ち始めたが、二人は気づかなかった。

 自分の内側で、エンジンがこれ以上なく回転していくのを感じた。全身に力が漲る。呼応するように機体も蠢動する。

 超大型アリーナの中央で。

 二人の視線が、確かに質量をもって激突した。

 

 

「さあ、勝負だ!」

「ええ。決着をつけましょう!」

 

 

 

 

 同時、花開く。

 

 

 

 

「『疾風鬼焔(バーストモード)』──出力臨界(ゼロシフト)ッッ!!」

 

 

 

 炎は、温度を上げるほどに色を変えていく。

 すべてを焼き尽くす業火の色から、すべてを抱きしめる青空の色へ。

 手を取り合った果てに届けばいい。一人で飛ばなければならない道理などないのだと、彼はもう知っている。

 

 

 

「BT粒子全開稼働ッ! ──出力臨界(アクセルオーバー)!!」

 

 

 

 雫が集いて形を成す。

 一つ一つは、悲しみや怒り、後悔の涙だったかもしれない。

 だが多くの涙を経た先には、必ず輝かしい明日が待っていると、彼女はもう知っている。

 

 

 疑う余地はない。ここが決戦場。ここが決着の刻。

 

 

鬼剣、装填────さあ、セシリア・オルコット! お前は十三手で詰むッ!」

「ええ、ええ! やってみなさい! 最強を証明するのがどちらか、ここに示しましょうッ!」

 

 

 奇しくもここにきて。

 

 

 

 両者身に纏うは────無限に続く蒼穹(インフィニット・ストラトス)の色だった。

 

 

 

 

 

 

 

「貴様には分かるまい。あの光、あの輝きがどんなものなのか」

 

 ウェーブ・ウィーバー最奥、玉座の間にて。

 まがい物の絶剣を前に不機嫌さを隠そうともせず、東雲は滔々と語る。

 

「お前ちゃんとシリアスできるよな? 違ったら即座に止めるから真面目にやれよ」

「あの絶剣を、かんちゃんは地球に戻ってから、見慣れた色だったと語った。あれはまさしく、ゲーミング機器の発光色だと」

「あっもう違うわ! この話の入りで一歩目からミスることあんの!?」

 

 隣の女が絶叫したが、東雲は無視した。

 

「色とりどりの、個々人が持つ色彩を織り交ぜたが故の、目を焼くような苛烈な輝き」

「方向性ミスったまんまアクセル踏むのやめろ、そういうのじゃないんだよアレ」

「当方はそこに未来の輝きを見た」

「何も見えてなくねえか?」

 

 オータムがいい加減切り上げようとした。

 その直後だった。

 

 

 

 ──『茜星』が、約1680万色(正確には16777216色)に輝きを放ち始めた。

 

 

 

「…………は????」

『何、それは……ッ?』

「ならば当方は、人類になりそこなった者であっても、その未来を守護しよう。故に恋愛大明神の名は、この一時だけは捨てる」

 

 背部バインダーが稼働。

 花開くように回転したのち、地面と水平に並ぶ。

 リボルバーのように並ぶそれを背負い、東雲は両手に太刀を抜刀。

 

「さあ畏れろ。貴様が否定する未来はここにある。今この時、当方のことは────」

 

 雄々しく。

 だが歌うように。

 未来の守護者が名乗りを上げる。

 

 

 

!!

 

 

 

「……………………は???????」

「────()()()()()()

 

 言葉が出てこないオータムを完全にぶっちぎって、東雲が加速した。

 スコール・ゴーストが慌てて不可視の衝撃波を放つ。

 だがそんなもの、今の東雲にとって路傍の石にすら過ぎない。

 

「邪魔だ!」

 

 一太刀に切って捨て、減速一切なく猛進。

 球体コアの眼前で刃を振りかざし。

 

 

「この輝きが!」

 

 

 かつて世界最強の再来と呼ばれ。

 出来損ないのスクラップと呼ばれ。

 

 

「この輝きこそがッ──」

 

 

 けれど恋を知り、日々を愛した少女が、未来を切り拓く。

 

 

 

 

 

IS-イス-!!

 

 

 

 

 

「違うぜ!?!?!?!?!?!?」

 

 

 本当に違うと思う。

 真っ向唐竹割。振り抜かれた刃が玉座の間そのものを両断した。

 数秒の静寂。真っ二つに断たれたコアが、断末魔すらなくずるりと滑り落ちる。

 

 

「──第二魔剣:楽土雲耀(らくどうんよう)

 

 

 砕け散った両手の刀を持ったまま、残心を取りながら東雲がその名を告げた。

 繰り出されたのは神速の斬撃。

 篠ノ之流の極致──陰ノ型・極之太刀『絶:天羽々斬』。かつて身に受けたそれをラーニングし、さらに昇華した必殺技術。

 

 

「いやだから違うぜ!?!?!? 絶対にそれはインフィニット・ストラトスじゃないぜ!?!?」

 

 

 悪の親玉を無事滅殺し。

 晴れやかな空気感で、東雲は、自分が両断した壁の隙間から除く青空を見た。

 

「……どうだ。おりむー、当方は勝ったぞ。おりむーからつないでもらったものを行使して、勝った。次はそちらの番だ」

「なあなあなあなあ!! 今のがISだって認めて勝つのすげえ嫌なんだけど! おい聞いてるか? 発言を撤回しろこのクソ女! お前のせいであらゆるISコアが風評被害を被ってんだよ! ていうかどうやって発光させた? マジ意味分かんねえ」

「ピカピカ光るように改造した」

「外部取り付けかよ! それ演出ってこと!? 出力上がったわけじゃねえの!?」

「当方のテンションが上がった」

「知らねええええええええええ」

 

 オータムの絶叫は大空に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 言葉を最初に捨てた。

 嗅覚も捨てた。順次、要らないものをカットした。コンマ数秒で、ただこの刹那のためだけの存在になった。

 だからもう、ここからは──思考を言語化すらしない。

 している暇が、ない。

 

 一手。

 飛びかかった一夏をBT兵器が各方向から狙い撃つ。だが当たらない、すり抜けるようにして距離を詰めた。

 右肩から入る袈裟斬り。斬撃の軌道を読んでいたセシリアは、それをショートブレードで受け流した。

 

 二手は神速の切り返し。

 それも胴体を狙わず、腰の回転だけで放つ、さらに斜め下への切り落とし。

 つまりはセシリアの左足を狙った追撃。回避しきれない。蒼の装甲がすぱりと切り裂かれる。

 

 三手。

 積み上げてきたものが違う。単なる斬撃でありながら既に神速。だが英国代表は神をも撃ち落とす。

 一夏が振り上げようとした『雪片弐型』を、ブルー・ティアーズが放った射撃があらぬ方向へと弾き飛ばす。

 並行してセシリアが他のビットにも命令を走らせた。既に狙いはつけている。

 

 しかし鬼剣使いの第四手はそれすら織り込み済みだ。

 先ほど弾いた『雪片弐型』が刹那のみ量子化、弾かれた軌道から帰ってきた。

 単一の装備を瞬間的に格納・再展開する技巧。それを用いた、一度外された攻撃をそのまま当てに行くという二段構え。

 ここにきてもう、バトルの行方はダメージレースにかかっている。一夏の背部ウィングスラスターにレーザーが直撃、エネルギーを減損。だがそれよりも多く、焔を炸裂させ振るわれた斬撃が、セシリアの臓腑にまで響く衝撃を与えた。

 

 五手は落下しながら。

 瞬間的な出力の減少により、『白式』と『ブルー・ティアーズ』がもみ合いになりながら重力に引かれた。拳で殴りかかった一夏の腹部に、セシリアの肘がめり込む。篠ノ之流は剣を持たずとも身体捌きに宿る。真髄に届きつつあるセシリアに、この程度の芸当はたやすい。

 

 かつての焼き直しのように二人そろって落下した直後に、六手が放たれる。

 轟音と共に墜落。装甲のひしゃげる音。それに混じって確かに響いた金属の切断音。

 吹き上がった砂煙を突き破りバックブーストをかけたセシリアは愕然とした。スターライトmk-Ⅲが、銃身の半ばで断ち切られている。

 

 動揺している暇などない。七手目が眼前にあった。

 距離を取ろうとした彼女に対し、追いすがるような形でコンマ数秒遅れて一夏もブースト。間合いを殺し切っ先をつき込む。身体全部を躍動させ、頭が腰の位置に下がるほど上体を伸ばし切っての刺突。

 反射的に身をよじる。肩部装甲が余波に巻き込まれる形で弾け飛んだ。

 

 八手目、既に満身創痍。

 血を吐くような形相で間近に迫った一夏が、その場で一回転。先ほどの刺突を引き戻しながら次の横一閃へとつなげる。

 目視不能な速度のそれを、セシリアはほとんど直感任せにインターセプターⅡで防ぐ。横合いからの斬撃と短刀がかみ合い、火花を散らす。互いを食い破らんと刃が吠える。

 

 拮抗を破るは九手。

 一夏はつばぜり合いの状態から、一気に腰から力を伝導させた。

 ゼロ距離で爆発的に威力を増大させる絶技──それを、既に彼女は知っていた。

 絶妙なタイミングでセシリアが膝からかくんと力を抜いた。大きくしゃがみこむ。力学的な作用をズラされ、込めた力のままに一夏の斬撃が空を切る。

 直後にビットが光を放つ。至近距離、本体である自分が巻き込まれかねない。並の射手であれば。

 ここにいるのは、銃撃だけでモンド・グロッソ決勝までたどり着いた天眼の持ち主。

 四方八方から飛来した光線が狙い過たず、『白式』の各所のみを撃ちぬいた。

 

 優勢を、そして勝利が目前だと確信したセシリアにとって、十手は極めて予想外だった。

 背後からの銃撃を浴びて体勢の崩れた一夏。エネルギー残量は僅か。観客たちが悲鳴を上げて口を覆っている。

 既にセシリアは至近距離でもう一本用意していたインターセプターⅡを召喚していた。あとはトリガーを引いて刀身を押し付けるだけ。

 だがそのタイミングで、視線が重なった。自身がビットに撃たれないようしゃがみこんだため、一夏は覆いかぶさってくるような姿勢だ。

 そして逆光の中で、彼の両眼が蒼く発光しているのを見た。

 大地が爆砕した。瞬時加速(イグニッション・ブースト)による即時の大推力。それを用いて一夏はその場でサマーソルトした。セシリアの顎が『白式』のつま先に蹴り上げられた。

 瞼の裏側で火花が散る。視界が数瞬ブラックアウトして、明滅し始めた。

 

 十一手。分水嶺。

 たたらを踏んで頭を振りながら、セシリアはそれでもビットに伝達する。射撃。一夏は後方宙返りから即座に飛び上がりレーザーをかわす。フレキシブルにより追いすがってきたそれを、もう切り払う余力がない。『雪片弐型』を縦横と構えて防ぎ、パッとレーザーが粒子に散る。

 そのまま急降下、ほとんど真上からセシリアに刃を叩きつける。

 トリガーを引いてインターセプターⅡで迎撃する。互いの斬撃が激突し、拮抗は刹那にも満たない。

 パキンと硬質な音を立てて、短刀が砕けた。そのまま一夏の渾身の攻撃がセシリアに直撃する。レッドアラート・ウィンドウが視界を染め上げる。エネルギー残量一割未満。互いに攻撃が掠めただけで残量すべて消し飛んでしまうほどの危険域。

 

 勝負が決まると誰もが予感した十二手。

 流れを完全につかんだ一夏が、背部ウィングスラスターを炸裂させて迫る。

 激痛と困憊に視界ごとふらつく中。

 セシリアは正面から向かってくる一夏に、右手の人差し指を突き付けていた。

 ばん、と唇が動くのを確かに見た。そこで気づいた。先ほど一斉砲火を浴びせてきたビットが散っている。

 一夏とセシリアを三次元的に取り囲む配置。関係ない。バレルロールして突破。すり抜けるような軌道は健在。

 その程度で仕留められるとはセシリアも思っていない。レーザーが一つ足りないと気づいた時にはもう遅い。

 最後のビットは、()()()()()()()。主の背中にぴたりと砲口を向けて、レーザーを発射。フレキシブルにより彼女の身体をスレスレで回避し、まったく予期しない方向から、まったく予期しないタイミングでラストシューティングが放たれる。

 正真正銘の切り札だった。それを予期できた人間は観客席には少なくともいなかった。VIP席ですら、箒や鈴は驚愕に唇をびくんと震わせている。直感的にセシリアの伏せ札を察知できていたのは、理論と感覚をバランスよく併せ持ったシャルロットだけだった。

 

 最後の光が一夏の視界を刹那に染め上げる。

 この刹那を認識できる人間は、当人たちをおいて他にいない。

 

 確実に、最後の一手として相応しいのはこれだとセシリアは思っていた。

 自分の身体でビットそれ自体を隠した、意識外からの一撃。これをもって、眼前の男との、長い長い宿命の戦いに決着をつけると。

 

 それは一夏も、同じだった。

 彼にできるのはただ近づいて斬ることだけ。それだけでここまで来た。

 

 

 だから。

 

 織斑一夏が、彼自身が、最もセシリア・オルコットのことを、信じていた。

 

 

 

 

 

臨界超過(ゼロ・オーバー)

 

 

 

 

 

 一夏が微かな声で呟くのと、それは同時だった。

 爆発的な勢いで接近したからこそ、十二手は斬撃なのだと、誰もが誤解した。そう考えるよう仕向けられていた。この土壇場で直接攻撃以上に優先する事項などあるものか、と。

 いいや織斑一夏だけは知っている。単なる猛攻が、斬撃の嵐が、確かに決め手だったとしても本質はそこにはないのだと。

 

 鬼剣は、勝利をつかみ取るための決戦技巧にあらず。

 それは遥か先を往く魔剣の役割である。

 

 鬼剣は、敗北から飛翔するための逆襲機構に過ぎない。

 本質は刀身に宿らず、織斑一夏の両眼こそがその証明。

 

 焼き尽くす地獄の色から離れ。

 澄み渡る青空の色すら超えて。

 

 

 極まった炎は、空間に溶けるようにして無色となる。

 

 

 真の第十二手。

 それは『疾風鬼剣(バーストモード)出力臨界(ゼロシフト)』の終了間際にのみ発現する、無色透明な焔による()()だ。

 二人の中間地点で、レーザーと焔が正面衝突してスパークを引き起こした。

 思わず観客たちが目を手でかばう。

 

(十三手────)

 

 互いの伏せ札を、互いの伏せ札で潰し合った。

 既に機体は限界。推力ではなくほとんど慣性で飛び込んでくる一夏に、セシリアは歯をむき出しにして迎え撃つ。

 最後の武装。この瞬間まで使うことなく眠っていた最後のBT兵器──膝部アーマーに内蔵された弾頭型(ミサイル)ビット!

 

 もう遮るものは何もない。

 手札は一枚を残して使い切った。策も、技巧も、性能も、全てをぶつけあって。

 最後に残ったのはただ一枚、意地という名のカードだけ。

 

 

 

「織斑一夏ァァァァ──────────!!」

「セシリア・オルコットォォオオオオッッ!!」

 

 

 

 男と女が激突する。

 一歩で己の過去を昇華し。

 二歩で己の未来を先取りし。

 三歩で今この瞬間の全てに叩きつける。

 

 何も恐れる必要はない。

 刃の中に碧眼が写り込む。

 BT粒子の輝きに黒髪が揺れる。

 

 

 交錯は一瞬だ。

 

 

 ブザーが鳴った。明確に、相討ちなどではなく、勝敗を分けるブザー。

 勢いのままゴロゴロと転がっていき、砂煙を上げる一夏。

 その場に崩れ落ち、装甲が光となってほどけていくセシリア。

 

 各国代表たちはその光景を、半ば放心するようにして眺めていた。

 とっさの判断がつかず、客席の観客たちはモニターを見る。

 

 

 織斑一夏、エネルギー残量7。

 セシリア・オルコット、エネルギー残量0。

 

 

 結末を理解して、それからやっと一同は、視線をアリーナへ向ける。

 ゆっくりと力を籠め、倒れ伏していた姿勢から、唯一の男性IS操縦者が立ち上がる。

 

「おれ、の…………」

 

 唯一無二は、その性別ではなく強さに。

 

「俺、の────!!」

 

 世界最強の座をつかみ取り、男は右の拳を握り、天へと突きあげた。

 

 

 

「俺のッ……勝ちだァァァ────────ッ!!」

 

 

 

 世界中が、爆発的な歓声に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 史上初、モンド・グロッソにおける男性の優勝。

 これを以て世界の情勢は、再び激変していくこととなる。

 

 

「よっ」

「……」

 

 決勝戦が終わった夜のことだ。

 ホテル一階の宴会場を貸し切って、そこは国家代表たちの慰労会会場となっていた。

 ドンチャン騒ぎ──鈴がゲームを持ち込み、宴会場でスマブラ大会が始まっていた──をそっと抜け出して、一夏はある部屋の前まで来ていた。

 

「入らない方が、いいよな」

「…………」

 

 過剰に情報受信する状態にこそ陥っていないが、ふと気を抜けば、本来見えないものが見えてしまう状態は継続されている。

 だが一夏は、ドアの向こう側で、セシリアがドアに背を預けて座り込んでいるのを、見てしまっていた。

 

「…………」

 

 一夏も座り込み、同様にドアにもたれかかった。

 背中合わせの姿勢で、しばらくの沈黙。

 

「長かったな、ここまで」

「…………」

「だけど……終わったわけじゃない、って思った………また始まっていくんだ……そうだろ?」

「…………えぇ」

 

 きっとまた、明日からは激動の日々が始まる。

 今日は一つの区切りであっても、決して終着点ではない。

 だから少し休めばいい。

 少し休んでから、また歩き出せばいい。

 

 ドア越しに少しだけ、掠れたような、すすり泣く音が聞こえた。

 一夏は黙って息を吐き、目を閉じた。

 

 見果てぬ道を歩くのは、自分一人だけではないと感じた。











碑文つかささんから、本作の一夏とセシリアのイラストをいただきました。
https://twitter.com/Aitrust2517/status/1310693914739843072?s=20
背中合わせになっているのは完全に偶然でびっくりしました。本当にありがとうございます…!

外伝四つやりたかったのですが三つめは死ぬほどつまんなくなったので没にしました。
四つ目はいつかやります。多分。
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