詐欺師さとりは騙したい   作:センゾー

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すぎ去りし災難を記憶すること、いかばかり楽しきか。
           エウピリデスー『断片』よりー


繝代Φ繝峨Λ縺ョ邂ア【蜿、譏主慍縺輔→繧】

「もしものことだけれど」

 

 月下に影の仮面を被りながら、少女は少し言いづらそうに口にした。

 

「もしも、何かの拍子に私が記憶を失ったら、その時は私を頼んだわね」

 

 言われた少女は、縁側に出来の悪いお茶を溢して目を見開いた。

 

「頼んだって、さとり、あなた」

「別にそういう予定があるわけじゃないわ。ただ、何事にも保険はかけておくべきでしょう」

「それはそうかもしれないけれど、私じゃなくたって。それこそ八雲紫なんかの方が適任じゃない」

「私に何かがあった時は、紫にも何かがあるかもしれない時よ。だから、中立で死なない、私の友人である藤原妹紅こそ相応しい」

 

 さとりはそう言って、溢したお茶を拭き取る妹紅の横に寝そべった。

 穏やかな表情が月光に晒されて、昼に出会う時よりもわかりやすく見えるほどに鮮明だった。

 それは単なる明度の話でなく、古明地さとりが求められる『古明地さとり』をやることを緩めていることの証左に違いない。

 だから、その言葉は嘘偽りがなかった。

 

「あなたになら私を任せられる」

「でも、記憶を忘れたら私のところへ来れないでしょう?」

「大丈夫よ、私が記憶を失ったら藤原妹紅を訪ねるように仕組んでおくから。私はあなたの元へ向かうまで誰の言葉も信じず、藤原妹紅だけを目指すのよ」

「そんなことができるの」

「私だもの。私が記憶を失って古明地さとりでなくなったとしても、私は私よ。きっと私以外を信用しない。だから、私が信じるあなた以外を信じないでしょう」

 

 言葉の古明地さとりらしさに対して、妹紅の顔を覗き込むように顔を傾ける姿は古明地さとりらしくはなかったが、それがあまりにも友人としてのさとりらしかったから、その違和感に思わず妹紅は微笑んだ。

 

「どうして笑うのよ」

「ん、いや、そんな穏やかな顔で真面目なことを言うものだから」

「私は真面目よ。本当に、私はきっとそうなるから」

「まぁ、そうね。そんな気がする」

 

 夜風が吹いた。ただの風で、だからこそ心地良かった。

 

「私が」

「ん?」

「あなたに会いに来た私が、たとえまるで別人のようだったとしても、私が今どうであるかを伝えてちょうだい」

「別人だという確信があるってことね」

「えぇ。正直なところ、今の私が持つ私らしさも古明地さとりらしさも、少しずつ自分に刷り込んできたものだから」

「かつてのあなたを、今あなたは覚えている?」

「いいえ、全く。あぁ、でも」

「でも?」

「碌でもないわ。それだけは確かに覚えている。だから、誰も信じないと言えるのだけれど」

 

 さとりはゆっくりと立ち上がると、ぎこちないターンを一度した。

 不慣れな様子だが、それでも彼女は容姿だけで言えば可憐なものだから、実に少女然としていた。

 

「その私は、きっとこんな事をしない。自身が少女であることを理解しているかも、一人称が私かも、何もかもわからない。だから、どうか覚えておいて。そこにいるのは古明地さとりになり得る怪物なのだと」

「怪物を古明地さとりにするのが、私の仕事ってわけね」

「えぇ。怪物は、きっと古明地さとりになれる。全てを思い出そうとも、思い出さずとも、きっとね」

「ちなみに」

「ちなみに?」

「あなたが何も思い出さなかった時、私は親友じゃなくなるのかしら」

「大丈夫よ。私と親友になれたあなたなら、何度出会っても変わらない」

 

 それは、まるで時が止まったかのようだった。

 ただ微笑むさとりの前にただあんぐりと口を開けることしかできない妹紅がいて、微かな風で揺れる木々だけがそれがただの沈黙であることを示していた。

 

「どうしたのよ」

「あぁ、いえ。随分クサイ台詞を宣うものだから」

「私にも感情は存在するのだから、そう言うこともあるわ。」

「そりゃあ、そうでしょう」

「そう言えるのはあなただからよ。多くは私を感情の希薄な奴だと思っている」

「友達じゃないからね」

「私の友達なんて、片手で数えられるほどしかいないから、世界でたった数人が私を普通に見てくれるのね」

「十分よ。本質を理解してくれる友人なんて、たった数人で過ぎるほどに足りている」

「それもそうね。何が私をこんなにも卑屈にしたのかしら」

「決まってるじゃない」

「本当に?」

「珍しく察しが悪いのね」

「えぇ。あまりピンときていないわ」

「あなたを卑屈にし、あなたを勇敢にし、あなたを縛り、あなたを自由にする、そんなものはたった一つしかないじゃない」

「あぁ、成程」

「記憶がないあなたを私は想像できないけど、きっと今のあらゆるあなたを作り上げたものはこれでしかないでしょう?」

「そうね、さっき自分でも言ったことだったわ」

「それではさぁ、自己紹介をどうぞ」

「私は、さとり。古明地さとりよ」




今日はエイプリルフールです。

この作品を読んでいて良いと思う部分

  • シナリオ
  • キャラクター(性格など)
  • 台詞回し
  • 地の文
  • 表現
  • 考察できる点
  • 謎の多さ
  • キャラクターへの解釈
  • 世界観への解釈
  • シリアスな点
  • ギャグ要素
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