もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら 作:ひきがやもとまち
【もしも士郎が――】の方だけでも進めようと書き続けているのですが、リテイクし続ける日々を送ってます…。
ネタ切れの気を感じてもいましたので、試しに別キャラを使った【もしも作】を書いてみた所存。
アニメ版【Fate/EXTRA Last Encoreイルステリアス天動説】と、PS2ソフト【ワイルド・アームズ3】をコラボさせた「もしも作」です。
本来の「もしも切嗣」「もしも士郎」が完成できるまでの場繋ぎですが、宜しければどうぞ。
【怒り】と【憎しみ】
それが“ボク”の本性だ。
・・・・・・と思うような気が、するような気がしている。
自分では今まで、それが自分だと疑ったことは一度もなかった“ような気がする”けど、改めて考えれば妙な認識であることに気づく。
怒りも憎しみも、人間に備わっている標準的な感情の一つだ。もしくは二つだろうか? どちらにしろ、「強い」「激しい」「感じにくい」という事はありこそすれ、誰でも持っているのが当たり前の代物で、全く感じない方が問題がある。頭がおかしいと言っていい。イカレテいる。
その点では、むしろ怒りや憎しみを強く意識しているボクは健全な証と言えるのかもしれない。
「――岸浪。岸浪ハクノ」
「ん・・・・・・?」
「授業が退屈なのは承知しているが、一応は授業中なんだ。大切な部分でもあるんだから、しっかり聞いておきなさい」
「はいはいさー」
「『はい』は一回でよろしい。そして『サー』は要らない」
「へぇ~い」
「・・・・・・まったく」
溜息を吐かれながら、眼鏡で美人の若い女性教諭から叱られてしまったので、ボクは仕方なく真面目に先生の話を聞こうと姿勢を正して前を向き。
――三分で、自分の思考に没入し直してしまっていた己の自制心のなさを、深く反省することになる。
周囲を見渡すと、見晴らしのいい場所に立てられた学校の教室風景が広がっている。
白を基調とした配色の校内には、開放的な雰囲気が感じられやすい作りになっていて、紺色のブレザーにスカートという制服と、短く切りそろえられた茶色がかった髪色という少し古めかしいボクの容姿では、ちょっと浮いてしまっているかもしれない程に。
「即ち《サーヴァント》は、人類史を兵器とする画期的な存在です。歴史的英雄の召喚、神話の再現による圧倒的な力の実体化。
この奇跡を為すのが【フォトニック純結晶体】
太陽系最古のアーティファクト、量子コンピューター【ムーンセル】であり、月の量子虚構世界【セラフ】、その七天の海こそが英霊召喚に最適化された唯一のフィールドなのでありまして―――」
教科書を見下ろしながら語られてくる美人先生による催眠音波が、ボクの心に強く強く響いてきて「寝ろ」と、抗いようのない強制力として体の自由を奪ってきてるようだった。
徐々に薄くなっていく意識と、薄目になっていく瞼の重さの中。
ボクは――――“地獄”を見た。・・・そんな気がした。
誰かが、夜空に幾つもの火花を散らしながら、赤い閃光となって駆け上がっている。
空の上には、金色の輪っかを背中から背負った静かな顔が、光の槍を振り下ろしていく。
哀れみの籠もった目で相手を見つめる、見下しまくって馬鹿にしきった目付きが無性にいけ好かないヤロウが空に浮いている幻影だった。
上から目線で、自分好み以外の奴らすべてを見下すことしか知らなそうなクズ野郎の姿。
それが消えた次のときには、赤に包まれた町が見えた――そんな気がした。
血と炎に包まれて、街が燃えている。
黒い夜空を焦がすように炎が燃え上がり、夕暮れみたいに街の光景を赤く、紅く、朱一色で染め尽くして、浸食してっているような―――そんな・・・・・・“天国”を。
ボクは見た―――ような気がして、目が覚める。
「・・・・・・・・・あれ?」
気がつけば、教室内には誰もいなくなった後だった。
先生はいない。クラスメイトの姿もない。誰もいない。
ボク一人だけが教室においてある自分の机の上で眠りこけていて、まだ青い空の放課後には遠い時間帯にしかなってない学校に残っていて、他の人は声すらかけずに早めに下校してしまったボッチ扱いされていた。――という事なんだろうか?
なんだか、違和感があった。妙な気がする。
何かがおかしく、何かがズレていて、そして――ナニカが混ざり込んでいるような・・・・・・そんな理由も根拠もない不思議な感覚。
「保健室・・・・・・行か・・・なきゃ・・・・・・」
なんとなくボクは、そう思った。理由はわからない。
何故かは分からないけど、今のボクは保健室に行かなきゃいけない用事があった“ような気がして”、動きの鈍い体を無理やりにでも動かしながら、あまり行った記憶のない、そもそも場所はどこにあったかを思い出せない保健室へ向かうため、ゆっくりゆっくり歩み出す。
歩き出しながら、ボクは自分の中からフツフツと湧き出し続けてくる【憎しみ】と【怒り】の感情の激しさを持て余していた。
とにかく憎かった。憎くて憎くて仕方がない。際限なく憎しみの念が湧いてきて、胸を掻き毟りたくなる程に!
・・・・・・けれど、誰への憎しみなのか?
誰を、何を、そこまで憎んでいるのかが、自分にも思いつくことが出来なかった。
変な話だった。奇妙な感情でもある。
激しく【怒り】の感情を感じるために、理由や相手は必要ない。
けど【憎しみ】は、特定の誰かや、何かを、激しく憎む対象があって成立できる感情のはずだ。
【訳もなく苛立つこと】や、【特に理由はないけどムシャクシャして仕方がない】なんて言葉はあるけれど。
【理由はないが何となく憎い】とか【特に意味はないが憎くて憎くて仕方がない】なんて言い方は滅多にしない。感じてる人を見た記憶はあんまりない。
なのに、憎らしい。怒りを我慢するのが難しい。
それはさっきから見ている、瞼の奥にフラッシュバックし続けるような幻覚のせいかもしれない。
燃え落ちる街。崩れた建物。瓦礫の山。
殺される人。刺し殺される人。斬り殺される人。斬って、貫いて、切り刻んで、抉り抜いて、死んで死んで死んで死んで殺されて殺されて殺されて殺され続けるだけの――――
「・・・・・・良くないモノを見た、気がする・・・・・・」
――だが、それも慣れる。君からも、すぐに消える。ここは人工楽園だから――
廊下を歩いているボクの鼓膜に、そんな幻聴まで聞こえてきた・・・・・・ような気、が・・・
――黙っていれば、違和感さえ覚えなければ。
君もまた幸福を甘受できる立場にある一員なのだから――
「幸・・・福・・・・・・」
幻聴に意味なんかない。ただの錯覚。取るに足らない脳ミソの誤認。
それなのに、何故だかヒドく不愉快な言葉を言われたような・・・・・・そんな気がして、妙に怒りが沸く。憎しみが感じられるのを微かに感じる。
――ここから見えるのは、原風景。君のトラウマだ。
神は、【ムーンセル】は、理想の環境を創ったが、それは機械の考えた天国だった。
天国として創られた、天使の地獄。
未熟な子供が道を選ぶための施設。
繰り返す一日。繰り返す日常。繰り返すカルマ。繰り返す忘却――
ああ、それは・・・・・・幻聴の言うことが、もし本当に現実の地平で起きている話だったときには、それは・・・・・・
――地上の人々は、少しでも【マスター】としての適性があれば、この月に囚われてしまう。
――そして苦しむ。彼と同じように、君もまた、その一人として
だが―――もう遅い。もう時間だ。
君もまた、間に合わなかった一人でしかない存在だった
「・・・・・・・・・」
聞こえなくなった幻聴が、幻聴だったからこそ背後から聞こえていたわけじゃなかったけれど。
なんとなくボクは後ろを見るため振り返り、やはり誰もいない廊下を見通して―――大きなベルと、校内アナウンスの声を聞く。
「ぐ・・・・・・あ・・・・・・」
呻き声を上げながら・・・ボクは床に這いつくばり、必死に縋り付いていた・・・。
息が苦しい・・・お腹が痛い・・・・・・足も痛い・・・・・・刺された脇腹が、斬られた背中が、ジクジクジクジクさっきから熱くて熱くて仕方がない・・・・・・っ。
突然の出来事だった・・・いったい、何がどうなっているのかサッパリ分からない。
時計塔のベルが鳴ったと思った。校内放送で妙なアナウンスが聞こえてきたと思った。
そう思ったときには―――殺戮が始まっていた。
生徒達が次々現れた何かに襲われて殺されはじめ、ボク自身も灰色の、石像みたいな武装した男に襲いかかられ、斬りつけられて傷つけられて、必死逃げ出して逃げ続けて逃げてきた場所に――――それを見つけていた。
それは、何かが抉り取られた大型の機械だったモノ。
なにか重要な部分が一カ所だけ抜き出され、一番大事な部分が欠けてしまっている、見たことのない不思議なマシーン。
それを見た瞬間、ボクにはそれが何なのかサッパリ分からなかった。
意味不明だった。理解不能な代物だった。
・・・・・・それでも、それに近づかなきゃいけない義務が、自分にはあるのだけは分かる。
だってそれは、諦めずに戦い続けた人がいた場所であることを、ボクは知らないけど分かっていたから。
諦めずに戦って敗れて滅びて、それでも戦い続けることを望んでいた人の場所なんだと、ボクは知らないけど知っていたから――。
「うぁ・・・・・・あ・・・・・・」
だからボクは必死に、それを目指す。それに向かって手を伸ばす。
そこにさえ届けば助かるかもしれない――なんて思ってた訳じゃない。
生き残れる可能性があるのはそこしかない――そう信じて縋ってた訳でもない。
ただ――いかなきゃいけないことを、ボクは知っていたから近づいている。
ただ、それだけ。
ボクの体の中身に流れている血が、血管の流れがボクに近づくよう促し続けている。
だからボクは必死、最期まで―――それに向かって手を伸ばし続ける・・・・・・。
『―――』
「・・・う、コイツ・・・、もう・・・っ!?」
背後の背中で石像が無言のまま、両手に持ってた剣の片割れを振り上げるのが気配で分かった。
後ろは振り返らない。振り返ったところで、どうにもならない。
「く・・・ッ! こん、のォ・・・ッ!!」
ただボクは、我武者羅に“生”に向かって手を伸ばしただけでしかない。
そこが“生”に繋がっているナニカがあると思えたから。
右手の指が、“生”をもたらす冷たい鉄の感触を、ボクの脳髄に感じさせてくれたから。
だから・・・だからボクは、伸ばした手のひらが掴んだ、小さくて儚い「生の可能性」を現実のモノへと変えるために―――振り下ろされる“死”に向かって右手を振るう! ただ、それだけだ!!
ガキィィィッン!!!
金属音が響き合った、その瞬間。
ぶつかり合った二振りの刃が激突し、より力弱く、脆い刃が折れ砕けて宙を舞い――やがて、敗北を示すように地に突き立つ。
それはまるで墓標のように、冷たい鉄の床に突き立てられた、折れ砕かれて武器の如く
スコップの先が、その場所の床に突き立っていた。
「ああっ!? ボクの大事な《ブラックフェンリル》が、あんな無残な姿に・・・ッ!!」
『―――』
その光景を目にした瞬間、ボクは思わず叫んでしまっていた。
謎の敵の攻撃によって折れ砕かれて、先っぽの部分だけに変わり果てたスコップ――《ブラックフェンリル》の残骸となった姿を見つけて、叫ばずにはいられなかったんだ!
その名前がどこから来たモノなのか、ボクは知らない。ボクには分からない。
何もなかった手の平に、何もない空間からスコップをどうやって出したのかも分からない。
そのスコップは名前をつけるモノなのか、ボクは知らない。
スコップの名前としてどういうモノなのか、ボクには分からない。
ただ心の内側から、何かと共に湧き上がってきたモノがあり、ボクはそれに突き動かされるように動いた――それだけだったんだ。言い訳じゃ―――ない。
『―――』
「う・・・っ!? まだ、来るのか・・・っ、なら!!」
シュゥゥゥゥ・・・ッ、ガキィィィィッン!!
「ああッ!? ボクの《ブラックフェンリル2号》まで、あんな姿にッ!」
『――――』
再び襲いかかる刃に向かって、ボクは再び手の平に現れたスコップを振るい、またスコップの先っぽだけが地に落とされて―――今度は、二本ッ、同時にだ!!
シュゥゥゥゥゥゥ・・・・・・ッ、ガキィンッ! ガキィィィッン!!!
「くぅッ!? 《ブラックフェンリル3号》と《4号》までっ!!
それでも―――それでもボクは・・・ッ! ボクはァァァァァァッ!!!」
『―――――』
シュゥゥゥゥゥゥ・・・・・・ッ、
ガキィンッ! ガキィィンッ!! ガキィィィッン!!!
シュゥゥゥゥゥゥ・・・ッ、シュゥゥゥゥゥゥ・・・・・・ッ!!!
ガキィンッ! ガキィィンッ!! ガキガキガキガキガキィィィッン!!!
生み出しては折れ砕かれ、折れ砕かれては生み出し続ける。その繰り返し。
それはボクの体の肉体限界を、とうに超えているはずの動きでしか実現できないはずの剣劇だった。
そしてボクの思考した結果としての剣劇でもなかった。繰り返しでもない。
では何故、それをボクは実行することができたのか?――分からない。
どこかで誰かが演じた戦いを、ボクはなぞらされている。そんな気がした。
どこかで誰かが動いた仕草を、ボクはトレースさせられている。そんな気がする。
不思議だった。不思議な気分だった。
目の前で剣を振りかぶり、襲いかかってくる灰色の石像のような、包帯で両目を覆っている風にも見える『二刀使い』のコートを纏った姿をしている存在が、ヒドく身近な存在のような、今のボクにより近く近くなり続けていくような―――不思議な感覚。
けれど――――どんなものにも永遠はない。終わりは必ず訪れる。
ガキィィィィィィッィィッン!!
「うぅっ、く・・・・・・ッ!?」
大きく上半身を引いて放たれた強烈な一突きが、ボクの《ブラックフェンリル114号》を砕け散らせて、それだけだと勢いが止められなかった衝撃に押し巻かされた体は、大きく仰け反らされながら
『――――――』
無防備になった体に、大上段から振り下ろしてくる刹那の刃を見せつけられることになる――。
もう手遅れだった。今から何をやっても間に合わない。ボクは死ぬ。ここでコイツに殺される。
光よりも早い思考の中で、自分でも知覚できないままボクはそんなことを考えてしまいながら、自分でも自覚しないままにボクは無意識のうちに、右手をどこかへ差し出していく。
意識してやった行為じゃなかった。意識してできる動きでもない。
ただボクは・・・・・・最期までボクのまま。
それに向かって手を伸ばし続けたかっただけ。
本当に、ただそれだけの・・・・・・無駄な、行為を・・・・・・
「ボク、は・・・・・・ボクたちは所詮・・・飼い犬ですらない・・・・・・家畜にしかなれなかったということ・・・なの・・・・・・」
無意識のうちに、理由も分からず、意味すら分からないまま―――ボクはそう呟いていた。あるいは呟いていたと思っただけかも知れない。
その時に・・・・・・光が見えた。――ような気がする―――
――贄・・・、・・・贄・・・――
―――ここに在るのか・・・、我の血肉が・・・・・・―――
「・・・・・・?」
どこからか誰かの声が聞こえてきた―――ような気がしていた。
大事な部分が抉り取られたマシーンだったはずのモノの一部から、小さくて激しい光が解き放たれていく―――ように見えていた。
そうして―――ソレは今、そこにいる。
ボクと敵の、互いにとって前に立ち、ボクたちの前に立ちはだかるようにして、ナニカが。
――これは・・・? 違う・・・これは智慧による【贄】ではない・・・――
―――我のために、・・・捧げられるべき供物は、お前では・・・――
それは透明なナニカ。形を為していないナニカ。“まだ”実体を形作ることが出来ていない、けれど既に確かに、存在することは出来てしまった後にいたることはできている―――そういうモノ。
――この力・・・、《ヒアデス》によるものではないだと・・・?――
―――だが、我をダウンロードするほどの力、《ヒアデス》無くして如何な手段で・・・――
それはカタチ得る前のナニカだった。
そのナニカに向かって、ナニカを倒すために、ボクを殺すため襲いかかってきた灰色のナニカは剣を振りかざし、振り下ろしては―――弾かれる。
弾かれたき手の平に、再び刃を生み出し振りかざし、また弾かれ飛んでいく。その繰り返し。
まだカタチは得られていない。けれど既に【力】はナニカの周りに集まっている。
その力に、灰色の力は足りていない。及んでいない。だから勝てない、倒せない。
敵より弱いモノの力では、自分より強いモノに剣をいくら振るっても、届かせることが出来ないでいる。
・・・弱者に・・・・・・勝利は―――つかめない。
――これは・・・、クククク、・・・こういうやり方を用いたか――
―――よもや月に、このようなモノが眠っていようとは・・・・・・―――
――――《ヒアデス》に勝るとも劣らぬ、この智慧を併すれば・・・、フフフ――――
感覚で分かる。言っている言葉の意味は分からない、けれど言葉を言っているナニカは分かる。
それは遠い昔に消え去って、忘れ去れたモノの残したナニカ。
今はないナニカ。既に滅び去り、遙か過去に置き忘れてきたはずのナニカ。
遙か遠い昔の過去が、今―――現実として現代へと舞い戻ってくる。――そんな予感が微かに、だけど確かにボクは・・・・・・感じさせられている。
――ジェネレイターが抜き去られし《ユグドラシル》では・・・、実体を伴うに出力が足りぬ・・・――
―――その足りぬ力を、この遺跡よりハッキングによって流用するには、こうすれば良いのか・・・―――
バッ、と。
もしナニカが肉の体を有していたなら、そのような音が聞こえたかも知れない仕草を、右手を高く掲げたように見せながら。
ソレは、その名を高らかに謳う。叫ぶ。名を呼ぶ。
自らが振るいし、愛用の魔槍の名を。
伝説に名を残し、神話の戦いで散っていったヒトとして生まれた英雄が、逸話と共に刻み込まれた英雄の代名詞たる、その愛用の武器の名を―――真名を。
――来るがいい・・・、・・・我が元へ・・・――
―――我の降魔儀式を・・・、・・・ダウンロードを行うためエネルギーと共にッ―――
『それ故に・・・・・・宝具《魔槍グラムザンバー》よッ!!
汝が主の、手に還る時だッッ!!!』
その声が、実際の音声として鼓膜に響いて聞こえたと思った時。
既に勝負は、決着を迎えた後になってしまっていた。
片手を天に向かって高々と掲げたナニカは、灰色のナニカにとって隙だらけのように見えた故なのか、大きく振りかぶった二本の双刀を同時に振り下ろして切り裂こうとした。
その背中に向かって真っ直ぐに飛翔してきた槍が、気づいた瞬間に回避しようとする一瞬の余裕すらも与えてくれることなく刺し貫いて消し去って。
後に残ったのは茫然自失しながら、ただただ見ているだけしか出来ないでいる、ボクという無力な女の子―――岸浪ハクノと、そして
『我を再び、この星の地へと降ろすため、贄ではなく鍵となったのは、お前か・・・・・・』
青色の全身鎧をまとったような、時代がかった古めかしい印象をもつ。
けれどよく見れば、鎧は機械的なフォルムの金属とは異なる造りをした構造をもつ。
生物のような、機械のような、生物と機械が合わさったような、半生体半機械が融合したように歪な存在。
あるいは、歪な存在だ―――と人間からは思われてしまうモノ。そんな存在。
『我の真名は、《ジークフリード》ッ!!
自らの身体を改造し、強化を図り、完全なカラダと完全なココロを手に入れ、ヒトを超越した強者として進化せし者達の長ッ!!
再びこの地にて争いの楽園を呼び起こし、次なる戦いへ、更に次なる戦いへと星と生命を導くため、我は復活を果たしたッ。
この星の子らよ、我は汝等に再び宣戦布告を告げようぞッ!!!』
―――それは遙か昔に滅びた文明が遺跡を残した星が、衛星となっていた惑星上に、かつて誕生して滅び去っていった、生命体の一つが刻んだ歴史の一つ。
かつて月の遺跡を舞台におこなわれた闘争に、最後の一人にまで勝ち残りながらも、最後の戦いで敗れ去り。
その敗北によって、彼に期待と希望を託したいと望んでいた王者は、ついに諦めを胸に抱いて、自らの意思で選んだ消滅によって自らを滅ぼし。
残骸だけが残された、王者だった者の残りカスは、強くヒトへの「憎しみ」を抱きながら、憎むが故に「憎んでいない。どうでもいい」と見栄を張りながら憎しみを実行し続け。
そんな王者だった者の残骸を憎んで、積み重ねられた死から蘇った『死の集合体』は再び王者だった者の残骸へと挑み、王者だった者の成れの果てさえも憎むことなく無視する心へと至り、そして――――
岸波ハクノは再び敗北する。
誰も邪魔する者のいなくなった、王者だった者の成れの果ての計画は実行に移される。
『覚者』が残した《チャクラ・ヴァルティン》を用いて《セラフ》を閉ざした。
更に時間をかけることで、地球人類を最後の一人まで殺し尽くすことも成し遂げた。
そうして、地球は滅びた。地球人類はついに絶滅させられてしまったのだ。
絶望した聖者の、そのまた更に置き去りにされた残骸の成れの果てが抱いた憎しみによって、ついに人類は最後の一粒まで消し去られる運命を辿ることになってしまった・・・・・・
だが・・・・・・
だが、それでも尚。そこまでのことを為して尚―――
かつてトワイト・H・ピースマンだったものの残骸は、願いを叶えることは出来なかった。
トワイト・H・ピースマンの残骸は、山のような勝利だけを手にし続けるだけで。
《デッド・フェイス》は、セラフを閉じることが出来ただけで。
自らが消えるという願いが叶えられることはなく、自ら閉ざしたセラフの中で延々と延々と存在し続け、待たされ続けることを強要される状態へと陥ってしまっただけだったのだ。
そうやって月の孤独な王者となった者が、月に残されたいた先史文明の古代遺産にして観測装置でもあるセラフを閉ざしてから盲目となった後。
人類が滅びた惑星上では、また新たな生命が誕生し、惑星上に生まれた生物たちとの生存競争で主導権を握り、文明を発展させ、やがて惑星上に残されていた旧現住種族《ジンルイ》の遺産と同等の技術力を持つに至り、その先へと進化するまでに至る。
やがて新たな種は未熟な時代を終えて成長期へと入り、成熟期を迎える。
そこまできて大きな袋小路へと迷い込み、停滞し、腐敗し、果てることなき争いの時代へと突入していってしまったが・・・・・・その戦いによって推し進められた技術革新と飛躍的な進歩が問題を解決策をもたらし、惑星はさらなる発展を遂げていくことになる。
かつて惑星上に発生して滅び去った先史文明が至れなかった黄金期へと、新たな種は到達することを遂に可能としたのである。
果てなき闘争という名の【黄金期】を。
闘争による技術躍進によって問題を解決させ、更なる進歩へとつなげる原動力とした種にとって、それは当然の未来だった。正しき未来の訪れを彼らは祝福と共に迎えたのだ。
やがて果てなく続く、始まりの理由すらも忘れ去られた戦いに勝利するため、種の中の一派は己の肉体をテクノロジーによって強化する道を選び取り、その道を選ばなかった種の一派から『バケモノ』『魔なる存在』――【魔族】と忌み嫌われる者達となる。
だが、その呼び名は彼らに至福をもたらし、至上の喜びを感じさせるものでもある。
その名を呼ぶ者たちにとり、その名で呼ぶ者たちと自分たちとは【違うモノ】を意味したから。
自分たち【弱者】とは違う。
お前たちこそ【強者】である。
脆弱なヒトを超えたバケモノたち―――【超越者】!!!
そう考え、そう捉え、その呼び名を誇り高く称して永遠に果てなく続く戦いによる進化を望んで、更なる戦いへと赴き、勝利しすれば次なる戦いへ―――その繰り返し。
だが、戦いによる技術躍進での強化と進化というスタイルにも限界が訪れる時がくる。
多くの者たちは、潔く限界を迎えるため最後の一粒が死に絶えるまで戦い続ける道を自ら選び、散っていき、最後まで戦い続けた強者たちの長である彼にも遂に最期の刻は訪れた。
・・・・・・しかし、彼はまだ戦い飽きることができなかったのだ。
彼は自らの全人格、全記憶、その全てをデータ化して、自らの種が生み出した超技術に。
万能の願望機とまで讃えられ、不可能なことは何もないとされるほどの力を持った、ヒトとカミとの境が曖昧になるに至っていた惑星の技術力を結集させて建造されたマシーン《ヒアデス》へと完全保存して、復活の刻をまつ道を選んだのだ。
再び、果てなき戦いの楽園を再現できる日の訪れを信じて。
いつか再び、矛盾なく尊く完全なる戦いに満ちた楽園による救済を訪れさせる、その日まで――――
だからこそ――――《デッド・フェイス》は彼を憎む。
許すことは決して出来ない。
『・・・許せない・・・・・・私が望んだ願いの先に待っていたのが、こんな未来だったなどという現実を、私に見せつけてきた貴様等を、私は決して許さない・・・。
なぜ私だけが、救われない? なぜ私だけが、これほど苦しみ続けなければならないのだ?
許せない・・・許せない・・・・・・憎い憎い憎い、
許すことなど、憎まずにいられることなど――――出来るものかァァァッ!!!』
こうして数千年の時を経て、月の聖杯戦争は再び再現されることになる。
自らが消滅するために繰り返させてきた聖杯戦争のやり直しを、残されていたデータを復元させることで同じ流れを再現し続ければ、いつか自分が滅ぼされるときがくると信じて、トライ&エラーを繰り返し続けたその先で。
先史文明の遺産がある月が衛星となっている惑星上に残されていた、超古代文明の遺産。
その二つを繋ぐことを可能にする、『憎しみ』と『生き続けるための戦い』とを内包することで、再び異なるカタチで誕生してしまったNPCに召喚され。
人類史に名を残した英雄たちのデータをサーヴァントとして再現するシステムをハッキングし、【人類から生じて人類の敵となった者たちの英雄】を残されていたデータを繋げることでサーヴァントとして蘇らせた。
『・・・・・・お前たちは殺す。この私が手づからに、必ずこの手で―――』
再び、運命の闘いの歯車は回り始めようとしている。
サーヴァントとして喚ばれるはずのない存在を、【記憶はしょせん電子パルス信号でしかないという点で同じもの】という仕組みを利用し、サーヴァントという器だけをカタチとして流用することで、あり得るはずがなかった聖杯戦争が―――
『―――して、この遺跡らしき建造物はなんなのだ? 我らはこれより何をすれば良いと思うか?』
「え? ・・・・・・さぁ・・・? ボクもさっき目覚めたばっかりで、記憶もなんか思い出せなくなっててサッパリで・・・」
『・・・・・・』
「・・・・・・」
『・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・」
―――尚、サーヴァントのシステムだけ流用して復活させただけのため、聖杯戦争で喚ばれた英霊たちなら誰でも知ってる情報は、何一つ与えられてないまま自前の情報だけでやってくしかないようでもありますが。
【今作版世界のオリジナル設定】
いわゆる『黒歴史』の後に生まれた世界で、既に滅びて進化しなくなった黒歴史を超える文明力や技術力を持つまでに至った超未来という設定の作品。
ゲーム版【C.C.C.】ではなくアニメ版【Last Encoreイルステリアス天動説】へと繋がってしまった世界で、またしても最終決戦でトワイトに敗れた場合のifBADEND後未来を舞台にしている。
もしもムーンセルがある月が、PSソフト『ワイルドアームズ』シリーズにおける悪役勢力『魔族』の母星だった『惑星テラ』の衛星だったら――という解釈版でのパラレル時空ストーリー。
このため月にある先史文明の遺産《ムーンセル》と、地上にある魔族が築いた技術の集積所《ヒアデス》とは同格の性能を有して、ほぼ同じ事が実現可能な力を持っているが、異なる技術体系で構築されている部分が多いため齟齬も目立ち、互換性は高くない。
原作でラストバトルに敗れてBADENDを迎えた設定のif世界になった後で、またラストバトルで敗れて、またBADENDを迎えてた場合の負け続け主人公だった場合が本当になった時を想定して考えられた―――よく考えるとヒドい状態の作品。
だから原作における負け犬設定のヤツに、スポットが当たっているとも言える――かもしれない。
登場人物
『岸波はくの』
ゲーム版で女子生徒としてトワイトと戦って敗れた後、アニメ版で男子生徒としてデッドフェイスと戦ってまた敗れて2度消滅させられながら、NPCなので何度でも蘇るときは蘇るを実行して3度目のリトライとなった設定での今作版『ハクノちゃん』
このため外見は、前二者を合わせたものになっている。
短めの髪、モブ女子生徒の顔、モブ男子並みの身長、ミニスカート学生服にハイソックスのアバター姿。
アニメ版での勝利後も願いを叶えることが出来なかったデッド・フェイスが、再びの改変を行っていく過程で祖語が生じて3度の復活を招いてしまった宿敵とも呼びうる存在。
ただし元がNPCのため、何らかのデータやプログラムが紛れ込んでしまった状態で再構築されてしまったらしく、《ヒアデス》の智慧と繋がる回路を体内に宿した状態で実体化してしまった。
そのため今作では、《ムーンセル》と《ヒアデス》との回路を通じて、トワイトの願いに【近くて遠い悲願の成就】を待ち望むジークフリード復活へと導くため無意識のうちにキーとしての行動が混ざってしまう部分をもつように変質している。
本来は復活のための『供物』として捧げられるエネルギー媒体となる予定の存在だったが、ジェネレーター出力の不足を補うため《ムーンセル》の機能を流用してサーヴァントとしての実体化という手段をとったことから『供物』としての意味合いが変わってしまった。
また今では、《ヒアデス》の影響を受けるようになってはいるが、《ムーンセル》に残されていたデータを元に構築されたNPCに介入した結果という流れを経てもいるため、両方共の影響下にある存在という特殊な立場へと更なる変化を遂げてしまっている。
一体どれだけ変わるか分からなくなってきたタイプの主人公。
そのせいなのか時折、自身を構成しているデータが妙に混在することが発生するときがあり、特に【生に対する執着と肯定】【生きている現在への愛着と賛美】といった感情を強く発揮するときほど、過去データの中に強く刻み込まれたデータが無意識のうちに行動として表に現れるようになっているのだが。
・・・・・・どういう訳か、【変な名前】をコードキャストに付けてしまったり、【変な必殺技名】を叫びながら攻撃してしまったり等、無意識に出る過去データに基づく行動には妙なものが多い・・・・・・。
他にも時々、【トカ?】とか【ゲー】などの語尾を多用してしまうという妙な癖が・・・・・・何故だろう。不思議であり謎である。
【魔族の英雄ジークフリード】
岸波はくのが召喚して復活させたサーヴァントであり、『ワイルドアームズ3』の黒幕とも噛ませ犬だったとも言える微妙な悪役存在。
世界観の設定上「3」のジークフリードが主に採用されている。
デッドフェイスによって岸波白野とセイバーが倒され、デッドENDを迎えさせられた惑星テラの人類が滅ぼされた後に誕生した、黒歴史後に生まれた新たな人類文明で、勢力の一つを率いたリーダーだった人物が、死後も戦いを続けられるよう自らの存在すべてをデータとして保存し、再構築できるだけのエネルギーと装置さえあれば復活可能にしてから死んだ存在が、サーヴァントという形で仮初めの実体を得た存在。
彼の生きた時代には、いつ始まったのか、何の理由で起こったのかも不明な戦争が終わることなく続けられ、その戦争によって技術躍進は加速し、多くの問題を戦争によって高まった技術力によって解決させることに成功していくようになっていた。
闘争が全てを産み出していく世界。
それは一面的には、トワイト・H・ピースマンが求めた悲願が実現された理想的な未来とも言えたが、一方で彼が否定して見下した愚かな人類社会が『強さでの勝利』によって黄金期と同じ結果を手に入れただけとも表現できる歪な未来でもある。
そこに生きる人たちの一派は己が陣営を勝利するため自らを改造し、半生体半機械融合構造体として『脆弱なる旧人類ヒトを超えた超越者』と自らを称し、機械化を拒んだ旧人類との果てなき闘争を勃発させ、やがて星の上に誕生させた自分たちの文明を滅亡させる結末へと至ることになる。
ジークフリードは、そんな時代に『戦士』となった『超越者たち』の一員であり、ヒトであることを捨てて「シンカする道」を選んでヒトと決別した者たちのリーダーだった。
人間として生まれてはいるが、人類と敵対する種族へと変わったことで【アラヤ】の庇護からは外されてしまい。
生存し続けるため自然物から得られる糧を必要としないため、幾ら自然破壊しても問題はない機械の肉体に変わったことで、【ガイア】からも排除される敵としか見なされなくなってしまった【星に紛れ込んだ異分子】そういう存在に今ではなっている。
なので、【“人類”史に名を刻んだ英雄】としてはカウントされておらず、生まれは人であっても『悪霊』や『怨霊』といったモノとしてさえ記録されることは許されなかったが、【魔族史の英雄】としては《ヒアデス》に不滅の名を刻み込まれる存在となっている。
もともと『月の聖杯戦争』でのサーヴァントは、《英霊の座》から魂の一部を召喚して実体化させるのではなく、《ムーンセル》に記録されていた過去データに形を与えたものが呼び出させれる。
情報の記録媒体と、人の夢や記憶とは、程度と規模の差異こそあれ『電気信号の海』という点では同義でもある。
ならば、それが機械的に保存されていた記録情報に実体を与えて再構築した、データの塊でしかないものならば、そのデータの中に自己だけが有する紛れ込ませて、実体化させる者たちの一つに加えることは可能ではないのか・・・? という仮説を元に採用してみたキャラクター。
なお、超古代文明の遺産から、自分とよく似た名を持つ旧人類の英雄が大昔にいたような気もしなくはないようではあるけれども―――気のせいか、他人の名前の空似だろう。
超越者たる魔槍使いの彼は、脆弱なる愚かなヒトの剣士如きと同じ部分など持っているはずがないのだから(苦笑)
【デッド・フェイス】
敗者の山を築き上げ、勝利だけは無限に手に入れ続けまくりながら、何故だか自分の願いだけは一度たりとも叶ってくれない、ある意味では不幸の極みみたいなヒト。
もしくは、不幸な人からも置き去られたモノの残骸。
一度は自己を消滅させてでも、人類から未来の可能性を奪うために閉じようとしたセラフを完全には閉じることは出来ず、自分自身も何故か消滅できず残留してしまい、惑星上で生き残っていた人類は岸波たちの死後しばらくして資源の枯渇で絶滅してしまった。
何もかもが上手くいかず、望んだとおり事が運べたことが一度もなく、それでいて勝利と圧勝と敗者の屍の山だけは延々と積み重ね続けることを成し続けてきた。
まさに、【絶対強者】と言っていい存在。
始まりは最弱のモブから生まれて《七天》へと至り、最強の座に上り詰めた後のトワイトから派生して誕生した『生まれながらに力持つ者』
『最初から最強存在として誕生した』『生まれながらの最強ラスボス』そういう存在になった後のヒト。
自分が消えることできずに苦しんでる中で、気楽に愚かな戦争行為を絶賛しまくりながら、自分たちが超えられなかった停滞の壁を戦争によって突破していき、『自分が叶えようとした未来が実現した場合の姿』を形ある実物として見せつけられ、発狂するほどの屈辱と怒りに駆られて今次聖杯戦争を再開させる決意を固めさせる理由となる。
理論上の可能性としてだけ語ってる間は、いくらでも反論の余地があり、信じて進むのも未来の可能性としては有りなのだが、実際にやられて実現してしまった後では否定しようがなくなってしまう。
実物のソレを見て、肯定するか?否定するのか? 賛成するか?反対するのか?それだけしか選べる道がなにもない。
結果としてデッド・フェイスが選んだ道は、【実行した奴らが悪い】【他の者がやっていたら別の未来になっていた】を信じるぐらいしか・・・・・・