人間界レベルの料理人がまた転生した   作:ベリアル

9 / 9
第9話

彼が勢いよくクロッシュを開けると、そこにはベージュのソースがかかったパスタがあった。

 

その瞬間、私の鼻から入ったパスタの香りが突き刺さり、口内に涎が溢れ出す。言うまでもなく、口から漏らすような真似はせず、飲み込んだ。

 

培ってきたマナーが理性を保ち、がっつくことはせず、ゆったりとした動作でフォークを手に取る。

 

それでも、頭の中では早く食したいという気持ちでいっぱいだった。フォークがパスタに届くまで3秒もかからない。この時ほどゆとりのある礼儀作法が憎らしかった。

 

パスタは見た目通り、カルボナーラだろう。

 

問題なのは香りだ。

 

今まで幾度となくカルボナーラを食べてきたが、こんなにもダイレクトに食欲に突き刺さるカルボナーラは初めてだ。濃厚でもあるにも関わらず、鼻を摘まみたくなるほど強烈な嫌悪感もない。

 

フォークがパスタに刺さり、回すとクリームの濃厚さがうかがえる。普段よりも少しだけフォークを回す指に力が入っている。まるでソースのうま味そのものが濃縮されているようだ。

 

ねっとりとパスタに絡むソースはスープパスタにはない重量感があった。

 

いよいよ口の中に向かい入れられたパスタ。

 

噛むより先に舌に触れた時、イメージしたのは卵黄だった。凝縮された卵黄のうま味が口に入って、解き放たれた感覚だった。舌触りはなめらかで、ソースが舌に絡みつく。

 

パスタを噛めばプツプツと切断されていくのが聞こえる。柔らかかめに茹でられているのは、私たちの年齢を考慮してのことだろう。

 

噛み切ったパスタを飲み込むと、いつの間にか巻いていたカルボナーラを口にしていた。自分の意志ではなく、本能的な行動だろうか。いや、今はただ、このカルボナーラだけに集中しよう。

 

「「ごちそうさま」」

 

私とえりな様は同時に食べ終えた。

 

食後の水を飲んで、カルボナーラへの余韻に浸る。

 

「どだった?」

 

軽い口調で尋ねる少年にえりな様は、笑いながら告げる。

 

「まあまあね。うん。まあそこそこおいしかったわね。あなたの腕前、認めてあげるわ」

 

なんか見苦しい。

 

「ハハッ、お粗末さん。」

 

彼は私たちの前に座り、同じカルボナーラを食べ始める。

 

箸で。

 

「ズゾゾゾっ!」

 

ズルズルとまるでラーメンをすするかのように。

 

そっかァ~~~~~……

 

パスタって……箸ですする料理なんだ…………

 

「って行儀悪いわ! パスタはすするものではないし、なぜフォークを使わん!」

 

「やらない?」

 

「やらんわ!!」

 

「ケッ、行儀のよいこったなぁ!」

 

このっ、こいつ……!

 

すすっている割には、カルボナーラの汁は飛んでこない。

 

「おおー」

 

えりな様は目の前のアホのマナーも糞もない食べ方に瞳を輝かせていた。まるで自分もやってみたいというかのように。

 

いかんいかん! えりな様は良くも悪くも純粋なお方だ。こんなアホに影響を受けたら、えりな様の教育によろしくない。

 

「フォーク使え!」

 

「へいへい」

 

渋々フォークを受け取る男にため息が溢れてしまう。

 

料理の腕はあるようだが、マナーなどは要注意だ。

 

「ズゾゾゾっ!」

 

「すすんなと!」

 

「ふべっ!」

 

私はバカの頭を叩き、えりな様は笑う。

 

その表情に私まで、頬が緩んでしまう。こんなえりな様を見たのは何時ぶりだろうか。

 

それからというもの、私たちは何時でも行動を共にするようなった。

 

料理研究はもちろん、えりな様の側近として、スケジュール管理・護衛などをこなし、えりな様を万全にサポートする。

 

そんな日々のある日、私は男の部屋に訪れていた。

 

「お疲れ様。緋沙子先輩。えりな様は?」

 

「もうお休みになられている」

 

時刻は夜中の12時を回っている。

 

沸騰した電気ポットを2人分のカップ焼きそばに注ぐ。

 

「よしよし。準備はできてんだろうな?」

 

「愚問。私はこれを使わせてもらおう。温玉だ!」

 

私は用意していた温泉たまごを男に見せつける。

 

「俺はこいつだ。納豆ォ!」

 

今宵、私たちはカップ焼きそばのトッピングに合うもの勝負を始めていた。

 

これまでも何度か、白米に合う漬物勝負などをしてきたが、えりな様はこの勝負の件を知らない。というのも、この勝負は私と男の個人的なものである。加えて、この勝負は今回のように体にあまり良くないジャンクフードもしょっちゅうあるので、えりな様は参加させられない。

 

知ったら、絶対に参加したがる。

 

なので、この勝負は2人しか知らない。

 

「うん、うまいじゃん。温玉。黄身がまろやかでいいね」

 

「納豆も臭みと粘りが不安だったが、全然そんなことないな。ソースの香りで納豆の臭さが消えてる」

 

「温玉はもう一個あってもいいかな?」

 

「フフ、贅沢者め。そういえば、こないだのキノコ、覚えてるか?」

 

「あのどっかのお偉いさんに出したやつ?」

 

「そう、あの悪魔的とか、味わえない、クズにはとかいってたあれだ。あのキノコ、つやがやたら良かったが、どうやった?」

 

「鮮度が良かったからじゃね?」

 

「鮮度が良かったからってああはならんわ。前から思っていたが、お前の調理法はどこか常軌を逸している」

 

「んー、ふふ。そんなことはないよ」

 

誤魔化したように笑いながらも、なにか勘づいた私を見て楽しんでいる。

 

この男に、私とえりな様は幾度も勝負を仕掛けたが、全戦全敗されている。この間の審査員となった金融業の幹部には、キノコの鍋を用意した。

 

問題なのは、それが毒キノコであること。

 

見るからに毒を持っているアピールをしているキノコを捌き、焼き、煮込み、差し出したのだ。

 

見栄え、香りも素晴らしい。しかし、審査員は毒キノコであると分かっているので、尻込みをしていた。食べるのを遠回しに拒絶していた。

 

そんな時、彼の上司がクカカカと笑いながらも、審査員の男に食べるよう促す。食してみよ、そう言うと、審査員の男は刹那の沈黙、一気にかっこんだ。

 

その後、毒の被害はないどころか、健康体になったとお礼の手紙を頂くほど感謝をされた。

 

ただ

 

「いつか話すよ。先輩」

 

「まったく……。そうだ、えりな様の誕生日の件なんだが」

 

「プレゼントは用意してるよ」

 

「ならいいが、変なものにするなよ。お前のせいでこないだなんて」

 

「いやいやいや、先輩にも責任の一端が」

 

「ほざけ」

 

覚悟しろ。

 

いつの日か、お前の背中を追い抜いてやろう。

 

 

 






この作品はテニヌの試合感覚で見てほしいです


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(必須:20文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

最強はポットクリン(別題:その無敵性を絞り上げる)(作者:淵岳 月夫)(原作:HUNTER×HUNTER)

死にたくない。▼だが、死なないだけでは終われない。▼日本で死に、スラムに生まれ落とされた男は心に生と死の天秤をかかげながら、綱を渡るように物語を歩む。▼目指すのは、まだ見ぬ物語の続き──暗黒大陸。▼※念能力の考察を中心とした話です。考察を元にした独自設定もあります▼※おおよそヨークシン編を本編とする短い連載です▼※ sesamer様の『流れ者の考察記録』から…


総合評価:5542/評価:8.62/連載:7話/更新日時:2026年09月04日(金) 18:02 小説情報

変身せよ、強き自分へ 臆病者は変われるか?(作者:カフェイン中毒)(原作:MARVEL)

 生まれ変わった臆病者が自分の力に向き合い、変わっていく話


総合評価:25704/評価:9.03/連載:25話/更新日時:2026年10月10日(土) 21:04 小説情報

原作知識持ち転生者が蜘蛛子にヤンデレられる話(作者:蜘蛛子たちのヤンデレが見たい)(原作:蜘蛛ですが、なにか?)

ヤンデレな蜘蛛子を見てみたかったけど誰も書いてなかったので書きました▼書いてたら他キャラのも見たくなってきました


総合評価:5611/評価:8.54/短編:9話/更新日時:2026年07月05日(日) 00:00 小説情報

とある原石の神造人形(エルキドゥ)(作者:海鮮茶漬け)(原作:とある魔術の禁書目録)

 主人公は知らぬ間に死んでしまい、よく分からないうちに転生させられ、目が覚めたらエルキドゥになっていた!▼ 血潮は泥(多分)、心は硝子(実は飴細工)、▼ 幾度の戦場跡を越えて不敗▼ ただの一度も(聖地巡礼からの)敗走はなく▼ ただの一度も理解されない▼ 彼の者は常に独りヲタク部屋で勝利に酔う▼ 故に、その生涯に答えは得た(えっ)▼ その体は、きっとコスプレを…


総合評価:17228/評価:8.34/連載:149話/更新日時:2024年04月10日(水) 00:00 小説情報

伊吹萃香もどきが行く(作者:葛城)(原作:HUNTER×HUNTER)

滑って転んで目が覚めたら……伊吹萃香になっていた!?▼


総合評価:25731/評価:8.6/連載:15話/更新日時:2024年03月11日(月) 00:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>