「え、え、」
「……なにしてくれてんだよ……」
「…………ごめん」
忙しいクリスマス合同イベントの合間をぬってカップル限定タピオカパフェを食べに行く八幡達。
先日、川崎家でけーちゃんを納得させるために沙希と偽装恋人をしたばかりの川崎姉妹と遭遇してしまうというお話。
時系列:京華と会った後のクリスマス合同イベント中。
はーちゃんはパパになる→https://syosetu.org/novel/194482/8.html の続き。
眼前に聳え立つは瑞々しき
そんなフルーツ三銃士が囲い骨子としての役割を果たすアイスクリーム。雪のように真っ白なホイップクリームに灌ぎ浴びせられたマンゴーソースが作り出す中黄色ラインの自然美。その下にはフレーク・パイン・バナナのグラデ層を挟んで底部にたっぷりのチョコレートソース。
なんなのよ、このカロリーモンスターは。こんな規格外のモンスターを一人で討伐しなければいけないなんて……許すまじ我が友、かおり‼ と一緒に討伐するはずだった同調モンスターに毒づく。
どうしてこうなった……
休日の今日、花の女子高生がよく似合うオシャレなカフェ(笑)で一人テーブル席に座っているとスマホから『シュポッ』という緑でお馴染みSNSアプリ独特の通知音が鳴り、
kaori's mobile
『ごっめーん千佳、クリパイベントがカキョーに入ってるから今日行けなくなっちゃった』
『ホント、マジごめーん♪』
マジか、こいつ……『佳境』くらい漢字使えや。わたしの名前にその漢字入ってんでしょ。……んん! 違った。怒るとこそこじゃないない。
おい、かおりさんや、わたしはこの日の為に今週始めからずうぅぅぅっとカロリー調整し続けて、今日というタイトルマッチに挑んだんだよ。それなのにドタキャンとか、あんたに人の心はないのか! 軽量オーバーでもしたの? 罰則として店出禁にするよ?(そんな権限はない)
……なーんて、確かに手伝いとはいえクリパイベント忙しそうだったし、しょうがないか。わたしは今の気持ちにぴったりな落ち込むJKのキャラスタンプを押した。
はぁ~あ、この前の葉山くんとのデートといい最近のわたしって不運続きだよ……
念願の葉山くんとのデート、一応ダブルデートとでもいうのかな。それは、かおりがおな中の男の子と偶然出会って、そいつの隣にいた知り合いの美人さんが葉山くんを紹介してくれて実現した。
最初は楽しかったし、浮かれててそいつに何言ったのかすら覚えてなかったけど、ううん、特に会話らしい会話なんてなかった。葉山くんにしか興味がないわたしはそいつのことをかおりに任せっきりにしていたし、そいつも自分から話しかけてくるタイプじゃなかった。今にして思えば、ただひたすら邪魔にならないように空気に徹していた感すらある。
かおりはその陰キャをいじられキャラとして扱っていたのでわたしもその馬尻に乗って同じように接した。だって、わたしにはそいつがどういう人間なのかも分からないし付き合い長い人に倣うのは当然でしょ。でも、葉山くんはそれがお気に召さなかったようで、
『比企谷は君たちが思っている程度の奴じゃない』
『君たちよりずっと素敵な子たちと親しくしてる。表面だけ見て、勝手なこと言うのはやめてくれないかな』
それまで向けられていたキラキラとした爽やかな笑顔なんてどこかに消え失せ、声には敵意さえ込められていた。恫喝するような強く鋭い視線にわたしの膝が震えていくのが分かる。
わたし達は逃げるようにその場を後にして、かおりと二人で重苦しい雰囲気になったものだ。
日が経つにつれ、わたしは徐々に、かおりはもっと早く立ち直っていった。
クリスマスが近づくとわたしのメンタルは再び下降していったけど、かおりは更に上昇していくんだよねえ。クリスマス迫っててあんたも彼氏いないのに、なんでよ? よくよく訊いてみると、どうもその原因はあの時の陰キャみたいで……。
まあ、何にしてもわたしはあいつに興味がないわけで、落ちたメンタルの回復を図るべく、パフェが売りのこの店に来たわけですよ。
ここは色んなパフェを提供してて、豪勢なのにリーズナブル! お得感がすごくてインスタ映えもする流行に敏感なわたしたちには外せない。ただ、栄養面もダイナミックで特に『チャレンジパフェ』と呼ばれる特大サイズは摂取カロリー9000以上というお化けメニュー。何それ、標準的な女子ならそれだけで一週間近く食い繋げるレベルなんですけど。
もちろん、そんな食物と呼んでいいのかも怪しいネタ枠メニューを頼んだりはしない。いま目の前にあるのはお一人様用フルーツパフェ。ただしそれでもデカい。
美味しくて見栄えが良くて安いと
だからこそ、かおりと約束してシェアして一緒に食べようとしてたんだけど、さっき届いた通知が計画を御破算にして、タイトルマッチをデスマッチに変貌させたんだけど。
え、だったら頼むなって? ごもっとも。これはわたしの単なる自爆。葉山くんにフラれた鬱憤を食べることで晴らそうとしているんだ。
店内は暖房が効いているけどクリスマス間近の真冬にパフェってどうなんだろうね。アイスクリームを口に運びながら、文明の利器バンザイと讃えたくなる贅沢空間を謳歌する。
今週食後のデザートとかお菓子減らしたからカロリー相殺されてるはず。最近はパッケージにもメニューにもカロリー表示されてる便利な世の中ですわい。
ぼんやりと店内を見ながら
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」
「ひとr……二名です」
わたしをどん底に突き落とした腐り目のそいつは、あろうことか女連れだった。
(なんなのよ、あいつ……わたしですら彼氏いないってのに、お前ごときが!)
向こうからすればとばっちり以外の何物でもないけど、やっかむ気持ちも理解してほしい。だって連れてる女子が、なんていうか、すっごくすっっっごぉぉく、可愛いんだもの。あとそれ以上に不快なのは、この前、葉山くんと出掛けたとき最後に会った二人の美少女のどちらか……でもないんだよ、これが。
なんだお前、マジなんなんだよ? 葉山くんにあんな素敵な子たちと親しくしてるーなんて言わせといて、もっと親しくしてるオンナいんのかよ、この前の黒髪ロングとお団子巨乳は袖かよ、ちっ。なんだお前? お前ごときが‼
せっかくこのパフェ食らうために空けといた摂取カロリーだけど、そこにたっぷり糖質詰め込んでも発散し足りなそうだわ。どうかこの溜飲を下げてよ神様!
一度意識してしまうと、もう目が離せない。ただでさえ、一人で『お一人様パフェ完食デスマッチ』開催中なせいで喋る相手もいない。ってか、むしろかおりがここにいたら、そりゃもう親の仇ってくらいネタにして弄り倒してるよね。結局、あいつから目離せないんじゃん、わたし。取り合えずかおりに報告でしょ。
chika's mobile
『ねー、葉山くんと一緒に遊びいったあんたとおな中のあいつ、いま可愛い子とこの店来てんだけど』
『しかも、連れてるのがあの時の二人と違う子なんだよね、あれってそんなモテるの?』
(送信っと。……うっわ、あいつら、カップル限定パフェ頼んでやがるぅ!)
遠目からでもすぐに分かるそれは、カップル限定タピオカパフェ。メニューに載ってるってのもあるけど普通のパフェには見られないストロベリーソフトクリームのローズピンク配色が目立つこと目立つこと。しかも、これ見よがしにハートを形作ってて正常な人間ならまず注文できない代物だ。するやつは頭ん中までローズピンクだね。ほら、あいつも運ばれてきたパフェみて引いてるもん。カップルはみんな正常じゃないかと思ったけどあいつは冷静なんだ。女性関係が穏やかじゃないけど。
彼女さん目を輝かせちゃってるよ。んー、幸せそう、実はタピオカって単位グラム当たりでアイスよりカロリー高いんだよね。茹でてない状態のグラム当たりだけど。でもカロリーキングのチョコレートソースが底の方にたくさん入ってるしモンスターには違いない。
カロリー過多で肥え太って爆発しろっ♪
そして(かおりに)通報♪ きゃぴっ☆
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「あぁ、二名で、す……⁉」
「ふたりー!」
来店したポニーテールの女性が手に持つ買い物袋からはネギが突き出ていて所帯じみてる。もう片方の手は元気な女児の手を引いていた。その二人が見ている先が偶々わたしと同じ人物を捕らえていた。
「あー、はーちゃんパパだぁ!」
「け、けーちゃん!」
「ぱ、ぱぱ⁉」
「⁉」
え、なにそれ。パパ? パパってあれ? パパ活のパパ? いやいや、彼がお金持ってるとは思えないし、ってかもうこれ普通に通報案件だよね。してやるか、世間的に合法だし、個人的にも溜飲下げれるし!
などと冗談半分でスマホを手にしたまま静観していると新たな、そして衝撃の展開。
「うー……はーちゃんパパ、浮気ー?」
「ちょ、ちょっと、けーちゃん、」
「はーちゃんにはさーちゃんがいるから浮気は、めっ! なの‼」
「え、え、ど、どういうこと、なの? お、八幡せんぱい?」
修羅場キター‼
二股確定! おまけに実は四股の可能性にも
あいつにはオマケのヤリチンって二つ名をくれてやろうか!
(かおりに)通報通報っと。っていうか……
(え、ってか、あの子って彼のなんなの? もしかして、む、娘⁈)
ん、んー、ギリッギリなくもないかも……14歳の母とかってドラマもあったくらいだし、あいつが中学生の頃にうっかり八幡しちゃったらありっちゃありな歳だよね。かおりー、こんな面白い時になんでいないのよー⁉
「あの、失礼ですがお客様、他のお客様のご迷惑になりますので……」
「ああ! す、すいません! こ、こら、けーちゃん、ひき、はーちゃんのことはいいから、あっちでケーキ食べよ、ね?」
「だめー、はーちゃんパパ、さーちゃんと一緒にお風呂入ったのに、浮気しちゃダメなのー」
――――シーン
これには子供の発言だからと聞き流せなかった。むしろ子供の方が事実を喋ってしまうこともある。
はい、(かおりに)通報っと。
「……あの、お客様……」
「…………お、八幡せんぱい……」
うわっ、すっごくすぅっっごぉく飯ウマ‼(最低)
やだもー、パフェのおかわり頼んじゃおうかしら♪ きゃぴっ☆
最初に連れてた彼女の戸惑い様ったらないわ。いやー、名前も知らない彼女さんごめんねー。わたしはあなたに寄り添うことが出来ないけど別れる前にせめてそのカップル限定パフェを存分に味わっちゃいなYO♪ わたしもこのパフェを、なんならおかわりしちゃうからSA♪
店内が静まり返った後、喧騒が戻った。戻ったというか喧騒の質が確実に変わったんだけど。
いま漂うのはぞわりぞわりと虫の足音みたいに這い寄る囁き声。そのどれもが一様にして核心である『
「はーちゃんパパ、今日もおうち来て。一緒に寝よ? さーちゃんも」
「…………」
「…………」
「……あの、お客、様……」
あー、もう幼女が洗いざらい吐いてさすがにわたしも同情しちゃうよ、この空気♪(笑)
風呂も大概だけど、同衾もなかなかよね、そこんとこkwsk!
ほら、彼女さん(悲)なんて目を丸くしちゃってんじゃん。たった今、カップル限定パフェとか頼んだ直後にNTRとか、あいつって特異点なわけ? つーか、その程度の変化しか起きないとかショボい特異点だなぁ(笑)
はいっ、(かおりに)通報ぽちっ♪
いい
「……なにしてくれてんだよ……」
「…………ごめん」
えー……なんでそこで女側が謝っちゃうわけ⁉ イミフなんだけど⁉
そこは『あんた、あたしとこの子というものがいながら浮気とかいい度胸してんじゃん、顔はやめてやるからボディだしな』とか言っちゃって刺されちゃうとこじゃないわけ⁉ いやーん、すぷらった☆
てっきり腹パンかと思いきや刀傷沙汰を想像するあたり、どんだけ彼のこと嫌いなの、わ・た・しっ♪
ん? んん⁉
ど、どうしちゃったの、ポニテの子が申し訳なさそうに身を縮ませてる横で、比企谷くんと二号(?)さんがウエイターに頭下げてる……。
え? なんで? なんか全く状況理解できないんですけど?
ここは比企谷くんがポニテと二号に謝るとこじゃないの? そんで二号にビンタされてポニテに腹刺されるまでが浮気のテンプレ、きゃはっ☆
発想がサイコパスチックでわたしの精神状態やばくなーい? かおりがいたらアグリー♪ って同調しそうだけどそこは濁せよ、どんだけ勢いだけで生きてんだよ⁉
って、どう話がついたんだって我が目を疑う。またしても特異点が発動したんじゃないかという信じられない現象が繰り広げられた。
①比企谷くんと二号がウエイターに謝罪
②比企谷くん達のテーブルにポニテと幼女も同席
③四人でカップル限定パフェを仲良くつつく ← いまここ
はぁっ⁉
かおりー、あんたのおな中、謎人物すぎない?
どうやったら修羅場が団欒になんのよ、こんな『ザ・ゾーン』みたいな、葉山くんしかできないようなことできちゃう比企谷くんてどういう奴なのよ、むしろかおりは告られてなんで断れたわけ? いつものアグリーどうしちゃったの⁉
だめだ……理解が追い付かない……
わたしは溶けてスープ状になったパフェをスプーンで掬いながら、かおりにLINEした。
chika's mobile
『比企谷くんってそのうち刺されるかもしれないね』
× × ×
後日
コミュニティセンター
八幡side
「なあ、お前、うちの演劇でるか?」
「……お前じゃない。留美」
えぇ……女の子を下の名前で呼ぶの……。せめてけーちゃんとか愛称なら呼びやすいんだが。
躊躇してると会いたくないランキング上位ランカーの同調モンスターがそこにいた。
「比企谷ー、おつかれー」
「おう……ってか今まさに佳境だろうが。こんなとこで油売ってないで作業戻れば」
「うっわ、超イヤそうなんだけど、ウケる」
イヤそうって分かってて出るリアクションじゃないですねえ。ホント、俺にとって未知の生命体だわ。
「訊きたいことあるから来たんだけど」
「あ? まあ、答えられるものなら答えるが。それ聞いたら戻れよ」
「おっけー。ねえねえ、比企谷って二股してるの?」
「ぶふっ! なんでだよ、ソースはどっからだ? この前、葉山が呼んだあの二人は単なる部活仲間なのは分かっただろ」
「ああ、そっちじゃなくて。なんかさー、女の子とカップル限定パフェ一緒に食べてるとこを子連れの本妻に見つかって修羅場ってたって海浜じゃ結構有名になってんだよねー」
「な、なんだ……と……?」
「…………八幡、くわしく」
おまけ
数日前
「ん~……つっかれたぁ~」
「ほれ、珈琲」
「わぁお、ありがとお兄ちゃん♪」
「クリスマスも同級生と勉強するんだってな」
「うん、受験近づいてるからそんなこと言ってる場合じゃないんだけど、それでもクリスマスに一人なのが許せないって子が多くて皆で勉強しようってなっちゃったんだよねぇ~」
「お、お兄ちゃんは許しませんよ? ここ、小町にかか、彼氏なんぞ……!」
「お兄ちゃんキモい。それに小町はまだ彼氏なんていらないよ。お兄ちゃんがいるからね。あ、いまの小町的にポイント高い!」
「最後のがなければ八幡的にポイント高かったんだがな……」
「照れない照れない。そんな小町に彼氏が出来ない原因を作ってるお兄ちゃんへ相談なのですが~」
「なんだ、いってみ。聞くだけはきいてやる」
「あのね、受験勉強で疲れた小町の脳には
「それはよく分かる。よし、お兄ちゃん秘蔵のマッ缶を……」
「ん~、ちょ~っとそれは小町的にポイント低いかなぁー?」
「なんでだよ、マッ缶だぞ? チバニアンの液体燃料がポイント低いとか小町は何人の血が流れてるんだよ」
「千葉県人の前に日本人だからね。ってそんなこと言いたいんじゃなくて」
「ああ、すまんすまん、話が進まんな。んで?」
「うん、実はさ、最近パフェの美味しいカフェがSNSで流れてきてさ、そこにはカップル限定パフェってのがあるんだって……」
「ほうほう」
「それでね…………」
「…………え、マジで?」
小町はにぱっと小悪魔的笑顔で微笑んだ。
了