幽々の空、灰暮れに   作:魔愛暴導富

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また遅れてすみません…。
社会人になってしまったのでペース遅れます。クソが。


97.エレアンドロ:プレイグラウンド

 

 

【人形】

 

・50年前、イスタバイオン王国が酪島エレアンドロに住む子供達に寄贈した人形達。

 品格さえ伺える高級品や女児が好む華やかなもの、兎に角ガシガシ遊べる軽いもの…更には安物に至るまで様々なものが贈られていた。

 国の金で店へ向かい、険しい顔で見繕った当時の兵達は皆子持ち。意外にもそれは同じ遊びを繰り返す子供達の新たな笑顔を見る為だったのだ。

 

 今では祭司の家にある貴重品貯蔵庫に眠っている。

 不思議な事に、極めて状態が当時に近い。

 これを兵達が見たらきっと、ムスッとしてしまうに違いない。

 

 おもちゃは、遊ぶものなのに。

 思い出と共に風化しなければならないのに。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「よし。子供達へ会いに行きましょう」

 

「…もしかして貴方も旅行がしたかったの?村長の所に最短で向かうと思ってたわ」

 

「いや、遊びたい訳じゃ無いです」

 

「若者は遊びなさい」

 

「それは休日に」

 

 

 昼食を終えて腹も膨れたコーリスは、これから起こすべき行動について真っ先に意を述べた。

 目的は児童の役割とされる『ダシャ』達に会う事。本当は全ての村人と細かく話をしたいが、労働中の邪魔は憚られる為、少しでもアプローチが容易な者達に絞りたかったのだ。

 

 

「村に誠実に接する事は、彼等を理解しようとする事。これは聖騎士時代に死ぬ程言われた事なんですが、子供に好かれる人間ほど信頼されやすい生物はいないんです。特に穏便な村社会では」

 

「子供に優しく…むむ。僕は一般的な子供達の何たるかを知らないので、彼等に寄り添えるか…」

 

「あ、私は優しいわよ。2歳の時に牢屋に閉じ込められたから、小さな子を見るとついつい心配になっちゃって」

 

「僕の父は手のマメが潰れないと褒めてくれませんでした」

 

「二人ともなんか重いです…」

 

「そういう貴方はどんな幼少期だったのよ」

 

「幼馴染とか友達と普通に遊んで…って感じです」

 

「前に聞いた女の子ね。さぞかし豊かな幼少期だった様で羨ましいわ」

 

「僕だって好きな子がいたのに…道場の息子だって言ったら避けられてしまい……」

 

「俺だって親はいませんし、その子とも会えませんよ。トラモントですから」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「「「強く生きましょう……!!!」」」

 

 

 七曜仲良しグループ誕生。

 この結束の前にリノアは近い将来地獄を見る。

 

 

「で、分かれて色んな子と話してみましょう」

 

「え!?分かれて!?えっ!!!???」

 

「そんなに驚きます?」

 

「いやだって幼子(おさなご)ですよ!?」

 

「幼子です」

 

「む、むりです!こわいです!子供達も僕なんか目の前にしたら泣いちゃいます!」

 

「エヘカトルさんなら好かれると思いますよ。ほら」

 

 

 子供に会いに行くというだけで騒ぎ出すエヘカトルに違和感を抱きつつ、コーリスは彼の手を引っ張って外まで歩みを進めた。

 

 宿から出ればすぐに子供用の遊び場が見える。

 といっても労働に用いる道具が一切置かれていない空間というだけで、砂場すら存在しない。かくれんぼも出来ないので、子供達は只管にかけっこで時間を潰しているのだろう。

 この島の在り方を考えれば自然な事だ。

 児童そのものが役職として捉えられているのにも納得だと、クラーレは思わず口を噤んだ。

 

 一方、子供達の快活さは偽りではない。

 此方に気付けば必ず大きな声で『きしさま』と叫ぶし、手招きの前には近寄ってくる。

 

 

「あと数カ所…基本的に広い空間を使うようにしていますね」

 

「集まれば何処でも遊ぶのが子供なんだけどね」

 

「そういうものなのですか?」

 

「貴方はこれを機に子供らしさを学びなさい。刀だけじゃ物は解決しないわよ」

 

「ど、毒ではどうなのでしょうか」

 

「ふふ。私がどれだけ怒られてきたか知らないようね」

 

「……僕は入り口付近の遊び場に行ってきます!」

 

 

 エヘカトルは逃げる様に走っていった。

 残された二人も迷う事なく情報を集めに遊び場へ向かう。得手不得手は、人の自信とは全く異なる事を知っている二人は、エヘカトルへさしたる不安を持ち合わせていない。

 

 

「区切りがついたら戻る。私の推測じゃ情報に差異は生まれないと思うけどね」

 

「何処でも子供は子供らしく在ってくれればいいんですが…」

 

 

 

 

─────────────────

 

 

 

 

──エレアンドロ、郊外付近。

 

 

「こんにちは」

 

「こんにちは!騎士様!」

 

「こんにちは!どうしたんですか?」

 

「ご飯は足りなかったでしょうか?」

 

「誰か、さがしてるの?」

 

「いや、少し村を見て回ろうと思って」

 

 

 村の外れに最も近い遊び場では、4人の子供が踊っていた。彼ら曰く、かけっこをするには危険な場所であるとの事で、許可された遊びを繰り返しているらしい。

 挨拶の返答だけでコーリスの心は辟易としていた。無論、子供達に投げかけられた質問の嵐に対してでは無く、彼等の返答が極めて"律せられている"と認識してしまったからだ。

 

 子供にありがちな好奇心は言葉だけで行動に全く現れず、常に相手の目的を探る様に問いかけ、それを分担している。

 礼儀としての返答、訪れた事に対しての疑問、目的の洞察──子供達4人の言葉はこの村が憶えた疑問の総意である事は間違い無い。

 

──無邪気な遊びを繰り返す子供が、こんなに気の利く存在であってたまるものか。

 

 コーリスは誤魔化す事を止め、素直に子供達──『ダシャ』へ問いかけた。先ずはエレアンドロに向き合おう。

 

 

「君達のお仕事は何かな?『ダシャ』は遊ぶ子の事を言うんだろう?」

 

「僕達の仕事は遊ぶことです」

 

「ご飯を作ってくれたあの子……シャットの、ええと」

 

「シャットで大丈夫ですよ!」

 

「皆同じ名前か。それにあの子も幼かったが、遊ぶ仕事とはまた別に働いている。どういう仕組みかな?」

 

 

 コーリスは敢えて、率直かつ大雑把な質問をした。

 殆どの子供には決して答えようの無い、存在価値と職業の仕組み。

 

 

「空では、働いている子供もいるって」

 

「それは…誰が言ったか、教えてくれるか?」

 

「ううん。知ってるの、僕達」

 

「……なる程。確かに、都会でも小さい内から家族の手伝いをしてる子も珍しく無い。地方なら働く子供もいる。俺は君達みたいに遊んでいたけど」

 

「……!」

 

「嬉しいのか?」

 

「はい!だって、僕達は変な事をしていなかったって事ですよね!間違った仕事をしていないって事ですよね!ちゃんと、遊べてるんですよね!!」

 

 

 淀みない返答だ。それでいて普通の社会ではある筈の無い答え。

 

 

(村人達は空の社会を模倣する為に作られた事を自覚している。しかし命令されているというより、知識として備わっていて、それが生態となっている様な口振りだ。ただ、自分が間違った模倣をしているのではないかと恐れている時点で、感情はあると)

 

 

 この様子では、子供達の返答から村の背景を探るよりも、各々に聞き回った方が早いだろう。村人達は非常に協力的だ。

 彼は子供達に寄り添う事に焦点を当てた。

 

 

「そうだね。楽しい遊びなら、俺も少し混ぜてもらえないか?大人だって、たまには息抜きをしたいんだ」

 

「それは、変かもしれないです」

 

「変?」

 

「子供は、遊んでいて。大人は、見守ってるんです」

 

「一緒に遊ぶ親だっているんだ。それぞれ形があるんだよ」

 

「僕達の仕事に、騎士様を巻き込む訳にはいきません」

 

「…じゃあ、踊りを見てもいいかい?」

 

「それは分かりました!」

 

 

 コーリスは既に、感じていた昼食のぬくもりを忘れていた。

 

 

 

────────────────

 

 

 

──エレアンドロ、中心部。

 

 

(鬼ごっこね。もっと広く場所を使えばいいのに)

 

 

 クラーレは最も目立つ場所を選んでいた。

 彼女は好き勝手遊ぶ子供を特別嫌ってはいないが、態々関わりたいと思う程友好的でも無い。そういうのは老人のお節介が上等で、部外者は彼等が危険な目に合わない様に気を配る程度で良いと、そう考えている。

 

 一応兜を被って訪れてみれば、一定の範囲を超えない様に走り回る子供達がいた。

 早くもクラーレは眉をひそめた。

 

 

(普通は段々つまらなくなってきて色んな場所を使ったり、その過程でかくれんぼに発展して、まぁ人に迷惑をかけて叱られたりするものだけど……随分と"躾"がなっている)

 

 

 あれは子供の遊び場だ。

 あそこから出なければ大人に迷惑はかからない。叱られる事も無い。村の中では広い遊び場だとしても、鬼ごっこは空間を狭く感じるものだ。それを繰り返すなど、金を積まれてもげんなりする。

 

 

(笑顔、ね。どんな仕事でも楽しめる様に作られているとしたら、それはそれで問題はないのかもしれないけど……努めているのなら最悪ね)

 

 

 クラーレはコーリスやエヘカトルと違い、既にこの島に対して常識的な観念を持ち合わせていない。

 確かに住人は余所者に優しいかもしれないが、機械的で不気味だ。半端な再現によって此方も多少の文化を当てはめてしまうからこそ、気持ちの悪い歪みが可視化されている。

 彼女は重い腰を上げて息を整える子供に話しかけた。

 

 

「少し聞きたい事があるんだけど……あ、私は」

 

「紫のきしさまだ!」

 

「クラーレ様!どうしました?」

 

「まだ満腹じゃないの…?」

 

「それとも誰か探してますか?」

 

「どれでも無いわ。目的は貴方達」

 

 

 やはり、とクラーレは息を吐いた。

 広く名乗った訳では無い役職と名が一瞬にして伝わっている。遊ぶ事に夢中の子供でさえ、正しく彼女を認識し、協力的な姿勢を取るのだ。

 恐らくは昼食後に即座に姿を見せた事から食事内容の不備を懸念し、分かれて姿を見せた事から人を探す、或いは村の散策が目的ではないのかと察し、適切に質問をしてみせた。

 誰も彼女の鎧を見て動揺すらしなかった。本来なら重厚な鎧を着るハーヴィンなどお笑い草なのだが、中々どうして教育の行き届いた子供達ではないか。

 

 槍を握る手に力が宿る。

 

 

(…疲れるとすぐこれよ)

 

 

 苛つきよりも早く動き出した自身の手に辟易としながら、クラーレは額を抑えて木製のベンチに腰掛けた。

 生理的な嫌悪感、或いは侵入思考だろうか。彼女は無意識に危うい行動を取ろうとする事がある。異常者が自身の異常性を正しく扱える訳ではないのだ。

 疲労困憊の身ではそれが際立つ。

 

 

「…それで貴方達は、どうやって遊べと言われてるのかしら?」

 

「『遊べ』…?子供は自然に遊ぶものではないのですか?だから僕達は」

 

「あ、そういう意味じゃなくて、ほら。何処で遊べとか、どの時間まで遊んでいいとか、人に迷惑かけるなとか、色々言われるじゃない。親に」

 

「空の世界では、親に命令されて子供が遊ぶシステムなのですか?」

 

「……ごめんなさい。変な質問だったわ。疲れててね…無かったことにしてちょうだい」

 

  

 クラーレは察した。星の世界の教育や親子の詳しいシステムは知らないが、それを基準にして空を模倣しているのだと。故に、無茶己では理解に及ばぬままに時間を無為にしてしまうだけ。

 住民と揉めるリスクを考えれば、強引に会話を打ち切る方が良いだろう。

 

 

「ちなみに、リシープが空を見た事が無いのは本当?」

 

「リシープのこと…知ってるの?」

 

「情報だけは揃っててね。リシープが貴方達を作って空の生活を模倣させてるのは知ってるのよ。でも、本来真似するには本物を知らなきゃいけないでしょ?だからリシープという星晶獣を作った星の民の知識を入力してるっていう仮説があるんだけど」

 

「リシープを作った方については分かりません…多分、エーカムも」

 

「エーカム…村長ね」

 

「でも…リシープが空を知らないのは、ほんとうです。僕達はリシープが聞いた空の情報を知っているだけです」

 

「なら、知りたくないの?本当の生活。貴方達は老けないしずっと遊んでるんでしょ?」

 

「どうでしょう…僕達はまだ40年しか生きてないので。それに、外には出たくないのです」

 

(あれ)

 

 

 ここで、クラーレは外に出たくないという彼等の意思に疑問を持つ前に、引っ掛かることがあった。

 造られた彼等が子を作る事はできず、リシープ以外に住民を増やす手段はない。見た目も一生変わらないが、経年劣化はあるので朽ち果てるという最期は存在する。

 

 

(…リノアから聞いた情報だと、住民の数は一定だったわね。何年かの周期に全員が変わって──劣化を前にリサイクルしてるって話だったけど)

 

 

 今までの交流で、エレアンドロに住む人数は変わらず、一定のサイクルで顔ぶれが変わる事は分かっている。

 老いもしない住民たちが数を維持したまま変化する理由──それは単にリシープによって吸収され、決まった数を再生産しているだけなのだ。

 問題はその過程。

 

 

(もしかしてじゃなくても、今までの交流は把握してる口振りよね。なら、リサイクルの過程で"記憶"…もしくは人格を度外視した"経験"が引き継がれている?もしそうだとするなら外部の人間と交流を深める事で、長い年月が必要だけど空を学び続ける事が出来る)

 

 

 クラーレの考察に正誤を付けられる人間はいない。

 兎も角、少しだけ理解を深めたのなら、踏み込む前に共有するべきだ。ただ、足を止める。

 

 

(でも、経験を次の村人に引き継げるなら尚更外の世界を直接学んだ方が早い。色々な島に村人を派遣して、持ち帰って記録の蓄積をし続ければ……)

 

 

 歪ながらも生活を成功させている機械的な彼等の性質に、非合理的な習性が見受けられた。それは別に人間らしくもない意味不明なもの。

 

──それに、外には出たくないのです。

 

 

(あの言葉。外の世界には死のリスクが?死ねば記録の蓄積が出来ない上に再生産のコストがかかるから…?それとも──)

 

 

 出てはいけない。ではない。

 出たくない。である。

 

 二つの解が出た。

 

 

(──外で恐ろしいものでも見たのかしら)

 

 

 それか。

 

 

(この島に悪影響があるから、そう刷り込んでいるのか)

 

 

 クラーレは立ち上がり、子供達に手を振ってからある地点へ向かった。

 エヘカトルの元へ──

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

──エレアンドロ、入り口付近。

 

 

 他の遊び場とは違って、ここは盛り上がっている。

 知らない遊びを見て、普段の機械的な笑顔に実りが生まれていた。

 

 

「騎士様、上手です!」

 

「うまいうまーい!」

 

「エヘカトルさん、踊りが上手いって事は…もしかして子供なんですか!!」

 

「子供だ子供だー!」

 

「あはは…この年で照れますねー!!!」

 

 

 エヘカトルは、派手に踊っていた。

 アマト・グランデで培った、勇ましくも奇妙な踊りである。

 

 

 

 

 





コーリスとクラーレ
・この村…何か変。

エヘカトル
・ちなみに踊りは『ソーラン節』。

ダシャ
・子供達。口調は様々だが、無礼者はいない。
・一人だろうと四人だろうと、彼らとの会話で得られる情報は変わらない。

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