とある人間の魂が生まれ直すと、その身は神と化していた。
そして、その神はとある筆を持っていた。

長き時を生きたその神は今、忘れ去られし者たちの楽園、『幻想郷』にその身を置いていた。

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既にあると思いますが、書きたくなったので書きました


天照らす慈母は幻想の楽園へと

 その者、世界と呼ぶ絵巻に絵を描くものである。

 その者が歩けば、あとには花や草木が咲き乱れ、空へとくるりと円を描けば、太陽の日が現れたという。

 その者は世を渡り歩き、罪のない人々を襲う様々な負の者である妖怪をその御業によって戒めた。

 突如として現れ去っていくその者を人々は感謝と祈りを込めてこう呼んだ。

 

――世界を照らす者、生命の守護者、我らが慈母、アマテラスと。

 

 

 だが時が流れ、人々が科学と呼ばれる常識を生み出した。

 それによって人々は暗闇という恐怖を自らが生み出した機械仕掛けの光で照らしだし、非常識なものに対する感情を薄くしたのだった。

 

 非常識、それすなわち正体不明、わからない物はわからないからこそ畏れられるのだ。

 それが何なのか知られてしまえばそれはもはや非常識ではなく常識となる。

 

 非常識である神や妖怪は、人々から得られるはずのエネルギー、神であれば信仰を妖怪であれば畏れを常識によって得る事がほぼ不可能になってしまい、忘れられてしまうようになってしまったのだ。

 

 忘れられるということは、神や妖怪たちにとって”死”を意味する。

 ……のだが、こと天照大神にとってはそれはさほど問題ではなかった。

 アマテラス大神と呼ばれる神は、人類が科学を生み出そうとしてもいまだ世に根深く浸透しているからだった。

 そも照らすものと呼ばれているのだ。

 照らす者、すなわち太陽である。

 どのような時代になったとしても、太陽は昇り落ちてはまた昇る。

 忘れられるということは皆無であった。

 

 だがしかし、科学が浸透した現代に、神は必要ない。

 人々は自らの足で立ち、困難へと立ち向かう力を持っているのだから、もう神の力は必要ない。

 そう思ったアマテラスは常識(現代)の世界より姿を消した。

 

 遠い過去にアマテラスが姿を消した時は、太陽が隠れてしまうという大事件が起こったが、今回はそのようなことは起こらなかった。

 

 

 

 

 

 人々は……太陽がまた隠れてしまったことをまだ、知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は流れ早数年。ここ幻想郷と呼ばれる場所にはとある神社がある。

 大きな鳥居に池があるその神社の名は博麗神社、外界と幻想郷をつなぐ重要な場所である。

 その神社には、とある二人が住んでいた。

 

 一人は幻想郷の守護者、楽園の素敵な巫女と呼ばれる少女博麗霊夢。

 もう一人は、顔に赤い隈取がある白髪の少女だった。

 二人は暖かな日差しが差す縁側で、仲良く両隣に座りながらゆっくりとお茶を啜っている。

 穏やかなお昼時の午後だった。

 

「平和だねぇ~」

「そうね、このままこの平和が続いてくれたらいいんだけど」

「だね~」

 

 間が伸びる声でつぶやく白い髪の少女は、湯呑を置き両手で頭を支えながら空を眺める。

 それには霊夢も同様だったようで同様の答えと共に空を見上げた。

 空は曇一つなく青空で気持ちのいい日だった。

 

「ん~?」

 

 そのまま二人が空を眺めていると、こちらへとやってくる物体が見える。

 神社近くまで来るとそれが何なのかはっきり見えるようになった。

 それは、箒にまたがった大きな帽子の少女だった。

 

「よっと」

 

 少女は神社に着陸すると、二人を見つけて近くへとやって来た。

 

「おう、二人して縁側で何やってるんだ?」

「見てわからない? ゆったりしてるのよ」

「平和サイコ~」

「おいおい、だらけすぎだろ神社の巫女に神様が」

「いいじゃない、異変なんて起こってないんだから」

「いや、まあそうなんだけどさ」

 

 三人がそうこう話していると、空に異変が起き始める。

 今の今まで燦燦(さんさん)と太陽の光が差していたというのに、突如として曇り空となってしまった。

 

「あら」 

「あれ~?」

「なんだ?」

 

 曇り空はだんだんと黒くなっていき、ゴロゴロと雷が光り始め、今にも雨が降りそうになっていた。

 

「やっば!?、降ってくるぞ!」

 

 急いで三人は神社の中へと避難すると、雲からバケツの水をひっくり返したような雨が降り始めた。

 

「急に降ってきたな」

「さっきまで晴れ晴れとしてたのにね~」

「……二人ともあれ見て」

 霊夢が神社の外へ指をさす、刺された場所は不思議にも雨が一滴も降ってなどいなかった。

 よく観察してみれば、どうやら雨は博麗神社にしか降っていない様だった。

 

「なんだこりゃ、ここにだけ降ってるのか?」

「みたいだね~」

「一体誰よこんな迷惑なことをしてくるやつは!」

「それはこの私よ!」

 

 霊夢がそう叫ぶと、それに答えるように雲の中から声響いた。

 雨を降らし続ける雲の中から、少女が現れる。

 蛇の目傘を刺した、ゴスロリ風の服を着た少女だ。

 

「私の名は雨降らしのしずく、この幻想郷を雨でいっぱいにしてやるためにまずは博麗の巫女、あなたを倒させてもらうわ!」

 

 少女は霊夢に指をさしながら、自信満々にそう宣言した。

 だが、

 

【夢符 封魔陣】

 

「きゃあああああああ!?」

 

 それと同時に霊夢はスペルカードを発動した。

 無数の赤い弾幕が放たれ、しずくは避けることもできずに食らってしまい、そのまま黒焦げになって倒れてしまった。

 

「よし、悪は滅びた」

「相変わらず容赦ないなお前」

「ふわぁ~」

 

 ガッツポーズをしながらそういう霊夢。

 白髪の少女はあくびをしていて、今にも眠ってしまいそうだった。

 

「あれ~でも雨が晴れないよ~?」

 

 白髪の少女が言う通り、神社の真上にとどまる黒い雲は散ることもなく、また雨を弱めるでもなく変わらずそこに存在していた。

 

「フ、フフフ……」

 

 どこからかくぐもった声が聞こえてくる。

 霊夢たちが声の出所を探すと、声は黒焦げになったしずくから聞こえてきていた。

 

「こうなったら維持でも雨はやませないわよ……精々苦労するといいわはっはっは」

 

 そう言うと、しずくは。飛んで逃げてしまった。

 

「あの妖怪、面倒なことしてくれるわね……」

 

「霊夢、この術解けないのか? 私は濡れて帰るのはいやだぞ」

 

「別に解くのはそれほど難しくないんだけど……めんどくさい」

 

「おい」

 

「ふわぁ~終わった~?」

 

 二人が話していると、どうやらいつの間にか眠っていたようだった白髪の少女が起きた。

 眠気眼のままで、そのままほおっておけばまた眠ってしまいそうだった。

 

「あ、そうだ」

 

 霊夢は手を打った。

 どうやら彼女の頭に名案が浮かんできたようだった。

 

「アミ、あんたの出番よ!」

 

「私~?」

 

「そうあんた。 最近何もしてないじゃないあんた、働け」

 

「え~」

 

「いいから働く働く、ほら」

 

 霊夢はアミの背をバンと叩いて、縁側へと誘導する。

 

「はぁ~しょうがないなぁ」

 

 

 アミが縁側の縁に立ち空を見上げる。

 

 そして世界から音は消え――世界は一つの紙と化した。

 

 世界は描かれ続ける一つの絵巻。 アミは世界から外れ、世界を俯瞰(ふかん)する。

 見える絵巻(せかい)には博麗神社と霊夢たち、そして雷光放ちながら雨を降らす雲があった。

 

「ほい」

 

 アミの手にはいつの間にか筆を持っていた。

 アミは筆を絵巻(せかい)へと向けると、いまだに雨を降らし続ける雲にくるりと丸を描いた。

 そして、丸がしっかりと描かれたことを確認するとアミは世界に戻っていった。

 

 音が戻り、世界が動き出す。

 

()()()

 

 

 その言葉と共に雲が、晴れた。

 

 

 雲が散っていき、暖かな光が再び博麗神社へと降り注ぐ。 雨降らしが施した術はこれにて解かれた。

 

「おー晴れた晴れた」

「これにて一件落着ってね。 さて、お茶もなくなっちゃったしまた入れなおしましょうか、魔理沙も飲む?」

「おう飲む飲む、お茶請けに羊羹を出してくれ」

「お煎餅で我慢しなさい」

 

 霊夢と魔理沙は奥へと向かっていった。

 アミはまだ、縁側に立って空を眺めていた。

 空は先ほどと同じように雲一つなく晴れ、まさに快晴というべき空だった。

 

「これにて大神おろし大成功ってね」

 

 そう言ったアミの顔はまるで、子供をいつくしむ母親のようだった。

 

「アミ―あんたはお茶いらないのー」

 

 そんなアミに、神社の奥から霊夢の声が聞こえてきた。

 

「飲む~!」

 

 アミはそう答えると、神社の奥へと走っていった。


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