トロイア首都、イリアス正面の平原にて。
トロイア王子ヘクトールは、戦場を一瞥し溜め息を吐いた。
「やっぱ出来るヤツがいるのな…あー、やだやだ。もう少し手加減してくれんもんかねぇ…
ま、無理だろうけどさ~。」
そう言って、彼は朗らかに笑う。
果たして、その笑顔の裏に何を考えているのか。それは、彼しか分からないだろう。
「王子、ご報告が…!」
「おろ?」
一人の兵士が、彼の私室に飛び込んできた。
「そう慌てなさんな。まずは息を整えて───」
「前線に、アキレウスが現れました!!」
アキレウス。
今は前線に出ていない筈の、ギリシャ軍最強の英雄。トロイアにとって目の上のこぶである最速の男が、また前線に出てきているのだという。
「このままでは、前線が崩壊する恐れが───」
神々の
若き兵士は、急ぎこの事を伝えに来たのだが…
「いいよー。
「は?」
「ん~…アキレウス。アキレウスねぇ…」
「あの、王子。知っているとは…」
「そりゃあ、さっき視たからね~。」
「しかし、知っているなら…!」
「まぁ、そう慌てるなって。まずは、報告ご苦労さん。少し休んでいたまえ~。オジサンは、ちょっくら出てくるから。」
ヘクトールは、いつもと変わらぬ調子で部屋を出た。
まるで、少し散歩でもするかのような気楽さで。
「さーて。これで決着になりゃいいんだがねぇ…」
戦場を、流星が
戦場を蹂躙し、どこまでも駆け抜けていく。
「アキレウスだァァァァァ!!!!」
その男は走り続ける。
戦場を、駆け続ける。
「おお、アキレウスだ!アキレウスが来てくれたぞぉ!!」
怒号。歓声。悲鳴。嬌声。
流星が流れる度に、敵が、味方が、声を上げて称える。
アキレウスが。我らの英雄が来たのだと。
男は、知らず口角を上げる。
────そうだ。それでいい。
彼らの声に呼応するように、さらに速度を上げる。
こんなものではない。アキレウスは、もっと
そうして、
まるで、己の姿を見せ付けるように。
────あぁ、そうとも。私は此処に居る。
「アキレウスは、此処に居るぞ───!!!!!」
仲間の為。友の為。
ただ、ひたすらに。
─────ヒュンッ。
「っ!?」
「あらら。さすがに避けられるか。」
小さな風切り音。
パトロクロスがその俊足を以て避けた、直後に轟音が響く。
パトロクロスの居た地点は、完全に粉砕されていた。
中央にあるものは───。
「小石…!?」
小さな掌サイズの小石。
魔術的な強化も、神秘も、特別なものは何一つとして込められていない、ただの石。それが、巨大なクレーターを作り出していた。
「おうよ。
戦場には似つかわしくない、飄々とした声が響く。
しかしその内容から、この惨状を生み出した人物であることも、また確かだった。
「あぁ、どうも。オジサンがヘクトールです。よろしくねぇ。」
兜輝くヘクトール。
トロイア最強の英雄が、出陣した。
「それにしても、お前さんがアキレウスねぇ…」
「…………」
そう言ってヘクトールは、目を細めた。
その視線に、思わずパトロクロスは身を竦める。
言い様も無い寒気が、全身を包んでいた。
「いやいや。さすがはギリシャの最高戦力。こうもあっさり避けられると、オジサン自信無くしちゃうわ。」
どこまでも気楽なヘクトールに対しても、パトロクロスは警戒を緩めない。否、緩められない。
(これは…正真正銘の怪物だな…)
パトロクロスとて、一流の戦士である。
そこらの兵士にはまず負けることは無いし、英雄級の者たちとも渡り合えるほどの実力は備えている。
そしてアキレウスの鎧を身に付けてから、身体の調子がすごぶる良い。まるで、アキレウスが乗り移ったかの様な錯覚を覚えるほどに。
しかし、いや、だからこそ分かった。
目の前の男は、今のパトロクロスでも間違いなく倒せない。そう確信出来るほどに、実力差が歴然であった。
(少しでも気を抜いたら、喰われる…!)
その、いっそ軽薄であるとさえ感じる雰囲気は、相対した相手をだまくらかし、一息に殺す為の演技でしかないのか。
少なくとも彼にとって、パトロクロスはこの雰囲気を装える程度の相手であり、本気を出すほどでは無い、ということは事実なのだろう。
(ほーん、案外乗ってこないもんだな。近づいてこようもんなら速攻で首を落とすつもりだったんだが…)
一方ヘクトールもまた、パトロクロスの評価を上方修正していた。
ヘクトールは、目の前にいる者がアキレウスに扮した何者か、ということは分かっていた。
様々なアキレウスに関する噂。大なり小なり尾ひれが付いているであろうそれらだが、共通するものが一つあった。
“気がついたら目の前に来ていた”
“瞬きもしていないのに消えた”
“誰も彼の走る姿を知らない”
言い方は様々だが、これらが指し示すものはただ一つ。
アキレウスの速さだ。
どれだけ荒唐無稽な話があろうと、この一点だけは決してぶれることなく、様々な噂の中に織り混ぜられていた。
当然ヘクトールも、この噂を耳にしていた。故に、戦場を見ていた時に気が付いた。
あれが本当にアキレウスなのか?、と。
確かに速い。そこらの連中では捉えることなどまず不可能だろう。
確かに強い。精強なるトロイア兵を一撃で沈めていく様は、確かに英雄の名に相応しい。
────だが、
たった一人で戦局を左右する無双の英雄が、自身より弱いものなのか?その一点が、ヘクトールに気付かせた。この男は、アキレウスではないと。
しかし、今はその態度こそ崩しているものの、決して油断なくパトロクロスを見据えている。
彼我の差を判断し、迂闊に攻め込むことなく、勝ちを諦めない戦士。それが如何に厄介な者か、ヘクトールは理解しているからだ。
(おまけにあの武具…元々自分の持ち物か、それとも他人に譲られた物かは知らないが、間違いなく神々の造った物だな。
…俺の
「全くもって、最近の若者は怖いねぇ…っと。」
「ッ!?」
突然、緋色の一閃が走った。
「ありゃりゃ、これも避けられるか。完全に意表を突いたハズなんだが…いやはや、やっぱし油断ならんねぇ。」
反応出来たのは運が良かった。
殺気もなく、視線を向けることもせず、極めて自然に振るわれた名槍。避けられたことは、奇跡に近かった。
「…なる、ほど。奇襲、不意討ち、何でもありってことか…」
「オジサンってば臆病なんでね~。こうでもしないと怖くて怖くて…大立回りなんかしたら、腰にもくるでしょ?」
───臆病?これのどこが臆病だと言うのか。
奇襲、不意討ち、騙し討ち。なるほど、慎重な者であれば、こういった作戦は常套手段だろう。しかし、彼は別に慎重を期した訳でも、臆病風に吹かれた訳でもない。
ただ、その方が
生まれながらの強者にして、生粋のリアリスト。トロイアを守る為ならば、後ろ指を指されようと構わない。それこそが、ヘクトールという男であった。
「一体どこの世界に、小石だけで地形を変えたり、会話の最中、事も無げに片手で槍を振るう臆病者がいるんだか…」
「ハッハッハ。」
「…しかし、そいつは二度とも防がれた。」
───スッ。
突如、ヘクトールは、槍を天に掲げた。
「我はトロイア王プリアモスが第一子、ヘクトール!!」
戦場に、ヘクトールの声が勇ましく、高らかに響き渡る。
続けて紡がれたその声に、双方の兵たちは沸き上がった。
「────我はここに、駿足のアキレウスとの、一騎討ちを望む!!!!」
反逆!!!!!(挨拶)
どうも、私です。
やっとこさ戦闘に入れそうですね。
えぇ、
前回、戦闘シーンは雀の涙ほど入ってる、と言ったと思うんですが、実質皆無というね…その癖、文を考えるのに死ぬほど時間が掛かるという…まぁ、あらゆる意味で素人なので、温かい目で見守ってくだされ(震え声)
次回は、ヘクおじとアキレウスさんの戦闘回!
…にする予定ですが、多分まーた難産になると思います。
更新するまで暇になってしまう…
そ ん な み な さ ま の た め に ぃ ~(走者風)
実は、今回の話と同時に書いていた
ゆっくり待っていってね!
FGOでのカッツ実装嬉しい…想像以上に姉上強化要員で良き…残りの織田サーとマックスウェルもはよ来いや(血涙)
あと、一ちゃん大勝利~!お米娘が来なかったのは残念でしたが、実質プラスです!(お目目ぐるぐる)
Wキャストリアで一ちゃん歩かせるの楽しい…楽しくない?ボイスのテンションの落差もしゅき…やっぱ新撰組は乙女ゲーやったんやなって(勘違い系)
それでは。