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「更新できず申し訳ございません」土下座
再び、年末に向けての残業の日々となりました。
エタらないように頑張ります!!
「さあ、皆、召し上がれ。 どんどんおかわりしてね」
そう言って上機嫌に笑うカナエは茶碗に白米を盛りつける。
その茶碗を受け取った炭治郎は、満身創痍でありながらも、掻き込む様におかずとご飯を掻き込んでいく。
隣では、同じくボロボロの善逸と伊之助も負けず劣らずの食欲で我先にと箸を動かす。
「お口に合うかしら?」
「はいっ!!」
「カナエさんが作った料理はおいしいです!!」
カナエの言葉に、炭治郎と善逸は口の中のおかずを一気に飲み込む。
伊之助は特に返事を返すことはなかったが、その食事の進み方からして満足しているようだ。
その隣では義勇が無言で鮭大根を食べて、明らかに不機嫌そうなしのぶは綺麗な箸使いで姉の料理を味わっていく。
私の隣にいた無一郎も終始無言のままで、時折炭治郎達を睨み付ける。
総勢八人という大所帯の賑やかな食事にも関わらず、場の空気は非常に重い。
というよりも、何故、義勇と無一郎としのぶがこの場にいるのだろう?
いや、確かに仕事が山積みになっている柱とはいえ、この蝶屋敷が自分の家であるしのぶがいることはそう不思議ではない。
だが、義勇と無一郎に至っては御館様から仕事を任されているはずであり、こうも呑気に昼飯を喰らっている時間はないはずだ。
そして、現状しのぶと無一郎の無言が、場の空気を静まり返らせている。
元より無言の義勇と違い、二人が気分を害しているのは明らかだ。
長い付き合いになる私でさえ、ここまで機嫌が悪い二人は初めてだ。
なんて、言ったものの、二人がこうなっている理由はわかっている。
間違いなく、例の柱合会議の件だろう。
私が炭治郎を庇い、鬼の禰豆子を匿ったことがやはり気に入らないようである。
こちらとしても、黙っていたことは悪いと思っているし、禰豆子を匿ったのも鬼殺隊の柱としてはあり得ない行動だということも理解している。
二人とも鬼に対しての犠牲者だということも知っているからこそ、私に怒りを覚えても構わない。
ただ、それでも無言はやめてもらいたい。
何というか、精神的にクルのである。
炭治郎と善逸もだんだんとこの重苦しい空気を読んでか、箸の動きが空気の悪さに比例したかの如く止まり始めている。
「カナエ、おかわり」
そんな中、鮭大根を喰らう義勇だけはマイペースにカナエにおかわりを頂いている。
よく、この状況下で飯が喉に通るものだ、思わず感心してしまうが、義勇に関しては今回の件では共犯に当たるので、もう少し気にしてもらいたい。
「こんな状況で、よく呑気に食ってられるね冨岡さん」
「そうですよ。 貴方だけは愛染さんから話を聞いていたんですよね? あと姉さんを使わないでください」
そんな態度に苛立ちを覚えるのは、私以上にこの二人で、普段以上の毒のこもった言葉を突き刺す。
だが、義勇は特に気にした様子もなく、食事を進める。
「宗次郎が考えたことだ、間違いはない。 それに炭治郎は良いやつだ」
果たしてそれは答えと言ってもいいのか、何とも言えない義勇の言葉に、無一郎としのぶは言葉を詰まらせる。
「……そんなことは俺が一番わかってるよ」
「私も、愛染さんのことを信頼しています」
それだけ口にすると二人は黙々と食事を再開する。
その姿を見て、義勇は一度こちらの方を見ると鮭大根に視線を向けた。
「お、俺は必ず、皆さんの期待に応えて強くなります!」
まさか、義勇が……もしかしたら今日は嵐かもしれないと失礼なことを考えている私の隣では炭治郎が眼を潤ませて力強く宣言した。
「そんなの当たり前だよ、先生がわざわざ助けたんだからね。 まあ、期待はしてないけど」
「竈門くん、君は君の為すべきことをしてください。 それがきっと誰かのためになりますから」
どうでもよさそうに無一郎が答え、しっかりと炭治郎に視線を向けるしのぶ。
ただ険悪な空気はなくなったので、食事を再開しようとしたその時、カナエが手を叩く。
「じゃあ、話は纏まったみたいだから、炭治郎君、禰豆子ちゃんをお借りしてもいいかな?」
「え、禰豆子を、ですか?」
待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべたカナエに対し、炭治郎が首を傾げる。
「ええ! だって禰豆子ちゃんはあんなに可愛らしいんだもん。 絶対オシャレしたいはずだわ!!」
「はぁ……姉さん、あのね」
一気にテンションが上がったカナエに、しのぶは呆れたように溜息がつく。
今そんなことをしている場合じゃないだろ、と誰もが考える中、兄の炭治郎は大きく見開いた眼からぽろぽろと涙を流す。
「まさか妹にそんなに眼をかけていただけるなんて……」
そして、炭治郎はそのまま凄まじい勢いで土下座した。
「カナエさん!! 禰豆子を可愛くしてやってください!! お願いします!!」
「任せて!!」
兄からの了承を得たカナエは、禰豆子の手を握るとそのままの勢いで廊下を駆けだした。
しのぶの制止の声が微かに聞こえたが、誰もがその光景を呆気に取られていた。
故に、私がしなければいけないことはただ一つ。
「じゃあ、炭治郎達は訓練再開しようか」
私のすべきことをするだけだ。
・ ・ ・ ・ ・
愛染宗次郎。
その名前は、元鳴柱であり師匠のじっちゃんからよく聞かされていた。
類まれな才能と驚異の身体能力、冷静な判断能力に神業的な器用さ。
だが、それ以上に正気の沙汰とは思えないほどの厳しい訓練を、休むことなく繰り返す強靭な精神力。
全てを備え合わせたまさに神に愛された男、それが宗次郎という男の印象だった。
善逸はそんな男を見て、少し浮かれていたのは間違いではない。
だからこそ、文字通り血反吐を吐いた訓練をしているのだ。
「ああああああああっ!!!!」
「ぎゃぁあああああっ!!!!」
「やめてぇえええええ!!!!」
全集中の呼吸・常中。
ただでさえ、少し使うとすぐに倒れそうになる状態を四六時中継続することである。
そんなことをしたこともない善逸達からすれば、理解もできないことだが、柱という存在は誰もがその状態であり、そもそもこの技術が柱への第一歩らしい。
指導に当たっている宗次郎曰く。
「とりあえず、基礎体力が足りないので基本に立ち返ろうか」
そう言って十時間の長距離走をさせられて、終了後に呼吸の意識の仕方を教わる。
より深く、肺を膨らますように呼吸し、肺活量と持久力を鍛える。
その後、素振りをしっかりと千本程行い、決められた三十通りの型を三十回こなし、食事を一貫分を無理やり食べる。
そして食後の打ち込み練習では、宗次郎相手に剣を振るう。
まさにこの世の地獄のような訓練で、最初は反骨精神を抱いていた伊之助も、宗次郎に何度も土の味を味わわされ失神しているようだ。
訓練に前向きだった炭治郎も、あまりの過酷さに嘔吐を繰り返し、やけに顔色が悪くなっていくらしい。
勿論、善逸本人も訓練に参加しているのだが、訓練時の記憶はなく、いつも気づいた時には布団の上である。
何より恐ろしいのは、疲労困憊の身体のはずなのに、朝起きると疲れ一つ感じない所が善逸を恐怖に駆り立てる。
そのおかげで、あんなに美味しかったカナエの料理が、訓練開始数分前の合図になっていることに気づき、味が全くしなくなっていた。
ただ、そのおかげか善逸達は全集中の呼吸・常中をあっさりと修得してしまったのである。
まさかの結果に善逸達は全身で喜びを表して走り回り、訓練の終わりに涙した。
しかし、本当の地獄はここからだった。
「じゃあ、実践に移ろうか」
にこやかな笑みを浮かべる宗次郎に連れられて、善逸達は蝶屋敷を後にした。
向かった先は蝶屋敷よりも屋敷自体は小さいが、広大な中庭を備える武家屋敷の門を三人は仲良く潜る。
その足で人気の少ない屋敷内に入ると、先を歩いていた宗次郎は壁に立てかけてあった木刀を握りしめると、そのまま中庭の中央に陣取る。
「常中の維持を忘れずに」
善逸達は、日輪刀を使って、三人でかかってこいとのことで、当初はこの恨みを晴らさずにおくべきかと、再び火のついた伊之助を先陣に善逸と炭治郎も挑む。
それが、あまりに無謀だということを知らずに。
「伊之助、君の動きや柔軟性には眼を見張るところはあるけど、一撃が軽い」
「ごぼほっ!?」
あっさりと伊之助の二刀流を防いだ宗次郎は、まさに暴風の如き一撃で伊之助を地面に叩き落した。
「炭治郎、君は義勇に師事しただけあって見事な動きだよ、けど動きに迷いがあるね」
水が流れるような炭治郎の剣技も、そのまま流れるような宗次郎の投げ技により、伊之助と同様に地面に叩き付けられた。
「善逸、君は戦いを恐れすぎているよ、全くの論外だ」
善逸自身、唯一にして鍛えに鍛えた『霹靂一閃』は技を放つ前に宗次郎に腕を抑えられて封じられて、他の二人同様に地面を転がされた。
たった一つの技を簡単に防がれたことで、流石に落ち込みそうになったが、それ以上に宗次郎の使う技に心が折れそうになった。
炭治郎をより清廉な水の呼吸の技で打ち倒し、伊之助に対して獣の呼吸の元とされる風の呼吸で、善逸には完成された雷の呼吸で圧倒した。
まるで剣士としての格の違いを見せつけるかのような宗次郎の姿は正しく柱で、最強の剣士と名高い姿でもあった。
あまりの強さに善逸達は、度々屋敷を訪れる柱達に意見を聞こうとしたのだが。
「宗次郎は、五つの呼吸と独自の技を含めて五十以上の技を使いこなしてくる。 気をつけろ」
「先生に君達三人程度で勝てるわけないだろ? 不死川さんと伊黒さんの二人同時に相手しても先生は勝ったんだから」
「愛染さんは、五つの呼吸を使えるから強いんじゃなくて、使いこなせるからこそ強いんですよ」
という有り難い言葉を頂き、とりあえず目の前の男が化け物であるということを再認識した。
なにより、しのぶの言葉は善逸には痛いほど理解ができた。
宗次郎が使う雷の呼吸は、まさに鳴柱が使うソレで、壱ノ型しか使えない善逸とは大違いの洗練され尽くした代物だ。
圧倒的なまでの才能の差。
強さというものにそこまで拘っていなかった善逸でも、嫉妬を覚えてしまうほどの力を目の前の男は持っている。
そんな男が善逸達三人に目を掛けている。
その事実が段々と善逸の身体に重く圧し掛かっていた。
だからだろうか、最も会いたくない人間に出くわすこととなる。
「お前、愛染宗次郎に目をかけてもらってるんだってな」
兄弟子、獪岳に再会した。