ならず者の街、リヴィラ。
街を仕切っているのはレベル3の冒険者、ボールス・エルダーであるというのは有名だろう。
しかしリヴィラの本当の
「あんた達!オラリオに帰るよ!」
「「「アイアイサー!!!」」」
ピンクの髪の毛、水色の服をきこなした老婆。引き連れているのは三人の配下。子分達は山ほどの財宝を背負っている。どうやら古代の英雄が残した財宝の一つを見つけたらしい。
マ=ドーラ。
ドーラ山賊団を率い、ならず者達は一様にその名に服す、ベクトルの違った英雄である。
ドーラが先頭を切って駆け、子分達がそれを追いかける。子分達は財宝を背負っていてるとはいえ、この婆さん、恐ろしいほどの健脚だ。
夕暮れ時にはオラリオに到着していた。20キロ近くをほぼ休み無しで駆けてきたということもあって子分達は尻をついて肩で息をしている。
「全く、だらしがないねぇお前達は」
「頭領の足に、ついて、行ける人が、一体、どれだけ、居ますか」
息も絶え絶えに子分の一人が言う。ドーラは子分の軟弱さ(とはいっても充分に頑強だが)に少ししかめっ面をすると、気を取り直して子分達に言った。
「さあ、今夜は祝杯だよ!」
ドーラ達はオラリオ近郊の隠し場所に財宝をしまうと、『豊穣の女主人』を訪れた。店に入ると、アーニャとクロエがぎょっとした表情を浮かべた。
「「ど、ドーラ母ちゃんだニャ・・・」」
「おお、アホ猫コンビじゃないか、どうだい?ミアを困らせてないかい?」
「ま、そのアホ達は相変わらずだよ・・・。何にしろ久しぶりだねぇ、ドーラ」
厨房の奥からミアがのっそりと姿を現す。
「席空いてるかい?」
見回すと、店は真ん中で綺麗に分かれていた。片方は冒険者でごった返し、もう片方はがらんどうだ
「そっちはロキ・ファミリアの予約席さ」
「てことは空いてないのかい?」
「いや、片付けが間に合ってないからみたいだねぇ。とっとと片付けな!」
ミアの一喝にアーニャとクロエがそそくさとテーブルを片付ける。空いたテーブルに通されたドーラだったが、席につくや否やビールがどんと置かれた。ドーラ達はきにすることなくジョッキをかたむけ、グビグビと一飲みで空にした。
「くぅ~!染みるねぇ」
「そうだろう?最近入った一押しだよ」
ミアが厨房奥から嬉しそうに声をかける。ドーラがにっと笑い返すと、近くに居たウエイトレスを呼び止めた。
「チキンとマルゲリータピザ一枚」
「ビーフとパスタ、リゾット!!」
「パエリアとカプレーゼ」
「グラタンとハンバーグ!そして・・・」
「「「「ビール四杯!」」」」
和やかな雰囲気と共に料理に舌鼓を打つドーラ達。半分ぐらいの皿が空になったところで、ドアが開いて、ロキ・ファミリア御一行が訪れた。予約席に座り、料理が次々とサーブされる。ウエイトレス達は先ほどより一層忙しく店内を歩き回っていた。
ロキ・ファミリアの面々も徐々に酒が回り始め、声がでかくなってくる。そして一際大きな岡本○彦ボイスが轟き渡ったとき、一人の少年がドンと立ち上がって店の外へと駆けだした。
それを見たドーラは怒気を顔面全体にみなぎらせて子分達を怒鳴りつけた。
「お前達!とっととあの
「はぇ?」
酔いが回ったままの子分達は、トロンとした目でドーラを見返した。
「良いからとっとと今出てった
「「「は、はいぃ!!」」」
少しして子分達はその白髪の少年を捕まえて戻ってきた。少年は今はやっちまったとばかりオロオロとして、不安げに周囲を見渡している。
少年をドーラの前に座らせて、子分達が逃げられないように囲む。少年の隣には心配するような目を向けたシルが立っていた。
「どうして捕まえられたかわかってるだろうね?」
「は、はいぃ・・・」
「まあよくもアタシの
ドスの利いた声で威圧する。
「んで、どうして食い逃げしたんだか。理由でもあるなら言うんだね」
一転してふっと優しくなったドーラの雰囲気に、少年はぽつり、ぽつりと言葉を紡いだ。どうやらロキ・ファミリアが自分の失態を肴にしていたのを見て、悔しさが抑えきれなくなり、飛び出していったらしい。目をまっすぐ見据えると、少年の瞳に嘘のかげりは無かった。
「まったくバカなことをしたねぇ・・・んでミア、そういうわけだがどうする?」
「まあ事情が事情だしねぇ・・・金さえ払ってくれれば今回は不問にするつもりだよ。ドーラはそれで良いかい?」
「良いも何もアンタの店なんだ。好きにしな」
そう言うとドーラはロキ・ファミリアの方へとのっしのっしと歩いて、フィンを掴まえる。そして罵声のいきさつを詳しく聞いた。
「ってことはアレが諸悪の根源なわけだね?」
「ああ・・・だが彼も酔ってたんだ。こちらから厳しく言いつけておくから、どうか手荒なことをしないでくれよ」
フィンの懇願にも似た言葉に大きく頷くと、吊されている諸悪の根源の前に立つ。
「アタシのシマで偉そうなことしてんじゃないよ!!」
一閃。
ドーラはどこから取り出したのかわからない空の酒瓶を思いっきりベートの頭に叩きつけた。第一級冒険者のステイタスを貫通して意識が刈り取られる。
フィン、リヴェリア、ガレス、ロキを除くロキ・ファミリアの面々は皆一様に目を丸くした。派閥の幹部、それも都市最強の派閥の幹部をぶん殴るなど、正気の沙汰ではない。下手をすれば、いやしなくても全面抗争に発展しかねない。
「さてと、片付けるんだよ!」
ドーラの号令に子分達がいそいそと飛び散ったガラスの破片を集める。その様子を見ながら、ティオネ達がフィンに聞いた。
「あの、団長・・・」
「言いたいことはわかる。でも抑えておけ」
「でも・・・」
「君達は知らないと思うけど、彼女を敵に回したら非常に恐ろしいからねぇ」
「どういうこと?」
「彼女が本気で怒ったら僕らのファミリアなどあっという間に壊滅してしまうよ」
ティオネ達がぎょっとする。ロキ・ファミリアですら適わないとなると、オラリオではフレイヤ・ファミリアぐらいしか存在しない。つまりあのフレイヤ・ファミリアと同等の戦力を有していることになる。
驚くティオネ達にリヴェリア、ガレスが追い打ちをかける。
「・・・お前達は知らないだろうが、昔彼女はたった一人で中堅ファミリア連合を壊滅させている」
「そう言えばゼウス・ファミリアが手こずったモンスターをあっさりと倒したこともあったのう」
そうこうしている間に掃除が完了したようだ。
「すまんかったね、ミア。アタシはこれで帰るよ」
「まったく、面倒なことしてくれて・・・出禁にしたい気分だよ」
「じゃあとっとと帰るとするかね。・・・ベル・クラネル!」
名前を突然呼ばれてベルがぎょっとした表情を浮かべた。その表情を見てニヤッと笑うとドーラは親指を突き立てた。
「頑張るんだよ」
この日、ベルに新たな憧憬が宿った。
続きません。
ジブリとのクロスオーバー作品もっと増えて欲しいなぁ(願望)