ソードアート・オンライン ~紅き双剣士と蒼の少女~ 作:桜花 如月
第一層:教会
「ラギ……大変なことになってるの」
「わかった、行ってくる」
カンナと同じくMHCPのNo.01に設定されていた少女、ユイがこの世界で活動していると聞いた俺たちはカンナの持つ捜索能力で居場所をある程度絞り込んでその場所へと向かった。
ほんの少し前までいた痕跡があったのがここ、ルナが身を置いている教会、だがそこにはユイはおらず、俺たちと同じように(正体は知らず)保護したらしいキリトと共にこの教会を尋ねてきたユリエールという《軍》の一人に頼まれてシンカー──たしか軍の結成をした男──を助けるために出かけた、との事。
ルナとアスナは止めたらしいけど本人が強く希望したから一緒に行ったらしいが、向かった先は黒鉄宮の地下にあるダンジョン、あそこには──
「カンナ、お前は」
「行きますよ、ボクも」
「……何かあったら俺らを盾にしていいから、無茶しないこと」
そんな気はしてたから少し強めに注意するとカンナは小さく頷いた。
ルナにも無理しないと約束してキリトとアスナ、そしてユイのいる場所へと急いで向かうことに。
「ラギ、スイッチ!」
「あぁ、任せろ──!」
黒鉄宮の地下にはダンジョンがある。
正確には階層が上に行くと開放されるようになっているいわゆる隠しダンジョンだが、ある程度進んだ先には休憩所として安全圏が設定されているが特に報酬がうまい訳でもなく、普通はこんなところに来ることはしない。
それにここにいるモンスターは中層以上の強さになっているらしいため、尚更第一層を拠点としている人が来るような場所じゃない。
もちろん、それを知らずに来たということも有り得るが……
何があったのかまで送られてなかったため、ここはキリトを恨むとしよう。
「……ふっ、はぁぁ!」
「ちょ、ラギ!」
地下ダンジョンがある程度強いモンスターが出ると言ってもさすがに前線に立っているとそこまで苦戦はしない。
とはいえ数が多いのと非戦闘員のカンナを連れている以上は二人での連携も多少減ってしまうため少しだけ面倒くさい。
それを全て補うためにも双剣でまとめて薙ぎ払う。
カンナは「おぉー」と感心したような声を上げてハヅキのそばにいる。
幸い予想していたよりも弱いモンスターの群れだったため、一人でもどうにか出来た。
そんな俺たちに聞こえるように遠く──ダンジョンの奥の方から武器がぶつかり合う音が響いてくる。
急いで奥に進むと、死神のような姿をしたモンスターと、その前に倒れるキリトとアスナの姿があった。
状況から見て多分シンカーとやらは既に見つけて脱出させたんだろう。
正確にはこのボスから逃がすために転移させた、といったところか。
そして、このボスは──
ザ・フェイタルサイズ
よくあるイメージ通りの死神の姿をした、今より遥か上層が推奨レベルのボスモンスターだ。
HPが半分以下になっているキリトと3分の1減っているアスナを逃がすための時間稼ぎを俺ができるのかと言う心配はあるが、今はこれしかない。
「ハヅキ、お前は下がって──」
そう言って、いつも通り無茶をしようとしたその瞬間。
俺の目の前に、黒髪ロングの少女が立っていた。
「「ユイ(ちゃん)!」」
アスナとキリトがそう叫ぶ。
ユイ、つまりこの子が──
「大丈夫だよ」
少女はそう言う。
振り下ろされる鎌から守ろうと手を伸ばすが間に合わず。
ただ、目の前で鎌は弾き飛ばされ、ユイは無傷。
「──そりゃ、そうか」
鎌はユイには当たらない。
MHCPはカーディナルシステムによって稼働するAI、NPCだ。
となればもちろん攻撃することは出来ないしそれをさせないようにシステム側が設定をする。
つまり、ユイには《破壊不能オブジェクト》が付いている。
それも、下田のような低いものではなく、正真正銘傷一つつかない高度のもの。
破壊不能オブジェクトによるノックバックに怯んだボスに一切反応することもなくユイは手元に大きな剣を出現させる。
フェイタルサイズの鎌による防御も一切関係なく、ボスを一撃で切り伏せた。
「ユイ……」
起き上がったキリトとアスナがユイの元へと歩いてくる。
ユイは振り向きながら静かにこういった。
全て、思い出した、と。
フェイタルサイズと戦闘した場所から繋がっている部屋、安全圏として機能している簡素な部屋に俺たちは移動した。
そこでユイから事の経緯を二人は説明された。
そもそも、キリトたちといたの自体カンナのように人間観察として二人を選んだのだろう。
となれば、カーディナルシステムの命令であるプレイヤーとの接触禁止を無視したということになる。
だが、そう行動したのにはカンナと同じくプレイヤーの感情などを受けたから起きた崩壊を回避するため、それは紛れもなくユイの意思で起こしたアクションだ。
「ユイと、ここにいるカンナ──ノウムは同じだ」
《MHCP》として、
キリトとアスナ、俺とハヅキに会おうとした二人は自ら望んで、選択をしてここにいる。
それは、決してプログラムされただけのものじゃない。
「ユイは、どうしたい?」
「私は……ずっと、一緒にいたいです……
キリトがユイの望みを聞く。
カンナと同じように、一緒にいたいと答えた。
でも。
「それは、コンソール、だよな」
ユイが今座っているのは、いざと言う時のために設置されている管理者用のコンソールパネル。
この部屋に入った時点で何かを触った様子があったため、まさかとは思ったが……
「ラギさんの言う通り、コンソールを使ってあのモンスターを倒しました」
予想した通り、ユイはコンソールを使った。
だがそれは
「カーディナルシステムに私が命令違反を犯したことを異物として認定されました」
「……消される、か」
「「そんな……!?」」
エラーを起こしたプログラムは、人間であろうと機械であろうと消すのは納得だ。
ただ、そんなのは──
「お父さん」
「カンナ?なに──」
カンナは突然ユイの横に座る。
特に説明もなく、彼女は俺を見上げてくると静かに目を閉じた。
「……なんでお前も」
「元々ボクは凍結されたデータ、存在しちゃダメなんですよ」
「……システムのエラーだろ、なんでそれで」
「ユイの存在察知と同時にほかの異物も探したみたいですね」
諦めたようにカンナは呟く。
仕方ない、と。
「一緒にいるって約束したでしょ……!」
「お母さん……ごめんなさい」
「バカ……バカ……っ!」
ハヅキはカンナに抱きついた。
昨日の今日で約束を守ってなければ、怒るのは当たり前だ。
でも、カーディナルシステムはそんなこと気にしてくれる訳もなく、無慈悲に別れを突きつける。
「──さよなら」
ユイとカンナはノイズが走るようなエフェクトとともに消えていく。
止める術もなく、全身が消えるのを見届けて部屋に虚無が流れる。
──そんなの、許すわけないだろ。
「させるか……っ!」
システムコンソールを操作する。
バカが開きっぱにしたほんの少しの穴に権限をねじ込みシステムに抗う。
「茅場──いや、カーディナル!お前にこれ以上好き勝手させてたまるか──!」
道を探る。
全てを取り戻せなくても、
「───人の心を、弄ぶんじゃねぇ!!!!」
大切な人を失う辛さを。
目の前で消え行く家族を。
もう二度と、見たくは無い。
《System lock》
そう表示され、俺は吹き飛ばされる。
壁にぶつかるが、駆けつけたアスナとハヅキにそれぞれ《あるもの》を渡す。
「──二人の、心だ」
無理をして作り出したものに名前はない。
ただ、そこにいた少女達の証、それだけだ。
「……また、会えるよね」
「あぁ、いつか、必ず」
帰り道、喪失感を持ったまま俺たちはそんな会話だけ交わす。
ただそこに、あるはずの温もりを感じながら。