真剣で川神弟に恋しなさい!S   作:名枕(ナマクラ)

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最終話 「真剣で私に恋しなさい!!」

 川神を舞台としたマープルによる造反劇が失敗してから数日が経った。

 

 あの合戦が終着した後、九鬼帝によるクーデター黙認が発覚したり、首謀者組の処分として従者部隊内の階級が降格されたり、世間的にはクーデターではなく映画撮影の一環として通されたり、報道ヘリによって撮影されていたとある男子学生が新たに刻んだ黒歴史の全国公開に悶えたり……などなど、様々な事があったわけであるが、傷跡が全て元に戻ったわけではない。

 とくに人の傷やケガは適切な処置をしても元通りに治るまで時間が必要になる。今回の合戦にて両陣営ともに多くの人が大なり小なりケガを負った。それらは九鬼財閥や川神院によって適切な治療の手配をされている。

 怪我人を受け入れした医療機関の一つである葵紋病院を一人の少女が歩いていく。

 

 彼女は葉桜清楚、今回の騒動の首魁の一人、覇王項羽その人であった。

 

 彼女自身が病院の世話になっているわけではない。あの時の戦闘は確かにダメージは大きかったが、その持ち前の頑強さのおかげか入院が必要になるようなケガは負っていなかった。

 

 しかし彼女の対戦相手もそうというわけではない。

 

 項羽と戦った川神十夜は戦闘を終えたのち気を失った状態で葵紋病院へと搬送された。

 

 そこで医師に診断された結果が全治六か月。それも完治したとしても武道ができる身体に戻る保証はできないという残酷なものであった。

 

 覚醒した自身との戦いによって全治六か月もの大怪我を負わせてしまった。しかももう武道ができないかもしれない……それを聞いた時、清楚は己の行ないを後悔した。今までの付き合いの中で十夜にとって武道がどれほど大事なものなのか理解していたからだ。

 そのような惨事を起こした自分が十夜に嫌われていないか少し……いやものすごく心配ではあったが、それでも清楚の中でお見舞いに行かないという選択肢はなかった。

 

「あの……十夜君大丈夫……?」

 

 勇気をもって病室の個室の扉をノックして開けた。

 

「あ、清楚先輩」

 

 中では全治六か月の大怪我をしている十夜が逆立ちして腕立て伏せしていた。

 

「な、何してるの!? 全治六か月の怪我なんじゃ!?」

 

「いやー半年も寝てたら体鈍りますし……というか怪我はもう治りましたし」

「全治六ヶ月の怪我は数日じゃ治らないよ!?」

「えー」

「えー、じゃない! いいから安静にして!!」

 

 清楚の一喝によっていそいそとベッドに戻る十夜。思ったよりも、というよりも予想の埒外にピンピンしている姿を確認した清楚はほっと胸をなでおろしながらも、ベッドの傍に立って十夜に頭を下げた。

 

「この度は私が多大なご迷惑をおかけして本当にごめんなさい!」

「あ、いえ。大丈夫ですよ。もう治ってますし。なんで頭上げてください。そんなことより清楚先輩の方はケガとかなかったです?」

「そんなことじゃないよ! 私はそんな大怪我とかはなくて不調もないけど、それよりも十夜君のケガの方が……!」

「ならよかった」

「…………もう」

 

 自分の身体よりも清楚の身体の心配をしてくるのを見て、清楚はもっと自分を大切にしてほしいと思うと同時にどこか嬉しく感じてしまう。

 

「今日私がお見舞いにきたのは、葉桜清楚として、一人の男の子の心配をしてきたっていうのもあるんだけど、覇王項羽として、十夜君にきちんと宣言しておきたい事があるの」

 

 そういって清楚が目を閉じると、次に目を開いた時にはどこか雰囲気が荒々しいものへと変化していた。

 

「何か雰囲気が……」

「普段の状態から切り替わったからな」

「切り替え式なんすね。えっと、切り替え式ってことは清楚先輩とは別人格って事っすか?」

「記憶は共有しているし、俺自身も清楚だという自覚はある。だが幼い頃から長い間この力とともに封じられたせいか、普段の状態と考え方や嗜好に関しては違いが出ているのは確かだな。呼び分けたければ好きに呼ぶといい」

 

 ひとまず今の状態の清楚の事は項羽先輩と呼ぶ事にした。

 

「まず、今回の騒動を起こした責任、というわけではないが、俺はしばらくこの力を、俺のためには使わない事にした」

「えっ、もしかして九鬼の人達からの指示っすか?」

「それもあるが、別にただ九鬼の連中に命じられたからというわけではない。確かにしばらくの間は九鬼の従者共に監視されるだろうが、その事とは関係なく俺自身が決めた事だ」

「じゃあどうしてです?」

「……お前に言われた事が、引っかかったのだ」

 

 項羽の言葉に、俺何か特別な事言ったっけ? と、十夜は首を傾げる。

 

「他人に示された道をただ歩んで世界を手にした所で、俺が本当に手に入れられる物は何もない。お前はそう言った。『項羽だから』という理由だけで世界征服を成し遂げた所でそれが本当にしたい事でなければ何の意味もないとも」

 

 ……確かに言った気がする。ちょっとハイになってたのでテンションのまま言い放った気がするが、まあ本心だしいいだろう。十夜は自らにそう言い聞かせた。

 

「正直に言えば、お前が俺に言った事はまだわからない。王の為に部下がその道を指し示す事は当然の事であるし、俺が覇王項羽である事は紛れもない事実だ。……だが一考する価値はある。そう感じたのも確かだ。だから、それがはっきりとわかるまでは、ただ俺の為にこの力を振るわない事に決めた。俺自身、本当に成し遂げたい事が何なのか、それがわかった時にこの力を十全に使う為にだ」

 

 項羽の言い分は理解できた。やりたいことがわかるまでわざわざ力を封じる必要はあるのかと疑問には思ったが、項羽自身が決めた事ならば口出しする必要はないと十夜は納得した。

 

「だが、お前に敗れてからその事について考えたのだが、全く持ってわからない。短い時間だが、覇王としての俺でなく清楚として考えても答えは出なかった」

 

 まあそれも仕方ないかとも理解できる。何せ今まで「そのようにあれ」と育てられてきたのだ。幼き頃からの習慣や常識はそう簡単に変えることはできない。

 

「────だから、お前が俺に教えてくれ」

「え?」

「お前と一緒にいれば、『本当に何かを手に入れる』という意味がわかる気がする。いや、その『何か』を手に入れられる気がするのだ。だから……その、なんだ……」

 

 なんだか空気感が先程までと変わってきたような気がする。そういう雰囲気の違いに聡くない十夜もその変化に気付いた。

 よく見れば項羽の顔もどこか照れているのか、恥ずかしいのか、赤みを帯びているように見えた。

 

「……い、今からいう事は、その……なんだ。覇王としての俺だけでなく、清楚としても同じ意見だという事を念頭において、しっかりと聞き逃すなよ」

 

 言い淀む事が増えて何度も深呼吸を繰り返す項羽を見て、何かを期待するかのように十夜は無意識に溜まっていた唾をゴクリと呑み込んでいた。

 

 

「今世の俺の虞……いや、そうじゃなくて…………つ、つまりはその…………は、伴侶として! 俺と……私と、ずっと一緒にいて欲しい!」

 

 

 その瞬間、十夜の脳裏に一筋の電流が走る。

 

(……あっ!? あの時の『ぐ』ってもしかしてそういう意味だったのか……!?)

 

 テレビでのあの発言の意味をこの時ようやく気付いたのであった。

 

 そしてその意味を理解して高揚とともに混乱が極まり赤面して固まる十夜に対して、赤面しつつも少し距離を詰めていく項羽。そして……

 

 

「────うぇーい!!」

 

 

 どこからともなくやってきた小雪が二人の間に割って入った。

 

「な、何だ!? いきなりなんだお前!? 何をする!?」

「でぃーふぇんすっ! でぃーふぇんすっ!」

「ええい! 邪魔をするな!」

「ゆ、ユキ……?」

 

 十夜にさらに近付こうとする項羽に対してそれ両腕を広げて防ぐ小雪。何故小雪がこのような行動をとるのかわからない十夜だったが、その理由はすぐに小雪の口から放たれた。

 

「トーヤは渡さないよ! だって……だって……! 

 

 

 

 

 

 

 

 ────僕、トーヤの事が好きだから!」

 

 

 

「──────え」

 

「ざ、戯言を……!」

「戯言じゃないもーん!」

 

 小雪のその一言で十夜の頭の中は真っ白になる。

 目の前で二人の女子が言い争いをしているが、それに気付けないほどに十夜の思考は混乱を極めていた。

 

(ユキが俺の事を好き……? これは友達としての好き……じゃないのは話の流れからして俺でもわかる……! いや待て待て。これはさすがに夢じゃないのか!?)

 

「いやー、モテモテだね、十夜クン」

「────ッ!? つ、燕先輩いつの間に!?」

 

 まさかの小雪からの追撃の告白に頭が回らない中で、背後から両肩に手を置かれて初めて燕がそこにいる事に気付いた十夜だったが、そのまま燕は耳元に口を近づけてこう囁いた。

 

「────私、まだ答え貰ってないよ」

 

「え?」

「告白の答えを待つとは言ったけど、これだけ待たされたらさすがに待ちきれなくなっちゃうよ……?」

 

 耳元で囁かれる燕の蠱惑的な声が十夜の耳朶を打つ。そのどこか心地の良い声は混乱を極めていた十夜の脳内に新たな要素を加え、さらに指向性を持たせようとしてくるようだった。

 だがそんな行為をしている燕の存在に、十夜の取り合いをしている少女二人が気付かないはずがなかった。

 

「おいこら松永燕ェッ!! 何を抜け駆けしている!!」

「ぶーぶー!!」

「抜け駆けじゃないですー! 何だったら一番最初に告白しましたー!」

「それが抜け駆けだというのだ!!」

「そうだそうだー!!」

「でも私が告白してなかったら二人ともまだ告白してないでしょ。特に清楚は」

「うっ!」

「うっ!」

 

 十夜の目の前で繰り広げられていた少女二人による言い争いに燕も当然参戦していく。

 まさかのモテ期到来、そして目の前に広がる修羅場に停止しかける思考を無理やり働かせる。

 

(こ、これはハーレム展開ワンチャン……!? いや、それはさすがに不誠実が過ぎる……! どうする……!? どうするよ、俺……!?)

 

 男なら一度は夢見る美少女たちによる自身の取り合い。しかし実際にその場面に直面するとただ困惑するのみ。

 これガクトとかに言ったら血の涙流しながら激怒されるんだろうなー、俺だって逆の立場ならするもん、と現実逃避を始めた辺りで、目の前で言い争っていた女性陣が一斉に十夜の方へと視線を向けた。

 

「────十夜!!」

「────十夜クン!!」

「────トーヤ!!」

 

「は、はい!!」

 

 自身を取り合う美少女三人に同時に呼びかけられ、思わず敬語で返事をしてしまう十夜。

 この後、何を言われるのか、何を問われるのか、何を答えなければならないのか、それを察しながらも、未だに頭の中で答えはでない。

 

 だが、どんな答えを出したとしてもそれで終わりではない。彼の人生はこれからも続いていく。

 

 であるならば、今回ばかりは後悔のない答えを出さなければならない。少なくとも今この時は間違いなんかじゃないと胸を張って言える答えを。

 

 

 そんな事を考えながら、彼女たちの言葉に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

「「「────真剣(マジ)で私に恋しなさい!!」」」

 

 

 




これにて本作は完結となります。長い間お付き合いいただきまして誠にありがとうございました。

タイトル詐欺となってしまった前作と違って今作はタイトル通りになって我ながらほっとしております(答えを出すとは言ってない)
今作は自身の初完結作のIFストーリーということで思い入れが強かったのですが、自分の筆の遅さや気の多さなどのせいで長い間更新が停止していました。しかし構想やら話の展開、終わり方などは書き溜めが結構残っていたり頭の中にあったりとして勿体ないと思っていたので、最近書きたくても筆が乗らない現状を何とかするためにリハビリがてら完結まで書いてしまおうと思ったのが去年の4月です(一敗)。

そこから何とか完結まで持っていけて達成感とともにほっと胸をなでおろしております。

ハーメルンでの投稿開始から10年以上かけての完結となりましたが、当時から読んでいたただいていた方も、最近読んでいただいた方も、楽しんでいただけたのなら幸いです。

この作品を読んでいただきまして本当にありがとうございました。


以下に主人公とヒロイン3人に関しての設定やらを少し書き綴っておきますので興味がありましたらどうぞ。


川神十夜:主人公。タイトル詐欺を脱却した。なお作中で答えは出せていない。
無印と違い、武への葛藤を克服して強くなることに貪欲な、しかし百代とは違うタイプの武の求道者。武の目標は『最強』と『そのために百代に勝利する事』。
幼い頃から百代というフィルターを通して人から見られて嫌な思いをする事も多かったため、個人に別の誰かを重ねる事をできるだけ避けるようにしている。なので今を生きるクローンたちを過去の偉人として扱う武士道プランは好きではなかったし、燕が百代の戦法を学ぶために十夜に近づいたと気付いた時には激昂したし、マープル陣営と敵対する事になった。
地頭は悪くはないのだろうが勉学は苦手。特に歴史とかは興味が湧かないため、『項羽』とか『虞』とか言われてもピンとこなかった。『虞美人』とか『四面楚歌』とか『虞よ虞よ汝を如何せん』とかの聞き覚えのあるワードがもう少しあったら思い至った可能性も微レ存。
作中で触れる機会がなかったのだが、小雪を助けられなかった事は未だにトラウマであり、十夜が小雪に対して敵対行動や加害行動をとる事はなく、もしもそういった行為を不意に行なってしまった場合は前後不覚の状態に陥る。
ちなみに憑依の九の時とか複数の憑依を同時に行う混神憑依とかで十夜ブラック、あるいは超カワカミ人に変身して「どうだこの色、美しいだろう?」と言わせるか迷ったが、入れる場面がなかったので没。
ちなみに恋人に選ぶ確率としては小雪>清楚>燕の順で、恋人としての単純な相性の良さは燕>清楚>小雪だと思われる。こいつは相手の尻に敷かれた方がいい。
ハーレムルートに入るとしたら、ユキが「トーヤが選べないなら全員選んでも僕はいいよ」的な事を言って燕と清楚(項羽)がそれを一旦認めざるを得ない状況に持って行った結果、水面下で女性陣による恋愛頭脳戦が繰り広げられる、みたいな展開がふと頭に浮かんできた。多分書かない。

榊原小雪:ヒロインの一人。S版十夜の根幹に関連しているヒロイン。
IF設定として十夜が十夜のキャラらしく強くなっていくとしたらどこがターニングポイントだろうと考え、人見知り設定のために挫折は必要なのでその後どうやって武道に戻させるか、と考えた時にうまく利用できそうだなと思ったのがヒロインになった理由。
ヒロインにしたものの作者が小雪の思考の再現をいまいちできなかったため出番が少なくなってしまった。
小雪ルートだと、十夜の小雪に対するトラウマや依存などの問題が可視化されていき、それの解決が主題になると思われる。

葉桜清楚:ヒロインの一人。十夜の性癖から選ばれたヒロイン。
当初、覇王モードだと十夜の性癖的にどうだろうとも思っていたが、A2をプレイして内面がより乙女でドストライクになっていたので一安心した。
今回の修羅場は覇王モードだったが、多分清楚の状態だったら力封印用の指輪を十夜に左手薬指につけさせるくらいはやりそう。やった後照れそう。
清楚ルートだと、『項羽のクローン』としてではなく、『一人の人』として彼女自身のやりたいこと、やるべきことを探し、向き合う事が主題になると思われる。

松永燕:ヒロインの一人。元々ヒロインの予定じゃなかったヒロイン。
当初の想定では若獅子タッグマッチで十夜を見誤っていたせいで敗北、エキシビジョンは百代VS十夜になる想定だった。なおその場合でも十夜は百代に負けて九鬼内乱は起きる模様。
思い付きでIFルートとして書いたら思った以上にしっくりしたので正式ルートになった。
燕ルートだと、やるべきイベントが特にないのでデートやら両親への紹介など恋人らしいイベントが進んでいく物と思われる。

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