熱が出ないと学校を休めないという......いつも熱だけはないんですよね。上がっても7度くらいですし。
6話後半部分の話を差し替えました。物語の進行に影響はありませんので悪しからず。
それぞれの戦い方
雲一つない空。煌々と照りつける太陽。頰を滴る汗。
眼前に広がる光景はまさに夏そのものだった。セミの鳴き声が聞こえないのが少しばかり残念ではあるが。
「暑スギィ!」
「黙れ
この矢頭という男、生粋のホモであり語録を使いこなすだけでなく、性癖までホモに染まってしまった救いようのない汚物なのだ。何でも、本家に倣って体を鍛えているんだとか。多少の戦闘力はあると思う。役に立つかは知らないけど。
ホモは凄まじい感染力を持ち、クラスの約半数が語録を覚えてしまうというAクラスにあるまじき状態になってしまっている。俺は感染していないゾ。
そんなことよりももっと重大なことがあるのだ。
今俺たちが立っているのは、太平洋のど真ん中にある学校所有の無人島。広がる地平線のどこにも他の陸が見られない。降りる前に島をぐるりと一周するという謎の時間もあった。
そんな場所に俺たちは連れて来られたのだ。さっきまで豪華客船の快適な船旅を満喫していたというのに。
学校からは、ここで1週間のバカンスと説明されていたのだが、そんな設備はどこにもない。それどころか、無人島には大自然が広がっている。
以前、坂柳と話していた事が思い出される。
──clが大きく変動するようなイベントがいくつか行われるはずです。
坂柳がそう言い放ったのは5月の頭だった。2ヶ月半も前のことだ。
あの時は言われて初めて納得したが、聞かされなければその考えには絶対に至らなかっただろう。
現在その本人はここにはいない。目と鼻の先に停泊し、今もなおDクラスが下船している最中の豪華客船、あの中だ。
もしここで
それ以前に、本来なら坂柳は客船に乗ることすらできなかったのだ。
俺が真嶋先生を前に美しきDO☆GE☆ZA☆を披露した結果、乗船中常に誰かが付き添うことを条件に許されたのだ。本当なら四六時中一緒にいたかったが、俺も限界というものを心得ている。プライベートな部分は神室に頼み込んだ。
神室は不服そうな顔をしていたが、初めから逃げ道はなかった。坂柳が参加する事が決まった後に伝えたからだ。
Aクラスから順に降りること数分、ようやく全員が船を降りた。俺たちは携帯端末を先生に預け、手ぶらにジャージの格好で浜辺に整列させられていた。
やっぱりバカンスは嘘らしい。
「では、これより今年度最初の特別試験を行う」
──来た。
主にDクラスから聞こえてくる悲鳴を聞き流しながら、静かに覚悟を決める。
今年度最初ということは、今後第2回、3回と行われるということ。逃げる立場にあるAクラスは、それらで上位の成績を収めなければならない。下位が続けば、あっという間に抜かれることになるだろう。
派閥争いが続くAクラスでは、下位になれば不安に煽られる。責任は真っ先に指導者の立場にある坂柳か葛城に向けられることになる。
「では、試験の内容を説明させてもらう」
俺たちは各クラス分かれて1週間生活する。基本的に自給自足だが、各クラスにこの試験専用のポイントが300ポイントだけ与えられ、それを使うことで楽に生活できる。
だが、欠席やリタイアで30ポイントを失う。坂柳不在のために、俺たちAクラスは30ポイント少ない状態から始まることになった。戸塚が怪訝そうな表情を浮かべていたが、見て見ぬ振りをしておいた。
与えられたポイントを全部使えばバカンスになるし、節約しようとすればするほどテレビで見るようなサバイバル生活に近づいていく。
これだけならば全部使ったほうが得なのだが、そうはいかないのがこの学校。
「なお、残ったポイントはそのままクラスポイントに加算される」
真嶋先生がそう言った瞬間、またしてもDクラスが騒がしくなる。ポイントの消費を限界まで減らすことで、少しでも他のクラスとの差を詰めたいらしい。一人の少年が0ポイントで生き残ってやると言ったのが聞こえた。
1人だけなら十分に可能だろう。40人ともなれば話は別だが。
一度全体での説明を終え、各クラスに分かれて説明は続けられた。主にリーダーに関してだ。
リーダーは島の各所に設置されている『スポット』の占有ができる権利を持つ。『スポット』は8時間ごとに更新をする必要がある。しかし、一度占有する毎に1ボーナスポイントが与えられ、試験終了後clに反映される。
だが、リーダーにもリスクが付きまとう。当てられると、50ポイント減点される上にボーナスポイントが全て没収される。逆に当てることができれば、1クラスにつき50ポイント獲得できる。最大で150ポイント得ることができる、ということだ。
正直なところ、これが一番の稼ぎどころに思える。少なくとも、坂柳ならそうするだろう。
しかし、今回は不参加。指揮を取るのは葛城だ。慎重な性格なので、リーダー当てに積極的に参加することはないだろう。
説明が一通り終了すると、各クラスにマニュアル表が配られた。特別試験のルールとポイントで買うことができるものの値段が書かれているらしい。実際に見ていないが、戸塚が騒ぎ立てるものだから嫌でも耳に入ってくる。
なぜ戸塚はAクラスに入れたのだろうかといつも疑問に思う。成績は真ん中程度。突出した能力も持ち合わせていない。クラス分けの判断基準が分からないので何とも言えないのだが。
「行くみたいだな。どこか当てはあるのか?」
「さあ。Dクラスを押しのけてまでして熱心に景色を見ていたんだし、無い方が困る」
列の最後尾で橋下と言葉を交わす。坂柳がいない以上、俺たちが自ら大胆な行動を起こすことはない。葛城派の指示もまともに聞かないだろうけど。
「あのアナウンスに疑問を覚えたけど、まさかこんなことになるなんてな」
「『有意義な景色が見られるでしょう』だもんな。気持ち悪い言い回しだ」
坂柳と部屋で惰眠を貪っていた俺は、面倒だったので外に出なかった。俺にとっては坂柳といる時間のほうがよっぽど有意義だ。
前方では葛城と戸塚が会話をしていて、戸塚が定期的に葛城を褒め称えていた。入学直後から葛城に心酔しているようだが、俺には理解できない。葛城はそこまでの男ではないだろうに。
しばらく進むと、かなりの大きさの洞窟が現れた。葛城は既にここを把握していたらしい。
中は思った以上に広く、40人入ってもさほど窮屈しない。雨風も防げるし、支給されたテントの使い道が一つ減った。ここは素直に称賛しておこう。
次の問題は、誰がリーダーを務めるか、だったはずなのだが……
「葛城さん!スポットを確保しておきました!」
「・・」
予想通りというべきか、目先の利益に食いついた戸塚が既に入り口にあったスポットを占領してしまっていた。これには流石の葛城も頭を抱えていた。
リーダー決めは一番慎重に行おうとしていたのだろう。もしクラス分けの基準に足を引っ張り具合があったら、間違いなく戸塚は最高評価を得るだろう。
俺たちといえば、洞窟内に腰掛けてただぼーっとしていた。することがないし、何より
戸塚がしょっちゅう偉そうに指示していたが、坂柳派はほとんど動こうとしなかった。あくまでも俺たちは坂柳の指示を聞くだけ。それにしても、戸塚って嫌われ者なんだなって。葛城派からも疑問の声が聞こえるくらいだし。
「暇だし探検に行こうぜ」
「おお、行こうぜ! 楽しそうじゃん!」
周りにいた坂柳派の男どもに聞くと、すぐに乗ってくれた。
出て行く時、戸塚が何やら喚いていたがそんなことはどうでもいい。
特別試験の可能性を予想していた坂柳が俺たちに指示したのは、葛城派の妨害。指示に従わないなどやることは幼いが、坂柳がそうしろというのだから仕方ない。今更反対意見を出す資格なんてなかった。
何にせよ、葛城の指揮が失敗して勢力が弱体化してくれればいい。
「割と整備されてるんだな」
そう呟いたのは後藤だった。今俺たちが歩いている道は、それなりに広さがあって獣道ではない。
「学校が管理しているからなんだろう」
というかそれしか考えられないない。ここは私有地だから、勝手に関係者以外が立ち入ることはできないのだ。
「おい、こ↑こ↓見ろよ」
集団の中の一人が、道の脇を指差した。そちらに目を向けると、そこには雑草ではない何かが生えていた。
「これは……畑か?」
「そうらしいな」
少し開けた場所にとうもろこしが植わっていた。土は耕されていて、雑草も生えていない。しっかりと管理されているらしい。
荷物になるということで持って行くことはせず、また歩き出す。途中で川のそばにあるスポットを発見したが、俺たちには手に負えなさそうだ。
この辺りの木には実がなっている。こういうものに詳しい人が誰もいないのが悔やまれるが、流石に学校が管理する島に毒物はあるまい。あったら大問題だ。
「げっ」
突然正面から姿を見せた一人の生徒は、俺たちを見るなりそんな声をあげた。
「一人で何してんだ?」
「お、お前たちAクラスには関係ない話だ!」
そう言って俺たちの脇を通って、俺たちが歩いてきた方へ歩いて行く。
「その先を川沿いに進むと、スポットがある。周りを木々に囲まれていて、ある程度涼めるだろう」
「え?」
俺がそう言うと、その生徒は立ち止まって振り返った。
「あそこはまだ占有されていない。善は急げ、だ」
「サ、サンキュー!」
走って行くそいつを見送り、また歩き出す。すぐに橋下が俺に話しかけてくる。
「なあ、スポットを教えても良かったのか?」
「ボーナスポイントを獲得するためにあそこまで遠征するか? 流石に現実的じゃない。あそこは俺たちには関係のない場所ってわけだ」
「だからってあんなことする必要あるか?」
「さあ。でも、少なくとも損はないさ」
戦いは目先を見るのではない。何手何十手も先を見て、誘導する。チェスで知った坂柳の戦い方だ。最善手を狙っていたつもりだった。しかし、全て坂柳がそこに駒を置くように誘導したものだった。
「あいつはDクラスの生徒だ」
「そうなのか?」
「多少の関係は築いているからな。葛城を負けさせようとしているとはいえ、BクラスやCクラスに大差で負けるような真似をすれば、俺たちにとっても不利だ。ならDクラスに番狂わせしてもらった方がいい」
Dクラスはが持っているclは現時点で100にも満たない。Dクラスが全クラス的中させれば、俺たちへの被害は最低限で済む。
しばらく進むと、浜辺が見えてきた。それと同時に、生徒の一団が視界に入った。開始から大体2時間が経過しようとしているところだと思うが、そのクラスに目立った動きは見られない。
むしろ、
「……Cクラスか?」
森重がそう呟く。
「Bクラスはこんなことはしないだろ」
「あそこは全クラスの中で一番雰囲気がいい。あんな重い空気とは無縁だろうな」
あの中に顔見知りはほとんどない。ほぼCクラスで確定だろう。しかし、まるで行動が読めない。目に見えるところにスポットはなく、占有の意志はないようだ。
「今はとりあえず進んだ方がいいな。また後で見に来ればいい」
「だな」
そのまま海沿いを進み、しばらくしたところでまた森へ入って行く。しばらく進んで分かれ道に辿り着くと、そこを曲がる。
そこには井戸があり、ここにも生徒の集団があった。Bクラスだ。
「あ、中山くん!」
「よっ」
真っ先に俺たちの存在に気づいた一之瀬が、走って向かってくる。何でジャージ姿なのに目が飽きることがないんでしょうかね……
坂柳とは真逆の魅力があるんだろう、きっと。きっとね!
「何しに来たの? 探索にはかなり早い時間だと思うけど」
「拠点の設営は葛城たちに任せてきた。暇だし探検しよう、ってなってな」
後ろの男たちが頷く。Bクラスではテントの設営は順調に進んでいて、井戸の確認や買うものの確認など忙しなさそうだ。
「一之瀬、あれは何に使うんだ?」
橋下が見つけたのは大量のエチケット袋。40人でも1週間で使い切れる量ではない。
「これを敷けば少しでも地面が柔らかくならないかなって。無料でいくらでも貰えるからオススメだよ」
「へえ」
うちの拠点が洞窟であることを考えると、これはとてもありがたい情報だ。
「よく考えてるんだな」
「そうだね。無理なく試験を終えれればいいかなって思って」
「確かに、それが一番だな」
後藤が頷く。体調不良者が出れば一人につき5ポイント失う。その方が結果として得する可能性もある。
「私たちは仲良く楽しく、がモットーだからね」
「ははっ、そりゃ羨ましい」
派閥争いが続き、殺伐としているうちのクラスに比べれば随分と過ごしやすいことだろう。
「正直葛城よりも一之瀬の方が頼りになるな」
「にゃははー、お世辞ってことで受け取っておくね?」
「事実なんだけどな」
「中山くんには敵わないなー……」
そう言って頭を掻く一之瀬。それと同時に、寒気を覚えた。恐る恐る後ろを振り返ると、鬼の形相で俺を睨みつける男子諸君がいた。
「行くぞ、女たらし」
「そうだ、リア充」
「帰ったら血祭りにあげてやる」
「最近爆発が足りねえからちょうどいい」
「ちょっと待って!? なんか物騒な単語が聞こえてきたんだけど!? 助けて一之瀬ェェ!」
「にゃははー……」
四肢を完全に拘束されてなす術もないまま連れ去られて行く。
「これ以上の長居は良くないから、これで失礼するぞ、一之瀬」
「う、うん。あんまり変なことはしないようにね?」
「……」
「そこは分かったって言えよ!」
頼むから橋下、そこで黙るな。不安しかないだろうが。
「なあ、確か爆竹ってあったよな」
「ああ。1ダース2ポイントだったはずだ」
「ちょっと!? お前ら本気かよ!?」
その夜、島中に爆竹の音と一人の少年の絶叫が響き渡った。
その事実を知ったのは翌日の朝の点呼であり、減点はなかったものの厳しく注意された。
俺だけだったのが解せぬ。
ー▼△△▼ー
「おーい!」
Dクラスのメイン集団の元に、スポットの探索に出かけていた生徒が戻ってきた。嬉々とした表情をしており、成果があったことが十分に伝わってくる。
「どうだった? 池くん」
先頭を歩いていた平田が尋ねる。出発前、トイレを買うかどうかで一悶着あっただけに、ここから立て直したいと考えていた。平田はまとまりのないDクラスが団結する最大のチャンスだと考えていた。
4月には全てのポイントを失い、6月には須藤が冤罪を疑われ、信頼を地に落としてしまった。
無人島試験は初めてクラス単位で挑む試験であり、何としても成功させなければならないとずっと言い聞かせてきた。
「スポットを見つけたぜ! 俺が案内するからついて来てくれ!」
興奮した様子で話す池を見て、平田は安堵の息を漏らす。そして、ここで油断してはならないと言い聞かせる。
なんとか軌道に乗りそうだ。この試験をどう乗り切るかで上のクラスを目指していけるかどうか大きく左右される。僕が頑張らないと。
「行こ、平田くん」
「うん、そうだね」
考え込む平田に、隣に立つ軽井沢が声をかける。平田は我に帰ると歩き始め、それに他のDクラスの生徒が続く。
しばらく進むと、川のせせらぎとともにスポットが現れた。
「ここだぜ」
「凄いよ池くん、すごくいい場所だよ!」
池はAクラスに教えてもらったことは伏せていた。自らの手柄にしたかったからだ。
荷物を下ろすとすぐに平田の指示の下テントの設営を始める。Aクラスとは違って全員が参加している。
それが終わると、次の問題は目の前の川へと移る。
「水ならこの川の水でいいんじゃね?」
「嫌よ、飲めるわけないじゃん!」
トイレの時も散々口論した池と篠原が、ここでも大声をあげる。
「何でだよ? 透き通ってるし、飲み水にしても問題ないと思うぜ」
そう言って手で水を掬うと、一気に飲み干した。池としては飲み水にしても問題ないと証明したかったのだが、それを見た女子が気持ち悪いだの何だのと騒ぎ、解決には至らなかった。
「それって沸騰させれば飲めるんじゃなかったか?」
それを見かねた須藤が池に助け舟を出す。しかし、須藤を見る女子の視線は信頼感ゼロ。過去の所行のせいで、須藤の正しい意見から信憑性が失われてしまっていた。
「須藤くんの言う通りだよ。沸騰させれば殺菌できるからね」
それを聞いた女子たちは渋々ながらも納得した。平田の助け舟はどうやら黒船だったようだ。あまりの手のひら返しに須藤は怒りを覚えるが、グッと堪える。あの事件の後、堀北に手を出さないようにと忠告を受けていたからだ。
平田のおかげでこの場は収まり、それぞれが作業を始める。
Dクラスとしては不安の残るスタートとなったが、これがまだ始まりでしかないということなど誰も知る由もない。
ー▼△△▼ー
無人島は学校が管理し、それなりに整備されているとはいえその多くは自然そのままである。
中山たちが歩いた道から少し中に入れば、野山とよく似た光景が広がる。
「ククッ、これで交渉成立だ。感謝するぜ」
「こちらとしてもありがたいことだ。だが、契約を破るような真似はするなよ」
「当たり前だ」
二人のリーダーが手を取り合った。それは己を勝ちへ導くのか。それとも──悪魔との契約か。
運命は誰も予測できない。たとえ誘導しても看破する方法はある。
騙し騙される。勝つためなら手段を選ばず、時には狡猾に。
水面下での戦いは既に始まっている。