「『ゆゆゆ』の世界に転生とかどんな罰ゲームだ……」
何? 俺、前世で何かやらかしたのか? と自問自答する彼は所謂転生者である。と言っても前世の記憶が有るだけ、精神年齢年上なだけと言う本人からすれば「いっそ無い方が良かった」と項垂れるしかない状況だが。更に頭を抱えざるを得ない事情が有る。
「しかもさぁ……」
「凛くん? どうかしたの?」
「あーなんでもない。気にするな、友奈」
転生者、
(俺にできる事……勇者達のメンタルケア? 絶対事情教えてもらえるわけないのにどうやれと? 勇者達を鍛えるとか? 対人戦の経験を積んでも役に立たないし……。マジで何もできねぇ……)
本当に知らない方が良かった。心の底からそう思うほどに凛は自身の無力さを痛感した。転生者になったのだから『神から貰ったチート』で無双することを夢想したことも有ったが今ほど渇望した事は無い。そう断言できた。目の前で純粋無垢に自分に笑顔を向ける
(この笑顔を守れるのは同じ勇者だけ。俺は本当に何をすればいいんだ?)
前世の記憶も原作知識もいらない。ただ――
「戦う力が欲しい」
何もできないのは嫌だ。そう思いはするができる事が思いつかなかった。しかし、そんな凛の思いは意図せず叶う事となった。
「ねえ、凛くん」
「ん? どうした?」
「凛くんの家の前に高そうな車が停まってるよ?」
「え?」
友奈の家の前じゃなくて? そう思いながら窓から外を覗く。ちなみに二人がいたのは咲良家二階の凛の部屋である。更に補足すると凛の家は友奈の家の隣(東郷美森の家とは逆側)である。気になった凛は友奈を連れて一階に降りる。
「初めまして。私は――」
玄関の方を見るとちょうど一人の女性が自己紹介しようとしていた。だが彼女は途中で言葉を止めて凛の方を見た。同時に凛も女性の顔を見て固まった。何故なら彼女の顔に見覚えが有ったからだ。眼鏡を掛けている、背丈は知っているよりも高く、恐らく年齢も違う。だが知っているし一目で同じ顔だと解った。
「あなたが咲良凛くん?」
「は、はい」
凛は動揺しながらも返事をする。その間も凛の脳内では「何故? 子孫? あり得ない。ならば生まれ変わり?」と目の前の女性について考え続ける。
「改めまして私の名は――」
しかし、その答えを彼女の口から聞くことになる。
「
それは存在しない事になったはずの勇者の名字。
「郡
歴史から消されたはずの勇者、郡千景と瓜二つの女性はそう名乗った。
結城友奈には幼馴染がいる。彼は生まれた時から家が隣でよく一緒に遊んでいた。特に『ごっこ』遊びでは役割が決まっており友奈が“勇者”などのヒーロー役で彼は何時でも“魔王”などの悪役だった。幼い子供なら悪役などやりたがらないものだが彼は嫌な顔一つせずにその役目を全うしていた。そんな彼といつも遊んでいた友奈は家が隣同士なのもあって気づけば何時も一緒だった。彼からすれば妹の世話している気分だっただろうが友奈からすれば親友と呼んではばからなかった。友奈の中では彼とはこれからもずっと一緒だと決まっていた。
しかし、そんな当たり前の日常は唐突に終わりを告げた。
「凛を引き取りたい、ですか?」
凛の両親は千尋から言われた内容をオウム返ししている。内容を理解できずにいるのだ。
「はい。と言っても一時的に、です」
郡千尋と名乗った女性は凛を自分の養子として引き取りたいと口にした。しかし、両親は大赦とは無縁の一般人であるため無条件でそれを受け入れられなかった。
「何故、家の子を? どこにでもいる子供ですよ?」
「詳しく説明できませんが……大赦のお役目に関わる事です」
「そんな説明で納得できるか」
凛の両親どちらも冷静に対処しているが内心、気が気ではない。自分達の一人息子が何かに巻き込まれようとしている。それを感じ取ったからだ。
「ご両親であるお二人に納得してもらえるとは思っておりません」
「なら――」
「それでも、私には、いえ
そう言って千尋は跪いて手をつき、額を下に付けた。土下座だった。
「な……」
「かつて私のご先祖様がある力を持つ方に助けられました。凛くんは彼と同じ力を使えます」
その声には必死さが有った。
「本来なら彼の子孫である者がやるべきなのでしょうが、その力が無く、私達は凛くんに頼るしか無いのです」
その声には悔しさが込められていた。
「……その話を受けなかった場合、どうなる?」
「……一人の少女の命が亡くなります」
予想外の内容に凛の両親は固まる。
「二人目の少女は生きられますが人間としては生きられません。三人目は下半身不随に加え友との記憶を失います」
「ちょっ、それ……」
千尋の話した内容に心当たりが有る凛は思わず声を上げた。
「少なくとも三人の少女に悲惨な未来が待っています」
「……凛ならそれを変えられる、と?」
「はい……正確には凛くん以外の誰にも変える事は出来ません」
「…………」
暫く無言になる凛の両親。やがて意を決したように父が凛に話しかけた。
「凛。お前はどうしたい?」
「あなた!?」
父の予想外の言葉に母は責めるような視線を向ける。
「ここまでの話を聞いてお前はどうしたい?」
「凛はまだ子供よ!」
「だが、凛にしかできない事だ」
「そんなの、本当かどうか……」
両親の言葉を聞いた凛の心に浮かんだのは感謝だった。前世の記憶が有る所為で普通の子供とは言えない自分を受け入れ、今も大切な子供として扱ってくれる事に只々感謝の気持ちが浮かんだ。だが同時に申し訳なく思う。自分がどうしたいか決まっているのだから。
「俺は、この人に付いて行くよ」
「凛!」
「ずっと欲しかったんだ。守れる力が。救える何かが」
そう言って凛は自分の手を見る。
「何もできないけど、何かしたい。ずっとそう思っていたんだ」
続けて隣にいるショックを受けた顔をしている友奈を見る。
「ごめん。俺は部外者でいたくない」
「そうか……」
父は寂しそうに顔を背ける。母は泣いていた。そして――
「やだ」
友奈が凛の服を掴んだ。
「いっちゃやだ」
「友奈」
「凛くんはずっと一緒だもん」
「友奈」
「一緒じゃないとやだ」
「友奈!」
「!」
凛の大声に目を瞑る友奈。そんな友奈の頭を凛は優しく撫でた。
「別に二度と会えない訳じゃないから」
「でも……」
「まあ、一、二年だけの話だ。でしょ?」
「……ええ」
千尋の答えに凛は確信した。何らかの理由で未来の話を知っている、と。それならそれで好都合だ。千尋も未来を変えたいと思っている。凛自身も同じ気持ちだ。利害は一致している。猶更断る理由は無くなった。
「……一週間後に迎えに来ます。それまでに準備をお願いします」
その後、両親と凛の同意を得た千尋は帰った。一年から二年とはいえ離れ離れになる事が決まってから凛の周りは慌ただしかった。両親など凛と共に過ごすために仕事を休みあっちこっちに遊びに連れて行ったり、学校にいる数少ない友人には転校する事を告げたりなど忙しい日々送った。
しかし、その間、友奈は笑顔で凛と接していたが誰が見ても解る空元気だった。
そして凛が郡家に迎えられる日が訪れた。
「息子をお願いします」
「どうか無事に返してください……!」
「全力を尽くします。ですがその前に――」
そう言って両親と話していた千尋は凛に目線を合わせる。
「本当に良いのね?」
「…………」
「私も知識としてしか知らない。でも途轍もない困難だと言う事だけは解るわ」
「…………」
「それでもあなたは私と共に来る?」
それは最後の確認。千尋は凛に問う。まだ引き返せるけどどうする? 本来、子供にさせる決断では無い。だが千尋も凛がただの子供では無い事を知っているために聞いたのだ。
「……正直、何もできないかもしれない」
対する凛も自信がある訳ではない。自分が勇者であろうと本物の様に立ち振る舞うことなどできはしない。だが――
「それでも、知っているのに何もしなかったら一生後悔する」
死ぬと解っている少女がいるにも関わらず普段通りに生活を送ることなどできはしない。何もできないなら諦めも着くだろう。忘れる事が出来るのならそれでも良かった。だが自分が介入しても一緒かもしれない。
「何もせずに後悔するよりやるだけやって後悔します」
「そう」
間違いなく後悔するのは解っている。誰が好き好んで
「行きましょう」
それでも選んだ。勇者と共に立つ事を。だからこそ凛は千尋の言葉に頷きながら車に乗り込もうとした。
「?」
車に足を乗せようとすると何かに引っ張られる感覚がした。と言うより服が誰かに掴まれている。振り向くと少女が俯きながら服を掴んでいた。
「……友奈」
誰なのか振り向く前からわかっていた凛は名前を呼ぶ。
「うぅ……」
怒られると思ったのか友奈はただ呻き声の様なものをあげる。
「はい」
「……え?」
凛は友奈の空いた手にピンクの花の髪飾りを渡した。それを受け取った友奈は髪飾りと凛の顔を何度も交互に見る。
「お守りだ。それを持って祈っててくれ」
すぐにでも再会できるようにな。と凛は友奈に笑顔を向ける。凛としてはこれが気休めになればと思って事前に貯めていたお年玉を使って買っていたのだ。
「あら、これ胡蝶蘭? それもピンクの――」
凛の母が髪飾りを見て何の花か気づいた。それと同時に何故かニヤニヤと言う擬音が聞こえてきそうな笑みを浮かべる。
「友奈ちゃん、ちょっと耳貸して」
「?」
そう言って凛に聞こえない様に母は友奈に耳打ちする。
「その髪飾りの花言葉は、『あなたを愛します』なの」
「!?」
凛の母の言葉を聞いた友奈は一瞬で顔を真っ赤にした。ちなみに凛は花言葉を知らない。ピンクの花で適当にデザインが気に入った物を買っただけだ。
「頑張らないとね、友奈ちゃん?」
「あい……」
何故か呂律が回らなくなった友奈に疑問を覚えながらも、さっきの泣きそうな表情ではなくなったので凛はとりあえず大丈夫と判断し、車に乗り込んだ。
「時々でも良いから連絡して無事を教えて」
「無事に帰ってこい。ただそれだけを俺達は願っているぞ」
凛に両親はただ心配そうに願いを言う。その言葉に凛は「頑張る」と一言伝える。
「友奈」
「凛くん……」
「行ってくる」
「早く帰ってきてね」
「ああ」
それを最後に凛の乗った車は発進した。友奈は車が見えなくなるまでその場に立っていた。
一方の車中では。
「これからよろしくお願いします。えーと母上」
「意外な呼び方ね」
「母さんと呼ぶ人が二人いたらややこしいので。あと家の雰囲気に合わせようかと」
「なるほどね」
千尋と凛の二人は会話を交わしていた。これから義理の親子になるため、少しでも交流を深めようとの考えだ。
「…………」
だが会話をしている途中で凛は黙り込んだ。
「やっぱり不安?」
「それは、まあ」
命懸けの戦いに関わると決めたのは自分とは言え、不安が拭えなかった。前世の経験があるとはいえ所詮は一般人では仕方がない事だろう。
「さすがにこれから勇者としてやっていくのは正直不安でして――」
「必要以上に思い詰める必要は無いわ」
そんな不安を晴らす為か千尋ははっきりと告げる。凛の役割を。
「あなたはあなたの思うままに進めばいい。あなた自身に使命感は必要ないの。あなたがやりたい事をやりたいようにすればいい」
行儀の良い勇者になる必要は無い。何故なら――
「あなたは
「…………?」
凛は一瞬、思考が停止した。何故なら自分が実は勘違いしているのではと思ったからだ。
「あの、なんか予想外な呼ばれ方したんですけど……」
「聞き間違いじゃないわよ? 魔王様」
「嘘だろおい」
思わず素に戻った凛。確かに男の勇者はこの世界では存在しない。だからと言っていくらなんでも魔王は無い。むしろ大赦はどう思っているのか不安になる。
「ちなみに大赦には男の勇者として伝えてあるから」
つまり大赦は魔王に対して悪印象を持っていると言う事だ。さっきとは違う不安を抱える凛。だからと言って今更戻る気もないが。
「それとあなたの名前、家にいる間は郡
「十真で
最初から決まっていたとしか思えない名前に乾いた笑いを浮かべる凛、いや十真で有った。
神世紀298年、咲良凛、改め郡十真。彼には魔王となる未来が待っていた。
「郡十真だ。よろしく頼む」
「じゃあ、こおりんだね~」
その中で勇者達と――
「ま、じゃなくて勇者炎撃破!」
「かっけー!」
共に戦い――
「Hey! こおりん! レッツエンジョイカガワライフ!」
「テンション高いなおい」
ともに遊び絆を深めていく。
「ここは怖くても頑張りどころだ、な!?」
「悪い。だけどここからは俺のわがままを貫かせてもらう」
これから始まる彼の戦いは果たしてどうなるのか。
「行くぜ! 奥義・魔王界滅刃!」
祝え! 新たな魔王の誕生を!
次回、未定!
何時か書きたいと思っている作品です。
ちなみにこの作品はオリキャラに「ゆゆゆ」でテイルズの魔王が付く技を使わせたかった。という思いつきで創った作品です。