【悲報?】ウチの鎮守府に三下なセントーが来たってよ【朗報?】   作:嵐山之鬼子(KCA)

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【Phase03.Welcome to Our Fleet Base】

 「は、はいッ、では早速!」

 手際よく4種の資材を(若干ボーキサイト多めに)用意して、その立方体(キューブ)と共に建造ドックに放り込む明石。

 多少性格が違うとは言え、この明石もやはり工作艦のはしくれ。こういう実験めいた行為に好奇心が刺激されるのだろう。

 

 見た目は昔懐かしい蒸気機関車の火室そっくりな建造ドックの蓋が閉められ、その外側に妖精さんが群がって掌をかざしてなにやら“力”(魔力? 霊力?)を注ぎ込んでいる。

 

 「完成までの時間は──3時間か。飛鷹型だな。いいじゃないか!」

 建造ドックの側面のメーターに表示された6桁の数字を読み取り、上喜は目を輝かせた。

 

 飛鷹型は軽空母だが、飛行機搭載数が正規空母並に多く、その割に燃費がいいので、使い勝手の良い艦娘だ。

 一番艦(あね)の飛鷹はちょっと気が強めだが大和撫子な優等生、二番艦(いもうと)の隼鷹は多少(?)酒癖が悪いが基本的には陽気で気っぷのいい姐御肌と、性格的な面でも頼りにできる。

 二航戦や五航戦の正規空母たちに比べると、艤装への適合者も比較的多いので、あまり着任まで待たされないだろうというのも地味に嬉しいところだ。

 

 「えっと、高速建造材、使われます?」

 「うーん、そうだなぁ……よし、折角だし使おう!」

 そもそも滅多に建造しないので、高速建造材自体もてあまし気味なのだ。

 明石の質問にYESで答えてGOサインを出すと、心得たとばかりに工廠妖精さんのリーダーらしき1体がニヤリと笑ってサムズアップした。

 彼女(?)が「ポチッとな」と言わんばかりの大げさなアクションで、建造ドックの外側についているボタンを押すと、中から聞こえてくる何かを燃やすようなゴーゴーという音がひと際大きくなり、ほどなくひとりでに建造ドックの蓋が開いた。

 

 そこまでは、ある意味、“いつもの”建造風景だったのだが……。

 

 「ぅわちゃちゃちゃーーーーっ! 熱っ! てか、暗いし狭いし息苦しいッ! なんなんスか、いったい!?」

 蓋が開いた途端、中から女の子の声が聞こえてきたのだ。

 

 繰り返すが、この世界に於いて艦娘とは、適性のある人間が、艤装適合処置(しゅじゅつ)を受けた上で、基本艤装を装備することで後天的に“なる”ものだ。

 中には、数百万人にひとりくらいの確率で、その“処置”を受けなくても生まれつき艤装を纏って戦えるようになる稀有な素質を持った人もいるが、それだって本人とは別に「主機関と駆動機」からなる基本艤装を用意しないといけない事に変わりはない。

 当然、建造とはその基本艤装“だけ”を作り出すことを意味し、ゲームの『艦これ』の如く、艤装と艦娘がセットで生み出されたりはしないのだ。

 

 そう、そのはずなのに……。

 

 「ふぅ~、ヒデェめにあったっス」

 細長い金属製の建造ドックの中から、17、8歳くらいに見える少女がよろよろと這い出てくるのは、いささか衝撃的な光景だった。

 

  * * * 

 

 「あれ? ここはどこっスか? んんっ、それになんかオレっちの声も妙に甲高いような……って、え? お、オレっちの胸にオッパイが!?」

 そこまで聞いた瞬間、俺の脳裏に電流の如く天啓が奔り、気が付けば俺は“少女”をお姫様だっこの体勢で抱え上げて、工廠から一目散に逃げだしていた。

 

 「ぅわっ、な、何するんス! そもそも、アンタ、誰っスか?」

 抗議の声を聞き流しつつ、人気のない鎮守府の裏庭まで来たところで、“彼女”を地面に下ろす。

 

 「すまない。だが、これから話すことは、あまり他の人間に聞かれたくない内容なんで、少々手荒な真似をさせてもらった」

 素直に頭を下げて謝ったおかげか、どうやら“少女”も少しだけ落ち着いたようだ。

 「は、はぁ、そういうコトなら仕方ないっス。それで、何を話してくれるんスか?」

 

 「その前に自己紹介しておこう。俺の名前は上喜 仁。海軍に所属する中佐で、この舞鶴鎮守府で提督をやっている」

 「あぁ、確かに軍服着てるっスね……あれ? でも今の日本では海軍じゃなくて海上自衛隊って言うはずっスよ。それに舞鶴の鎮守府も戦後廃止されて倉庫とか博物館とかになってるはずじゃあ」

 「ほぅ、詳しいね」

 「去年、高校の修学旅行でちょうどあの辺を廻ったんスよ……って、まさか、オレっち、過去の鎮守府にタイムスリップしたんスか!? あ、もしかして、『君●名は』みたく、過去の女の子に憑依?」

 とっさにそういう発想が出てくるあたり、わりとサブカル関連の素養があるのかもしれない。

 

 「残念ながらハズレだ。ある意味、タイムスリップと同等のトンデモないハプニングが起こったのは確かだが」

 思わせぶりに言葉を切った俺の顔を見つめて、ゴクリと唾を飲み込む“少女”。

 「な、なんスか。聞かせて欲しいっス」

 「うむ。その前に聞くが、キミは艦これ──『艦隊これくしょん』というゲームを知ってるかい?」

 「えーと、プレイはしてないスけど、名前と概要くらいは。あと、夜中にテレビでやってたアニメは大体観たっスよ」

 ラッキーだ。それなら説明の何割かがスッ飛ばせる。

 

 「信じ難い話だということを百も承知の上で、単刀直入に言うとだ──ここはその『艦隊これくしょん』そっくりな世界なんだよ!」

 「な……なんだってーー!!(Ω ΩΩ」

 うん、打てば響くようなこの反応は、やはりアチラのヲタ文化(カル)を知ってる者ならではの反応だなー。

 

 「ま、M●Rネタはさておき、ガチで『艦これ』に近いってのは確かだからな。少なくとも、深海棲艦はいるし、それに対するための艦娘が鎮守府の元で組織化されている」

 それまでのフレンドリーな表情から、(意図的に)いくぶん真面目な顔になって“彼女”にそう告げると、少なくとも嘘や冗談は言っていないことは伝わったのか、相手の瞳に怯えの色が浮かんだ。

 

 「なんてこったい……深海棲艦つったら、アレっスよね。海から攻めて来る正体不明のヤバいヤツ」

 すごく抽象的だが、言わんとすることは、まぁわかる。

 「うわ~……マジか~」

 「うん。マジもマジ、大真剣(おおまじ)だ」

 俺の肯定の言葉を聞いて、“彼女”はガックリとうなだれる──のだが、もうひとつ落胆させるようなコトを言わんといかんのだよなぁ。

 

 「それで、だ。自分でも薄々気が付いてはいるみたいだが、キミの姿も、この世界に合わせて(?)変わってる」

 「あ~、そっスね。このパイオツとか、どう見たって作りモンじゃない天然モンっスもんね」

 自らの乳房を掌で持ちあげるようにモニュモニュと揉みなが、“彼女”は溜息をついた。

 「アレっスか。たぶん、今のオレっちって、艦娘の姿になってるんスよね」

 驚き過ぎて逆に冷静になったのか、「金髪で巨乳だから、もしかしてアニメで観た愛宕(パンパカ)さんかな」などと推測している“彼女”には悪いが、残念ながら愛宕じゃない。

 

 ──というか、俺の見立てが正しければ、そもそも“厳密に言えば「艦娘」ですらない”んだよ。

 

 先程の落ち込みから早くも回復して、その場でピョンピョン飛び跳ねながら「お~、巨乳のねーちゃんって、ホントにバインバインって感じで揺れるんスね」と、のんきなコトを抜かしている“彼女”(言動からしてたぶん中身は“彼”)に、俺は意を決して重大な“事実”を教えることにした。

 

 「外見と手にした機械弓(?)からの推測になるが──おそらく、キミの今の姿は軽空母娘のセントーだろう。イギリスが大戦終了直前に建造を開始し、実際に進水したのは戦後しばらく経ってからだった“セントー級航空母艦HMSセントー”がモチーフになってるはずだ」

 「あ、海外艦ってヤツっスね。『艦これ』やってるダチから、海外艦はかなりレア物だって聞いた記憶があるっスよ!」

 ちょっとうれしそうなのは「どうせなるなら、やっぱり十把ひとからげのコモンより、レアで強力な艦娘の方がいい」という心境なのだろう。

 

 「そうだな。確かに海外艦娘は他の国産艦娘と比べてどれも比較的入手難度が高い──が、それはさておき。

 キミは多分“セントー”ではあるのだろうが、同時におそらく“艦娘”ではない」

 「…………は?」

 落ち着きのない“彼女”の動きがピタリと止まった。

 

 「もったいぶっても仕方ないな。結論から言おう。

 その姿は、『艦これ』ではなく、同様の軍艦萌え擬人化ゲーム『アズールレーン』に登場する艦船少女(KAN-SEN)のひとりだと思う」


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