月光に導きを求めたのは間違っていたのだろうか   作:いくらう

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幕間、14000字ほどです。ルドとエリスは出ません。戦闘シーンもありません。
独自設定……と言うかキングス要素もちらほらです。

今回意図的に描写を飛ばしている部分がありますが、その辺については原作外伝二巻を読んでいただければと思います。

感想や誤字報告、お気に入りしてくださる皆さま、毎度あり難く受け取っております。
お陰様で評価者数が200に到達いたしました。これからもこの小説を応援してくださると嬉しいです。

今話も楽しんでいただければ幸いです。


20.5:【黒い鳥】

 世界中に神が降り立ち、その恩恵によって人々が躍進するこの時代。人々は神より与えられた恩恵を受けて世に跋扈(ばっこ)する【怪物(モンスター)】達を打ち倒し、或いは今まで受け継いできた物を更に発展させてきた。そんな世界の中で、一際人々を呼び寄せる街がある。かの街の名は【オラリオ】。数多の冒険者が各々(おのおの)の願いの為に【迷宮(ダンジョン)】へと足を踏み入れる、この時代の中心地だ。

 

 世界で唯一存在するダンジョンの上には約千年前の【降臨】によって現れた神々によって建立された塔、【摩天楼(バベル)】が聳え立ち、蓋となってモンスターの地上進出を押し留めている。この塔が無かった千年前、オラリオはダンジョンから進出するモンスター達を堰き止める内向きの防衛線となっていたが、それも遠い過去の話だ。

 

 ダンジョンは今や冒険者達の功名と利益を求めた『冒険』の場となっており、同時にオラリオも冒険者らが所属する【ファミリア】を有す神々らの権力闘争の遊戯盤となっている。真にダンジョンを踏破し、世に害なす怪物どもの根を断とうと言う『英雄』が久しく現れぬ程に、底の無い地下迷宮とそこから生まれる利益は魅力的であったのだ。

 

 一日に数多の冒険者が挑むダンジョンであるが、そこにはオラリオの冒険者らを統括する【ギルド】によって危険性、到達難易度から算出された四つの区分が設けられている。

 

 まず、1階層から12階層までを示す『上層』。レベル1、このオラリオで冒険者と認められた者達、文字通りの初心者はまずここに足を踏み入れて、本場の怪物たちの脅威をその肌で知る。同時に、半数以上の冒険者――レベル2の位階に踏み込む事の出来なかった者達の殆ど――がこの先を見る事無く生涯を閉じる。

 

 13階層から24階層が『中層』。【最初の死線(ファーストライン)】と呼ばれるここからは肉弾戦ばかりの上層のモンスターと違い、火を吐くなど魔法めいた能力を行使するモンスターが現れるのが特徴だ。モンスターの殆ど出現しない【安全階層(セーフティポイント)】である18階層、【リヴィラの街】が存在するかの階層を除き、どの階層でも致命的な事象が発生しうる危険地帯だ。

 

 さらにその下、25階層からは『下層』と呼ばれる領域。パーティの規模や力量にもよるがレベル3以上の冒険者で無ければ到達するのも不可能とされ、出現するモンスターの強さは中層までの比ではない。

 27階層の【アンフィス・バエナ】など、レベル6に相当する【階層主】の出現もあって、この下層を突破できるのは一部のファミリアの大規模部隊か、第一級、あるいは第二級の上位に位置するような強力な冒険者の携わるパーティだけだ。それに準じない者が下層に挑めば、間違いなく死を迎える事になるだろう。

 

 そして、それを越えた先にあるのが『深層』と呼ばれる区域。一体どこまであるのか、未だに先の見えぬその場所は、レベル4の冒険者に単独で匹敵しうるモンスター達の大量出現、危険極まりないダンジョン内の環境、更には強大無比なる階層主の実力も相まって、到達出来る者さえも稀だ。

 今のオラリオで深層の土を踏む事が出来るのは、【ロキ】や【フレイヤ】、【ガネーシャ】と言ったごく限られた大ファミリアと、一部の第一級冒険者によるパーティのみだろう。

 

 

 

 

 

 その、滅多に人が足を踏み入れぬ深層、37階層。生半な冒険者では生涯近づく事すら出来ぬそこで、今まさに『偉業』が達成されようとしていた。

 

 

 

 

 

 黒い杭の乱立する部屋を、彼女は進む。女神にも例えられる美しい横顔には幾筋もの切り傷が痕を残し、全身にも怪我を負って満身創痍と言ってもいい有り様にも関わらず、その足取りは確固たるものだ。

 彼女は破壊され積み重なった黒杭を足場として、目的の場所を目指す。そして部屋の中心、数多の黒杭に囲まれた場所に、それは居た。

 

 骸骨。それも白い骨ではなく、漆黒に染め上げられた巨大な人骨だ。しかし、腰から下は地面に埋まって存在しない。更にはその腰自体も骨盤部分と腰椎で切り離され、苦しげに身じろぎするばかり。

 

 彼の名は【ウダイオス】。深層37階層、【白宮殿(ホワイトパレス)】中央の玉座とも言える部屋(ルーム)に君臨する【階層主】であり、ギルドからレベル6相当のモンスターであると認識された文字通りの怪物である。

 

 しかし、今はその怪物も打ち破られ、仰向けに倒されている。その胸の上に立った彼女――――【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインは凪の如き面持ちでウダイオスの眼窩の奥で灯る消えかけの光を見下ろして、その胸に向け風纏う愛剣(デスペレート)を振り下ろし魔石を破壊。二時間近い激闘にピリオドを打ち、単独での階層主討伐と言う偉業を成し遂げた。

 

 戦いの余韻に浸る様に顔を天井に向けていた彼女は、しばらくすると剣を鞘に納めてウダイオスの変じた灰の山から床へと降り立った。そこへ、一人のエルフが近づいてくる。【ロキ・ファミリア】副団長、リヴェリア・リヨス・アールヴ。アイズの我儘(わがまま)を聞き入れその無謀とも言える戦いを一人見届けていた彼女は、案じるようにアイズへと手を伸ばした。

 

「…………リヴェリア」

「じっとしていろ」

 

 近づいてくる手に身じろぎしようとしたアイズを制して、リヴェリアはその白い頬にそっと手を触れさせ回復魔法を詠唱する。手の触れた場所から広がる翡翠色の輝きが瞬く間にアイズを包み込んで、その体に刻まれた大小の傷を穏やかに治癒していく。

 

 そしてリヴェリアは、アイズにこれほどの冒険に挑んだ理由を問い質した。アイズは、俯き気味になりながら己の心中を吐露する。【リヴィラ】での戦いの中、殺人事件の下手人たる赤髪の女からかけられた言葉。彼女に事実上に敗北した事とその言葉が引き金となり、焦燥感に駆られこの様な無茶をしたのだと。

 

 それを聞き届けたリヴェリアは、まるで母親がそうするように彼女の頭を撫で、同じファミリアの仲間に――――『家族』に頼ってほしいとアイズを諭した。その温もりにアイズは頑なだった表情を緩め、年相応の少女のように頬を淡く染めて小さく謝罪を口にする。それを柔和な微笑みで以って受け入れたリヴェリアはアイズの頭を軽く叩くと会話を終え、帰路に着くために戦利品の回収をどうするか、アイズに相談し始めた。

 

 

「おや、面白い事になってるな」

 

 

 その時、突如として響いた声に反応した彼女らは急ぎ振り返る。その視線の先、玉座の間の入口に佇んでいたのは真鍮(しんちゅう)色の全身鎧。隙間なく総身を覆う装甲に隠れて表情こそ見出せぬが、この場所に居る時点で相当な強者だ。その手には薙刀じみた大得物と、円の両端を抉り取ったような鈍色(にびいろ)の大盾。男の声を響かせたその人物は、二人が自らの方を振り向いたのを見て取ると武器を手に持ったまま大仰な礼をして見せた。

 

「お初にお目にかかる、ロキ・ファミリアの方々。俺は――――」

「【ラップ】。【不屈(アンブレイカブル)】のラップ。何故ここに?」

「仕事さ」

 

 自身の正体を看破したリヴェリアの問いに、肩を竦めて朗らかに答えると、ラップは繰り広げられた激戦の痕に目を走らせた。

 

 【不屈(アンブレイカブル)】のラップ。オラリオの重装前衛――――ロキ・ファミリアの重鎮である【ガレス】と同系統の冒険者の中で、ガレスや【タルカス】、【ハベル】にも匹敵する実力を備えるとされている、レベル6冒険者。その素顔は誰も知らぬと言われ、紳士的な立ち振る舞いから結局は否定されたものの、一時期は謎の冒険者襲撃犯【仮面巨人】の正体ではないかと噂されたこともある男だ。

 

 何故、そんな男がこの場に現れるのか。警戒も露わにラップを睨みつける二人。だが、そんな事など意に介さぬという風に、ラップは自らが踏み込んできた道に向かって軽快に呼びかける。

 

「皆来てくれ! 中々面白い事になっている!!」

 

 彼の呼び声に応えて通路の先からいくつかの人影が姿を現した。それを見て、アイズが目を見開き、リヴェリアが息を飲む。何故なら彼らが、彼女も良く知る者達であり、同時にこの状況で出会いたいとは万が一にも思えないような面子であったからだ。

 

 先頭を行くのは、古びた司祭服に身を包んだ老いた狼人(ウェアウルフ)。【啓くもの】フレーキ。それに続くのは布を巻いて顔を隠し、背嚢と巨大な包みを背にした一人の大柄なサポーター。そして、最後に現れたのは。

 

「【黒い鳥】……!」

 

 アイズが眉間に皺を寄せ呟くと同時に、その男は暗がりから歩み出る。相対すれば、誰もが震えあがるオラリオ冒険者の二番手。【闘技場の覇者(マスターオブアリーナ)】、【沈黙させるもの(サイレントライン)】、【九頭竜破り(ナインブレイカー)】などの雷名を轟かせた人間(ヒューマン)の男、【黒い鳥】。

 

 過剰装備で有名な【黒い鳥】であるが、今回の装いもその評判に準じたものであった。外套こそ装備していないものの、背には布に隠された一振りと装飾の施された黒塗りの鞘の一振り、計二本の大剣。更に腰の左右には一本ずつ、計二本の長剣を()いている。右腿には一振りの短剣が収められたホルダーが巻かれており、そしてその手には骨で出来た盾と鎚鉾。恐らくはこの階層に出現する骸骨兵士のモンスター、【スパルトイ】から奪い取ったものだろう。

 

 それをステッキのようにくるくると振り回しながら、【黒い鳥】は無表情でウダイオスの残した灰を見つめていた。

 

「…………どうやら、手遅れだったみてぇだな」

 

 玉座の間の現状を鑑みて、顔を隠したサポーターの男が乱雑な口調で声を上げた。そして【黒い鳥】が振り回していた骨の鎚鉾を奪い取って、苛立たし気に灰の中へと放り捨てて睨みつけた。

 

「だから【闘技場(コロッセオ)】なんかで遊んでないでさっさと済まそうっつったんだ。お前の過失だぜ、相棒」

「うっせぇ。俺だってまさか、【ロキ】の所の奴らがウダイオスに挑んでるなんて思いもしなかったんだ」

「だろうな。でもよ、万が一にも他人に先を越されるって考えは無かったのか? 浅はかじゃあねえか?」

「分かった、分かったよ。俺が悪かった。とりあえず、これからどうするか考えようぜ」

「フン」

 

 言い争いを終えるとサポーターの男は機嫌を損ねたようにそっぽを向き、【黒い鳥】は顔を俯かせて溜息を吐く。アイズとリヴェリアがその様を緊張した顔で見つめていると、彼女らの元にフレーキが気負った様子も無く歩み寄って来た。

 

「最近よく会うな、アールヴ。しかし【剣姫】を(ともな)っているとはいえ、こんな深層でたった二人きりとは流石に危なくはないか?」

「すこし、アイズの我儘に付き合っていてな。もう要件は終えた所だし、すぐ帰らせて貰うとも」

「…………アールヴ。余計なおせっかいだと認識しているが言わせてくれ。君達(ロキ・ファミリア)は【剣姫】を甘やかし過ぎだ。彼女ほどの才を失う事を恐れるのも分からんでも無いが…………」

(うるさ)いフレーキ。自覚はある」

「……ならいい」

 

 リヴェリアの不機嫌さを隠さぬ返答に呆れたように納得しながら、ムッとした表情を浮かべるフレーキ。しかし、首を巡らせて後ろの同行者達の様子をちらと見ると、彼は懐から二本の小瓶を取り出し彼らに見咎められぬ様にリヴェリアへと差し出した。

 

精神力回復薬(マジック・ポーション)だ。丁度、必要な時ではないか?」

「……いいのか? この階層での消耗品の貴重さは、お前も知っている筈」

「君にはいくつも借りがある。これくらい安い物だ」

「……受け取っておこう」

 

 穏やかに言うフレーキの態度に、リヴェリアは大人しく小瓶を受け取って懐にしまい込んだ。その二人のやり取りを無言で眺めていたアイズは、そこでふと他の三人の方を振り向く。

 

 無表情の【黒い鳥】と、目が合った。

 

 緊張にアイズは全身を強張らせる。【黒い鳥】。今現在オラリオに存在する冒険者達の中で、【猛者(おうじゃ)】オッタルと唯一渡り合えると言われる逸脱者。

 37階層に存在する【闘技場】――――モンスターが一定数連続で補充され続ける特殊な部屋をレベル4時代に制覇し、レベル5時代には【アンフィス・バエナ】に代わって27層に出現した正体不明の竜種、【九頭竜(ナインヘッド)】の討伐をほぼ一人で成し遂げたと言う経歴の持ち主だ。間違いなく、今の自分よりも高みに居る存在。

 

「……ああ、【剣姫】か。【ベート】はどうした? 居ないのか?」

 

 そんな男は、まるで今彼女の存在に気づいたかのように、無表情そのままにアイズに問う。対するアイズは彼の出方を伺うように、慎重にその問いに対して答えた。

 

「……ベートさんは、居ません。今は私達だけ」

「そっか」

「…………貴方は、何故ここへ?」

「ウダイオス」

 

 あまりに直球な答えを返され、アイズは硬直した。つまり、彼は自分達に先を越されたのだ。これが真っ当なファミリア同士での話であれば、横取りだ何だと争いになりかねないだろう。しかし、彼の顔からはそのような覇気を感じない。もはやどうでもいいとでも言いたげな顔だ。

 

「……ウダイオスは、私が倒しました」

「そっか。じゃあまた三か月待ちだな」

 

 緊張感を持って告白するアイズに対して、まるで他人事のように呟く【黒い鳥】。今置かれたこの状況を、何とも思っていない風ですらある。むしろその態度こそが不思議でアイズが眉を顰めていると、フレーキがどこか楽し気にリヴェリアに声をかけた。

 

「すまんね、奴は喜び勇んでダンジョンに潜ったはいいが、目標が達成できずに凹んでいるんだ。許してやってくれ」

「余計な事言うなよ…………あっと」

 

 内情を暴露したフレーキに対して、ようやく疎ましげに表情を変えた【黒い鳥】は突如はっとしたように目を丸くして、リヴェリアをじっと見つめた。

 

「ああそうだ、見て思い出した。【九魔姫(ナイン・ヘル)】、アンタに聞きたい事があったんだ」

「私に?」

「ああ」

 

 意外そうに問い返すリヴェリアに、【黒い鳥】は小さく頷く。そして、『聞きたい事』について迷いなく切り出した。

 

「アンタ、所謂【ハイエルフ】って奴なんだろ? だったら<白い竜の信仰>……あるいは、<ヴァーダイト神話>って知ってるか?」

「…………<白い竜>? <ヴァーダイト>?」

「…………【超硬金属(アダマンタイト)】の親戚か何か、かな?」

 

 全く心当たりのないリヴェリアとアイズは、【黒い鳥】の言葉に揃って(いぶか)しむような声を上げた。その様子を見て【黒い鳥】は思わず額に手をやり溜息を吐く。

 

「知らねえのかよ。いいか、ヴァーダイト…………いや、正確に言うなら<ヴァシリア神話>ってのは……」

「おい【黒い鳥】」

 

 説明しようとした【黒い鳥】を、サポーターの男が制止した。その苛立ちを隠さぬ声に、黒い鳥は振り向いて眉間に皺を寄せる。

 

「なんだよ」

「それ以上は止せ。今後に関わる」

「良いだろ別に。もしかしたら、こいつらが何か知ってるかもしれない。そしたら儲けもんだ…………『かつて、創造神シルヴァルは世界……ヴァシリアを創造する為に三柱の神を遣わした』」

 

 男の制止を半ば無視して【黒い鳥】は無表情のままリヴェリアとアイズに再び向き直った。そして、<ヴァーダイト神話>なる物語の冒頭を厳かに語り出す。

 

「『…………天空神エルウィン、海神エルフォス、そして、大地神ヴォラド。しかしエルウィンとエルフォスの二柱は、早々にその役目を放棄しシルヴァルの元へと帰還した。残されたヴォラドはただ一柱ヴァシリアに残り、様々な命を――――エルフ、ドワーフ、人間(ヒューマン)と言った、数多の種族を生み出した』」

 

「『しかし、地上に生み出された生物たちは、時代を経る内に争う事を覚え、平和な世界を目指した父母たるヴォラドの意に反して互いを滅ぼし合い始める。その様を長らく目にして苦悩し、思案したヴォラドは彼らの争いを鎮め今一度団結させるために万物の敵たる魔物を生み出し、次に自らの体を二つに裂いて崇拝されるべき物と憎まれるべき物を生み出した』」

 

「『それは竜。崇拝されるべき竜と、憎まれるべき竜の二体であった』……まぁ、冒頭はこんなとこか」

 

 語り終えた【黒い鳥】は、腰の後ろに装備したポーチから水筒を取り出して喉を潤した。それを終え一息つく彼に、目を細めたリヴェリアが疑問をぶつける。

 

「…………確かに、神話としての形は出来ているように感じる。だがあくまで『神話』だろう? お前が今上げた神々の名など、聞いた事が無い」

「まぁ、そうだろうな。俺も、あくまでこれは作り話だと思ってる」

「ならば、なぜそれを?」

「ああ、作り話だからこそなんだ。作り話だからこそ、信憑性がある……何の根拠も無く、こういう話は生まれない。冒頭の部分はともかく、この後の話には現実に存在するものと符合する描写がいくつかあるんだ」

「ならば、その描写とはなんだ? 何故、お前はこの話にこだわる?」

「大地神ヴォラドがその身から生んだ存在……その内、『憎まれるべき物』。そいつは現実でも倒されるべきものとしてその存在を知られている……何となく、心当たりってないか? この神話はな――――」

 

 首を傾けて言う【黒い鳥】。無表情であったはずの顔は、ほんの僅かに笑っていた。

 

「――――現存する中で最も古い、『黒竜』の登場する昔話なんだよ」

 

 彼が言い終えた瞬間、場の空気がぞわりと冷え込んだ。【剣姫】。彼女は『黒竜』と言う言葉を耳にした途端、小さな体から溢れるほどの凄まじい殺気を発散したのだ。

 

「ほう?」

 

 それに真っ先に反応したのは、【黒い鳥】たちの同行者、サポーターの男。彼は殺気に対して剣呑な声を漏らすと、ねめつける様な眼差しでアイズを見て、そして芝居がかった口調で言った。

 

「随分な殺気を放つじゃねぇか、【剣姫】。これは宣戦布告か? だとしたら、俺たちも黙っちゃいられんが……」

 

 男は緊張感たっぷりに言うが、顔を隠す布の隙間から覗く目には空虚だけがある。自分達を殺す事は、この男にとっては少なくとも目的ではない。殺気を収めたアイズはそう感じ取って、背筋を凍り付かせた。一方で、男は周囲の三人を呼び寄せて大仰に手を広げて呼びかける。それはまるで、聴衆に向け演説を行う思想家の様であった。

 

「いつも通り多数決だ。俺は殺すに一票。こんな機会二度と無いぜ? 四人で掛かれば間違いねぇ」

 

 男はくっくっと笑いながら、物騒極まりない言葉を口にした。どこか楽しげでさえある口調だったが、眼に喜びは無い。それをどこか冷めた目で見つめるフレーキが次に声を上げた。

 

「私は反対だ。殺す理由が無い。わざわざロキと事を構えるような真似をすれば、流石に面倒だ」

「俺も反対しとくよ。確かに四人がかりなら殺すのは簡単だけど……契約に入って無いし、次の機会って事で」

 

 現実的なフレーキの主張に、ラップが契約を盾に同意を示した。それにサポーターの男は苛立たし気に口を挟む。

 

「ラップ。お前、機会を選べる立場かよ」

「あんたが言うか? それより【黒い鳥】、君の意見は――――」

「反対。嫌だよ、こんな所で【剣姫】殺すの。まだあんな若いんだぜ? 心が痛む」

「本音は?」

「今後もっと強くなる奴を今殺すなんて勿体無い」

「…………チッ。お前はそう言う奴だったな、相棒」

 

 あくまで自身本意の観点から反対意見を示した【黒い鳥】に、男は苦虫を噛んだような顔をしてから諦めたように両手を上げた。多数決の結果を覆してまでアイズとリヴェリアを害するつもりはないのだろう。

 それから無言になった男は大人しく引き下がって、何もしないのなら早く帰ろうとばかりに入り口横の壁に背中を預ける。黒い鳥は彼のあからさまな態度を見て、仕方がないと言いたげに溜息を吐いた。

 

「方針は決まったな。帰ろうぜ。マギーも苛立ちながら待ってるだろうし」

「一応、稼ぎの半分は店に入れると言う約束をしたのだろう? ならば、そこまで怒られると言う事は無いと思うが」

「その話、俺の稼ぎには関係ないよな」

「当然だろラップ。お前の稼ぎはお前のもんだ」

「流石話が分かる! 安心したよ」

「……フン、面倒だな。あんな店を開け続ける事がそんなに上等かね?」

「『ジジイ』の頼みだ。お前だって楽しんでやってるんじゃあないのか」

「誰が。俺はお前がサボりすぎでマギーに殺されないかヒヤヒヤしてるんだぜ」

「俺、割と節度を持ってサボってるつもりなんだが」

「フギン、君は少し身の振り方を考えた方がいいな…………とりあえず戻ろうか」

「待って」

 

 背を向け、玉座の間を、ひいてはこの37階層を後にしようとする【黒い鳥】とパーティの者達をアイズが引き留めた。意外な人物にかけられた声に、【黒い鳥】がゆっくりと振り返る。その彼の視線を受けながらアイズは愛剣(デスペレート)を抜き、その切っ先を黒い鳥へと向けた。

 

「【黒い鳥】。少し、手合わせしてほしい」

「アイズ!?」

 

 アイズの申し出に、誰よりも驚いたリヴェリアが声を上げる。【黒い鳥】と共に居た三人もまた多少の動揺を見せた。当然の事だ。黒い鳥の実力は、文字通り隔絶している。オラリオ全体でもオッタル以外に相手を出来る者がいない彼に、この場に居る者で及ぶ者は一人として存在しない。無謀と言っても差し支えない選択だ。

 

 だが、対する【黒い鳥】の顔はあくまで無表情であった。

 

「……そいつは、『依頼』か?」

「うん。今あなたと戦えば、何か見えそうな気がする。だから、手合わせしてほしい」

「……訓練って事でいいんだな?」

「うん」

「了解。報酬はそうだな…………」

 

 周囲が驚愕している間に話を進める二人。【黒い鳥】がいくつか内容について質問を行い、【アイズ】がそれに応えて行く。そして黒い鳥は報酬について少し悩むように視線を巡らせて、それからウダイオスの残した大量の灰に向けて指を指した。

 

「ウダイオスの魔石、アレを半分もらえるか?」

「分かった、それじゃあ……」

「アイズ、やめろ。ウダイオスにはまだ勝ち目があった。だが、いくら治療したとはいえあれ程の戦いの後にこの男とやりあうなど流石に――――」

「リヴェリア」

 

 アイズの身を心配して、どうにか【黒い鳥】との交戦を阻止しようと諭すように言うリヴェリア。だが彼女の言葉を遮る様に、アイズは彼女の眼を見据えてわずかに微笑んだ。

 

「大丈夫。リヴェリア(家族)が、見ててくれるから」

「ッ……! お前は……はぁ…………」

 

 それを聞いたリヴェリアは、一瞬だけ顔をほころばせそうになって、それから頭を痛めたように額を手で抑えた。そして、溜息を吐いて沈痛そうな面持ちで声を絞り出す。

 

「まったく、我儘の言い方ばかり上手くなって…………あまり心配をかけるなよ。訓練とは言え、相手は【黒い鳥】だ」

「うん」

 

 リヴェリアの言葉を受けて、アイズは構えた。一方の【黒い鳥】は今までの無表情とは違い、何処か楽しそうに口角を上げてサポーターの男に声をかける。

 

「なぁ、どの武器使おうか。訓練だし、殺しちまわないようなのがいいんだが」

「知るか。さっきの鎚鉾でも使っとけよ」

「いや仕事しろってなんの為のサポーターだ。何でもいいから出してくれよ」

「じゃあこれでも使ってろ」

 

 男は背嚢を開くとその中から武具を取り出し、【黒い鳥】に向け放り投げた。それを素早くキャッチすると、彼は骨の盾と共に装備したそれ――――鉄製の小盾を構えて、しばらくして両手に盾を構える自身の姿に一度訝しんだ顔をして、そして今渡された小盾を男に向けて投げつけた。

 

「なぁオ…………お前! いやなんで盾を渡すかなお前そこで!」

「何でもって言っただろうが、相棒」

「限度を考えろよ!」

「お前が言えた義理か」

 

 喚き立て、睨みあう二人。突如として始まった彼らの余りに無為な言い合いに、アイズは毒気を抜かれたかのように切っ先を少し下ろした。その肩を、フレーキが軽く叩く。

 

「【プロテクション(防護)】」

 

 彼が魔法の名を唱えると、泡めいた光がアイズの体を覆った。驚いたようにフレーキの顔を見上げるアイズ。それに彼は一度好々爺じみた笑顔を向けると、未だに言い合いを続ける【黒い鳥】とサポーターの男に向け声を上げた。

 

「ヴァレンシュタインには防御魔法を張った! 多少過剰な威力でも構わんぞ!」

「本当に気が利く奴だなフレーキ!」

 

 彼の気遣いを見て取った【黒い鳥】は喜びと共に手を打ち鳴らして、腰に佩いた剣の片方を抜き放って骨の盾と共に構えた。石製の刀身に青い文様の走る長剣。何らかの能力を保有する【特殊武装(スペリオルズ)】だろう。互いの距離は、僅かに5M(メドル)程。彼女ほどの上位冒険者にとっては目と鼻の先の距離だ。

 だがそれは相手(黒い鳥)も同じ事。先程途切れかけた緊張の糸が再び張り詰めるのを感じながらアイズは腰を落とし、いつでも跳び退けるように足に力を溜め込んだ。

 

「どっちが勝つか賭けないか、フレーキ。俺は【黒い鳥】に10万ヴァリス」

「訓練に勝敗も何も無いだろう」

「つれないな。【九魔姫】、あんたはどうだい?」

「私もフレーキと同意見だ」

「おいおい、魔導士って奴は皆こんな感じなのか? 少しは付き合ってくれてもいいだろうに……」

 

 対峙するアイズと【黒い鳥】を賭けのダシにしようとしたラップは、二人の魔導士に素気無くあしらわれ肩を竦めた。そしてウダイオスが黒杭を操る際に破壊した床の破片に腰を下ろし、興味深そうな様子で相対する二人を眺め……気まぐれに、手に持った大盾で床を軽く打ち鳴らした。

 

 瞬間、【黒い鳥】が居合の如く剣を振るう。その振りに応じて刀身が分離した剣――――【引き合う石の剣】の切先がアイズに迫るが、彼女は愛剣を下から振るい難なく迎撃。切先部分を派手に打ち上げ、【黒い鳥】の視線がそちらに向いた一瞬の隙を突いて瞬時に肉薄し突きを繰り出す。それを切先以外の戻った石剣で逸らし、鍔迫り合いに持ち込む【黒い鳥】。

 

 刃同士を挟んで二人の冒険者は向かい合った。火花と共に迸る、これから始まる訓練には過剰なほどに苛烈な戦いの予感。それを感じ取って【黒い鳥】は思わず口角を上げて笑い、対する【剣姫】は口をきつく結ぶのだった。

 

 

 

<◎>

 

 

 

 同時刻。オラリオの中心に(そび)え立ち、星空にその影を浮かび上がらせる【摩天楼(バベル)】の最上階。静謐(せいひつ)さを(たた)えた部屋の窓からオラリオを一望できる、極上の絶景を独占する居住者――――愛と美の女神【フレイヤ】は、魂の輝きや色を見抜くその神の瞳を以って、一人の冒険者を見下ろしていた。

 

「…………相変わらず、とっても歪んだ魂」

 

 形の良い眉を少しばかり歪ませて呟く彼女の視線の先には、往来で酔ってふらつく一柱の女神をそれとなくフォローする、大柄な男の冒険者。年初めに突然オラリオの街に現れた彼は、彼女が今まで見た魂の中でも特に異質な物の一つを持った存在である。だがそれだけであれば、彼女は彼を忌避すべき存在として、遠巻きに眺めるだけだったであろう。

 

「【オッタル】」

「はっ」

「彼……<ルドウイーク>の調査については、どうなってるのかしら?」

 

 視線を向ける事無く呟いた彼女の声に、今までどうやって隠していたかも定かでない程の威圧感を持つ猪人(ボアズ)の男が応え、彼女の後ろに(ひざまず)いた。

 

「外部の冒険者――――【黒い鳥】に、あの男の調査は依託させて頂きました。ルドウイークなる男の正体も我々では調べようも無く、実力も隠している様でしたので……【黒い鳥】であれば、どう転んでもあの男の力を見極めてはくれるでしょう」

「確かに、【彼】なら失敗する事はまず無さそうね。もし私達との関係を知られたとしても、絶対に漏らす事は無いだろうし…………本当に手に入らないのが残念だわ」

 

 フレイヤは眼を閉じ、いつか見た……今は自ら【黒い鳥】なる二つ名を与えた男の魂の姿を思い出す。

 

 ――――それは黒。ひとかけらの輝きも無く、ただただ深すぎる黒を(たた)えた()()()。天上の美を誇る自身の美貌を目の当たりにしてもあの漆黒は身じろぎ一つせず、むしろオッタルや他の実力ある冒険者達にその視線は向けられている。

 

「嫉妬しちゃうわね」

「…………」

 

 ほんの僅かに眉を顰めたフレイヤの呟きを、オッタルは黙して受け止めた。

 

「最終的には頼みを引き受けてくれるのが殆どとは言え、私が彼を納得させるにはとっても気を遣うわ。なのに貴方の頼みは二つ返事で受けてくれたのでしょう? どうしてかしら?」

「申し訳ありません。あの男の思考回路は私にも理解するのは困難です」

 

 (こうべ)を垂れ、自らの不徳を責めるかのように述べるオッタル。美の女神の代名詞たるフレイヤの力をもってすれば、如何なる存在であれ虜にし、その頼みを聞かせる事は出来るはずである。オッタル自身も例外ではない。だが【黒い鳥】は例外だ。あの男はフレイヤの秋波(しゅうは)を受けながらそれを気にも留めぬ。全くもって理解できないというのが、オッタルの偽らざる本音であった。

 

 しかしフレイヤはそれを聞いて、何処か納得したかのように頷いた。

 

「そうね。彼は本当に良く分からない。でも、そこが良いわ。それでいいの。だからこそ私は、彼を眺めているのが楽しくて仕方ない」

「…………」

「それに今は……もっと気になる子が居るもの」

 

 フレイヤは全てを魅了するような熱っぽい微笑みを湛えて、テーブルの上の一枚の羊皮紙を手に取った。そこには、ある新人冒険者についての調査報告が記されている。

 

 【ベル・クラネル】。新興の零細ファミリア【ヘスティア・ファミリア】に所属する、レベル1の冒険者。フレイヤが見たことも無いような光輝く魂を持ち、その未知によってフレイヤを惚れさせた、ある意味では幸運な人間(ヒューマン)の少年。現在フレイヤは高みより彼を見守り、そして美の女神である自身に相応しい魂へと彼を鍛え上げるべく心血を注いでいる。

 

 ルドウイークと言う男の素性を調査しているのもその一環だ。以前はあまりにも異質なる魂の有り様に、関わり合いになるべきでないと直感的に判断したフレイヤであったが、先日のリヴィラの動乱において自身のファミリアに所属する二人の冒険者――――狼人の男とエルフの女が彼の手によって人食い花のモンスターから救われたという報告を受けた彼女は、ベル・クラネルに関わりのある人物であるとして彼についての調査を命じたのだ。

 

 その後、調査が始まってまだ数日程ではあるものの、既にルドウイークがベルに対して大きな貸しを持つ――――ヘスティア・ファミリアに入団するきっかけを作った――――人物であると言う事実が判明していた。それを受けて、フレイヤは次のステージへと調査のレベルを進めている。

 

「ルドウイーク……彼がベルの為に、何かの役に立ってくれればいいのだけれど」

 

 その懸念するような口調には、事実、ルドウイークがベルにとって害を成すようであれば即座に排除するという強い意志が込められていた。

 

「……排除しますか?」

「流石にまだ早計ね。彼はベルの大恩人であることに間違いはないし、どう転ぶかもまだまだ分からないわ。それに本人は随分【エリス】の為に頑張っているようだしね…………友神(ゆうじん)(眷族)を消すのは、余り気分のいいものじゃないわ」

 

 彼女の意図を敏感に察知したオッタルの決断的な問いに首を横に振る事で答えたフレイヤは、先日まで表舞台から姿を消していた友神の顔を思い出して記憶の中の彼女の振舞いにくすりと笑いを漏らすと、近くの棚へと歩み寄ってそこに飾られていた『黄金の果実』を涼しい顔で手に取り、置いてあった手布でその表面を磨き始めた。

 

「まったく……エリスったら、自分がどんな爆弾を抱えているか分かっているのかしら?  五年前の件といい、本当に他神(たにん)を心配させるのが得意なんだから……」

 

 友神の行く末を心配するように、慈しみを湛えた微笑みを果実へと向けるフレイヤ。しかし、彼女の細腕で持ち上げるには些か難がある重量の果実を持つその二の腕がふるふると震えているのに気付いていたオッタルは、むしろそちらの方が気が気でなかった。

 

 その時、丁寧なリズムで戸がノックされた。フレイヤが流麗な動作で果実を元置いてあった飾り台に戻して呼びかけると、一人の冒険者が部屋へと踏み込んでくる。オッタル程ではないが、凄まじい強者の風格を纏う猫人(キャットピープル)の青年。彼は迷いなくフレイヤの元へと向かうと素早い動きでオッタルの隣に跪いて頭を垂れる。

 

「お帰り【アレン】、ご苦労様。頼んだ事は上手く行ったのかしら?」

「はっ。【豊穣の女主人】、その指定された席へと確かに」

「知り合いが働いているとは言え、忙しい貴方にわざわざ向かってもらってすまないわね。見るべき子が増えてしまったから、手が離せなくて…………本当は私が行ければよかったのだけれど」

「いえ。貴女様にお選びいただけたこと、光栄の極みであります。そのお手を煩わせることもございません」

 

 フレイヤの言葉に僅かの躊躇も無く礼を尽くした言葉を返す猫人の男。対するフレイヤは総身で忠誠を示す彼の姿に気を良くしたか、にっこりと微笑んでその頭上より声をかける。

 

「ありがとう、アレン。とっても助かったわ。また、私の為に役に立ってね」

「はっ!」

 

 フレイヤの言葉を賜った彼は感極まる様に声を上げると立ち上がり、未だ跪くオッタルに一度剣呑な視線を向けると、来た時と同様の迷いない歩みで部屋から退出していった。その後姿を見たフレイヤは誰ともなくにっこりと微笑む。

 

「これでよし、と……あとはベルにあの本が渡るのを待つだけね」

 

 満足したように呟く彼女はゆっくりと壁に向けて歩みを進めると、そこに掛けてあったグラスを二つ手に取り、さらに近くの棚から白ワインの瓶をまた一つ手にしてから窓際に置かれたテーブルへと着いた。そしてワインの封を開けそれぞれのグラスに均等に注ぐと、未だに跪いたままのオッタルをその白磁の彫刻の如き手で招いた。

 

「どうかされましたか?」

「ふふ、いえ、今私、ちょっと気分がいいの。少し付き合って貰えるかしら?」

「承知いたしました」

 

 彼女の願いを聞き届けたオッタルは、澱みの無い動作でテーブルの向かいについて姿勢を正した。一方、屈強極まりない彼が少し窮屈そうにして自身に合わせ作られた椅子に座るのを見て、フレイヤはますます機嫌を良くする。

 

 そして彼女がグラスを持ち上げるとそれに合わせるようにオッタルもグラスを掲げ、誰の邪魔が入る事も無いオラリオの頂上に小気味よい音を響かせた。彼女はそのまま一口グラスを傾けると、窓の外に浮かぶ満月に視線をやって、少し眩しそうに眼を細める。

 

 オッタルはしばし、その絵画の如き姿に眼を奪われていたが、ふと自身も窓の外に眼をやって月を目にして呟いた。

 

「……月が綺麗ですね」

「………………ふふ、オッタル。その言葉、どういう意味で言ったのかしら?」

「申し訳ありません。いかに月が美しいとは言えど、フレイヤ様には及びもつきますまい」

「あら、そういう意味ではないのだけれど…………まぁいいわ。注いでくれる?」

「はっ」

 

 一瞬、彼女の機嫌を損ねたかと内心で動揺しかけたオッタルであったが、楽しそうに笑うフレイヤの姿にまた見惚れ、彼女の願いを聞き届けてワインの瓶を傾ける。

 

 そうして、しばらくオラリオ最強の男とその主たる美の女神は、酔いと夜の静謐(せいひつ)の齎す穏やかな時間の中で空に座す満月を眺めていた。

 

 

 




キングスのヴァーダイト三部作すき。
初代ACといい現代の画質で再収録していただけませんかね……(切望)

次あたりから原作三巻前後の時系列に入るかと思います。
ルドとロキを対面させないと。
新入団員の話何処で出せばいいんだろ……入れる隙間が見つからない……。


今話も読んで下さって、ありがとうございました。
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