ヒーロー協会職員・アザミさん(20歳・一人暮らし)の人には言えない趣味の話。なおタイトルオチ

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※セルフ罰ゲーム企画。三年と少し前に書いて、メモ帳の肥やしになっていた物です(小声)。



VSテカガミケ

 

 ヒトが生きていく上で最も大切なものは、一体なんだろうか。

 食べ物? 確かに大切だ。食べなければ死んでしまうし。

 衣服? それも大切だ。服を着ないで外を出歩こうものなら社会的に死んでしまうし。

 住む場所? うん、なければ生活を送れないし、大切なものだ。

 睡眠? あれは、まあ、取らないようにしていてもいつの間にか取ってしまうものだし、うん。大切だけど。

 

 答えは、『趣味』だと私は考えている。あるいは『生き甲斐』と言ってもいいかもしれない。それがなければ例え衣食住が足りていたとしても、ヒトは生きていけない。生きていこうとしない。

 だから――――――。

 

「――――アザミちゃん受付お願い! 今C級の人来てるから!」

 

「はい、ただいま!」

 

 少しぐらい他人様に言えないような趣味を嗜んでいたっていいはずだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 私にはとてつもなく恐ろしいお婆様がいた。一度(ひとたび)お怒りになれば、それはそれは怒髪天を突かんばかりの形相で雷を落とす鬼のようなお婆様が。

 私はお婆様によって、とても窮屈な生き方を強いられてきた。食べ物も、着る服も、寝る場所も、将来のことさえお婆様に決められていた。

 でも、逆らうことはできなかった。私にはそんな『力』はなかった。私はお婆様に従う他なかったのである。

 家では己を押し殺し、外では己を隠す。そんな日々が、自分が死ぬ時まで続くのだと、そう思っていた。

 

 しかしある日、お婆様は亡くなった。それはもう、あっさりと。

 信じられなかった。あの時の光景は今でも忘れられない。お婆様の死と一緒に、私を束縛する鎖が弾け飛ぶ音が聞こえた。

 その後、私は高校卒業と同時に親元を離れ、一人暮らしを始めた。

 そして、ヒーロー協会で働き始めたのである。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ふぅ…………」

 

 C級ヒーローの対応が終わり、椅子の背もたれに身体を預け脱力していた。

 ここはB市にあるヒーロー協会支部、そのオフィスだ。内装はまあ綺麗と言っていいだろう。シンプルだが、決して手抜きというわけではない。本部には遠く及ばないものの、それなりに金のかかっている建物である。いざとなればシェルターとしても機能するらしい。らしい、というのは未だそこまでの事態に遭遇していないからである。正直、シェルターが必要になるレベルの事態は起こってほしくないのだけれど。

 ここの支部の主な業務内容は、大きく分けて二種類。一つはヒーローに関係すること全般。もう一つはそれ以外の一般人向けのこと。前者は、活動報告の受付、ヒーロー活動全般についての相談、災害や事件、怪人等の情報の収集、及び公開など。後者は、一般市民への対応、ヒーローへのファンレターの受付、寄付金受付、苦情対応、などなど。

 今やもう一つの市役所のような場所だ。

 ヒーロー。かつては昔話に出てくる英雄のような傑物のことを指したが、今は違う。ヒーロー協会によって認定された人たちのこと。四段階にランク分けされていて、上からS級、A級、B級、C級。ランクが上に行けば行くほど、力が強く、ヒーローとしての知名度も高い。ついでにいうと給料も高い。

 その中で唯一C級ヒーローには、週に一度ヒーロー活動をして、それを協会に報告しなければならない、という規則がある。何せC級ヒーローは数が多い。金持ちのヒーロー協会と言えども、働かない人間に出す金はない。まあ言ってしまえばやる気がない人の足切りだ。ヒーロー活動とはいうものの、人助けなら何でもいい。C級なら、ほとんどボランティアのようなもの。

 報告を出すわけだが、一週間という期限がある以上、期限を過ぎただの過ぎてないだの、これはヒーロー活動だのこれは活動として認められないだの、そういったゴタゴタが発生しえる。というか、実際何件も何件も発生した。ノルマを達成できなければヒーロー名簿の登録を抹消されるとあっては、もはや必然か。故にヒーロー関係で起こるあらゆる事柄に対応するために、ヒーロー協会支部は設置されたのである。

 

「アザミちゃんご苦労様」

 

 はい、これコーヒーね、と後ろから渡された紙コップを受け取り、口を付ける。苦い。顔をしかめ、すぐにコーヒーをデスクに置いた。振り向いて、抗議の視線を送る。用件は先ほどのことである。

 

「…………課長、わかっていて私に頼みましたね?」

 

「何のことかな?」

 

(とぼ)けないでください。『これは立派なヒーロー活動だ!』って散々ゴネられたんですから」

 

 視線の先で課長は肩をすくめてみせた。

 

「先週も来たんだ、あの人。活動報告だって、その時も同じような感じでね」

 

「それで私に回したんですね」

 

「ははは、ごめんごめん。お詫びにコーヒー奢ってるだろう」

 

「苦いのは苦手なんです」

 

「おっと、そいつは失敬」

 

 おどけたようにウインクする課長。何だか馬鹿らしくなってきた。くるりと課長に背を向ける。

 先ほどは中断されてしまったが、さっさと書類を片付けよう。手に取ろうとした瞬間、

 

「ぶ、ブチョー課長! 緊急のお電話ですっ!」

 

 同僚の一人が慌てた様子で駆け寄ってきた。その手には受話器が握られている。

 受話器を受け取ってすぐに課長の表情が変わった。

 

「わかった…………ああ、すぐに放送をかける。そちらも、くれぐれも頼む」

 

 短い応答。通話時間は一分にも満たなかった。しかし、課長の真面目な声色から、どのような話だったのかの予想は付いた。気づけば、オフィスにいた職員全員の動きが止まっていた。皆、課長の方を向いている。

 課長は受話器を同僚に返すと、普段とは打って変わった厳かな調子で口を開いた。

 

「B市北部に怪人が出た」

 

 至急、B市全域に警報を。課長の声は決して大きくはなかったが、しかし全員に届いた。同僚たちが弾かれたように行動を開始する中、

 ――――ああ、今日は慌ただしい日になりそうだ。

 私はそう独りごちた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

『B市北部に怪人が出現しました』

 

 B市全域に流されている放送は、当然だが支部内部にも流されていた。支部を訪れていた客は不安げな顔をしているが、大人しくロビーの椅子に座っている。この支部もシェルターになることを知っているのだろう。あるいは距離があるからと高をくくっているのか。どちらにせよ、パニックを起こされるよりはマシだ。

 現在の災害レベルは虎。確かB市北部はB級ヒーローが一人活動拠点にしていたはずだが…………まあ恐らく返り討ちにされているだろう。

 

「誰かA級以上のヒーローに連絡ついたか!?」

 

「まだです!」

 

「ダメですこちらも繋がりません!」

 

 オフィスを飛び交う半ば悲鳴のような声。B市、及び近隣市のA級ヒーローには全員連絡がつかなかった。私も電話をかけたが見事に留守電だったよあの野郎。この調子だとA級ヒーローが到着するのはまだ先になるだろう。もしかしたら、放送を聞いて既に現場に向かっている可能性もあるが、楽観視は禁物だ。それに、連絡がついたところで現着に時間がかかっては意味がない。私は繋がらなかった受話器を静かに置いた。席を立ち、唾を飛ばしている課長の元に歩いていく。

 

「課長」

 

「アザミちゃん」

 

「現場に行って避難誘導をしてきます」

 

「ダメだ! そんな危ないこと――――」

 

「大丈夫です、私逃げ足には自信ありますし、それに」

 

「それに?」

 

「手遅れになってからでは遅いですし」

 

 私に折れる気がないことを感じてくれたのだろう。課長はさも頭が痛いといった風にため息をついた。

 

「絶対、怪人には近づかないこと。みんな避難始めてるから、近づく必要なんてない。約束、守れる?」

 

「わかってますよ課長、そんな命知らずじゃありません」

 

 渋々だろうが、許可も下りた。行動は迅速に。私物を入れているボストンバッグを肩にかけ、

 

「では、行ってまいります!」

 

「あっ、ちょっ、待って車の鍵」

 

 何か言いかけている課長の声をBGMに、私は支部から飛び出していった。

 

 

 

「車もなしにどうやって行くつもりなんだあの子……?」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ちょっと()()を出して北に向かって走っていけば、すぐに逃げ惑う人波に飲まれた。あちらこちらで怒号や悲鳴が上がっている。皆、他人を気にする余裕などなく、このままでは怪人とは関係ない場所で怪我人が出てしまいかねない。

 適当な所で両手をメガホンの形にし、声を張り上げる。

 

「ヒーロー協会職員の者です! 皆さん、落ち着いて避難してください!」

 

 声の届いた人の何割かが落ち着いてくれたようで、少し流れがスムーズになった。

 

「ヒーロー協会職員の者です! ただいま現場にヒーローが向かっています! 慌てず、落ち着いて避難してください!」

 

 同じように繰り返せばやや混乱は収まってきた。ざわつきは残っているが、これなら転倒した人が他人の下敷きになる、なんてことにはならないはず。

 それにしても何でこんな避難が遅い。思わず舌打ちしたくなるのをこらえ、流れに逆らって北へと歩みを進める。

 現場まであと少し、というところで後ろから誰かに掴まれた。振り返ると、女性が腰の辺りにがっちりしがみついている。

 

「お、おおおお願いです! むむ息子がまだ、まだ!」

 

「奥さん落ち着いて!」

 

 どう見ても混乱している女性に落ち着くように言うが、『息子が』と呟くだけでさっぱり離そうとしない。この非常時に、これ以上時間を使うわけにもいかないので、避難中だった男性に女性を押しつけ…………もとい任せ、私は走り出した。

 あの女性。子供とはぐれたか、子供が取り残されたか。何にせよ、避難中にはよくあることではある。しかし、怪人が現れるのは何も今回が初めてではない。それなのに避難があまりにももたついている。となれば、避難を遅らせている要因が、どこかにきっとある。

 

 

 

 避難する人もだいぶ(まば)らになってきた。そろそろ頃合いか。現場に行く前に、細い路地に身体を滑り込ませる。昼間でも暗い路地裏。監視カメラの目も届かず、人々の注意も怪人に向いている。近くに生き物の気配がないことも確認した。

 今回はこの場所がベストだろう。

 ポケットに忍ばせておいた私物のレジャーシートを素早く広げる。地面に敷いたシートの上に持ってきたボストンバックを置き、すっかり皺の付いてしまったパンツスーツを脱ぎ始めた。

 

 

 

 ………………さて。ここから先は、趣味の時間だ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 慣れた手つきで着替えは終了。片付けもパパッと手短に済ます。ここからは全力で向かえる。

 そのまま路地裏から出るのも芸がないのでビル壁面の凹凸(おうとつ)を利用して上り、ビルの屋上から飛び降りるようにして表通りに躍り出た。いくつか視線を感じる。避難中の市民のものだ。バッチリ見られているが構わず本気で走る。時間的余裕がなさそう、というのもあるが…………何より、もう手遅れだし。

 嘆息すると、仮面の内側に熱気が籠もった。念のため仮面がズレていないか確かめる。…………よし、大丈夫。面は割れていない、二つの意味で。

 それにしても、うっかり人の流れを考慮し忘れていた。着替え始めた時には周りに誰もいなかったとしても、徐々にだが避難は進んでいる。着替え終わった後周囲が無人とは限らない。これは、素直に路地裏から出てこなくて正解だったか。もしも見られていたら正体を推測されて大変なことになっていた…………かもしれない。我ながら臆病だとは思うが、秘密を隠し通すならこれぐらいの気概が必要だろう。

 怪人が出た場所はこの先だが、何か違和感がある。よくよく目を凝らすと、ビル同士の間に細く光る何かが無数に張り巡らされていた。いや、ビルだけではない。他の建物との間にも糸のようなものが伸び、人々の通行を妨げていた。糸が幾重にも建物に巻きついている様はまるで巨大な(まゆ)

 わずかな隙間から這い出そうとしている人々。こうして見ているだけでも二、三人が何とか這い出し、逃げていく。

 

「こりゃ、避難も進まないわけだ……」

 

 この様子だと糸の向こう側にまだ多くの市民が取り残されているのだろう。大通りを注意して進む。繭のこちら側に糸はない。糸は(トラップ)(たぐ)いではなく、人間を逃がさないようにするためのものと考えるのが妥当か。

 糸の壁のようになっている箇所まで近づいた。繭の中から抜け出そうともがく男性がこちらを向き、目を見開いた。

 

「あ、あなたは……!」

 

 何か言われているが、努めて無視。「噂は本当だったんだ!」とかほざいている声なんて聞こえない。

 糸を指で(つま)み、観察する。

 かなり細いが黒や茶、白の色が付いていること。指に張り付くような手触りではないこと。以上の二点から、これが蜘蛛(クモ)の糸のような性質ではないことはわかる。が、はたして引きちぎれるだろうか。ただの糸ならば束になったところでこの程度問題ないが、もしもこれが鉄線やピアノ線のようなものだと困る。今日は武器を持ってきていない。引きちぎろうとしたら手がズタズタ、なんて事態は避けたい。痛いのは御免だ。

 解決策は――――――。

 

「そこのあなた」

 

「は、はい!」

 

 上半身まで抜け出た男性に声をかけた。訊きたいことは一つ。

 

「この糸はドーム状になっていますか?」

 

「へ?」

 

「この向こうは上まで覆われていますか?」

 

「あ、い、いえ!」

 

 ビンゴ。障害物を避ける手立てが見つかった。

 軽くステップを踏んで調子を整えていると、下半身まで抜け出せた男性が話しかけてきた。

 

「あ、あの! どうするんですか!?」

 

「それは」

 

 勢いよく踏み込み、

 

「こうするんです」

 

 ビルの側面を駆け上がった。

 糸をどうにかしないで行く方法、それは上からの侵入である。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 B市の町を占拠している怪人は、ビルの上からでもあっさりと見つかった。

 

「醜い人間どもは全員このニャー、テカガミケ様の餌にしてやるニャー!」

 

 でかでかと叫ぶ災害レベル虎の怪人。その見た目は、端的に言ってしまえば二足歩行する三毛猫だった。しかも顔がとてつもなくブサイクな猫。体長は目算で三メートルから四メートル。頭部にはうねうねと(うごめ)く長髪。右手には大きな手鏡。

 

「ニャアァァァァゴ!!」

 

 怪人は今も逃げ惑う人々に向けて髪の毛を放ち、ぐるぐる巻きにしている。

 

「ニャッシッシ…………やはりニャーの美しさに(かにゃ)う人間はどこにもい(にゃ)いニャッ!」

 

 手鏡を覗き込む怪人の足元をよく見ると、どこか見覚えのある人物が転がっていた。地元を守らんと立ち上がったであろうB級ヒーローは、案の定返り討ちにあったらしかった。

 しかし、

 

「うっわ……」

 

 つまり糸だと思ったのはアイツの髪の毛だった、と。

 控えめに表現しても、

 

「気色わるっ」

 

 場違いだと思いつつも、呟かずにはいられなかった。

 

「にゃ、ニャーの悪口を言う愚か者はどこニャー!?」

 

 何かトラウマでもあるのだろうか。ブサ猫怪人が血相を変えて怒鳴り散らしてきた。ブンブンと頭髪を振り回し、芋虫状態の市民を睨みつけている。

 この距離でも独り言を聞き取るとは、相当な地獄耳である。

 しかし、参った。市民の拘束を優先しているようだったので、弱点を探りがてら様子見に徹していようと思ったのだが…………どうも虎の尾を踏んでしまったらしい。このまま見ているわけにはいかなくなった。

 発言にも要注意と脳内メモに記しつつ、一般市民に八つ当たりが行かないように、さっさと飛び降りる。

 下から吹き付ける風でスカートがバサバサとはためく中、見えないように押さえながら着地。

 その音を捉えたのだろう。怪人の猫耳がピクリと動いた。

 

「貴様だニャー!? ヘンテコ(にゃ)格好しやがって、八つ裂きの刑ニャー!!」

 

 こちらの姿を見た途端、怪人は一も二もなく飛びかかってきた。

 左手で切り裂くつもりなのだろう。考えなしの単純な攻撃。まるでテレフォンパンチだ。指先に五本、鋭い爪が生えているが、まるで危機感を覚えない。

 大振りな拳を、わずかに身体をズラして避ける。余程、頭に血が上りやすいタイプなのだろう。これなら戦闘中に策を弄することもできないだろうし、扱いやすそうだ。

 ビルの屋上での失言から導き出される、この怪人の激昂ポイントは恐らく、容姿。特に(けな)されることが何よりも堪えられないとみた。

 右手を差し伸べ、殊更に意識して猫なで声を出す。

 

「さあさブサにゃんこさん、お手はこちらですよ?」

 

「ブサニャッ!? き、キシャアアアアアアッ!!!」

 

 いっそ気持ちがいいほどに、怪人は一瞬で沸騰した。(ワン)(ツー)(ワン)(ツー)。速度こそ増したがコースは見え見え。やはりこの手のタイプには挑発がよく効く。

 さあ、私の大事な趣味を『ヘンテコな格好』などと言った報いを受けろ。

 隙間を縫って肉薄し、顎に掌底をぶちかます。

 

「ギニャッ!?」

 

 よろめいたところをすかさず足払い。

 念のため、ズテンと尻餅を付いた怪人の腰骨を蹴り砕いてから、十数メートルほど距離を取った。

 うめきながら手をばたつかせる怪人テカガミケ。体勢を立て直そうとばかりに動いているが、無駄だ。何のためにわざわざ腰の骨をやったと思っている。腰骨以外も一緒にボッキリ折ってしまったかもしれないが…………まあ、罰が当たったのだと思って許してもらいたい。『ヘンテコ』ちゃうし。

 やがて怪人は一際大きな悲鳴を上げると、動かなくなった。かなりの激痛があるはずだが、それでも手鏡を手放さないのは、根性からか、それとも――――。

 いや、怪人研究は私の仕事ではない。餅は餅屋に、怪人研究は本職の研究者に。そのためにも、ちゃっちゃと完全無力化してしまおう。いくら気味が悪かろうが、あの毛髪は厄介だ。

 警戒しつつ、怪人の近くまで歩み寄る。

 まだ怪人に意識はあるようだった。赤い泡を吹きながら首だけ持ち上げ、こちらを見つめている。

 

「お、お、お(みゃあ)は一体(にゃん)にゃんだ!?」

 

「私が誰かって? そりゃあ……」

 

 答えかけて、言いよどむ。

 まず、ここまでやらかしているので一般人とは言い難い。服装も普段着とはかけ離れているし、第一、顔を隠している。自分でも、そんな一般人がいるなら教えてもらいたいぐらいだ。

 しかし、自分の職業――――ヒーロー協会の職員だとは口が裂けても言えない。避難誘導のため現場近くまで行くと言って職場を出てきたのだ。漏らしたら最後、簡単に個人を割り出されて、今までの努力がパアである。

 では、私は何だ? 私がしていることは?

 私は私でしかない。臆病で、他人の目が気になって仕方ない。お婆様に逆らう勇気もなくて、その癖お婆様がいなくなった途端に趣味に走った。どうしようもなく自分本位な奴だ。

 やっていることはヒーローの真似事。お婆様に押さえつけられていた反動から良いことをしてみたら、それで少し気分が良くなって。ちょっぴり気持ちよくなるから、人助けがしたい。そんな、どこまでも自分勝手な理由だ。

 でも自分のためにしているこの行為が、他人のためになっている。

 ならば、今の私は、今この瞬間だけは、

 

「ただの通りすがりのヒーローですよ」

 

 唇を噛み締め、正真正銘全力の一撃を怪人に叩き込む。怪人が道路にめり込み、アスファルトが(めく)れ上がる。

 

「…………ま、趣味なんですけどね」

 

 最後の呟きに対し、怪人は無反応だった。完全に沈黙したと判断していいだろう。顔を覗き込むと白目を剥いていた。無力化は成功だ。問題があるとすれば、だ。

 

 

 

 ヒーローは未だ、現着せず。

 四方八方から突き刺さる市民の視線と関心。

 ………………さて、この状況、どう対処しようか。

 

 

 

 




【登場人物】

★アザミ
 主人公。
 二十歳女性。春生まれ。茶髪。陶器のような肌。手足が細長いモデル体型。丁寧口調。
 ヒーロー協会で働いている(社会人二年目)。若干人見知りの気がある。

 実は吸血鬼とのクオーター。
 吸血鬼たる祖母に「人間どもを家畜として支配してやるのじゃ」などと母共々言われて育ってきたが、その祖母は二年ほど前、アザミが高三の時にオイタをしたところ某ハゲにワンパンでKOされた。
「人間の方が強いじゃないですかお婆様……」。
 以降「支配とかそういうことはもうお腹いっぱいなので」と吸血鬼的な事柄からは離れるために一人暮らしを始めた。
 クオーターなので牙はない。血液を摂取しなくても日常生活には支障はない。また、日光を浴びても平気、流水を渡れる、聖水も問題なし、ニンニクも大丈夫など、吸血鬼の弱点は概ね克服している(弱点ではないというだけで苦手なものもある)。
 ただし、写真写りは悪い、鏡映りも悪い。通常状態でも一般人よりは力持ちだが、血液を摂取することで吸血鬼的なスーパーパワーを発揮できる。

 趣味はコスプレと人助けだが、うっかり吸血鬼とのクオーターだとバレたら困る、ということで人相隠しのために仮面をし、コスプレをしながら人助けを始めた。すると(主に男性の間で)有名になってしまった。

 あくまでも人助けは趣味で、ヒーローとしてちやほやされたいわけではない。ただ自分の気分が良くなるからやっている。

 ちなみに見ると昔のことを思い出すため、スキンヘッドの人は苦手である。だいたいサイタマが原因。



★ブチョー
 オリキャラ。ヒーロー協会B市支部の市民・ヒーロー総合課の課長。
 ブチョーだけど課長。B市支部で課長といえば大体この人。
 発音はブ↓チョー↑(尾高型)ではなくブ↑チョー↓(頭高型)。



★カカリ
 オリキャラ。ヒーロー協会B市支部の情報課の課長。表にはあまり出ずに作戦室・情報ルームに入り浸っている。
 カカリだけど係長ではない。





☆続きません。続きませんったら続きません。

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