オーバーロード~死の支配者と始祖の吸血鬼~   作:魔女っ子アルト姫

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嘗てありし思い出

「ふうっ……」

「あれっ如何しましたアーカードさん」

 

アーカードの自室、モモンガはそこを訪れて男二人だけで気軽に話をしながら休みを堪能していた。テーブルの上には普段出されるような高級感あふれる料理ではなく何処か庶民的な料理が並べられている。それらはアーカードが作ったものであり、裁縫と同じように取得していた料理スキルで作った料理だった。モモンガは人化し、どれもこれも美味しい美味しいと言いながら頬張るのだが何処かアーカードの様子は優れなかった。

 

「いやな、如何に気分が良くない。何故だろうな」

「もしかして気分悪くさせちゃいましたか、すいません料理を食べてみたいなんて言っちゃって……」

「いやそれは関係ない。寧ろ腕を振るえて私も満足している」

 

リアルでは料理をするどころかまともな食材すらない、安価な液体食糧ならまだしも調理を行える物など高くて手が届かない。だからこそアーカードはユグドラシルでそれを求めた、形だけで味などは感じなかった自分が起った調理という工程は酷く楽しく甘美な物だった。そして今それを友人に振舞えている、これ程に満足出来る事など無い……筈なのだが、どうにも気分が良くない自分がいて苛立っている。

 

「何かしたい事がある、とかですかね。俺も仕事が凄いやばかった時とかユグドラシルプレイしたくて凄いイライラしましたもん」

「それに近いかもしれないな、だが何をしたいのかは分からないんだ」

 

蒼の薔薇の一件から数日程度。ナザリックに帰還したアーカードは普段通りに過ごしていた。仕事もしっかりこなしながらも眷属にしたクレマンティーヌの様子を見つつ、セラスや自分を狙ってくる玉藻の野獣の眼光から上手く逃れてきている。何も変わらない筈の日常なのに苛立っている、何が違うのか全く理解出来ない苛立ちが募り続けている。

 

「何か習慣付けた事をし忘れてたとかですかね」

「習慣と言ってもなぁっ……ずっとやってたのにもうやってない事と言えば……」

 

今までしていたのにしていない事、この世界に来てから同じような事を繰り返していた筈。では来る前だろうか、それをしていないストレスが何時の間にか募っていた、という事なのだろうか……その様に考えると答えは呆気ない程に容易く見つける事が出来た。

 

「ああそうか、分かったよモモンガさん」

「良かった、それでしたら俺が手伝いますよ。それで何でイライラしてたんですか?」

「ああっ―――殴られてなかったからだな」

「―――はっ?」

 

 

「成程……ああ確かに、アーカードさんが療養する前でしたらたっちさんも建御雷さんも健在でしたもんね」

「ああっこの身体だからだろうな。もう染みついてしまっているんだ」

 

アーカードの苛立ちの理由、それは単純にギルドメンバーの役に立っていなかったから。毎日のように建御雷のスパーリング相手を務めながらどれだけHPを削り切れるのか、この戦術はたっち・みーに対して有効なのか愚策なのか、それとも切り札に成り得るのかという事の検証に付き合っていた。そしてたっち・みーもガチバトルが嫌なだけでアーカードによく相手を頼んでいた。それはコンボの練習だったりと日によって違ったが、そんな日々がアーカードにとっては当たり前の日常だった。

 

「偶に二人がどっちが高いDPSを出せるか勝負だと言って、交代交代に私を切り刻むんだ。いやぁあの時は流石に冷や冷やしたな」

「何やってんですかあの二人。なんだかんだでたっちさんも脳筋気質な所あったんですね」

 

ある種の狂気的な光景だったかもしれない、仲間の身体を使って自分の力の方が上だと競い合うのだから。加えて建御雷の武器は【建御雷八式】はアンデッドの弱点属性である神聖属性を纏う刀でもある、アーカードにとってこれは天敵と言わざるを得ないのだが……スキルなどで自身の弱点を補強してこそいるがそれでも防ぎきれずにアーカードには大ダメージが入る。そしてたっち・みーも遠慮なく全力で攻撃してくるので冗談抜きでやばいダメージのオンパレード。

 

だがそれでも倒れないのがアインズ・ウール・ゴウンのラスボスの一人と言われた吸血鬼アーカードなのである。自己回復や状態異常回復などのスキルも持つアーカードは受けたダメージを無効化するかのように傷を塞ぎ、立ち上がって数値を二人へと話し、再び次の攻撃を受ける。それこそがタンクとして前線を支えた彼の役目でもある。

 

「そうだな、私は今となってはNPCの皆に守られる立場だ。今まで守る立場だったのに逆の立場になってしまって慣れる事が出来なかったんだろうな……」

 

最強の盾、それこそがアーカードを形容する言葉だった。だが気付けばその盾は守るべきはずだった存在達に守られる立場へと変わっていた。前線で使われてこそ価値があった筈だったそれは宝物庫に飾られる宝物のように安置された。それに彼は不満を持ってしまったのだろう。

 

「済まないモモンガさん、胸の痞えは取れた」

「良いんですか、なんだったら俺がその……DPSを調べる事もしますけど」

「ハハハハッギルドメンバー思いの君に私を攻撃出来るのかね、出来たとしても今度は君の心にしこりを作ってしまう。そうなったら元も子もないさ、もう大丈夫だ気にするな」

 

そう言いながらエプロンを付けながら顔を結う。気分が良い、友人の為にあと数品作ってあげようと思い至りながらアイテムボックスから食材アイテムを取り出しながら、笑みを浮かべながら言う。

 

「さて友よ、折角たっちさんと建御雷さんの名前が出たんだ。二人の好物でも作ってあげよう」

「えっ良いんですか!?しかもあの二人の好物って凄い気になるんですけど!!?」

「ならば大人しく待っているといい、それともオムライスのお代わりが先かな」

 

そんな風にアーカードはモモンガと一時の安らぎを得ていた。新しい料理を口にしながら友との思い出に浸りながらの食事会は酷く甘美な物だった。

 

「それで今度は帝国に行くのだったか、向こうはどんな国だろうな」

「何か楽しみですね」

「弁当でも作っていくか」

「いや遠足じゃないんですから」

「何だ要らんのか」

「欲しいです」


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