魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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触れ得ざる者としての未来

 西暦2098年3月15日、土曜日。

 国立魔法大学付属第一高校は卒業式を迎えた。無論、第一高校のみならず各地の魔法科高校八校も卒業式を迎える。新ソ連もといシベリア・モスクワ方面の情勢が国家解体によって鎮静化したため、厳戒態勢が解かれたためだ。

 向こうの情勢が緊張下にあれば、三高や六高は卒業式を延期する事態となっただけに、事態の鎮静化は当事者としてもその保護者としても喜ばしいことだろう。

 

 例年よりも早咲きした桜の木の下にあるベンチで、悠元は瞼を閉じて眠っていた。すると、人の気配を感じて瞼を開けると、そこには親友の姿があった。

 

「悠元、ここにいたのか」

「すまないな、達也。探させてしまったか?」

「いや、師匠のように気配を掴ませてくれないことはなかったからな」

 

 本来なら悠元はリハーサルの関係で式場にいる時間なのだが、今更やるべきことなどない状態なのに、態々型に填まる道理もないとリハーサルは師族会議議長として断った。これまで学校内で権限など使ってこなかったのだから、最後の最後ぐらいは許してほしい我儘だと思ってほしい。

 その意図を読み取ったのか、達也が深い溜息を吐いた。

 

「お前の場合はこの後新婚旅行があるからな。深雪が粗相をしないかだけが心配だ」

「そこはこれまで実妹のように育ってきた従妹を信頼してやれよ」

「それが出来たらな……」

 

 本来、生徒会役員の慣例があるために深雪は一般入試で入学の予定だった。ところが、昨年末の段階で深雪に推薦入学枠を設けると国立魔法大学側から打診があった。その話を受けることで何が起きたのかと言えば、累乗加速ばりに増えてしまう愛情溢れた夜間戦闘訓練(肉体言語的な意味で)だったのは言うまでもない。

 

 悠元と深雪は2月14日―――悠元の誕生日に入籍した。彼女を皮切りに愛梨まで入籍することになり、一気に七人の妻を持つ意味で気が重くなるが、これはまだ皮切りに過ぎない。しかも、結婚はしないがエリーが無事妊娠したという報告は受けた。エリーは子供が出来ても年に一回は日本を訪れる予定とのことで、平穏など欠片も無かった。

 彼女の報告によってさらに加速していく始末だが、それでも平然と耐え切って妻たちの腰を抜かしてしまう自身の規格外さにも溜息を吐きたい……と悠元は思った。

 

「ともあれ、もうじき本番だ」

「ああ、分かった」

 

 そうして始まる卒業式。大勢の父兄や来賓に見守られて、卒業証書の授与が厳かに進む。この辺りは悠元が経験した前世と何ら変わりない印象だった。

 今年度の卒業生は一科生、二科生、魔工科生合わせて195名。いつもならば30名ほどの中退者が出ているわけだが、たった五名で済んでいるのは奇跡的だった。特に魔工科と二科は誰一人欠けることなく卒業を迎えている。

 魔工科新設の影響で人数減少の皺寄せが二科に来ている形だが、それを差し引いても入学時に成績下位だった生徒が全員卒業を迎えるのは快挙と言えよう。尤も、それを成したのは彼らと同じ年に入学した一人の生徒の影響だが。

 

 卒業生の人数のみならず、進路先も大幅に影響した。通年ならば半分程度だった国立魔法大学進学者が推薦・一般合わせて160名と大躍進。一方、防衛大学校への進学は10名ほどに止まった。魔工科新設の影響とは言い難いが、カリキュラム見直しによる成績の向上は証明されたと言える。

 

 卒業生は最初に最優秀卒業生―――学業のみならず課外活動なども加味した評価で選ばれた生徒が最初に受け取り、以降は成績の如何に関わらずA組から順に受け取る方式だった。

 無論、最優秀卒業生こと最初に受け取ったのは悠元。そして、一番最後に受け取ったのは達也だった。二人とも百山から祝福の言葉を受け取り、確りと卒業証書を受け取った。

 

 そして、卒業生代表の答辞は深雪が務めることとなった。最初は悠元が務めることも考えられたが、昨年の入学式と同様に師族会議議長の祝辞を務めることで回避した。卒業生が自身に対する祝辞を述べるという頓珍漢な現象が発生しているが、こればかりは仕方がないと諦めて祝辞を読んだ。

 流石に門出をぶち壊す様な発言は控えたが、『現実はそう甘くない』と国家公認魔法技能師として卒業生や在校生、父兄や来賓を前に堂々と発言した。それに対して真っ先に拍手を送ったのは、他ならぬ九島烈や上泉剛三、神楽坂千姫という世界の命運と戦った者達。

 

「……解っちゃいたことだが、身動きが取れないんだけど」

 

 今年は全ての生徒が一つのパーティーに参加するということで、中庭でガーデンパーティーとなった。悠元は後輩たちに尊敬の眼差しを向けられながら応対すると、今度は妻や婚約者たちによる囲い込みに遭っていた。

 

「これも悠元の責任。今日ぐらいは羽目を外すから」

「流石に辱める気はないからな?」

「やはりお兄ちゃんは世界最強のジゴロ」

「悪魔合体させるな。というか、高校生活の最後でもオチを求めるな」

「のおおおっ!? 久々のアイアンクロォッ!?」

 

 悠元は深雪と雫、姫梨とセリアに囲まれていた。達也は達也でリーナやほのか、英美やスバル、千秋に囲まれている。こういう時に揶揄ってきそうなエリカはレオを捕まえている為、何事も無くてよかった……と安堵していいのかは不明だが。

 男子から羨望の眼差しは受けるものの、敵意などは一切感じられない。自分や達也にそう言ったことをした場合、漏れなく深雪からの制裁を受けることが分かっている為だ。

 

「泉美ちゃんもそうだが、香澄ちゃんもこちらへ来ようとしないな」

「本人たちにも聞きましたが、『どうせ家で会えるのだから、今無理をする必要もない』とのことで」

「迷惑とは思っちゃいないんだが、本人たちがそう決めたのなら無理強いも出来ないな」

 

 その当人たちは光宣と理璃に話しかけていた。初々しい彼らを揶揄いたい部分もあるが、既にお互い婚約している身なので節度は弁えている。

 

 セリアから『達也と深雪が婚約した後の展開』を聞いていたが、この世界では三高も卒業式の為に将輝や真紅郎が出張ってくるという事態は無くなった。ただ、それを引き換えに卒業式が終わり次第東京へ異動してくるそうだ。

 新ソ連方面の情勢がいったん沈静化したため、国家公認戦略級魔法師として首都に詰めてもらう建前であり、一条家の別宅で暮らしながら国立魔法大学へ通うそうだ。立場もあって防衛大学校へ進むのかと思ったが、これについては一条家から事情説明を受けた。

 

『―――色々考えましたが、息子には社会通念などを教え込まなければならないと強く感じて、国立魔法大学への進学を勧めました』

 

 卒業式の1週間前、神楽坂家の別邸で対面した一条家現当主・一条剛毅は悠元に対してそのように説明した。元々は将輝の妹である一条茜の転校手続きを神楽坂家に依頼することと、その際に茜の戸籍を一条家から抜いて高槻家が引き取ること。

 結局千姫は悠元に対して偉そうな態度を取った面々を本家で処断することはせず、分家単位で各々の判断を取らせた。茜の引き取りは分家による本家への謝罪の一環で実施する。

 

 実害と言えば精々真剣を振るわれた程度だが、剛三の本気の刃を交えたことがある人間からすれば『余りにも寝惚けた太刀筋』という評価しかもらえないだろう。いくら世界が広かろうとも、木刀で海を割ってしまう芸当なんて剛三以外に出来て欲しくはない、と切実に思う。

 その位の実力が備わっているのならば、千姫もあまり悩まずに次期当主を選定できたと思われる。今更終わってしまった結果に“もしも”は求められないが。

 

「ただ、結婚というか入籍まで告知しといてあのバレンタインのチョコの数は流石に引いたわ。お礼は全部返したが」

「そうやって律儀にお返しするから、頼りがいのある殿方だと思われるんじゃないかと」

「社会的な礼儀を返してるだけなんだがなあ」

 

 将輝のことがある為、年初めに師族会議議長として手紙を送った。第一婚約者である深雪と入籍し、その他の婚約者については時期を見た上で入籍をすることも併せて記載しておいた。バレンタイン前に告知したのにも拘らず、送られてくるチョコの数は減る兆しを見せなかった。

 深雪以外の婚約者たちからは事前に貰うパターンとなり、深雪からはチョコを貰う代わりに結婚指輪を贈った。流石に学校で填めている訳にはいかないため、ネックレスの形で身に付けている。

 その日の夜のことについては……最早聞くまでもない恒例行事かもしれない。

 

「これから忙しくなる日々は確定だが、今ぐらいは平和を享受したい」

 

 前世で身内絡みを嫌と言うほど経験し、今世でも結局は身内絡みに巻き込まれることもあった。

 でも、悠元は前の人生を決して否定はしないし、今の人生も否定しない。

 それはこれまでを構成している神楽坂悠元の為人は、二つの人生を通して得たもののなのだから。

 いつもより早く開花した桜が散り始め、桜の花びらが風に乗って舞っていく。

 桜色の花びらに彩られた空は、綺麗な青を佇ませていた。

 

 

 

 

 三矢家を規格外の存在に仕立て上げた一人の少年。

 彼の存在は劣等生たちを優等生にまでのし上がらせ、誰も手が付けられなかった劣等生の兄が優等生となるほどの実績を稼いだ。

 その縁で優等生の妹と縁を結んだだけでなく、様々な人との縁を繋ぎ、更には世界との縁すらも繋いだ。この世界の内に止まらず、並行した存在の世界ですらも救おうと尽力した。

 

 神楽坂悠元は国立魔法大学へ進学。トライローズ・エレクトロニクス理事長兼現師族会議議長である人物が国立魔法大学へ進学することは日本魔法界で疑問を呼んだ。だが、日本政府が異を唱えずに沈黙したことで、噂は瞬く間に消えた。

 司波達也・深雪兄妹(実際には従兄妹)も同じく国立魔法大学へ進学。この三人はカリキュラムの都合で一緒に行動することが多いものの、達也は同じく進学したリーナやほのかたちと一緒に行動している為か、悠元は深雪と一緒に行動していることが多い。

 『恒星炉』関連は理解のある所属ゼミに在籍しているが、事業準備は既に高校の段階で終えており、財界とのすり合わせは北山家が仲介してくれている為に大きな仕事はない。なので、悠元や達也は大学生活を謳歌出来ているという訳だ。

 

 先に名を挙げた光井ほのかやアンジェリーナ・シールズ、北山雫やエクセリア・シールズ、六塚燈也などと言った元一科生組。そして千葉エリカ改め香取エリカや西城レオンハルト、吉田幹比古や柴田美月などの元二科生組も大学生活を謳歌している。しかも、彼らの所属ゼミも悠元や達也と同じだ。

 

 実を言うと、悠元が進学する際に三矢美嘉(2098年春には入籍して十文字美嘉となる)が大学教員として採用され、悠元や達也の所属ゼミを美嘉が受け持つこととなった。そのゼミには他のゼミにいた十文字克人や二木真由美も転属となり、元一高生が主体となる一大勢力になっていた。

 その集まりには三高出身者もおり、一色愛梨や四十九院沓子、十七夜栞もそのゼミに所属している。ゼミでは『魔法教育の発展に寄与する魔法教育理論の研究』を主題としており、美嘉も高校時代にはぶっ飛んだ内容で論文コンペに応募して蹴られたが、その内容を精査した大学側が懇願して教員になった経緯がある。

 実績を第一高校で示している以上、誰も文句など言えなかった大人の事情が存在するのだった。

 

 三高出身と言えば、一条将輝と吉祥寺真紅郎も何と同じゼミに所属している。悠元と将輝は深雪を巡って対決した恋のライバルだが、昨年の九校戦で全てにケリをつけた。なので、将輝も納得して割り切った関係を構築し始めている。

 一方の真紅郎は悠元と構築していた関係もあり、すんなりと打ち解けていた。九校戦でのことは純粋なライバル心から来るものであり、魔法研究者として元[トーラス・シルバー]である悠元と達也のことを一目置いている。なお、一条家次女との仲は親公認で引き返せない様子。

 

「ごしゅじ……コホン。悠元様、そろそろお時間ですよ」

「ありがとう、深雪。そういうところは律儀だよな」

「私がそう望んだからです」

 

 この先の未来が激動を迎えることは理解している。

 

 だからと言って、見て見ぬふりなど出来ないことも納得している。

 

 ならば、堂々とその力を示すことで世界の在り方を問い続けよう。

 

 それが、『触れ得ざる者』として自分に出来る役目なのだと。 

 




 これにて、原作全32巻分の本編は完了となりました。そして、約5年にも及ぶ本編はこれにて完結となります。続編の部分はそれとなく混ぜていましたし、未解決になっている部分は残ってしまいましたが、これが私なりに考えた物語の結末です。
 もうちょっとネタは引っ張ろうかと思いましたが、このままグダグダにするよりはきちんと締めたいという想いでこうなりました。

 ほぼ見切り発車で書き始め、オリジナル要素が大量に増えて破綻しないか冷や冷やでしたが、原作が余りにも世紀末世界すぎて、こうでもしないと改善されないという有様に冷や汗が流れる始末。
 途中で二人にとっての敵を増やそうかとも思いましたが、こうなると並行世界や異次元から引っ張ってくる他ないという有様に。その一端で書いたのが七聖抜刀編のエピソードにあたります。
 そこでの反応を見た結果として、敵を増やすのではなく苦労人となる味方を増やす方向性に舵を切りました。ジェラルドとハンスには強く生きて欲しい。あとフォーマルハウト。

 途中で皆様にご指摘されて大幅に書き換えたり、誤字・脱字のご指摘を頂いたりと拙い文章力でしたが、皆様の感想に支えられたお陰でここまで走り切ることが出来ました。改めてお礼申し上げます。

 オリキャラと深雪がくっついた場合、達也に対する影響力などを考察していくと、結構楽しかったのは否定しません。この世界線では本当の母親となった真夜が暴れ倒して達也が苦労するでしょうが、そこは彼の運命だと思います。




 今のところ、この続きを書く予定はありません。理由は多々ありますが、一番の理由は新たに別の二次創作を書き始めているためです。ここで述べるのはどうかとも思いますが、この前に書いていた落第騎士は未完のまま凍結続行となります。


 改めて、長きに渡って駄文ながらもお付き合いいただき、誠に感謝いたします。
 
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