常にお久しぶりという事実。
「なるほど、そういうことでしたか……」
ハリーが50年前に捕まったのがハグリッドだといった後、私たちはハリーが日記から見聞きしたことを説明された。どうやら当時ホグワーツの学生だったハグリッドが校舎のなかの目立たない一室に閉じ込められていた大蜘蛛のアラゴクを見つけて育てており、それを発見したトム・リドルがそれを秘密の部屋の怪物だと思って先生に伝えたという流れらしい。それでハグリッドは退学、トム・リドルは特別功労賞、事件は解決と、そういうわけだそうだ。
なんというか……ハグリッドならやりかねない話というか……
「……まあなんというか、ハグリッドらしい話だよな。城のどこかに怪物が潜んでるって聞いたから見てみたくて探し当てて、そんでずっと部屋に閉じ込められて可哀そうだからちょっとくらい外を出歩かせてやってもいいんじゃないか、みたいに思うのは」
私がそう思っていると、ロンも同じことを思ったのかそう言った。どうでもいいですが、わりとハグリッドの解像度高いですね。
「うん、僕もそう思ったんだ。だからもう一回聞くんだけど、本当に秘密の部屋の怪物はバジリスクなんだよね?アラゴクじゃないんだよね?なんかリドルの話聞いてから、なんか僕もハグリッドならやっちゃいそうな気がしてきてて……」
ロンの言葉に、ハリーが自信なさげにそう聞いてきた。
「正直私も今の話聞いてハグリッドならと思いましたが、少なくとも今回の事件に関しては怪物の正体はバジリスクです。……そうですよね、ハーマイオニー?」
「ちょっとめぐみん、あなたまで不安がらないでよ。秘密の部屋の怪物はバジリスクのはずだわ。石化の力を持った大蜘蛛なんて調べてて一回も出てこなかったし、第一今回も50年前も、もしハグリッドと大蜘蛛が犯人ならスリザリンの秘密の部屋関係ないじゃない。ハグリッドが誤魔化すために血文字であんなこと書くとは思えないし」
「ですよね。そうです、今回もおそらく50年前も、怪物の正体はバジリスクです」
「そう……うん、そうだよね。確かに色々考えるとハグリッドが犯人なのはおかしい。よかった、ハグリッドが犯人じゃなくて」
私たちがそう答えると、ハリーはそう言ってほっとしたようにため息を吐いた。そんなハリーを横目に見ながら、ロンが言った。
「でもそしたら、なんで50年前はハグリッドの退学で被害者が出なくなったんだ?まあ僕も冷静に考えたらスリザリン関係のところがハグリッドじゃありえないのは分かるんだけど」
「そうね。まず思いつくのは、ハグリッドが捕まったのをちょうどいい機会だと一旦犯行をやめて、それでほとぼりが冷めてしばらく経った今になってまた動き始めたってところかしら」
「まあそれが妥当ですかね。あと考えられるのは……」
トム・リドル自身が自分からハグリッドに濡れ衣を着せに行ったか。
「あと考えられるのは?めぐみん?」
「……いえ、なんでもないです」
「?そう。まあとりあえず、犯人の特定につながりそうな話はなかったわね。せいぜい50年前の事件がただの噂話から本当にあったことだって確定したくらいかしら」
さすがに考えすぎですかね。今回の事件にからんでそうなところもいくらか調べましたがトム・リドルなんて名前全く見ませんでしたし、犯人か犯人と近い関係にあるはずのルシウス・マルフォイとの関連性も全く見えませんし。
あとできることは、ハグリッドに当時のことを聞きに行くとかですかね。
「そうだね。あとはまあ、ハグリッドに何か聞きに行くかい?」
「なんて聞くんだ?『ハグリッド、50年前の事件の冤罪で退学になったんだって何があったのか聞かせてよ』?それはずいぶんと楽しそうだ」
「ああ、まあ、そうだね。聞きにくいよなあ」
ロンはハリーに言われ、確かにというような顔でそう声を漏らした。……聞きに行こうとしてたなんて言えない雰囲気ですね。
結局その日もそれ以上話が進むことはなく、また何か分かったことがあれば集まって話そうということになった。帰り際、マートルがもう来るなと言いたいがあなたには言っても意味がないんでしょうねと言っていたのでハリーたちに向けて「あなたたち、何かしたんですか?」と聞いてみたら、「多分
「あー、めぐみん?ちょっといいかしら」
話し合いのあと、ちょっと寄るところがあるからとみんなと別れて歩いていた私に後ろから声がかけられた。何かと思って振り返ると、そこにはジニーが立っていた。
「おやジニー、何でしょう?」
「えっと、まあ別に何ってほどのことではないんだけど。秘密の部屋の事件について調べてるんでしょ?その、何か分かったかしら?」
「ああ、そのことですか。まあぼちぼちってところですかね。怪物の正体もおそらく分かりましたし、50年前の事件についても知ることができましたが、そこからいまいち進展する感じがなくてですね」
私がそう答えると、ジニーはほっとしたやら不安やらいろいろと混ざった複雑な表情になった。
「どうかしましたか?もし何か知ってるなら教えてくれると嬉しいのですが」
「いや別に、ほんと何でもないの!ただほら、やっぱりちょっと怖くて。あと、その、なにか古ぼけた日記を見ていろいろ話してたみたいだけど、あれはなんだったの?」
「ああ、あれですか。あれはまさに50年前の日記です。解読方法に手間取っていたのですが、ハリーが発見しましてね。それでさっき日記から得た50年前の話をいろいろ考えていたんです」
最近話していなかったが、どうやらジニーはわりと私たちのことを見ていたらしい。どうせなら話し合いに加わってくれてもいいのだが、まあそれは今はいいだろう。
「そ、そう。何かその日記は他に言ってなかった?」
「いえ、事件について以外はまだ。というか私、ジニーに日記が自分から話してくるタイプのものって言いましたっけ?」
「え?ああいや、言葉のあやよ。それについては今知ったわ」
私がなにげなしに聞くと、ジニーはそんな反応を返してきた。まあ別にそんなまぜっかえすことでもないですが。もしかしたら魔法界ではそこまで珍しいものじゃないかもしれませんし。日記を調べたメンバーのうち私にハリー、ハーマイオニーはマグル界育ち。ロンはたまたま知らなかっただけかもしれません。
「まあいいわ。また何か分かったら教えてね。それじゃめぐみん、またね」
そう考えていると、ジニーはそう言って歩いて行った。てっきりジニーには避けられていると思っていましたが、今ふつうに話しかけてくれましたね。まあ少しぎこちなかったですが、それを考えるのはまた後でいいでしょう。せっかく今ジニーと話して少し整理できましたし、もう少し事件について考えてみますか。
それからだいたい一週間が経った二月の初め頃。授業後の時間にハーマイオニーと寮の談話室で暖を取っていると、男子寮の方からハリーとロンが駆けてきた。
「なんですか、騒がしい。私は今冬のクィディッチの寒さを癒してるのです。宿題ならあとで教えてあげてもいいですから、今はゆっくりさせてください」
「めぐみんに騒がしいとか言われるの、けっこうショックだな!いや、今はそんなこと言ってる場合じゃない。ハリーのバッグから例の日記が盗まれた」
は?
「いや、なんでですか。おかしいでしょう。あれの持ち主は50年前の人ですし、他に持ち主がいるわけはないでしょう。まさかトイレに捨てた人が取り返しに来たとかですか?」
「そんなこと僕に言われても困るよ。とにかく、僕のトランクの中身がそこらに散らばって日記だけがなくなってたんだ」
私の言葉にハリーがそう返すと、ハーマイオニーが言った。
「それより、そんな、おかしいわよ。グリフィンドール生しかそれを盗めないはずじゃない。だって合言葉は寮生以外知らない──」
「そうなんだ。いったいグリフィンドール生の誰があんな日記を欲しがるんだ」
私たちはその場で少し考えたが、犯人も理由もさっぱりだった。日記から事件の情報がバレるのを恐れた?にしてもなぜグリフィンドール生がそう思う?今回の事件の犯人がスリザリンの関係者なのは半分くらい確定的だ。そもそも、なんであの日記について知っていたのか。まあ隠してたわけではないが、そんな知れるものでもないはずだ。私たちはすっきりしない疑念を解決できないまま、就寝時間を迎えた。
「ほんとあの日記、どこ行ったんだろう」
「誰なんでしょうね。まだ調べてみたいこともあったのですが」
日記がなくなった翌日の午後、私はクィディッチの練習に向かいながらハリーとそんな話をしていた。50年前の件ではあまり確たる話を聞けなかったとはいえ、日記は大きな手掛かりだった。
「それもそうだし……なんというか、嫌な予感がするんだ。何かが起こりそうな……」
「予感ですか」
まあそれはなんとなく私も分かる。なんというか、しっくりこないというか、この件にはもう少し続きがありそうな。何かまとわりつくような違和感を感じる。
まあ襲うなら襲うがいいです!返り討ちにしてやりますよ!と、いいたいところですが、正直鏡越しに見るみたいに対策したところで石にされたら何もできないんですよね。だいぶクソゲーじゃないですか?やっぱりバジリスクとの直接対決は避け、大蛇を使われる前に犯人を倒すことを考えるべきなんでしょうか。ぐぬぬ……なんか負けた気がして悔しいんですが。
しかしその違和感はすぐに解消された。いや、解消されてしまった。
それはみんなでウォーミングアップをしているとき。今から練習を始めるというところで、マクゴナガル先生が血相を変えてクィディッチ場に入ってきた。
「どうなさったのですか、マクゴナガル先生。そんな剣幕」
「オリバー、即刻練習を中止して寮に戻りなさい!みなさんもです!早く!今すぐに!今年のクィディッチ杯は中止になりました!である以上、危険を冒して練習することは認められません」
「そんな、一体いきなり何を言うのですか!今年こそグリフィンドールが優勝できるってときに!それに危険って」
「オリバー」
急な宣告に私たちが動けないなかすぐに声を上げるオリバー。そんなオリバーにマクゴナガル先生はそう声をかけ、短い間を空けて言った。
「緊急事態です。あれこれ言っている段階ではありません」
「「「っ」」」
マクゴナガル先生の言葉に、みんなが息をのんだ。言葉の内容ではなく、有無を言わせない雰囲気だった。
「私は他にやることがありますのですぐここを離れなければなりません。あなたたちは、今すぐ寮に戻るのです。いいですね」
私たちが返事をできないなか、マクゴナガル先生はそれだけ言いその場を後にした。と思いきや、くるりと振り返り言った。
「ポッター、それと紅魔。あなたたちは一緒にいらっしゃい」
なんだ?まさか、私たちの推測が外れて怪物の正体はバジリスクではなくて鏡の効果はないということが分かったのか?とすれば犠牲者が本当の意味で“犠牲者”になってしまったということだが、だとしても私たちは呼ばないだろう。そもそも生徒が亡くなったにしては先生に動揺がない。
「僕じゃ、僕じゃありません!まさか先生まで僕を疑うんですか!?」
「分かっています。ポッター、あなたがあんなことをするはずがない。今あなた達を連れているのはあなたたちを疑ってるからではありません」
「そ、そうですか。分かりました」
私がそう考えている横で、ハリーとマクゴナガル先生がそんな会話をしていた。ハリーは生徒たちに疑惑の目を向けられていましたからね。不安になったのでしょう。しかし、今の口振りだとなおさら私たちが呼ばれた理由が分からない。私たちの鏡の提案が間違っていたわけでも、それを咎めるような雰囲気でもない。
そうしながら校舎へと入っていくと、ぶーぶー言いながら寮に戻っている生徒たちの中からロンが飛び出してきた。マクゴナガル先生は戻るよう言うと思ったが、意外にもそれを叱らず、逆にロンもついてくるように言った。一体どういう風の吹き回しだろう?
そのまま私たちは不満たらたらの生徒たち(クィディッチ杯の中止はもうアナウンスされたらしい)とは逆に進んでいった。そして医務室の近くに差し掛かったところで、マクゴナガル先生はこちらを振り返らず言った。
「あなたたちは少しショックを受けるかもしれません。襲われたのは二人です」
その声はとてもやさしげで、しかし私たちは身体の中に冷たく重い石が沈んでいくような感覚を受けた。そんな私たちをよそに、先生はドアを開けた。
マダム・ポンフリーが五年生の女子生徒の上にかがみこんでいた。そしてその隣のベッドには。
「ハーマイオニー!」
そのベッドには、身動き一つ取らず、目を見開いたハーマイオニーが横たわっていた。