この世には、目には見えない闇の住人たちがいる……。
やつらは、時として牙をむき、君たちを襲うだろう。
彼は、そんなやつらから、君たちを守るため、地獄の底からやってきた、正義の使者……なのかもしれない。
ぬ〜べ〜……。
童守町の童守小学校に、すごい霊能力を持った教師、
普段は間抜けで、ドジな教師だが、悪霊から子どもたち守るためなら、持ち前の能力を使って、全力で戦うのである。
そんなぬ~べ~の旧友である
「なんだ嬢ちゃん? ケンちゃん蹴り倒しておいてここをどけだ?」
「死ぬか? ああ!?」
不良の内の一人が、聡美に迫るが、彼女はそいつの顔面に蹴りをお見舞いした。
「おぶ!?」
男はあっけなく地に伏す。
不良たちは理不尽な暴力に怯える。
「あんたたち、あれを見な!」
聡美は背後に倒れている花瓶と散らばった花を示す。
「あれは一体何でしょうか?」
聡美は一人の男を指差す。
「はい、そこの臭そうなあんた」
「お、俺……?」
指された男は自分を人差し指で示す。
「えっと……この間、ここで交通事故に遭ったガキへのお供え……っ!?」
聡美は男の側頭部に回し蹴りを浴びせ、壁へと叩きつけた。
うめき声をあげて地に伏す男。
「それじゃあ、あの子に謝らないとね」
「す、すみませんでした!」
不良たちは聡美に土下座をする。
「私にじゃなくてあの子によ!」
不良たちは聡美の指差した先を見るが、何もいないことに疑問符を浮かべる。
「いいから謝れ!」
「ご、ごめんなさい!」
土下座をすると、不良たちは走り去っていった。
聡美は男の子の霊に声をかける。
「あれだけ脅しとけばもうここには寄り付かないわね」
「ありがとう、お姉ちゃん」
聡美は花瓶を起こし、飛び出した花を中に入れる。
聡美の背後に角材を手にした男が迫る。先ほどの不良の内の一人だ。
「お姉ちゃん、後ろ!」
不良が振り上げた角材を振り下ろす。
聡美はすんでのところでかわし、男をなぎ倒す。
「ごめんなさいいいい!」
男は逃げて行った。
「ありがとう。今度、お花持ってくるね。早く成仏するのよ」
聡美はそう言って、家に帰宅した。
「ただいま」
聡美は食卓に顔を出す。
「お帰り、お姉ちゃん」
弟の康太がそう言った。
「遅いぞ」
父親の誠一が言う。
「除霊してたからね」
「お姉ちゃん、なんか憑いてるよ」
「え?」
背後を見ると、メガネをかけたオタクっぽい男の霊が憑いていた。
「うわ!? いつの間に憑いたんだ!?」
「お姉ちゃんは大変だね、ハイスペックで。それに比べて僕はぼんやりとしか見えないし、お父さんは全く見えないもんね」
「聡美、飯は?」
「疲れたからもう寝るわ」
聡美はそう言って食卓を出ると、階段を上って二階に移動。自分の部屋に入った。
「ん?」
聡美は
「近いな」
女はそう言って、部屋を出ようとする。
「待ちなさいよ」
振り返る女。
「貴様、私が見えるのか?」
女は聡美の背後霊に気付き、腰に携えた刀を抜く。
「うわ!」
切られる、そう思って覚悟した聡美だが、その刀は向きが変わり、柄の部分が背後霊にあてがわれる。
「いやだ、私はまだ地獄には……」
「案ずるな。お主の向かうところは
背後霊は光に包まれて天へ昇っていく。
「いまのやつどうなったんだ?」
「魂葬したのだ。成仏というやつだな」
「あんた何者なの?」
「私か? 私は死神だ」
「死神? そんなの信じないわ」
「貴様、霊は見えるのに死神の存在は信じぬとな?」
「生憎、見えないものは信じないので」
扉がノックされる。
「聡美、誰かいるのか?」
誠一が扉を開けて訊ねる。
「独り言だったのか」
扉が閉まる。
「あんたが人間ではないことだけは信じてあげる。現にお父さんが見えてなかったしね。でも、死神ごっこは他所でやってちょうだい」
「縛道の一、塞!」
その言霊と共に、聡美の体が何かに縛り付けられた。
「ちょ、何したのよ!?」
「鬼道だ。死神だけが扱える高等な術だ。私が
その時。
「うわああああ!」
康太が階下で悲鳴を上げた。
「康太!」
聡美は立ち上がり、鬼道を破って階段を駆け降りた。
「康太!」
食卓の壁は倒壊し、床の上で気絶している誠一。
「お父さん!?」
「ぐおおおおああああおおおお!」
壁の巨大な穴から謎の咆哮。
「康太!」
穴から外へ飛び出すと、仮面を被った怪物・虚が康太を食べようとしている。
そこへ死神が現れ、康太を掴む虚の腕を切り落とした。
「ぐわああああ!」
悲鳴を上げる虚。
「康太!」
聡美は虚の真下へもぐりこみ、康太を受け止めると、化け物から距離を取って地面に寝かせた。
「恐らくやつの狙いは貴様だ」
と、死神を名乗る女は言う。
「あ?」
「貴様の霊圧が異常なほど高いのを感じて喰らいに来たのだろう」
聡美はバットを手に、虚の前に躍り出る。
「おい、あんた! 私が狙いならサシで勝負しな!」
「莫迦か!」
襲い来る虚。
死神は聡美を庇って攻撃を受けた。
「ぐわ!」
吹っ飛ばされ、地面に転がった死神は右肩を負傷した。
「死神!」
聡美は死神に駆け寄る。
「大丈夫!?」
「肩をやられた。このままだとお互い犬死だ」
「何か方法はないの?」
「一つだけ方法がある。貴様が死神になるのだ」
「どうやって?」
「私がこの刀を貴様の胸に突き刺し、霊力を注ぎ込む。成功すれば貴様は死神だ。だが、失敗すれば死ぬし、何もしなくても殺される」
聡美はゴクリと唾を飲み込んだ。
「どうする?」
「やって!」
「おう!」
死神は自身の刀を聡美の胸に突き刺す。
「ぐ!」
その刹那、死神は力の全てを吸い取られ、白装束に変わる。
(力の全てを奪われた?)
そして、気がつくと、虚は真っ二つに切られ、消滅していた。
そこには、死神の姿になった聡美が一人
「うわああああ!」
ベッドで寝ていた聡美は起き上がった。
「夢……?」
先ほどの虚との戦いを思い出す聡美。
「面白い夢だったわね」
聡美はベッドから降り、食卓に向う。
壁には大きな穴が開いている。
「夢……じゃなかったの?」
「ああ、これ? なんか夜中にトラックが突っ込んできたみたいだよ」
と、康太。
「トラック?」
「それより、今日から童守小学校だろ? 早く行かないと遅刻するぞ。教師が遅刻したら生徒たちに示しがつかないんじゃないか?」
と、誠一が言う。
童守小学校。
聡美は校長室までの廊下を歩いている。
向こうから見知った顔の教師、もといぬ~べ~が歩いてくる。
「お、聡美じゃないか。新任の教師ってお前か」
「ああ、鵺野くん」
「用が終わったら職員室でな」
「うん」
すれ違う二人。
ぬ~べ~は聡美を見ると、その異質な力に気付く。
(すごい霊力だ。押し潰されそうだ)
聡美は校長室の前に立ち止まる。
扉をノックした。
「どうぞ」
聡美は中に入る。
「失礼します」
「こりゃ美人な教師が来たもんだ」
(なんだ、この校長……?)
「おっと、失礼。ようこそ、童守小学校へ」
「よろしくお願いします」
「うむ。それじゃ、職員たちに紹介をせねばな」
聡美は校長と職員室に移動した。
「今日からお世話になる坂上です」
「それじゃあ、坂上くんには五年三組の副担任をやってもらおう」
「俺のクラスですか?」
と、ぬ~べ~。
「構わんじゃろ?」
「異論はありません」
「それじゃ、頼むよ」
「よろしくね、鵺野くん」
聡美は笑みを浮かべた。
「じゃ、教室へ行こうか」
「うん」
聡美とぬ~べ~は職員室を出て五年三組の教室に向かう。
「そう言えば、風のうわさで聞いたけど、結婚したんだって?」
「ああ、雪女のゆきめとな」
「雪女? 妖怪じゃん」
他愛もない話をしている内に、二人は教室に着く。
「ちょっと待っててくれ」
ぬ~べ~が中に入り、生徒に事情を説明する。
「おーい、いいぞー」
聡美は中に入った。
生徒たちに自己紹介をする聡美。
一同はあっという間に打ち解けた。
放課後。
聡美とぬ~べ~は屋上にいた。
「聡美、お前憑依されてるのか?」
「え?」
「除霊をしてやろう」
ぬ~べ~が水晶玉を取り出した。
「水晶玉よ、聡美に憑いている霊を映し出せ」
だが、水晶玉は反応しない。
「鵺野くん、何か勘違いしてるんじゃない? 私、憑かれてないよ」
「お前の体から異質な力を感じるんだがな」
聡美は思い出す。
昨晩の戦いを。
しかし、死神の格好をしているわけでもない。あの姿はどこに行ってしまったのだろう。
「何か心当たりがあるんじゃないのか?」
「うーん……」
「ということは……」
ぬ~べ~が鬼の手を出す。
「お前の魂に変化があったということだが」
ぬ~べ~が鬼の手で、聡美の魂を肉体から押し出した。
「ぬわ!」
死神化した聡美の魂魄が後方に倒れて尻もちを着き、肉体は地に伏した。
「お前、その姿はどうした?」
「ああ、これは……」
聡美は昨晩の出来事を克明に話した。
「大本の死神はどうした?」
「さあ? 帰ったんじゃない?」
そこへ、昨晩の死神が現れる。
「貴様たち、私を探しているようだな」
「死神」
「死神ではない。
「あんたこんなところで何してんの?」
「帰れなくなったのだ」
「あ?」
「貴様に力を全て奪われた。本来なら尸魂界に帰っているのだが、行き来できるのは死神だけだ」
「じゃあ帰れば?」
「言っただろう? 力を奪われたと」
疑問符を浮かべる聡美。
「当面の間、貴様には私の代わりを務めてもらう」
「嫌だよ」
「なに?」
公子は眉をひそめる。
「あの時は弟がやばかったからやったけど、あんなのはもう懲り懲りだ。悪いけど他を当たってちょうだい」
その時、公子の通信機が虚出現の報を知らせる。
「なんだこれ?」
と、ぬ〜べ〜。
「貴様も感じるか」
「ああ。今まで感じたことのない霊力だ」
「これは虚と言ってな。普通の霊が悪霊に堕ちた魂だ。行くぞ」
公子は聡美の襟を掴んで虚の元へ駆けつけた。
「うわああああ! 来ないで!」
虚は魂魄を襲っていた。
「あの子は昨日の!」
聡美は背中に背負っている斬魄刀という巨大な刀に手を伸ばした。
「待て!」
「え?」
「その魂魄を助けるなら、全ての魂魄や人間を守る覚悟をしろ!」
「そんな覚悟はしない。だけどね、目の前で困ってるやつを無視するほど落ちぶれてもいないわ!」
斬魄刀を抜き、虚に攻撃を浴びせる聡美。
「はああああ!」
渾身の一撃が、虚を真っ二つにし、消滅させた。
「ありがとう」
と、男の子は言う。
「魂葬してやれ」
「魂葬?」
「昨日、見ただろう?」
「お、おう……」
聡美は斬魄刀の柄を魂魄の額にあてがう。
魂魄は光に包まれ、天に昇っていった。
童守小学校屋上。
聡美と公子が戻ってくる。
「お、戻ったのか。こっちは空っぽなんだよな?」
「魂魄が抜けたのだ、当然だろう」
と、公子。
「どうやって戻るの?」
「重なればいいだけだ」
聡美は肉体を持ち上げ、重なって中に入った。
そこへ、ユリアという五年三組の生徒がやってくる。
「ぬ〜べ〜、助けて!」
「どうした、ユリア?」
「ケントが!」
「ケントがどうしたんだ?」
「とにかく一緒に来て!」
何がなんだかわからぬまま、ぬ〜べ〜と聡美はユリアを追った。
「みんな!」
保健室に入ったユリアがベッドに横たわるケントを心配そうに見つめる生徒たちに声をかける。
「ユリアっち、先生は?」
「連れてきたわ」
「ケント、何があった?」
ケントは気を失ってうなされていた。
「これは!」
「ぬ〜べ〜、一体なんなの?」
「ケントくんに何か憑いてるですか?」
ぬ〜べ〜は真剣な表情で言う。
「お前たちを危険に巻き込むわけにはいかない。ケントは責任持って除霊する。だから帰るんだ」
「そんなにやばいの?」
「かなりな」
「さあ、みんな、鵺野先生に任せて帰りましょう?」
聡美に促され、生徒たちは帰宅した。
「鵺野くん、何が憑いてるの?」
「彼らを帰して正解だった。これは
「八岐大蛇!?」
「聡美、ケントを校庭に運ぶ。手伝ってくれ」
「うん」
二人はケントを校庭に運んだ。
時折うなされるケント。
「南無大慈大悲……」
ぬ〜べ〜が
切り離された八岐大蛇が、姿を現す。
聡美は斬魄刀を抜こうとするが。
「刀ねえ!?」
ぬ〜べ〜が鬼の手で聡美の魂魄を引っぺがした。
死神化する聡美。
「ありがとう」
改めて斬魄刀を抜く聡美。
二人は八岐大蛇に向かって駆ける。
「はああああ!」
首の一本を聡美が切り落とし、ぬ〜べ〜が胴体を引っ掻く。
だが、八本の尻尾が二人を襲う。
「くっ!」
距離を取る二人。
「このままでは近づけない」
どうするか考える二人だが、そこに八岐大蛇の攻撃が迫る。
「きゃああああ!」
聡美が捕えられた。
「聡美!」
ぬ〜べ〜が尻尾で吹っ飛ばされる。
「ぐわ!」
地面を転がるぬ〜べ〜。
「くっそ……!」
聡美は尻尾から必死に抜け出そうとする。
そこへ光の矢が飛来。聡美を捕える尻尾が居抜き落とされた。
「全く、こんなのがいるなんてね」
「あんたは?」
「
「なんで知ってんのよ?」
「大学一緒だっただろう!? まあ、もっとも、僕は医学生で、君は教員免許の学部だったから、知らなくても当然か」
「あ! 思い出した! あんた私に告白してきた!」
「う……」
頰を赤らめる一郎。
「今はそんなこといいだろ!?」
「それもそうね。とりあえず、倒すわよ!」
「ああ!」
一郎が光の矢を放つ。
攻撃を繰り返す内、八岐大蛇の首と尻尾はとうとう最後の一本となった。
「行くよ、鵺野くん」
「おう!」
聡美とぬ〜べ〜のとどめの一撃が、八岐大蛇を真っ二つにした。
「ぐおおおおああああおおおお!」
咆哮しながら消滅していく八岐大蛇。
「う……」
ケントが目を覚ます。
「ケント!」
聡美とぬ〜べ〜がケントに駆け寄る。
「あれ? ぬ〜べ〜に坂上先生? 俺、一体何を?」
「ケント、お前は妖怪に憑かれてたんだ。今は体力も落ちてる。休むんだ」
「そうか。妖怪か……」
ケントは眠りに就いた。
聡美は一郎の方を見るが、既にそこには誰もいなかった。
「ありがとう、羽生田くん」
校門の外で、一郎が笑みを浮かべた。